−− &仁一 521
研究ノート
製造固定費の損益計算における計算処理と固定費観(1)
平 林 青 侍
Ⅰ 問題の所在
原価計欝の研究史を−・瞥してみると,原価計算と固定費の問題というテーマが、古くし て新しき研究課題であることをわれわれは.知る。原価計算匿関する研究が開始せられて以 来,この固定費の由題を原価計算の研究が不問紅付すことを許さなかった史実を多くみる からである。いわば固定費の問題は原価計算研究の偶の首石として常に存在していること をそこにみるのである。本小文は,このような重要な研究課題にささやかな省察をくわえ ようとするものであるが,かかる問題がかなり難解な問題であることは明らかであり,こ れを広くまた深く論じつくすことは容易でほない。そこで,われわれほ,原価計算を損益 計算のために用いる場合に.限定し,そこで固定費がいかに計算技術的に処理されてこいるか を考察し,しかして,その計算処理の理論的根拠が奈辺にあるかを究め,そこに・潜在して いる固定費観について論究したいと考える。いいかえれば,損益計算方式に・おいて,原価
計算が固定費をいかに計算上処理しているかという視点,すなわち,計算形式の側面から 固定費の問題について接近し,そこにみられる固定費に対する考え方をまず検討し整理し ょうとするのが本小文の目的である。したがって1本小文は原価計算と固定費の問題につ いて積極的な試論を展開しようとするものではなく,今後それをおこなう上の手がかりと して,従来から論議されている問題点を筆者なりにまとめようとするものである。その意 味で,本小文はすで紅指摘されている論点をまとめたにすぎない。ただ,本小文は後の行 論から明白なように,経営費用論的思考を媒介としてこれらの論点を吟味,整理している ことである。
ところで,固定費の問題を扱益引算における原価計算の計算処理の観点から論じようと する場合,それは全部原価計静と部分原価計算との比較及び言及を不可避ならしめる。と
(1)固定費問題を考える場合,製造の固定費のみならず販売・一・般管理費における固定費
も当然考慮されねはならない。しかし,本小文では論点を明確にするため製造の固定費
のみに.限定する。しかも,ここではさしあたり実際製造固定費と考えて−論を進めたい。
第38巻 第5号 522
−・β2 鵬
いきのは,周知の如く,計算技術的紅ほ全部原価計算が固定費の製品原価への全部的鱒賦 計算を主張するのに対して,後者の部分原価計乳 とりわけ直接原価計静はそれを呑定 しており,両者はきわだった対照をおりなしでいるからである。そこで,全部原価計算と 直接原価計算と紅おいて,固定費がいかように思考され,且つその具現としてそれが計算 技術上いかに処理されているかに焦点を合わせて考察することが,少なくとも今日の段階 にあっては固定費問題を解明する手がかりになると考える。
以下,損益計算における全部原価計算と直接原価計算とを対比し,そこ軋みられる固定 費の計算処理方法の相違を示し,その相違のよってたつ理論的根拠を究め,それら根拠の 起因になっている固定費観紅ついて,われわれほ順次省察したいと考える。
Ⅱ 固定費の計算処理をめぐっての全部原価計算と直 接原価計算との相違とその根拠
周知の如く,全部原価計算と直接原価計算との扱益計算方式の相違ほ次のように示され る。
全部原価封簸 直接原価計算
売上高 売上高
二二凱 二即
売上総利猛 限界利益
一 版売費及び−・般管理費 一 固定費(期間廉価)
営 業 利 益 営 業 利 益 また,いま少しくわしく損益計算書の形式で示すと次のようになる。
盾接原価計諒
×××× 売上高
全部原価部算
売上高 ××××
変動売上原価 期首製品棚卸高 ××
直接材料費 ××
直接労務費 ××
変動製造間接費 ××
計 ×××
期末製品棚卸高 ×× ×××
売上原価
期首製品棚卸高・−××
直接材料費 ××
直接労務費 ××
変動製造間接費 ××
固定製造間接費▼旦ち_」
計 ×××
期末製品棚卸高 ×× 〉く×× 変動販売費 ××
売上総利益 ××× 限 界 利 益 ×××
声23 製造固定費の損益計算匿おける計算処理と固定費観 −−β3−
固 定 費
固定製造間接費 ××
販売費及び−・般管理費
変動販売費××
堅驚喜腎蛋__竺ヱ」_曇 営業利益 ささ
固定販売費及び ・一・般管理費 ×× ××
営 業利 益 ××
さて,計算技術的に・みると,直接原価計算が変動費のみでもって製品原価を構成し,固 定費を期間原価として収益と対応させて.Lいること,そして−,それが故に,売上高から変動 費を接除した限界利益なる新たなる利益概念を設け,これをいわゆる経営指導の標識とし
て.認識しているところに,従来のいわゆる伝統的な全部原価計算と対比して.大きな相違が あり,従って.特色ともなっている。このことは,−・般に従来の伝統的な全部庶価計算が,
直接費を賦課計算し,間接費を配賦計算することを通して∴終極的に原価費目す、ぺてを製品 に負担せしめるといういわゆるabsorption costingよりの快別を意味して.いる。いいか えれば,最終的に製品単位当りいくらというような金額の大きさで示されるa single all−
▲nCl11Sive unit−COSt fig11reの形をもつ全部原価計魯を批判し,新しい計算形式を提示し たのが直接原価計算であると考えられる。
要約すれば,製造固定費を全部原価計算が固定製造間接費と把え,製品原価であとるす るのに対し,直接原価計静がこれを期間原価と把え.,それにふさわしい計算理論と処理方 法を展開しているところに,ニつの原価計算の対立があるといえる。では,計静技術的に みて直接原価計算が従来の全部原価計算とはまったく対立するようなかかる固定費の製品 廉価への不算入,しかして,期間原価として計算処理する理論的根拠はいかなるところに
あるのであろうか。また,そこでほ.どのような畳定費観があるのであろうか。
ところが,この計算処理の理論的根拠を探る場合に二つの方法のあることが知られてい
(2)
る。その−・つは,計算の合目的性の観点からであり,いま−・つほ,計算の合理性の観点か らがそれである。前者ほ,例えば,前に・一・言した限界利益が算定されると,その分析・利 用によって利益計画または利益管理の遂行が便宜甚なる,あるいは,変動予算を編成する 基礎を与える,更には,変動費ほ標準で固定費は予算匿よって管理することができるので原
価管理の思考と結びつく等々,固定費の製品原価への不算入が近代経営の要請に・合致し合
目的であるという観点である。いわば,全部原価計算と対比してより合目的に経営の要請 に応える計算処理であるという指摘粧すぎず,帰するところ両者の比較・優劣偏に陥入っ
(2)久保田音二郎著『喧按標準原価計削昭和40年,第3章,参照。
第38巻 第5号 524
ー β4 −
てしまう危険性をもっている。しかし,かかる優劣論でもって固定費の期間原価としての 計算処理論拠とされてはならないと考え.る。そこで,われわれほ固定費の製品原価への不
算入・期間費用的把捉の理論的根拠を計算の合理性の観点から究めなけれはならない。い いかえれば,そ・のような計算処理には合目的性はともかく合理性が認められうるのかを問 題にしなければならない。
さて,その場合,いわゆる「原因発生主義原則」(Verursachungsprinzip)がこれら
(S)
究明のカギになると筆者鱒考える。その理由は,われわれの問題ほ固定費の製品原価への 算入・不算入の合理的根拠を論究するのであるが,そのさい固定費は.「製造」の固定費であ
ること紅限定していることからその固定費が製品原価を構成することはいうまでもない。
しかる把り その固定費がなにゆえに製品原価とされずに期間原価としで計算処理されるか の合理的根拠が問題となる。しかして,このよう紅問題点が集約されると,原価はそれを 発生せしめた製品との関連において.把握すべきであるという原価計算の基本原則セある
「■原因発生主義原則」が患要なものになると考えるのである。
さて■,直接原価計算はこの「原因発生主義原則」に.かかわらしめて,固定費を期間原価 として認識する論拠をつぎのように一・般に論じでいる。すなわち,個々に・作られた製品と 発生した固定費との問にほなんらの直接的な因果関係は存立しない。製品は−・般に限界費
用草たほ比例的原価で十分糖蜜性のある計算ができるのであって,むしろ,固定費の個々
(4) の製品への配賦紅は自由裁量が残る。それゆえに,全部原価引算はこの見解によれば終極
的にはまったく実行し難きものとなる。われわれが文字通り間接替であるものを配賦しよ うとすれほ,経営における生産の連続性を否認することであり,また,あれわれが固定費 を配賦計算することによって人為的に比例化するならば,固定費の性格を否定することに なる。したがって,原価部門または.製品の全部原価ほ原因と結果との間の,また,手段と目 的との間の実際上の関連に・−・致しないのである。にもかかわらず,それを実行しようとす
(6)
れほ,それは間違った一つのイメー・汐を与えることとなる。かくして,固定費の製品原価
(3)久保田教授は直接原価計算の合理性を究明する場合,(1)消費原則,(2)収益費用対応原 則,(3)実現主義原則,(4凝営費用理論との関係の4点が少なくとも研究課題となり,そ
れを解明することに.よって,その合理性が明らかに.なると論じられる。筆者もそれには 同感であるがゆえに,本小文ではその研究成果をふまえた上で,更に扱益計静紅おける 計算処理という問題に限定した場合の計算技術上の合理性を考えるので,「原因発生主 義原則」のみを問題にするのである。久保田音二郎著,前掲番,第3章参照。
(4)Plaut,Hg.,Unternehmenssteuerungmit Hilfe derVoll−Oder Grenzplankoste・
nrechnung.ZfBl.1961.S.,471
(5)Riebel,P.,Das Rechnenmit EinzelkostenundDeckungsbeitr去gen.ZfhFい1959
S.213
525 製造固定費の損益計算における計算処理と固定費観 −&5−一
への算入は否定され,期間原価として把捉する根拠が生起すると論じるのである。
さて,この見解は,製品と原価との問に直接的関連があれば製品原価に配賦計算する が,そ・のような関連にない原価は「原因発生主義原則」を嘩守するがゆえに,期間原価と
して把握しようとするものである。しかし,それでは,なにがゆえに固定費が製品と無関 連であるとするのか,それについては言及されていない。だが,これが明らかにならない 限り,この計算処理の存立理由ほ稀薄であると考える。そこで,論点をそこへ進めるわけ であるが,その前に後の行論の上からも必要であるので,固定費は製品と直接的関連に・あ
るという論者の見解を省察してこおく必要がある。
その一人ゾソネフ.‡ルト(E.Sonnefeld)に・よれは,溶接原価計静は,固定費の個々の 製品または製品群へ・の配賦には自由裁蟄が残るとして断念して.いるが,間接費を配賦する
ことの方が原価を固定,変動に.区分することより容易であり確かである。また,一定琴品 の製造過程ではある一億の設備を必要とするがゆえに,固定費と製品・給付との問には直接 的関連が存立する。従って「配賦率は時代おくれである」という言贋ほ−・つの空虚な「合
(¢)
言葉」となる,と論じるのである。
かくして,固定費そのものの解釈・理解が製品との直接的関連有無の論拠を導きだして いるようである。いったい,いかなる固定撃観でもって・,十方ほ固定費の製品無関連を,
他方は有関連をそれぞれ主張するのであろうか。つぎに考えてみなければならない問題点 である。
Ⅱ 固定受の計算処理を規定する固定費観について
周知の如く,固定費に対する認識ほ最近急激に深まりをみせ,それがゆえに,原価計静 の上において新たなる問題を惹起せしめている。特に,その中にあうて固守費問題に・対す
るアブロ・−チ・に賀的な発展のあることが指摘される。すなわら,以前にあっては,固定費 問題解決の手法ほ,ある構造が与えられている企業経営において必然的に発生する固定費 を与件とし,そ・の上で操業度政策なり利益計画を考え,更には分権管理上の利益貴任を問
うという性格を基本的にもっていたと考えられる。いいかえれほ,そこで把握された固定
(6)Sonnefeld,Eい,DerMythosvonden fixen Kostenund diebetriebswirtschaft−
1iche LeistungS−Abrechn11ng.ZfB.1962.,SS.46−53・なお,この論文匿対しては,メ ディケの反論がある。Medicke,W., Der Mythos vonden fixen Kosten und die betriebswirtschaftliche Leistungs・Abrechnung Eine Xritische Betrachtung z dem gleichnamigen AufsatzVonDr.Ernst Sonnefeld′ ZfB・1963 Nr 2
526
算38巻 第5号
−β6 −
費を前提とするのみで,与件である固定費それ自体に横磯的に関与し分析し,そして,逆 に計算・計画するような思考は欠けていたといえる。
それに対して,今日の立場ほ.その間定貿を発生せしめる根源との関係に・おいて固定費を 把握するところに特色がある。いわば,以前の立場が固定費所与一国定費回収という固 定費処理の視点であるのに対し,固定費の内容そのもの紅積極的に立ち入り,最終的には
その計画に.までタッチサるというところに今日の立場があるといえる。これを別言すれ ば,固定費の平面的一躍列的な把握から立体的一級造的な把握への移行と規定できる。そ して1そのような所産として,固定費を経営能力費または経営準備費として把える見解が 生れているのである。しかも,その上にかかる固定費が経営者の主体的な処理ないし意思 決定によって惹起するところから,固定費は経営政策または経営方針によって変動するも
(7)
のとさえ認識されているところに思考上の大きな特質がある。それ放に,固定費は多くの 影響要周から発生するものであり,一儀的にある一つの剋品の製造というごとき影響要因 によって生起したものとは断定できない性格をもつに至る。しかして,このことは計算技 術的紅いえば,製品との−・義的関係が存立しないことであり,固定費の製品への配賦計静
をするところの適切な基準がなく,固定費はいわゆる期間原価として計算処理をするとい う論理に結びつくわけそある。従来便宜的紅配賦計算していたものが,かかる固定費の意 味内容を理解することによってそ・の計算処理を改変したものと考えられる。
原価計静の基本原則である「原因発生主義原則」に依拠して固定費の製品原価への不静 入を主張する論拠にほ,極めて自明のことでほあるが,かかる固定費観が潜在しているも のと考える。別言すれば,固定費がある−・定期間の操業度の変化に対して固定的であると
いう平面的・現象的把握から,固定費の発生根源にまでさかのぼって,固定費を経営能力 費ないしは.経営準備費として立体的・実質的に把握したところに,直接原価計算の存立基
盤があるといえる。
それでは,固定費と製品との間に直接的な原因・結果の関係があるとして「原因発生主 義原則」をよりどころにして固定費の製品原価への配賦計算を主張する論者の一人,ゾン
ネフ.ェルトの固定費観はどうであろうか。彼は,固定費・変動費という区分はなにも原価 要素から始める必要はない。常に固定的であらねばならなし、ものは,なんらないからであ
る。それに,固定・変動という区分はしばしば製造部門の構造と組織及び計算制度に依存 け)小林靖雄稿『一団定費問題接近の視点』『会計』第85巻第1号,122貫参軌 同著『固定
費の管理」昭和40年,欝1・2章参照。
527 製造固定費の損益引算常.おける計算処理と固定費観 −β7−
するものであって,例えば,第1製造部門の固定費部分が第2製造部門では変動費に・なっ ていたりするのである。従って,固定費・変動費という按分は個々の部門において非常に しばしば相異っているし,その上,種々の部門段階に.おいて.変化するのである。それ故 に,不変の額で「非利用費」としてあらゆる操業度にあてはまる経営準備費は決して存在
(8)
しないと彼は論じている。急に.「非利用費」という表現がみられるので∵見,当惑する が,後に明らかに.なるように彼はここでいわゆる経営能力費または経営準備費としての固
定費に.性格変化のあることを指摘しているものと筆者は推察する。そして,極言すると,
固定費を変動費的紅認識しようとしているところ紅彼の固定費観の特色があると考える。
そこでは,究極的に固定費ほ存在せず,仝原価が変動彗と認識されるので,それが依存 しているものを基準にして配賦計算は可能であり,それがゆえに期間原価としての計勢処 理は肯定できないという論理もそれなりに認められる。しかも,留意すべきは,ゾンネフ ェルトも,固定費の内容に積極的に立ち入り,固定費の発生源泉について十分な究明をし た上での上記のような立場をとっていることである。
かくみると,直接原価計静と仝部原価計勢とほ同じ監考方向をとりながらも,その固定 費観に.ついてほ微妙に.食違っていることをわれわれは.みる。その原因はどこ紅あるのであ ろうか。それは,固定費と利用費・非利用費との関係について両者が異った理解をしてい るからだと筆者は考える。少なくともそこにポイントをおいてみることが解決のカギだと 考える。
ところで,この利用費・非利用費という忽念ほグーテンペルタ乾よって完全なもの紅さ れたといえる。もっともギB,ムベル(R.Giimbel)によれば,ここ紅至るまでに多くの論 者によってこれが論究されているという。例えば,ジュマーレンバッハ,ビュヒァー・,シ
ェアー・,プァイザ」−−・,等に.その先駆的研究がみられし,1930年代からはローレンツ,プレ
(9)
ッドゥツ,シュナイダー,等が真庭研究をおしすすめ椿密化しているのである。従って,
グーテンペルクほ.これら諸研究の成果をふまえた上でその理論を展開していることはいう までもない。
さて,それほともかく,いま,グーチッベルクに・よると,利用費・非利用費の概念を次 のよう紅論述している。
(8)Sonnefeld,E.,a.a。0・,S.46.
(9)G也mbel,R.,Die Bedeutung der Leerkosten fur die KostentheorieLZfbF.
1964.SS一.65−72.
欝38巻 第5号 528
Ⅶββ −
設備がその能力の−・部しか褒求されないとき紅ほ,その利用されない能力に.も固定費は 成り立ら,この費用をグーテンペルクは非利用費という。それに対して,そのときどきの 利用された能力の費用をグーテンペルクは利用費という。従って,いま,固定費をQ,非 利用費を軋,利用費をK拍とすると,Q=Ke+Ⅹ乃という算式が成立する。すなわち,K拘が
(10) ゼロならば全固定費は非利用費であり,逆に‰がゼロならば全固定費は利用費となる。そ
れゆえに,このようなことから第1にり 固定費は操業度変化に伴って非利用費になり,ま た,時には利用費になるがよう紅,その性格の変化することが理解される。第2に,この 論述の範囲では,グーケンペルクが−・定の固定費額を惹起せしめるある所与の経営能力を 前提に・し,その能力の利用度合が利用費・非利用費を規制するということである。第3
(11)
紅,既に別稿で指摘したところであるが,グーケンペルクがここでいう非利用貿を固定費 に,従って,利用費を変動費的に理解しようとしている態度が看取できることである占そ の理由は,儀述でもふれるが,要するに彼が固定費の発生原因を指摘しながら,実ほ非利 用貿の発生原因を指摘して−いるからである。
ともあれ,いまこのような諸点恕考慮に入れて,ゾンネフェルトの既記の論述を吟味し てみると,彼は経営準備費を非利用費と解し,それがあらゆる操業度において不変のまま 存在することはありえないと論じて−いるわけで,それほ本来固定費である経営準備費(土
井利用費)が操業度の変化に伴ってト利用貿に性格変化することを彼は示唆しているも申と
推論できる。従って,その経営能力が完全紅利用される状態,別言すれば完全操業度では 非利用貿という経営準備費は利用費となり,皆無となる。そして,′こ.れをグーテンペルク 的に解レて,利用貿と変動費とを同一・祝すれは,完全操業度でほ固定費は変動費(=利用 費)化し,製品原価どして.計算処理しうる根拠が,その計算技術上の問題ほともかくとし
て生れてくる。ミッヘル叩い Micbel)が,直接原価計算は完全操業度でほ役立ちえない
(12)
という論述も,このように考えると,そ事では全部原価計算と直接原価計算とが計算処理 † の立場は別であるが,結果としででてくるものは同じ計算数字となるので,それなりに理 解できる主張である。少なくとも,荷言するようであるが,利用資は変動費的扱いが可能 であり,それゆえにそれを製品との直接関連ありと認識して製品原価へ算入する論拠は,
(10)Gutenberg,E.,GrundlagenderBetriebswirtschaftlehre Bdり1 Die Produktion 6・Auflい1961りSSい250「251・高札溝口共卿経営経済学原理』昭和32年,258頁。
(川 拙稿,「固定費と非利用費とについ■て」『六甲台論集』第9巻第3号参照。
(12)Michel,H..Grenzkosten und OpporItunit云tskosten。ZfbF1964.SS.、82−85.
529 製造固定費の損益計算庭おける計昇処理と国産牽観 叫βク ー 計琴の煩雑性ほともかく是認される0
しかし,固定費の非利用費部分発生の場合これをどう考えるかは,これだけではいまだ 未決の問題である。特にグーテンペルクがこの非利用費こそ固定費の薗定費と考えている
よう紅察せられるので,その換討ほ重要である。
グーテンペルクによれば,この非利用費の発生源泉である所与の経営能力の未利用とい う事態は,多くの要因から惹起するものである
有している経営能力に・は,いまは未利用だが,将来利用するとして経営者の予想ないし期 待(EIWaItung)にもとづくものが入っていることである。従って,非利用費にほ企業の 将来の活動を予想ないし期待しで,経営方針としてノ経営者が主体的紅意志決定をするとこ
(1S)
ろから生じるものが多いのである。なお,余言であるが,欝1に,グーテシ云ルクはかか る非利用費の発生原因を固定費の発生原因として論述しているところ些,既述のように非 利用費のみをグL−テンペルクほ固定費と解しているのではないかという疑念が生じるので
ある。第2に,いずれもグ−テンペルクの非利用賀理論をよりどころとしているあけであ るが,ギュムベルは非利用費の発生要因を,A)生産諸要素の生産への不完全な適用と,B)
生産諸要素の準備及び投入事情について.の情報の不備に大別し,これらは帰するところ生
(14)
産諸要素の不調和にもとづぐものであるとしている。また。ガイベル(J.Geibel)ほ非 利用費を,a)畳的・時間的そして強度による適応から生じるものと,b)経営能力の構 成上の不調和及び生産プログラムの変更から生じるものに大別している。そして,彼ほ,
これら非利用費を,(1愉去可能にして意図したもの,(2)除去不能にして\意図したもの,
(3)除去不能に.して意図しないもの,t4こ除去可能にして意図しないものに,それぞれ分類
(15)
している。
さて,本題に戻って,こ.のよう忙して非利用費の発生要因の基盤が判明すると,さしあ
たり二つの点が指摘される。第1は,これら非利用費の除去は不可能であるというこ.とで ある0この襲用は経営が生産をする上において生産技術上必要与するものであり,たしか に直接に給付に関連するわけではないが,それらが準備されていないと生産上支障をきた す性質のものである。欝2は,こ.の結果として非利用費の予静・計画が可能となることで u3)Gutenberg,E.,a。a.0.,SS.252−258
(14)Giimbel,k.,a.a.0.,SS79−81
u5)GeibellJ・,Diebilanzielle Behandlung von Leerk?SteninXostentheoretische Sicht‖ZfB。1965.SS.237・q240.宮本匡茸稿,「 無効原価の一つの分類」『鷹巣経恩』
雰25巻第11号参照。
欝38巻 第5号 530
一9βり−
あるょすなわち,予算として編成され標準化が可能となる。
かくみると,非利用費の存在は否定できない。藩接原価計算はかかる非利用費の存在を いちはやく認識し,それに対応した計算処理方法であると考えられる。いいかえれば,直 接原価計静もまたできる限り原価を変動費的に解したいのであるが,そのよう紅解しえぬ 復雑な要因から招来する原価の発生があり,しかし■て製品との直接的関連も不鮮明なの で,本来製品に配賦計算すべきものを的確ではないがTimebasisで把え/て期間原価とし て計算処理しようとする立場であると察せられる。全部原価計算に・おいても,また直接原 価計算紅おいても,固定費を変動費的紅考えうると洞察していることは共通している。た
だ,後者が,ガイベルもいう如く,除去不能に.して意図した非利用貿としての存在を認め
ていることである。すなわち,生産過程に組み入れられ七いるが未利用であり,しかも技 術的・法律的あるいは契約上の理由から除去不可能であるもの,そして.,また,将来の生
(16) 産活動に必要とされて除去不能な準備生産能力から生じる非利用費の存在に直接原価計 勢は鋭敏であ卑わけである。ここに両者の固定費観の−・らの相違があるものと考えられ
も。そして,そのことが計算処理上の大きな相違・対立となって顕現しているのである。
Ⅳ 結 び
われわれは,損益計算紅おける製造国定費の計静処理紅ついで二つ立場を吟味し,その
」っの新しい立場である固定費を期間原価として把握・計算する思考の由来について考え てみた。そして,適切ではないが非利用費の形態をとる固定費を期間原価として把握・計 算する立場の存在を,その間定費観からみて肯定できるものと考えた。
しかし,更に考えてみると,本来製品原価である固定費が製品原価を構成しないという ことは何を意味するものであろうか。いったい,そのような固定費が原価性を有している のであろうかという疑念が生じる。特に,この非利用費としての固定費ほ,極端な場合そ の期間に製造諸活動がなく転化させる製品・給付がないのにもかかわらず発生するという 事態は十分ありうる。だとすれば,かかる場合にそれを原価として把捉・計算すること ほ是認されるのであろうか。期間の「原価」である限り,当然価値転化すべき反対物が
あるにもかかわらず,それについぞほ判然としないものがある。ここに大漕な問題点があ
u6)Geibel,J…,aり a。0.,S.242l
531 製造固定費の損益計静匿おける引算処理と固定費観 −− 9ユー
(17)
るといえる。従って,固定費の期間原価としての計静処理は,損益計算が内部的な要請の ものである場合,とりわけ短期損益計算であればその実施適用には問題は少ない。しか し,かかる計算処理法を決算損益計算として外部的財務諸表との関係払おいて:適用しよう とすると,疑問の余地が残ると考えられる,しかして,これらの問題の検討が残されてい るわけである。
しかし,ともあれ,自明とされている固定費の損益計算紅おける二つの計算処理法の問 題を,固定費観,とりわけ利用費・非利用費に対する理解という視点から整理したこと は,この利用費・非利用費概念が経営費用理論の範疇で問題となっている概念であること から,経営費用理論との結びつきがうかびあがると考える。もらろん,こ.れをもって原価 計穿と経営費用理論との結合がなされたとは考えてはいない。しかし,少なくとも,固定 費の損益計算における計算処理の問題を考察するに・さいして,経営費用理論の研究成果が
重要な役割をほたしてこいることは事実であろう。との問題については虜に稿を改めて論じ てみたいと思う。 (1965.11リ10)
且Ⅵ この点を久保田教授は鋭く反問し,期間原価の原価性に疑念をもっておられる。久保 田音二郎著,前掲書,第11葦,また,一非利用痩の原価陰についてガイベルは否定的な見 解をとっている。Geibel,J.,a.a.0.,ss.240−247.