会社 分割会 計制度 の背後 にあ る意 味
会 計 にお け る 「透 明性 」一
大 沼 宏
1.序 論
商 法 及 び税 法 に お い て 会 社 分 割 制 度 が 整 備 され て か ら約2年 が 経 過 した 。 こ れ 以 降 急 速 な勢 い で 企 業 の 再 編 成 及 び 会 社 分 割 が 行 わ れ て い る 。 東 京 商 工 リ サ ー チ の2002年4月12日 付 の 特 別 解 析 記 事 に よ る と1),施 行 開始 の2001年4月 か ら2002年3月 末 ま で の1年 間 に,会 社 分 割 公 告 を 官 報 に掲 載 し た 分 割 会 社
(「会 社 分 割 制 度 」 利 用 企 業)は538社 に の ぼ っ た。 分 割 会 社538社 の うち,東 京 証 券 取 引 所 お よ び 各 証 券 取 引 所,ジ ャ ス ダ ック 市 場(店 頭 市 場),ナ ス ダ ッ ク ジ ャパ ン市 場 の 上 場 会 社 は84社 だ っ た 。 ま た これ らの 子 会 社 お よ び 関 連 会 社 は138社 にの ぼ り,合 わせ て222社(構i成 比41.2%)と な っ た 。
東 京 商 工 リサ ー チ は 自社 の 企 業 デ ー タベ ー ス と照 合 した 上 で,分 割 会 社538 社 の う ち462社 を特 定 し,そ の 企 業 の 産 業 別 の 分 布 や 資 本 金 の 分 布,業 歴,従 業 員 規 模 別,売 上 高 分 布 を調 査 し た。 この 調 査 に よ る と,会 社 分 割 制 度 は製 造 業 に お い て よ く利 用 され(製 造 業 が119社;構 成 比25.7%),資 本 金 別 で は,資 本itrS,OOO万 円 未 満 の 企 業 が161社(同34.8%)と 高 か っ た 。 また 業 歴 別 で は, 設 立30年 以 上 の 会 社 が249社(同53.8%)と 過 半 数 を 占 め た。従 業 員 規 模 別 で は,
1万 人 以 上 が19社,5,000人 以 上1万 人 未 満 が14社 とな っ たdこ れ に対 して50 人 未 満 は,153社(構 成 比33.1%)と 全 体 の3割 を 占 め,従 業 員 規 模 か らみ て
も中 小 企 業 の 利 用 が 目立 つ 。
1)記 事 の 詳 細 に つ い て は 以 下 の ア ド レ ス を 参 照 。 http://www.tsr‑net.co.jp/topics/kaiseki/2002/0301.html
〔309〕
売 上 高 別 で は,10億 円 未 満 の 会 社 が127社(同27.4%)と,こ ち ら も規 模 と して は そ れ ほ ど大 き くは な い企 業 が 利 用 して い る とい う結 果 と な っ た 。 以 上 を 踏 ま え て この 記 事 は 次 の よ うに 締 め く くっ て い る。
主 に大 企 業 向 け とみ られ が ち だ っ た 「会 社 分 割 制 度 」 は,予 想 以 上 に 中 小 企 業 の 積 極 的 な利 用 が 目立 っ た 。 一 定 の要 件 を満 た せ ば税 制 上 の 優 遇 措 置 を受 け られ る こ と も影 響 した 。 事 業 拡 大 や 事 業 承 継 な ど工 夫 しだ い で様 々 な再 編 に 活 用 で き る こ とか ら,今 後 も 「会 社 分 割 制 度 」 利 用 企 業 の 増 加 が 見 込 ま れ る。
この 記 事 に示 され る よ う に,中 小 企 業 が 自社 事 業 の 再 編 ・再 統 合 を 目的 と し て活 発 に会 社 分 割 制 度 を 活 用 して い る。 我 が 国 は 中小 企 業 の割 合 が 高 く,会 社 分 割 制 度 が 今 後 ます ま す 利 用 さ れ る可 能 性 は 高 い 。 そ の 一 方 で 会 社 分 割 に 係 る 公 式 な 会 計 基 準 は ま だ 未 整 備 な の が 実 情 で あ る2)。 も ち ろ ん,あ る 程 度 の 指 針 は存 在 す る。 日本 公 認 会 計 士 協 会(JICPA)会 計 制 度 委 員 会 研 究 報 告 第7号 「会 社 分 割 に 関 す る 会 計 処 理 」(以 下研 究 報 告)が 現 時 点 に お け る事 実 上 の 会 計 基 準 の役 割 を果 た して い る 。 そ こ で本 稿 は研 究 報 告 の 内容 を踏 ま え な が ら,会 社 分 割 を 通 じて財 務 諸 表 及 び そ の 実 態 は な に を 反 映 す る よ う に な り,な に を 向 上
させ る の か につ い て 検 討 して い く。
2.会 社 分 割手 法 と会 計 処 理
1998年 よ り今 日 に わ た り,日 本 で は 急 速 な会 計 制 度 改 革(一 般 に 会 計 ビ ッグ バ ン と呼 ん で い る)を 実 施 して きた 。 これ に よっ て 日本 の 企 業 会 計 は 国 際 水 準 に近 づ い た と され る。そ の 一 方 で 改 革 され な か った の は企 業 結 合(合 併 ・買 収) と分 割 に 関 す る会 計 基 準 で あ る。 しか し,企 業 結 合 ・分 割 につ い て の 正 式 な会 計 基 準 は まだ 公 表 され て い な い もの の,企 業 組 織 の 再 編 を 円 滑 に行 うた め の商 2)平 成15年4月4日 付 日本 経 済 新 聞 に よる と,企 業 会 計 審議 会 は企 業 合 併 の会 計 処 理 を原 則 時価 評 価 方式 に統 一す る方針 を固 め た との こ とで あ る。 この 方針 に 基づ く会計基 準 が近 い将 来公 表 され る こと になる。
会社 分割 会計 制度 の背 後 にあ る意 味 31ヱ
法 と法 人 税 法 にお け る 整 備 は完 了 した と理 解 され る 。商 法 と税 法 の整 備 に よ り, 組 織 の 再 編 成(リ ス トラ ク チ ャ リ ン グrestructuring)を 柔 軟 に取 り組 め る 環 境 は 整 っ た とい え る だ ろ う。 平 成13年4月 よ り施 行 の 商 法 に お い て 会 社 分 割 制 度 は ス タ ー トして い る 。
こ う した状 況 をふ ま え,2001年5月 に 日本 公 認 会 計 士 協 会 内 に 設 置 さ れ る会 計 制 度 委 員 会 か ら先 述 の研 究 報 告 が 公 表 され た 。 現 時 点 にお い て は研 究 報 告 が 会 社 分 割 の事 実 上 の会 計 基 準 で あ る。 以 下,当 該 研 究 報 告 を ふ ま え て,会 社 分 割 会 計 につ い て 見 て い く3)。
2.1会 社 分 割 と は
(会 社 分 割 と は)あ る 会 社(分 割 会 社)の 営 業 の 一 部 ま た は全 部 を他 の 会 社 (承継 会 社)に 承 継 させ,対 価 と して の株 式 を分 割 会 社 な い しは 分 割 会 社 の 株 主 が取 得 す る こ と を い う。
「分 割 」 とは 分 割 会 社 側 か らみ た 用 語 で あ り,承 継 会社側 か らす る と承 継 し た事 業 を既 存 の 事 業 と 「結 合 」 させ る意 味 を持 つ 。
ヘザモけ ザ ハリ ハ ドサ ド
Al 雄 業i雛.
ノノ へ
鰐 翫 ⇒
》企 業 分 割 企 業 結 合 現 物 出資 ・営業譲渡 合併 ・買収 ・株式交換
図1分 割 と結合 /∠/
BC
審業 事業/
'
3)な お 文 中 に お い て 段 落 表 現 が 為 さ れ て い る と き は, し て い る 。
当該 研 究報 告 内 の番 号 を指
会 社 分 割 は 分 割 会 社 の 営 業 を承 継 会 社 に 承 継 させ る こ と を 意 味 す る。 この 際 承 継 会 社 が既 存 の会 社 で あ る場 合 を 「吸 収 分 割 」 とい う。 一 方 分 割 を機 に 新 た に 設 立 した会 社 に営 業 を承 継 す る場 合 を 「新 設 分 割 」 とい う。 図1か ら も明 ら か で あ る が,吸 収 分 割 は結 合(合 併 ・買 収)と 実 質 的 に相 違 な い 。
会 社 分 割 で は営 業 承 継 の 対 価 と し て承 継 会 社 の 株 式 が 発 行 さ れ る。 こ の 株 式 が 分 割 会 社 に 割 り当 て られ る場 合 を 「分 社 型 分 割 」 ま た は 「物 的分 割 」 とい う。
こ の 株 式 が 分 割 会 社 の株 主 に割 り当 て られ る 場 合 を 「分 割 型 分 割 」 ま た は 「人 的 分 割 」 とい う。
以 上 を組 み合 わせ る 方 式,す な わ ち分 割 会 社 と分 割 会 社 の株 主 の 両 方 に株 式 が 割 り当 て られ る形 式 を 「折 衷 型 」 とい う。 割 り当 て られ る株 式 が 分 割 前 の 保 有 割 合 に応 じて 割 り当 て る形 式 を 「按 分 型 」 とい う。 割 り当 て られ る株 式 が 分 割 前 の 保 有 割 合 と異 な る 割 合 で割 り当 て る 形 式 を 「非 按 分 型 」 とい う。 以 上 を
X社 株 主
X社
⊂Y社株主〕
↓ Y社
⇒
⊂x社株主)
↓ ↓
⊂Y社株主)
X社 → Y社
図2会 社 分割 の4類 型4)
4)加 賀 谷 ・伊 藤[2002]及 び 伊 藤[2003]566頁 の 図 表14‑1を 参 考 に 作 成 し た 。 な お,こ の4類 型 以 外 に,薪 設 分 割 で あ る がZ社 株 式 をX社 株 主 とX社 両 者 に 割 り当 て る 新 設 分 割 折 衷 型,吸 収 分 割 で あ る がY社 株 式 をX社 株 主 とX社 両 者 に 割 り当 て る吸 収 分 割 折 衷 型 も あ る。 詳 細 は 研 究 報 告par.26と27を 参 照 。
会社 分割 会計 制度 の背 後 にあ る意味 組 み 合 わせ る と次 の 図2の よ う に類 型 化 され る。
3ヱ3
2.2会 社 分 割 と会 計 処 理 法 の 類 型
会 社 分 割 に 当 た り分 割 会 社 が 移 転 す る営 業 に対 す る支 配 を喪 失 して 承 継 会 社 が 支 配 を獲 得 す る ケ ー ス が あ る 。 これ を 「支 配 の移 転 」 と呼 ぶ 。 支 配 の移 転 が み られ た と き は,分 割 会 社 及 び承 継 会 社 に お い て,移 転 す る 資 産 及 び負 債 を売 買 処 理 法 に よっ て 処 理 す る(par.29)。 分 割 会 社 が 引 き続 き(ま た は他 社 と共 同 で)支 配 を維 持 す る ケ ー ス が あ る。 こ れ を 「支 配 の 継 続 」 と呼 ぶ 。 支 配 の 継 続 が み られ た と き は,分 割 会 社 及 び承 継 会社 にお い て,移 転 す る 資 産 及 び 負 債 を 簿 価 引 継 法 に よ り会 計 処 理 す る(par.29)。
企業結合
取 得 か
一→ 欝 → 簿緬引継浅
一一為翻 簿鯉 引継綴
駒
一→ 聡 一→
、擁翼無磯諜
鵬 翻⑲ 簿価引継法
図3会 計 処 理 法 の 判 定(par.30)
以 上 を前 提 と した 上 で,ど の よ う な形 態 に対 して い か な る 会 計 処 理 を 適 用 す る か をChart表 示 した もの が 次 の 図 ③ で あ る。
承 継 会 社 が 支 配 を獲 得 す る場 合(支 配 の 移 転)と,分 割 会 社 が 引 き続 き(又 は 他 社 と共 同 で)支 配 を維 持 す る場 合(支 配 の 継 続)と が あ る 。 連 結 集 団 内 で 新 設 分 割 な い し吸 収 分 割 を行 っ た と して も,株 主 の 立 場 か ら見 れ ば実 態 に変 化 は な い と判 断 され る 。 そ れ 故,支 配 は継 続 して い る と判 断 で き るの で 簿価 引 継 法 が 適 用 され る。 ま た 単 独 新 設 分 割 は,分 割 会 社 の 営 業 の全 部 又 は一 部 を新 設 会社 に移 転 させ る単 独 行 為 と考 え られ る 。 つ ま り取 得 会 社 も=被取 得 会 社 も存 在 しな い た め,支 配 の移 転 は生 じ得 な い。 支 配 は継 続 して い る の だ か ら,先 と同 様 「簿 価 引 継 法 」 が 適 用 さ れ る(par.28)。
簿 価 引 継 法 と は,会 社 分 割 に お い て,分 割 され る前 の 各 当 事 会 社 の 支 配 が 分 割 後 も継 続 され る こ とか ら,当 該 当 事 会 社 の 保 有 す る資 産 及 び 負 債 を,そ の 帳 簿 価 額 で 結 合 す る方 法 で あ る。 し たが っ て 分 割 会 社 で は移 転 す る資 産 及 び 負 債
を,分 割 日に そ の 帳 簿価 額 を もっ て 分 離 す る こ とに な る(par.30)。
会 社 分 割 とい っ て も吸 収 分 割 と共 同 新 設 分 割5)は 企 業 結 合 す な わ ち合 併 に該 当 す る。 そ の場 合 一 定 の 判 断基 準 に従 っ て,資 産 及 び 負 債 の 分 割 と承 継 が 支 配 の移 転 を意 味 す る 「取 得 」 な の か,あ る い は 支 配 の継 続 を意 味 す る 「持 分 の 結 合 」 な の か 判 断 す る必 要 が あ る 。
「取 得 」 と は結 合 当 事 会 社 の う ち,い ず れ か の会 社 につ い て 取 得 会 社 を識 別 で き る企 業 結 合 を い い,一 般 に 多 くの企 業 結 合 で は,会 社 の 一 つ が 他 の 会 社 の 純 資 産 及 び経 営 に対 す る 支 配 を 獲 得 す る こ と に な る(par.6)。 こ う した 場 合 で は 取 得 会 社 を識 別 す る こ とは 可 能 で あ る。 吸 収 分 割 の場 合 は 結 合 前 の 承 継 会 社 又 は分 割 会 社 の い ず れ か が 取 得 会 社 とな る。 ま た 共 同新 設 分 割 の場 合 は 複 数 の 分 割 会 社 の う ち,い ず れ か が 取 得 会 社 と な る。 た だ し,吸 収 分 割 又 は 共 同新 設 分 割 の経 済 的 実 態 が,承 継 会 社 に お い て 「取 得 」 と判 定 さ れ る と きに は,吸 収 分 割 又 は 共 同新 設 分 割 を 資 産 の 購 入 と同 様 に考 え る。 こ う した ケ ー ス の こ と
5)共 同新 設 分割 と は2社 以 上 の 国 内分 割 会社 が 共 同 して新 設 会社 を設 立 す る こ と をい う。 これ は従 来合 併会 計 の分 野で新 設合 併 とい われ てい た形態 を指す 。
会社 分割 会計 制度 の背 後 にあ る意味 315 を 「逆 取 得 」 と呼 ん で お り,取 得 した 資 産 負 債 につ い て 売 買 処 理 法 を適 用 す る
(par.7)o
分 割 会 社 の株 主 が,吸 収 分 割 の場 合 は承 継 会 社 の 株 主 と,共 同新 設 分 割 の場 合 は他 の 分 割 会 社 の 株 主 と,そ れ ぞ れ の 分 割 前 の 会 社(ま た は営 業)に 対 す る 支 配 を結 合 し,分 割 後 の承 継 会 社 の リス ク と便 益 を共 有 す る場 合 で あ っ て,か つ,分 割 前 の い ず れ の 会 社 も取 得 会社 と して識 別 で きな い もの 「持 分 の 結 合 」
と い う(par.8)。
支 配 の 移 転 が 生 じた 場 合,会 社 分 割 の会 計 処 理 法 は売 買 処 理 法 が 適 用 され る。
売 買 処 理 法 と は会 社 分 割 に よ り移 転 す る分 割 会 社 の 営 業 が,承 継 会 社 に 「取 得 」 され た と判 断 さ れ る場 合,会 社 分 割 に よっ て,移 転 す る 資 産 及 び負 債 が 「売 買 」 され る も の と して 会 計 処 理 が 行 わ れ る方 法 で あ る(par.31)。 こ の 方 法 に よ る と,承 継 会 社 に お け る分 割 前 に有 して い る資 産 と負 債,分 割 日に取 得 し た 資 産 と負 債,分 割 会 社 が 分 割 日に お い て承 継 会 社 に移 転 した 資 産 負 債 に つ い て の 評 価 は次 の よ う に扱 わ れ る。
瞬
じ
簿価額 で分離 し,こ れ と時価 に よる譲渡価額 とのσ 〉 差額 を営 業 移 転 損 益 と して認識 する。騰 饗雛 簸
撫 鰻 難 負債
公 正 な評 価 額イこよ駄 '評価 する。
聾 従 来 の支配 が
継 続 している の で 帳 簿価 額 で' 評 価 する ξ.'
ヤ ウ
図4売 買処理 法 の会 計処 理6)
6)こ の 図 は 山 上[2002],138頁chart.39を 参 考 に し た 。
以 上 や や錯 綜 して きたの で,整 理 してみ る と次 の 図 の よ う に表 す こ とが 出来 る。
機 批労欝の 彩態起 禽欝編灘
懸 畿r>'
羅 謝 口 ⇒
図5会 社 分 割 の形態 と会 計処 理
3.過 去 の 研 究
会 社 分 割 を 通 じ て 企 業 は 組 織 の 再 編 成 を 進 め る 。 こ の た め 欧 米 の 実 務 に お い て は 古 くか ら会 社 分 割 を 多 用 し て,不 採 算 部 門 の 閉 鎖 ・売 却 を 通 じ て 収 益 力 の 向 上 が 図 ら れ て き た 。 そ の 手 法 が 合 併 買 収 と 共 通 す る こ と か ら,以 上 を す べ て 組 み 合 わ せ てM&A&Dと 扱 わ れ る こ と が 多 い 。 こ れ に 対 し て 日 本 で は 会 社 分 割 を 会 計 上 の 側 面 か ら扱 う研 究 は 少 な か っ た7)。
欧 米 で は 会 社 分 割 を 対 象 と し た 調 査 は 数 多 く 行 わ れ て き た(Baldwinand Bhattacharyya[1991】,Slovirしetal.[1995],KaiserandStouraitis[1995],Erick‑
son[1998],Maydew,etal.[1999],Krishnaswami,andSubramaniam[1999],
EricksonandWang[2000】,ClubbandStouraitis[2002])。 そ の 蓄 積 は 豊 富 で 参 考 に な る も の も 多 い 。 こ う し た 諸 研 究 を 大 ま か に 分 類 す る と,① 会 社 分 割 の 動 機 を 探 る 調 査 と,② 会 社 分 割 情 報 に 対 す る 市 場 の 反 応 の 調 査,③ 租 税 制 度 が 会 社 分 割 の 方 法 に 与 え る 影 響 を 調 査 し た も の な ど に 分 け ら れ る 。
7)こ れ に つ いて は 制度 と して会 社 分 割が 整備 されて こなか っ た点 が 原 因 と考 え ら れ る。平 成13年 に商 法 と法 人 税 法 にお い て これ までバ ラバ ラ に存 在 して い た会 社 分 割 制 度が 統 一 され た。 これ に よって 制度 の 透 明性 が 高 ま り,柔 軟 に取 り組 み やす くな った とい える。特 に税 制 面の 改正 が大 きい ように思 われ る。
会社 分割 会計 制 度の背 後 にあ る意 味 3ヱ7 会 社 分 割 の 動 機 調 査 の 一 例 と し て は,KaiserandStouraitis[1995】,Krish‑
naswamiandSubramaniam[1999]等 が 挙 げ られ る。KrishnaswamiandSub‑
ramaniam[1999]の 仮 説 は,企 業 分 割 の 一 形 態 で あ る ス ピ ン ・オ フ は 企 業 の 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ーや 個 々 の事 業 部 門 の効 率性 につ い て,企 業 内外 で 生 じる 情 報 の 非 対 称 性(informationasymmetry)を 解 消 す る た め に行 わ れ る とい う も の で あ っ た。 検 証 結 果 と し て,情 報 の 非 対 称 が 強 い企 業 ほ ど ス ピ ン ・オ フ を 行 う傾 向 にあ る こ とが わ か った 。 また 高 い 成 長 可 能 性 を もつ 企 業,流 動 性 の乏 し い 企 業 ほ どス ピ ン ・オ フ を行 う こ とが 示 さ れ た 。 ス ピ ン ・オ フ は情 報 の 非 対 称
を削 減 し,情 報 効 率 性 を 向 上 す る の に有 効 で あ る と の指 摘 は彼 ら も して い る 。 会 社 分 割 情 報 に対 す る市 場 反 応 の調 査 と して は,Slovin,etal.[1995]が 挙 げ られ る 。Slovin,etal.[1995】 は既 存 の 事 業 部 門 を分 離 す る こ と に よ る 新 設 分 割 を株 式 カ ー ブ ア ウ ト(EquityCarve‑out),ス ピ ン ・オ フ(Spin‑off),セ ル オ フ(AssetSell‑off)に 分 類 して い る。 彼 ら に よ る と,株 式 カ ー ブ ア ウ ト とは子 会 社 株 式 公 開(initialpublicofferings)を 通 常 意 味 す る。 典 型 的 な株 式 力 ■一…プ ア ウ トで は,分 割 会 社 は子 会 社 の 支 配 権 は維 持 し,株 式 公 開 に よ っ て 創 業 者 利 得 を得 る 。 分 割 会 社 と して の 子 会 社 に対 す る 支 配 権 は弱 ま る も の の,子 会 社 の 自律 性 は そ れ ほ ど強 くな い の が 特 徴 で あ る。 ス ピ ン ・オ フは 外 部 資 金 調 達 を 一 切 行 わ な い 形 で,分 割 会 社 の 一 部 門 を分 離 し,新 規 発 行 株 式 を既 存 の 株 主 に対 して 交 付 す る手 法 で あ る。 分 割 型 新 設 分 割 とス ピ ン ・オ フは 類 似 す る 。 彼 らは ス ピ ン ・オ フ を,子 会 社 の 所 有 権 を 親 会 社 に 分 配 す る 非 課 税 の 株 式 配 当 (stockdividend)と 位 置 づ け る 。 セ ル オ フ は,分 割 会 社 が 個 々 に 子 会 社 を 第 三 者 に売 却 す る もの で あ る。 これ に よ り,関 係 す る資 産 の 支 配 を別 の 企 業 に移 転 し,株 式 を新 規 発 行 せ ず に 資 金 調 達 で き る。 こ う し た3形 態 の 新 設 分 割 は市 場 に 様 々 な 情 報 を 持 ち 込 む の で,KrishnaswamiandSubramaniam[1999]と
同 様,新 規 情 報 に対 す る株 価 の 反 応 を 検 証 した と考 え られ る 。 新 設 分 割 の 公 表 は,市 場 に対 して 非 コ ア事 業 は切 り離 し,コ ア事 業 に対 して優 先 的 に投 資 を進 め る とい う経 営 者 の 将 来 見 通 し を語 る こ と に な る た め,プ ラ ス の 情 報 効 果 が 期 待 で きる 。 検 証 の 結 果,い ず れ の新 設 分 割 を公 表 す る こ とに つ い て も市 場 は好
意 的 な シ グ ナ ル と捉 え て い た こ とが 明 らか に な っ た。 特 に 株 式 カ ー ブ ア ウ トは 市 場 か ら の 資金 調 達 を行 う こ とか ら,も っ と も株 価 に対 して の プ ラス の効 果 を 持 つ こ とが 示 され た 。
租 税 制 度 が 会 社 分 割 の 方 法 に与 え る 影 響 を調 査 し た もの と して代 表 的 な もの に,Erickson[1998】 やMaydew,etal.[1999]な ど が あ る。Maydew,etaL
【1999]は課税 さ れ る会 社 分 割(非 適格 分 割)と 非 課 税 の 会 社 分 割(適 格 分 割) の そ れ ぞ れ を対 象 に,税 務 コス トが か か っ て もそ れ で も課 税 され る会 社 分 割 形 態 を選 択 す る の は な ぜ か とい う 問題 を 調 査 した 。 彼 らは 次 の4仮 説 に し た が っ て 検 証 を行 っ た。 第1の 仮 説 は,租 税 コ ス トは無 視 す る ほ ど僅 少(negligible) で あ る とい う も の で あ る。第2の 仮 説 は租 税 規 定 が あ ま りに厳 格 で あ るが 故 に, 会 社 分 割 に対 して非 課 税 の 方 法 を選 択 す る余 地 が 実 質 的 に存 在 しな い と言 う も の で あ る。 第3の 仮 説 は課 税 され る会 社 分 割 を実 施 し た こ と に よ る対 価 は非 課 税 の 会 社 分 割 を実 施 した こ とに よ っ て得 られ る価 値 よ り も大 きい とい う も の で あ る。 第4の 仮 説 は 財 務 報 告 に よ っ て得 られ る便 益 が 大 きい た め,租 税 コス ト を負 担 して も非 適 格 会 社 分 割 を選 択 す る とい う もの で あ る。 検 証 結 果 か ら分 か っ た こ とは,税 務 コ ス トは決 して 僅 少 で は な く,ま た 第2仮 説 にあ る ほ ど租 税 規 定(IRC§335及 び338(h))は 厳 し い もの で は な い とい う も の で あ る。 確 か にIRC335等 は 非 課 税 の 会 社 分 割 を実 施 す る 場 合 に つ い て い くつ か の 要 件 を規 定 して い る8)。 彼 らの 結 論 と して は,経 営 者 は租 税 コス トを上 回 る 対 価 が得 ら
8)須 田[1994]に よ る と,非 課 税 で あ る た め の 条 件 は6つ あ る 。 第1に,分 割 会 社(以 下 親 会 社)が そ の 株 主 に 分 配 す る も の は,分 配 直 前 に80%以 上 所 有 し て い る 承 継 会 社(以 下 子 会 社)の 株 式 ま た は そ の 他 の 有 価 証 券 で な け れ ば な ら な い(§335(a)(1)(A))。 第2に,当 該 分 配 が 親 会 社 も し く は 子 会 社 の 利 益 の 分 割 を 主 目 的 と し た も の で あ っ て は な らな い(§335(a)(1)(B))。 第3に,親 会 社 株 主 は 分 割 後 も親 会 社 及 び 子 会 社 の 支 配 を 継 続 し て い な け れ ば な ら な い 。 第4に,5 年 間 の 事 業 活 動 の 条 件 が 満 た さ れ な け れ ば な ら な い(§335(b)(1)(1)(A))。 第5に, 親 会 社 は 子 会 社 の 支 配 を行 う に足 る 株 式 数 を 分 配 し な け れ ば な ら な い 。 親 会 社 が そ の 一 部 し か 子 会 社 の 株 式 又 は そ の 他 の 有 価 証 券 を 所 有 し な い 場 合 は,そ の 所 有 が 租 税 回 避 目 的 で あ っ て は な ら な い(§335(a)(1)(D))。 第6に,分 配 は 親 会 社 株 主 の 親 会 社 に 対 す る 持 分 と 同 率 で あ る 必 要 は な い(§335(a)(2))。 しか し, そ の 場 合 はIRS(内 国 歳 入 庁)は 実 質 的 に 贈 与 又 は 何 者 か に 対 す る 報 酬 支 払 い
会社 分割 会計 制 度の背 後 にあ る意味 319 れ る か らこ そ,課 税 され る会 社 分 割 形 態 を 選 択 す る とい う もの で あ っ た。 課 税 さ れ る会 社 分 割 形 態 を 選 択 す る こ と は市 場 を通 して実 施 さ れ る た め,結 果 と し て企 業 そ の もの の 情 報 効 率 性 を 向 上 させ る 。 これ に よ り,売 却 価 額 に追 加 の プ レ ミア ム が 生 じ る。 こ の プ レ ミア ム は財 務 内 容 の 透 明性 が 向上 し,将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロー の改 善 を予 想 させ る 追加 情 報 が市 場 に流 出 す る こ とに よ っ て生 じた
もの と推 測 さ れ る。
以 上 い くつ か の研 究 を サ ー ベ イ した 結 果,会 社 分 割 は 企 業 価 値 を高 め る の に 貢 献 して い る こ とが わ か る 。 ま た租 税 制 度 は 会 社 分 割 の 方 法 選 択 に あ る程 度 影 響 を及 ぼ す もの の,そ れ 以 上 の企 業 価 値 を生 み 出 す 場 合 は税 制 上 の 有 利 不 利 は あ る程 度 度 外 視 して 実 施 され る と指 摘 す る 。 と はい え,必 ず し も明確 に な っ て い な い 点 も多 い 。
こ う した 理 解 を踏 ま え て,本 稿 で は 「会 社 分 割 を行 う こ と に よっ て 財 務 情 報 の 透 明性 が 向 上 す る」 とい う仮 説 を立 て る 。 この 仮 説 を も と に,モ デ ル分 析 を 以 下 行 う。
4.モ デ ル 分 析
過 去 の研 究 を サー ベ イす る こ とに よ り会社 分 割 は市 場 に対 して新 規 の情報 を提供 す る機 能 を果 た して い る こ とが分 か る。 一 方 で研 究報 告 に よる と,企 業 集 団 内 にお ける会 社 分割 は企 業実 態 はな ん ら変化 しない との 前提 が あ る ため,簿 価 引継 法 が 適 用 され る(par.92)。 結 果 と して連 結財 務 諸表 にお い て は特 に変 化 は見 られず,個 別 財務 諸 表 の 申 での み変 化 が 生 じる。 とな る と,連 結 集 団 内 で組織 再 編 成 を行 った と して も,連 結 財 務諸 表 上 は な ん ら変化 は見 られ ない と解釈 され うる。 しか しそ こに は従 来 会社 分 割 の 議論 の中 で見 落 と されて きた,将 来 へ 向 けた情 報 効 率性 の改 善 と
の有 無 を調査 しなけ れ ばな らない(§356(f))。IRCの 規 定 は詳細 かつ厳 格 で あ る もの の,我 が 国 の 適格 分 割 要件(法 人税 法 施行 令4条 の2)と 比 較 して も, 非按 分 型 の 会社 分 割 も非 課 税 対象 と なる点 な ど も踏 まえ て まだ柔 軟 で あ る と判 断 で きる。
い う観 点が 見 られ るの で あ る。 これ を 明 らか にす る た め にモ デル を利 用 して,会 社 分 割 に よって会 社 の将 来 につい ての透 明 性 が 向 上 す る とい う現 象 を説 明 す る9)。
設 例
X株 式 会 社 は 食 肉 加 工 部 門 と食 肉 流 通 部 門 及 び 販 売 部 門 の3事 業 部 か らな る 商 社 で あ る。 しか し昨 今 の 食 肉偽 装 事 件 の影 響 か ら食 肉加 工 部 門 と食 肉 流 通 部 門 の 業 績 不 振 が 深 刻 な状 態 に な っ て きた 。 そ こで 両 部 門 か ら撤 退 し,食 肉販 売 業 に専 念 す る戦 略 を も と に,会 社 分 割 を実 行 した 。
そ の 際,X社CEOは 業 績 不 振 部 門 で あ っ て も欠 損 金 は 節 税 効 果 を持 つ こ と か ら,完 全 撤 退 は 行 わず,分 割 型 分 割 を実 施 して 持 株 会 社 の も とで 業 務 は継 続 す る選 択 肢 を選 ん だ 。 一 方 で 会 社 分 割 を実 施 す る際 に,食 肉 加 工 部 門 の 諸 資 産
に対 し減 損 会 計 を適 用 し,含 み 損 を 一掃 す る こ と に した。
食欝 簸籟郵門
図6会 社分 割 の概要
9)本 節 の 設 例 は 新 日本 監 査 法 人 編[2002]及 び 山上[2002]を 参 考 に して 作 成 し た 。 な お,文 中 に お け る 一 切 の 誤 りの 責 任 は 筆 者 に あ る 。
会社 分 割会 計制 度の 背後 にあ る意 味321
分 割 ス キ ー ム と して,食 肉加 工 部 門 と流 通 部 門 は新 設 す るY株 式 会 社 に 承 継 す る こ とに し た。Y社 は持 株 会 社 に全 株 式 を割 り当 て る こ とに した 。
X社 … 分 割 会 社
連結企業集団を形成
図7会 社分 割 後形 成 され る企 業 集 団
こ の ケ ー ス は 分 割 型 新 設 分 割 に あ た るが,簿 価 引 継 法 を用 い る か 売 買 処 理 法 を用 い る か は,「 支 配 の 移 転 」 が 生 じた か 「支 配 は継 続 」 して い るか の 判 定 が 必 要 で あ る。
Y社 の 新 設 はX社 の 食 肉 加 工 ・流 通 部 門 か らの 撤 退 を 意 味 す る。 しか しY社 は持 株 会 社 の も とでX社 と企 業 集 団 を形 成 す る 「単 独 新 設 分 割 」 で あ るた め, リ ス ク と便 益 は継 続 して い る と判 断 され る。 この こ とか ら,通 常,持 株 会 社 の 支 配 は 「継 続 」 して い る と判 断 さ れ るた め食 肉 加 工 ・流 通 部 門 の分 割 は 簿 価 引 継 法 に よ る 処 理 が 妥 当 で あ る(par.64)。X社 の 貸 借 対 照 表 及 び 資 産 負 債 の 簿 価 及 び 時 価 は以 下 の 通 りで あ る。
図8X社 貸 借対 照表(分 割前)
(単位:百 万 円) 食 肉加 工部 門
事 業資 産 8,000 負債 7,500
食肉流通部門
事業資産 2,000 資本金 4,500
食肉販売部門
事業資産 5,000 資本準備金 1,800
そ の他 の剰 余金 1,200
15,000 15,000
図9分 割 ・承継 す る財産 概要
(単位:百 万 円)
資 産 負 債 備 考
食 肉加 工 部 門事業 8,000 3,500 資 産 に は 含 み 損 300が あ っ た 。 食 肉流 通 部 門事 業 2,000 1,500
差 し引 き 10,000‑5,000=5,000
【X社 の仕 訳 】
●分 割 日前 日:食 肉 加 工 部 門 事 業 に 減 損 会 計 を 適 用 し,含 み 損 を一 掃 した 。 (加工 部 門事 業 資 産 評 価 損)300(加 工 部 門 事 業 資 産)300
●分 割 日当 日
(負 債)5,000(加 工 部 門 事 業 資 産)7,700
(分割 仮 勘 定)4,700(流 通 部 門 事 業 資 産)2,000
●Y社 発 行 株 式 を 持 株 会 社 が 取 得 した 日
(資 本 金)3,000(分 割 仮 勘 定)4,700
(資本 準 備 金)1,200 (そ の 他 の剰 余 金)500
会社 分割 会計 制度 の背 後 にあ る意 味
【Y社 の仕 訳 】
●分 割 日当 日
(加工 部 門 事 業 資 産)7,700 (流通 部 門 事 業 資 産)2,000
●Y社 発 行 株 式 を持 株 会 社 が取 得 した 日 (分割 仮 勘 定)4,700
(負 債)
(分割仮勘 定)
(資 本 金) (資 本 準 備 金) (そ の 他 の剰 余 金)
323
5,000 4,700
3,000 1,200 500 な お,本 来 で あ れ ば 「分 割 契 約 書 」 に従 って 資 本 金 等 は決 定 され るが,比 例 的 に 決 定 さ れ る と仮 定 す る。 こ れ に よ っ てX社 とY社 は 分 割 し,そ れ ぞ れ 別 個 の貸 借 対 照 表 が 作 成 で き る。
図10X社 貸借対 照表(分 割後)
(単 位:百 万 円)
食肉販売部門
事業資産 5,000 負債 2,500
資本金 1,500
資本準備金 600
その他 の剰 余金 400
5,000 5,000
この 会 社 分 割 及 び そ の 仕 訳,結 果 と して作 成 さ れ た 貸 借 対 照 表 か ら ど の よ う な企 業 戦 略 が 読 み とれ る で あ ろ うか 。
図11Y社 貸借 対照 表(分 割 後)
(単位:百 万 円) (加工 部 門事業
資産) 7,700 (負債) 5,000
(流通 部 門事業
資産) 2,000 (資本 金) 3,000
(資本 準備 金) 1,200 (その他 の剰余 金) 500
9,700 9,700
この 会 社 分 割 は ス ピ ン ・オ フ とい わ れ る も の で あ る。 ス ピ ン ・オ フ の 一 般 的 な ね らい で あ る事 業 リス ク の 分 散 は,会 社 分 割 に よ って 達 成 され,X社 の 信 用 リス ク は ヘ ッ ジ さ れ た 。 ま たX社 に とっ て コ ァ事 業 と は い え な い 食 肉加 工 ・流 通 部 門 を分 離 した結 果,X社 の 将 来 性 が 向 上 す る と予 想 で き る。 一 方 で,食 肉 加 工 ・流 通 部 門 か ら完 全 に撤 退 した の で は な く,企 業 集 団 内 に 残 した とい う点 か ら,リ ス トラ ク チ ャ リ ング に よ る業 績 回 復 の可 能性 あ り との 判 断 が推 測 で き る 。 こ の 他,租 税 面 か らい え ば,Y社 は100%子 会 社 に あ る た め,連 結 企 業 集 団 と して は 納 税 額 最 小 化 に 向 け た 連 結 納 税 制 度 に基 づ く税 務 戦 略 が 遂 行 され て い る。 結 論 と し て,こ の 会 社 分 割 は グ ル ー プ リス トラ クチ ャ リ ン グ戦 略 の 一 環 と し て遂 行 され,企 業 集 団 全 体 の価 値 創 造 へ 向 け た経 営 者 の 意 志 が確 認 さ れ る 。
5.透 明 性 と は
こ こ数 年 来 実 施 され て き た 会 計 ビ ッグ バ ン は会 計 制 度 を大 き く変 化 させ る こ と に よ っ て,財 務 諸 表 の 「透 明 性 」 を 向 上 させ よ う とす る試 み で あ っ た とい え よ う。 とは い え,新 聞 紙 上 を 頻 繁 に に ぎわ す こ の 透 明 性 とい う用 語 は ど うい っ た 意 味 を 持 つ の だ ろ うか 。 一 般 に透 明性(transparency)と は 企 業 の経 営 実 態 を外 部 利 害 関 係 者 が容 易 に知 る こ とが で き る状 況 を い う。 問題 は 「容 易 に 知 る
会 社分 割会 計制 度 の背後 にあ る意 味 325 こ とが で き る」 の は 何 か とい う点 で あ る。
退 職 給 付 会 計,金 融 商 品会 計,減 損 会 計 を導 入 す る こ とに よ っ て企 業 の 現 時 点 で の透 明 性,す な わ ち現 時 点 に お け る 当 該 企 業 の 経 営 実 態 を明 らか に す る こ とが 出来 る よ う に な っ た 。 この 現 在 時 点 で の 経 営 実 態 が 明 らか な状 況 を 「実 態 の 透 明 性 」(transparencyofcorporatesubstance)と 呼 ぼ う。 財 務 報 告 に 反 映 され る企 業 実 態 を利 害 関係 者 が 明 瞭 か つ 客 観 的 に把 握 す る こ とが 可 能 と な る 状 況 を い う。前 節 の 設 例 に示 した が,分 割 した営 業 に減 損 会 計 を適 用 した 結 果, 評 価 損 を計 上 した の は 実 態 の 透 明 性 を 高 め た結 果 と理 解 で き る。 こ う した 会 計 処 理 は,現 在 の 実 態 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と す る(present‑oriented transparency)。
た だ 透 明性 に は複 数 の フ ェ ー ズ を捉 え る こ とが で き る。 そ れ も会 計 処 理 の み な らず,さ ま ざ ま な 情 報 を詳 細 に 開示 す る こ とを 通 じて そ の 企 業 の将 来 に わ た る 実 態 を 明 らか に す る可 能 性 も あ る。 本 稿 で 扱 っ た 会 社 分 割 や 税 効 果 会 計 は そ の 一 例 で あ り,米 国 企 業 の 年 次 報 告 書 に 見 ら れ る 経 営 者 の 討 議 と 分 析 (managementdiscussionandanalysis)も そ れ に含 め て い い 。 ま さ に将 来 へ 向 け た 情 報 効 率 性 の 改 善 とい う観 点 か ら指 摘 で きる 透 明 性 で あ る。 透 明性 を掲 げ る な らば,現 在 の 透 明性 と同 時 に 将 来 性 を視 野 にお い た 透 明 性 も指 摘 で きる 。
こ こで い う透 明 性 は 先 の 透 明 性 か ら区 別 す る 目的 か ら別 の 呼 称 を与 え た い 。 こ れ を 「戦 略 の 透 明 性 」(transparencyofcorporatestrategy)と よ ぼ う。 戦 略 の 透 明性 と は財 務 諸 表 だ け で は う か が い 知 れ な い 将 来 に 向 け た 経 営 戦 略 の 方 向 性 を客 観 的 に把 握 す る こ とが 可 能 とな る状 況 を い う。 こ の 透 明 性 は将 来 に向 け て企 業 が 進 む 方 向性 を示 す こ と を 目的 とす る(future‑orientedtransparency)。
事 後 的 な業 績 報 告 だ け で は な く,企 業 の 将 来 見 通 しや 事 業 戦 略 な ど につ い て の 経 営 者 の見 通 し な どが 財 務 報 告 に反 映 され る と,戦 略 の 透 明性 は 高 ま る 。
す な わ ち 上 記 の 両 側 面 か ら透 明 性 は 考 え る こ とが で き,両 者 は相 互 に左 右 し あ う 関係 にあ る。 実 態 の 透 明性 は現 時 点 にお け る企 業 の 実 態 を,戦 略 の 透 明 性 は 経 営 者 が 会 社 の 将 来 に託 す 戦 略 的 な 意 味 が 浮 き彫 りに な る こ と を意 味 す る。
会 社 分 割 会 計 の適 用 は,会 社 の 未 来 図 が 描 か れ る側 面 にお い て 「戦 略 の透 明 性 」
が 高 ま る会 計 処 理 と考 え られ る の で あ る。
先 の 設 例 に沿 って 考 え る と,事 業 を分 割 した 結 果 企 業 グ ル ー プ の 将 来 的 な見 通 しは 改 善 した とい え よ う。 しか も会 社 分 割 に は 経 営 者 の 意 思 が 込 め られ て お り,連 結 財 務 諸 表 上 は大 き な変 化 が見 られ な く と も,将 来 に向 け て企 業 が 進 む 方 向性,す な わ ち 戦 略 が 浮 き彫 りに な る。 こ こに 考 え る戦 略 と は,組 織 構 造 の 改 編 を伴 う事 業 戦 略 や 経 営 戦 略 そ の もの を意 味 す る。 財 務 報 告 に こ う し た情 報 が 反 映 され る よ うで あ る と,戦 略 の透 明 性 は高 ま った と評 価 で き る 。
ジ ェ ン キ ン ス ・リ ポ ー トに お い て 提 案 さ れ た 「ビ ジ ネ ス リ ポ ー テ ィ ン グ」
(businessreporting)は そ の 方 向性 を示 唆 す る。 透 明 性 の 向 上 は ひ い て は企 業 価 値 の 向 上 に も結 び つ く可 能 性 を秘 め て い る 。 上 記 の両 側 面 か ら透 明 性 は考
え る こ とが で き,両 者 は相 互 に左 右 しあ う 関係 に あ る。
図12実 態 の透 明性 と戦 略 の透明 性 の相互 作用
会 社分 割 会計制 度 の背後 にあ る意 味 327 会 社 結 合(businesscombination)と 会 社 分 割(divestitures)は 実 態 の 透 明 性 を高 め る の と と も に,戦 略 の 透 明性 を高 め る手 法 の 一 つ と考 え られ る。 会 計 情 報 と して 適 正 に 開示(disclose)す る必 要 が あ る。 透 明 性 の 向 上 は ひ い て は 企 業 価 値 の 向 上 に も結 びつ く可 能 性 を 秘 め て い る 。
6.今 後 の課 題 と可 能 性
会 社 分 割 会 計 制 度 が あ る程 度 整 備 され た た め,今 後 も柔 軟 に会 社 分 割 に取 り 組 む 企 業 は 増 加 す る で あ ろ う。従 来 あ っ た 会 社 分 割 制 度(現 物 出 資,財 産 引 受, 営 業 譲 渡,事 後 設 立 等)は 調 査 役 の検 査 が 必 要 な ど時 間 が か か り複 雑 で あ っ た。
新 しい制 度 の も とで は,分 割 手 続 を比 較 的 容 易 に行 え る よ うに な る とい う利 点 も大 きい 。 特 に本 稿 の 設 例 の よ う に,連 結 組 織 内 で の 企 業 再 編 につ い て は簿 価 引 継 法 が認 め られ た の で,会 計 的 に も実 行 しや す くな っ た とい え る。
一 方 で研 究 報 告 は 「取 得 」 を 目 的 と した 会 社 分 割 以 外 の 売 買 処 理 法 の 適 用 を 極 め て狭 く限 定 して い る。 これ につ い て はや は り問 題 が あ ろ う。 税 法 上 は適 格 分 割 につ い て は簿 価 で の 引 継 ぎ を認 め て い る もの の,企 業 会 計 上 は も う少 し時 価 評 価 の範 囲 を広 げ て もい い よ う に思 わ れ る。 具 体 的 に言 え ば 売 買 処 理 法 に沿 っ て 資 産 負 債 につ い て 公 正 価 値 評 価 を 適 用 した会 社 分 割 を行 う余 地 を増 や す べ き で は な い か と 思 わ れ る 。 実 際 に は 会 計 処 理 法 の 判 定(par.30)に も あ る よ う に,売 買 処 理 法 が 適 用 さ れ るの は企 業 結 合 時 に 限 定 さ れ て し ま っ て い る。 た と え ば ア メ リ カ財 務 会 計 基 準 書141号 「企 業 結 合 」 で は 合 併 ・分 割 ・買 収 時 に は パ ー チ ェス 法 を 原 則 的 に適 用 す る こ と に な っ て い る。
こ の 基 準 書 を そ の ま ま受 け 入 れ る か ど うか につ い て は 議 論 が 分 か れ る も の の,参 考 に す る点 は 多 い よ う に思 わ れ る 。
以 上 会 社 分 割 会 計 を通 じて 戦 略 の透 明 性 が 高 ま る とい う点 を指 摘 した が,こ れ につ い て はや は り多 少 無 理 が あ る こ と は否 め な い 。 こ の概 念 が 果 た して 妥 当
な もの か につ い て まだ ま だ検 討 が 必 要 で あ る。 これ につ い て は 今 後 の課 題 と な る。 こ の 議 論 につ い て は さ ら な る検 証 を重 ね た上 で 会 社 結 合 及 び 分 割 の 会 計 基
準 設 定 を待 ち た い。 また 今 後 の調 査 の可 能性 と して,会 社 分 割 が 企 業 価 値 の増 加 に本 当 に 結 びつ くか を検 証 して み た い 。 透 明 性 の 向 上 が 企 業 価 値 増 大 に 結 び つ くと の研 究 結 果 は 少 な くな い もの の,そ れ が 我 が 国 に お い て も当 て は まる か は 今 後 明 らか に して い きた い。
本 稿 は2002年12月14日 憩 南 大 学 校1こて開 催 され た 会 計 研 究 所 設 立5周 年 記 念
「会 計 に お け る透 明 牲(TransParenのyinAccounting)」 国 際 セ ミ ナ ー に お い て発 表 した 原 稿 を基 に した もの で あ る。
会社 分割 会計 制度 の背 後 にあ る意味 329 参 考 文 献
伊 藤 邦 雄[2003]『 ゼ ミ ナ ー ル 現 代 会 計 入 門(第4版)』(日 本 経 済 新 聞 社)
会 社 制 度 委 員 会 研 究 報 告 第7号[2001]「 会 社 分 割 に 関 す る 会 計 処 理 」(日 本 公 認 会 計 士 協 会)
加 賀 谷 哲 之 ・伊 藤 邦 雄[2002]「 企 業 価 値 経 営 論(4)」 『一 橋 ビ ジ ネ ス レ ビ ュ ー 』 第50巻,
第2号,124‑142頁 。
須 田 徹[1994]『 ア メ リ カ の 税 法(改 訂4版)』(中 央 経 済 社)
新 日 本 監 査 法 人 編[2002]『 合 併 ・会 社 分 割 の 会 計 ・税 務 』(中 央 経 済 社) 山 上 一 夫[2002]『 会 社 分 割 と 資 本 の 実 務 』(中 央 経 済 社)
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