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エネルギーフィルタを装備した電子顕微鏡による 薄膜磁性材料の元素分布像観察

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Academic year: 2021

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特集

電子・イオン技術を用いた表面観察・分析の新展開

エネルギーフィルタを装

した電子

薄膜磁性材料の元素分布像観察

ElementalMappingofMagneticThin

EquippedwithanEnergyFilter

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■■■■●・1 ●●二l ンく′0 ;○ エネルギーフィルタ型電子顕微鏡

微鏡による

FilmsUsinganElectronMicroscope

木本浩司*

宇佐美勝久*

′藤代野 営′ 50nm +打み才∬J7柁0わ 〟〟ねぴんね〟 Lな〟〝子才 _㌔ 鱗二 一_ 絆 CoCr合金薄膜の 通常の電子顕微鏡像 屋久四男** y〃′∫〟0㍑/z才sα

成重真治***

s加わg肋rゐ/ぬビ (a)Coの元素分布像 (b)Crの元素分布像 エネルギーフィルタを装備した電子顕微鏡による元素分布像観察 エネルギーフィルタによって選択した電子を観察することにより,通常の電子顕微鏡像からは得られなかった元素分布像〈(a)と(b)〉が可視化できる。

コンピュータ事業の基幹製品の一つである磁気デ

ィスク装置は年率60%の勢いで鳥記録密度化が進め

られており,ビット長(1ビット当たりの長さ)はす

でにサブマイクロメートル領域に達している。高記

録密度化の進行に伴い,磁気ヘッドや記録媒体に用

いられている薄膜材料ヰの微細構造が磁気特性に与

える影響が無視できなくなってきており,材料中の

元素分布を高い空間分解能で評価解析する技術が切

望されていた。

このようなニーズにこたえて,TEM(透過電子顕

徴鐘)とエネルギーフィルタとを組み合わせた装置

(以下,エネルギーフィルタ型電子顕微鏡と言う。)に

よる,高分解能の元素分布像観察技術を開発した。

高い輝度を持つ電界放出型電子顕微鏡の利点を生か

し,約1nmという高い空間分解能で1元素当たり数

十秒で元素分布像を取得することができる。その結

果,従来は識別することのできなかった多層膜や磁

気記録媒体中の元素分布を明瞭(りょう)に観察する

ことが可能となった。同技術は半導体材料や構造材

料など他の材料開発の分野でも,広く役立つものと

其朋寺できる。

*日止製作所日立研究所 **l_J市製作所ストレージシステム事業部 ***日立製作所ストレージシステム事業部工学博士 63

(2)

810 日立評論 VOL.77 No_ll(1995-1り

n

はじめに

コンピュータ事業の基幹製品の一つである磁気ディス

ク装置は年率60%の勢いで高記録密度化が進められてお

り,ビット長はすでにサブマイクロメートル領域に達し

ている。これらの装置は磁気ヘッドや磁気記録媒体など

の部位に薄膜材料が用いられているが,高記録密度化の

進行に伴い,材料中の微細構造が磁気特性に与える影響

が無視できなくなってきた。例えば,磁気ヘッドに用い

られる多層膜や磁気記録媒体の場合,膜厚や膜中の元素

分布が,出力やノイズなどの磁気矧生ひいては製品の性

能に大きく影響する(図1参照)。そのため,高記録密度

化をさらに推進するためには,材料の微細構造や元素分

布を評価解析する技術が必要である。

これら材料開発分野からのニーズにこたえる評価解析

技術として,分解能の観点からはTEMが有効である。従 来のTEMでは,原子種を識別することは困難であった が,エネルギーフィルタと組み合わせることにより,ナ ノメートルオーダの高い分解能で元素分布像を得ること ができる。

ここでは,エネルギーフィルタ型電子顕徴鐘による元

素分布像観察の偵埋について述べた後,磁気ディスク装

置関連材料に適用した結果を報告する。

元素分布像観察の原理

2.1試料と電子線との相互作用

電子線と試料との相互作用を図2に模式的に示す。試

料に入射した電子線は,元素とさまざまに相互作用した のち透過電子として観察される。透過電子の中には,試 料内部でわずかにエネルギーを損失した電子(ロス電子) とエネルギーを失わない電子(ゼロロス電子)とがある。 ロス電子の中でも試料の構成元素の内殻(コア)電子を励 起した電子はコアロス電子と呼ばれ,失ったエネルギー は元素固有の値を持つことが知られている。したがって, 透過電子から所望の元素のコアロス電子だけを選択して 結像することにより,その元素の分布像が観察できる。

この相互作用は原子レベルであることから,元素分布像

の分解能もほぼそれと同レベルであり,きわめて高い。 しかしその一方,コアロス電子の強度はたいへん弱いた

め,入射電子線を従来よりも1nO倍以上高い密度で月綿け

る必要がある。 2.2 装置の概要 エネルギーフィルタ型電子顕微錨の装置の模式図を 64 構成要素 磁気ヘッド 磁気記蕃責媒体 微細構造 多層膜 膜厚:数nm∼数十nm 膜 厚 原子オーダの 平坦性 CoCr系合金薄膜 多結晶体 粒界近傍の元素偏析 組成分離 磁気特性 保磁力 出力 ノイズ 図l磁気ディスク装置関連の材料の微細構造と磁気特性 磁気ヘッドなどに用いられる多層膜では膜厚や膜の平坦(たん) 性が,磁気記録媒体では膜中の元素偏析が,それぞれ磁気特性に大 きく影響する。 図3に示す。従来型の電子顕徴錆に,エネルギーフィル

タが付加された全体構成を持つ。試料から出射した透過

電子は,対物レンズなどによって最大100万倍程度まで拡

人され,電子顕微鏡像となる。この像には透過電子のす

べてが含まれているため,このままでは元素を識別する ことはできない。

次に,電子顕徴鏡像はエネルギーフィルタに入射し,

磁場セクタ(電子分光器)でエネルギーの差によって電子 ノ

\1 セセロス電子 エネルギー:上り \、 r\ ● M稚 L痕

了)

町費〔

/′ ̄■■■-\ K穀● 元素A ● 元素B/ r一 元素Aによる 元素Bによる コアロス電子 コアロス電子 エネルギー:g--一+g.1エネルギー:E‖-+吉日 入射電子 エネルギー:上■‖ 試料 透過電子 図2 試料と電子線との相互作用の模式図 入射電子の一部は内殻(コア)電子を励起し,エネルギーの一部を 失ったコアロス電子となる。エネルギー損失量』缶およぴ』丘は元 素固有の値を持つ。

(3)

エネルギーフィルタを装備した電子顕微量削二よる割莫磁性材料の元素分布像観察 811 試料 対物レンズ 電子顕微鏡億 電子顕微鏡 エネルギーフ ィルタ 磁場セクタ (電子分光器) エネルギー 選択スリット エネルギー フィルタ條 (元素分布像) カメラ

ヰA元ミ軒元素

試料

司ト

電子顕微簸像 A元素の B元素の コアロス電子 コアロス電子

外史白

A元素の B元素の 分布像 分布條 図3 エネルギーフィルタ型電子顕微鏡の模式図 電子分光器で透過電子がエネルギーの差によって振り分けられ る。目的とする元素のコアロス電子がエネルギースリットで選択さ れ,元素分布像がカメラによって検出される。 が振り分けられ,エネルギー ロス スペクトルが形成さ れる。ここで,エネルギー選択スリットにより,目的と する元素のコアロス電子を選択する。その結果,選択さ

れたコアロス電子による像,すなわち元素分布像をカメ

ラで撮影することができる。選択するコアロス電子を変 慰すれば,l石卜領域の他の元素分布像が取得できる。 これらの観察では,エネルギーフィルタの性能もさる ことながら,電子顕微鏡自体の性能が元素分布像の空間

分解能を左右する。高分解能な元素分布像の観察のため

には,輝度の高い電子顕微鏡を利用して十分な強度を得 るとともに,収差係数の小さな対物レンズを使用する必 要がある。そのため,高い輝度を持つ電界放山型の電・了・ 顕微鏡(HITACHI"Hf㌧2000”,点分解能0.23nm)とエ ネルギーフィルタとを併用することにより,高分解能で かつ十分な強度で元素分布像を観察することができるよ うにした。

適用例

3.1多層膜の膜厚および平坦性評価

磁気ヘッドなどに用いられる多層膜に通用した観察例

を図4に示す。NiとFeからなる合金(パーマロイ)の閃に

きわめて膜厚の薄いCr層を積み重ねた多層膜を断面か

ら観察した。磁気材料として用いられる多刷莫は一般に Cr,Co,Feといった偵子番号の近い金属の組合せとなっ ている。そのため従来の電子顕微鏡像では,積み重ねら れた各層を識別することが困難であった。一九 エネル

ギーフィルタ型電子顕微鏡によって得られた元素分布像

では,Cr層だけが明るく明瞭に観察されている。最も蒔

い約1nm(5,6原子層に相当)のCr層も明瞭に観察され ており,ナノメートルオーダの空間分解能を持つことが わかる。観察された試料の膜厚は,他の手法による平均

膜厚の計測糸2i果と一致しており,さらにこの像から多層

NiFe(ハ○-マロイ) NiFe NiFe NiFe r r r C C C バッファ層 基板 (a)多層膜の構造の模式図 3・1 2・3=4・6 叫 8 2 1 5 8 厚 9.9.9.9.〇.膜 (b)多層膜断面のゼロロス像 (通常の電子冒頁徴鏡像) (c)多層膜断面のCrの元素分布像 (エネルギーフィルタ型電子顕微鏡) 図4 多層膜の元素分布像観察 (b)のゼロロス像では4層のNiFeと3層のCrとはほぼ同じコントラストを示すが,(C)のCrの分布像ではこれらを明瞭に識別することができる。 この元素分布健から,各層の膜厚や平坦性を把握することができる。 65

(4)

812 日立評論 VOL.77 No,ll(1995-り

T鞠馬蟄、i訂馳

触 50nm

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さ(a)磁気記録媒体のゼロロス像

(通常の電子顕微鏡像) ゝr ま址 釜ヨ 度% 濃子 い悍 30 20 10 0 (b)磁気記毒責媒体のCr分布像 (エネルギーフィルタ型電子顕微鏡) い訂へ㌣姐尽. 図5 磁気記録媒体の元素分布像観察 (b)のCrの分布像からは,粒界にCrが偏析しており,その濃度は25原子%でネットワーク状になっていることが把握できる。 膜の各層が原子レベルで平坦であることもわかった。 3.2 磁気記録媒体の元素偏析の評価 磁気記録媒体として用いられるCoCrTa合金に通用し た結果を図5に示す。膜の平均組成はCo78原子%,Cr17

原子%,Ta5原子%である。通常の電子顕微鏡像では粒径

が数十ナノメートルの多結晶体であることがわかるが, この場合も多層膜同様に元素分布はこの像からは得られ ない。エネルギーフィルタ型電子顕微鏡を用いて,Taは 含有量が少ないことから均一であると見なし,同一視野

のCr分布像を定量観察した。これは得られた画像データ

を計算機上で処理し,疑似カラー化したものである。Cr の平均組成を白色にし,この値よりもCrが多い部分を黄 色から赤色の暖色系に,少ない部分を青色の寒色系に彩 色した。膜内では明瞭な組成分離が起こっておr),Crは 粒界に偏析していることがわかる。磁気特性との比較か ら,この粒界近傍にネットワーク状に張り巡らされたCr

偏析により,磁気記録媒体のノイズが低減されているこ

となどがわかってきている。

おわりに

エネルギーフィルタ型電子顕微鏡による元素分布像観

察技術を開発し,磁気ディスク装置に用いられる薄膜材

料へ適用した。輝度の高い電界放出型電子顕微鏡とエネ ルギーフィルタとを組み合わせることにより,通常の電

子顕微鏡像では識別することのできない元素分布像を,

約1nmという高い空間分解能で得ることができる。その 結果,高記録密度化を進めていくうえで重要開発項目と

なる磁気ヘッド用の多層膜や磁気記録媒体などの元素分

布像が明瞭に観察できるようになってきた。得られた結

果は,これら薄膜材料の成膜プロセスの最適化や次世代

製品開発に関する重要な知見を与えると思われる。 エネルギーフィルタ型電子顕微鏡による元素分布像評 価技術は,磁気ディスク装置関連の材料だけでなく,半 導体材料や構造材料などに広く適用することができる。 今後,材料開発を進めていくうえでの基盤技術として通

用範囲を広げるとともに,電子顕微鏡製占占として新たに

発展させていく考えである。

参考文献 1)木本,外:イメージングフィルタによる元素分布像観察, 電子顕微鏡,第30巻,2号(1995) 2)K.Kimoto,etal∴JapaneseJournalofAppliedPhysics, 66 34,L352-L354(1995) 3)田谷,外:γ型フィルターTEMの試作,日本電子顕微鏡 学会,第51回学術講演会予稿集,p.34(1995)

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