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東日本大震災に対する生命保険業界の 対応

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Academic year: 2021

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東日本大震災に対する生命保険業界の 対応

棚 瀬 裕 明

■アブストラクト

昨年3月の東日本大震災は,津波・原発事故も加わり,甚大な被害を広範 な地域にもたらした。生命保険業界はこの未曾有の大惨事に対して, 被災 された方が一刻も早くご安心いただけるよう最大限の配慮に基づいた対応を 行うこと を基本方針に掲げ,保険金等の迅速な支払いに向け業界一丸とな って対応にあたった。

本稿で説明する一連の取組みの結果,生命保険業界における保険金等の支 払い実績は,平成24年8月末時点で支払件数20,754件・支払実績金額1,578億 円となり,支払想定額約1,640億円に対し支払率は約96.2%に至っている。

引続き,お客さまの心情等のご事情に配慮しつつ,最後の一人に至るまで,

保険金等の支払いに努めていきたい。

■キーワード

東日本大震災,生命保険

1.初動対応

まず初めに,今回の震災における生命保険協会(以下, 生保協会 )の初 動対応について説明する。

生保協会では,震災発生後,即座に 大地震対策本部 を設置した。生保

*平成24年3月10日の日本保険学会関東部会報告による。

/平成24年10月2日原稿受領。

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協会での大地震対策本部の設置は昭和54年7月の 大地震対策要綱 制定以 降,平成7年の阪神・淡路大震災の際に続き2度目となる。大地震対策本部 は主に役員会,社員会社連絡部会で構成され,役員会には震災時の緊急対応 について理事会の議を経ずに決議する権限が付されている。また,社員会社 連絡部会は役員会の意思決定を補佐する機関であり,当連絡部会のメンバー が,業界と自社の対応のパイプ役としての役割を果たした。(図−1)

震災発生後の翌営業日(平成23年3月14日)には,役員会を招集・開催し,

今回の震災対応における基本方針を 被災された方が一刻も早くご安心いた だけるよう最大限の配慮に基づいた対応を行うこと に定め,併せて以下の 事項も決定した。

・地震による免責条項等の不適用の確認

・義援金3億円の寄贈

・全国紙および地方紙へのお見舞い広告の出稿

・各社におけるお客さまからの相談窓口一覧に関する広告の実施

・被災地への援助に関する取組み状況の会員会社向けアンケートの実施

(図−1)震災発生当時の生保協会の大地震対策本部等

(出典)生保協会資料による

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また,当役員会開催以降も複数回にわたり会員会社の被災地への対応に関 するアンケートを実施し,好取組事例を共有化すること等により,業界全体 の取組みの底上げを図っていった。

2.具体的な取組み状況

ここから,生命保険業界における東日本大震災への対応・取組みの具体的 内容について触れていくが,取組み内容に応じ 被災された方の生活支援と 安心感のお届け 震災の特徴に鑑みた照会・手続きへの対応 お客さまの 安否確認活動 お客さまへの複線的な周知活動 確実に保険金等を支払う ためのネットワーク の大きく5つのフェーズに分けて述べていきたい。

⑴ 被災された方の生活支援と安心感のお届け

①被災地への生活支援

震災直後においては,ライフラインが寸断され,物資が不足するなど,被 災者の安全確保・生活支援が急務となっていた。

このため,被災地に対する生活支援として,協会から3億円の義援金,各 会社の独自の義援金として累計約25億円を寄贈した。

また,物的な支援として,食料品や衣類等・衛生用品・電化製品など,

様々な支援物資の提供を行うとともに,人的な支援として,本社からの応援 スタッフの派遣や現地でのボランティア活動等の取組みを実施した。

さらに,26の地方生保協会の助け合いの取組として,生保会社の職員等か ら寄せられた募金等2,664万円をもとに,在宅福祉サービスなどに使用する 福祉巡回車(30台)を23箇所の社会福祉協議会へ寄贈した。今後も,震災か らの復興や被災された方の生活再建に向け,生命保険業界として必要な取組 みを検討していきたい。

②保険契約上の特別措置

保険金等の支払いや保険料の払込みに不安を抱いている方に安心感をお届

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けするために,震災発生後直ちに保険契約上の特別措置の適用を決定した。

ここでは, 地震免責条項等の不適用 保険料払込猶予期間の延長 利息 減免等の特別取扱 簡易・迅速な保険金・給付金等の支払い について説 明する。

地震免責条項等の不適用

一般的に,災害関係特約については約款上,地震を原因とする災害関係保 険金・給付金は,金額を削減したり,支払わない場合がある旨規定されてい る。しかし,今回はすべての生保会社が,当該規定は適用せず,災害関係保 険金・給付金の全額を支払うことを決定した。

保険料払込猶予期間の延長

震災発生後,即座に保険料払込猶予期間を最長6カ月延長することとし,

プレス発表を行った。その後,今回の震災の被害状況を踏まえ,更に3カ月 間延長し平成23年12月までの最大9カ月間の延長とすることとし,平成23年 4月27日に決定・公表した。なお,猶予期間分の保険料の払込期日は平成24 年10月末までとし,分割による払込も可能とした。

利息減免等の特別取扱

生活に不安を抱かれているお客さまに安心感をお届けする観点から,契約 者貸付における特別金利の設定(利息の減免)や,住宅融資や企業向け融資 について返済猶予・返済条件の変更等の対応を行った。

簡易・迅速な保険金・給付金等の支払い

今回の震災においては,保険証券や印鑑等が手元にないケース等が数多く 生じることが想定されたことから,保険金請求の必要書類の一部を省略し,

簡易・迅速な支払いを行うこととし,震災翌日の平成23年3月12日に公表し た。

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⑵ 震災の特徴に鑑みた照会・手続きへの対応

①お客さまからのご相談対応

生保協会におけるお客さまからのご相談対応については,平常時より,生 保協会事務局内に設置されている 生命保険相談所 と,全国53箇所の 地 方連絡所 にて相談の受付を行っている。

これらの窓口での対応に加え,今回の震災では多くの方が避難所での生活 を余儀なくされていたことを踏まえ,各地の避難所に出張相談窓口を設置し,

被災者の方からの相談に対応した。

②災害地域生保契約照会制度

今回の震災では,地震や津波等により家屋等が焼失・流出し,生命保険に 関する手掛かりがなくなってしまったケース等が多数発生したが,こうした 問題に対応すべく,生保協会では平成23年4月1日から 災害地域生保契約 照会制度 を発足させた。

この制度は,被災されたお客さまが,加入していた保険会社がわからず請 求が困難な場合において,生保会社全社に契約有無に関する調査依頼を行う 制度である。生保協会事務局内に設置した 災害地域生保契約照会センタ ー (以下, 照会センター )が照会を受付け,その情報をもとに会員会社 が自社の契約の有無について調査を行い,調査の結果,加入契約が特定でき た場合は,その契約を保有する生保会社から照会者あてに直接連絡し,保険 金等の支払いの案内を行う。一方,調査の結果,契約が見つからなかった場 合も,照会センターから照会者宛にその旨を回答する等,調査の結果が必ず 照会者にフィードバックする運営とした。(図−2)

当制度における照会受付実績は,制度発足から平成24年8月末までで,照 会受付件数3,714件・照会対象者数6,510名となり,このうち契約があったも のが4,112名で判明率は約63%に至っている。

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⑶ お客さまの安否確認活動

保険金等の支払いや保険契約の継続に必要な情報を確実にお伝えするため に,生保各社は,お客さまへの直接訪問やメール・アウトバウンドコールの 活用等,各社が持つ様々なチャネルやリソースを最大限活用して,お客さま 一人ひとりの安否の確認にあたった。

直接訪問による安否確認には,全社合計2万6千名以上のスタッフを動員 したが,ここでは,自らも被災者である営業職員も,1件1件お客さまの自 宅や避難所を訪問し,安否確認や必要な手続きのご案内を実施したことを申 し添えておきたい。

また,生保協会では,各社の安否確認活動に係る取組について定期的にア ンケートを実施し,好取組事例を共有化する等,業界全体の対応レベルの向 上に努めた。

このような取組みの結果,安否確認の対象となるのべ約293万人のうち,

99.97%の方の安否が確認されている(平成24年3月14日現在)。

⑷ お客さまへの複線的な周知活動

ここで,これまで述べてきた生保協会の対応・取組み等の周知対応につい (図−2)災害地域生保契約照会制度概要

(出典)生保協会資料による

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て触れておきたい。

生保各社では,自社における保険契約上の特別措置等について,直接訪問 やアウトバウンドコールの実施,ダイレクトメールの発信,新聞広告やテレ CM等,各社のチャネルやリソース・マスメディアを活用した周知を実施 した。

生保協会においても, 災害地域生保契約照会制度 の案内等について,

新聞・ラジオでの情報発信や,避難所へのポスター掲示等を実施した。今回 の震災では,岩手県・宮城県・福島県以外にも全国に避難所が設置されてい たことから,ポスター掲示にあたっては,会員会社からボランティアを募る とともに,生命保険ファイナンシャルアドバイザー協会(JAIFA)・全国生 命保険労働組合連合会・生命保険文化センターにも組織の枠を超えて協力い ただいた。

さらに,生保協会として28年ぶりにテレビCMを実施し,生命保険業界 が総力を挙げて保険金等の支払いを行っていること等について,多くの方に 広く呼びかけることとした。(図−3)

(図−3)全国64局で放映されたテレビ CM

 

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⑸ 確実に保険金等を支払うためのネットワーク

①業界共通データベースの構築

前述のとおり,生保各社は被災者の方一人ひとりの安否確認を行ったが,

保険金支払の判断基礎となる情報を生保会社単独では把握することが困難な ケースも多数発生した。このため,生保協会では,今回の震災による死亡者 等の情報を集約した業界共通のデータベースを構築することとした。(図−

4)

データベースに集約しているデータは,⑴警察が公表する 亡くなられ身 元が確認された方 のリスト,⑵会員各社が把握した被保険者の死亡に関す る情報,⑶災害地域生保契約照会センターに寄せられた情報,の3種類であ り,会員各社においては,当データベースの検索機能を活用し,請求可能な 契約の特定に努めている。

②行政への要望対応

生保協会では,保険金等の支払いの円滑化に資する事項を中心に,30項目 以上の事項について,監督官庁および監督官庁経由関係省庁へ要望した。こ

(図−4)業界共通データベース概要

(出典)生保協会資料による

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こでは, 戸籍謄本・住民票の開示請求 行方不明者への対応 について説 明する。

戸籍謄本・住民票の開示請求

生命保険契約では,あらかじめ指定された保険金受取人が死亡した場合,

新たな保険金受取人は当該受取人の法定相続人となることが一般的である。

しかし,生保会社では保険金受取人の情報は所持していても当該受取人の法 定相続人の情報を所持していないことが多いため,受取人が死亡したケース では,正当な保険金請求権者の特定に時間がかかってしまうという課題があ った。

このため,生保協会では,生命保険会社が直接,市区町村に戸籍・住民票 等の開示請求ができるよう要望を行った。

この結果,法務省からは保険会社による戸籍謄本の交付請求が,総務省か らは保険会社による住民票の写しの交付請求が承認され,地方自治体が保有 する戸籍や住民票について,保険会社が直接開示請求できることとなった。

行方不明者への対応

行方不明者の死亡認定・確定には,戸籍法第89条に基づく行方不明者の取 調をした官公庁や公署による死亡地の市町村宛の死亡報告,民法第30条に基 づく危難が去った後1年間生死が明らかでないときの家庭裁判所による失踪 宣告(以下, 危難失踪 )等があるが,後者であれば行方不明から1年経過 することを待つ必要がある等,行方不明者に係る死亡保険金を迅速に支払う ことが困難な状況にあった。

そこで,生保協会では,危難失踪の特例措置等,何らかの形で公に行方不 明者の死亡を認定・確定いただくよう行政機関への要望を行った。

こうした中,平成23年6月7日に東日本大震災の行方不明者について,法 務省より戸籍法第86条3項に基づく死亡届受理に関する事務取扱が公表され,

実質的に行方不明者の死亡の認定・確定に係る取扱が開始された。

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一方,死亡届の受理は各市町村にて行われることから,生保協会では 行 方不明者対応特別ワーキンググループ を設置し,ワーキンググループのメ ンバーが各市町村役場を訪問し,各市町村の死亡届受理等に係る具体的実務 の確認を行い,確認結果を会員会社内で共有化する等,保険金の支払いが円 滑に行われるよう対応を行った。

こうした取組みにより,行方不明者への保険金等の支払い実績は,平成24 年8月末時点で3,677件,金額は272億円となっている。

③未成年者生保支援ネットワーク

今回の震災では不幸にも親や親権者の全員を亡くした未成年者(以下,

震災孤児 という)が200名を超すとの報道がなされている。震災孤児が保 険金受取人の場合,未成年後見人を選定頂くこと等が必要であり,その際に は弁護士等のサポートが必要となる。そのため,地方弁護士会,自治体との 情報連携ネットワークを構築し,保険金等の支払いに際し,未成年後見人の 選定等に関する相談が生じた際は,弁護士等を紹介する体制を整えた。

(図−5)

現状のネットワークには,県の行政機関である岩手県保健福祉部児童家庭

(図−5)未成年者生保支援ネットワーク概要

(出典)生保協会資料による

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課と福島県中央児童相談所,また,岩手県・宮城県・福島県の弁護士会,生 保協会および全ての生保会社が参加している。

なお,平成24年8月時点で,ネットワークを通じた弁護士等の紹介数は34 件,震災孤児等が保険金受取人となる契約における支払い実績は218件とな っている。

3.おわりに(今後の主要な課題と対応)

最後に,今後の主要な課題とその対応について説明し,本稿の結びとした い。

本稿で説明した東日本大震災に対する業界一丸となった取組等を通じて,

生命保険事業に対する信頼は格段に高まったと認識しているが,その信頼を さらに高めていくためにも,残された課題について引続き全力で取組んでい く所存である。

⑴ 保険金等の支払いの完遂と保険料払込猶予契約への継続フォロー 保険金等の支払いについては,平成24年8月末時点で支払見積額約1,640 億円に対し支払率約96.2%に至っている。引き続き,連絡がとれていない方 に対する継続的なアプローチ(直接訪問,アウトバウンドコール,DM 付)や,請求の案内を行ったにも関わらず未だ支払いに至っていないお客さ まへの再度のご案内等を通じ,お客さまの心情等のご事情に十分配慮しつつ,

残りの支払いを完遂していきたい。

また,保険料払込猶予については,適用契約は業界累計で約23万件※1 なったが,各社の取組により,約16.5万件※2(約72%)については,契約 を継続頂いている。残り約6.5万件(約28%)については,契約を継続頂く ことはできなかったものの,保険金や解約返戻金等の支払いにより,生活再 建に役立てて頂いていると認識している。引き続き,保険料の払込を猶予さ れたお客さまに対する,丁寧かつ適切なフォローを継続していきたい。

※1:平成23年3月以降猶予契約総数(230,517件)

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※2:平成24年7月末継続件数(165,152件)

⑵ 震災時の更なる迅速な支払いに向けた態勢強化( マイナンバー制度 の活用)

前述のとおり,今回の対応では,安否確認活動や業界共通データベースの 活用等により,生保各社は能動的に自社契約の有無の特定に努めたが,例え ば,警察が公表するリストには生年月日の情報がない等,その作業には時間 と労力を要した。

現在,政府において,社会保障・税に関わる番号制度(以下 マイナンバ ー制度 )の導入が検討されているが,このような制度を通じて被災者の情 報を生保会社が確認することができれば,効率的かつ正確な安否確認が進む と考えられる。

このような観点から,生保協会では生命保険事業での利活用を前提とした マイナンバー制度 の早期実現について,関係方面への要望を行ってきた が,平成24年2月にはいわゆる マイナンバー法案 が国会に提出されるこ ととなった。この法案では,激甚災害が発生した際,生保会社は保険金等の 支払いを行うために,必要な限度でマイナンバーを利用できるとされている。

今後に向けて,震災時におけるマイナンバーの有効な活用方法を検討する のはもちろんのこと,平時での利活用も含め,この制度が行政全体の効率化 とお客さまの利便性向上につながる有益な制度となるよう,引き続き各方面 への提言等に取組んでいきたい。

⑶ 今回の経験を活かしたお客さまサービスの更なる充実

前項で説明した 災害地域生保契約照会制度 は,お客さまや各方面から 高い評価をいただいており,これを踏まえて,当制度を東日本大震災以外の 災害時にも活用いただける,永続的な制度とすることとした。

生保各社においても,今回の震災対応では携帯電話・メール・SNS(ソ ーシャル・ネットワーキング・サービス)の情報の重要性等,生保事業を行

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ううえでの様々な気づきがあったことと思うが,こうした気づきを活かし,

各社で様々な取組みが実施され,業界全体のお客さまサービスの更なる向上 に繫がることを期待している。

(筆者は社団法人生命保険協会理事事務局長)

参照

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