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ゥ通しをもち筋道を立てて考えさせる算数指導 佐 藤 瑛 一*

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(1)

       、

ゥ通しをもち筋道を立てて考えさせる算数指導

佐 藤 瑛 一*

(1990年9月14日受理)

How to Get Children to Tackle Problems through Logical Reasoning with Perspective:

ANew Approach to the Teaching of Arithmetic

Eiichi SATO

(Received September l4,1990)

は じ め に

21世紀を目指し社会の変化に主体的に対応できる心豊かな児童・生徒の育成を志向する新しい教 育課程に即した算数科の学習指導要領が平成元年3月15日に告示された。

この度の改訂された学習指導要領では,算数科の目標を次のように述べている。

「数量や図形についての基礎的な知識と技能を身に付け,日常の事象を見通しをもち筋道を立て て考える能力を育てるとともに,数理的な処理のよさが分かり,進んで生活に生かそうとする態度

を育てる。」1)

このように,新しい算数科の学習指導要領では,従前に比して,特に見通しをもち筋道を立てて 考える能力の育成ということを重視していく立場をとっていることが分かる。このことは,また,

教育課程審議会の答申の中の 算数,数学の改善の基本方針 において, 「様々な事象を考察する 際に,見通しをもち,筋道を立てて考え,数理的に処理する能力と態度を育てる」2}ということに 密接にかかわっていることである。

上述のような趣旨を踏まえて,児童に,算数教育を通して,見通しをもち筋道を立てて考えさせ るようにするにはどのように指導すればよいかということについて,以下で考察することにしたい。

1.見通しをもつこと

見通しをもつということについて,例えば, 『広辞苑』では,「見通し」とは,

①みとおすこと。こちらからあちらまで一目に見えること。②内部または将来や人の心中な

*茨城大学教育学部数学教育研究室.

(2)

ど目に見えぬ物事を,あやまりなく察知すること。③(心)動物などが,新しい事態に当面 したとき,過去の経験によらず,突然に目的を達し課題を解決すること。

といっている。③は,ケーラー(W.K6hler)の実験で,3)チンパンジーが吊るしてあるバナナを叩 き落す場面を,見通しによる問題解決の例として,しばしば引き合いに出されることはよく知られ ていることであろう。この場合の見通しは洞察(insight)の意味に用いられているといえよう。本 論でも,「見通し」を,この意味に解して進めることにする。

ところで,この「見通し」に関連する用語としては,「見透す,見抜く,見渡す」をはじめ,

「予想する,推測する,見当をつける,見積る」などいろいろあろう。

また,この見通しも,ある問題を解決する場合に,

その結果を見通す

その解決の仕方や方法を見通す ことが主要なものとなる。

この見通し,さらには,筋道を立てて考えることについては,昭和43年の学習指導要領の算数科 の目標について解説している小学校指導書算数編では,総括的目標をうけた4番目の具体的目標に 関して,「事象の考察に際して,数量的な観点から,適切な見通しをもち,筋道を立てて考えると

ともに,目的に照らして結果を検討し処理することができるようにする」4)ことであるといってい る。そして,さらに,「この目標は,児童が問題解決などの目的的な活動をしようとするとき,そ れが漠然となされるのではなく,目的に照らして,適切に見通しをもって行われるようにしなけれ ばならないことを強調している。しかも,その見通しは,算数の特質である数量的な観点にたって 行うようにし,必要な計画を立て,児童ながらに筋道の立った展開ができることが必要である。

さらに,このようにして得られた結果についても,目的に照らしてみてはたして適切なものであ るかどうか,さらに,よりよい方法はないか,修正すべき点はないかなど,それを評価,検討する こともだいじである。これは発展を図るためにも必要なことであるが,初めに数量的な観点に立っ て考察したことからも考えてみなければならないことである。このような態度を伸ばすようにする

ことが望まれる。」5)としている。

ここで大切なことは,上でも触れていることであるが,見通しは目的に照らしてもつようにする ところに大きな意味があるということであろう。

例えば,いまここで,(直方体の形をした)空いている 部屋(物置)に,右図のような表面が楕円形をした机を入 れる場合を想定してみよう。このとき,これらの机を部屋 に単に並べて置く状態で入れようとすれば,これらの机の 表面を長方形とみなして作業を進めればよいが,これらの 机をこの部屋の中一杯に積み上げる状態で入れようとすれ

ば,これらの机を長方形とみているだけでは無理で,個々      図1

の机を直方体のようにみなして作業を進めなければならなくなる。これなどは,まさに,目的に応 じて見通していくことになろう。

一般に,児童たちには,このような見方が弱いようである。例えば,上の例についても,机の脚

はどうにかならないのかなどといった細かいところに気を奪われて,目的に即した本質的な部分を

(3)

をとらえることができにくいようである。

次の例もその一つといえよう。

それは文部省の達成度調査で,積を概数で見積る次のような問題である。6)

つぎの①から④までの中に,304.15×18.73の答を四捨五入して整数にしたものが 1つあります。

正しいものを選ぶためのおよその計算を[:=:::コの中にしなさい。そして正し いものの番号を[:コの中に書きなさい。

①570  ②5697  ③56967  ④569673

およその計算

正しいものの番号

この問題は,見通しにより,乗法計算の結果(積)を概数で見積ることや,計算結果を概数で表 すことができるかどうかをみる問題である。

この問題に対しで,「およその計算」についての通過率は21.6%と極めて低く,「正しいものの番 号」についての通過率は57.3%となっている。ここで,「正しいものの番号」の通過率の方が「お

よその計算」の通過率と比べて倍以上もよくなっているのは,304.15×18.73の計算をこの数値の まま忠実に最後の位まで計算してから「正しいものの番号」を選んだか,また中には,でたらめに 番号を選んで記入したのにそれが正解になった者もいるかも知れないからであろう。

ここでも,見通し(見積りも含む)は目的に応じて行うようにすることの重要性が感じられる。

つまり,この場合は,304.15×18.73の計算の答を四捨五入して整数にしたものが①,②,③,④ の中にあるといっており,その中の正しいものを選ぶためのおよその計算を[=:コの中にしなさ いといっているのであるから,目的に応じてという点からすれば,[==]の中には,たとえば,

300×20とか300×19,304×19,……などの概数によって計算すれ

ばよいわけである。しかし,児童の中には,304.15×18.73の計算      304.15 を右のように最後の1桁まで行って,その結果から選択肢の②を選    ×  18.73 ぶ者がいたようである。(しかも,このようなやり方をする者もか       91245 なりいたようである。)       212905

この問題は,四捨五入した概数についてのことであるから,細か     243320 いところまで計算しなくてもよいという趣旨のものであろう。目的     30415 に応じてということからすれば,大局的にみて行えということであ     5696.7295 るから,大局的にみて行えばよいわけであろう。しかし,現実の児

童たちは,このような対応が弱いということが上のような反応からも窺える。これは,一面には,

これまでの算数指導から,算数は数や計算を扱うので,いつも正確にきちんとやらなければならな

いし,またそうすることが計算であると,児童たちの脳裏に焼き付いているためではないだろうか。

(4)

したがって,これからの算数指導においては,目的に応じて行動するという面をもっと強調して,

柔軟にそして弾力的に反応できるような児童にしていかなければならないだろう。

2.筋道を立てて考えること

筋道を立てて考えるとは,論理的に思考するということと同様な意味で  論理的に思考すると いうよりやや広義の意味であるととれるが  ,論理的に考えるということを算数科という小学校 段階向けの表現でいっていると解してよいと思う。

この筋道を立てて考えるということについて,昭和44年の小学校指導書算数編では,「これは,

ものごとを断定したり,推論を進めたりする場合,明確な理由をふまえて,筋の通った説明ができ るようになるということをねらいとしている」7)といっている。そして次のような例を挙げて述べ ている。「たとえば,ものごとを分類,整理するにも,どのような観点で分類の操作が行われてい るのか,また,その操作によって,分類の対象となったものが,すべて落ちや重なりもなく処理さ れることになるのかなどについて,筋道を立てた説明ができることなどが,このような活動の一例

とみてよい。

もちろん,論理的思考を重視するといっても,形式的論理に基づいた論証などを中心にする意味 ではない。むしろ,他の人に,どのようにしたら自分の判断の正しさを適切に伝えることができる か,また,自分の理解を確かなものにしたり,深めたりするための内省として,筋道を立てて説明 することができることの必要からも,このような能力や態度を伸ばすことの重要性が考えられる。」8)

この筋道を立てて考えることについては,先き程も,論理的に考えることと同様だがやや広義に とらえているといったが,論理的に考えるという場合には,そこで用いる概念を明確にし,それら の概念の間に或る判断を下したり,さらには,2つ以上の判断を組み合せて新しい判断を下す推論 を行ったりする。このときの推論として,小学校の児童という年齢や発達段階などのこともあるが,

算数科としては,次のような推論の形が用いうれることになるだう。この 筋道を立てて考える ということについて,昭和53年の小学校指導書算数編では,次のように述べている。

「筋道立った考え方としては,幾つかの事例から一般的な法則を帰納する考えや,既知の似た事 柄から新しいことを類推する考えもあれば,既知の事柄からの理づめでつまり演繹的に考えを進め

る仕方もある。算数では,このような筋道立った考えで,いろいろな性質や法則を発見したり確か めたりする能力や態度を育成することが重要な一つのねらいになる。

筋道立った考えは,できるだけ正しいことを思いだしたり,見いだしたことの正しさを確かめた りするために欠くことのできないものである。例えば,法則などを見いだすときは,できるだけ多 くの事例から帰納するように努めたり,帰納した法則を他の事例で試して正しさの期待を深めたり,

既知の正しい事柄から演繹的に正しさを確かめたりする。このように,確かなものを求めようとす るときは,筋道立った考えが大切な役割を果たす。

また,算数においても,論理的に説明するような場合が,学年が進むにつれて多くなる。つまり,

ある対象の正しさや自分の判断の正しさなどを,他の人に説得するような場面が多くなる。そのよ

うなときには,筋道を立てて説明することが問題になる。」9)

(5)

上でも述べられているように,帰納する考えや類推する考えはものごとや関係などを発見したり 創造したりするのに大切な考えであり,また,演繹の考えは発見したものを確かめたり系統だって いないものを理論的に体系づけたりするのに大切な考えである。もちろん,これらの考えは,相互 に密接に関連しあっていることはいうまでもないであろう。

3.見通しをもち筋道を立てて考える

前の1と2で,見通しのことと筋道を立てて考えることについて述べてきたので,ここで,これ ら両者の関連について考察してみよう。

日常の事象について見通しをもち筋道を立てて考えるということについて,例えば,指導書では 次のように述べている。このことは「ものごとについて判断したり,推論したりする場合に見通し

をもち筋道を立てて考えることの重要性を述べている」としながら,この見通しをもつことと,筋 道を立てて考えることとのかかわりについて,次のように述べている。「問題の場に臨んだとき,

われわれは観察をしたり,試行錯誤を繰り返したりしながら,結果についての見通しをもったり,

方法についての見通しをもったりする。その際,幾つかの事例から一般的な法則を帰納する考えや,

既知の似た事柄から新しいことを類推する考えなどが用いられる。ある程度見通しが立つと,その

ことが正しいかどつかを明かにする必要に迫られる。このときには,既知の事柄から理づめで推論      一

する演繹の考えが用いられることが多い。その過程で新たな見通しに気付くこともある。

また,このように考えを進めていく過程においては,考える対象を明確にしたり,考えた結果を 分類整理したりするなど 集合の考え を必要とし,またそれを生かす場面が生まれる。さらに,

順序よく考えを進めたり,条件を変えてみたりするなど 関数の考え を必要とし,またそれを生 かす場面が生まれる。

筋道を立てて考えることは,できるだけ正しいことを見いだしたり,見いだしたことの正しさを 確かめたりするために欠くことのできないものである。また,ある事実の正しさや自分の判断の正 しさなどを他人に説明するようなときにも必要である。学年の進行に伴って,論理的に説明する場 面が多くなるが,そのようなことを通して,筋道を立てて説明する能力が育っていくことが期待さ

れる。

このように,算数では,問題を解決したり,ものごとを判断したり,推論を進めていく過程にお いて,見通しをもったり,筋道を立てて考えたりして,いろいろな性質や法則を発見したり確かめ たり,筋道を立てて説明したりする能力や態度を育てることを重要なねらいとしている。このこと は,他の教科等でも目指しているところであるが,単純な場から複雑な場に,易しい場から難しい 場へと適切な場を設定して,その能力や態度を伸ばすことができやすいという点で,算数がもっと

も貢献できる部分と考えられてきている。」1°)

上述のように, 見通しをもつこと と 筋道を立てて考えること とは相互に深い関連をもち その関連のうえに充実した思考が展開されることになる。しかし,ここで大切なことは,これらの 見通しをもち筋道を立てて考える のは当面する児童たちであるということである。したがって,

多くの児童たちに見通しをもって筋道を立てて考えられるようにするには,学習指導場面でどのよ

(6)

ようにするのがよいかということが研究課題の中心になるということである。ややもすると,筋道 を立てて考えさせるというとき,教師の敷いた路線の上を児童たちに進ませることになりがちなの で,十分に注意しないといけないだろう。大切なことは,児童自身が見通しをもち筋道を立てて考 えていくということである。したがって,前にも触れたように,問題解決的な学習においても,そ の結果や方法について,あらかじめおよその見通しをつけて進めることができるようになることが 大事になろう。

4.見通しをもち筋道を立てて考えさせる指導

算数教育において,児童たちが数量や図形について考える場合に,彼らに見通しをもち筋道を立 てて考えさせるように指導するにはどのようにすればよいだろうかということについて,これまで 述べてきたことを基にして,次の例を参考にして考察していくことにする。

例1 第3学年で,(2けた)×(2けた)のかけ算学習を次のような導入問題で進めていった

とする。

工作で1人がひごを28本つかいます。まさみ君の組みは32人です。ひごは何本いる でしょうか。しきで書いて,計算のしかたを考えましょう。

この問題では,式を28×32と書いて,このかけ算の仕方を考えていくことになる。

かけ算については,これまでに,第2学年でかけざん九九,第3学年で0のかけ算,かけ算の表 と計算のきまり(かけ算では,かける数が1ふえる(へる)と,答えはかけられる数だけふえ(へり)

ます。かけられる数とかける数をとりかえても,答えは等しくなります。3つの数のかけ算では,

はじめの2つの数を先にかけても,あとの2つの数を先にかけても,答えは等しくなります。),10 のかけ算,(2けた)×(1けた)のかけ算,(3けた)×(1けた)のかけ算などを学習してき ている。

そこで,これらの既習事項を基にして,(2けた)X(2けた)のかけ算の計算の仕方を学習さ せることになる。

そのため,まず,28×32のかけ算の結果がどのくらいの大きさになるかの見通しをもたせるため,

その結果についての見積りをさせる。すると,見積りの仕方は児童たちによって多様であるから,

28×32の結果について,例えば,次のような見積りが考えられる。

(i)30×30とみて,およそgoo,

(ii)28×30<28×32とみて,840より大きい,

(iii) 28×32<30×32とみて,960より小さい,

(ii) 28 x 30<28×32<28×40とみて,840より大きく1120より小さい,

(iii) 20×32<28×32<30×32とみて,640より大きく960より小さい,

(7)

(iv)28x30<28×32<30×32とみて,840より大きく960より小さい,

これらのうち,(i)あるいは(iv)などから,28×32の結果はおよそgooぐらいと見当がつけられ る。しかも,これらのやり方は,いずれも28×32の計算のあよその大きさを捉える目的にかなって いる。そして,(i)は見積りとしては荒っぽいがもっとも簡単である。したがって,ただ結果の 大きさの見当をつけるためだけならばこの(i)が簡単であるカ㍉新しい(2けた)×(2けた)

のかけ算の計算の仕方を学習するとなるとどうであろうか。

そこで,(ii)をもとにして考えてみると,28×32は28×30=840より大きいというがそれでは 840よりどれだけ大きいかを考えることになれば (840より)2名分の28×2だけ大きいので,

28×32=28×30十28×2=840十56=896      2 8

となる。このことを式の計算でまとめてみると,       X 32

28×30=840

28×32 ュ28×2−56)896溺×鴛×ll

      →      →

ニなり,筆算形式にまとめると,右のような筆算に     56   56   56 よる計算が考えられることになる。       84    84

上で述べてきたことは,(ii)以外の他の場合につ      896 いても同様に考えることができる。

ここでの計算法の案出は,これまでに学習してきた(二位数)×(一位数)の考え方と同様であ るから,類推の考えによるといえるだろうし,(二位数)×(一位数)の計算を着実に繰り返し使 っていることは,演繹の考えによっているといえる。

このように,ものごとを考える場合に,いろいろな多様な考え方を使うことができたり,また,

ある考えで行ったことを他の考えで確かめたりしていくことが大切である。

上の例についていえ1試(ii)の考えでやったことを(iii)の考えで確かめたり,あるいは,数値の 組み合わせなどによって,28を30に近いとみて,しかも28は30より2だけ小さいからとして,28×

32は30×32より2×32だけ小さくなるので,28×32=30×32−2×32として,960−64=896と確か めることもできよう。

結果の大きさを見積るのに,28×32〈30×32<30×40とか,28×32>28×30>20×30などとして から,20×30<28×30<28×32<30×32<30×40

のように組み合わせて考えていくのは逐次近似法の考えといわれるがこれも,数値の大きさを見 積るのには大切な考えである。

このように,ある問題を,見通しをもち筋道を立てて考え,解決しようとするとき,その題意に あった妥当な結果を求めるとカ、その求め方を工夫するなどということは,もちろん大切であるが さらに,そのときの状況(例えば数値の大きさや性質など)を生かして,より手際のよい考え方 や処理の仕方を案出しようとする能力や態度の育成を強調して指導することも大切であろう。

例2.次の問題は,文部省達成度調査で第5学年に用いられた,合同な四角形が決まる条件につ

いてのものである。11)

(8)

てつやさん,ひでおさん,ひろ子さん,くみ子さんの4人が,

       図2 Eの四角形と合同な四角形をかこうと思って,それぞれ下のよ

うに○のしるしをつけた直線の長さや角の大きさをはかりまし

た。

このうち,もとの四角形と合同な四角形をかけるのは,だれ のはかりかたですか。その人の番号を[==]の中に書き入れ

なさい。

①(てつやさん) ②(ひでおさん) ③(ひろ子さん) ④(くみ子さん)

図3

この問題は,与えられた四角形と形と大きさが同じ(合同な)四角形を決める,四角形の決定条 件に関するものである。つまり,与えられた四角形と合同な四角形を決めるには,これからかく四 角形のどの辺の長さとどの角の大きさを最小限決めればよいかということである。

達成度調査で,この調査問題に対する反応は,上図の③を選んだ者が50.1%と約半数で,①と② を選んだ者を合わせると18.2%,④を選んだ者が20.3%であった。

この問題と関連したことで,児童が図形の合同として実際に学習しているのは三角形の合同につ いてのことである。しかし,この問題は四角形の合同のことなので,三角形の合同についてのこと はそのままではあてはまらない。では,どうすればよいかというと,この四角形に既習の三角形の 合同についてのことが使えるようにするということが考えられよう。そうすると,この四角形に対 角線を引くなり想定するなりして,四角形を2つの三角形を合わせてできているものとみる(見通 す)ことが必要となろう。

そして,それぞれの三角形について,既習の三角形の合同条件を対応させて調べていくことにな る。この既習の三角形の合同条件を基にして考えていくというとき,この三角形の合同条件が基礎

・基本となってくる。しかも,この合同条件を基にして筋道を立てて考えていくときに,きちんと 演繹的に進められない者もいるので,誤答としての反応もみられることになってくる。

例えば,①を選んだ者は,合同な三角形は 3辺の大きさによって決まる ことから,四角形も 4辺の大きさが分かれば決まる のではないかという類推によっていると思われる。そして,四 角形は,4辺の大きさが分かっただけでは必ずしも決まらないことには気づいていない。

また,②を選んだ者は,合同な三角形は 2辺と爽角 や 2角と爽辺 で決まるので,これか

らの類推で,合同な四角形も 2辺と爽角ともう1つの隣接角 とか 2角と爽辺ともう1つの隣

接辺 などで決まるのではないかと考えたものと思われるが,これもそうなるとは限らない。

(9)

さらに,④を選んだ者は①と②を選んだ者よりも多いが,この④を選んだ者は,図の四角形に対 角線が1本引かれていて,その対角線の左下にある三角形は合同条件(3辺,あるいは2辺と爽角)

を満たしているので決定されるが,対角線の右上にある三角形は,もう1つの辺の長さか,あるい は分かっている辺のあいだの角の大きさが分からなければ決定されないわけであるが,そこの判断 が甘く,何んとなく右上の三角形も決定するように思ってしまったのではないだろうか。

次に,③を選んだ者について考察してみることにする。いま③の三角形の頂点に順に記号をつけ て,四角形ABCDとしたとき,対角線の引き方によって,下の図の③ の場合と③ の場合が考 えられることになる。      ③        ③

③ の場合は,三角形ABCは決定する。する         図4

と,辺ACと角CADも分かるので,三角形AC       D        D Dも決定する。したがって,これらの2つの三角  A         A

形を合わせた四角形ABCDも決定することにな

る。

全く同様に,③ の場合も,三角形ABDが決 B      c ,      。 定するから,対角線BDも決定する。これより三角形BCDも決定し,結局,四角形ABCDが決 定することになる。

上述のように,四角形の決定条件に関する前掲の問題の反応とその分析から,児童たちに見通し をもち筋道を立てで考えさせるようにするには,どんなところに留意して指導を進めることが大切 になるだろうか,上の考察から気づいたことを幾つか以下に述べてみることにする。

(1)既習事項の中の,どんなことを,どのように使えばよいかを見通す。

前掲の問題は,四角形の決定条件に関するものであったが,このことに関連した既習のこととし ては,三角形の決定条件についてのことがある。したがって,この三角形の決定条件を上手に使う

ようにするには,どのようにすればよいかということを考えていくことが大事になる。

それには,四角形は対角線によって,2つの三角形に分けられるが,適当に対角線を引くことに よって,既習の事項がうまく使えるように考えようとすることである。この段階で見通しを有効に 用いることができるだろう。前述の①,②,③,④の図の四角形にについて,適当な対角線を引く ことによってできた図に,既習の三角形の決定条件を繰り返し用いていくことによって,全体とし ての四角形が決定するといえるだろうかと考えを進めていくのが正攻法といえよう。

(2)いろいろな推論の仕方を身に付けておき,場に応じてそれらを効果的に使用していく。

問題の解決に既習の基礎的・基本的事項が使えないかどうかを見通すときの大切な着眼点の1つ に,当面している問題解決に必要なものは既習のどんなもの似にているかという類推の考えがある。

そして,当面している問題解決に既習の或るものが役立つと思われるためには,それら両者の間に 何らかの共通性(似よりのもの)が感じられなければならないであろう。

先の例でも,①を選んだ者は,三角形は3辺が分かれば,その三角形は決まるので,四角形も4 辺が分かれば決まるのではないかと類推するのは比較的自然の成り行きではないだろうか。しかし,

類推によっただけでは,必ずしもうまくいかないこともあるわけであるから,この場合は,さらに

どの角が分からなければならないかなど,演繹的に考えを進めていく必要があろう。

(10)

また,四角形は4辺の長さだけが分かっても,例えば,右図の四角形

S

PQRSのように,最初に与えられた四角形ABCDと合同にならない 図5

ものがあるという,成り立たない例(反例)を1つ示せばよいことにな   P る。これも立派な論の進め方であろう。時にはこのような反例を挙げる

という方法も簡単で有効である。

(3)問題を解いて発展的に考えるようにする。        Q R

上でも述べてきたように,児童が実際に教科書等で学習するのは三角形についての決定に関する 条件についてのことであるヨしかし,このことを学習させたら,そこでただ終ってしまうというの ではなく,この三角形がきちんと決まるためには,こんなこと(決定条件)が分かればよいという ことを勉強したが,では,こんな四角形がきちんと決まるためには,どんなこと(どの辺の長さや どこの角の大きさなど)が分からなければならないか考えてみようというように,問題を開いて,

発展的に考えさせていくことも大切であろう。

(4)そこで用いた考え方や方法はいつでもいえるのか,いつでも可能なのか,などと反省させ るようにする。

例えば,三角形の決定は,

ア.3つの辺,  イ.2つの辺と間の角,  ウ.2つの角と間の辺

の大きさが分かればよかった。そして,これらの3つ場合はいずれも三角形の3つの要素の大きさ かが分かればよいという形になっている。

それなら,三角形はいつでも3つの要素の大きさが分かれば決定するだろうかと反省してみる。

すると,3つの要素といっても,イの場合のように2つの辺とその間の1つの角が分かればよいが,

2つの辺と(その間でない)もう1つの角が分かっただけでは必ずしも三角形は1つに決定しない 場合もあるわけである。このように,見通しをもち筋道を立てて考えていくには,なぜ?への問い かけに心がけるようにさせることが大切であろう。

お わ り に

事象を考察する際に,見通しをもち筋道を立てて考えさせる指導を,従前に増して重視していか なければならないということを述べてきた。

このことは,これからのコンピュータ等を駆使することが多い情報化社会に生きていく者にはま すます大事になっていくだろう。したがって,見通しをもち筋道を立てて考えていくことは,すべ ての教科や教科外の指導を通しても力を入れて指導していんなければならないと思うが,とりわけ,

情報化と密接なかかわりをもつ算数科の指導では特に強調していかなければならないだろう。

そこで,児童たちに見通しをもち筋道を立てて考えさせるようにするには,これまで前の2,3,

4で述べてきた,見通しは目的に応じて行うようにする,絶えずよりよい考え方や処理の仕方を求

めて洗練していく,既習事項を必要な場面で用いられるようにする,いろいろなの推論の仕方を身

につけておき,ものごとの考察処理に柔軟に対応できるようにする,学習は(授業も)開いておい

で,発展的に考えられるようにしておく,そこで用いた考え方や処理の仕方はいつもいえるのか振

(11)

り返ってみることが大切である,などに留意して指導していくことはいうまでもないが,また,こ ういったことを算数科の学習の適切な機会を捉えて継続的に指導していくことが必要である。

なお,最後になってしまいましたが本論の執筆については,同じ数学教育研究室の平岡忠氏に細 部に亘って懇切なご指導とご助言を頂きましたこと,ここに心から感謝申し上げる次第です。

1)文部省『小学校学習指導要領』 (文部省,1989),p.38.

2)教育課程審議会『幼稚園,小学校,中学校,及び高等学校の教育課程の基準の改善について』 (文部省,

1988),P.32.

3)波多野寛治『学習心理学ハンドブック』 (金子書房,1968),p.18.

4)文部省『小学校指導書算数論』 (大阪書房k.k.,1969), p.9.

5)同書,P.6−10.

6)熱海則夫・伊藤説朗編「小学校達成調査を生かす授業改善 算数科編』 (明治図書出版k.k.,1984),

P.30.

7)文部省(1969),p.5.

8)同書,P.6.

9)文部省『小学校指導書算数編』 (東洋館出版社,1989),p.8.      一

10)同書,P.11−12.

11)熱海・伊藤,前掲書,p.59.

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