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中国公案小説の系譜

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Academic year: 2021

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GAIDAI BIBLIOTHECA

公案小説とは耳慣れないことばだと思うので、

まず、その説明からはじめたい。公案とは、ふつ うは禅のことばであるが、ここでは公文書、狭い 意味での裁判や犯罪にかかわる文書を指す。犯罪 にかかわる事件が起り、それを解決する過程を描 いた娯楽小説を、日本において、以前は探偵小説、

のちに推理小説と呼び、最近では、ミステリーと いうほうが優勢のようである。差し詰め、公案小 説とは、きわめて雑駁ないい方であるが、日本で いうところのミステリーのジャンルにはいるとい ってよかろう。

今を遡ることおよそ千年前、日本が平安、鎌倉 時代であった頃、中国は宋(960〜1279)という 王朝が支配していた。宋は前時代である唐が実権 を握った軍人のため滅亡したことに鑑み、徹底し たシビリアンコントロールを行った。おかげで太 平の世が続き、文化的繁栄を齎すこととなった。

都、

べん

けい

(現在の河南省開封)だけでも人口100 万人を擁し、未曾有の活況を呈していたことは、

現在残されている絵巻「清明

せいめい

じょう

」や都市繁盛 記『東京

とうけい

ろく

』などによって、一斑を伺い知る ことができる。その後、北方民族が興した金によ って、中原を追われ、臨安(現在の浙江省杭州)

に遷都したが、町の賑わいぶりは衰えなかった。

結果、特に都市部の民衆たちの生活にゆとりがで き、それが娯楽を産みだす要因となった。当時の 都市繁盛記ともいうべき随筆には、娯楽に関する 記述が散見するので、それを手がかりに話を進め てみよう。娯楽のなかでも、日本の講談や講釈に あたる「説書」なる語り物が、ことのほか人気を 博していた。何しろ、宮廷でも、貴人たちに通俗 的な軍談などを話して聞かせる役人がいたといわ れる。演じられていた具体的な内容を、今となっ ては知るべくもないが、幸いにして、さまざまな 演目が存在していたことがわかる。そのひとつが 公案で、出し物として「三現身」というタイトル が記載されている。しかし、これだけでは、まっ

たく何のことやら、さっぱりわからない。宋代よ り、のちの明(1368〜1661)の末期に出版された 短編小説集『警世通言』に「三たび身を現わし、

ほう

りゅう

、冤

えん

を斷

だん

ず」という話が収録されており、

「三現身」はその原話であろうと推測される。こ こで注目したいのは「包竜図(以下、当用漢字に 改める)」である。「包」は姓で、宋代の初め頃、

実在した人物、包

ほう

じょう

を指し、「竜図」は官名で正 式には「竜図閣待制」という。場合によっては、

親しみをこめて(?)「包公」とだけ呼ばれるこ ともある。いったい何者かというと、天子に意見 具申したり、事件を裁いたりしていた人らしい。

正史によれば、「(包)拯、朝に立つや剛毅、貴 威宦官、之が為め手を斂

おさ

め、聞く者、之を憚る。

人、包拯笑うを以って黄河の清に比

たと

う。童稚も亦 た其の名を知り、呼びて包待制と曰

う。京師、之 が為め語って曰く。関節至らぬは、閻羅、包老あ るのみ」とある。

まあ、要するに、役所においては性、剛直、公 明正大のため、偉い人達に畏れられ、子供でも彼 の名を知っているくらい有名である、ということ。

最後にある「関節」とは賄賂をつかって取り入る こと。世の中で、金で転ばぬのは閻魔様と包拯だ け。黄河云々は、黄河百年、河清を待つ、という ことばがあるので、包拯は、滅多に笑わなかった のだろう。この御仁、日本では、馴染みはないが、

中国においては『三国志』の諸葛孔明や『西遊記』

の孫悟空に匹敵するくらい民衆に親しまれ、通俗 文学には欠くことのできないキャラクターなので ある。つい最近、彼を主人公にした連続テレビド ラマ「包青天」が中国で放映されている。

(待 続)

たけのうち まこと(助教授・中国文学)

中国公案小説の系譜

(其壱)

竹内 誠

「清明上河図」

参照

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