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質問で「気にしない」という意見も比較的高い割合(

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要約

 本研究は,ブータン王国(以下,ブータン)における外国文化の広まりに対するブータ ンの人びとの認識を主題とする.ブータン政府は,1960年代より近代化政策を推し進め る一方で,外国の要素がブータンの伝統文化と人びとに与える影響を危惧し,一定以上の 関与を阻止する方針を示してきた.本研究は,学校教師と学生を対象に外国の技術と外国 人との人的交流に対する意識調査をおこない,その結果を,外国語(英語)の言語的影響 についての意識調査と比較した.

本研究の結論として,教師は,言語的影響については肯定も否定もしなかったが,技 術の流入には肯定,人的交流に際しては否定的な見解を明示した.一方,学生は,人的交 流には全面的に賛成したが,言語的影響には敏感な反応を示した.言語を技術同様実用 ツールとみなす教師に対し,国語を国家アイデンティティの核とする国民教育を受ける現 在の学生は,言語をアイデンティティの基盤とする思考を育み,それが国語への影響を懸 念する姿勢を生んだと考えられる.

1.はじめに

 はじめに,本研究の研究背景として,ブータンの近代化政策の歴史的展開と,ブータン における外国語と外国文化の流入の現状,およびそれに対する政府の対応を概説する.そ のうえで本研究の目的と研究課題,構成を述べる.

1.1 ブータンの近代化政策と外国文化への対応

本研究は,ブータン王国(以下,ブータン)における外国文化の受容と広まりに対す るブータンの人びとの認識を主題とする.ブータンは,1960年代より近代化政策を開始 し,現在,急速な近代化の過渡期的状況にある.第1次五ヵ年計画(1961-1966)開始と 同時に本格的な学校教育を導入し,1964年からは学校教育の全課程で英語を教授言語と して採用した(van Drieam1994: 95).1971年に国連に加盟して国際社会の一員に加わっ たことを皮切りに1974年には外国人観光客の受け入れを,そして1999年にはTV放送 とインターネットを解禁した.「(インターネットの)導入には伝統文化保護や一般人の

佐藤美奈子

―英語借用語に対する意識との比較から―

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社会的な生活に与える予想不可能な影響が危惧された」(平山2019: 172).しかしながら,

1990年の「万人のための教育(Education For All: EFA)」 1(UNESCO1990)以来,むし ろ情報格差を問題視し,その解消に積極的に努めた国連開発計画の動きに対して国王が決 断した形となったのである.

その一方で,ブータン政府は,第6次五ヵ年計画(1987-1992)において One People, 

One Nation をスローガンに「国家アイデンティティの維持と促進を国家目標」(平山 

2019: 130)とする姿勢を前面化した.そして伝統文化復興政策の一環として1989年には

「民族衣装の着用,国語ゾンカ語の習得,伝統的礼儀作法の順守」が布告された.国内に 向けた伝統文化保護政策と合わせて外からの影響に対する警戒と規制も強化されてきた.

ブータンが外国人旅行者に対して「公定料金制度」という,いわゆるパッケージツ アーという形でのみ入国を許可していることは知られている.具体的には,公定料金2を 支払うと,そこに宿泊,食事,移動の車,運転手,政府登録ガイドの費用が組み込まれて いるというものである.しかしながらそれにより,ブータン滞在中の全行程は,この政府 公認のブータン人ガイドと運転手の同伴となり,あらかじめ設定した旅程にしたがった行 動となる.

このような行動の監視と規制は観光客に対してだけでなはなく,ブータンに在住する 外国人も自由な国内移動が許可されているわけではない.長年ブータンに技術者として滞 在する平山(2019)によると,国内在住の外国人がティンプーを離れて南や東へ移動する 際には道路通行許可証が必要であるという.「ワークパーミットは特定の仕事に与えられ るものとし,その有効範囲は業務に限られた区域となる」(2015年12月改訂出入国管理 規則及び規約: 127),という規定による.たとえそれが自国への無償の支援であったとし ても,定められた範囲内での業務に制限され,それ以上のかかわりや一般の人びとへの影 響は許可しないという姿勢である.

また,1960年代から1990年代にかけてブータンの近代化の事始めを支えてきたのは,

インド人労働者やインド人技術者であるといわれている(平山2019).しかしながら,

2003年度の通常国会においてインド人労働者の総数が制限されたうえ,「国全体の外国人 労働者受け入れ上限が4万5000人と設定された」(平山2019: 216).

現 在 も, 日 本 のJICA, オ ラ ン ダ のSNV, デ ン マ ー ク のDANIDA, ス イ ス の

HELVETASなど,多くの援助団体が資金面だけでなく人的援助としてブータン現地で近

代化を支援している.しかしながら「ブータン人事院は,外国人技術者の総数もインド人 のように上限を作るべきだと考えている」(平山2019: 264)ということである.ある国際 団体に属するボランティアがブータンで禁止されている宗教を布教し,政府方針をイン ターネット上で批判したという理由で撤退を余儀なくされた事例もある.その原因とし

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て,「外国人がブータンに与える影響が大きいことや,自国の技術者が育ちつつあること」

(平山2019: 264)が挙げられている.

1.2 外国語と外国文化

 ブータンでは,学校教育の本格的な導入に際して英語を教授言語として導入した.ブー タン固有の言語は,その後国語に制定されたゾンカ語も含めて文字がなく,近代的語彙や 学問的語彙が欠ける等,教授言語として不足があったからである.その後、英語は,学校 教育を通して普及し,若者を中心として国語であるゾンカ語に並ぶブータンの2つの公用 語のひとつに位置付けられるまでになった(Wangdi 2015).

その一方で,政府は,1978年国王宣旨で全国民のゾンカ語の習得を義務化して以来,

「ゾンカ語はブータン人のアイデンティティの最も重要な要素である」(1993年国王憲章)

と据え,ゾンカ語を一元的に推進する姿勢を明示し,英語の隆盛に対して繰り返し警戒 を示してきた.1993年の国王憲章でブータン人のアイデンティティの主要な要素と位置 づけ,2005年国会ではすべての公的会議におけるゾンカ語化を決議した.さらに2018年 には首相自ら1993年の国王憲章を再確認し,2005年の決議の遵守,公務員のゾンカ語使 用厳守を宣言した.ゾンカ語に大量の英語借用語や借用表現を織り込んだ「「混成言語」

(mixed language)(Matras & Bakker 2003: 1)」は,「ゾングリッシュ(Dzonglish)」と 呼ばれ,「国語の崩壊を招く(making the National Language corrupt)3と国営TVで番 組化されたほか,ブータン人研究者や教育関係者からは,「国語の劣化」(Namgyel 2003)

を指摘する声もある.

ブータンの近代化の事始めにおいて唯一の情報ツールとしてあった英語は,その後,

ブータンの自国の言語,すなわち国語であるゾンカ語の育成と整備が進むにつれて自国の アイデンティティに抵触する存在と位置づけられ,警戒と排除の対象となったのである.

その図式は,前項の,ボランティアも含めてブータンの近代化を支えてきた外国人労働者 や外国人技術者等に対する対応と同様である.資金的にも人的援助としてもその外国の尽 力に大きく依存しつつも,自国の労働者や技術者,政治の中枢となる人材の生育に伴い,

少なくともマクロな政府レベルの見解として,それは,警戒と排除の対象となっていった のである.

では,一般のブータンの人びとは,今やブータン国内に溢れるばかりとなった外国文 化や「ブータン全体の非農業労働者人口の約30%になる」(平山2019: 262)といわれる 外国人労働者,そのほか現在もブータンの発展に貢献する国際機関の外国人技術者やボラ ンティアスタッフの存在をどのように思っているのだろうか.本研究は,政府の視点から ではなく,一般の人びと,特に英語を習得し,自ら世界とつながる手段をもつに至った,

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比較的若い世代の人びとを対象に,ブータン国内における外国文化の流入と広まりに対す る意識と見解を明らかにする.

1.3 本研究の目的と研究課題

本研究の目的は,ブータンにおける外国文化の受容と広まりと,それに対するブータ ンの人びとの認識を明らかにすることである.本研究は,ブータンにおける外国語と外国 文化の流入と受容に対する人びとの意識を明らかにする一連の研究の一環としてある.こ れまでの研究では,ゾンカ語文中に大量に織り込まれる英語借用語や借用表現に対する人 びとの認識に焦点をあてることにより,学校教授言語として導入された英語の流入と受容 に対するブータンの一般の人たちの意識を明らかにした(Sato 2018).本研究はその後編 として,言語以外の外国の影響に対する人びとの意識に焦点をあてる.マクロレベルにお けるブータン政府の対応とミクロレベルの人びとの意識との相違,言語(英語)の流入と 言語以外の外国要素の流入に対する意識の相違が考察の着眼点となる.

具体的な研究課題として,第1に言語以外の外国からの影響要素として,外国の技術 の流入と外国人の流入および人的交流に対する見解を明らかにする.第2に外国語の流入 とその影響として,英語および英語借用語の使用に対する見解を調査した先行調査の結果 と比較することにより外国の言語の流入と外国の文化の流入に対する人びとの見解の相違 を明らかにする.

本研究では,これらの研究課題を,世代間の変化も含めて考察する.ブータンでは,

世代により教育の普及の程度が異なるだけでなく,受けてきた教育の質も異なる.教育第 一世代にあたる現在の親世代および現役教師世代は,国民全員が共通して用いることがで きる共通語の普及を焦点とする教育を受けてきた世代である.言語の実用機能に主眼が あった時代である.

一方,現在の学生世代にあたる教育第二世代は,ゾンカ語を国家アイデンティティの 核とする国民教育が本格化した時代の教育を受けている.言語の象徴機能に焦点が移った 時代である.また両世代では,海外への渡航の程度も大きく異なる.限られた優秀な人材 のみが国外の高等教育機関へ国費留学していた時代と異なり,現在は,私費留学や労働者 として多くのブータン人が海外へ渡り,人的な交流をする時代となった.英語という世界 と交信するツールを身に着けた人たちにとって,どれほど世界と関わるか,伝統文化の保 護にせよ外来文化の阻止にせよ,もはや政府が統制する時代ではなくなりつつある.個々 人が自身の考えで判断し,世界との距離感や自身の立ち位置を決められる時代となったの である.

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1.4 構成

第2節では,バイリンガリズムとバイカルチュラリズムについての考えを概観したう えで,バイカルチュラリズムについての先行研究,および借用研究から言語の借用と文化 の借用に対する受容態度の相違に着目した先行研究を取り上げる.第3節では,本研究が ブータン現地でおこなった調査の概要と方法,および先行調査としておこなった外国語

(英語)の受容についての結果を概説する.第4節では,文化の受容に関する,本研究の 調査結果を示す.第5節では,考察として先行調査の結果と本研究の結果を総合し,言語 の受容と文化の受容の相違を明らかにする.最後に第6節にて本研究の結論を述べる.

2.先行研究

本節では,Grosjean(2008)のバイリンガリズムとバイカルチュラリズムについての考 えを概観したあと,借用に対する「対処行動」(川口2005: 314)の問題として,言語の受 容と文化の受容の相違に着目した先行研究を取り上げる.

2.1 複数の文化と複数の言語

2つ(もしくはそれ以上の)言語の知識をもち日常的にそれらを用いること,あるいは そのような人,すなわち「バイリンガル(bilingual)」と,同じく2つの(もしくはそれ 以上の)文化の知識をもち日常的にそれらに参加すること,あるいはそのような人,す なわち「バイカルチュラル(bicultural)」の関係がさほど単純なものではないことは,

Soffetti(1960)の Bilingualism and biculturalism をはじめとして,数々の先行研究が 指摘し,両者の相違や定義を試みてきた(例,Luna, et.al. 2008; Grosjean 2008; Nguyen  and Benet-Martínez 2007,他). 

Grosjean(2008)は,「バイリンガル」について,個人においては複数の言語体験が個 別に存在するのではなく,それらが相互関係を築き補完し合いながら全体として存在する とする,「ホリスティックな」バイリンガリズム観(Grosjean 2008: 9)を提唱した.バイ リンガルは,異なる目的(purposes),異なる生活領域(domains),異なる人びとに対し て2つまたはそれ以上の言語(もしくは方言)を使い分け,相補的に用いることにより,

すべての生活のニーズをカバーするという考えである.そして,ある基盤となる言語を用 いながらもそこに別の言語への切り替えや借用語,借用表現を織り込む独自の言語スタイ ルを「バイリンガルの言語様式(Bilingualʼs Language Mode)」(Grosjean 2008: 39)とし て提唱した.

一方,Grosjean(2008)は,「バイカルチュラルな人(bicultural person)」(Grosjean 

2008: 214)の特徴として,少なくとも次の3つを指摘する: 第1は2つもしくはそれ以

(6)

上の文化に日常的に参加する(take part)人,第2はそれぞれの文化に適応し(adapt),

適切な振る舞いができる人,第3は関係する文化の諸側面を組み合わせ統合できる

(combine and blend)人である.

 Grosjean(2008: 217)によると,「バイリンガリズムとバイカルチュラリズムは必ずし も共存しない」という.バイリンガルであってもバイカルチュラルではないという人が大 半であるが,なかにはバイカルチュラルであるがバイリンガルではない人もいるという.

 たとえば,Grosjean(2008)が挙げるのが,地元の言語とスワヒリ語と英語に堪能 な,あるケニア人(Kenyan)の例である.このケニア人は,トリリンガル(trilingual)

ではあるが,バイカルチュラルでもトリカルチュラル(tricultural)でもない.さらに Grosjean(2008)は,その逆のパターンとして,ユダヤ系フランス人の場合,フランス文 化の生活にアイデンティティをもち,かつユダヤ文化に対しても同様であるが,必ずしも フランス語とヘブライ語のバイリンガルとは限らないという.それは,国家レベルにおい ても同様であり,Grosjean(2008: 217-218)は,「共通語(common language)をもつ国 は多種多様にあるが,必ずしも共通文化(common culture)をもつとは限らない」,と指 摘する.

 バイリンガル同様,バイカルチュラルな人も,2つの(もしくはそれ以上の)文化がひ とりの人間のなかで融合し,統合した実体であることに変わりはなく,Grosjean(2008)

の「ホリスティックなバイリンガル観」(Grosjean 2008: 13)は,バイカルチュラルにも 当てはまる.ただし,バイリンガルは,モノリンガルモード4のときには1つの言語のみ を用いることで自身のなかにあるもうひとつの言語の存在を制御できるのに対し,バイカ ルチュラルな人の場合は,ジェスチャーや相手との距離の取り方,話題の選択等,日常の 振る舞いのここかしこに,もうひとつの文化の痕跡が残る.言語と文化では,統合のされ 方や具現化,制御の在り方は,必ずしも同一ではないということである.

2.2 バイカルチュラリズムに関する先行研究

 バイカルチュラリズムに関する先行研究は,多くが移民や,移民の流入を受けた原住民 等,2つの文化に接することになった人びとが、バイカルチュラルな環境のなかで移住先 の文化や新たに流入した文化に対して、どのような適応の段階をたどるかについて記述す るものが多くを占める.江淵(1994)は,移民や在留民の文化変容と異文化適応の類型化 を包括的に示し,バイカルチュラリズムの形成過程に焦点を当てた.Matsumoto(2011)

は,ニュージーランドにおいて「マオリとパケハ(ヨーロッパ系住民)とのバイカルチュ ラリズム」を標榜するマオリ側とニュージーランド政府が追求しようとする「多文化主 義」の相克を記述した.

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近年では,人びとの世界的移動の活発化を背景に,異文化間結婚家庭におけるバイカ ルチュラリズムを主題とする研究も盛んである.蔵本(2018,2019)は,日本在住の非ア ジア人の夫と日本人妻の異文化間結婚夫婦を中心にバイカルチュラリズムの形成(蔵本

2018)と,その後,子どもの就学に伴うアイデンティティのゆらぎ(蔵本2019)の過程

を追った.

2.3 言語の借用と文化の借用に関する先行研究

異文化の受容は,借用研究の一環として言語の受容と文化の受容に対する人びと の態度の相関性という観点からもおこなわれてきた.Sankoff(2002: 650)は,「借用

(borrowing)」という現象全体を個別言語の,特にバイリンガル個人による「その場限り の語の借用」から「共同体規模による正当性や合理性」の容認を要件とする社会的な受容 という一連の「過程(process)」と捉えた.同様に,川口(2005: 314)は,借用をバイリ ンガルのCSを契機とする4段階のプロセス―借用の成立,受容,評価,対処行動―とし て捉えた.

借用研究において,文化の受容に関する問題は,この4段階の最終段階である対処行 動において取り上げられてきた.たとえば,フランスでは,民間レベルでの言語純粋運動 が,結局,政府レベルでのフランス語擁護政策へと至った(川口2005).しかしながら,

フランス語話者と英語圏であるアメリカ文化に対する調査(Walker 1998; Bakke 2004,

他)によると,言語的借用に対して強い抵抗感をもつフランス語話者も,アメリカ文化の 受容に対しては肯定的な態度を示したという.現状として言語の受容,とりわけ言語の純 化運動とその言語圏の文化の受容に対する人びとの態度との相関性は実証されていない.

一方,タイを対象に外国語と外来語の受容について調査した坂本(1984)やパッタ ラーパン(2014: 253)の調査によると,タイでは外国語や外来語が氾濫している状態に 対してタイ語の乱れを批判する声はあるものの,外国語論争らしきものは起こっていな いという.パッタラーパン(2014: 253)は,「水と外来語は高きから低きに流れる」のが

「一般法則」であり,「文化的レベルが高いとされてきた西洋からの英語の影響」は理解し 得るものであると述べる.文化的レベル(の高さ)についての認識が外国語とその影響の 受容姿勢を促すというものである.

現在,借用語に対する対処行動をめぐる研究では,言語の受容と文化の受容に対する 意識の違いに着目した研究(Walker 1998; Bakke 2004)から,さらにある言語文化にお いて借用語の使用がもつ文体的効果に着目した研究(Ben-Rafael 2008)へと研究の幅が 広がっている.

(8)

3.調査概要

現地調査として,2017 年3月から 4月にかけて学校教育機関に在籍する教師と学生を 対象に,英語による質問紙調査と半構造化インタビュー調査をおこなった.以下,調査の 目的と,調査対象の設定と分析の着眼点,調査方法,質問項目の詳細を示す.また,外国 文化の受容に関する本研究の意識調査の結果と比較するために,本研究の調査と同時にお こなった,外国語の受容に対する意識調査の概要と結果についても概説する.

3.1 調査の目的,結果の分析における着眼点と調査対象の設定

調査は,ブータンにおける外国文化の流入に対する人びとの意識を明らかにすること を目的とする.調査結果の分析にあたっては,ブータン社会における学校教育の普及の度 合いと,受けてきた教育の質の相違が及ぼす影響に着目し,外国文化の影響に対する意識 や見解の相違を考察する.そのために,調査対象は,教育第一世代にあたる学校教師と教 育第二世代にあたる学生を対象とした.ともに英語もゾンカ語も可能な世代として,ブー タンにおける新しい複言語話者と位置付けられる世代である.

それぞれの内訳は,教師は,大学教師62人,高校教師45人,職業技術校教師5人,

ノンフォーマル校教師3人,計115人である.学生は,大学生250人,高校生 157人,

計407人である.平均年齢は,教師が42.4歳,学生は19.7歳(大学生:平均20.3歳,高 校生:平均18.7歳)である.

学生については大学生と高校生の2つの段階を設定した.専門性の高い教育を受ける 大学生は,専門語彙や専門技術に対処する機会も多いことが予想され,高校生とは異なる 意識をもつ可能性があると考えた.さらに大学生については専門性の違いからも見解が異 なる可能性があると考え,ブータン王立大学の6つの専門学部からインフォーマントを選 出した.高校生については地域性と学力レベルを考慮し,ゾンカ語を地域言語とするゾン カ語圏と民族語を地域言語とする非ゾンカ語圏(民族語地区),国内有数の公立高校と標 準レベルの私立高校から偏りのないようにした5.以上により(1)教育第一世代と第二 世代,(2)第二世代では高校生と大学生,(3)大学生については専門性,という3つの観 点に着目して分析をおこなう6

現在のブータンにおける高等教育(大学)への進学率は23.6%,中等教育の就学率

(Class VII〜XII)は75.7%(PPD MoE 2020)である.成人(23歳以上)の半数以上,

50.2%(NSB2017)が教育経験をもたない現状にあって,本調査が対象とする学校教師,

大学生,高校生は,少なくとも現状において,社会の限られた層である。したがって,本 調査のインフォーマントから導き出される外国文化に対する意識や見解には,ブータンに あって英語を使用可能で,近代的な技術や知識を学ぶ経験をもつ限られた層であること

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の,自他の評価がたぶんに影響している.必ずしも現在のブータンの全国民の標準的見解 を示すものでないことに留意する必要がある.

3.2 調査方法と質問項目

調査は,後述の外国語の受容に対する意識調査の分も併せ,事前に各学校へ質問紙を 郵送しておき,調査スケジュールや対象者の調整を依頼した.そして本論文の筆者が順次 学校を訪問した際に,調査対象者に直接,調査の概要や主旨を説明したうえで,質問紙へ の回答を依頼した.回答用紙は,その場で回収し,併せて補足のインタビュー調査をおこ なった.

本調査の質問紙調査における質問は,2問である.質問1は外国の技術の流入について,

質問2は外国人(外国人観光客,技術者,単純労働者)の流入および人的な交流による影 響についてである.インタビュー調査では,質問紙調査における回答の背景や理由等につ いてたずねた.

3.3 外国語の受容に対する意識調査

 外国語の受容に対する意識調査は,本研究と同じ教師と学生を対象とし,外国語(英 語)の受容に対する意識を調査した.質問は,5問である.英語借用語の使用の変化に対 する認識(質問1),自身/他人の英語借用語の使用に対する心的態度(質問2),英語借 用語の増加に対する見解について,今後,今以上に英語借用語が増えることに対してど う思うか(質問3),英語借用語の使用に対する評価について,ゾンカ語のなかで英語借 用語を用いることの利点と問題点についての見解(質問4),英語借用語に対する今後の 対応についての見解(質問5)である.以下,当調査より,外国語(英語)の流入とその 結果生じた借用語に対する意識について明らかになったことを概説する(詳細は,Sato  2018参照).

外国語の受容に対する意識調査からは,次の2点についての世代間の相違が明らかに なった.第1は「英語借用語の使用に対する自覚と認識」について,第2は「英語借用語 の使用がもつ意味と目的」についてである.第1に「英語借用語の使用に対する自覚と認 識」について,若者世代,特に高校生には,英語借用語の使用に対する肯定/否定,好き

/嫌いの意識が強く自覚され,またそれを明示する傾向がみられた.当傾向の背景には,

ゾンカ語の近代的言語としての整備が進んだことがある.ゾンカ語の語彙の拡充が進み,

英語と併用する形で学校教育に導入された時代に生まれ育った現在の学生は,ゾンカ語だ けで表現を完結させるか,それとも英語借用語を交えて伝えるか,ある程度まで選択可能 な立場にある.そのことが,英語借用語の存在やそれを使用することによる効果,目的,

(10)

あるいは問題等に対する意識を強め,明確な考えをもつに至ったと考えられる. 

第2に「英語借用語の使用がもつ意味と目的」について,ゾンカ語の言語としての整 備が進み英語借用語を用いるか否かの選択に,部分的ながらも個人の選択の余地が生まれ たことにより,若者世代は,英語借用語の使用によって生まれる修辞上の効果やその「指 標性」(Ochs 1990)を意図した戦略的使用を自覚的におこなう傾向を示した.英語借用 語の多用は,少なくとも現在のブータンにあってコミュニケーションの対象を事情に通じ た仲間内に限定する機能,すなわちCalvet(1999)のいう「群居機能」をもつ.限定さ れた境界の内側に位置する者たちにとって,それは,仲間意識を高める効果を生む.さら にその対象から排除される者の存在も視野に含めて考えたなら,それは,内側であるとい う自身の特権意識を高揚させる二重の効果を生むことになる.ゾンカ語ではあるがその標 準形から少し逸脱した英語借用文は,「普通」から少し異なる「自分たち」でありたい,

若者たちの心理に応えたものともいえる.

4. 本研究の調査結果―言語以外の外国の影響に対する見解

 言語以外に対する外国の影響として,外国技術の流入(質問1)と外国人の流入および 人的交流(質問2)による影響をたずねた結果を示す.図1,図2は,大学生,高校生,

教師の属性別に全体を集計した結果を示す.図3,図4は,大学生を大学別に集計し,専 門領域によって見解に相違があるかに着目する. 

63.7 44.5

72.0

31.0 47.8

20.7

5.3 7.7 7.3

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

教師 n=113 大学生n=247 高校生n=150

外国からの技術の流入

積極的に受け入れる 良くないが必要 悪い・阻止すべき

「高校生7人,大学生3人,教師2人,無回答」

図1 外国からの技術の流入に対する見解

(11)

11.3

51.6 64.0

23.5

33.3 22.0

65.2

15.0 14.0

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

教師 n=115 大学生n=246 高校生n=150

外国人の流入・人的交流

積極的に受け入れる 良くないが必要 悪い・阻止すべき

「高校生7人,大学生4人,無回答」

図 2 外国人の流入・人的交流に対する見解

37.5 38.0

66.7 34.6

50.0 52.3

62.5 60.0

33.3 50.0

40.5 38.6

0.0 2.0 0.0 15.4

9.5 9.1

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0 パロ教育大学 n=32

言語文化学院 n=50 自然資源科大学 n=28 王立保健医学院 n=49 国立伝統医学院 n=43 シェルブツェ大学n=45

大学生 専門別―外国からの技術の流入

積極的に受け入れる 良くないが必要 悪い・阻止すべき

「王立保健医学院 3人無回答」

図 3 大学生専門別 外国からの技術の流入に対する見解

(12)

54.8 48.0

50.0 48.1

61.9 64.4

35.5 36.0

38.5 34.6

21.4 20.0

9.7 16.0

11.5 17.3 16.7 15.6

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0

パロ教育大学 n=32 言語文化学院 n=50 自然資源科大学 n=28 王立保健医学院 n=48 国立伝統医学院 n=43 シェルブツェ大学n=45

大学生 専門別―外国人の流入・人的交流

積極的に受け入れる 良くないが必要 悪い・阻止すべき

「王立保健医学院 4人無回答」

図 4 大学生専門別 外国人の流入・人的交流に対する見解

4.1 外国からの技術の流入

 図1より,外国からの技術の流入について,どの世代・属性においても,少なくとも

「悪い・阻止すべき」と回答した割合は,いずれも1桁である(大学生19人7.7%,高校

生11人7.3%,教師6人5.3%).特に高校生と教師は高い割合で「積極的に受け入れるべ

き」と回答している(高校生108人72.0%,教師72人63.7%).大学生については,「積 極的に受け入れるべき」と「良くないが必要」が拮抗する状況である(それぞれ110人 44.5%,118人47.8%).

 さらに図3を見ると,大学生では,専門分野により外国の技術の流入に見解の相違があ る.教育系のパロ教育大学と人文系の言語文化学院では,「良くないが必要」が半数を超 えている(パロ教育大学62.5%,言語文化学院60.0%).一方,自然系の自然資源科大学,

工業系のシェルブツェ大学では,ともに「積極的に受け入れるべき」が半数を超えた(自 然資源科大学66.7%,シェルブツェ大学52.3%).医療系では,いささか意外であったの は,国立伝統医学院は「良くないが必要」が50.0%,さらに「悪い・阻止すべき」が全大 学で最も高く,唯一2桁となったことである(15.4%).国立伝統医学院は「積極的に受け 入れる」と「良くないが必要」が拮抗し,前者が50.0%,後者が40.5%である.

 国立伝統医学院への訪問時に講師の先生にインタビューした際,先生が特に強調された のは,いかにブータンの伝統医学と西欧の医学を融合していくか,ということであった.

(13)

英語による講義を見学した際にも,薬草名等はゾンカ語で呼ばれていた.したがって,本 研究で考察してきた英語借用語の状況とは逆に,英語による会話のなかにゾンカ語の単語 が挿入される形であった.ゾンカ語か英語借用語か,ブータン伝統文化か西欧近代文化 か,といった半ば緊張を帯びた二項対立的雰囲気はなく,柔軟な融合を教育的に推進して いく姿勢が当結果に表れたのではないかと思われる.

4.2 外国人の流入と人的交流

 英語借用語に関する先行調査結果からは,若い世代,特に高校性は,良い/悪い,好き

/嫌いの見解を明確に示す傾向が指摘された.教師は,いずれの質問においてもさほど明 確な姿勢を示さず,むしろ英語借用語の問題に対する自覚や意識が低いとも思われた.ま た,本調査の先の外国技術についても,教師は,大学生よりも「積極的に受け入れる」を 支持する意見が多い(図1).しかしながら,こと外国人の流入に関しては,いささか異 なる結果となった(図2).

 図2のように,外国人の流入・人的交流を「積極的に受け入れる」と回答した割合が 最も多かったのは,高校生96人64.0%である.大学生は127人51.6%と,高校生よりも 低くなるが,「積極的に受け入れる」と「良くないが必要」を合わせると,高校生129人

86.0%,大学生209人84.9%となり,高校生大学,大学生ともに高い割合を占めた.一方,

教師は,「悪い・阻止すべき」という回答が75人65.2%と過半数にのぼった.外国人の流 入に関して,全体で82人からコメントが寄せられた.内訳は,学生からが69人84.1%,

教師からは13人15.9%である.

 選択による回答同様にコメントにおいても学生と教師では対照的な傾向があった.学生 からのコメントでは,「(外国人を)積極的に受け入れる」べき,とする理由や利点を述べ るものが大多数を占めた(学生から寄せられた全コメント69人中「積極的に受け入れる」

に関するコメントが53人76.8%,ほかの16人23.2%は「良くないが必要」に関するもの であった).

 具体的には,「外国の人たちと直に接触する機会をもつことで,世界のさまざまな意見 や思想を知ることができる」「国際的な考え方を身につけることができる」「視野を広げる ことができる」等,人的交流による思想的な影響を肯定するものであった.また,「外国 人観光客の増大は,ブータンの重要な観光収入になる」という意見,「外国の人がブータ ンに関心を示してくれると,ブータンの人たちの自信になるし,ブータンに対する愛情が 深まる」という意見もあった.

 対照的に,教師からのコメント13人中8人(61.5%)は,技術や言語(英語)といった 間接的な流入とは異なり,外国人自身が直接ブータンに入ることによる思想的影響を懸念

(14)

するものであった.具体的には「西欧の考え方や服装がブータンの伝統文化に悪影響を及 ぼす」「生活の乱れにつながる」「若者で真似をするものが増える」等である. 

 ただし,学生も,技術の流入に関しては「悪い・阻止すべき」という見解は,1桁台

(大学生7.7%,高校生7.3%)であり,非常に低い割合であったが,外国人の流入について

は「積極的に受け入れるべき」という見解が高くなったのと同時に「悪い・阻止すべき」

という意見も若干,高くなる傾向が示され,意見が二分される傾向があることが示され た.

 大学生の専門分野別には,技術の流入(図3)に関しては有意な相違がみられたが,外 国人の流入および人的交流(図4)に関しては,有意な相違は指摘されない.いずれの専 門領域においても「積極的に受け入れるべき」という見解が最多であり,50%前後となっ ている.半数を超えたのは,パロ教育大学,国立伝統医学院,シェルブツェ大学である

(それぞれ54.8%,61.9%,64.4%).パロ教育大学は,技術に関しては「良くないが必要」

が「積極的に受け入れる」を上回り,過半数であったが,人的な交流に関しては逆の結果 となった.

5.考察―言語の借用と外国技術・外国人の流入に対する認識の相違

 英語借用語についての先行調査(Sato 2018)と,外国技術と外国人の流入および人的 交流についての本研究の調査を総合して,言語の影響とそれ以外の影響についての認識の 相違を考察する.方法は,先行調査で「英語借用語の増加に対する見解」についてたずね た結果で,「好ましい」「どちらかというと好ましい」「どちらかというと好ましくない」

「好ましくない」のそれぞれに回答した人が,本研究の質問1「外国技術の受け入れ」と

質問2「外国人との人的交流」についてはどのように回答したかを比較する方法を採る.

(15)

5.1 英語借用語の増加に対する見解

 図5は,外国語の受容に対する意識調査(質問3)で「英語借用語の増加に対する見 解」をたずねた結果である.

2.6 6.6

12.7

62.5 7.6

18.2 9.6 10.8 35.7

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

n=512

教師 n=115 大学生n=240 高校生n=157

英語借用語の増加に対する賛否

好ましい どちらかというと好ましい どちらかというと好ましくない 好ましくない

7.6 31.4

38.3 20.0

43.9

42.8 50.0

「大学生10人 無回答」

図 5 英語借用語の増加に対する賛否

英語借用語の増加について,全体として「好ましい」「どちらかというと好ましい」を 合わせた回答は39.0%である.一方,「どちらかというと好ましくない」「好ましくない」

を合わせた回答は61.0%,と否定的な見解が半数を超えている.ただし,所属,世代によ る意見の相違があり,高校生は「好ましい」「どちらかというと好ましい」を合わせた肯 定的見解が 56.6%と半数を超えるが,大学生と教師は逆に「どちらかというと好ましく ない」「好ましくない」を合わせた否定的見解がそれぞれ73.3%,59.6%と過半数である.

また,高校生の特徴として,肯定的見解が過半数である一方で,「好ましくない」とい

う見解も35.7%と,3分の1を超える.高校生は,質問全般について肯定か否定か,意見

がはっきりしている傾向がある.それに対して大学生と教師は,両極の意見は1桁もしく

は10%前後であり,「どちらかというと好ましい」「どちらかというと好ましくない」と

する中間的見解が大学生では82.5%,教師に至っては88.3%と大多数を占める.

大学生は,専門的な勉強,学問が進むなかでゾンカ語の対応語句がなく,また借用翻 訳も追いつかない状況で英語借用語の使用に頼らざるを得ない状況にあることが「肯定は しないが否定もできない」という回答を導いたと思われる.一方,教師については,先の

(16)

質問で「気にしない」という意見も比較的高い割合(21.7%)を占めたことを考えると,

英語借用語の増加の現状に対する認識,意識そのものが低いことが,明確な意見を示さな い要因となっている可能性がある.

5.2 英語借用語・外国技術・外国人の流入に対する認識の相違

表1から表3は,「英語借用語の増加」について,◎:好ましい, 〇:どちらかという と好ましい, △:どちらかというと好ましくない, ×:好ましくない,と回答した人が,

「外国技術の受け入れ」と「外国人との人的交流」についてどのような態度を示したかを 帰属別に示す.表1は大学生,表2は高校生,表3は教師の結果をそれぞれ示す.

表 1 英語借用語,外国技術,外国人の流入 総合 (大学生)

◎:好ましい,〇:どちらかというと好ましい,△:どちらかというと好ましくない,×:好ましくない 積極的:積極的に受け入れる,必要:良くないが必要,悪い:悪い・阻止すべき (以下表 9, 10 同様).

借用語の増加  n=240

外国技術 n=247 外国人 n=246

積極的102 必要118 悪い19 積極的93 必要33 悪い21

◎  16 14 2 0 16 16 0 0 16

〇  48 44 4 0 48 42 6 0 48

△150 42 100 0 142 64 73 19 156

×  26 2 12 19   33  *8無回答 5 3 18 26 240 102 118 19 247 127 82 37 246

* 「借用語」調査で「無回答」だった10人のうち,8人が「外国技術」では「必要」に加わり,6人が「外国人」

では「積極的受け入れ」に加わった.

表 2 英語借用語,外国技術,外国人の流入 総合 (高校生)

借用語の増加 n=157

外国技術 n=150 外国人 n=150

積極的108 必要31 悪い11 積極的96 必要33 悪い21

◎  20 20 0 0 20 20 0 0 20

〇  69 69 0 0 69 66 3 0 69

△  12 9 3 0 12 5 5 2 12

×  56 10 28 11   49  *7無回答 8 25 16   49  *7無回答

157 108 31 11 150  *7無回答 96 33 21 150  *7無回答

*「借用語」で「好ましくない」だった7人が,「外国技術」,「外国人」で無回答となった.

(17)

表 3 英語借用語,外国技術,外国人の流入 総合 (教師)

借用語の増加 n=115

外国技術 n=113 外国人 n=115

積極的72 必要35 悪い6 積極的13 必要27 悪い75

◎ 3 3 0 0 3 3 0 0 3

〇  44 40 2 0   42  *2無回答 10 24 10 44

△  57 29 28 0 57 0 3 54 57

×  11 0 5 6 11 0 0 11 11

115 72 35 6 113  *2無回答 13 27 75 115

*「借用語」で「どちらかというと好ましい」だった2人が「技術」で無回答となった.

 大学生は,英語借用語について好意的(好ましい・どちらかというと好ましい)であっ た人は,外国技術,外国人の流入に対しても「積極的に受け入れる」と回答している.逆 に,英語借用語については否定的(好ましくない)であった人でも,大学生では外国技術 では2人,人的交流では5人,高校生では外国技術では10人,人的交流では8人が「積 極的に受け入れる」と回答しており,英語借用語よりも,外国技術,人的交流により好意 的傾向がみられる.

 一方,教師は,借用語で「どちらかというと好ましくない」と回答した57人のうち,

外国技術では半数の29人が「積極的に受け入れる」と回答し,全般的に評価が上がって いるのに対し,人的交流では,英語借用語では「どちらかというと好ましい」であった 44人のうち,24人は「良くないが必要」,10人に至っては「悪い・阻止すべき」と大き く評価を下げた.

 英語借用語においても否定的であった人は,ほぼ全員が「悪い・阻止すべき」と強い否 定となっている.教師は,技術同様,言語についても知識・情報の入手という実用的側面 から支持していたのであり,英語借用語の使用による文化的受容には利益を求めておら ず,文化的要素の大きい人的交流にはむしろ強い否定的姿勢をもっているといえる.

 以上の結果から,それまで言語の流入(英語借用語)に対しては,総じて明確な肯定/

否定,好き/嫌いの意思を示してこなかった教師が,外国技術の流入については過半数が

「積極的受け入れ」を支持し,逆に,外国人の流入に対しては「悪い・阻止すべき」とす る意見が半数を超える等,明確な姿勢を示すことが示された.

 教育第一世代は,共通語の普及を主要な目的のひとつに掲げた教育を受けてきた世代で ある.言語は,コミュニケーションのための道具であり,近代的技術や知識を取り入れる ための道具であった.言語の実用機能に焦点があった時代である.教育第一世代が多くを 占める教師にとって,外国の諸要素は,それが道具としてある限り,すなわち道路の建設

(18)

やダム工事,電気,水道普及のための技術である限り,またそうした技術や知識を取り入 れるためのツールである限り,その流入は歓迎すべきものとしてある.しかしながら,人 的交流や思想的な影響を及ぼすものとなると受け入れ難く,阻止すべき対象として認識さ れる.教師が,これまでの英語借用語調査で概して明確な意見を示さず,「仕方ない」と いうよりもむしろ「気にしない」という回答を示したのも,英語があくまで必要な道具と して実用機能に焦点があり,ブータンの伝統的な考え方や思想に影響を与える存在として 認識されていなかったから,と解釈することもできよう.

 一方,教育第二世代は,言語,特にゾンカ語を国家アイデンティティの核に据え,言語 の象徴機能に焦点が移った時代の教育を受けてきた世代である.言語の象徴機能への関心 や認識の高まりが,ゾンカ語のみならず英語にも及んだと考えても不自然ではない.若者 世代にとって言語とは,ゾンカ語も英語も含め,もはや単なるコミュニケーションや知 識・技術導入のための道具ではなく,国家の,さらには個人のアイデンティティの基盤と なる象徴的な意味合いを強くもつ存在としてある.英語および英語借用語を多分に織り込 んだ,彼ら独特の会話スタイルは,若者にとって伝達以上の修辞的効果や帰属の指標とし ての機能を併せもつものとして意識されている.その使用に際して学生が肯定/否定,好 き/嫌い,の感情を明確に自覚するのも,それが単なる道具以上の,自身のアイデンティ ティにも関わる存在であるからである.

6.結論

 以上の結果に基づき,本稿の冒頭で挙げた2つの研究課題―第1の課題「言語以外の外 国の影響に対する認識の解明」と,第2の課題「外国の言語の流入と外国の文化の流入に 対する人びとの見解の相違の解明」― への回答を示し,本研究の結論とする.

 教育第一世代にとって外国の諸要素は,ブータンの近代化に寄与するものとして必要な 道具であり,それだけの存在である限り歓迎すべきものとしてある.しかしながら,それ が実用機能以上の影響力をもってブータンの伝統や思想に影響を及ぼすものとなったとき 排除すべき対象となる.それは,基本的にブータン政府が示す姿勢と同じである.第一世 代が英語の習得に献身し,英語借用語の大量の流入に際してもさほど大きな抵抗を示さ ず,むしろその存在を問題視しない傾向が指摘されたのは,それが必要な道具であったか らである.外国技術と同じである.しかしながら,外国人の流入や人的交流に対しては思 想的影響を懸念するとともに,交流から何かを得るという必要性を認めないという姿勢が みられた.

 一方,若者たちは,人的交流に対してより開かれた姿勢を示すとともに,英語借用語の 使用に際して肯定/否定いずれにせよ強い関心をもつ.国語であるゾンカ語を国家アイデ

(19)

ンティティの核とする国民教育を受けてきている現在の学生は,言語を,単なる情報収集 の道具ではなくアイデンティティの基盤とする視点を,ゾンカ語を国家アイデンティティ の核とする国民教育から学んだのであろう.それがゾンカ語への英語の混入に対する敏感 な反応を生み,また英語および英語借用語をたぶんに含む独自の文体に対して若者として の,あるいは個人的なアイデンティティを見いだすという視点へと発展したものと考えら れる.外国の人びととの人的交流同様に,言語はより精神的影響をもつ存在として位置づ けられていると考えられる.

 両世代の相違の背景には,言語の実用機能に焦点を置いた教育を受けてきた第一世代 と,その象徴的機能に焦点が移った教育を受けている第二世代の時代の相違が影響してい る.

【付記】

 本研究は,国立民族博物館特別利用研究員としての研究活動に基づく.

【注】

1. タイのジョムティエンにおいてUNESCO 等の国際機関によって開催された「万人の ための教育(Education For All: EFA)」(UNESCO1990)

2. 季節により変動するが,1人1日あたり240USドル〜290USドルを支払う.

  <http://www.travel-to-bhutan.jp/plan̲your̲trip.>ブータン政府観光局(2021.3.18).

3.  −   

   <www.bbs.bt/news/?p=1136>[BBS 2010.9.12放送](2020.1.20)

4.  Grosjean(2008: 37)は,バイリンガルの人がひとつの言語を基盤として話しながら も,そのなかにもうひとつの言語の借用語や借用表現を織り込んだり,もうひとつの 言語との切り替え(コード・スイッチング)をする会話様式を「バイリンガルの言語 モード」と呼んだ.

5. 大学は,ブータン王立大学から6大学(学部)を選出した.専門領域は,教育系(パ ロ教育大学),人文科学系(言語文化研究所),理工学系(シェルブツェ大学),生 物・畜産系(自然資源科大学),看護系(王立保健医学院),伝統医学(国立伝統医学 院)の6領域.高校は,国内有数の公立高校2校(ゾンカ語圏のヤンチェンプー高校 と非ゾンカ語圏(中央部)のジャカル高校),標準レベルの私立高校(ゾンカ語圏の リンチェン高校)である.教師についてはそのほかに職業技術校(チュメイ技術訓 練専門学校),ノンフォーマル教育校(サンチョリン小学校,タクツェ小学校,ワン デュチョリン中学校).

(20)

6. 男 女 比 に つ い て は, 調 整 し 得 ず, 教 師115人 中 男 性20人(17.4%), 女 性95人

(82.6%) で あ る の に 対 し, 学 生 は 男 性326人( 高 校 生126人, 大 学 生200人 )

(80.1%),女性81人(高校生31人,大学生50人)(19.9%)と,いずれも大きな偏り がある.したがって,重要な視点であるにもかかわらずジェンダー差について本研究 では,明らかにすることができなかった.今後の大きな課題とする.

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