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東医大誌 78(2): 91
-92, 2020
巻 頭 言
科学者の責任
東京大学名誉教授
谷 口 維 紹 Tadatsugu TANIGUCHI
日本の科学力の低下が指摘されている。その底流にあるのは「選択と集中」に代表される政府の科学技術 政策にあることは多くが認めるところであろう。実際それによって、大学の法人化等に伴う基盤的運営費の 削減、ポストの削減、研究者の疲弊、若手研究者の苦難、出口の見える研究への集中投資、など枚挙にいと まがないほど、検討を要すると思われる状況が見られる。また、OECDによる数年前の集計では国内総生産
(GDP)に占める教育機関への公的支出の割合は
3.2%
で比較対象になった34
カ国中最低であり、大学等の 高等教育機関に対する支出はOECD
平均の約半分であったとの報告もある。このように政治・行政が抱える課題は山積しているといえよう。それでは、この深刻な事態をどう打開し ていけば良いのであろう? 私は上記のような状況を生み出した責任の一端、それもかなりの部分が我々科 学者にあるのではないか、と思う。そこを「棚上げ」にして「政治・行政が間違っている」、「資金が削減さ れては困るのでなんとかすべき」と言っても説得力に乏しいのではないだろうか。
科学者の責任は多々あると考えられる。自らの経験・知識・見識に基づき、エビデンスを基に、広く社会 に向けて「言うべきことを言わねばならない」のではないか。日本がおかれた上記のような現状を的確に把 握し、将来の展望を考えたとき、科学は今後どのようにあるべきでありどのような政策が必要なのか、につ いて骨太の提言をしていくべきではないだろうか。そして(最も重要なのは)そのような提言を政治・行政 にのみ発するのではなく、広く社会に発信し、理解・支援を得ていく努力をしていくことが今こそ重要なの ではないか。
例えば日本学術会議は、科学者の意見をまとめ、国内外に対して発信する日本の代表機関」であり「政府 から独立して職務を行う特別の機関」とされている。そして、新たに日本学術会議法が施行された頃は、「総 合科学技術会議(現在の総合科学技術・イノベーション会議)と「車の両輪として機能する」、と言われて きた。しかし、実際には学術会議が現在その機能を果たしているか、といえばほとんどの人は否定的であろ う。学術会議は社会から理解され支援され尊重されているだろうか。確かに「第
6
期科学技術基本計画に向 けての提言」などを読むと立派な提言もされているが、これが科学者コミュニティーやマスコミ、(もっと 重要なことに)社会に広く浸透しているだろうか。日本学術会議法を読めば明らかであるが、そのミッショ ンを噛み締め、「権限はないが見識がある学術会議」そして国内何十万の科学者や社会に「奉仕する学術会議」として、社会の支持・支援を得ながらの更なる活躍を期待したい。
「星の数ほどある」といっても過言ではない多くの学会の責務も大きいのではないか。 個々の学会ある いは関連学会と合同で日本の科学分野が直面する課題について骨太の議論に基づいた説得性のある提言を 出す、公開シンポジウムを行うなどのような活動があってもいいのではないだろうか。また、国立大学(公 立、私立大学)協会、といった団体も最近ではかなり存在感が薄くなった気がするのは筆者だけだろうか。
東 京 医 科 大 学 雑 誌
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おそらく最も重要なのは、私たち科学を担う一人一人が何をすべきか、であろう。一人で出来ることには 無論限界もあるが、それで諦めるのではなく信念を持って発言し行動していくことがやがて上記のような科 学者コミュニティーの活動の強化に繋がるのではないだろうか。結果的にはそれが、政治・行政との「健全 な」連携・協調に繋がり、新たな展望が見えてくるのではないかと思うのだが……。
─「正義が守られえないところでは、力が正義とされる」(パスカル)─
略 歴
谷口 維紹 (たにぐち ただつぐ)
TANIGUCHI Tadatsugu
1978年チューリッヒ大学大学院博士課程修了、1978年より癌研究会癌研究所生化学部、研究員、主任研 究員、部長を経て
1984
より大阪大学細胞工学センター・教授、1995-2012 東京大学医学部・教授、その後
東京大学大学生産技術研究所・特任教授を経て2019
年より東京大学先端科学技術研究センターにて東京大 学総長室アドバイザーを務める。2002〜2008
年に米国がん学会(AACR)国際問題検討委員会・座長を務 めた。米国科学アカデミー・外国会員、米国医学アカデミー・国際会員、ヨーロッパ分子生物学機構・外国 会員。趣味