個別研修「電子顕微鏡技術の修得」中間報告
三重大学工学部工学研究科技術部
○藤田 由紀子
[email protected]
1.はじめに
三重大学 工学研究科 技術部では、現在就いている又は将来就くことが予想される職に必要な知識、
技術などを習得させ、業務遂行に必要な能力、資質等を向上させることを目的として、個別研修を申請 することができる。そこで、工学部だけでなく、多くの研究室が利用する電子顕微鏡の専門知識と技術 修得を目指して、電子顕微鏡施設協力のもと
2015
年11
月から継続している本研修の進捗を報告する。2.電子顕微鏡とは
光を利用する光学顕微鏡では光の波長より小さい構造の観察は難 しいが、電子顕微鏡は、光の代わりに波長の短い電子線を利用するた め、数
nm
程度の構造まで観察することができる。電子顕微鏡には、透過電子顕微鏡(TEM)と走査電子顕微鏡(SEM)
の
2
種類がある。TEMは主に試料の内部構造を観察するもので、試料を透過した電子線を目で感知できるよう、蛍光スクリーンに 当てて可視像に変換して観察する。SEMは試料に電子線を照射、
相互作用で発生した信号を検出、表面形態の観察に用いられる。
3.研修内容
3.1 TEMの基本操作
観察に際して、焦点を合わせるだけではなく、電子 線がレンズの中心を通るよう調整及び装置の分解能 が確保できるよう補正、軸を合わせる必要がある。
不適当だと、本来粒子状構造のものが楕円状あるいは 線状構造に、またある点は不足焦点だが、別の点は 過焦点に観察されるなど、焦点が合わず、正しい情報 を得ることができない。
高倍率では、非晶質薄膜(支持膜など)にみられる 粒状構造に方向性が無いことを確認する。非点がある 場合、不足焦点と過焦点において、流れの方向に
90
゚ のズレがある状態となる(図2.
矢印)。3.2 電子染色
試料に電子線を照射すると、構成する原子によって電子は散乱する。その程度は原子、厚さ、密度、
結晶性などに依存する。原子番号が大きい原子ほど、散乱角度が大きいので、対物レンズ絞りによって 遮られ、暗く見えることが知られている。電子染色は、電子線に対してほぼ無色透明な軽元素(C, H, N,
O
など)で構成された試料にコントラストを与える操作である。通常の染色(ポジティブ染色)は、電子密度が高く電子線が透過しにくい重元素を特定の構造に反応 させることによって、散乱コントラストを高める。
それに対して、ネガティブ染色は試料の周辺、間隙に染色剤が入り込み、 試料そのものは電子密度 が低いため電子線が透過しやすいことで、陰影として観察される。但し、観察しているものは、試料が
図
1.
電子線と試料の相互作用図
2.
支持膜における非点補正 図2.
非点なし(上),
非点あり(下)染色剤と接触している表面 であり、試料の内部構造を 反映したものではない。
ここでは、既にエポキシ 樹脂包埋された動物組織を 薄切、酢酸ウラン(核質、
リボソームなどを染色)と クエン酸鉛(グリコーゲン、
細胞膜などのコントラスト を高める)で二重染色
(図
3. C)
、並びに基盤展開(
≈ dip coating
)による、フォルムバール膜を作製、
銅グリッドに貼りつけて、
親水化処理後、ポリスチレンラテックスをリンタングステン酸で染色した(図
3. B)
。金属微粒子は、有機溶媒中に分散させ、支持膜を貼りつけグリッドに
1, 2
滴のせ、乾燥後、直接観察した(図3. A)。
3.3 超薄切片作製
TEM
鏡体は高真空であるため、通常は試料をそのまま観察することはできない。そこで、超薄切片の 作製は最も広く用いられている、試料を固定、脱水、樹脂包埋した後、ウルトラミクロトームで100 nm
以下の切片を作製、電子染色後、観察する方法である。なるべく生きている状態を保持するため、化学固定もしくは物理固定をする。ここでは、植物組織に 対して、化学固定を行った。動物組織とは違い、細胞間隙に空気を含むため組織が固定液中に沈まず、
内部への固定液の浸透が抑えられるので、減圧浸透処理を施した。以後、動物組織と同じ処理(組織を 埋め込む樹脂
epon812
は疎水性のため、エタノール及びアセトンを用いて脱水、80 ~ 90 nm
の切片作製、酢酸ウラン及びクエン酸鉛染色後、観察)を施した。
グリッドに切片を回収出来たことを 確認したかったため、電子染色前に観察 したものを後日染色したところ、前述の 通常処理の試料とは別のコントラスト が観察された(図
5.
)。物質に電子線を 照射すると、電子線は原子核または電子 との静電気力(斥力)による相互作用に よって、エネルギーを熱または分子の 解離、崩壊、架橋など、一部損失する。図
3.
重元素ならびに電子染色した軽元素試料のTEM
観察Aa,
分散(金属 微粒子); Bb, ネガティブ染色(ポリスチレンラテックス); Cc, ポジティブ染色(動物組織)図
4.
植物細胞の超薄切片A,
サクラ葉; B,
アジサイ葉; C,
植物細胞(模式図)図
5.
電子線照射の影響(C, 葉緑体)A, 通常処理; B, 照射後染色したがって、差異は電子線照射により試料の組織構造が変化したことによると推察される。電子染色は、
特定の構造に重金属を結合させること から、切片回収は、光学顕微鏡で確認、
電子染色する予定の試料は、必ず染色後 に電子顕微鏡観察しなくてはならない といえる。
今回は“超薄切片作製”を行うことを 目的としており、全ての植物組織の細胞 を減圧浸透処理と動物組織と同じ固定、
脱水及び樹脂包埋によって観察できる ということではない。また新鮮な固定液 を使用する、減圧の程度など、必ずしも 最適条件にて行ったもしくは検討した ものではなく、固定液、樹脂浸透が十分 でない、技量に因るところなど、多くの 課題が残る試料、結果である(図
6.
)。3.4 外部研修
第
27
回電顕サマースクール2016
平成
28
年度東海・北陸地区国立大学法人等技術職員合同研修(生物・生命コース)日本電子㈱ SEM 観察のための生物試料前処理作製セミナー及び 電子顕微鏡試料作製セミナー・ミクロトームワークショップ
3.5 発表
総合技術研究会 2017 東京大学 ポスター発表参加;
個別研修「電子顕微鏡技術の修得」報告
3.6 その他
日本顕微鏡学会主催 電子顕微鏡技術認定試験
2
級技士(図7.
) 学内共用SEM
及びEPMA
のごく基本的な操作習得4.おわりに
試料作製、観察だけでなく、写真に対する解釈、装置のメンテナンス、
トラブルシューティングなど、研究活動の一助となることができるよう、
本研修を継続していきたい。
5.謝辞
電子顕微鏡部門 小川 技術専門員をはじめ、ご理解とご協力を賜る先生方並びに工学部・工学研究科 技術部の皆さまに感謝申し上げます。今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
参考文献
1)(社)日本顕微鏡学会 電子顕微鏡技術認定委員会編 電顕入門ガイドブック 改訂版 国際文献印刷社 2)第 27 回電顕サマースクール
2016
配布テキスト3)よくわかる電子顕微鏡技術 医学・生物学電子顕微鏡技術研究会編 朝倉書店 4)医学・生物学電子顕微鏡観察法 日本電子顕微鏡学会関東支部編 丸善
図
6.
植物組織の超薄切片A,
イチョウ葉; B, サザンカ花弁; C, ミカン表皮; D, エノコログサ小穂図