保
保育 育者 者の の絵 絵本 本に に対 対す する る認 認識 識調 調査 査
―
―現 現役 役保 保育 育士 士と と保 保育 育学 学生 生と とを を中 中心 心に に― ―
青木文美
Survey of problems with nursery teacher’s picture books -Focusing on active childcare workers and childcare students-
Fumi Aoki
本調査は、保育学生時代に修得しておくべき絵本に関する知識や技術について、現役保育士と保育学生と の経験をもとに整理し、保育の専門性となる絵本の知識について整理した。調査方法には質問紙調査を用い、
統計的処理、アフターコーディングで分析した。その結果、現役保育者が保育学生時代に履修すべきと考える 絵本に関する内容は、発達に即した絵本選びや絵本と遊びをつなぐ提案力の基礎となるように絵本を多読し、
各絵本について吟味することだった。また、保育者が提案するような多読の機会のある科目履修をした保育 学生が、絵本制作者の講演を聞くと、絵本の読み取りだけでなく、絵本の読み聞かせに対する考え方を深化さ せていることが分かった。今後は、「認定絵本士」プログラムを念頭に起きつつ、保育者の継続的な学びを支 える絵本に関する段階的な教育法について検討する必要がある。
Keywords
:絵本 保育者の専門性 認定絵本士
picture books nursery teacher expertise picture book knowledge qualification certified person
11.. ははじじめめにに
絵本は、物語世界で空想する楽しみを味わう場として、また、知らない言葉や新しい知識、未知の体験と出会 う場として、子どもたちに親しまれる児童文化財である。絵本との出会いは、家庭や公共図書館に限られたもの ではなく、保育現場においても子どもの豊かな感性や経験を育む保育環境の一つとして位置づけられている。
2017 年改訂の幼稚園教育要領や保育所保育指針における、絵本をはじめとする児童文化財の扱いについては、
主に、領域「言葉」の「ねらい及び内容」で言及されており、たとえば、1 歳以上 3 歳未満児を対象にしたねら いでは、「絵本や物語等に親しむとともに、言葉のやり取りを通じて身近な人と気持ちを通わせる」、3 歳以上の ねらいでは、「(3)日常生活に必要な言葉が分かるようになるとともに、絵本や物語などに親しみ、言葉に対す る感覚を豊かにし、先生や友達と心を通わせる」、内容では「(9)絵本や物語などに親しみ、興味を持って聞き、
想像する楽しさを味わう」とある。ほかにも、領域「環境」の 1 歳以上 3 歳未満児の「ねらい及び内容」では、
「(3)玩具、絵本、遊具などに興味を持ち、それらを使った遊びを楽しむ。」とあり、絵本が保育を実践する上 で必要不可欠な要素であることは明確である。
また、子どもの読書活動に焦点を当ててみると、2001(平成 13)年 12 月施行の「子どもの読書活動の推進に 関する法律」以来、「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」の改定が繰り返され、現在は、2018(平 成 30)年 4 月に閣議決定された第四次「子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」のもと、幼少期からの 家庭での読書習慣の形成や、幼稚園や保育所を含む学校での読書活動の定着や推進、読書機会の確保、学校図書 館の整備・拡充が推し進められている。第四次計画には、第三次までは言及されていなかった、家庭での読書活 動支援が打ち出されており、子どもを中心に家族で同じ本を読み、絆の一層の深まりを目指す「家読(うちど く)」を推奨するなど、子どもと親の絆づくりや絵本の読み聞かせ体験を推奨するブックスタートを契機に、幼
少期からの読書環境づくりに力点が置かれている。
このように、絵本は、保育活動に不可欠であるばかりでなく、幼少期からの家庭読書の習慣づくりという点で も重視されるものである。また、第四次「子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」で打ち出された「家読」
の考え方は、ブックスタートの目的である「share books」(絵本を介して親と赤ちゃんとが一緒に過ごす時間を 楽しむ)という考え方に則っているため、家庭読書に着目することは、子育て支援や就園期の子どもたちの円滑 な園生活への移行をうながす上でも必要な要素となる。したがって、絵本に関する幅広い知識や技術、絵本の役 割や読み聞かせにまつわるさまざまな体験や経験を積むことは、保育者の質の向上や保育者の専門性の担保に も寄与すると考える。
今回の調査の目的は、保育者の絵本分野における専門性と学びの継続に焦点を当て、保育学生時代に修得して おくべき絵本に関する知識や技術について整理することである。方法としては、現役の保育士と保育学生とに絵 本に関する知識や学びの継続についての質問紙調査を行い、結果をもとに考察する。
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2.. 現現役役保保育育士士にに対対すするる質質問問紙紙調調査査 2
2--11 対対象象とと方方法法
本調査では、現役保育者が修得したいと考えている絵本に関する具体的な内容を明らかにするために、また、
自身の学生時代をふり返り、保育学生時代に修得しておくべきだったと考える絵本に関する具体的な内容を明 らかにするために、質問紙調査を実施する。質問紙調査は、愛知県長久手市役所こども未来課に調査許可をいた だき、長久手市立上郷保育園、色金保育園、長湫東保育園、長湫西保育園、長湫北保育園、長湫南保育園に勤務 する保育者に対して、郵送で質問紙を配布した。
質問紙の内容は、①資格取得後年数②学生時代に学んだ絵本に関する内容③保育者として絵本について勉強 したいか④就職後に学生時代に絵本について学べばよかったと思ったことがあるか⑤絵本の知識は保育の専門 性につながるか、について選択式で尋ね、③で「勉強したい」と回答した場合、「どのようなことを勉強したい か」を、④で「よく思った」「たびたび思った」と回答した場合、「どんなことか」を自由記述で回答できるよう にした。また、「保育学生が就職する以前に絵本について学んでおくと良いことは何か」を質問し、自由記述で 回答する形式とした。選択式の回答については統計的に、自由記述による回答については、アフターコーディン グで分析した。
質問紙調査の協力者は、長久手市立保育所勤務の保育者 183 名であり、各園長宛に質問紙調査の配布と回収を 依頼し、同封の返信用封筒にて郵送する形式で行う。調査期間は、2020(令和 2)年 2 月の 1 か月間の中で任意の 時期での実施とした。回答は任意であり、回答部数は 92 部(回収率 50.2%)だった。本稿では、資格取得後 3 年 未満の経験の浅い保育者と資格取得後 10 年以上の経験を重ねた保育者との比較検討をする。
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2--22 研研究究倫倫理理
調査は、所属学部の研究倫理審査を受審し、実施許可を得た上で実施する。質問紙調査については、質問紙冒 頭に研究の目的及び本調査は任意回答である旨を記載し、無記名での記入とする。また、学会発表・論文執筆等 に使用すること、データの管理方法を伝えた上で研究協力への承認を得る。さらには、研究協力者の勤務する保 育所の園長にも同意を得て実施する。
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2--33 結結果果とと考考察察
質問紙調査の結果から、資格取得後3年未満の保育者が 15.1%、5 年未満が 5.6%、7年未満が 6.7%、10 年 以上が 65.7%を占めていた。「学生時代に学んだ絵本に関する内容」の上位 3 位は、3 年未満が①絵本の読み方
(39%)②絵本の効果(20%)③絵本の意義・役割(16%)、10 年以上が①絵本の読み方(28%)②絵本の意義・
役割(20%)③絵本と発達との関わり(14%)だった。「保育者として絵本について勉強したい」と回答した 3 年未満は 93.3%で、10 年以上は 75.8%だった。「就職後に学生時代に絵本について学べばよかったと思ったこ
と回答した 3 年未満は 100%で、10 年以上は 97%だった。
自由記述回答は、アフターコーディングでキーワードを抽出し、類似性のある言葉または文節でまとめた。3 年未満が「保育者として絵本について勉強したい」ことの上位 3 つのキーワードは、①絵本と発達との関わり② 読み聞かせの方法・技術②絵本の種類③保育活動へのつなぎ方③絵本選びで、10 年以上は、①絵本の読み方② 絵本と発達との関わり③絵本の効果だった。「就職後に学生時代に絵本について学べばよかった」ことは「どん なことか」の上位 3 つのキーワードは、3 年未満が①絵本の種類②読み聞かせの方法・技術③保育活動へのつな ぎ方で、10 年以上は①絵本の種類②絵本の読み方③絵本の選び方だった。「保育学生が就職する以前に絵本につ いて学んでおくと良いことは何か」の上位 3 つのキーワードは、3 年未満が①絵本の種類②読み聞かせの方法・
技術③絵本と発達との関連性で、10 年以上は①多読すること②読み聞かせの方法・技術③絵本の魅力だった。
結果を表1~6 で示す。
表
表 11「「保保育育者者ととししてて絵絵本本ににつついいてて勉勉強強ししたたいい」」ここととのの上上位位 33 つつののキキーーワワーードド((33 年年未未満満))
・年齢発達に応じた絵本選び
・年齢に合った絵本の事例
・年齢やその年齢の時期に読むといい絵本
・読み聞かせをする時に大切にしていくこと
・遊びにつながる絵本
・絵本から遊びへのつなげ方、逆もしかり。“集まりのときに読む”という使い方だけでなく、もっと生活や遊 びに自然に、密接に取り入れていきたいので、ヒントがほしい。“集まりのときに読む”という感じになりがち なので、上記のことを深めたかった。
表
表22「「保保育育者者ととししてて絵絵本本ににつついいてて勉勉強強ししたたいい」」ここととのの上上位位 33 つつののキキーーワワーードド((1100 年年以以上上))
・読み方、選び方、絵本の効果など
・読み聞かせの技術など
・自分の好きな絵本作家さんや絵本だけでなく、子どもの年齢によってこんな絵本がありますよと参考にした り、実際に読み聞かせなどの実践へなどを勉強したい。
・絵本の読み方 絵本の特徴
・絵本の良さを保護者にどう伝えていけば、もっと親しんで子どもに読み聞かせをしてもらえるか、大人が(も)
絵本を好きになるポイント
・作家の思いや出来上がるまでの取り組みなどを聞くと、深く読みとる一助になる。
・読み方や間の取り方など。
・子どもの月齢によって、「その時に、どのような発達を促すか」ということを細かく知りたい。
・絵本の意義や役割、発達とどうかかわってくるかなど
・絵本の意義、役割を実践をふまえて学びたい。絵本と発達との関わりをふまえて個人差が出る時の対応。
・発達の道すじにそった絵本
表
表 33「「就就職職後後にに学学生生時時代代にに絵絵本本ににつついいてて学学べべばばよよかかっったた」」ここととはは「「どどんんななここととかか」」のの上上位位 33 つつののキキーーワワーードド((33 年
年未未満満))
・年齢に合った絵本を学びたい
・その時に適した絵本がすぐに思いつかないため
・劇として使った絵本と台本の例
・読み方の工夫
・もっといろいろな絵本を読めばよかった。
表
表 44「「就就職職後後にに学学生生時時代代にに絵絵本本ににつついいてて学学べべばばよよかかっったた」」ここととはは「「どどんんななここととかか」」のの上上位位 33 つつののキキーーワワーードド
(
(1100 年年以以上上))
・色々な種類の絵本に触れることで、子ども達の発達や状況に合わせて、自分の絵本の選択肢が増え、子ども たちに自信をもって、自分が選んだ本を読むことができる。
・絵本の種類があまりわからず、迷ったので。
・自分流の読み方しか分からなかったので。
・読み方などスピードや抑揚などこれでいいのか?と思いながら読んでいることがあったので。
・絵本は子どものものと思っていましたが、おとなにも読みごたえがあり、心にひびく絵本がたくさんあるこ とが大人になって分かりました。
・月齢に見合った絵本の選択について(内容や読み聞かせの時間配分など)
・絵本の読み方など
表
表 55「「保保育育学学生生がが就就職職すするる以以前前にに絵絵本本ににつついいてて学学んんででおおくくとと良良いいここととはは何何かか」」のの上上位位 33 つつののキキーーワワーードド((33 年年 未
未満満))
・子どもに絵本を読み聞かせる際、面白い絵本を一つでも知っておくと、楽しさが共有しやすい
・絵本の読み方や絵本と発達の関連性について学んでおくといいと思います
・集団に向けて読み聞かせをする時の工夫
・季節の行事に合った絵本
・できる限りたくさんの絵本を知るといいと思う
・絵本のことについて、内容など
表
表 66 「「保保育育学学生生がが就就職職すするる以以前前にに絵絵本本ににつついいてて学学んんででおおくくとと良良いいここととはは何何かか」」のの上上位位 33 つつののキキーーワワーードド((1100 年
年以以上上))
・よりたくさんの絵本に触れて、読み聞かせを経験し、自分の”絵本”にしてほしい
・それぞれ、年齢に合った絵本でどんな絵本があるかたくさんいろいろと読んでいると良いかなと思います。
・まずは自分がたくさんの絵本を読むことが大事だと思います。
・学生のうちにたくさんの絵本を読み、いつでもさっと、あ!この絵本を今の子供たちに読もう!と思えるとい いと思います。(はたらきだすと、なかなか時間がないので)
・ジャンル問わずたくさんの絵本に触れられたらいいと思います。
・いろいろな物語を知っている保育士は保育の幅も広がる。ここ数年間、若い保育士の中にロングセラー(長 く愛されている絵本)や昔話(有名な)を知らない子が増えている。学生のうちにたくさんの絵本に触れてほ しい。
・好みに限らず、様々な絵本を知っておくのはよいと思う。
・絵本の面白さを味わっておくことが1番だと思います。シンプルな絵、お話でも、その絵本の面白さ、感じ るところがあると思うので。
・自分が実際保育の現場で読み聞かせをする時に、どんな絵本を選ぶか考える時の参考になる ex、年齢・人数・
季節・行事・時間帯・長さ・内容など 保護者にも絵本の魅力を伝えることができる
・絵本の種類に年齢にふさわしい絵本があります。例えば0歳児はどんな内容のものが多いかなど探ってみる とその年齢の発達が見えます。すると少し年齢の異なったものでも(例えば、2歳児ぐらいのも)応用して0 歳児に読んでやることができます。これはどの年齢にも適用しますが、絵本から発達を見るのも面白いもので す。また、絵本はいろんな世界が描かれています。学生時代にいろんなことで肌で感じてみてください。その 学びは子ども達に絵本を与える(読んでやる時)時に言葉の力、表現の力としてうんと生きてきます。
・年齢、月齢に合った絵本を事前に知っておくこと
・図書館や本屋さんなどで色々な絵本に触れ、好きな絵本を増やしていってほしいと思います。
・色々な種類の絵本に触れる機会を持つことで保育の現場で活用できることが増える
・子どもをひきつける絵本のみせ方、読み方
・ボランティアなどで実際に子どもたちに絵本を読む機会があるといいと思う
資格取得後 3 年未満の経験の浅い保育者は、 絵本と発達との関わりについて学生時代に学ぶ機会が少なく、
保育士として働き始めてから、子どもに適した絵本選びに苦労した経験を持っており、絵本と発達との関連性に ついて学ぶ機会や実践的な読み聞かせの方法・技術だけでなく、絵本から遊びへの提案の仕方など、保育者とし て必要な絵本の知識を求めていることが分かった。また、自分の経験から、保育学生に対しては、対象児の年齢 や月齢に即した絵本の特徴を知ることや、集団に向けた読み聞かせの技術や工夫を学ぶこと、そのためにも、で きる限り多くの絵本を読み、内容の理解や解釈を深め、子どもたちと一緒に絵本の面白さを共有できる力を養っ ておくことを提案していた。そして、3 年未満の保育者全員が、保育者として絵本の知識を持つことは、保育の 専門性になると考えていることが分かった。
資格取得後 10 年以上の経験を重ねた保育者は、学生時代に、絵本の意義・役割などの理論的な内容をふまえ た上で、保育者に必要な絵本と発達との関わりや絵本の読み方等技術的な内容を学ぶ機会があり、保育士として 働き始めてからは、自己の経験や知識に基づいて絵本を保育に取り入れることに不安を抱き、改めて発達に即し た絵本の役割について学んだり、他者の読み聞かせの実践報告をもとに考察を深めたりするばかりでなく、作家 の思いや制作過程を知るなどして深く絵本を読みとろうとしていることが分かった。また、自分の経験から、保 育学生に対しては、学生時代にジャンルを問わず多くの絵本にふれ、内容を読み、〈子どもたちに読んでやろう〉
と思う 1 冊を数多く見つけておくことだけでなく、その経験が子どもたちに絵本を読み聞かせする時に、生き 生きとした表現力につながり、子どもたちを引き付ける読み聞かせになること、そして、そのような語りこそが 言葉の力として子どもたちに伝わることを挙げ、多くの絵本を読んでおくことを提案していた。さらには、10 年 以上の保育者の 97%が保育者として絵本の知識を持つことは保育の専門性になると考えていることが分かった。
経験の浅い保育者と経験を積み重ねた保育者とでは、絵本に対する見方や捉え方だけでなく、保育者としての 自分に求める絵本の知識や技術の内容は異なるが、保育学生に対しては、多くの絵本にふれ、内容を吟味し、保 育学生自身が個々の絵本の持ち味を知ることが保育現場で生きた絵本の知識となり、絵本と遊びをつなぐ保育 の提案力につながると考えていると推測された。
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3..保保育育学学生生にに対対すするる質質問問紙紙調調査査 3
3--11 対対象象とと方方法法
本調査では、保育学生が保育者養成校で修得しておくべき絵本に関する知識や技術について整理するために、
本学本学科福祉貢献学部子ども福祉専攻の 3 年生及び 4 年生に質問紙調査を実施する。質問紙調査は、2019 年 12 月 7 日(土)に実施した「絵本の講演会:講演①(株)福音館書店顧問上田紀人氏による「心を育てる絵本の 力」、講演②絵本作家のさかゆうさく氏による「汗して造る本物の絵本」」の前に質問紙調査の趣旨を口頭で説明 し、配布した。
質問紙の内容は、①1年次開講「絵本論」の履修状況②絵本論は役に立つか③「認定絵本士」取得の意思④そ の理由を選択式で尋ね、②で「大いに役に立つ」「役に立つ」と回答した場合、「どんなことが役に立つか」を、
「絵本の講演会によって絵本に対する考え方で変化したことは何か」を自由記述で回答できるようにした。選択 式の回答については統計的に、自由記述による回答については、アフターコーディングで分析した。
質問紙調査の協力者は、2019 年度「子どもと言葉」受講者の 3 年生 63 名と任意で講演会に参加した 4 年生 9 名で、講演会終了後に机上に伏せて退室する方法で実施する。回答は任意であり、回答部数は60 部(回収率83.3%)
だった。本稿では、1 年次開講「絵本論」を履修した者の絵本に関する学びの様子をふまえた上で、絵本制作者 による講演のもたらす効果と資格取得意思との連関について検討する。
3
3--22 対対象象者者のの背背景景
質問紙調査の協力者は、1 年前期に絵本に特化した講義「絵本論」を履修している。この科目は、①絵本の総 論②絵本の意義と役割③子どもの年齢に適した絵本の紹介④分析法の習得⑤2 歳児への読み聞かせとふり返り で構成されている。絵本の分析法や紹介、読み聞かせ法については、保育に連動する内容を扱うこととしている。
本専攻では、1 年前期の「絵本論」から4年前期までに開講される複数の科目で、絵本の教材研究や絵本を用い た保育の立案・実践方法について継続的に学ぶ。また、2 年次後期から 4 年次後期にかけて実施される教育実習 や保育実習によって、実践力を磨くこととなる。したがって、質問紙調査の協力者は、絵本に関する一連の科目 の履修者としては後半期を迎えており、一定程度の知識と経験を積んだ者であると言える。
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3--33 研研究究倫倫理理
調査は、所属学部の研究倫理審査を受審し、実施許可を得た上で実施する。質問紙調査については、質問紙冒 頭に研究の目的及び本調査は任意回答である旨を記載し、無記名での記入とする。また、学会発表・論文執筆等 に使用すること、データの管理方法を伝えた上で研究協力への承認を得る。
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3--44 結結果果とと考考察察
質問紙調査の結果から、被験者の 96.6%が 1 年次開講「絵本論」を履修し、そのうち 98%が「絵本論」は
「役に立つ」と回答した。また、「認定絵本士」を「取得したい」と回答した割合は、72.5%だった。「取得した くない」と回答した割合は、11.7%だった。取得希望者の上位 5 位までの理由は、①保育者として絵本の知識を 持ちたいから(25.2%)②絵本が好きだから(17.1%)③絵本について学びたい(13.1%)④魅力を知りたい(1 1.1%)⑤保育の専門性につながる(10.9%)と続いた。「取得したくない」理由の上位 5 位は、①履修科目が 増えそうだから(24.0%)②授業外の学習量が増えそうだから(16.0%)③保育者になるつもりがないから
(12.0%)③絵本以外の学習に時間を費やしたいから(12.0%)⑤絵本を読むことが苦手だから(8.0%)と続い た。
自由記述回答は、アフターコーディングでキーワードを抽出し、類似性のある言葉または文節でまとめた。
「絵本論」の「どんなことが役に立つか」を説明する際に使用される上位 3 つのキーワードは、①絵本を知る② 絵本選び③実習で知識が生きる、だった。「絵本の講演会によって絵本に対する考え方で変化したことは何か」
を説明する際に使用される上位 3 つのキーワードは、①絵本を通した子どもへの関わり方②絵本の制作過程に 対する関心の持ち方③絵本の絵に対する見方、だった。結果を表 7~8 で示す。
表
表 77「「絵絵本本論論」」のの「「どどんんななここととがが役役にに立立つつかか」」をを説説明明すするる際際にに浮浮上上ししたた上上位位 33 つつののキキーーワワーードド
・実習に行く前であったため、イメージしづらい点もあったのですが、様々な絵本と触れ合う機会ができて 良かったと思っています
・絵本を選ぶ基準を知ることができたから。今まで自分の好みで本を選んでいたけど、絵本論を履修してど のような絵本がよいのか、を考えながら選ぶようになった
・いろいろな絵本を知り、年齢にあった絵本の選び方や読み聞かせのポイントなど、実践に活かせる知識な どを身につけることができたから
・絵本を選ぶ時にどういう視点で見るといいのかを考える力が身に付けられたから
・実習など、絵本を選ぶ際にとても役に立ったため
・保育実習などで担当クラスの年齢や特徴を捉えた上でよい絵本を選ぶことができるようになった
・絵本を読もうと思うきっかけになったから
・絵本とはどういうものか、どういう工夫が凝られているのか学べるから。また、絵本の種類がどれほど多 くあるのか知ることができたから
・授業で学んだことをもとに、子どもの発達に合った絵本を選ぶことができるようになったため
表
表88「「絵絵本本のの講講演演会会にによよっってて絵絵本本にに対対すするる考考ええ方方でで変変化化ししたたここととはは何何かか」」をを説説明明すするる際際にに浮浮上上ししたた上上位位 33 つつのの キ
キーーワワーードド
・『はじめてのおつかい』の紹介の時にメインストーリーだけでなく、サイドストーリーも同時に進行してい て、絵で読みとれるものが予想以上に大きかったため。絵本の構成が安心する場所➡冒険➡安心する場所に 戻るというタイプがあり、現実の世界と照らし合わせる、また、重ねることができるようになっていること が分かったため。絵本を作るにあたって毎日幼稚園・保育園に行って子どもの様子を研究したり、土の性質 を研究したりしていて、とても考えられて作られていて、絵本ができる背景を初めて知ることができたため。
・さまざまな絵本を紹介してもらい、文字の読めない子どもだから、絵を読んですみからすみまで見ている ことに改めて気づかされました。そこには作家さんたちの遊び心がたくさん隠されていることを実感し、子 どもたちに絵本を読んでといわれたときに、そのことを忘れずに一緒に発見を楽しみながら読みたいと思っ たからです。
・絵本は、子どもが自分で読むことができたとしても、読んでもらうということが大切であると改めて感じ たから。今までは絵本の内容を理解することも大切だと思っていましたが、それ以上に子どもが絵本を楽し むという経験の重要性を学んだから。
・知らない言葉が絵本の中で登場しても、わざわざ説明をする必要はなく、子どもたちは絵本の絵を見て判 断できる。絵本の読み手が最後の作家、作り手と聞き、勉強になった。
・大人が子どもに読み聞かせることは、自然と子どもが「愛情」「笑顔」「言葉の語り掛け」を体験でき、感じ られることが分かりました。子どもが育っていく上で必要なものを絵本を通して大人が与えることができる のだと感じ、絵本は大人と子どもとを繋ぎ、子どもが安心できる場の土台になると考えることができた。
「絵本論」を履修した者は、子どもの発達に合った絵本を選ぶことの意義や、絵本選びの困難さに対する受講 中の理解度は表層的であった可能性があるが、「絵本論」の履修によって、絵本の意義や多種多様な絵本がある ことを知る機会となっていた。そして、絵本を知る機会である「絵本論」を履修したことにより、絵本を読んで みようと思う契機となっていることが明らかになった。また、絵本と子どもの年齢、発達に連関があることに気 づき、子どもに適した絵本を選ぶ基準を学んでいたことが分かった。「絵本論」で培った絵本の見方や選択基準 は、2 年次以降に実施される教育実習や保育実習など実践の場を通じて、読み聞かせる対象の子どもに即した絵 本選びの経験に活かされ、履修者自身の絵本選びや読み聞かせの成功体験につながっていることが分かった。
また、絵本に対する基礎知識や絵本の捉え方について学んだ履修者が、絵本作家や編集者の講演を聞くと、子 どもが絵本の絵を読みながら楽しんでいることに気づかされるだけでなく、絵本作家や編集者の手がけた絵本 の、最後の作り手が読み手である自分である、という読み手の立ち位置に気づく契機となったことが分かった。
さらには、読み聞かせという行為を通して、子どもが「愛情」「笑顔」「言葉の語り掛け」を経験している、とい う読み聞かせの意義に気づき、読み聞かせの時間が子どもの安心できる場の土台作りとなっていることを理解 した様子が明らかとなった。
上記のように、質問紙調査を通して、「絵本論」の履修からスタートし、実習関連科目や保育内容関連科目の 履修を経て、継続的に絵本について学ぶだけでなく、学びを通して、基礎知識や絵本を詳細に読み取る力や読み 聞かせの意義を深く修得している様子が見られた。このように、洞察力をもって絵本と対峙する「絵本論」の履 修者であるが、「認定絵本士」の取得については、72.5%の希望にとどまり、11.7%の履修者は消極的であること が分かった。「認定絵本士」は、絵本専門士委員会(事務局:国立青少年教育復興機構)が認定する大学など高等 教育機関で、絵本専門士委員会が定める内容の科目単位を履修することで取得可能な資格である。絵本に精通し た学士を輩出することを目的に設置された資格のため、絵本に関する知識と技能と感性を持ち合わせた指導者 の証となる。したがって、保育者の絵本に関する専門性を示す一つの指標であるため、保育学生時代に取得でき れば、知識の裏付けとなるだろう。さらに言えば、「認定絵本士」を取得し、条件にそって 3 年以上の経験を積 むと、「絵本専門士」の取得が可能となるため、専門性を磨きあげられる可能性が高い。
しかしながら、取得をためらう履修者の声を聞くと、「履修科目が増えそう」や「授業外の学習量が増えそう」、
「絵本以外の学習に時間を費やしたい」など、履修科目や学習量の増加に対する不安が多かった。資格取得に消 極的な履修者の不安を解消するようなプログラム、たとえば、現在の履修科目内で資格取得条件に見合う内容を 提供できるプログラムがあれば、資格取得希望者の増加が見込まれると考える。また、資格取得を希望する履修 者は、「保育者として絵本の知識を持ちたい」や「保育の専門性につながる」など、保育者としてのスキルアッ プに対して意欲的なため、保育学生時代に「認定絵本士」を取得することが、保育者となって以降も、絵本に対 して興味や関心を持ち続ける原動力となり、保育者としての継続的な学びを保障する土台につながると考える。
4
4..総総括括とと課課題題
本調査では、現役保育士の保育学生時代、就職後の絵本に関する学びの様子を把握し、保育の専門性につなが る絵本の知識とは何か、また、段階的に修得する上で重要な保育学生時代の学びのあり方とはどのようなもので あるかを整理した。また、段階的で継続的な絵本の知識を修得する保育学生が、絵本作家や編集者の講演によっ て絵本について何を見出すか確認し、その経験が保育学生の継続的な学びにつながる可能性について、「認定絵 本士」の取得希望を通して整理した。
先に調査した内容で明らかになったことは、現役保育士が、①保育の専門性として絵本を捉え、知識を持つこ とに価値を置いていること、②就職する以前に絵本を多読しておくことが日常的な保育を運営するための基盤 となると考えていること、③各絵本について深く読み込む機会を持つことが絵本を発端にした遊びの提案力に なると考えていること、だった。そして、保育学生に向けて、①を実行するための保育学生時代の学びとして、
②③を提案していることだった。
後に調査した内容で明らかになったことは、絵本に特化した科目の履修からスタートし、段階的で継続的な絵 本に関する教養を深めた保育学生が絵本制作者の講演を聞くと、ストーリーを追うだけの絵本の読解から、絵本 の絵の意義や読み聞かせの意義を含めた絵本の理解へと深化する、ということだった。保育学生時代に、絵本の 理解を深化させる環境があれば、絵本に対する興味や関心、面白みを発見しようとする意欲へとつながり、絵本 の読み聞かせに対する積極性が生れる。このような、絵本に対する肯定的な往還的態度が保育学生時代に醸成さ れることによって、絵本と遊びとをつなぐ保育活動の提案力を持続させることができると考える。上記のような 持続的な学びを保障することが、保育者養成校には求められる。そのための一つの証として「認定絵本士」資格 の取得を位置づけることができるだろう。保育士資格・幼稚園教諭免許を取得するための学習量を考えると、現 行科目内での「認定絵本士」養成講座開設について検討し、資格取得に向けた環境整備について考える必要があ る。次回は、今回報告した現役保育士と保育学生の絵本に対する認識調査をもとにして、保育者の継続的な学び を支える絵本に関する段階的な教育法について研究する。
文 文献献
・文部科学省(2017) 幼稚園教育要領
・厚生労働省(2017) 保育所保育指針
・内閣府(2018) 第四次「子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」
・国立青少年教育振興機構(2018) 「認定絵本士」養成講座ガイドライン
なお、本稿は、平成 31 年度愛知淑徳大学特定課題研究「保育者の専門性を担保する絵本の知識育成に関する研 究」(研究課題番号 19TT23)の研究成果の一部である。
正誤表
頁
p.63
正誤箇所 文献
誤 内閣府(
2018
)第四次「子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」正 文部科学省(
2018
)第四次「子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」※正誤表は2021年 5月 10日追加されました。