Kyushu University Institutional Repository
斑入りタバコにおけるウイルスの感染と増殖に関す る研究 (2) : Samsun Nc タバコの斑入り葉における TMVの感染と増殖
長尾, 記明
九州大学農学部植物病理学教室
https://doi.org/10.15017/22278
出版情報:九州大學農學部學藝雜誌. 35 (3/4), pp.129-136, 1981-07. 九州大學農學部 バージョン:
権利関係:
九大農学芸妓 (Scl・h lt・FBC・Aq・'KytwhuUniy・) 第35巻 第3・4号 129‑136(1981),5図版
斑入 りタバ コにおけるウイル スの感染 と 増殖 に関す る研究
Ⅰ Ⅰ .S a ms u nNc
タバ コの斑 入 り葉 に お けるTMV
の感染 と増殖長 尾 記 明
九州大学農学部植物病理学教室 (1981年3月26日 受理)
St u d i e so nI n f e c t i o na n dMu l t i p l i c a t i o no fPl a nt Vi r u s e si nVa r i e g a t e dTo b a c c oPl a n t s
II. InfectionandMultiplication ofTobaccoMosaicVirus inVariegatedLeavesofTobaccoCultivarSamsunNc
NoRIAKI NAGAO
LaboratoryofPlantPathology,FacultyofAgriculture, KyushuUniversity46‑01,Fukuoka812
緒 ロ
一般 に宿主のウイルス感受性 は宿主の持つ遺伝的素 質のほか温度,湿度,光などの環境条件 に関連す る某 組織の生理的状態 により大 き く影響 されることが知 ら れている. このような現象 は主 として局部病斑を生 じ るウイルス と宿主 との組み 合 わせで 研究 されてきた.
その理 由の 1っ は宿主のウイルスに対する感受性 の程 度が局部病斑数 の多少 として表わされ,数的処理が容 易であることにある.
N因子を持っている 斑入 り タバ コ (SamsunNc) にTMVを接種す ると接種葉 に局部 病斑を 生ず る.
本研究で はこの局部感染系を利用 して, まず 白色部 と 線色部 とにおける TMVの病斑形成 能,局部病斑 の 拡大度 および病斑部のTMV畳な ど を比較す ること によ り両部位 のウイルスに対す る感受性 の差異, ウイ ルスの増殖,移行 について検討 した. その結果,両部 位のウイルスに対す る反応 に明 らかな差が認 め られた ので, さらにその原因究明の目的で局部病斑部組織の 微細構造を電子覇微鏡 によ り詳細 に比較検討 した.
本研究を遂行す るにあた り終始 ご指導 とど鞭漣を賜 わった九州大学農学部 日高辞前教授 な らびに本報告 に あた り有益な助言 とど校 閲を頂 いた九州大学農学部脇 本菅教授 に深謝 の意を表す る.
129
材料 お よび方 法
1. 供 試 ウイル ス
当教室保存のTMV普通系 (TMV‑OM)を用 い, 接種源 には精製 TMVを用 いた.TMVの 精製 はタ バ コ (品種 ブライ トエ ロ‑) に TMVを 接種 して,
2‑3週間後 のモザイク葉を採取 し,‑20℃ で 凍結 保存後,久保の方法 (久保,1971)に準 じて行なった.
TMV濃度 は分光光度計(Beckman社製,DU‑2型) で測定 した OD 260mmの値2.7を 1mg/mlとし て計算することによ り求めた.
2.供試植物
斑入 りタバ コ (NL'cotiana tabacum cv.Samsun Nc)は前報 (長尾, 1981)と同様な 方法 で 育成 し
た. ウイルス濃度 の 生物定量 にはイ ンゲ ン(Phaseo‑
Lusv〟lgwl'S品種改良大手亡) を用 いた.イ ンゲ ンは 一鉢2本植 とし,播種後10‑14日目の初生葉を用 い, 接種前 日に心止 した.実験植物 の育成 は 25±3oCの ガ ラス圭で行 なった.
3. 斑 入 りタバ コ‑ のTMVの接 種 と ウ イ ル ス濃度の検定
TMVを斑入 り菜へ接種す るためには精製 して凍結
保存 しているウイルス液 (濃度0.05‑0.1J∠g/ml)杏 接種源 として用い,塗抹接種を行なった.接種葉上に 形成された局部病斑部に含まれるTMVの定量 の た めにはインゲ ンの 半業法を 用いて 次のように行なっ た.TMV接種後2日目, 3日目および4日目に斑入 り葉の白色部 と緑色部 とか ら2‑ 4枚ずつを 採取 し, それ らの試料か らそれぞれ大きさのそろった病斑 (2 日目:直径 0.8‑1.0mm, 3日目:1.5‑1.8mm, 4日目:2.1‑2.4mm)各20個を切 り取って, ‑20
●Cの冷凍庫 に保存 した.各試料に0.1M りん 酸 緩 衝液,pH 7.0を 10ml加えて, ガラス ホモゲナイ ザーで磨砕 し,その磨砕液をインゲ ンの半葉に接種 し た.対半薬には精製TMV (0.3‑0.5〟g/ml)を接種 した. 1試料の 検定に インゲ ン葉12‑16枚 を 用 い た.接種3日後 に現われた病斑を数え,TMV濃度は 検定区の病斑数を対周区の病斑数で割った 値 で 示 し た.
4.局部 病斑部 の電 顕観 察
TMV接種後白色および緑色部に生 じた4日目の局 部病斑を試料 とした.病斑内部 と病斑周縁部 とか ら採 取 した1‑2mmの細片を前報 (長尾,1981)と同様 な手順で固定 ・包埋 し,切片を作成 して電顕観察を行 なった.
結 果
1. 白色部 お よび緑 色部 におけ るTMV局部 病斑 形成 能 の比 較
TMV接種後2日または3日目に白色部と緑色部の 同面積内に生 じた局部病斑を数えた.実験 は5回反復 し,各実験 には斑入 りタバコ8‑10本中か ら選んだ斑 入 り葉10‑12枚 を 用いた.白色部の局部病斑数を緑 色部の局部病斑数で割った値の各実験 における平均値 をTablelに示 した.Tablelにみられ る よ う に 白色部は緑色部に比 べ て,1.6‑2.6倍数 (平均2.0 倍)のTMV病斑を生 じた.
緑色部に生 じた局部病斑は周縁が濃褐色で中心は褐 色あるいは淡褐色を呈するが白色部においては病斑周 縁ほどく淡い褐色で,中心部はさらに淡 く,灰白色に 近かった(Plate511).
2. 白色部 お よび緑 色部 におけ るTMV局部 病 斑 の拡 大度 の比較
斑入 り糞に生 じた接種後2日目のTMV局 部 病斑
Table1. Comparisonoflocallesionforma‑
tion between white and green areasor variegated tobacco leaves inoculated with TMV.
Replicatea) F Ratiob)
I H Ⅲ Ⅳ V
2324200000±±±±±′LU∠Un720ノ1212‑▲a) Tento12varlegatedleayeswereused roreachexperiments.
b) Ratio‑N0.0rlocallesionson white areaP o.oflocal lesionson green area± standarderror.
の中か ら,1葉につき白色,緑色それぞれの部位で2
‑5個ずつを 任意に 選び, それ らの病斑 に番号をつ け, 2日か ら5日目まで毎 日各病斑の直径を7倍のス ケール (1/10mm)付ルーペを用いて測定 した.各測
定 日における30‑40個の 病斑直径 をTable2に 示 した.
接種後2日目のTMV局部病斑 の 直径は白色部で は約 0.8‑1mm,緑色部では 0.7‑0.9mmであっ た.接種後の日数の経過に伴 う病斑拡大率を2El目の 病斑直径に対する割合で示 した場合 3日, 4日目では 白色1.9,2.6;緑色1.8,2.5であり,両部位 におけ る病斑の拡大率は接種後の日数の経過 と共 に減少する 傾向を示 した.白色部における局部病斑の直径 に対す る緑色部の 病斑直径の 比は2日か ら4日目の 間では 1.1‑1.2であり, 5%または1%の 水準で有意差が 認められた. したがって緑色部位より白色部位におい てやや大きいTMV病斑が 生 じ, その後の病斑の拡 大 も若干大きいと言える. しか し白色部位では病斑は 4日目を過ぎると互いに融合 し,流れることが多 く, 特に葉の周縁部でその傾向が強かった.
3. 白色部 お よび緑 色部 の局部 病斑 に含 まれ るTMV濃 度 の比 較
緑色部位 に形成 された局部病斑部のTMV濃 度 は 白色部位でのその 濃度 に比べて 著 しく高 く, 2日目,
3日日および4日目に そ れ ぞ れ0.7‑2.8倍,2.0‑ 4・7倍,2・1‑6・3倍であった・またTMVの 増 加率 は緑色部位の病斑 において大であり,両部位 における 病斑部のTMV濃度差は接種3日目以降でより大き くなった(Table3).病斑拡大に伴 うTMV濃度の 増加は両部位 において2日か ら3日目の方が3日か ら
4日の問よりも高かった.
SamsunNcタバ コの斑入 り葉でのTMV の感染 ・増殖 131 Table2. Enlargementoflocallesionsonwhite(W)andgreen(G)areasofvariegatedtobacco leavesinoculatedwithTMV.
Daysa一ter inoculation
Diameteroflocallesion(mm)
W
I G 0.84±0.03b)1.62±0.06 2.23±0.08
‑ C) 1.05±0.04 2.21±0.07 3.18±0.12
2(J4001000±±±n70ノ3752012
0.99±0.03 1.80±0.05 2.36±0.08
つJ4∠UO4790270000‑‑000100100000000000±±±±±±±±±±±3人X﹀10111‑つ▲007730′hYn70ノ0/073n701220133011
0.91±0.02 1.50±0.03 2.00±0.08
Ratioor W/Ga)
1.2** 1.2** 1.1** 1.2** 1.2** 1.1 1.1 1.2* 1.1
*
1.1
*
1.2** 1.2**
a) Diameteroflocallesionsonwhitearea/Diameteroflocallesionsongreenarea.
b) Averagediameteroflocallesions±standarderror. *:p‑0.05,**:P=0.01. C) Couldnotmeasureduetowitheringofthesurroundingtissue.
Table3. TMVconcentrationinlocaHesions producedonwhite(W)andgreen(G)areas. Daysafterinoculation 2 1 3 1 4 W 】0.03
wG叩 亨
叩0.。9堅 :
騨0冒 ; き
雪 闇4.白色部 と緑 色部 とに生 じた局 部 病 斑 部 の 微細構造お よび TMV粒子 の存在状態の比較
(1)局部病斑内部
白色および緑色両組織における局部病斑内部の細胞 で は共 にcentralvacuoleが消失 し, 細胞内 のすべ ての器官は崩壊 して,細胞質 は凝集 し電子密度が著 し く高 くなっていた.また細胞全体 は収縮 し,細胞間煤 が顧著 に増加 していた (Plate5‑3,4).緑色 組織 で はそれ らの中にこわれた膜状物が密に集 まり,殿粉類 粒が集積 していた (Plate5‑4,5).また 変質 した細
胞質よりもさらに電子密度の高い不定形の物質が散在 していた (Plate5‑4,Plate6‑1).白色組織では 緑 色組織 と比較 して, 変質 した細胞内に膜状物が少 く, 電子密度 も低 いので, リポソーム粒子が多 く観察 され た (Plate6‑3).また殿粉額粒 は見 られず,円形の電 子密度の高い頼粒が凝集あるいは分散 して在存 してい
た (Plate5‑3,Plate6‑3).
TMV粒子 はこれ らの電子密度の高い変質細胞質中 に結晶状 に配列するかあるいは大 きな集団 として見 ら れることが多 く,緑色組織に お い て は12,13層 の 柵状 に 配列 した 集団 となっている場合 も観察された (Plate6‑1,2).これ らのTMV集団内 には 崩壊 し た細胞器官は含まれていなかった.
白色組織では5, 6層のTMV粒子の 柵状 集団 も 見 られたが一般 に1‑ 3層の小集団の形で散在するこ
とが多かった (Plate6‑3).
(2)局部病班周緑部
白色組織において も緑色組織 において もえ死を起 こ した細胞では変質 した核や仁, ミトコンドリアなどが 識別できることが多かった(Plate7‑2).細胞質 は病斑 内部の場合 と同 じように変質凝集 し,部分的に細胞壁 か ら分離 し,TMV粒子 は細胞質内のほかそれ らの間 保に散在 していた(Plate7‑1).え死を起 こしつつある と思われる細胞では 原形質分離を 起 こし,tonoplast が崩壊 して,細胞器官やTMV粒子がcentralvacuole 内に散在 していた.また この時期 には細胞膜の連続性
を失 う細胞が多 く見 られた(Plate7‑5,Plate8‑1).
緑色組織においては葉緑体 はまず ラメラ構造の変化 と 基質の膨潤をおこし,それに伴って葉緑体膜の崩壊を 生 じ(Plate713,4),また これらの 葉緑体内では脂 肪体が多 く見 られた.葉緑体以外の細胞内容の変化 に ついては白色組織において観察された所見 と著 しい差 異は認められなかった.
同 じ程度 にえ死化の進んだ白色および緑色両組織の 細胞を比較 したところ,ともに原形質分離を起 こして いる細胞で も細胞質膜の連続性を失った細胞の頻度は 緑色組鰍 こおいて少ない 傾向が 認め られた. ま た tonoplastのこわれた細胞でTMV粒子が 観察され る頻度は白色組織よりも緑色組織で高 く,ほとんどの 細胞 に存在 していた.
(3)病班外部
え死化の始まった細胞の数層外側の細胞まで細胞質 膜は波状を呈 し,細胞壁 と細胞質膜 との間に小 vesト
cle様の ものが見 られることが 多 か っ た (Plate8‑ 2,4,Plate9‑1, 3).そのために plasmodesmata が細胞質膜 との間で消失 しているような像 も認められ た (Plate8‑4).また細胞壁がカロースと思われる物 質の沈着により肥厚 している 細胞 も見 られた(Plate 9‑1).これ らの形態学的変化 については白色および緑 色組織との間に顕著な差異は認められなかった.
白色組織の細胞内で見 られるplastidは好 オス ミ ウム類粗に富み,それらは大小種々の集団 となって存 在 していた(Plate9‑I,2).細胞質内 にはリボソー ムを伴 うER(粗面小胞体)および ミトコンドリアが 多 く観察され,結晶を有するspherosomeも観察 さ れた(Plate9‑2).TMV粒子はえ死を起 こした細胞 より数層外側の細胞で も見 られ,1, 2層の柵状に配 列 したものが多かった(Plate8‑2).
緑色組織の細胞では葉緑体は細長 く凹凸のある形を 呈するものがかなり見 られた.また ミトコンドリアの 基質が消失 したと思われるもの,あるいは変形 したも のもあった(Plate9
‑ 4 ) .
TMV粒子は1‑ 4層に配 列 した集団の形で存在するかあるいは細胞質内に散在 していた(Plate8‑3).え死化 した細胞より離れるに したがって正常な形態に近い細胞内器官および細胞質 膜が観察 された.白色,緑色いずれの組織においても細胞内器官であ る核,葉緑体またはplastid, ミトコンドリア内では TMV粒子は全 く見 られなかった.
考 察
斑入 り葉にキュウリモザイクウイルス (CMV)を 接種 した場合,白色部のウイルス濃度が線色部より常 に高いことを前報 (長尾,1981)で明 らかにし,両部 位の間にはウイルスに対する感受性 に差があるものと 考えた.
本実験 においては局部病斑系の宿主‑ ウイルスの組 み合わせを用い,斑入 りタバコの緑色部 と白色部 とに おけるウイルスの感染 と増殖を比較 した.
McLarenefal.(1970)およびWenzel(1970)紘 タバコ斑入 り葉にTMVを接種 したところ, 生 じた 病斑数には緑色部 と白色部 との問で差が認められなか ったと報告 している. ところが筆者の結果 は彼等の結 果 とは異なり,白色部 において緑色部よりも約2倍多 数の病斑を形成 した(TableI).この結果 は前報 (長 尾,1981)で得 られた全身感染系でのCMV増殖 量 が緑色部よりも白色部で高いことと相関 しており,ウ イルスに対する組織の感受性が白色部で高いことを示 している.
斑入 り葉の両部位で生ずるTMV の局部 病斑直径 には 1%または5%水準で有意差があり,局部病斑は 緑色部におけるよりも白色部において拡大する傾向を 示 した. しか し局部病斑部か ら回収 されるTMV 量 は線色部で高 く,接種後3, 4日目では白色部の病斑 か ら回収 される量の2‑6倍であった.また局部病斑 の色 において も差があることか ら両部位における病斑 形成過程に質的差異があるものと思われる.
ウイルスを接種 した場合 に宿主上 に生 じる局部病斑 の数,大きさ,色およびその病斑か ら回収 されるウイ ルス皇などはウイルスと宿主 との組み合わせの速いに より大きく異なることが 知 られている.'大沢 ・山口 (1970)の報告によるとTMVとインゲ ンとの組み合わ せでは病斑直径が約1mmになるとその拡大が停止す るがNL'colLlanagl〃TL'T70SaやSamsunNNでは時間の 経過 と共に病斑は拡大 し,接種後100時間ごろの接種 葉か ら回収 されるTMV量は インゲ ンの場合を 1と すれ ばN.gl〟lET7050で は2,SamsunNNで は105 となり,局部病斑の質 により回収 されるウイルス宜 も 異なるという.本実験で得 られた斑入 り葉の白色部 と 緑色部 とにおける局部病斑の質的差異は組織がクロロ フィルを持つか持たないかにより派生する光合成能の 差またはそれによって生 じる組織の生理的状態の差異 に関連 していると思われる. これ らを解析する手段 と して電顕を用いて白色部 と緑色部 との局部病斑部組織
SamsunNcタバコの斑入 り某でのTMVの感染 ・増殖 の微細構造を詳細に比較 した.
今までに斑入 り あ る い は ア ル ビノ植物 に生 じた TMV局部病斑の微細構造を明 らかにしたものはない が,NL‑cotLa〝aglutLt70
5 0
,NicofLanafabac〝mvar.Sam‑sunNN,イ ンゲ ン,Chenopodi〟m amaranticoLor, LbTuraslramoT7Lumなどに生 じた局部病斑部の微細構 造およびそれ らの細胞内におけるTMV粒子 の 存在 状態を 明 らかにした 報告はかなり多い (Weintraub and Ragetli,1964;HayashiandMatsui,1965, 1966;CarrollandShalla, 1965;Milne, 1966;
carro
l
l.1966;Israeland moss,1967;Rossand Israel, 1970;Spencer and Kimins, 1971;Da GracaandMartin,1975).したがって白色部 と緑 色部 とに生 じた局部病斑部の微細構造の比較において は,特にえ死化に伴 う細胞の崩壊過程およびえ死細胞 内の TMV粒子の存在状態に重点を置き比較 した・白色部の局部病斑内部の細胞は緑色部のものと比較 して,一般 に電子密度が低 く,殿粉寂粒の集積 も見 ら れず,膜状物 も少なかった. したがって緑色組織のえ 死細胞で見 られる膜状物は主 として葉緑体のラメラ構 造の崩壊物に由来するものと思われる. このことは殿 粉頼粒の周囲に膜状物が層状にとり囲んでいる像が観 察 されることか らも裏づけられる・白色組織のえ死細 胞では変質 した 細胞質内に電子密度の高い 円形矯粒 が集合あるいは分散 して見 られた. これ らの 頼粒は plastid内に集合 した形で局在 していた好オス ミウム 頼粒がplastid崩壊後 も こわれずに残った ものであ り,緑色組織で見 られる高電子密度の不定形物質 とは 質的に異なるものである.
病斑周縁部組織では細胞のえ死化の種々の段階の像 が観察され,白色組織においても緑色組織において も その第 1段階は細胞質膜の細胞壁か らの分離即ち原形 質分離 で あ っ た.ついで tOnOplastの 崩壊がおこ り,Centralvacuoleが消失 した・ この段階での葉緑 体は大きな殿粉頼粒を含み,ラメラ構造が変化 し,基 質の膨潤に伴ってついには葉緑体膜が崩壊するようで あった.白色組織では基質の膨潤 したplastidも見 ら れたが,葉緑体 はど顕著 に変化することな く崩壊する ようであった.またえ死化の程度がほぼ同 じと思われ る細胞の形態的変化を両組織で比較 したところ,白色 組織においては細胞質膜の連続性が緑色組織よりも早 く失われ,plastid膜の崩壊よりも早いようであった.
DaGracaandMartin(1975)は TMVとSam‑
sunNNの系でまず葉緑体が膨潤 して崩壊 し,それに 引き続いてtOnOplastがこわれると報告 して い る
133 が,本観察所見ではplastidあるいは葉緑体膜 の崩 壊よりもtonoplastの崩壊の方が早い よ うで あ っ た. 病斑周辺部の細胞では健全細胞 と比較 してER,
リボソーム, ミトコンドリアなどが豊富に分布 してお り, 細胞の 生理活性が 高いことが 知 られている (下 村,1978)が,本実験で も白色,緑色両組織の病斑周 縁細胞で同様の結果が観察された.
近年,種々のウイルスと宿主 との組み合わせで,局部 病斑周辺部の細胞では健全組織の細胞に見 られない各 種の形態的変化が報告されている.主なものはpara‑
muralbodyの形成(SpencerandKimmins,1971), カロースの集積 (Esau,1967;WueTaL., 1969;
WuandDimi tm
a n
,1970;TuandHiruki,1971;HirukiandTu,1972;Simonsela
L
.,1972;Alli‑ sonand Shall
a,1974;ShimomuraandDijkstra,
1975)あるいは結晶を有する spherosomeの 存在 (Israeland Ross,1967)などであり, これ らがウ イルスの細胞間移行を阻害 し,その局在化 に関与 して いる可能性を論 じた報告が多い. しか し全身感染宿主 においてもウイルス接種後 1,2日目に葉を熱水,氷 水,紫外線などで処理するか,またはアクチノマイシ ンD,クロモマイシンA3などの薬剤で処理すればウ イルス感染部位に局部病斑 と類似のえ死斑が形成され ることが知 られており (下村,1978), 局部病斑の 形 成機構およびウイルスの局在化の機構は未だ十分に解 明されているとはいえない.
白色および 線色組織の いずれに おいてもえ 死細胞 を取 りまく細胞では細胞質膜が波状を呈 し,細胞壁 と の間にできた間隙にveSicle様構造物が認められ,ま た細胞壁の肥厚なども観察されたが,白色,緑色両組 織の間ではこれ らの形態的変化 に顕著な差異は見 られ
なかった.
局部病斑部におけるTMV粒子の存在状態 は 白色 組織では緑色組織で見 られるような大きな柵状集団を 形成 しているのはまれであり,また病斑周辺部の細胞 で TMV粒子が観察される頻度 は線色組織よりも白 色組織において低い傾向が認められた. これ らの観察 結果 はTMV感染に伴 う細胞え死化の過程 が 白色組 織 と線色組織とで異なることを示 しており,白色部に 生 じた局部病斑部のTMV量が線色病斑部 の それよ りも低い原因は前者の細胞では後者のそれに比較 して より早 く細胞機能の低下が起こり,TMVが十分に増殖 する前にえ死することにあると考え られる. これは細 胞え死化の初期段階における細胞質膜の連続性が緑色 組織よりも白色組織において早 く失われる事実から得
られた仮説である.
白色組織での病斑が緑色組織でのそれに比べて大 き くまた融合 し流れ易 い理 由を解明す る目的で両組織 に おける病斑周辺部細胞 の形態的変化を詳細 に比較観察 したが顕著 な差異が認め られず,本実験で はその原因 を明 らかにすることはで きなかった.
白色組織はクロロフィルを ほとんど含んでいないの で,緑色組織か ら移送 される光合成関連物質 に依存 し 生 きているもの と考え られ,傷害 に対 して も緑色組織 よ り弱い. この様な組織 にえ死細胞 の集団が点在すれ ば当然養分の補給経路 は遮断 され, これが病斑を流れ 易 くする直接的要因 になっているので はないか と考 え
られる.
要 約
タバ コ (jVL'colianalabacum cv.SamsunNc)の 斑入 り糞の白色部 と緑色部 と に お け る TMVの 感 染 ・増殖を比較 した.
1.TMV局部病斑 は白色部 に おいて多 く現 われ, その数 は線色部 における病斑数の約2倍であった.
2. 局部病斑の拡大 は白色部 においてやや速やかで あったが, 接種3, 4日目の 病斑部か ら 回収 される TMV量 は緑色部 の病斑 において高 く, 白色部の病斑 か ら回収 される宜 の2‑ 6倍であった.
3.白色部 と緑色部 とにおける4日目の局部病斑の 内部およびその周縁部組織を電顕観察 して,細胞え死 に伴 う崩壊過程 とTMV粒子の存在状態 を 詳細 に比 較 した結果次のよ うな所見が得 られた.
1) 白色 および線色両組織 における局部病斑内部の 細胞 は完全 に崩壊 し,収縮 して屋形を里 した. これ ら の細胞 においてはTMV粒子 は変質 した細胞質 内 に 結晶状 に集合 した状態で存在 し, 白色細胞 よ り緑色細 胞でより大 きな集団を形成 し, またその数 も緑色細胞 で多かった.
2) 病斑周縁部の組織 においては細胞 え死化の種 々 の段階の像が見 られ,え死化の第 1段階は原形質分離 とtonoplastの崩壊であった. これに続 いて plas‑
tidまたは葉緑体 と細胞質膜の崩壊が起 こった.細胞 質膜の連続性 は緑色組織よ り白色組織でよ り早 く失 わ れた.TMV粒子 は白色 および緑色細胞 のいずれにお いて もtonoplastの崩壊 によって 細胞質 内 に散在 し ていた.
3) 病斑を取 り巻 く細胞内で見 られる形態的変化 に おいては白色 ,緑色両組織の間 に顕著 な差異が認め ら れなかった.TMV粒子 はえ死細胞の数層外側 の細胞
において も見 られた.
4)以上 の結果 か ら, 白色部の TMV感受 性 (柄 斑形成数) は緑色部のそれに比べて高 いに もかかわ ら ず 白色病斑部の TMV量が緑色病斑部 の 量 に比べて 低 い原因 はウイルス増殖 に伴 う細胞 え死化 が白色細胞 において緑色細胞 におけるよ りもよ り早 く現れ,TMV が十分 に増殖す る前 に細胞機能の低下を引 き起 こすた め と考え られる.
文 献
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Summary
The sensitivity orwhite(W)andgreen (0)areasorvariegated tobaccoleaves (Nicolianatabacumcv. SamsunNc) toinfection andmultiplicationof tobacco mo‑
saicvirus(TMV)wascompared.
1. ThenumberoflocallesionsproducedonW wasdoubleofthatonG.
2. Theenlargementorlocallesionswasrelativelyfasteron W,however,TMV concentrationat3‑4daysa一terinoculationwas2‑6timeshigherin thelesionspro‑
ducedonG ascomparedtothatin thelesionsonW.
3. The central andmarginaltissues or locallesionsdeveloped onW and G wereobservedbyelectronmi croscopytoclarifytheprocessesofcollapseandnecro・
tizationorcellsinrelation toTMV multiplication. Theresultsareasfollows. 1) In the central tissues orlesionsonbothareasorW andG,allcellswere completelycollapsed,shrinkedandstar‑shaped. In thesecel
l
s,TMV particles were aggregated in crystallineform inalteredelectron‑densecytoplasm. The size and numberofthevirus‑aggregatesin G cellsweregreaterthan thoseinW cells.2) In marginaltissuesofthelesions,Variousstagesofcellnecrotization were observed. The firsteventsofcellnecrotization wereplasmolysISand rupturing of to110plast. Following theseevents,theplastidsorchloroplastsburstand the con‑
tinuity of thecytoplasmicmembranewaslost. InW tissues,however,the lossof continuity inthecytoplasmicmembrane occurredearlierthan bursting ofplastids. TMV particleswerescatteredin thecytoplasm with burstingofthetonoplastinW andG cells.
3) Noremarkable difference wasobservedintheultrastructureofmarginsof thelesionsfrom W andG. TMV particleswereobservedinthecytoplasm orsever‑
alcellsbeyondthenecroticregion.
4. From these results,thefactthatTMV concentrationinlocallesionson W is lower than thatinthelesionsonG,contrasting to highersensitivity (in terms of lesion formation) oftheformerthan thelatter,maybeattributedtotherapid cellnecrotizationinW cellsascomparedtothatinG cellsresultinglnearlyinhibi・ lionorvirusmultiplication.
Abbreviatonsforfiguresofplates Ch chloroplast
CM cytoplasmicmembrane ER endoplasmicmembrane G granum
L lipid M mitocondrion N nucleus
P plastid
Pd plasmodesmatum R ribosome S starch Sp spherosome
V viruspariticles Va vacuole OG osmiophilicglobule Ve vesicle
ExplanationorPlate5
Figs.Iand2.TMVlocallesionsappearedonwhite(Fig・I)and green (Fig・2)areasof varlegatedtobaccoleaves.
Figs.3and4.Typicalfeaturesofnecroticcellsinthecentralpartoflocallesionsproduced onwhite(Fig.3)andgreen(Fig.4)areas.Manystarchgrainscanbeseen in Fig.4,but notinFig.3. × 4,500(Fig.3),×4,200(Fig.4).
Fig.5.A partofnecroticcellofthelocallesioninthegreenarea・Many TMV particles (arrows)Canbeseeninthespacebetweenthedensecytoplasm andcellwalJ・× 5,500.
Figs.1and2. Partsofnecroticcellsofthelesionsinthegreenarea.
Fig.I. ManycrystallineaggregatesofTMV particlesand starch grainsare embedded in thealteredcytoplasm. × 6,000.
Fig.2. TMV particlesarearrayedinparallelincrystalForm. × 22,000.
Fig.3. A partofnecroticceHofthelesioninthewhitearea. Thesmallparallelarrays orTMV particlesandribosomesareembeddedscatteringinthealteredcytoplasm (leftcell).
× 18,000.
Figs.115.Sectionsshowlngdifferentstagesofthenecrotizationofthecellsataperipheral partorlocallesions.
Figs.1and2. A partofmesophyllcellofthelesion in white area ata later stage of necrotization. Alteredcytoplasm containlngSmallTMV aggregatesisshrinking,andissepa‑
ratedFrom thecellwall. × 4,700.
Fig.2. A partofmesophyllcellorthelesioninwhitearea atmiddlestageofnecrotiza‑
tiom Cellorgansaredestroyedbutthecytoplasm isnotshrunken. × 5,000.
Fig.3. A partormesophyllcellsor the lesion in green area・ Chloroplastsare closely associatedoneanother,whosemembranesarerupturedand thylakoidalsystem are locally displacedbystarchgrainsandlipoidalglobules. × 18,000.
Fig.4. Cytoplasmicmembraneisrupturedandchloroplastsareswellingbutnotcollapsed.
× 4,000.
Fig.5. A partofmesophyllcellsofthelesioninwhitearea. Cytoplasmicmembraneand tonoplastarerupturedbutcytoplasmicorgansarediscernibleclearly. × 4,300.
Figs.1‑3.SectionsshowlngpartsOfmesophyllcellsfrom theperipheralpartoflocallesions. Fig.1. A partoracellatan early stage ornecrotization in white area. Cytoplasmic membranelostitscontinuity. ThetonoplastisrupturedandTMV particlesarescatteredin thevacuole. Thenucleus,plastidandmitochondriaseem tobenormal. × 10,000.
Fig.2. A partortheinter一acebetweenthenecrotic(right) and non‑necrotic (left) cells ofwhiteareacontainingTMV particles. Notesmallvesicles presented between the cyto‑
p】asmicmembraneandcellwall(left). × 34,000.
Fig.3. A partoracellcorrespodenttoFig.2ingreenarea. × 18,000.
Fig.4. A partorcellsinadjacentareaoH ocallesionsorwhitearea. Notesealedplasmo‑
desmataandabundantpro別eofendoplasmicreticulum inthecytoplasm. × 16,000.
Figs.I‑3. SectionsshowlngVariouspartsof mesophyllcellssurrounding localJesionsin whitearea.
Fig.1. CellwalHsthickeningandaplastidisswelling. × 21,000.
Fig.2. AggregatesofplastidsandspherosomescontainingCrystals. × 16,000.
Fig.3. Cytoplasmicmembraneiswavlng. × 41,000.
Fig.4. A partorcellsingreenarea. Incomparisonwithhealthycells,ER.in the cyto‑
plasm andlipoidalglobulesinchloroplastsseemstobemuchincreasedinnumber. × 23,000.