講 演
近 年 の ド イ ツ に お け る 議 会 法 の 展 開
⎜
⎜﹃ 加 重 さ れ た 大 連 立
q u a lif iz ie rt e G ro ß e K o a lit io n
﹄ を踏 ま え て1
︶
ク リ ス チ ャ ン
・ ヴ ァ ル ト ホ フ
*︶翻 訳
赤 坂 幸 一 一
問 題 設 定
⎜
⎜ 大 連 立 政 権 下 に お け る 少 数 者 保 護
皆さ んに ドイ ツ 議会 法の 現時 の 発展 にか んす る 若干 の情 報を 提 供さ せて いた だ ける こ とを
︑喜 ばし く 思い ます
︒ド イ ツ にお いて 議会 法 は︑ 法学 論議 の 中心 に位 置し て いる わけ では あ りま せん2
︒︶
実務 にお い ては
︑ド イツ 連 邦議 会お よび ラ ン ト議 会に おけ る 諸会 派の 専門 家 たち や︑ 議会 事 務局 の専 門家 た ちが この 問題 に 取り 組 んで いま すが
︑ 学界 では 数名 の 学 者た ちが 関心 を 寄せ るに とど ま って いま す︒ も っと も︑ ドイ ツ 国法 学者 大会 で は二
〇 一二 年の キー ル 大会 で議 会法 の 問 題が 取り 上げ ら れ︑ ハン ブル ク のブ ツェ リウ ス・ ロ ース クー ルの
Hermann Punder
教 授︑ およ びオ ス ナブ リュ ック 大 学 のPascale Cancik
教授 に よっ て︑ 新た な 方向 性が 示唆 さ れま した3
︒︶
近年 では
︑長 い 間︑ 議員 の地 位 が関 心の 対象 と なっ てき まし た
︒そ の契 機と な った の は二
〇〇 五年 の 議員 法改 正と そ
講 演
れ に続 く訴 訟手 続4
︑︶
およ び その 後 の法 改正 でし た
︒さ らな る透 明 性⎜
⎜比 喩的 に 言え ば
﹁ガ ラス 張り の 議員
﹂を めぐ る 議 論は
︑二
〇〇 七 年七 月一 日の 連 邦憲 法裁 判所 判 決5
︑︶
およ び専 門 裁判 所の 諸判 決 をも た らし まし た︒ こ れに 対応 する 議 論 は今 なお 続い てい ま す⎜
⎜し か し︑ 議 員の 地位 をい っそ う法 化︵Verrechtlichung
︶ する とい うこ のテ ーマ は︑ 大 変に 詳 細な もの であ り ます し︑ その 取 り扱 いに は議 論 の余 地も あり ま す︒ しか も︑ こ のテ ー マに つい ては
︑ 最後 に日 本を 訪 れ た二
〇一 三年 の 五月 に大 阪大 学 で講 演を 行い
︑ それ は日 本の 専 門誌 に日 本語 で 公表 さ れる こと にな っ てい ます6
︒︶
そこ で 今日 は︑ 赤坂 教 授と の打 ち合 わ せを 踏ま え︑ 他 の問 題を 皆さ ん と検 討し たい と 思い ま す︒ すな わち 議 会法 にお ける 少 数 者保 護と いう 問 題で して
︑そ れ も︑
加重 さ れた 大 連立
︵qualifizierte Große Koalition
﹂︶ とい う 状況 下 にお ける ドイ ツ の 今日 の政 治的 多 数状 況を 踏ま え て︑ 検討 した い と思 いま す︒
二 ド イ ツ に お け る 議 会 統 制 シ ス テ ム
内閣 及び 執行 部全 体 を統 制す るこ とは
︑あ らゆ る議 会の 主要 な 任務 に属 して いま す︒ 統制 は︑ 国 家の 作 用 シ ステ ム
︵Funktionensystem
︶ の鍵 概念 をな して い ます7
︒︶
連 邦憲 法 裁判 所の 言葉 を 借り れ ば︑ 権力 分立 原 則が
﹁議 会統 制 権の 基盤 お よび 限界 とし て
﹂立 ち現 れる8
︑︶
とさ れま す︒ 基 本法 の憲 法秩 序 にお ける 中心 的 な代 表 機関 とし ての 連 邦議 会は
︑立 法 作 用・ 創設 作用9
︑︶
政治 的意 思形 成 作用 およ び公 開 作用 と並 んで
︵ ま た部 分 的に は 重な り つつ
︑︶ 統 制作 用 をも 担っ てい ます
︒ そ の際
︑統 制は
︑ 多数 決お よび 公 開と 並ん で︑ 議 会代 表制 の中 心 的な 構成 要素 で あっ て
︑し たが って 民 主的 に行 われ た 決 定を 正統 化し
︑ それ に拘 束力 を 与え る 際の
︑ 中心 的な 要素 で もあ りま す︒ こ こに お いて 統制 は︵ 民主 的
︶ 責 任と 対に な る概 念︵Korrelat
︶ とし て 立ち 現 れま す︒ 中心 的 な議 会作 用と し ての 統 制 は︑ そ の対 象︵Richtung
︶
⎜⎜ 誰 が 統制 を受 け るの か⎜
⎜お よ びそ の統 制手 法
⎜⎜ いか なる 手 段で 統制 が行 わ れる のか
⎜⎜ に よっ て 区別 され ます
︒ 統制 のた めに は
(法政研究 82‑4‑ )34 1152 講 演
情 報を 持つ こと が 前提 とな りま す10
︒︶
しか し 情報 を 統制 対象 から 得 るこ とは
︑容 易 に考 え つく 諸般 の理 由 から
︑常 に期 待 で きる わけ では あ りま せん
︒実 効 的な 統制 を行 う ため には
︑統 制 権の 行使 に関 連 する 情 報を 関係 者の 意 思に 反し てで も 手 に入 れる
︑効 果 的な 手段 が必 要 です
︒ド イツ 議 会法 には
︑一 連 の議 会統 制権 お よび 統 制手 段が 用意 さ れて いま すが11
︑︶
そ の際
︑こ れら の 権限 ない し手 段 は部 分的 にし か 明文 化さ れて い ませ ん12
︒︶
統制 は 独立 の 議会 作用 では な く︑ 国民 代表 議 会 の本 来 の諸 任務 を﹁ 横 断す る 形で
︵quer
﹂︶ 存 在し て いる とい う異 論13
を︶
考 慮し まし ても
︑結 局 の とこ ろ︑ こ の 知見 に 何 ら変 化が 生ず る もの では あり ま せん
︒ 議会 統制 はし ば しば 議会 少数 派 によ って イニ シ アテ ィヴ がと ら れま すの で︑
⎜
⎜す で にMax Weber
が強 調し てい ま し たよ うに14
⎜︶
⎜公 開の 確立 を通 じ て実 現 され ます
︒そ の際
︑ 議会 の公 開は
︑ ここ でも 予め
﹁媒 介的 な︵medial
﹂︶ もの と して 捉え るべ き でし ょう
︒ 発覚 し た弊 害が 公表 され て初 め て︑ 議 会調 査権 は実 効 性を 獲得 する
﹂の で す︒ 会計 検査 院 の場 合と 同じ く
︑議 会は
︑ほ と んど の統 制権 限︹ の 行使
︺ に際 して
︑ 法的
・技 術 的な 意 味に おけ るサ ン クシ ョン を何 ら 持 ち合 わ せて おら ず︑ 統制 の結 果は むし ろ︑ 政治 的論 争の 中に 論拠 と して
︵argumentativ
︶ 持ち 込ま れえ ま すし
︑ また そ うさ れる べき な ので す︒ その 限 りで
︑期 待さ れ てい るの は政 治 的効 果で あっ て
︑法 的 効果 では あり ま せん
︒ 個々 の議 会統 制 権は
︑一 定の 段 階構 造を 伴っ た︵gestuft
︶ 手法 と して 理解 する こと が でき ます15
︒︶
この 段階 付 けは まず
︑ そ の法 的根 拠の い かん とい う観 点
⎜⎜ 憲法 それ 自 体や 法律
︑議 院 規則 など
⎜⎜ か ら行 わ れま す︒ 他方 で は︑ 各々 の統 制 手 法に おい て連 邦 議会 が用 いう る 手段 のい かん と いう 観点 から
︑ この 段階 付け が 行わ れ ます
︒す なわ ち
︑
⒜ 情報 要求 権 連邦 議 会調 査局
︵wissenschaftliche Dienste
︑︶ 調 査 会︵Enquete-Kommission
︶ の設 置要 求︵ 議 事 規 則 五 六条16
︶︶
︑公 聴会
︵ 議事 規 則 七〇 条17
︶︶
︑そ の 他類 似の 諸制 度
⒝ 個々 の議 員 の質 問権
基本 法三 八条 一項 二 文︑ 同二
〇条 二 項二 文
⒞ 出席 要求 権
・問 責権
基本 法四 三条 一項
︑ 議事 規則 一〇
〇 条以 下
近年のドイツにおける議会法の展開
⒟ 請願 委員 会 の特 殊権 限 基 本法 四五 c条
︑ 請願 委員 会の 権 限に 関す る法 律18
︶
⒠ 連邦 議会 の 防衛 受託 者19
︶
基 本法 四五 b条
⒡ 連邦 諜報 機 関の 議会 統制 委 員会
基 本法 四 五d 条
⒢ 調査 権 基 本法 四四 条︑ 調 査委 員会 法20
︵PUAG ︶
︑︶ 刑事 訴 訟法 連邦 議会 の統 制 権限 は民 主的 手 続の 中核 をな し てお り︑
⎜⎜ そ の具 体的 な姿 と いう よ りは
︑そ の実 質 にお いて
⎜⎜ 基 本 法二
〇条 二項
︑ 二八 条一 項一 文
︑七 九条 三項 に よる 保障 に関 わ って いま す︒
三 議 院 内 閣 制 に お け る 調 査 権
⎜
⎜ 少 数 派 権 の 拡 充
⑴ 議会 調 査権 の 機能 変化
しか し議 院内 閣制 に おい ては
︑議 会 多数 派と 内閣 と の間 で 政治 的利 害が 一 致し ます
︒と い う のも
︑内 閣は 議 会多 数派 から 選 ばれ
︑こ の多 数 派に 依存 して い るか らで す︒ そ れゆ え
︑議 会に おけ る 少数 派権 を︑ ど れ だけ 強調 して も し過 ぎる こと は あり ませ ん︒ 議 会の 調査 委員 会 を例 にし て︑ こ のこ と を明 らか にし て みま しょ う︒ すな わち
︑ 調査 委 員会 の任 務は
︑ その 解明 が公 共 的関 心事 と なっ て いる 事態 につ い て調 査し
︑こ れ につ い て本 会議 に 報告 する こと で ある21
﹂︶
︒そ れ ゆえ ポ イン トと なっ て いる の は︑ 議 会が
﹁自 ら の決 定 を準 備﹂ す るた め︑ 事 態 を解 明し て
︑情 報を 獲得 す るこ とな ので す22
︒︶
議会 の 調査 委 員会 が果 たす 実 際の 役割 は︑ 各 々の 憲 法秩 序に おけ る 国家 組織 法上 の 構 造様 式︵Architektur
︑︶ 具体 的 には 権力 分立 のあ り 方の 如何 にか かっ て い ます
︒ 立法 部と 執行 部 が理 念的 には 対立 し て いる 大統 領制
︵ アメ リ カ 合衆 国
︑お よ び一 定 の 制約 を 伴い つ つフ ラ ンス
︶ にお いて は︑ 内閣 が 議会 多数 派に 依存 す る議 院内 閣 制と は︹ 国 家 機 関 の︺ 地 位及 び作 用が 異 なっ て いま す23
︒︶
議 院 内閣 制に おい ては
︑内 閣が その 発足
︑存 続 お よび 政治 的 活 動に おい て議 会 多数 派に 依存 し てい ます ので
︑ 議会 調査 権は 議 会少 数派 権へ と 変質 し ます24
︒︶
こ れは 純 粋な 大統 領制 で
(法政研究 82‑4‑ )36 1154 講 演
は 必ず 起こ ると い うも ので はあ り ませ ん︒ 議院 内 閣制 にお いて は 内閣 を支 持す る 議会 多 数派 と︑ これ に 反対 する 少数 派 と が対 立し てい ま すの で︑ 調査 委 員会 は議 会︵ 全体
︶ の内 閣 統 制手 法で ある とい うよ り は︑ む しろ 多数 派と 少 数派 との 間 の論 争 の契 機と なり ます し︑ 少な くと も一 九一 九年 以 降の ドイ ツの よう に︑︹ 議 会
︺ 調査 権が 少 数派 権と して 制度 化 さ れて いる 場合 は そう なり ます
︒ 調査 権︵Enqueterecht
︶ の この よ うな 機能 変化 を認 識 し︑ 貫 徹し たの は︑Max Weber
の 功績 です ので
︑Weber
を現 代 のド イツ 調査 権 の精 神上 の父 と して 位置 づけ る こと がで きる で しょ う︒ 彼は 一 九一 八 年の 著作
﹃新 秩 序ド イツ にお け る 議会 と内 閣﹄ で
︑事 態を 新た な 諸関 係の 下に 認 識し
︑議 会統 制 を実 効的 に行 う ため の 十分 な手 段を ラ イヒ 議会 に与 え よ うと しま した
︒ 連邦 憲法 裁判 所 およ びラ ント 憲 法裁 判所 の裁 判 例を 通じ て︑ 少 数派 権 が要 請な いし 貫 徹さ れま した し
︑ ま た議 会調 査委 員 会法
︵PUAG
で︶ それ が 委員 会レ ベル でも 受 容な いし 拡充 され た ので すが
︑ これ によ って
︑ 議院 内閣 制 にお いて も調 査 委員 会が 機能 す るこ とが でき る よう にな りま し た︒
⑵ 委員 会 手続 と 少数 派権
︹ しか し
︺ すで に 述べ まし たよ う に︑ 調査 委員 会 がそ の設 置段 階 では 少数 派権 と して 構 想さ れ てい るに も拘 ら ず︑ 同委 員会 は 議会 の下 位・ 援 助機 関と して
︑ 本会 議の 会派 構 成の 鏡 像と して の委 員 会構 成の もと で 活 動し なく ては な らな いこ とか ら
︑基 本的 な緊 張 関係 が生 じて き ます
︒そ れゆ え
︑こ の︹ 調 査 委 員 会 とい う
︺ 手 段が なま く ら刀 とな り︑ あ るい は 象徴 的︵symbolisch
︶ な態 度に 終始 す るの では なく て︑ 実 効 的な 議会 統制 を可 能な ら しめ るた め には
︑い わば 設置 段階
︹ の あ り 方 を︺ 延 長し て︑ そ の手 続に つ いて も︑ 少 数派 権の 要 素で もっ て 構想 しな く ては なら な いの です
︒こ の こと を連 邦憲 法 裁判 所は
︑一 連 の判 断︵Judikat
︶ に おい て一 貫し て 示し てい ます25
︒︶
この 裁 判 例の 基本 的 な考 え方 は︑ 議 会調 査委 員会 法︵PUAG
︶ の中 に流 れ込 んで お り︑ そ の際 常に ポイ ン トと なる のは
︑多 数 決 原理 と正 当 な少 数派 権と の バラ ンス の問 題 です
︒こ の場 合
︑委 員会 にお け る少 数派 権と い って も
︑手 続統 制権 を 多数 派か ら少 数 派 へと 移行 させ る こと を意 味す る わけ では あり ま せん26
︒︶
近年のドイツにおける議会法の展開
四 大 連 立 政 権 下 の 議 会 少 数 派 権
⑴ 少数 派 権の 拡 充の 試み
二〇 一三 年九 月の 連 邦議 会選 挙を う けた 内閣 の成 立 によ り
︑ド イツ は一 九 四九 年以 来三 度 目 の大 連立 政権
⎜
⎜CDUSU/C
とSPD
とか ら構 成さ れて い ます
⎜⎜ によ って 統 治さ れ るこ とに なり まし た︒ 最初 の二 つ のケ ース は︑ 一 九六 六年 から 一 九六 九年 まで のKurt Georg Kiesinger
首 相の 大連 立内 閣
︑お よび 二〇
〇 五年 か ら二
〇
〇九 年ま でのAngela Merkel
首相 の大 連立 内閣 で す︒ 二〇 一三 年 末以 来の 今次 の 大連 立内 閣は
︑CDUSU/C
およ び
SPD
会派 が ドイ ツ 連邦 議 会の 議員 の八
〇% 以上 を占 めて いる 点 にお いて 特徴 的で す︒ この こと はも ちろ ん︑ 議会 にお け る少 数派 権の 実 効性 にも 直接 的 な影 響を 及ぼ し てい ます し︑ そ のた め︑ 激し い 議論 の 対象 にな りま し た︒ ここ でも ま た
︑議 会の 調査 委 員会 を例 にし て
︑こ の問 題を 明 らか にし てみ た いと 思い ます
︒ 基本 法お よび 議会 調 査委 員会 法で は︹ 議 員 の︺ 四 分の 一︹ の 要求 が あ る こ と
︺ が同 委 員会 の設 置要 件と して 法 定さ れて い ます
︒し かし
︑ 大連 立 時代 を 迎 え て︑ 野 党 が こ の二 五% の 議員 を 集 め られ な い こ と から
︵ い わ ゆ る 加 重 さ れ た 大 連 立
︵qualifizierte Große Koalition
︶︶
︑こ の 設置 要 件が 論議 の対 象 とな りま した27
︒︶
連邦 議 会 議員 によ る抽 象的 規範 統 制の 提出 要 件は
︑か つて は 議員 の 三 分の 一で した が︑ 憲 法 改正 によ り四 分の 一 に縮 減さ れま した
︵ 二
〇
〇 八 年 一
〇 月 八 日 の 基 本 法 改 正法 律
︵BGBl I S.1926
︶︶
︒ 議事 規 則に おけ る少 数 派権 は︑ より 簡 単に 変更 する こ とが でき ま す︒ 第 一八 立法 期︹ 二
〇 一 三 年九 月
〜 の︺ はじ め
︑大 連 立政 権は
︑野 党権 の本 質的 な妨 害 を行 わな いこ とを
︑少 なく とも 政治 的に は義 務 付け られ て いま した
︒基 本 法四 四条 一項 一 文お よび 議会 調 査委 員会 法一 条 一項 の場 合に お ける 少 数派 保護 を通 常 法律 によ って 強 化 し︑ すな わち
︹ 議会 調 査 委員 会 の設 置
︺ 要件 を引 き下 げ るこ と もあ りう る︑ と の信 念 が︑ と きに 表明 され ま した
︒ しか し 二つ の理 由か ら
︑こ のこ とは 当 を得 てい ませ ん
︒第 一に
︑こ の 四分 の一 とい う 要件 は
︑憲 法制 定者 に よる 憲法 的効 力 を もっ た決 断を 現 して おり
︑こ れ を通 常法 律で 改 正す るこ とは で きま せん
︒第 二 に︑ 議 会調 査手 続に お いて は︑ 第三 者
(法政研究 82‑4‑ )38 1156 講 演
の 法的 地位 が関 わ って おり
︑ま た は関 わる こと が あり うる ので す が︑ この 第三 者 を保 護 する ため には
︑ 議会 の調 査を 憲 法 上︑ 制限 する 必 要が ある ので す
︒
⑵ 少数 派 権と 制 憲者 意思
まず 第一 の 論拠 につ いて です
︒︹ 調 査 委 員会 の 設 置
︺ 要件 が 満た され た場 合︑ 連 邦 議会 は調 査 委員 会を 設置 す る義 務を 負う の です が︑ この 要 件を 定め る規 定 は︑ 憲法 上そ の よう な 数値 設定 を行 う こと を通 じて
︑ 議 会少 数 派の 保護 とい う関 心⎜
⎜そ れ と と もに 議 会 野 党が も つ 手 段⎜
⎜ と︑ 議 会 の 作用 能 Parlaments 力︵Funktionsfahigkeit des と︶ のバ ラ ンス を図 って い ます
︒注 目す べ きは
︑一 九一 九年 のヴ ァイ マ ル 憲法 三四 条が 帝国 議会 議 員の 五分 の 一の みを
︹調 査 委員 会 の 義 務 的 設 置 の
︺ 要件 とし て定 め︑ は る かに 低く 数値 設定 を 行っ て いた
︑と い うこ と です
︒ 少数 派 権を その 限り で 縮減 させ たこ と は︑ 議会 評議 会 の意 図的 な決 断 であ ると 理解 し なく て はな りま せん28
︒︶
また その 限り で
︑ ヴ ァイ マル 時代 の 経験 に照 らし
︑ 憲法 自体 にお い て看 取さ れる 要 件の 定量 化と の 関連 で
︑議 会の 作用 能 力が 強調 され た の でし た29
︒︶
第三 者 の権 利と の関 係 を考 慮せ ずと も
︑連 邦の 通常 法 律制 定者 が基 本 法四 四 条一 項の 要件 を 変更 する こと は 禁 止さ れて いる の です
⎜⎜ たと え それ が賛 成要 件 の縮 減を 意味 し
︑し たが って 議 会の 少 数派 保護 を強 化 する 意味 であ っ た とし ても です30
︒︹︶
も っ とも
︺ 議会 多 数派 が
﹁任 意の 自己 拘 束﹂ を 行う ケー スで あ れば
︑ま た違 っ た結 論 にな る もの と思 わ れま す31
︒︶
諸ラ ント にお い ても
⎜⎜ ドイ ツ は連 邦国 家な の で︑ あら ゆる 機 関が 各支 分国 レ ベル で も再 度立 ち現 れ ます
⎜
⎜そ の 一 部に おい て︑ 四 分の 一要 件が 採 用さ れて いま す︵ バ ーデ ン
‖ ヴュ ル テン ベ ル ク︑ ベ ル リ ン
︑ブ レ ー メ ン︑ ハ ン ブ ル ク
︑ザ ー ル ラ ント
︑ お よび ザ クセ ン
‖ア ン ハル ト
︒︶ そ の他 のラ ント は︑ 議 会 構成 員の 五分 の一 とい う ヴァ イ マル 規律 を引 き 継い でい ま す︵ バ イ エ ルン
︑ ブ ラ ン デ ン ブ ル ク︑ ヘ ッセ ン
︑ ニー ダ ーザ ク セ ン
︑ ノ ル ト ラ イ ン‖ ヴ ェ ス ト ファ ー レ ン︑ ラ イ ン ラ ン ト
‖ プ フ ァ ル ツ︑ ザ ク セン
︑ シュ レ ス ヴ ィヒ
‖ ホ ル シ ュ タ イン
︑ お よ び チュ ー リ ン ゲ ン︶
︒ ここ でも また
︑民 主的 多数 派と 少数 者 保護 との 衡 量に おい て︑ 憲 法上 どの よう な 決断 がな され た かが ポイ ント に なり ます
︒
近年のドイツにおける議会法の展開
⑶ 第三 者 の保 護 第二 の 論拠 に つい て︒ しか し なが ら決 定的 な のは
︑議 会の 調 査に よ って 第三 者の 権 利が 影響 を受 け る 場合 があ る⎜
⎜ この 第三 者自 身 が調 査対 象で あ る場 合で あれ
︑ 調査 とは 無関 係 の場 合 であ れ⎜
⎜と い うこ とで す︒ 調 査 委員 会は 公権 力 を行 使す るの で あり
︑そ れゆ え 第三 者に 対し て は基 本権 に拘 束 され て いま す︒ さら に
︑組 織法 上の 法 的 拘束 の全 体が
︑ 基本 権の 場合 と 同じ よう に︑ 第 三者 の保 護に 仕 えま す︒ 対応 す る法 的 拘束 が基 本法 自 体に 含ま れて い る 場合 には
︑こ の 根拠 から も︑ こ の法 的拘 束を 通 常法 律に よっ て 変更 する こと は でき ま せん
︒少 数者 に よる 議会 統制 の 利 益と
︑第 三者 の 保護 の必 要性 と の衡 量を
︑す で に憲 法制 定者 自 身が 行っ てい る ので す
︒
五 基 本 法 改 正 の 可 能 性 お よ び 必 要 性
現在 のド イツ 連 邦議 会に は︑ す でに 複数 の調 査 委員 会が 存在 し てい ます
︒こ れ らは し かし
︑多 かれ 少 なか れほ ぼす べ て の会 派か らな る
︑実 に広 範な 多 数派 の合 意を もっ て設 置さ れた もの で︑ それ ゆえ
︑ 本当 に摩 擦 が生 じた ケー ス︵ech-
ter Konfliktfall
︶ は なお 発生 して い ませ ん︒ 調査 委員 会は
︑ 議会 野党 の最 も 強力 な武 器に あ たり ます
︒議 会 野党 の存 在と 作 業能 力 とが
︑再 度︑ 基 本法 の民 主制 原 理 の中 核的 要素 と して 立ち 現れ てき ます32
︒︶
それ にも 拘 らず
︑︹ 議 員 の
︺ 四分 の 一と いう
︹ 調 査 委 員 会 の 義 務 的 設 置︺ 要 件を 伴 う既 存の 法状 況 は︑ 憲法 に反 す るも ので はあ りま せん
︒い ず れに し ても
︑ 基本 法四 四条 一 項と の関 連で は︑
憲 法に 反 する 憲法
︵verfassungswidriges Verfassungsrecht
﹂︶
⎜⎜ す なわ ち 基本 法七 九条 三 項違 反
⎜⎜ がポ イン ト とな るで しょ う
︒ 基 本法 四四 条一 項の
︹ 四 分 の 一︺ 要 件は
︑む しろ
︑ 野党 の法 的 地位 をと もに 形作 るも の なの です
︒反 対 の主 張 もあ りう る だろ うと は思 い ます が︑ 議会 に おけ る現 時の 多 数派 関係 を鑑 み ても なお
︑そ の よう な 主張 は説 得的 で はあ りま せん
︒ そ もそ も基 本法 は
︑野 党の 利用 し うる 機﹅会﹅
と︑ 統 治責 任の 交替 の みを 保障 して い るの で あっ て︑ たと え 特定 の要 件を 充
(法政研究 82‑4‑ )40 1158 講 演
足 で き な い が ゆ え に 個 々の 野 党 の 権 利 が も は や 行 使 さ れ え な い 場 合 で あっ て も︑ 大 連 立 政 権 が 憲 法 上
︑非 正 統︵il-
legitim
︶ なも のと なる わ けで はあ りま せ ん︒ もち ろん
︑法 政 策的 には
︑議 員 の四 分の 一に 代 えて
︑全﹅
野党 会 派が 一致 して 求 める 場 合に は調 査委 員 会を 設置 しな く て はな らな い︑ と する 基本 法改 正 につ いて も︑ 熟 考す べき でし ょ う︒ さら にま た
︑基 本 法下 の六 五年 間
︑議 会民 主制 は 比 較的 安定 して い たわ けで すが
︑ その 時を 経た 今
︑基 本法 改正 に よっ て四 分の 一 とい う 要件 を五 分の 一 へと 引き 下げ る こ とも
︑検 討に 値 する と思 われ ま す︒ その 場合 には
︑ その 当然 の帰 結 とし て︑ 委 員会
︹ 運 営
︺ にお ける 少数 派 権に つい て も︑ 平仄 を合 わ せる 必要 があ る もの と思 われ ま す︒
︵補 注: 再 校段 階 で 国 立 国 会 図 書 館 調 査 及 び 立 法 考 査 局
﹃国 会 に よ る 行 政 統 制
⎜
⎜ド イ ツ の
﹁議 会 留 保
﹂を め ぐ る 憲 法 理 論 と 実 務 平 成 二六 年 度 国際 政 策セ ミ ナー 報 告書
﹄ 調査 資 料 二
〇 一 五 二
︑ 二
〇 一 五 年 八 月︶ に 接 し た
︒そ の う ち
︑同 報 告 書 二 四 二 六 頁 は 本 稿 の
﹁二
ド イツ に おけ る 議会 統 制シ ス テ ム﹂ と ほぼ 同 一の 原 文に 基 づ くも の と思 わ れる
︒ すな わ ち
︑今 回 訳出 し た二
〇 一 四 年 九 月 の 講 演で 使 用 され た 原稿 の 一部 を
︑上 記 セ ミナ ー の原 稿 に流 用 され た も のと 思 われ る
︵当 該 セミ ナ ー にお い てヴ ァ ルト ホ フ 教 授 が
Ⅱ
︵本 翻 訳と 重 複す る 部分
︶ に つい て
﹁省 略
﹂さ れ たの は
︑ 別途 翻 訳が 刊 行さ れ る予 定 で ある こ とに 配 慮さ れ たも の で あろ う
︶︒ 再 校に 際 し て重 複 個所 を 削除 す るこ と も 考え た が︑ 原 文そ れ 自体 に も 若干 の 異同 が ある ほ か︑ 同 一 の原 文 と想 定 され る 部 分 の 翻 訳 も 少 なか ら ず 異な っ てい る こと
︑ 当該 箇 所 のみ 削 除す る と講 演 全体 の 趣 旨が 伝 わり に くく な るこ と
︑ およ び
︑ヴ ァ ルト ホ フ 教 授 か ら は 本 講演 の 全 体に つ いて 翻 訳刊 行
・書 籍 へ の転 載 の許 可 を頂 い てい る こ と等 を 考慮 し
︑そ の まま と し た︒
︶
*
Christian Waldhoff
︵ 一九 六 五
︶︒ バ イロ イ ト︑ フ ライ ブ ル ク︑ ミ ュン ヘ ンの 各 大学 で 法 学を 修 めた の ち︑ 一 九九
〇 年 に第 一 次 国 家試 験
︑ 一九 九 四年 に 第二 次 国家 試 験 に合 格
︒一 九 九六 年 に博 士 論 文﹁ 租 税立 法 にお け る憲 法 上 の基 準
⎜⎜ ド イツ と ス イ ス の 比 較
﹂で ミ ュ ンヘ ン 大学 法 学部 賞
︒二
〇
〇 三年 九 月か ら ボン 大 学法 学 部 公法 講 座教 授
︑二
〇 一二 年 よ りベ ル リン
・ フン ボ ル ト 大 学 法 学 部公 法 講 座・ 租 税法 講 座教 授
︒二
〇 一 四年 四 月よ り ベル リ ン・ フ ン ボル ト 大学 法 学部 長
︒ 1
︶
︻訳 注
︼本 稿 は︑ 科 研 費基 盤
⒞︵ 課 題番 号 二五 三 八
〇〇 四
〇︶ の 研 究 プ ロ グ ラム の 一 環 と し て 二
〇 一 四 年 九 月 一 九 日 に ベ ル リ
近年のドイツにおける議会法の展開
ン
・フ ン ボ ルト 大 学で 行 われ た ヴァ ル ト ホフ 法 学部 長 の講 演 の翻 訳 で ある
︒ 2
︶
︻訳 注
︼ヴ ァ ルト ホ フ 教授 に よれ ば
︑狭 義 の議 会 法
︵議 会 先例
・議 事法 な ど︶ は 議会 官 僚 の任 務 であ っ て︑ 国 家シ ス テ ムの 運 用 上 極め て 重 要で は ある が
︑学 術 上の 論 議 の対 象 とは な りに く い︑ と の こと で あっ た
︒ 3 268 ff. ︶Wahlrecht und Parlamentsrecht als Gelingensbedingungen reprasentativer Demokratie,VVDStRL 72(2013),S.191 ff., 4
︶
︻訳 注
︼二
〇
〇五 年 の 第二 六 次議 員 法改 正
︵訳 文 を 含 む
︶と
︑ そ の 後 の 連 邦 憲 法裁 判 所 へ の 提 訴 に つ い て は
︑古 賀 豪
﹁ ド イ ツ 連 邦議 会 議 員の た めの 行 為規 範 の改 正
﹂ 外国 の 立法
二 二九 号
︵二
〇
〇六 年
︶一 一 四 頁以 下 を参 照
︒ 5
︶BVerfGE 118,277.
6
︶
︻訳 注
︼ク リ ステ ィ ア ン・ ヴ ァル ト ホフ
︵ 柴田 尭 史 訳︶
ハン ス
‖ ケル ゼ ンの 議 会代 表 論と ド イ ツに お ける 議 員の 地 位 を め ぐ る 最 新の 問 題
﹂自 治 研究 九 一巻 一
〇号
︵ 二
〇一 五 年︶ 四
〇 六
〇 頁︒ 7
︶
︻訳 注
︼こ の テー マ に 関す る 近年 の 研 究 成 果 とし て
︑ 吉 田 栄 司﹃ 憲 法 的 責 任 追 及 制 論︹
Ⅰ
・
Ⅱ︺
﹄ 関 西 大学 出 版 部
︑ 二
〇 一
〇 年
︶︑ お よ びク リ スト フ・ メ ラ ース
︵ 赤 坂幸 一 訳︶
議 会統 制 の二 つ の概 念
﹂ 法政 研 究八 一 巻一
・二 号︵ 二
〇 一四 年
︶一
一 六頁 を 参 照
︒ 8
︶BVerfGE 110,199(219).
9
︶
︻訳 注
︼議 会 が他 の 国 家機 関 の組 織 構成 に 関与 す る 権限 を い う
︒連 邦 大 統 領 や 連 邦 憲 法 裁 判 所 裁 判 官 の 任命 な ど が
︑ 主 と し て 念 頭に 置 か れて お り︑ わ が国 の 国会 同 意 人事 等 も︑ 議 会の 主 要任 務 と して 正 面か ら 位置 付 ける 必 要 があ ろ う︒ こ の点 に 着 目 し た 近 年 の論 稿 と して
︑ 高澤 美 有紀
﹁ アメ リ カ 及び イ ギリ ス にお け る公 職 任 命の 議 会に よ る統 制
﹂レ フ ァ レン ス 六三 巻 一〇 号
︵ 二
〇 一 三 年
︶六 三 八二 頁 を参 照
︒ 10
︶Vgl.BVerfGE 70,324(355).
11
︶BVerfGE 124,78(114).
12
︶
︻訳 注
︼同 様 の問 題 状 況を 抱 える わ が国 に おい て 政 府統 制 権の 体 系化 を 試み る も のと し て︑ 大 石眞
﹃ 憲法 秩 序 の 展望
﹄ 有 斐 閣︑ 二
〇〇 八 年
︶一 五 七 一 六 四頁
︹ 初出 一 九九 八 年︺
︒ 論 者と 同 じ新 独 立 権能 説 を前 提 とし な くと も
︑ この 問 題意 識 は共 有 し う る で あ ろ う︒ 13
︶ そ の 旨 を詳 述 する 例 とし て
︑Christoph Mollers in seiner Habilitationsschrift,,Gewaltengliederung“,2005,S.198 ff. 14
︶Max Weber,Parlament und Regierung im neugeordneten Deutschland,1918,S.351 ff.
︻ 訳 注︼ マ ック ス
・ヴ ェ ー バー
︵ 中 村 貞二
・山 田高 生 訳
︶ 新 秩序 ド イ ツの 議 会と 政 府⎜ 官 僚と 政 党 への 政 治的 批 判﹂
﹃ 政 治論 集 2﹄
み すず 書 房︑ 一 九八 二 年
︶三 三 三
(法政研究 82‑4‑ )42 1160 講 演