3
実践的コミュニケーション学のすすめ1 はじめに は ート るの
人は,なぜ,互いの意志や考えを伝えあう(コミュニケートする)のだろうか.
コミュニケーションに関する研究は,心理学,社会学,経済学,政治学などの幅広 い領域で行われているため,この命題に対する答えは分野により様々であるが,こ こでは,対人コミュニケーション学領域の研究から示されている理論を基に論じて みる.
「自己実現理論」を提唱したアメリカの心理学者
A . H
マズローは,「人間は自己 実現に向かって絶えず成長する生きものである」として,人間の欲求を低次から高 次まで5 段階の階層で理論化し,この5 つの欲求を「人間の基本的欲求」と表現した(図1 ).マズローの 欲求階層説では,人間の基本的欲求は「5 段階のピラミッド」のようになっており,低次の欲求が満た されると一段高次の欲求が起こってくるというものであるが,この欲求階層説を基に,R ディムブレ ビィとG
バートンによって,人は基本的欲求を満たす手段としてコミュニケートするという考え方が純真学園大学雑誌 第5 号 平成
2 8
年3 月J o u r n a l o f J u n s h i n G a k u e n U n i v e r s i t y , Fa c u l t y o f H e a l t h Sc i e n c e s V o l . 5 , M a r c h 2 0 1 6
実践的コミュニケーション学のすすめ
医療技術者養成課程におけるコミュニケーション学習の必要性
猪俣 啓子R e c o m m e n d a t i o n s o f Pr a c t i c a l Co m m u n i c a t i o n Ed u c a t i o n U n d e r s t a n d i n g t h e N e e d t o L e a r n Pr a c t i c a l Co m m u n i c a t i o n s Sk i l l s
f o r A l l St u d e n t s L e a r n i n g a M e d i c a l Te c h n o l o g y
【 要旨 】
人は,社会の中で,他者と関わりを持ちながら生きている.それは,自己の目的や欲求を満たすためだけで なく,自己の内面の安定を図るためでもある.他者との良質なコミュニケーションのためには,自分のコミュ ニケーションの癖を認知し(自己理解),自己主張しながらも他者を尊重するコミュニケーションスキル(ア サーティブネス)の習得が有用である.医療現場において,医療技術者には,医療の専門家とは立場の異なる 患者と関わりを持つ一方で,専門性の異なる多職種医療スタッフと共に,医療チームとして協働することが求 められるが,対人コミュニケーションスキルの習得は,良好な患者接遇や対応に役立ち,さらに,医療チーム において,各職種医療スタッフが専門的な能力を発揮できる環境作りにも活用できる.対人コミュニケーショ ンスキルを学ぶトレーニングには,少人数でのコミュニケーションに役立つ「アサーティブネストレーニン グ」と,複数人数での対話場面に役立つ「自律型対話プログラム」がある.「アサーティブネストレーニング」
により習得したスキルは,日常生活のあらゆる場面で活用でき,一方の「自律型対話プログラム」の体験は,
医療チームにおける話し合いの場面での応用が期待される.本論文では,実用的で実践できるコミュニケー ション学を学ぶために,必要な理論と概念について紹介する.
キーワード: 自己理解,対人コミュニケーション,アサーティブネス,自己呈示,自律型対話,患者接遇,
医療チーム
K e i k o I N O M A TA
医療法人福甲会やましたクリニック 診療技術部長
D i r e c t o r o f M e d i c a l Te c h n o l o g y D e p a r t m e n t , Y a m a s h i t a Th y r o i d a n d Pa r a t h y r o i d Cl i n i c
平成2 8 年2 月3 日
医療法人福甲会やましたクリニック 診療技術部長 子
集
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4
猪俣 啓子示された1).また,コミュニケーション学者の
R . B
ルビンらは,人は個人の楽しみや他人とのつながり を求めるためだけでなく,時には辛いことや悲しいこと,また責任やプレッシャーから逃避するために,さらには自分の欲求を満たす手段として他人をコントロールするためにコミュニケートするという考え 方が示された2).
これらの理論を整理すると,人は自己の 目的や欲求のため,また自己の内面の安定 のために他者との関わりを求め,コミュニ ケートすると言える.人が社会の中で生き ていくためには,他者との関わりを持つ必 要があるが,物事に対する反応も考え方も 異なる他人同士が,互いに何の情報もない 状況下で円滑に関わることは難しい.良好 な関係性を創るためには,自分の考えや意 志を相手に伝えることで,自分を理解して もらう必要があると同時に,相手のことも 理解する努力が求められる.
2 と の ー ン
コミュニケーション学は,単に専門的な理論や知識を学ぶだけでなく,実用的で実践できる学問とし て実感できるものでなければならない.では,なぜ今,コミュニケーション学を学ぶ必要があるのだろ うか.「社会生活を営む人と人との間で交わされる知覚,思考,感情の伝達」3)をコミュニケーション と呼ぶが,近年,私たちを取り巻く社会環境は著しい変化を遂げており,これまで,長い時間をかけて,
日本人の気質と社会環境が作り上げてきた日本人固有のコミュニケーションスタイルが,そぐわなくな りつつある.そのため,現代の社会環境に適したコミュニケーションについて考え,適切な対応を模索 しながら,新たなコミュニケーションスタイルを獲得する必要がある.
現代社会には情報があふれ,さらにその伝達速度は速い.大量の情報の中から,自分にとって何が必 要な情報かを判断し,エビデンスのある有用な情報を的確に拾い出すことで,情報の洪水にのまれない 適切な行動をとることができる.まさに,実用的なコミュニケーション行動が必要なのである.
また,情報は受け取るだけのものではなく,他者へ発信するものでもある.近年,スマートフォンの 普及によりインターネットアプリケーション(s o c i a l n e t w o r k s e r v i c e : SN S)の使用が容易になり,誰も が簡単に情報を発信し,多くの人と情報を共有することができるようになった.人と人との繋がりを促 進する
SN S
は,非常に便利で,有効なコミュニケーションツールだが,その反面,使用に関する危機 意識の低さや責任感の希薄さから,使い方によっては相手を不快にさせてしまうことや,トラブルに発 展することも知られている4).情報発信する側として,相手への配慮や個人情報についての知識を備え ることが求められている.さらに,円滑なコミュニケーションを行うためには対人関係において効果的で適切なコミュニケー ション能力(コミュニケーションコンピテンス
c o m m u n i c a t i o n c o m p e t e n c e
)の獲得が必要である.日本 人のコミュニケーションは「以心伝心」や「察する」などの表現に見られるように,すべてを言葉で表 現しなくとも,アイコンタクトや間合い,共有する状況などから推して知るべしという風潮があるが,それゆえに,日本人の会話にはしばしば曖昧性(「ぼかし」コミュニケーション)が認められる5).こ の「ぼかし」コミュニケーションは,対話をする双方が,互いに「過剰配慮」することで「察し」の能 力が発達し成立してきた.しかし,日本人のつきあい志向は明らかに変化しており,住環境や生活様式 の変化が,家族・集団を単位とするスタイルから,個人を基本単位とするスタイルへと移り,細やかな
図1 ローの 5
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1 ) た ー ン学 の R.B ル ン は は の し との りを るた では 時には い と しい と た プレッ ー るた に さ には 分の を た として を ントロール るた に ート ると い 方 された 2)
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2. の ー ン
ー ン学は に 理 を学 で 用 で で る学
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あるの ろ 社会 を と との間で される の 3 ) を ー ンと 近年 た を り 社会 は しい 化を て り れ で い時間を て 日本 の 質と社会 り て た日本 の ー ンス
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社会には あ れ さ に の は い の の中 分にとって を し エ ンスのある 用 を に い出 とで の に の れ い 行 をとる と で る さに 用 ー ン行 の である
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図
1.
ーの5
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5
実践的コミュニケーション学のすすめ配慮が必要だった「ぼかし」コミュニケーションは成立しにくくなってきている6).
そのような状況下では,これまでのように,個人の生育過程で無意識に獲得したコミュニケーション コンピテンスによって成立させてきたコミュニケーションではなく,意識的に獲得したコミュニケー ションコンピテンスを使って,円滑な対人関係を目指すことが重要である.コミュニケーション学は,
実用,実践の学問であり,人と人とがコミュニケーションを図る意味や意義を考え,その過程で起こり うる問題点を明らかにし,その問題点に対する有効な解決策を示すことが目標とされる7).言い換えれ ば,「コミュニケーション」というものを改めて意識化し,円滑なコミュニケーションが成立する場合 としない場合の違いを考察し,成立しない原因はどこにあるのかを探り,気づいた問題点をどうすれば 解決できるかを模索する,それが実践的なコミュニケーション学であると考える.
3 ー ンの りのままの る( の め)
他者と向き合うコミュニケーション(対人コミュニケーション)では,話の聴き方や自己の主張の仕 方が重視される.相手の話を聴くことと,自己を主張することは,コミュニケーションにおいては一体 となって機能するコンピテンスである.言語的,非言語的コミュニケーションスキルを学び,実践に役 立てることは,対人コミュニケーションの様々な場面で有効であるが,それらのスキルを適切に使うた めには,スキルを学ぶ前に,現時点での自分自身のコミュニケーションスタイルを認知すること,つま り,コミュニケーションの基礎固めが重要である.
人は,誰もが,考え方や物事に対する反応行動の癖を持っている.例えば,他者とのやりとりの際に,
いつの間にかやりたくないことを引き受けることになってしまう,また,本当はうまくつきあいたいと 思っているのに,なぜか諍いになってしまうといったように,人とのつきあいが難しい,あるいは苦手 と感じるとき,自分でも気づいていないコミュニケーションの癖が原因となっていることがある.コ ミュニケーションは,自己と他者との間で交わされるものだが,その基盤は自分自身である.対人コ ミュニケーションコンピテンスについて学ぶ前に,他者と向き合う場面で,自分がどのように反応し行 動するのかを知ること(自己理解)が,様々なスキルを学び用いる根幹となる.
自分のコミュニケーションスタイルを知るための自己分析ツールはいくつかあり,国内外の企業や,
チーム医療に積極的に取り組んでいる医療施設で,リーダー研修やコミュニケーション研修などに取り 入れている.私が,企業や医療技術者対象に行うコミュニケーション研修では,参加者自身のコミュニ ケーションスタイルを理解してもらうツールとして,「交流分析
Tr a n s a c t i o n a l A n a l y s i s : TA
」の中の「構 造分析」と「交流パターン分析」を活用している(図2 ).
これは,アメリカの精神科医
E
バーン によって,精神分析学と人間性心理学を取 り入れて開発されたもので,「自分の 人 間関係を築く癖 を知ることで,うまくい かないコミュニケーションの問題点に気づ き,コミュニケーションスタイルを変化さ せる」ことを目的とした心理療法8)で,自 己理解のためのツールとして,様々な研修 や教育の場で活用されている.「構造分析」では,自分のコミュニケー ションスタイルを作り出しているパーソナ リティバランス(自我状態)を分析する.
パーソナリティ(自我)とは,「感情と経
の 医 E に
学 理学
の の
る
の に る
理療 8) 理解の の
や の場 る.
の る する.
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に対 する の
の る る に対する の や
の の P の A の C
の に る. の の の に の
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に 対 に る 対 する
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図 . 図2 ールール ターンーン
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6
猪俣 啓子験の首尾一貫したパターンと,直接それに対応する一定の行動パターンを伴うもの」と定義されている が,言い換えると「物事・出来事に対する感情の動きや行動の癖」を指し,「構造分析」では大きく3 つ のパーソナリティ(P:親の自我,A :大人の自我,C:子どもの自我)に分類している.この3 つの パーソナリティのバランスによりそれぞれの性格が作られ,物事への反応パターンが決まるのである.
さらに「交流パターン分析」では,対話場面において,お互いがどのパーソナリティを使ってやり取り しているのか,また,コミュニケーションが円滑に交わされた時と,対立した時とに使用しているパー ソナリティは何かを分析し,対立するコミュニケーションスタイルを見直し,改善に役立てることを目 的としている9).
前述したように,コミュニケーションの基盤は自分自身である.自己のコミュニケーションスタイル を認知(自己理解)することで,他者とのコミュニケーションによって不適切な関係が創られた場合で も,その責任を他者に転嫁することなく,自分で引き受けることができるようになると考える.
と の 果 の気 と 性 自己のコミュニケーションスタイルを認
知した段階から,さらに一歩先に進むこと,
それは,自己理解を深めることである.人 は,自分の事は自分が一番わかっていると 思いがちだが,実は意外と気づいていない 部分を持っている.例えば,自分に不都合 なことに遭遇した時,無意識の反応として 一瞬現れる不快な表情は,他人には見えて も自分には見えない.自分では,瞬時に感 情をコントロールして平然と対応している ように思っていても,その瞬間を見逃さな い他人もいるのである.「自分の知らない 自分」の部分は,敢えて指摘される機会が なければ,永遠に知ることのない 自分 である.逆に,誰もが,他人には教えてい
ない「他人の知らない自分」の部分を持っている.この部分は,自分が伝えなければ,決して他人が知 ることのない 自分 である.
コミュニケーション研修や,自己啓発セミナー,あるいはキャリアガイダンスなどの場面で,「自己 理解」を深めるための説明に使われるものに,「ジョハリの窓」がある.これは,アメリカの心理学者 の
J
ルフトとH
インガムが提唱した「対人関係における気づきのグラフモデル」である.このモデル では,図3 に示すように,人には4 つの自己領域( 開放領域[自分も他人も知っている自分], 盲点領 域[他人は知っているが自分は知らない自分],秘密領域[自分は知っているが他人は知らない自分],未知領域[自分も他人も知らない自分])があり,そのうちの 開放領域 を広げることで,自己理 解が進むと同時に,対人コミュニケーションも円滑になっていくと説明されている.この 開放領域 を広げる行動が,自己理解を深める行動である. 開放領域 を広げる方法には,「自己開示」と
「フィードバック」という二つの手法がある.
自分が,他人にどのように見えているかは自分にはわからないため,話をしている相手が自分をどの ように思っているのかを,相手に教えてもらう必要がある.この,他人からの印象の伝え返しが
「フィードバック」で,相手の言葉を聞いて,「自分はそのように見えているのか」と気づくことが 盲 点領域 の気づきになる.そして,その領域に気づくことで,自分と他人が互いに理解している 開放
図3 リの と ー
ク の 果
学 理学
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図 . ール ーン
フィー ッ
図 . ョ の フィー ッ の
自己開示
フィ-ドバック
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7
実践的コミュニケーション学のすすめ領域 が広がっていくのである.
一方,自分が感じていることや考えていることは,言葉で表現しない限り他人にはわからない.対人 コミュニケーションにおいては,お互いが相手のことを理解している状況下で円滑な交流が生まれるが,
自分の経験や感情,また価値観などを伝えることは,自分自身を他人にさらけ出すことにもなるため,
自ずと伝える相手や場面は選択される.自分自身に関する情報を他人に伝える行為を,心理学用語で 自己開示 と言い,臨床心理学者の
S. M
ジェラードは,自己開示を行うことにより相互理解が増幅さ れるため,対人関係には自己開示が重要であると論じている.さらに,その後の多くの人間性心理学分 野の研究により,相互の信頼感が増し,対人関係が親密化するにつれ,深い領域についてもお互いに開 示するようになり,自己開示量が増すと考えられている1 0).自己開示には,情報を開示した自分自身が影響を受ける個人的機能と,相手との関係性に影響を与え る対人的機能とがある.個人的機能としては,自分の気持ちや考えを聞いてもらうことにより,内的な 感情が表出し,感情浄化(カタルシス)することが期待できる.人生相談や,カウンセリング場面で,
自己開示がうまく行えた際に実感する感覚がこれに当たる.また,自分自身を説明するためには,自己 概念を明確にする必要があり,意識的に自己を振り返る自己分析の機会を得ることにもなる.一方,自 己開示は,相手との間に信頼関係がなければならないため,開示を受けた側は,開示者からの信頼を感 じることが予想され,それにより,相手が自己開示した量と同程度の開示を返すという互恵的な効果が 生じる(自己開示の返報性)1 1).こうして,自己開示が相互に繰りかえされることにより,二者間の関 係性は深まり発展していく.
5 ー ンに る アサー
自己の考えや気持ちを主張することを自己呈示と言い,対人コミュニケーションにおいて,他者に不 快な感情を与えずに自己呈示することは,良好な対人関係を築く上で重要である.しっかりと自己呈示 はするが,他者の考えや意見も尊重するコミュニケーションスタイルを, アサーティブ(a s s e r t i v e ) という1 2).それに対して,他者に変わって強引に物事を推し進めたり,他者を犠牲にすることで自分の 目標を達成したりするコミュニケーションスタイルを アグレッシブ(a g g r e s s i v e ) と呼び,対人関係 においては,全般的に攻撃的な言動をとりやすい傾向がある.また,逆に,常に自分よりも他者の意見 や考えを優先するコミュニケーションスタイルを ノンアサーティブ(n o n - a s s e r t i v e ) と呼び,全般的 に非主張的な態度をとりやすい傾向が見られる.ノンアサーティブなコミュニケーションスタイルをと りやすい人は,一見,自己犠牲の下で他者を尊重しているようにみえるが,自己の感情を表出できない ことで,常に不安定な立場に置かれることになる.
良好な対人関係を作るためには, アサーティブ なコミュニケーションスタイル(アサーティブネ ス)が有効だが,人がそれぞれに作り上げてきた自分のコミュニケーションスタイルを変えることは,
容易ではない.しかし,このアサーティブネスの習得は,学校や職場,あるいはプライベートといった 社会生活の様々な場面において良好な関係性の構築に役立つため,近年では,職場研修や,大学の講義 などでトレーニング(アサーティブネス・トレーニング)が活用されている1 3),1 4).
対人コミュニケーションにおいて,最も対応に苦慮するのが,相互の意見に食い違いがある時で,お 互いの対応がうまくいかないと,対立を生むことになる.アサーティブネス・トレーニングは,このよ うな意見の食い違いがある時や,自分の要求を相手に納得してのんで欲しい時のスキルを学んでいく.
主には,①自分の意見を,相手に率直に伝える,②相手との意見が異なる時には,代替案を提案し妥協 点をみつける,③意見を伝えるときには,アイメッセージを使う,④禁止令(「〜しなければならない」,
あるいは「〜であるのが当然だ」という考え方)に縛られている自分に気づく,などの点を課題にして,
相手を尊重し,且つ,自己呈示もする表現の習得を目指すのである.
先にも述べたように,長年かけて培ったコミュニケーションスタイルを変容させることは容易ではな
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8
猪俣 啓子いが,対人コミュニケーションの際に,無意識に表出している自己の癖に気づき(自己理解),さらに アサーティブネスを獲得することにより,人と向き合う場面での対人コミュニケーションストレスの軽 減が期待できる.
ー ンのト ー ング ト ー ングの
対人コミュニケーションの基本は,相手の話を聴くことである.アサーティブネス・トレーニングで 自己呈示や代替案の提案をするためには,まず,相手の話をしっかりと受け止め,自分の意見との相違 点を認知し,自分も相手も受け入れることが可能な妥協点を見つける必要がある.また,相手の話を しっかり受け止めるためには,相手の発した言葉だけでなく,話をしているときの様子にも注視するこ とが重要である.
コミュニケーションが,言語を使用する「言語的コミュニケーション(v e r b a l c o m m u n i c a t i o n )」と言 語を使用しない「非言語的コミュニケーション(n o n v e r b a l c o m m u n i c a t i o n )」から成り立っていることは,
よく知られている.アメリカの心理学者
A
メラビアンによる,人が初対面の人物を認識する際に影響 を与える因子とその割合に関する研究では,「見た目,表情,仕草」などの視覚的な情報が5 5 %,「声の トーン,話すスピード」などの聴覚情報が,3 8
%の割合で印象を決める手がかりとなっ ており,「話の内容,言葉そのものの意味」といった言語情報は,わずか7 %しか影響 を与えないとしている.音声言語によるコ ミュニケーションには,必ず,音声の大き さや抑揚,話す速度や間の取り方などの非 言語的側面が付随するが,このような,言 語に付随する非言語的な側面のことを準言 語(パラ言語)と言う.一方,非言語的コ ミュニケーションには,表情や姿勢,身振 りなどの身体動作,体臭や皮膚の色などの 身体的な特徴,さらに,服装や化粧などの 付属品も,人を印象づける因子としてコ ミュニケーションに影響を与える(図4 ).
また,対面する相手との距離や座る位置などの空間距離も,大事な要素としての意味をもつ.
アサーティブネス・トレーニングは,少人数(主には1 対1 )を対象としたトレーニングであり,ト レーニングで習得したスキルは,日常生活のあらゆる場面で活用できる.一方,職場では,ひとつのプ ロジェクトに複数の人が関わり,問題解決をする場面が多いため,アサーティブな表現を基本とした,
複数の参加者対象の話し合いトレーニングが有効である.近年,会議運営にはファシリテーターの存在 が不可欠であるという考え方が主流になってきており,ファシリテーターには,議事進行のための計画,
討議場面における発言の采配,さらに参加者へ発言を促すなどの支援が期待される.円滑な議事進行に おいて,ファシリテーターの存在は重要であるが,その一方で,ファシリテーターの存在する話し合い が当たり前になってしまうと,参加者にはファシリテーターへの依存心が生まれ,積極的に会議に参加 する意識が薄れることも懸念される.また,このような状況を繰り返し経験すると,参加者が,話し合 いそのものに意義を見いだせなくなることも考えられる.
議論や対話を進める役割を担う第三者の支援なしに,参加者が主体的に話し合い,問題解決をする対 話のことを, 自律型対話 を呼び,大学教育の場で,この 自律型対話 を使って対話能力を向上さ せるワークショップ型のトレーニング(自律型対話プログラム)の活用が,報告されている1 5),1 6).こ
学の でトレー ン (アサー ィ ネス トレー ン ) 用されている 13),14) 対 ー ンに いて 対 に るの の に い い ある時 で いの対 い いと 対 を とに る アサー ィ ネス トレー ン は のよ の い い ある時 分の を に しての で しい時のス ル を学 でい には 分の を に率 に る との る時には
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対 ー ンの 本は の を とである アサー ィ ネス トレー
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ー ン を使用 る ー ン ( v e r ba l c o m m u ni c a t i o n) と を使用し い ー ン ( no nv e r ba l c o m m u ni c a t i o n) り っている とは よ れている アメリ の心理学 A メラ アンによる 対 の 物を る
に を る 子と の に る では た の
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り トレー ン で したス ルは 日 のあ る で 用で る 方 では と のプロジ クトに 数の り 解 を る いた アサー ィ
を 本とした 数の 対 の し いトレー ン 効である 近年 会 にはファ リ ーターの であるとい 方 に って て り ファ リ ーターには
図4. 図コミュニケーションの類型化ー ンの 型
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9
実践的コミュニケーション学のすすめの 自律型対話プログラム では,主体的な対話を目指しているため,参加者は自ら対話のテーマを決 めて話し合いを行い,話し合いの状況や内容を振り返り,互いに評価することを繰り返しながら,対話 能力やスキルを習得することを目標にする.
自律型対話プログラムでは,話し合い手法のひとつであるフィッシュボウル(金魚鉢)形式のディス カッションを行う(図5 ).具体的には,参加者が,話し合いを行うディスカッショングループと,ディ スカッションの様子を観察する観察者グループとに別れ,観察者が客観的にみたディスカッションの様 子をディスカッショングループへフィードバックする.このグループワークにより,ディスカッション を行うグループは,自分たちの話し合いを
主観的に評価するともに,客観的な視点に よる観察者からの評価も得られる.参加者 は,グループディスカッションによるコ ミュニケーションの基礎トレーニングを体 験しながら,自分たちの話し合いの内容や 傾向を評価し,その評価の根拠となった理 由を具体的に探るワークを行うことで,グ ループディスカッションにおける課題を見 つける動機づけも期待できる.さらに,自 律型対話プログラムを繰り返すことにより,
「聴く」「問う」「伝える」といったコミュ ニケーションの各要素を総合的に活用する 能力と,話し合い場面における進行上の問 題に気づき,問題解決に向けて行動する能 力が育成されることも期待される1 6).
7 りに に る ー ン 性
医療技術者には,医療現場において,専門家とは異なる立場,経験を持つ患者に向き合い,対話する 能力が求められる.患者と向き合うためには,医療の専門家としての説明や説得ができる能力だけでな く,患者が何を求め,どのような対応を期待しているかを洞察し,理解できること,さらには,患者の 気持ち(喜びや不安,痛みや苦しみ)を想像し,その気持ちに寄り添い応えるために行動できることが 必要である.それは,言い換えれば,相手の目線に立つコミュニケーション力である.患者接遇や対応 場面において,他者を尊重しつつ,自己呈示もしっかりと行うアサーティブネスは,有効活用できるコ ミュニケーションスキルである.
また,医療現場では,医療技術の高度化,複雑化に対応するために,専門性を持つ多職種医療スタッ フが協働する,医療チームでの取り組みが求められている.医療チームとして機能するためには,各職 種の持つ専門的な能力が発揮できる環境を整える必要があり,その環境は,円滑な双方向のコミュニ ケーションにより創られる.しかし,チーム医療の現場では,しばしば,職種による価値観や,行動規 範の多様性から対立が生まれ,医療チームとしての活動を停滞させてしまうこともある.コミュニケー ションの最大の目的は,対手に自分の考えや気持ちと伝えることと,相手のことを理解すること(職種 間での「違い」や「多様性」がどのようにして生まれるかを知ること)である.この自己理解と他者理 解のために,主体的な話し合いと,問題解決できる能力を養成する取り組みが有用であると考える.
医療技術者をめざす学生には,医療現場で活躍する自分の姿をイメージして,積極的にコミュニケー ション学習に望むことを期待する.
図5 ル( ) の
ス ン
の の 場 における の に す の
る. にお の る の
の する に に の
に に する意 る る. の
する の のに意 る る.
や対 る役割 の に に 解
する対 の “ 対 ” 学 の場 の “ 対 ” 対
る の 対 の る
15),16) . の 対 対 る 対
の の や内容 に する
対 や する にする.
対 の る の
図 5 . に
の する に に
の する. の に
の に する に
に る の る.
に る の
の の内容や の
の 理 に る
におけ
る ける け る.
に 対 す に
る
の に する
場 における の に
解 に け する る
る 16) .
7. おわりに:医療技術者養成課程におけるコミュニケーション教育が持つ可能性
医療技 に 医療現場にお る 場 に 対
する る. に 医療の の や る
け の 対 る 理解 る
に の や や の に る
に る る. の に
る. や対 場 にお
る る.
医療現場 医療技 の に対 する に 職 医療
する 医療 の る.医療 する
に 職 の る る の
の に る. 医療の現場 職 に る
や の 対 医療 の
図 5. フィッシュボウル(fish bowl)形式のディスカッション
観察者グループ
ディスカッショングループ
02-p03-10-inomata-cs6.indd 9 2016/06/23 11:27:12
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