Semi-unmixed 二部グラフの辺イデアルについて
東平 光生
∗明治大学研究・知財戦略機構
†1 導入
K は体とし,S は体 K 上の n変数多項式環 K[X1, . . . , Xn] とする.G はグラフと し,Gの辺は Gの相異なる頂点 2つの組で表す(すなわち,本稿で扱うグラフはグラ フ理論では無向単純グラフと呼ばれるグラフに限る).グラフ G の頂点集合をV(G), 辺集合を E(G) とそれぞれ表す.S の各変数にグラフ G の頂点をそれぞれ対応させ,
V(G) ={1, . . . , n}と表すことにする.
I(G) は G から与えられる S の square-free な単項式イデアルであって,I(G) = (XiXj| {i, j} ∈ E(G))と定義される.I(G)はGの辺イデアル(edge ideal) と呼ばれ,
1990年に Villarreal により[11] の中で導入された.主にS/I(G) がCohen–Macaulay となるグラフGの構造について研究がなされた.2005年にHerzog–日比により,二部グ ラフH のもとで,S/I(H)のCohen–Macaulay性と順序構造の対応(本稿の系4.9を参 照) が明らかにされた.2007年にはVillarreal により二部グラフH のもとで,S/I(G) のunmixed性と擬順序構造の対応(本稿の系2.5を参照)が明らかにされた.本稿で定義 し,考察するsemi-unmixed性は安易な拡張であるが,unmixed性やCohen–Macaulay 性の必要条件に位置する.二部グラフにおける辺イデアルの結果を,少しでも拡張した形 で述べることが本稿の目的である.
本稿の構成について述べる.第2節では,Herzog–日比のCohen–Macaulay二部グラ フやVillarrealのunmixed 二部グラフの判定法に現れる条件を再考察することにより,
semi-unmixed 二部グラフの特徴づけを与える.第 3節では,semi-unmixed 二部グラ フのregularityを計算する.第 2節で求めたsemi-unmixed 二部グラフの特徴づけを応 用し,Kumminiのunmixed 二部グラフの結果を用いて,semi-unmixed 二部グラフの regularityを誘導マッチング数を用いて計算する.第4節では,semi-unmixed二部グラ フの条件とsequentially Cohen–Macaulay性の関係を考察をする.semi-unmixed二部
∗e-mail : [email protected]
†〒214-8571神奈川県川崎市多摩区東三田1-1-1
グラフのsequentially Cohen–Macaulay性の特徴づけを与え,系として Herzog–日比の
Cohen–Macaulay二部グラフの特徴づけを述べる.第5節では,ほとんど完全な多部グ
ラフのunmixed性における,semi-unmixed二部グラフの応用を述べる.
2 Semi-unmixed 性
まず,Semi-unmixed性を定義する.Gはグラフとし,V はV(G)の部分集合とする.
V がGの独立集合であるとは,V はGのいかなる辺eも含まないことをいう.∆(G)で Gの独立集合全体を表すことにし,F(G)で∆(G)の極大な元全体を表すことにする.ま た|F(G)|をグラフGの次元と呼ぶことにし,dimGと表すことにする.Gがunmixed であるとは,Gの任意の極大な独立集合V に対してdimG=|V|が成り立つことである.
定義 2.1 グラフGがsemi-unmixedであるとは,Gのある極大な独立集合Z が存在し て,Z と異なるGのすべての極大な独立集合V に対してdimG=|V|が成り立つことで ある.また,Gの極大な独立集合Z に対して,Gが上記の条件をみたすとき,GはZ に 関してsemi-unmixedであると呼ぶ.
次に,semi-unmixed性の調査を行うのに必要なグラフの記号や,辺イデアルに関する
基礎事実について述べる.
V はV(G) の部分集合とする.頂点集合をV に制限したGの誘導部分グラフを GV
で表す.すなわち GV は V(GV) = V,E(GV) = {{i, j} ∈ E(G)|i, j ∈ V} となる グラフである.G\V は誘導部分グラフ GV(G)\V を表すことにする.V の G におけ る近傍を NG(V) = {w ∈ V(G)| ∃v ∈ V;{v, w} ∈ E(G)} と定める.V = {v} とな るとき,NG(V) = NG(v) と表し,頂点v のGにおける近傍と呼ぶ.また,NG[V] = NG(V)∪V, NG[v] =NG(v)∪ {v}とおく.これらは閉近傍と呼ばれるが,本稿ではこれ らも単に近傍と呼ぶことにする.degG(v) =|NG(v)|とおき,頂点vのGの次数と呼ぶ.
degG(v) = 0のとき,vはGの孤立点と呼ばれる.Gの孤立点全体をiso(G)で表すこと にする.Gがsemi-unmixedであることと,G\iso(G)がsemi-unmixedであることは同 値である.
辺イデアルは Stanley–Reisnerイデアルであることに注意する.実際,辺イデアルは square-freeな単項式イデアルである.詳しく言えば,∆(G)はV(G)上の単体的複体と みなせ,辺イデアルI(G)は∆(G)のStanley–Reisnerイデアルに一致する.
S/I(G)の素因子イデアル全体は,その極小素イデアル全体に一致する.辺イデアル I(G)の極小素イデアル全体をMin(G)で表すことにする.単体的複体∆(G)のファセッ ト全体はF(G)である.PC = (Xi|i ∈C)とおく.Stanley–Reisner環の理論によって,
Min(G) = {PC|V(G)\C ∈ F(G)}が成り立つ.S/I(G)のクルル次元は∆(G)の単体 的複体の次元に1を加えた値に一致する.すなわちdimS/I(G) = dim ∆(G) + 1である.
記 号 の 準 備 の 最 後 に ,本 稿 の メ イ ン と な る 二 部 グ ラ フ に 用 い る 記 号 を 定 義 す る . V1, . . . , Vc は V(G) の 部 分 集 合 と す る .G = (G;V1, . . . , Vc) と 書 い た ら ,V(G) = V1 ⊔ · · · ⊔Vc という頂点集合の分割をもつグラフ G を表すことにする.さらにこの とき,V1, . . . , Vc がGの独立集合であるならば,G= (G;V1, . . . , Vc)は多部グラフであ ると呼ぶ.c= 2であるとき,G= (G; V1, V2)は二部グラフである.(G; V1, V2)が完全 二部グラフであるとは,任意のv1 ∈V および任意のv2 ∈V2 に対して,{v1, v2}がGの 辺であることをいう.(G;V1, . . . , Vc)が完全多部グラフであるとは,相異なる任意のi, j に対して,(GVi∪Vj; Vi, Vj)が完全二部グラフであることをいう.
本節では以下,H は孤立点のない二部グラフでH = (H; X, Y)とし,r=|X|, s =|Y| とおく.Semi-unmixed性に関する基本的な主張は以下である.
定理 2.2 Z はH の極大な独立集合とする.二部グラフ(H;X, Y)における以下の条件 は同値である.
(1) H はZ に関してsemi-unmixedである.
(2) X ̸= Z であるならば r = s である.さらに,H の頂点のある番号付け X = {x1, . . . , xr}, Y ={y1, . . . , ys}が存在して以下の条件をみたす.
(CM1) 任意のi(1≤i≤r)に対して,{xi, yi}はH の辺である.
(CM3)Z {xi, yj}と{xj, yk}がH の辺であって{xi, yk}⊈Z ならば,{xi, yk}も H の辺である.
(CP)Z 各j(1≤j ≤s)に対して次が成り立つ.{xj, yj} ∩Z =∅であるならば,
H(NH(yj)∩Z)∪(Y\Z)とH(X\Z)∪(NH(xj)∩Z)は完全二部グラフである.
(3) P が I(H) に 属 す る 極 小 素 イ デ ア ル で P ̸= PV(H)\Z な ら ば ,dimS/P = dimS/I(H)である.
(4) F が∆(H)のZ と異なるファセットであるならば,dimF = dim ∆(H)である.
(証明) (1)⇔(3)と(3)⇔(4)は定義2.1の後に紹介したStanley–Reisner環の理論に よって導かれる.
(1) ⇒ (2) : H は孤立点が存在しないから,X も Y も H の極大な独立集合であ
る.X ̸= Z である場合は,H が semi-unmixed であるから r = |X| = dimH であ る.|X| ≤ |Y| = s としているから,r = s が成り立つ.X = Z である場合も,H が semi-unmixedであるからs = |Y| = dimH である.dimH =|Y|であるから,頂点の ある番号付けX = {x1, . . . , xr}, Y = {y1, . . . , ys}が存在して(CM1) をみたす.以下,
この番号付けが(CM3)Z と(CP)Z をみたすことを示す.
(CM3)Zが成立しないとすると,Hのある辺{xi, yj}と{xj, yk}が存在して,{xi, yk}⊈ Z かつ{xi, yk} ∈/ E(H)である.{xi, yk} ⊆ F となるH の極大な独立集合F をとる.
F ̸= Z であって,H は semi-unmixed であるから dimH = |F| となる.ところが,
{xj, yj} ∩F =∅であるから,|F|<|Y|= dimH である.これは矛盾である.したがっ て,(CM3)Z が成り立つ.
1≤j ≤sを固定する.{xj, yj} ∩F =∅とする(xj が存在しないときは1点集合{yj} として考える).xi ∈ NH(yj)∩Z, yk ∈ Y \Z とする.{xi, yk}はH の辺でないとし て矛盾を導く.(Z ∩Y)∪ {xi, yk} ⊆ F となる F ∈ F(H) をとる.yk ∈ F \Z より,
F ̸= Z である.H はZ に関してsemi-unmixedであるから,|F| = dimH である.こ こでxi ∈ F であるから,yj ∈/ F である.r+ 1 ≤ j ≤ s の場合は,xj ∈/ V(H)である から,|F| <|Y|= dimH となり矛盾である.1 ≤j ≤ rとしてよい.このときxj ∈ F である.yl ∈ NH(xj)∩Z がとれる.{xj, yl}はH の辺であるが,yl ∈ Y ∩Z ⊆ F よ り,{xj, yl} ⊆F となり矛盾である.以上により,H(NH(yj)∩Z)∪(Y\Z)は完全二部グラフ である.H(X\Z)∪(NH(xj)∩Z) が完全二部グラフであることも同様に証明できる.以上で (CP)Z が成り立つ.
(2) ⇒ (1) : F ∈ F(H)とする.F ̸= Z, |F| < |Y| とし矛盾を導く.まず,(A)「あ るj(1≤ j ≤ r)が存在して,{xj, yj} ∩F =∅となる」ことを示す.X ̸=Z の場合は,
(2)の仮定よりr = sが成り立ち,今は|F| < |Y| であるから正しい.X = Z とする.
yk ∈F がとれる.(CP)Z により,F ⊇ {yr+1, . . . , ys}が成り立つ.|F| <|Y|であった から,(A)が成り立つ.
(A)により,F のある部分集合{xi, yk}が存在して,{xi, yj}と{xj, yk}はH の辺と なる.このとき,{xi, yk} ⊈ Z の場合は(CM3)Z によって矛盾が導かれ,{xi, yk} ⊆ Z の場合は(CP)Z によって矛盾が導かれる.■
Z =X に関するsemi-unmixed二部グラフの特徴づけは以下である.
系2.3 二部グラフ(H;X, Y)における以下の条件は同値である.
(1) H はX に関してsemi-unmixedである.
(2) H の頂点のある番号付けX ={x1, . . . , xr}, Y ={y1, . . . , ys}が存在して以下の条 件をみたす.
(CM1) 任意のi(1≤i ≤r)に対して,{xi, yi}はH の辺である.
(CM3) {xi, yj}と{xj, yk}がH の辺であるならば,{xi, yk}もH の辺である.
(CP) 任意のj(r+ 1≤j ≤s)に対して,HNH(yj)∪Y は完全二部グラフである.
G は必ずしも二部グラフでないグラフとする.Semi-unmixed の定義より,G が unmixedであることと,Gの任意の極大な独立集合V に対してGがV に関してsemi- unmixedであることは同値である.この事実は二部グラフ(H;X, Y)では次のように言 い換えられる.
命題 2.4 二部グラフ(H;X, Y)における以下の条件は同値である.
(1) H はunmixedである.
(2) H の任意の極大な独立集合Z に対して,H はZ に関してsemi-unmixedである.
(3) |X|=|Y|である.さらにH はX に関してsemi-unmixedである.
系2.3と命題2.4を合わせることで,以下の主張を系として得る.
系2.5 ([12]を参照) (H;X, Y)は孤立点のない二部グラフとする.以下の条件は同値で ある.
(1) H はunmixedである.
(2) |X| = |Y| である.さらに H の頂点のある番号付け X = {x1, . . . , xr}, Y = {y1, . . . , yr}が存在して以下の条件をみたす.
(CM1) 任意のi(1≤i ≤r)に対して,{xi, yi}はH の辺である.
(CM3) {xi, yj}と{xj, yk}がH の辺であるならば,{xi, yk}もH の辺である.
3 Regularity の計算
まず regularityの定義を述べる.Gは必ずしも二部でないグラフとする.グラフGの regularityは,S/I(G)のCastelnuovo–Mumford regularityで定義される.すなわち,
reg(G) = reg(S/I(G)) = max{i+j|∗Hmi (S/I(G))j ̸={0}}
= max{j| ∃i, ToriS(K, S/I(G))i+j ̸= 0}
である.ここで,m= (X1, . . . , Xn)である.後半の等式はEisenbud–後藤の結果である.
より一般的な定義なども含めて,[1]などを参照してほしい.
次に,regularityに関連するグラフの不変量,誘導マッチング数の定義を述べる.M は
E(G)の部分集合とする.M がGの誘導マッチングであるとは,|M|= 1またはM の相 異なる2元eとf に対してe∩NG[f] = ∅が成り立つことをいう.グラフGの誘導マッ チング数はGのim(G)で表し,im(G) = max{|M| |M はGの誘導マッチング}と定義 する.Katzmanは不等式im(G)≤reg(G)を[7]の中で示した.その後,その不等式がい つ等式になるかという問題が研究されている.特にKumminiは以下の主張を証明した.
定理 3.1 ([8]を参照) H は二部グラフとする.H がunmixedであるならば,reg(H) = im(H)である.
本節では上記の Kummini の計算結果を用いて,semi-unmixed となる二部グラフの regularityの計算を行う.まず,X に関してsemi-unmixedとなる場合から考察する.
補題 3.2 (H;X, Y)は二部グラフとする.H がX に関してsemi-unmixed であるなら ば,reg(H) = im(H)である.
(証明) Unmixed でない場合を考えれば十分であるから,|X| < |Y| としてよい.
X′ は V(H)∩X′ = ∅, |X′| = |Y| − |X| をみたす新たな頂点集合とする.H に対し て,V(H′) = (X ⊔X′)⊔Y, E(H′) = E(H)∪ {{x′, y}|x′ ∈ X, y ∈ Y} となる二部 グラフ H′ = (H′; X ⊔ X′, Y) を定義する.H は H′ の誘導部分グラフであるから,
reg(H) ≤ reg(H′)が成り立つ([6]などを参照).また,作り方からim(H) = im(H′)と なる.しかもF(H′) = (F(H)\X)∪ {X⊔X′}をみたすので,H′はunmixedとなる.
よって,
im(H)≤reg(H)≤reg(H′) = im(H′) = im(H) となり,im(H) = reg(H)を得る.■
Z ̸= X に関して semi-unmixedとなる場合(補題 3.4)を考察するために,グラフの
regularity における基本的な主張を確かめる.これは,辺をもつグラフ G の補グラフ
Gが弦グラフであることと,reg(G) = 1が同値である (例えば[2, Theorem 3.4] を参 照)ことを用いる.ここで補グラフGとは,V(G) = V(G),E(G) = {{v, w} | {v, w}∈/ E(G), v ̸=w}をみたすグラフのことである.また弦グラフとは,そのグラフの誘導部分 グラフとして長さ4以上のサイクルが存在しないことをいう.
命題 3.3 G は 必 ず し も 二 部 で な い グ ラ フ と し ,長 さ 5 の 閉 路 を も た な い と す る . im(G) = 1であるならば,reg(G) = 1である.
(証明) reg(G)>1とすると,主張の直前に述べた事実から,補グラフGは弦グラフで ないから,長さ4以上のサイクルを誘導部分グラフC として含む.C の長さが4である と,C の補グラフは2元からなるGの誘導マッチングとなって,im(G)>1となり仮定 に反する.一方でCの長さが5以上であると,Cの補グラフに長さ5のサイクルが現れ,
それはGのサイクルでもあって仮定に反する.以上より,reg(G) = 1である.■
補題 3.4 (H;X, Y)は二部グラフ,Z はH の極大な独立集合とし,Z ̸=X とする.H がZ に関してsemi-unmixedであるならば,reg(H) = im(H)である.
(証明) H は二部グラフであるから,命題3.3より2 ≤ im(H) ≤ reg(H)としてよい.
|X| ≤ |Y|, iso(H) = ∅ とする.r = |X|, s = |Y| とおく.定理 2.2 より,H におい てr = s であって,頂点の番号付けX = {x1, . . . , xr}, Y = {y1, . . . , yr}が存在して,
(CM1)と(CM3)Z,(CP)Z をみたす.
H に対して,二部グラフ(H∗; X, Y)を
E(H∗) =E(H)∪ {{xj, yk} | ∃i; {xi, yi} ∩Z =∅, xj ∈NH(yi)∩Z, yk ∈NH(xi)∩Z} と定める.多項式 S を,変数と頂点 V(H) を同一視して S = K[v|v ∈ V(H)] とお
く.I(H∗) = I(H) + (xiyk| {xi, yk} ∈ E(H∗)\E(H)) であるから,(CP)Z によって I(H∗)∩(w|w /∈Z) =I(H)が成り立つ.
I(H∗)とI(H)の素イデアル分解の比較により,H∗ はunmixedである.さらにH∗ の作り方から,I(H∗) + (w|w /∈ Z) = P ∩Qという二つの素イデアルによる分解を得 る.よってS 上の完全列
0−→S/I(H)−→S/I(H∗)⊕S/(w|w /∈Z)−→S/P ∩Q −→0
を 得 る .よ っ て ,局 所 コ ホ モ ロ ジ ー に よ る regularity の 定 義 か ら ,reg(H) ≤ max{reg(S/P ∩ Q) + 1, reg(S/I(H∗))} と な る .P ∩ Q は 完 全 二 部 グ ラ フ と い く つ か の 孤 立 点 か ら な る グ ラ フ の 辺 イ デ ア ル と み な せ る か ら ,補 題 3.2 に よ っ て reg(S/P ∩Q) + 1 = 2となる.また,定理3.1によってreg(S/I(H∗)) = im(H∗)であ る.したがって,reg(H) ≤ im(H∗)としてよい.H∗ の作り方から,im(H∗) ≤ im(H) は常に成り立つ.以上により,reg(H) = im(H)である.■
補題3.2と補題3.4を合わせれば以下の定理を得る.
定理 3.5 H は二部グラフとする.H がsemi-unmixedであるならば,reg(H) = im(H) である.
4 Sequentially Cohen–Macaulay 性
Cohen–Macaulay性が順序構造と対応し,unmixed性は擬順序構造と対応することを 背景に,semi-unmixedとなる二部グラフから抽出した条件を元に,sequentially Cohen–
Macaulay性がどのような構造と対応するかを調査し,結論(定理4.8)を述べる.本節の 主張(命題 4.4以降)の証明は,ほとんど全て組合せ論的な操作に終始する.そのため主 張の紹介に主眼を置き,証明は行わないか概略程度にとどめる.
S = K[X1, . . . , Xn]は体K 上の多項式環とし,体K は常に固定する.Sequentially Cohen–Macaulayの概念はStanleyによって以下のように定義された.
定義 4.1 ([9]) M はZ-次数付きS-加群とする.M がsequentially Cohen–Macaulayで あるとは,M の次数付き部分加群Miの列
{0}=M0 ⊆M1 ⊆ · · · ⊆Mr =M
が存在して,以下の条件をみたすことをいう.
(1) 各i(1≤i ≤r)に対して,Mi/Mi−1 はCohen–Macaulayである,
(2) dim(M1/M0)<dim(M2/M1)<· · ·<dim(Mr/Mr−1)が成り立つ.
Gはグラフとする.剰余環S/I(G)がsequentially Cohen–Macaulay となるとき,Gは
sequentially Cohen–Macaulayと呼ぶことにする.他の環の性質についても,Gの性質と して呼ぶことにする.例えば,GがCohen–Macaulayグラフであるというのは,S/I(G) がCohen–Macaulay環となることである.
命題 4.2 (H; X, Y)は孤立点のない二部グラフとする.このとき,以下の条件は同値で ある.
1. HはCohen–Macaulayである.
2. |X| =|Y|であって,H はsemi-unmixed かつsequentially Cohen–Macaulayで ある.
(証明) 定義4.1により,S/I(H)がCohen–Macaulayであることと,S/I(H)が加群の 列{0} ⊆ M1 =S/I(H)によってsequentially Cohen–Macaulayであることが同値であ る.したがって,S/I(H)の任意の極小素イデアルP に対してdimS/P = dimS/I(H) が成り立つ.定理 2.2と命題 2.4により,|X| = |Y| であって H はsemi-unmixed で ある.■
グラフの頂点の番号付けに関する性質について述べておく.条件 (P) が番号付け V(G)\iso(G) ={v1, . . . , vt}に関する性質であるとき,条件(P)を番号条件と呼ぶこと にする.(P1), . . . ,(Pl) は番号条件とする.Gが番号条件(P1), . . . ,(Pl)をみたすとは,
ある番号付けV(G)\iso(G) ={v1, . . . , vt}が存在して,番号条件(P1), . . . ,(Pl)のすべて をみたすことをいう.例えば,(CM1)や(CP)は番号条件である.また,H = (H;X, Y) がXに関してsemi-unmixedであるならば,(H;X, Y)は(CM1)と(CM3),(CP)をみ たす.
本 稿 に お け る 二 部 グ ラ フ の sequentially Cohen–Macaulay 性 の 調 査 に は ,Tuyl–
Villarrealの以下2つの結果を用いる.
補題 4.3 ([10, Lemma 3.9]を参照) (H;X, Y)は二部グラフとし,|X| ≤ |Y|,E(H)̸=∅ とする.H がsequentially Cohen–Macaulayであるならば,H に次数1の頂点y ∈ Y が存在する.
定理 4.4 ([10, Corollary 3.11]) Hは二部グラフとし,H のある頂点vとwが存在して NH(v) = {w}をみたすとする.このとき,H がsequentially Cohen–Macaulayである ことと,H\NH[v]およびH\NH[w]がsequentially Cohen–Macaulayであることは同 値である.
以下,H = (H;X, Y)は二部グラフとし,r=|X|, s =|Y|とおく.番号条件を考える 主張については,H の孤立点は存在しないと仮定してよい.
命題 4.5 (H;X, Y)は孤立点のない二部グラフとする.Z はH の極大な独立集合とし,
Hに次数1の頂点y ∈Y が存在すると仮定する.このときH が(CM1)と(CM3)Z をみ たすならば,頂点のある番号付けX ={x′1, . . . , x′r}, Y ={y′1, . . . , ys′}が存在して(CM1) と(CM3),y′1 =yをみたす.
(証明) 番号付けX = {x1, . . . , xr}, Y = {y1, . . . , ys}は(CM1) と(CM3)Z をみたす とする.y = yα とおく.α > r である場合は,xβ ∈ NH(yα)をとる.β ≤ r である.
yβ とyα を入れ替えて新しい番号付けを考えても,degH(yα) = 1であるため(CM1) と (CM3)Z はみたされる.よって,α≤rとしてよい.
φ は{1, . . . , r}上の置換とする.各 i(1 ≤ i ≤ r) に対しては x′φ(i) = xi, yφ(i)′ = yi
と置き,各 j(r + 1 ≤ j ≤ s) に対しては yj′ = yj とおく.すると,新しい番号付 けX = {x′1, . . . , x′r}, Y = {y′1, . . . , y′s} は(CM1) と(CM3)Z をみたす.そこで,φ を φ(α) = 1となるようにとればy =yα =y1′ となる.■
補題 4.6 ZはHの極大な独立集合とする.Hの頂点の番号付けX ={x1, . . . , xr}, Y = {y1, . . . , ys}で,(CM1)と(CM3)Z,さらにZ ⊆ ∪ri=1{xi, yi}をみたすものが存在した と仮定する.このときH がsequentially Cohen–Macaulayであるならば,(H;X, Y)は (CM1)と(CM2),(CM3)Z をみたす.
(証明の概略) 各i(1≤i ≤r)に対して番号条件
(CM2)i : {xi, yj}がHの辺であるならば,i≤j である を考える.
H はsequentially Cohen–Macaulayであるから,補題4.3により次数1の頂点y ∈Y が存在する.y =yα とおく.仮定の(CM3)Z とZ ⊆ ∪ri=1{xi, yi}によって,α≤rとな るようにα を選べる.すると命題4.5の証明により,degH(y1) = 1となるようにでき,
(H;X, Y)が(CM1)と(CM2)1,(CM3)Z,Z ⊆ ∪ri=1{xi, yi}をみたす頂点の番号付け が存在する.
H2 =H \NH[y1]とおく.上で得た番号付けの誘導から(H2; X \ {x1}, X \ {y1})は (CM1) と,(CM3)Z,Z ⊆ ∪ri=2{xi, yi} をみたす.定理 4.4より,H2 は sequentially Cohen–Macaulayであるから,同様に命題4.5の証明からdegH
2(y2) = 1になるような 番号付けが存在し,(CM2)1 をみたすようにできる.このとき,(H;X, Y)は(CM1) と (CM2)1,(CM2)2,(CM3)Zをみたす.次はH3 =H2\NH[y2]とおき,同様の操作を繰 り返すことによって,主張の結論を得ることができる.■
補題 4.7 (H;X, Y) が(CM1) と(CM2),(CM3) をみたすならば,H はsequentially Cohen–Macaulayである.
(証明の概略) |X| = rに関する帰納法で示す.r = 1の場合は H は常に sequentially
Cohen–Macaulayである.
r > 1 とする.番号付けX = {x1, . . . , xr}, Y = {y1, . . . , ys} は(CM1) と(CM2), (CM3) をみたすとする.H1 = H \ NH[y1], H2 = H \NH[x1] とおく.NH[y1] = {x1, y1}, iso(H1) ⊆ {yr+1, . . . , ys}であるから,H から誘導される H1 の頂点の番号付 けは(CM1)と(CM2),(CM3)をみたす.帰納法の仮定よりH1 はsequentially Cohen–
Macaulayである.
H2 については,(CM3)によりiso(H2) ={xi|yi ∈NH(x1),2≤i≤r}の成立が鍵で ある.この事実によって,
NH(x1)∪iso(H2) ={xi, yi|yi ∈NH(x1), 2≤i≤r} ∪ {yj|yj ∈NH(x1), r < j} が成り立つ.H2 もまた H の誘導部分グラフであるから,H から誘導される番号付けに より,H2 の頂点の番号付けもまた(CM1)と(CM2),(CM3) をみたす.帰納法の仮定 よりH2 はsequentially Cohen–Macaulayである.定理4.4により,H はsequentially Cohen–Macaulayである.■
次の主張,補題4.8の証明は概略も含め行わない.補題4.8は,補題4.7と合わせて補 題4.6の逆である.(CM3)Z の番号条件を考える際,Z = X の場合が補題4.7であり,
Z ̸= Xの場合が補題4.8である.Z ̸=X の場合もまた,定理4.4を用いて証明すること に変わりはない.しかし,補題4.7と同様な証明は行えないため,次の番号条件を補う.
(CP)XZ : 各i(1≤i≤r)に対して,HNH(yi)∩Z∪(Y\Z)は完全二部グラフである.
番号条件(CP)XZ はsemi-unmixedであるための必要条件である(定理2.2参照).
補題 4.8 Z は H の極大な独立集合とし,|Z| < |X| とする.H の頂点の番号付け X = {x1, . . . , xr}, Y = {y1, . . . , ys} で,(CP)XZ とZ ⊆ ∪ri=1{xi, yi}をみたすものが 存在したと仮定する.このとき (H;X, Y)がその番号付けでさらに (CM1) と(CM2), (CM3)Z をみたすならば,H はsequentially Cohen–Macaulayである.
補題4.6と補題4.7,補題4.8により以下の定理が得られる.
定理 4.9 (H;X, Y)はZ に関してsemi-unmixedであるとする.このとき,以下の条件 は同値である.
(1) H はsequentially Cohen–Macaulayである.
(2) (H;X, Y)は(CM1)と(CM2),(CM3)Z をみたす.
(証明) (1)⇒(2) :補題4.6による.
(2)⇒(1) : (H;X, Y)は(CM1)と(CM2),(CM3)Z をみたするとする.Z =X の場 合は,補題4.7によりH はsequentially Cohen–Macaulayである.Z ̸=Xの場合は,同 時に(CP)Z もみたすことが,定理2.2の証明(1)⇒ (2)の部分より導かれる.したがっ
て,補題4.8によりH はsequentially Cohen–Macaulayである.■ 命題4.2と定理4.9を合わせることで,以下を系として得る.
系4.10 ([4, Corollary 9.1.14]や[3]を参照) (H;X, Y)は孤立点のない二部グラフとす る.このとき,以下の条件は同値である.
(1) H はCohen–Macaulayである.
(2) |X|=|Y|であり,(H;X, Y)は(CM1)と(CM2),(CM3)をみたす.
5 Unmixed なほとんど完全な多部グラフへの応用
semi-unmixed の性質は,実はほとんど完全な多部グラフのunmixed性の調査の際に 現れた性質である.本節では,unmixedとなるほとんど完全な多部グラフへの応用を述 べる.
定義 5.1 ([5]) cは自然数とし,G= (G;V0, V1, . . . , Vc)は(c+1)部グラフとする.Gが ほとんど完全な多部グラフであるとは,G\V0 = (G;V1, . . . , Vc)が完全c部グラフとな ることである.
(G;V0, V1, . . . , Vc) はほとんど完全な多部グラフとする.各 i(1 ≤ i ≤ c) に対して Gi :=GV0∪Vi とおくと,(Gi;V0, Vi)は二部グラフである.次の主張は紹介をするにとど め,ここでは証明は行わない.
定理 5.2 (G;V0, V1, . . . , Vc) はほとんど完全な多部グラフとする.このとき G がun- mixedであるならば,各i(1≤i≤c)に対してGiはsemi-unmixedである
定理5.1より,ほとんど完全な多部グラフGがunmixedであるならば,Gの辺全体の 構造がわかる.これにより,そのGのregulariyは誘導マッチング数で計算ができる.以 下でそれについて述べ,本稿による報告を終える.
補題 5.3 ([5, Lemma 5.2]を参照) (G;V0, V1, . . . , Vc)はほとんど完全な多部グラフとす る.このとき,以下の性質が成り立つ.
(1) reg(G) = max{reg(G1), . . . ,reg(Gc),1}である,
(2) im(G) = max{im(G1), . . . ,im(Gc),1}である,
(3) 任意のi(1≤i ≤c)に対してreg(Gi) = im(Gi)であるならば,reg(G) = im(G)が 成り立つ.
次の主張は[5]の中で証明したが,semi-unmixedの導入によって証明が幾分か簡略化 された.
定理 5.4 ([5, Theorem 1.4]を参照) Gがほとんど完全な多部グラフでunmixedである ならば,reg(G) = im(G)である.
(証明) G= (G;V0, V1, . . . , Vc)はほとんど完全な多部グラフとし,各i(1≤i≤c)に対 してGi :=GV0∪Vi とおくと,Giは二部グラフである.定理5.1より,各i(1≤i ≤c)に 対してGi はsemi-unmixedである.定理3.5より,各i(1≤i≤c)に対してreg(Gi) = im(Gi)が成り立つ.したがって補題5.2より,reg(G) = im(G)である.■
参考文献
[1] W. Bruns and J. Herzog, Cohen–Macaulay rings, revised edition, Cambridge stud- ies in advanced mathematics 39, Cambridge University Press, 1998.
[2] A. Dochtermann and A. Engstr¨om, Algebraic properties of edge ideals via combi- natorial topology, Electron. J. Combin. 16(2) (2009), #R2.
[3] J. Herzog and T. Hibi,Distributive lattices, bipartitegraphs and Alexander duality, J. Alg. Combin. 22(2005), 289–302.
[4] J. Herzog and T. Hibi, Monomial ideals, Graduate Texts in Mathematics 260, Springer-Verlag London Limited, 2011.
[5] H. Higashidaira, On the sequentially Cohen–Macaulay properties of almost com- plete multipartite graphs, Commun. Algebra 45(6) (2017), 2478–2493.
[6] S. Jacques, Betti Numbers of Graph Ideals, Ph.D. thesis, The University of Sheffield, (2004).
[7] M. Katzman, Characteristic-independence of Betti numbers of graph ideals, J.
Combin. Theory Ser. A 113 (2006), 435–454.
[8] M. Kummini,Regularity, depth and arithmetic rank of bipartite edge ideals, J. Alg.
Combin. 30 (2009), 429–445.
[9] R. P. Stanley, Combinatorics and Commutative Algebra, Second Edition., Progr.Math., vol.41, Birkh¨auser Boston, Inc.,
[10] A. Van Tuyl and R. H. Villarreal, Shellable graphs and sequentially Cohen- Macaulay bipartite graphs, J. Combin. Theory Ser. A 115 (2008), 799–814.
[11] R. H. Villarreal,Cohen-Macaulay graphs, Manuscripta Math.66(1990), 277–293.
[12] R. H. Villarreal, Unmixed bipartite graphs, Rev. Colombiana Mat. 41 (2007), 393–395.