• 検索結果がありません。

メタボローム解析技術の開発と今後の展望

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "メタボローム解析技術の開発と今後の展望"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

71

住友化学 2010-II

技 術 紹 介

メタボローム解析技術の開発と今後の展望

大日本住友製薬(株) 薬物動態研究所 十 亀 祥 久 安全性研究所 坂 東 清 子 ゲノム科学研究所 村 山 一 久 住友化学(株) 生物環境科学研究所 味 方 和 樹

はじめに

メタボロミクスは、ゲノミクス、プロテオミクスと同 様、オミックス解析の1分野であり、

2000

年頃から注目 され始めた比較的新しい研究分野である1), 2)。ゲノミ クスが遺伝子、プロテオミクスがタンパク質を対象と するのに対して、メタボロミクスは内因性の低分子化 合物(以下、代謝物)を対象としている(Fig. 1)。細胞 内または生体内の代謝物を網羅的に解析するメタボ ローム技術は、医薬品、食品、環境など様々な分野で 応用され始めている。メタボロミクスが他のオミック スと比べて有利な点は、ゲノミクスやプロテオミクス に比べて対象となる代謝物の数が少ないことがあげ られる。また、低分子代謝物には種差がないこと、代 謝物は最終の表現系なので病態と関連した分子が見 つかりやすいとも言われている3)。ここ数年、メタボ ローム解析による疾患バイオマーカーの報告が増え てきており4) – 6)、バイオマーカー探索の有用な手段と して期待されている。しかし、その一方で、例えば試 料の採取や処理方法、分析装置の選択、データ解析等 において標準となる評価系は未だ確立されていない。

大日本住友製薬(株)と住友化学(株)は医薬品や農薬開 発におけるメタボロミクスの応用を目的として、メタ ボロミクスの技術開発に共同で取り組み、社内におけ る評価系を確立した。今回、その概要およびメタボ ローム解析の一例として、肝毒性物質(ヒドラジン)を 投与したラット血漿の解析結果を紹介する。

メタボローム解析の概要

メタボローム解析は、主として質量分析計(

MS

)や

1

H-NMR

(核磁気共鳴法)による試料分析とそこで得ら

れたデータ解析の

2つの過程に分けられる。

以下、我々が実施したメタボローム解析の手順を記 載する。

① 化合物の投与

② 試料(血漿や尿)の経時的な採取

LC-MS

GC-MSによる測定

④ データの変換

⑤ 主成分分析(PCA)などの多変量解析によるデー タマイニング

⑥ 群間比較およびローディングプロットから指標 となる代謝物の特定

なお、試料採取においては、摂食条件、採取の時刻 や採取条件(温度)等により代謝物の質や量が変動す るため注意が必要である。

肝毒性の評価

肝毒性物質として知られており、メタボローム解析 に関する報告があるヒドラジンを技術レベルの確認 のため評価した。ラットにヒドラジンを

120 mg/kg

るいは

240 mg/kgで単回経口投与し、投与後 24時間お

よび

48

時間の試料(血漿、尿)を採取した。毒性評価 の結果、120 mg/kg投与以上でタンパク質、脂質系パ ラメータが変動し、トランスアミナーゼの減少が認め られた。病理組織学的検査では核の大小不同、脂肪変 性、グリコーゲン蓄積などが認められた。毒性は投与

Fig. 1 Metabolomics is the omics approach that

inspects the movement of endogenous metabolites comprehensively and searches for a toxicological mechanism or biomarker.

Genomics 20,000-Genes

Transcriptomics 150,000-Transcripts

Proteomics 1,000,000-Proteins

Metabolomics 5,000-Compounds DNA

mRNA

Protein

Metabolites

(2)

72

住友化学 2010-II メタボローム解析技術の開発と今後の展望

24時間の方が強く表われ、 48時間後には回復する傾

向を示し、120 mg/kg投与後

48時間では、ほとんど変

化がなかった(Table 1および

Table 2)。

メタボローム解析

メタボロームの測定には、これまで1

H-NMR

が用い られることが多かったが、我々は汎用性のある

LC-MS

および

GC-MSを用いた測定に取り組み、血漿や尿中

の多数の内因性代謝物を一斉に測定できる方法を確 立した。現在、

LC-MS

では約

500個、 GC-MS

では約

200

個の標準物質を有しており、これらの代謝物を同定す ることが可能である。以下に、

LC-MS

による血漿中代 謝物を測定したときのメタボローム解析の結果を示

す。測定した代謝物データを

PCA

した結果、投与量に 依 存 し た 動 物 群 の ク ラ ス 分 け が 認 め ら れ た 。120

mg/kg

群は

48

時間でコントロール群の位置に近づい

ていることから、動物が薬物の影響から回復している と考えられた。一方、240 mg/kg群は48時間で回復傾 向が認められたが、

120 mg/kg

群ほどの回復ではな かった。この結果は毒性評価の結果を反映するもので あった(Fig. 2)。なお、

GC-MS

による測定でも同様の 結果が得られた。

次に、ヒドラジン投与群において、クラス分けに寄 与する代謝物を調べたところ

2-アミノアジピン酸、チ

ロシン、シトルリン、クレアチン、β

-

アラニンをはじ めとする複数の代謝物がクラス分けに寄与するもの

Table 1 Alterations in the parameters of blood biochemistry in rats treated with hydrazine

48 hr Dose (mg/kg)

240 41±11.4

##

18±5.2

##

4.8±0.16

##

43±16.3

##

96±21.6

##

23±8.4

##

120 60±10.3 16±2.2

##

5.0±0.22 65±8.0 112±13.9 38±27.8

#

0

78±36.4 26±2.5 5.2±0.25

70±8.7 127±15.4

76±39.7 24 hr

Dose (mg/kg)

240 21±2.9**

20±6.7 4.5±0.23**

31±10.3**

77±18.0**

37±19.4 120

27±5.5**

18±2.1**

4.9±0.12 49±9.8**

103±14.4*

29±11.4*

0 67±10.6

25±2.4 5.0±0.12

68±8.7 120±8.3 53±23.0 AST (mg/dL)

ALT (mg/dL) TP (g/dL) TC (mg/dL) PL (mg/dL) TG (mg/dL)

AST: aspartate aminotransferase, ALT: alanine aminotransferase, TP: total protein, TC: total cholesterol, PL: phospholipid, TG: triglyceride

* : significantly different from the control group (24 hr) (p < 0.05), ** : significantly different from the control group (24 hr) (p < 0.01)

# : significantly different from the control group (48 hr) (p < 0.05), ## : significantly different from the control group (48 hr) (p < 0.01)

Table 2 Treatment-related histopathological findings of the liver in rats treated with hydrazine

8 48 240 mg/kg

2 2 1 2 2

3 2 0 8

24

2 3 1 5 2

3 0 0 8

48 120 mg/kg

3 0 0 0 0

0 0 5 8

24

3 2 0 1 2

3 0 2 8

48 0 mg/kg Groups

0 0 0 0 0

0 0 8 8

b)

24

a)

0

c)

0 0 0 0

0 0 8 Histopathological findings

Grade

Fatty degeneration, midzonal Slight

Mild Moderate Anisonucleosis

Slight Single cell necrosis

Slight

Increase, Pas-positive granules, centrilobular Slight

Mild

No abnomality detected a) Hours after dosing

b) Number of animals examined

c) Number of animals bearing the lesion

(3)

73

住友化学 2010-II

メタボローム解析技術の開発と今後の展望

み合わせることにより、さらに有効な手段として活用 できると考えられる。今後も継続的に最新の情報を収 集しながら技術の更新に努めると共に、ノウハウを蓄 積していくことが必要である。メタボロミクスを用い ることにより、医薬品や農薬の研究開発の成功確度の 向上に寄与することが期待される。

引用文献

1) J.K. Nicholson, J.C. Lindon, and E. Holmes, Xenobi- otica, 29 (11), 1181 (1999).

2) D.G. Robertson, M.D.Reily, R.E. Sigler, D.F. Wells, D.A. Paterson, and T.K. Braden, Toxicol. Sci., 57, 326 (2000).

3)

森田 宏俊, 老年精神医学雑誌, 20 (9), 953 (2009).

4) L.A. Paige, M.W. Mitchell, K.R.R. Krishnan, R. Kad- durah-Daouk, and D.C. Steffens, Int. J. Geriatr. Psy- chiatry., 22, 418 (2007).

5) N. Greenberg, A. Grassano, M. Thambisetty, S. Love- stone, and C. Legido-Quigley, Electrophoresis., 30 (7), 1235 (2009).

として認められた。これら代謝物の変動は、ヒドラジ ンが種々の代謝酵素の活性を変化させ、アミノ酸代謝

TCA

回路、尿素回路の代謝に影響を与えたことによ り毒性が惹起されたものと考えられた。変動した代謝 物は、ヒドラジン投与による肝毒性を評価する際のバ イオマーカー候補の可能性が示唆された。

我々が用いた

LC-MS

および

GC-MS

による測定結果 は、既に報告されている1

H-NMR

によるものとよく一

致し7), 8)、新たな変動を示した代謝物も複数観測され

たことから、汎用性の高い

LC-MS

GC-MS

を用いた メタボローム解析が十分に利用できる技術であるこ とが分かった。また、メタボローム解析は化学物質投 与に関連するバイオマーカー探索や毒性メカニズム の解明に有用な手段であることが示された。

おわりに

メタボロミクスはバイオマーカー探索や毒性メカ ニズムの解明といった化学物質の生体への影響を評 価する手段として実用化がすでに始まっている。他の オミックス評価(ゲノミクス、プロテオミクス)と組

Fig. 2 Principal components analysis (PCA) scores plot of LC-MS spectra of plasma data from rats treated with hydrazine.

Key: L = low dose (120 mg/kg), H = high dose (240 mg/kg).

14 16 18 20 22 24 26

12 10 8 6 4 2 0

−2

−4

−6

−6 −4 −2 0 2 4 6

D1 Score

8 10 12 14 16 18 20 22

−8

D2 Score

H-24hr

H-48hr L-24hr

L-48hr Control

Control

Rat-P-21

C-24hr L-24hr H-24hr C-48hr L-48hr H-48hr

Rat-P-27

Rat-P-25 Rat-P-28

Rat-P-23 Rat-P-24 Rat-P-13

Rat-P-17

Rat-P-14 Rat-P-15 Rat-P-46

Rat-P-11 Rat-P-41

Rat-P-12

Rat-P-22

Rat-P-26

Rat-P-54 Rat-P-53

Rat-P-52

Rat-P-56 Rat-P-58

Rat-P-55 Rat-P-51

Rat-P-57

Rat-P-34

(4)

7) A.W. Nicholls, E. Holmes, J.C. Lindon, J.P. Shockcor, R.D. Farrant, J.N. Haselden, S.L.P. Damment, C.J.

Waterfield, and J.K. Nicholson, Chem. Res. Toxicol., 14, 975 (2001).

8) M.E. Bollard, H.C. Keun, O. Beckonert, T.M.D.

Ebbels, H. Antti, A.W. Nicholls, J.P. Shockcor, G.H.

Cantor, G. Stevens, J.C. Lindon, E. Holmes, and J.K.

Nicholson, Toxicol. Appl. Pharmacol., 204, 135 (2005).

6) A. Sreekumar, L.M. Poisson, T.M. Rajendiran, A.P.

Khan, Q.Cao, J. Yu, B. Laxman, B. Laxman, R, Mehra, R.J. Lonigro, Y. Li, M.K. Nyati, A. Ahsan, S.

Kalyana-Sundaram, B. Han, X. Cao, J. Byun, G.S.

Omenn, D. Ghosh, S. Pennathur, D.C. Alexander, A.

Berger, J,R. Shuster, J.T. Wei, S. Varambally, C.

Beecher, and A.M. Chinnaiyan, Nature., 457, 910 (2009).

メタボローム解析技術の開発と今後の展望

住友化学 2010-II

74

Table 2 Treatment-related histopathological findings of the liver in rats treated with hydrazine
Fig. 2 Principal components analysis (PCA) scores plot of LC-MS spectra of plasma data from rats treated with  hydrazine

参照

関連したドキュメント

 毒性の強いC1. tetaniは生物状試験でグルコース 分解陰性となるのがつねであるが,一面グルコース分

一部の電子基準点で 2013 年から解析結果に上下方 向の周期的な変動が検出され始めた.調査の結果,日 本全国で 2012 年頃から展開されている LTE サービ スのうち, GNSS

本論文での分析は、叙述関係の Subject であれば、 Predicate に対して分配される ことが可能というものである。そして o

析の視角について付言しておくことが必要であろう︒各国の状況に対する比較法的視点からの分析は︑直ちに国際法

これら諸々の構造的制約というフィルターを通して析出された行為を分析対象とする点で︑構

HACCP とは、食品の製造・加工工程のあらゆる段階で発生するおそれのあ る微生物汚染等の 危害をあらかじめ分析( Hazard Analysis )

※ CMB 解析や PMF 解析で分類されなかった濃度はその他とした。 CMB

1970 年代後半から 80 年代にかけて,湾奥部の新浜湖や内湾の小櫃川河口域での調査