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(1)

トン・ペイグリン

「 マ ル サ ス と ロ ー ダ ー デ ィ ル 、

反 ‑ カ ー ド 的 伝 統 」

M o rt o n Pa gtin , M al th u s

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TheAnti

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)96).

リカ

ド全集と「経済分析の歴史」によって一九五

年代

に新たな刺激を得たイギリス、アメリカの学史研究は

'

主と

して反リカ

ド的潮流の肯定的再枚討という方向で、次々と

十九世紀前半のイギリス経済学に関する研究書を生み出して

い聖本書はその中でも論旨の明快さと問題設定の面白さの

点で出色のものである。

3

拙稿'書評「サ,"ユニル・ベイ

リ ー

と古典駈価値論」

成城大学経済研究第十七号一九七

‑ 八 頁 参 照

本書においてペイグリンが明らかにしよ‑と試みているの

は'「初期マルサスと後期マルサスの対立」(p

.2 )

)'即ち、

初版人口論及び地代論のマルサスと経済学原理及び人口論綱

要のマルサスの理論的差異の検出である。当時の経済理論及

2 01

(2)

び政策の潮流の中でこの対立を把えるなら︑初期マルサスは

リカード段階での古典経済学の理論的育成者=人ロ論と差額

地代論におけるリカードの先駆者であり︑後期マルサスはか

かる古典経済学の批判者=就中有効需要論におけるケインズ

の先駆者である︒ペイグリンはマルサスをかように二分して

把え︑後期マルサスの理論的先駆をローダーデイルに求め︑

両者の政策的立場をエドマンド・バークの保守的伝統主義に

   圓見出して︑マルサス変貌の経緯を跡ずける︒本書の題名にマ

ルサスと並んでローダーデイルがあげられているのは︑ペイ

グリンのかかる問題意識によるものである︒但し︑本書にお

けるローダーデイルの扱いは︑かかる問題意識から想像され

るよりは遥かに大きな比率を占めており︑その価値論︑有効

需要論はもとより︑上院における諸活動l通貨問題︑穀物法

問題などlの紹介にまで及んでいる︒そのことごとくに後期

マルサスとの非常な類似が見られるという意味では︑これは

本書において不可欠の叙述なのであるが︑同時に︑それは︑

最近の学史研究に共通のneglectedeconoヨists再評価とい

う・シュムぺーターによるセリグマン復活の傾向を示すもの

であり︑更に︑﹁経済分析の歴史﹂がローダーデイルに与え

        ㈲た非常に高い評価をもなお低しとするベイグリンの義民顕賞

意欲のあらわれなのである︒

‑202一一

(3)

 マルサスの変貌を彼の社会哲学的立場と理論の継承関係か

ら解くというペイグリンの接近方法は︑われわれにマンハイ

ムを思いおこさせる︒何故なら︑かかる接近方法は︑思想的

立場を経済理論を規定する重要な要因の一つとして取扱うと

いう方法論的態度を示すものであり︑しかも︑思想を︑一面

では︑継承による発展で押え︑他面では︑その荷い手たる社

会諸階級の変遷に照応させて把えるという手法は︑まさに︑

マンハイムの立場にほかならぬからである︒ペイグリンもマ

ンハイムを高く評価する︵?ぶ︶︑しかし︑研究対象がイ

デオロギーではなく︑それ自身の論理と内的動因をもつ問題 解決の科学たる経済理論であるため︑マンハイムの有効性はかなりの限定をうけざるをえない︵?応︶︒マンハイム的接近の対極にあるのは︑シュムペーター及びロビンズ卿の立場である︒社会的バイアスが経済理論に与える影響は論理的分析によってその理論体系から自ずと排除されるとシュムペ  ㈲       I s Iーターは理解し︑古典派的政策は古典理論の論理的帰結であり︑古典経済学者達は︑階級的バイアスから自由な︑善意にみちた公平な人士であったとロビンズ卿は主張する︒ベイグリンは︑かかる立場にもある程度の価値を認めるが︑しかし︑社会哲学の影響を彼らは軽視しすぎており︑如何に善意の人士といえども階級的文化の産物にほかならぬことを忘れていると批判する︒ペイグリンはかような検討を行なった後に︑社会科学における理論化の努力が︑客観性の追求とある特定の価値観により理論を正当化の手段とせんとする圧力との相克の下に行なわれると把え︑また︑理論と社会哲学の相互関係の考察を︑理論懐胎の事情とその特性とへの洞察を与えるという説明的価値を持つものとして重視する︒何故に特定の変数が強調されたか︑何故に長期分析が行なわれたかといった類の問題は︑かかる考察なしには解き得ぬと彼は主張するのである︵?誌︶︒ぺイグリンのかかる方法論的反省は︑わが国での学史研究の水準から見れば︑取立てて問題にする必要もない程度のものにすぎないが︑彼の意味でのシュムペ

ーター︑ロビンズ擲的方法の目立つイギリス︑アメリカの学

−一一203‑

(4)

史研究の中で見るならば︑これは本書の特色の一つをなすと

評することが出来よう︒

 ペイグリンの描くマルサスの変貌は次の如くである︒初版

人口論はマルサスの現状認識を示すもの︑即ち短期分析に基

くものであって︑通常理解されている如き長期理論としての

み提示されたものではない︒人口は既に飽和状態に達してお

り︑有効需要の不足は存在していない︒収穫逓減が前提さ

れ︑貧困は土地の自然力の不足の結果であるとされる︒換言

すれば︑″食料はそれ自身の需要を生み出す″というマルサ

ス自身の言葉がいみじくも示しているように︑彼はいねば後

のセl法則を部分的には前提した形で人ロ論を作りあげてい

たのである︒かかる理論からすれば︑救貧法︑救貧院︑公共

‑204‑

(5)

事業による失業救済などの政策はいずれも人ロ増加を助け貧

困の度を深めるのみであって︑何ら救済にならない︒従っ

て︑真の救済策は︑労働者に節欲︑深慮︑先見の明を授け︑

彼ら自身が人口を労働需要に適合させる能力を持つように仕

向けるものでなければならない︒かかる効果をもつ唯一の経

済政策は︑貯蓄銀行である︒

 人ロ論におけるかかるマルサスと経済学原理におけるマル

サスが極めて対照的であることは︑自ら明らかであろう︒原

理においては︑現状が︑人口は未だ自然的資源に比して著し

く稀少であり︑収穫逓増を前提とすべき社会として把えられ

ており︑人口増那を現実に制限しているのは自然力ではなく

制度=人為であり︑現実の貧困は総需要の不足に基くもので

あると理解される︒セー法則は否定され︑貯蓄銀行政策は皮

肉られ︑代って有効需要論=不生産的消費の理論が軸に据え

られ︑公共事業による完全雇用政策が短期分析の政策的提案

となる︒かつて︑人口論が激しい社会的論議を巻きおこした

のは︑それがまさに短期分析として提示されたが故であった

が︑今では単に長期の不可避的傾向として有効需要論の背後

に飾られているにすぎない︒一八二四年の﹁人ロ論綱要﹂に

おいて︑マルサスは︑人口論を長期理論とすることによっ

て︑原理の立場と融和させようとした︒しかし︑先にのべた

如き全く相反する政策的提案を有効需要論で統一せんとする

のは︑元来︑成功する筈のない試みだったのである︒  では︑何故マルサスは人口論と有効需要論を分離し︑後者

のみを理論の軸に据えるに至ったのか︒ペイグリンは︑対仏

戦争により換起された経済の活況と戦争終結に続く停滞とを

マルサスが比較検討した結果だと推測し︑この場合︑ローダ

ーデイルの消費者選択と需要とによる交換価値分析︵マルサ

スはこれに生産費分析を加えた︶︑有効需要論︑過剰貯蓄批

判などが︑理論的先駆として大きな影響をもったとする︒両

者のかかる理論的結合を可能にしたものが︑バーク的伝統主

義であり︑穀物法問題に典型的にあらわれた︵ローダーデイ

ルは十四年に自由貿易主義から保護主義に移った︶ところの

 ﹁農業社会に関連する伝統的な政治経済上の諸制度を一切合

財擁護する﹂︵p.112︶心的態度なのである︒かかる思想的立

場の故に︑マルサスは︑例えば︑大土地所有制を分割相続に

より小地主割に変えることが有効需要を高め安定させる上に

効果的であると理論上は認めながら︑なお︑衆愚の独裁を防

ぐために長子相続法を支持したのであった︵︵?︶回︶︒

 ぺイグリンのかかる変貌描出は︑たしかに問題提起的であ      ㈲って︑ドッブが回りgsr}と評しているのもうなずける︒

しかし︑初期と後期とをあまりにも栽然と分ちすぎているた

め︑かえって説得力を欠いてしまったように筆者には思え

る︒例えば︑ケインズが有効需要論の先駆を見出し︑﹁ここ      ㈲に体系的な経済的思考のはじまりがある﹂と評した一八○○

         哨年のパンフレットはペイグリン的図式から完全にはみ出して

‑205‑

(6)

       ㈲いる︵ちなみに︑このパンフレットはローダーデイルの著書

より四年早い︶︒また︑古典派育成者マルサスの主たる業績

とされる差額地代論にしても︑立論の典拠をなす一ハ一五年

のパンフレットにおいて主張されているのは︑むしろケネー

=スミス的な土地生産力説が主であって︑リカードはマルサ

スの一部を価値移転説に鍛えあげたと解すべきであろう︒ぺ

イグリンは︑逆に︑後者をマルサス地代論の主要因と押えた

ため︑マルサス地代論と収穫逓増の結合を理論外の条件から

説明せざるをえなかったのである︒ローダーデイルと異りマ

ルサスは︑いわば︑思想的立場において首尾一貫していたと

理解しえよう︒従って︑彼の二面性は単に時間的に二分して

把えるだけではなく︑その理論活動の全期間を通して並存し

ていたと把えるべきではなかろうか︒

 本書には︑以上の如き内容のほか︑リカード︑マルサスの

価値論を扱った部分︵第一章と付録︶︑反りカード的伝統の

衰退を扱った第六章などがある︒後者は︑シュムペーター批

判であって︑リカード派が当時理論的社会的に大きな影響力

を持っていたことを︑理論の性格とマカロックを主とする諸

理論家の活躍のスケッチで論証している︒前者には︑残念な

がら︑特にリカード価値論について誤解が目立つ︒中でも︑

リカードの金の価値についての考察をマーシャルの代表的企

業の概念と同一視したり︑絶対的価値尺度に関するマルサ

ス︑リカードの考察を︑鬼火を追い求めるものと評したりす る部分は若干気の毒でさえある︒気の毒だと評するのは︑価値論の分析に失敗したことに︑ペイリングが︑マルサスの二面性を縦に探れなかった理由があると筆者には思われるからである︒

‑206‑

参照

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