金沢 大学 十 全 医学 会 雑誌 第1 0 2巻 第6 号 74 9 ‑7 62 (1 99 3)
抗 うつ 薬 の慢性投 与のネ コ の睡 眠 ・ 覚醒 周 期に 与える影響と 血中濃度に関する研 究
金 沢 大 学 医学 部神 経 精神 医学 講 座 ( 主 任: 山口成 良 教 授)
久 保 田 陽 介
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抗 うつ薬の臨床 的 抗 うつ効 果の作 用 機 序の 一 つ と して, 睡 眠 ・ 覚 醒リズムの改 善に関 与するものと考え られる・ ま た,
抗うつ薬が その効 果を現 すに は▲
一 般 的に投 与 開 始後1 週 間 以上の期 間が 必要である といわ れ ている・ そこ で, そ れ らの機 序 を明らかにする た めに, 脳 内に慢 性に電 極を植え込ん だ ネコを使 用し, 3環系 ・ 4 環 系抗うつ薬な ら び にス ル ビリ ドの睡 眠t 覚 醒 周期と逆 説 睡 眠 期 出現 潜 時に対 する影 響を 6 日間 皮下 注 射後の静 脈 内投 与( 慢 性 投 与)につい て検 討し た・ 更にその結 果を 1 回静 脈 内投 与 ( 急 性 投与) の影 響と比較 検 討した. 慢性 投 与 実験で は, 3環 系抗 うつ薬のイミプラ ミソでは逆 説 睡 眠期 出現 薄 暗の延 長が み ら れ, デシプラ ミ ンで は延 長の傾 向が み られた が, 逆に, ア ミト リ プチリン, クロミプラ ミソでは, 短 縮の傾 向 が み ら れ た. 4環 系 抗 うつ薬のマ プロ チリソ, ミ アン セリソで は, 逆 説 睡 眠 期 出現 薄 暗ほ短 縮せ 示 し た. 抗うつ効 果を持つ抗 精 神 病 薬のス ル ビリ ドで は ト逆 説 睡 眠 期 出現 薄 暗に変 化は み ら れ な かっ た. その結 軋 急性 投 与で は∴逆 説睡 眠 期 出 現清 時 抑 制の強さの順 序が, ミ ア ンセリンとス ル ビリ ドを除 き, シ ナプス前部での セロ トニ ソとノ ル アドレ ナリンの再 取り込み阻 害の 強さの比の順に 一致した が, 慢性投 与で はt
一致しない結 果が得ら れ た. そこ で, 逆 説 睡 眠期 出 現潜 時に特に大 きな変動が み られた, イミプラ ミン, デシプラ ミン, クP ミプラ ミンでは, 血中濃 度上著 明な蓄積が み られ たこと か ら, 血中濃 度と臨床 効 果との相 関を み た ところ, イミプラ ミ ソ, デシプラ ミソで はl 直 線 的 相 関, クロ ミプラ ミソで ほ, 曲線 的 相 関に 一致 する結 果 が得 ら れた. マ プロ チリソとミ ア ンセリソで ほ相 関し ないという 結 果が得られた・ ア ミト リ プチリンとスル ビリ ドで は, 血中 濃度に蓄 横は み られな かった. ア ミト リ プチリンによ る逆 説睡 眠 期の抑制ほ慢 性 投与によ り, 慣れ が生じ る と考え ら れ たt い ずれに しても, 3環 系 抗 うつ薬で ほ, 紡 錘 汲・徐 波 睡 眠 期の増 加によ る逆説 睡 眠 期の抑 制が臨 床 的にほ抑 制さ れ た急 速 眼 球運 動睡 眠 期を発 動さ せ よ う とする力と なって, うつ状 態の改 善をもた らす もの考え られた. 4環 系 抗 うつ薬とスル ビリ ドの作用 磯序につ い ては, 3 環系 抗 うつ薬と異な り, 逆説 睡 眠期の抑制 作 用 以 外の機 序を今後 検 討 する必 要がある と考え られ た・
Key w o rds tr l CyClic a ntidepre s sant,tetraCyClic antidepr e s s a nt,S ulpiride,Chr o nic ad ministratio n・
Sle ep‑W ak efuln es s cycle
感情 障 害 (躁 うつ病) では, 睡 眠障 害は その基 本症 状の 一 つで あり, 抗 うつ薬の効 果の 一 つと し て, 睡 眠 障 害の改善がある と 思わ れ る.
Kupfe r ら1 )ほ 1 9 7 2年 以 来, うつ病で は 入眠 後, 急 速 眼球 運 動
(r apid eye m o v e m e nt, R E M) 睡 眠 期が早く出 現し や すい
(R E M 薄 暗 短 縮) ことに注目 してお り,
一 方, Vogel ら2 ) は
R E M 期のみの選 択 的 断 眠が抗 うつ効 果を持つ ことに注目 し,
うつ病に対 する R E M 断眠療 法を創 始し, その抗 うつ効 果は R E M 睡 眠遮 断によ って生 ずる R E M プレ ッ シ ャ ー ( 抑制さ れ た R E M 睡 眠を発 動さ せ ようとする力) によ る と考え, R E M プ レッ シ ャ ー と抑 うつ 症 状 改 善と の 間に用 量 一 反 応 相 関 (do s e‑r e SpO n S e r elatio n ship) がある と発 表した3 ). 3環 系 抗 うつ
薬のイミプ ラミソ, クロ ミプラ ミン は R E M 薄 暗を延 長せ し 軋 かつ R E M 睡 眠 時 間を短 縮せ し め るl) 5). 抗 うつ薬のか か る R E M 睡 眠 抑制 効 果が, 臨床 的にも 抗 うつ効 果と し て現 れるも
のと考え られる. ところで, 抗 うつ薬が その効 果を現わすに
はl
一 般 的に投 与 開 始後1 週 間以上の期 間が必 要である といわ れ ている. 最 近, Katz ら6)はt 至適 量の抗 うつ薬が投 与された 場 合, 4 週 間で回復 する患 者におい ては 1 週 間 以内に薬効があ ら わ れ, 症状の好 転が認め ら れ る と報じて いる.
そこ で, 3 環系 ・ 4環系 抗 うつ重な ら びにス ル ビ リ ドの6 日 間 皮 下注 射 後の静 脈 内 注射 ( 慢性 投 与) のネコ の睡 眠・ 覚 醒周 期と逆 説 睡 眠 期 出現 薄 暗に対 する影響を, 従 来の1 回静 脈 内 注 射 ( 急性 投 与)丁卜仰 の結 果と 比較 検 討 すること を企て本 研 究を 行った. ま た, 慢 性 投 与 実験 前, お よ び終 了 時の抗 うつ薬の血 中 濃 度に つい ても急 性 投 与後2 4時 間の血中 濃度 代 謝 曲 線との関 連におい て検 討し た.
対 象および 方 法
Ⅰ. 実 験動 物
実験には脳 波, 頸 筋の筋 電 図, 眼球 運 動な ど を誘 導 する電極 を慢性に植え込ん だ雑 種の成 熟ネコ1 2軋 体 重2.8 ‑3.8 kg を
平成5 年1 0月1 2 日受付, 平 成5 年1 1月9 日受 理
A b br evi atio n s : A L P, al kalin e pho sphata s e; G O T , gluta mic o xalo a c etic tr a n s a m in a s e; G P T}, gluta mic
p yr ubic tr a n s ami n a s e; T‑G T P , T‑gluta m yl tr a n spep tidase; 5‑H T, 5‑hydroxy try p ta min e; R‑C L , righ t n u cleu s
C,e ntr alis late ral is; R E M , r apid eye m o v e m ent ; 生食, 生 理食塩 水
用いた. 動物は温 度 調 節さ れ た飼 育 室で1 2時 間の明暗 周 期で飼 育さ れ た. 毎 朝9時に給 餌さ れ 水 は自 由に飲ま せ た.
Ⅱ. 電 極の植え 込 み手 術
電 極の植 え込み手 術は Ya magu chi らI l), 安 藤1 2}, 竹 島1 3), 武 内1 4りこ記 載された方 法で行い, 皮 膚 切 開の際には▲ さ らに1 % リ ドカインによ る局 所 麻 酔を行った. 皮 質 脳 波 記 録用電 極と し ては直径 2m m のステン レ ス鋼のね じを用い, 頭 蓋 骨を通し て 硬 膜上に接する ように植え込ん だ. 植え込み部位は, 両 側の運 動 領 (a nte rio r sigm oid g yr u s, A S G) お よ び体 性 感 覚 領 (po ste rio r sigm oid g yr u s,P S G) と L た. 不関 電極と しては前頭 洞上壁のほぼ正中に, ま た接 地 用電 極と し て ほ後 頭 結 節の直 前 ほぼ正中に, そ れぞれ ね じ電 極を植え込ん だ. 深 部電 極にほ▲
ス テ ン レス鋼ルンバ ー ル針 (直 径0.8皿 m l 内 径0,5m m) に直径 0・2m m の エナ メ ル線を挿入 し, エポ キシラ イ ト(epo xylite) を 焼 付 けて絶縁 処理 を し た同心型 電極を使 用し た. 同心型電 極の 外 針と内 針の先 端 間 距 離は約1m m で, そ れぞれの先 端よ り約 0・5m m の絶 縁 塗 料を剥 離し た. これ らの深 部 電 極を刺 激 用 あ るいは深 部脳 波 記 録 用 電 極と し て用いた. 深 部電 極の植え込み 部 位は, 刺激な ら びに導 出部位と し て脳 幹 網様 体に属 する左 側 中脳 網 様 体 (1eft mi d brain r etic ula.rfo r matio n, し M R F) と視 床 非 特 殊 核の右 側正中 外 側 核 (right n u cle u s c e ntr alis late r alis,
R‑C L) に植え込ん だ. これ らの深部 電極の挿入 はJa spe r ら1 5),
お よ び Snide r ら1 6 )の アト ラス によ り計 測を行い, 東 大式脳 定位 固定 装 置を用いて行っ た. 挿入部 位の正確さ を期 する た め に R‑C L で は電 気 刺 激に よ り皮 質に広 汎に漸 増 反 応 (r e c r uiting
r e spo n s e) が誘 発さ れ ること を確 認し た. ま た右 側背側 海 馬
(rightdo r s al hip po c arm pu s,R‑D H I P P) で は電極 刺入時の損 傷 発 射 (inju ryd is cha rge)が出 現すること を それ ぞれ指 標と し た. 眼 球 運 動 記 録用お よ び筋 電 図 記 録 用電 極と し て は 7 芯のビニ ー ル
被 覆 線の先端を露 出し, 先 端をル ー プ状に形づくっ た電 極を 用 いて, そ れ ぞれ両 側 外 限 角 部 側 方皮 下お よ び両側 後 頸 部 筋 肉 内
に留 置し た. 以上全ての電 極を ウ イ ンチェ ス タ ー (W in che st‑
e r) プラグ にハ ンダ付 けし, プラグ を歯 科用セメ ン ト で頭 蓋 骨 に固定し た.
Ⅲ. ポリ グ ラフ記 録
ポ リ グラ フ記 掛ま一 電 極の植 え込み手 術 後2週 間 以上経 過し て か ら行っ た. 脳 波 記 録にはl ウ イ ンチェ ス ク ー プラグに脳 波 計と連結さ れ ているソ ケ ツ † を装着した. 心電 図記 録は, 左上 肢 内側に固定した電 極よ り導 出した. 呼 吸 曲線は飽 和 硫 酸亜鉛 溶液を満た したゴ ム管を腹 部に固定したものよ り導 出した. ポ リ グ ラム記 録に は 1 4素 子イン ク書き 多 用 途 脳 波 計 E E G 41 4 2
(日本光 電, 東 京) を用い , l.5c m/s e c の紙 送り速 度で紙 記 録
し, R‑C L 刺 激に よっ て皮 質! 皮 質 下に誘 発さ れ る漸 増 反 応を ブ ラ ウソ管で観 察 する と ともに, 必 要に応じ て磁 気 記 銀 装 置に 記 録し た. 漸 増反 応 観 察のた めの R‑C L の刺 激に はアイソレ ー タ ー 付 き電 子 管 刺 激 装 置 M S E‑3(日本 光 電) を用い. パ ルス幅
0,5m s e c の矩 形波を1 0秒 間に連 続8 0回与え た. 脳 波 記 鐘は 2 0秒
を 1 エポッ クと して終 始 同 一人 物が視 察に よ り判 読し た.
Ⅳ. 実 験 室
実 扱室は, 温 度 調 節され, ほぼ遮 音されたうえ 仁照 明は暗く された. 内部にシ ー ルドルー ムを設 け, さらに その 内部に 一方 向ガ ラスを前 面に取り付けた観 察 箱を設置し内部を蛍 光 灯で廃
明し動物をいれた. 実 験 中∴動 物ほ, ポ リ グラ フ記 録お よ び刺 激のた めの 一本に束ねら れた リー ド線が頭部に接 続されている
が, 観察 箱 内を自 由に動 き回 れ る状 態にお かれた.
Ⅴ. 実験スケ ジュ ー ル 実験ス ケジ ュ
ー ルは, 対 照 実験と し て午 前9時 頃に動物に給 餌し, 午前1 0時 斯こ電 極を装 着, 午 前1 0時3 0分 頃に 入眠 するの で, 最 初に出現 する紡 錘 波 (spindle)を基 準に し て, 2時 間のポ リ グラ ム記 録 後, 午 後1 時3 0分 頃に生理食 塩 水 ( 生食) を NaC l と し て 1m g/kg 静 江し, その後6時 間のポ リ グラ ム記録 を行った・ 慢 性 投 与 実 験と して6 日間午後1時3 0分 頃に, 抗う
つ薬1mg/kg 又 は, スル ビリ ド 3m g/kg を皮下注 射した. 投与 し た全量が完 全に吸収さ れ る という点か ら は, 全て静注が望ま しい のである が, 血管を傷め る た め, 途 中は全 量 摂 取さ れ たこ との確 認が難 しい経口投 与や , 初回通 過 効 果 (fir st‑Pa S S effe ct) の影 響を受 けやすい, 腹 腔 内投 与 等に比べ て , 静 注に近
い結果が得ら れ る皮 下 注 射と し た. 7 日 目に午 前1 0時 頃採血 し た後電 極を装 着し, 午 前1 0時3 0分 頃か ら 2 時 間の ポ リ グラ ム記 録を行い, 午後1 時3 0分 頃か ら抗 うつ薬1 m g/kg 又 ほ, スル ビ リド 3mg/kg を静 江し, 注 射後6時 間のポ リ グラ ム記録を行っ
た. ま た, 対 照 実 験と同一 スケジ ュ
ー ル で行った山口らT ト 1 0) の
各 薬物 急 性 投 与 実 験の結 果との比 較 も行った. 慢 性 投与 実 験終 了 後, 午後8 時3 0分 卿こ採血 し, 採血 し た試 料に ついて抗うつ
薬の血中濃 度を測 定し た. さ ら に, 4環 系 抗 うつ薬につ いて は 実験 前 後の動 物の肝 機 能 も 測定し た. 同一のネコを繰り返し使 用 する時にほ, 少なくとも1 ケ月 以上の間 隔を置いた.
Ⅵ. ネコの睡 眠 ・ 覚醒 状 態の分 類
ネコの睡 眠 ・ 覚 醒 状 態につ い て ほ Ya m agu ch i らI l )や, 竹
島1 2), De m e ntl T )の詳細な分 類を参 考と し た が, 実 際にほ一 武
押4), O ku血a ら1 8)の記 載にもと づき, ポ リ グラ ム の パタ ー ンか ら, 覚 醒 期 (w akefuln e s s stage), 微 睡 期 (dr o w sin e s s stage),
紡 錘波・ 徐 波 睡 眠 期 (spindling a nd slo w‑W a V e Sle epstage), 逆 説 睡眠 期 (pa r ado xic alsle ep stage, ヒトの R E M 睡 眠 期に相 当) の4 期に大 別し た. すな わ ち, 覚 醒 期では動 物は常に開 眼 し て お り, 行 動 状 態に対応し た ポリグラム変 化が得ら れ る. 動 物は行 動 面で は安 静である か, 落ち着い て いないかの ど ち らか であり, 皮 質 脳 波でほ低 振 幅 速 扱が出 現し, 背側 海 馬 脳 波で ほ 3 Hz 前 後の β律 動 波が ほ ぼ連 続して出 現 する. 微 睡 期では常に 落ち着いた状 態で閉 限しでいる が, 時にほ 一 過 性に開眼 するこ とも ある. 皮 質 脳 波上 は 5 ‑6 Hz の低 振 幅で 不規 則な徐 扱が出 現し, 軽 度の徐 波 化傾 向を認め る. 海 馬 脳波では β波の連続 性 が悪 くな り, その振 幅の増 大が観 察さ れ る ようにな る ∴紡 錘 波・ 徐 波 睡 眠 期で ほ. 動 物ほう ず くま る か横た わ る姿 勢を と り 閉 眼している. こ の時期の初 期には座った ま ま開眼して頭を垂 れ ていることも ある が, その後は必 ず 横 臥し, ぐった り し た姿 勢を 示す. 皮 質脳 波で は 1 3 Hz 前 後の いわゆる紡 錘 波 群 発お よ び高 振 幅の不規 則 性 徐 波が み ら れ る. 海 馬脳 波で ほ 不規 則な高 振 幅 徐 彼の出 現が顕 著である. 逆 説 睡 眠 期に おいて は動 物は ぐった り と横臥し た状 態にあり, 必 ず 頸 部を床に落と し てい る. その際の厳 電 図は平 坦になっている. 時 折 認め られる筋 肉
のれん締(twitch ing) と R E M が特 徴 的である. 皮 質 脳 波ほ覚 醒 期 脳 波に類 似し低 振 幅 速 波 化 する. 海 馬 脳 波に ほ 4 Hz 前後の律 動 性β波が連続 的に出現 する が, 善 本柑) が指 摘 する ように, 連 続 性の良さ と周 波 数が増 加 する点で覚醒 期の海 馬 律 動 波と は異 な る. ま た, 動 物の逆 説 睡 眠 周 期は約9 0分と さ れ るヒトの R E M 睡 眠 周期よ り短 くト 通 常の実験日において は紡 錘 扱が出 現し始め て か ら の 2 時 間中に,
・
†覚醒 期か ら逆 説 睡 眠 期に ま で至