修士論文要約
退職給付制度の改革と評価 人的資源管理(HRM)の枠組みからの考察
隅田 城
【論文要旨】
本研究の目的は、退職給付制度(退職金、退職年金)の制度改革が有効な人事施策として機能し ているかを評価、分析し、インプリケーションを提示することにある。
人事施策については、多くの人々が議論や批判するものの、その中には建設的、合理的な指摘と は言い難いものも含まれ、修正や改善には十分つながらない。個々人の主観的な視点や企業の意 向、経営方針なども包括しながら、人事施策をより合理的、客観的に評価し、速やかに次の展開、
施策に活かす仕組みは持てないか、ということが私の問題意識である。そこで人事施策の中でも、
現在、改革が進行中である退職給付制度(退職金、退職年金)を研究テーマとして取り上げた。退 職給付制度は、退職給付会計の導入や確定拠出年金法(日本版401k)の施行などにより大きな変 化の時期を迎えており、制度の改革、検討を進めることが企業の経営課題と認識されているため、
本研究は経営課題への貢献として有意義であると考える。
評価にあたっては、まず、退職給付制度の形成経緯、機能、理論を整理し、また、それらが内包 される先行企業の改革の現状を概観した。次に、HRMにおける概念的枠組みとしてBeerらの概 念マップに基づき、人事施策評価の枠組みである従業員の総合的能力(Competence)、従業員の組 織へのコミットメント(Commitment)、従業員の目標と組織の目標の問の整合性(Congruence)、
HRMの実際の運用法のコスト効果性(Cost effectiveness)といった4つのCから退職給付制度の 制度改革を評価するための枠組みを構築した。この枠組みを活かして、制度の改革について、退職 給付制度に関心の高い層を対象として、ヒアリング調査、アンケート調査を実施し、制度の説明不 足、理解不足といった問題点や、内的報酬や複数制度の有効性、日本的雇用慣行の現状などを確認
した。
最後に本研究で得られたインプリケーションとして、退職給付制度の改革における、1)労使間 のコミュニケーションの重要性、2)柔軟な退職給付制度の構築の必要性、3)報酬システム全体 を検討することの重要性、の3点を示している。本研究が退職給付制度の制度改革の一助となれば
幸いである。会計に於ける歴史的原価主義と時価主義に関する一考察 :歴史的原価がその存在を保つ根拠を会計実務の中に求めて
武田 秀直
【論文要旨】
会計の世界では古くから歴史的原価主義と時価主義との問で、その理論的正当性を互いに主張し てきていて、現在に於いてもなおその決着をみていない。この中にあって会計実務では、各企業は 伝統的に歴史的原価を用いて毎期の決算を行っていた。理論と実務の相違が何処にあるのかを時価 主義の理論的正当性が強く現れてきた時代を捉えて、歴史的にその検証を行っている。
企業が株式市場を通じて投資家から直接資金調達を行うようになって以来、投資家は自らの投資 資金が増加することを期待し、企業は如何に安価に投資資金を調達できるかに苦慮してきた。この ため、投資額が貨幣の支出金額により直に表示される歴史的原価主義は日常的に取引の記録が可能
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であり、この記録の累積により投資資金の把握が容易に行えるという特徴から、実務に於いて長く 用いられてきた。同時に、これにより歴史的原価主義では客観性の確保や計算の確実性、結果の検 証可能性という会計に要求される大きな問題を解決していたのである。歴史的原価による評価は、
貨幣による名目額によっているところに意味があったということができる。
一方、経済の変動等のために時価と原価の間に乖離が生じてくると経済実態により近い時価主義 の主張が強く現れ、企業実体を表すとする時価による表示の要求が財務諸表の利用者側から常に起 こってくる。一般に時価主義と呼ばれているものには、用いられる評価方法により市場価格と現在 価値という異なる時価概念が混在している。しかも、そこでは財務諸表作成目的(主に意思決定目 的)が先にあって、これに適合した時価が用いられているのである。また、市場価格には購入時価 と売却時価があり、それぞれ異なった価格を形成している。もっとも、市場価格は客観性が高いこ とから企業の決算財務諸表にも用いられてきた経緯がある。しかし、個別に財産を時価により評価 することが煩雑であったことから、その手間とコストが引き合わず長くは続かなかった。
これに対し、現在では投資先企業が将来キャッシュ・フローをどの程度獲得することができるか といった予測情報に関心が集まっている。そこでは、投資家は意思決定の前提として企業が獲得す る将来キャッシュ・フローの割引現在価値による評価の開示を強く求めるようになってきている。
昨今のダイナミックに展開されている国際的な資金移動は、より明確にこれが現れてきたものとみ ることができる。
しかし、会計を意思決定情報の提供者と利用者と捉える二元的関係に於いては、時価の不確実性 も有用性の衣の陰に隠れてしまう。会計責任という観点からは、不確実なものや予測を含むもので あっては、財務諸表に表示されている金額が事実を表しているとは云い難い。必要なことは会計責 任の履行者・受益者・報告者という三元的関係と捉えることであり、ここから履行者の行為を報告 者が確認する関係が生まれ、これにより初めて責任の所在が明らかになる。報告者は予測が排除さ れた歴史的原価によってのみ検証可能な事実を認識することができるのである。ここに実務に於い て歴史的原価が用いられてきた本質的理由が存在していたとみることができる。
競争力強化を目指す中国自動車産業の問題点と戦略の研究
張 雪清
【論文要旨】
近年、中国の自動車産業は目覚しい成長を遂げ、生産・販売台数は米国や日本など自動車産業の 先進国に次ぐ世界上位ランク入りが実現した。しかし、中国の自動車産業は数字に見合った競争力 を持っておらず、国際競争力が低下している。一方、2001年に中国のWTO加盟に伴い、自動車産 業の競争環境が変化してきている。本論文では、中国自動車産業の競争力の問題点と原因を分析
し、競争力強化を目指す今後の戦略、そして、中国の自動車アーキテクチャのパターンはグローバ ル市場で競争優位の獲得につながるのか、について考察する。
中国自動車産業において、四つの問題点が見られる:第一、外資への依存度が高く、自社開発の 技術力が不足している。第二、中国の自動車メーカーは研究開発への資金投入は非常に少ない。第 三、国産自動車の輸出は少なく、輸出の単価は低い。輸入は高級・中級乗用車が中心になるが、輸 出は利益の少ない労働集約型の製品が中心である。第四、自動車の品質、特に国内メーカー製品の
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