東アジアの低出産高齢化と高齢者の福祉
鈴 木 透 ( 国 立 社 会 保 障 ・ 人 口 問 題 研 究 所 )
Ⅰ . 緒 言
韓 国 ・ 台 湾 の 急 激 な 出 生 力 低 下 は 、 今 後 激 甚 な 人 口 高 齢 化 に つ な が る と 予 想 さ れ る 。 シ ン ガ ポ ー ル ・ 香 港 ・ マ カ オ と い っ た 大 都 市 圏 の 出 生 率 が 農 村 部 を 含 む 国 の そ れ を 下 回 る の は 自 然 だ が 、 大 都 市 圏 は 生 産 年 齢 人 口 の 転 入 超 過 に よ っ て 人 口 高 齢 化 が あ る 程 度 緩 和 さ れ る こ と が 期 待 さ れ る 。 し か し 韓 国 ・ 台 湾 の 出 生 率 は 今 後 も 長 期 に わ た り 日 本 を 下 回 る と 考 え ら れ る 上 に 、国 際 人 口 移 動 が 年 齢 構 造 に 有 意 な 影 響 を 与 え る 水 準 に 至 る と は 考 え に く い 。 し た が っ て 韓 国 ・ 台 湾 の 人 口 高 齢 化 水 準 が 、 現 在 世 界 第 一 位 で あ る 日 本 を い ず れ 上 回 る 可 能 性 が 高 く 、 実 際 に 多 く の 将 来 推 計 で そ の よ う な 推 計 結 果 が 示 さ れ て い る 。
本 稿 は 、 韓 国 ・ 台 湾 を 中 心 と す る 東 ア ジ ア の 急 激 な 人 口 高 齢 化 の 原 因 で あ る 極 端 な 出 生 力 低 下 に 対 す る ひ と つ の 事 後 解 釈 を 提 示 す る 。 東 ア ジ ア よ り は る か に 激 烈 な 経 済 社 会 変 動 を 経 験 し た は ず の 旧 ソ 連 ・ 東 ヨ ー ロ ッ パ 諸 国 の 出 生 力 低 下 は 、 韓 国 ・ 台 湾 ほ ど で は な い 。 し た が っ て 東 ア ジ ア の 極 端 な 低 出 生 力 は 、 出 生 力 低 下 を も た ら す 経 済 社 会 変 動 が 激 甚 だ っ た た め で は な く 、 そ う し た 変 動 へ の 反 応 が 他 の 文 化 圏 よ り 大 き か っ た た め と 思 わ れ る 。 そ の 主 な 原 因 は 、 日 本 を 除 く 東 ア ジ ア の 儒 教 的 家 族 パ タ ー ン と ポ ス ト 近 代 的 経 済 社 会 シ ス テ ム の 不 整 合 が 大 き い た め と 考 え ら れ 、 そ れ は 家 族 外 と 家 族 内 の ジ ェ ン ダ ー 平 等 に 典 型 的 に 現 れ る 。
高 齢 者 の 扶 養 ・ 介 護 機 能 は 、 か つ て の 家 族 に も っ ぱ ら 依 存 す る 形 態 か ら 、 公 共 部 門 の 役 割 が 増 大 す る 趨 勢 に あ る 。近 年 盛 ん に 行 わ れ て い る 国 民 移 転 計 算(NTA; National Transfer Account) 研 究 で は 、 高 齢 者 の 勤 労 所 得 以 外 の 生 涯 経 費 を 「 私 的 移 転 」「 公 的 移 転 」「 資 産 運 用 」 の 三 つ に 大 別 す る 。 先 進 国 で は 公 的 移 転 の 比 重 が 大 き く 、 途 上 国 で は 驚 い た こ と に 私 的 移 転 よ り 資 産 運 用 ( 貯 金 の 取 り 崩 し や 借 金 を 含 む ) の 比 重 が 大 き い 。 台 湾 は NTA 枠 組 に 参 加 し て い る 中 で は 、 指 摘 支 援 の 比 重 が 最 も 大 き い 唯 一 の 国 で あ る 。 韓 国 で は 家 族 か ら の 支 援 が 逓 減 す る 一 方 で 公 的 な セ ー フ テ ィ ・ ネ ッ ト の 整 備 が 遅 れ て お り 、 高 齢 者 の 福 祉 は 深 刻 な 状 態 に あ る 。 こ れ に 対 し 台 湾 で は 、 家 族 支 援 が 韓 国 ほ ど 衰 退 し て お ら ず 、 高 齢 者 の 状 況 は 韓 国 ほ ど 深 刻 で は な い よ う に 思 わ れ る 。 台 湾 で は 子 と の 同 居 率 が 高 い こ と と 相 ま っ て 、 儒 教 的 家 族 パ タ ー ン が 韓 国 ・ 中 国 よ り よ く 保 存 さ れ て い る よ う に 思 わ れ 、 そ れ が ポ ス ト 近 代 的 経 済 社 会 シ ス テ ム と の 不 整 合 を 大 き く し 、出 生 率 を 低 下 さ せ て い る よ う で あ る 。
Ⅱ . 人 口 高 齢 化 の 展 望
図 1は 国 連 人 口 部 の 世 界 人 口 展 望 (UNPD 2013) の 出 生 中 位 推 計 に よ る 65 歳 以 上 割 合
( 高 齢 化 率 ) を 、 日 本 ・ 韓 国 ・ 台 湾 ・ 中 国 ・ シ ン ガ ポ ー ル に つ い て 比 較 し た も の で あ る 。 2010 年 時 点 で は 日 本 の 高 齢 化 水 準 が 他 を 圧 倒 し て い る が 、 韓 国 ・ 台 湾 が 急 激 に 追 い 上 げ 、
2060 年 に は 日 本 を 上 回 る 予 想 に な っ て い る 。シ ン ガ ポ ー ル の 高 齢 化 は 韓 国・台 湾 ほ ど 急 速 で は な い が 、 頭 打 ち に な る こ と な く 持 続 す る た め 、2085 年 に は 5 ヵ 国 中 最 も 高 く な る 。 65 歳 以 上 割 合 が 35〜40%に 至 る こ れ ら の 国 に 比 べ 、 中 国 は 30%を 超 え る こ と は な い と い
う 推 計 結 果 に な っ て い る 。
国 連 人 口 部 は 世 界 204ヵ 国・地 域 の 年 齢 別 人 口 の 将 来 推 計 を 公 表 し て い る が 、表 1 は 2010 年 と 2060 年 に お け る 65 歳 以 上 割 合 の 順 位 を 示 し た も の で あ る 。2010 年 時 点 で 日 本 は 最 も 人 口 高 齢 化 が 進 ん だ 国 で あ り 、 こ れ は 老 年 従 属 指 数 や 中 位 数 年 齢 で み て も 同 様 で あ る (Suzuki 2014)。
図 1に み る よ う に 、他 の 東 ア ジ ア 諸 国 は 2010 年 時 点 で は 日 本 と 大 差 が あ り 、香 港(45位 )か ら マ カ オ(80 位 ) ま で に 位 置 づ け ら れ る 。 と こ ろ が 2060 年 に な る と 、 台 湾 (3位 )、
韓 国 (5 位 )、 日 本 (6位 )、 香 港 (7 位 ) と 上 位 10 ヵ 国 中 4 ヵ 国 を 東 ア ジ ア が 占 め 、シ ン ガ ポ ー ル(16位 )、
マ カ オ (20位 ) も 上 位 20ヵ 国 に 含 ま れ る こ と に な る 。
国 連 人 口 部 の 予 想 で は 、2060 年 の 日 本 ・ 韓 国 ・ 台 湾 の 65 歳 以 上 割 合 は 35〜40%と 想 定 さ れ る が 、各 国 の 公 式 推 ( 中 位 シ ナ リ オ ) は も う 少 し 悲 観 的 で あ る 。 国 立 社 会 保 障 ・ 人 口 問 題 研 究 所 (2012) は 、2060 年 の 日 本 の 65 歳 以 上 割 合 を 39.9%と 予 想 し た 。韓 国 統 計 庁(2011)は 、2060 年 の 65 歳 以 上 割 合 を 40.1%と 見 通 し た 。 台 湾 の 行 政 院 経 済 建 設 委 員 会
(2010)は 、2060 年 の 65歳 以 上 割 合 が 41.6%に 至 る と み て い る 。 こ れ は 出 生 率 の 回 復 に 関 す る 仮 定 が 、 国 連 ほ ど 楽 観 的 で な い こ と に よ る 。 UNPD(2013) の 出 生 中 位 推 計 は 、 2055〜60 年 の 合 計 出 生 率 の 仮 定 値 を 、 日 本 が 1.76、 韓 国 が 1.73、 台 湾 が 1.66 と し た 。 一 方 、 各 国 の 公 式 推 計 に よ る 2060 年 の 中 位 仮 定 値 は 、 日 本 が 1.35、 韓 国 は 1.42、 台 湾 は 1.30と な っ て い る 。
表1. 65歳以上割合の高い国
2010年 2060年
順位 国 65歳以上(%) 順位 国 65歳以上(%)
1日 本 23.0 1カタール 41.6
2ドイツ 20.8 2オマーン 39.0
3イタリア 20.3 3台 湾 38.0
4ギリシア 19.0 4キューバ 37.3
5ラトヴィア 18.4 5韓 国 37.0
6ブルガリア 18.3 6日 本 36.9
7スウェーデン 18.2 7香 港 36.8
8ポルトガル 18.0 8ポルトガル 35.1 9オーストリー 17.8 9スペイン 33.7 10クロアチア 17.5 10ドイツ 33.2 11エストニア 17.5 11レバノン 32.9
12ベルギー 17.2 12タイ 32.9
13フィンランド 17.1 13マルティニク 32.8
14スペイン 17.1 14マルタ 32.5
15スイス 16.9 15セルビア 32.5
16フランス 16.8 16シ ン ガ ポ ー ル 32.4 17ハンガリー 16.7 17イタリア 32.2 18デンマーク 16.7 18ポーランド 31.8 19スロヴェニア 16.7 19 UAE 31.5
20英国 16.6 20マ カ オ 31.3
: :
45香 港 12.9 39中 国 28.1
55韓 国 11.1
56台 湾 10.7
65シ ン ガ ポ ー ル 9.0
70中 国 8.4
80マ カ オ 7.2 UNPD (2013)
0 10 20 30 40 50
2000 2025 2050 2075 2100
%
UNDP (2013)
図1. 東アジアの65歳以上割合(国連人口部)
日本 韓国 台湾 中国 シンガポール
最 終 的 な 高 齢 化 の 水 準 は 今 後 の 出 生 率 の 動 向 に 依 存 す る が 、 韓 国 ・ 台 湾 の 高 齢 化 が 2060 年 ま で に 日 本 を 追 い 越 す と い う 予 想 は 、 各 国 の 公 式 推 計 の 比 較 か ら も 導 か れ る 。図 2 に み る よ う に 、 韓 国 と 台 湾 の 65 歳 以 上 割 合 は よ く 似 た 軌 跡 を 描 い て 急 激 に 上 昇 し 、 台 湾 は 2055 年 に 、 韓 国 は 2060 年 に 日 本 を 上 回 る こ と に な る 。 こ れ は 、 韓 国 ・ 台 湾 の 合 計 出 生 率 が 過 去 10 年 ほ ど 日 本 を 下 回 り 続 け て お り 、 今 後 も 日 本 よ り 低 い 水 準 で 推 移 す る だ ろ う と い う 想 定 か ら 導 か れ る 自 然 な 帰 結 で あ る 。 仮 に 韓 国 か 台 湾 の 出 生 率 が 急 速 に 回 復 し て 日 本 を 上 回 り 、 そ の 状 態 の ま ま 推 移 す れ ば 、高 齢 化 水 準 が 日 本 に 追 い 付 く こ と は な い か も し れ な い 。し か し こ こ 10 年 程 度 の 趨 勢 を 見 る と 、 そ の よ う な 事 態 は 起 こ り そ う に な い 。
Ⅲ . 東 ア ジ ア の 極 低 出 生 力
1 . 極 低 出 生 力 の 展 望
1970 年 代 以 後 、先 進 国 に お け る 出 生 力 低 下 の 先 頭 に 立 っ た の は 北 西 欧 諸 国 で 、特 に ス カ ン ジ ナ ビ ア 諸 国 と ド イ ツ 語 圏 で 出 生 率 が 急 速 に 低 下 し 、 そ れ に 他 の 北 西 欧 諸 国 が 続 い た 。 1980 年 代 に 北 西 欧 で 置 換 水 準 以 下 の 出 生 力 が 大 勢 を 占 め る と 、第 二 人 口 転 換 理 論(van de Kaa 1987) は こ れ を 世 俗 化 ・ 個 人 主 義 化 と い う 長 期 的 な 価 値 変 動 と 結 び 付 け て 解 釈 し た 。 こ の 理 論 に よ る と 、20世 紀 前 半 の 先 進 国 に お け る 置 換 水 準 付 近 ま で の 第 一 人 口 転 換 が「 子 ど も は 王 様 」と い う 利 他 的・家 族 主 義 的 価 値 に よ っ て 特 徴 づ け ら れ る の に 対 し 、20 世 紀 後 半 の 置 換 水 準 以 下 へ の 第 二 人 口 転 換 は 「 カ ッ プ ル ( 親 ) は 王 様 」 と い う 利 己 的 ・ 個 人 主 義 的 価 値 を 反 映 す る 。 同 棲 ・ 婚 外 出 生 ・ 離 婚 の 増 加 と い っ た 一 連 の 家 族 変 動 は 個 人 主 義 症 候 群 と し て 把 握 さ れ 、 置 換 水 準 以 下 へ の 出 生 力 低 下 は そ の 症 状 の 一 つ で あ る と 解 釈 さ れ た 。 1980 年 前 後 に は ス カ ン ジ ナ ビ ア 諸 国 や ド イ ツ 語 圏 が 出 生 力 低 下 の 先 頭 に 立 っ て お り 、第 二 人 口 転 換 理 論 は そ う し た 状 況 を 反 映 し た も の だ っ た 。 と こ ろ が 1990 年 代 に 入 る と 、 南 欧・東 欧・旧 ソ 連 圏 に 合 計 出 生 率 が 1。3 以 下 と な る 極 低 出 生 力(lowest-low fertility)が 出 現 し 、 人 口 学 者 を 驚 か せ た (Kohler et al. 2002)。 こ の 時 点 で 出 生 力 低 下 と 他 の 家 族 変 動 の 関 連 は 完 全 に 逆 転 し 、 今 や 家 族 主 義 的 価 値 が 強 く 、 伝 統 的 性 役 割 が 頑 健 で 、 女 子 の 労 働 力 参 加 が 低 調 で 、 結 婚 制 度 が 健 全 で 出 産 と の 結 び つ き が 強 い 国 の 方 が 、 低 い 出 生 力 を 示 す よ う に な っ た 。 こ う し て 家 族 主 義 か ら 個 人 主 義 へ と 向 か う 価 値 変 動 が 出 生 力 低 下 の 主 因 で あ る と す る 第 二 人 口 転 換 理 論 の テ ー ゼ は 、 再 考 を 余 儀 な く さ れ た 。
さ ら に 21 世 紀 に 入 る と 、 出 生 力 低 下 の 最 前 線 は 東 ア ジ ア に 移 っ た 。 先 頭 を 切 っ た の は
0 10 20 30 40 50
2010 2020 2030 2040 2050 2060
%
図2. 東アジアの65歳以上割合(公式推計)
日本 韓国 台湾
国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口』2012.1 통계청『장래인구추계: 2010년~2060년』2011.12
行政院經濟建設委員會『2010 年至2060 年 臺灣人口推計』2010.9
韓 国 で 、2001 年 に は 早 く も 1.30 で 極 低 出 生 力 の 水 準 に 達 し た 。2003 年 に は 台 湾(1.24)と 日 本(1.29)が 続 い た 。日 本 の 出 生 率 変 動 は 韓 国・台 湾 に 比 べ て 緩 慢 で あ り 、最 低 点 で も 2005 年 の 1.26 に 踏 み と ど ま り 、ま た 2006 年 に は 1.32で 早 く も 極 低 出 生 力 水 準 か ら 脱 出 し た 。 こ れ に 対 し 韓 国 と 台 湾 は 、2010 年 代 に 入 っ て も 極 低 出 生 力 に と ど ま っ て い る 。韓 国 は 2005 年 に 1.08 と 日 本 よ り は る か に 低 い 値 を 記 録 し 、台 湾 に 至 っ て は 2010 年 に 0.895 と い う 恐 る べ き 低 出 生 率 を 示 し た 。
表2. OECD諸国と東アジアの合計出生率(TFR)の最小値
国 TFR ( 年 ) 国 TFR ( 年 ) 国 TFR ( 年 )
アイスランド 1.93 (2002) カナダ 1.49 (2000) イタリア 1.19 (1995) ニュージーランド 1.89 (2002) オランダ 1.47 (1983) スロヴァキア 1.19 (2002) アイルランド 1.85 (1995) デンマーク 1.38 (1983) スペイン 1.16 (1998)
米国 1.74 (1976) ルクセンブルク 1.38 (1985) シンガポール 1.15 (2010)
オーストラリア 1.73 (2001) スイス 1.38 (2001) チェコ 1.13 (1999)
フランス 1.66 (1994) オーストリー 1.33 (2001) 韓国 1.08 (2005)
ノルウェー 1.66 (1984) ポルトガル 1.32 (2007) 台湾 0.895 (2010)
英国 1.63 (2001) エストニア 1.28 (1998)
ベルギー 1.51 (1985) 日本 1.26 (2005)
フィンランド 1.50 (1973) ドイツ 1.24 (1994) スウェーデン 1.50 (1999) ギリシア 1.24 (1999) ハンガリー 1.24 (2011) ポーランド 1.22 (2003) スロヴェニア 1.20 (2003) OECD Family Database, Statistics Singapore, 行政院主計總處
表2はOECD会 員 国 と シ ン ガ ポ ー ル 、 台 湾 の 合 計 出 生 率 の 最 小 値 を 比 較 し た も の で あ る 。 香 港 ・ マ カ オ は こ の 表 に 含 め な か っ た が 、 東 ア ジ ア の 大 都 市 の 合 計 出 生 率 が 1.0 を 下 回 る の は 珍 し い こ と で は な い 。 実 際 、 東 京 都 も 2005 年 に 0.9987 を 記 録 し た 。 こ の 意 味 で 、 シ ン ガ ポ ー ル は 出 生 力 低 下 の 防 止 に 成 功 し て い る と 言 え る 。1000 万 人 以 上 の 人 口 を 持 ち 、 農 村 部 を 含 む 国 で 、 合 計 出 生 率 が 1.0 を 下 回 っ た の は 、 台 湾 が 唯 一 の 例 と 思 わ れ る 。韓 国 の 1.08 も 、類 例 を 探 す の が 難 し い ほ ど 低 い 水 準 で あ る 。
韓 国 ・ 台 湾 の 合 計 出 生 率 は 、 最 小 値 が 低 い の み な ら ず 、1.3 以 下 の 極 低 出 生 力 に と ど ま る 期 間 も 長 引 く 可 能 性 が 高 い 。 図 3は 合 計 出 生 率 が は じ め て 1.3 を 下 回 っ た 年 を 第 1 年 と し て 、 日 本 ・ 韓 国 ・ 台 湾 を イ タ リ ア ・ チ ェ コ と 比 較 し た も の で あ る 。 前 述 の よ う に 、 日 本
0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5
0 5 10 15 20
初めて1.3を下回った後の年数
図3. 極低出生力の持続期間
日本 韓国 台湾 スペイン チェコ
の 極 低 出 生 力 は 2003〜05年 の 3年 間 の み で 、そ の 後 は 1.43(2013 年 )ま で 回 復 し て い る 。 イ タ リ ア は 1993〜2003 年 の 11 年 間 、 チ ェ コ は 1995〜2005 年 の や は り 11年 間 極 低 出 生 力 が 続 い た 。韓 国 は 2001 年 に 1.297を 記 録 し て 以 後 、2012 年 に 同 じ 1.297ま で 回 復 し た が 、2013 年 に は 再 び 1.187 ま で 低 下 し た 。 こ れ で 13年 間 極 低 出 生 力 が 続 い て お り 、 他 の ど の 先 進 国 よ り も 長 引 い て い る 。 台 湾 は 2003 年 以 後 11 年 間 極 低 出 生 力 が 続 い て い る が 、 お お む ね 韓 国 よ り 低 い 水 準 で 推 移 し て お り 、 さ ら に 長 期 間 極 低 出 生 力 に と ど ま る 可 能 性 が あ る 。
2 . 出 生 力 の 文 化 決 定 論
先 進 国 に お け る 置 換 水 準 以 下 の 原 因 と み な さ れ る ポ ス ト 近 代 的 な 社 会 経 済 的 変 化 は 、 新 資 本 主 義 と グ ロ ー バ ル 化 に よ る 就 業 不 安 定 と 不 確 実 性 の 増 大 、 低 成 長 経 済 下 で の 若 年 労 働 市 場 の 悪 化 、 相 対 所 得 の 低 下 に よ る ア ス ピ レ ー シ ョ ン と 現 実 の 所 得 の 乖 離 、 教 育 費 を は じ め と す る 子 の 直 接 費 用 の 高 騰 、 経 済 の サ ー ビ ス 化 ・ ソ フ ト 化 に 伴 う 女 子 の 労 働 力 参 加 な ど で あ る (Easterlin 1978, Becker 1991, Lutz et al. 2006, McDonald 2009)。 こ う し た 後 期 産 業 社 会 に お け る ポ ス ト 近 代 的 な 変 化 は 、 多 か れ 少 な か れ 全 て の 先 進 国 で 共 通 に 作 用 し て い る 。 し か し そ う し た 変 化 が も た ら す 出 生 力 低 下 の 度 合 い は 、 文 化 圏 に よ っ て 異 な る 。 表 2 か ら 明 ら か な よ う に 、 英 語 圏 、 北 欧 ( バ ル ト 三 国 を 除 く )、 西 欧 ( ド イ ツ 語 圏 を 除 く ) 諸 国 は 、1.5 以 上 の 合 計 出 生 率 を 維 持 し た 国 が 多 い 。 一 時 的 に 1.5 未 満 の 合 計 出 生 率 を 記 録 し た の は 、 ル ク セ ン ブ ル ク (1976〜79年 、1982〜87 年 ) 以 外 は 数 年 で 1.5 を 回 復 し て い る 。McDonald(2009) は こ れ ら を グ ル ー プ 1 と し 、 そ れ よ り 大 幅 に 低 い 出 生 率 を 示 し た グ ル ー プ 2 ( ド イ ツ 語 圏 、 南 欧 、 東 欧 、 旧 ソ 連 圏 、 東 ア ジ ア 先 進 国 ) と 区 別 し た 。 日 本 の 最 小 値 (1.26) は 、 ド イ ツ 語 圏 や 南 欧 の 平 均 的 な 水 準 で あ る 。 表 2 に は な い が 、 Goldstein et al.(2009) に よ る と 、 ブ ル ガ リ ア は 1997 年 に 1.09、 ウ ク ラ イ ナ は 2001 年 に 1.08と 韓 国 並 み の 低 出 生 率 を 記 録 し て い る 。し た が っ て 東 欧・旧 ソ 連 圏 は ド イ ツ 語 圏 ・ 南 欧・日 本 よ り 著 し い 出 生 力 低 下 を 示 し た が 、平 均 的 に は 韓 国 ほ ど で は な か っ た と 言 え る 。 こ れ ら を 模 式 的 に 示 す と 、 図 4の よ う に な る 。
グ ル ー プ 1( 北 西 欧 、英 語 圏 )と そ れ 以 外 の 低 出 生 力 国 の 違 い に つ い て 、McDonald(2009) は 家 族 親 和 的 諸 制 度 と 家 庭 内 ジ ェ ン ダ ー 平 等 の 影 響 を 強 調 し た 。Reher(1998) は 、 北 西 欧 の 弱 い 親 子 紐 帯 と 南 東 欧 の 強 い 親 子 紐 帯 と い う 文 化 的 対 照 が 古 代 に ま で 遡 る こ と を 示 し た 。 北 西 欧 と 英 語 圏 に お け る ジ ェ ン ダ ー 平 等 の 高 さ 、 女 子 労 働 力 率 の 高 さ 、 離 家 と 経 済 的 自 立 の 早 さ 、 婚 外 出 生 の 多 さ 、 母 親 以 外 と の 育 児 分 担 の 多 さ と い っ た 要 因 は 、 そ う し た 文 化 的 差 異 を 反 映 し て い る と 考 え ら れ る (Suzuki 2014)。
先 進 国 に 共 通 す る ポ ス ト 近 代 的 な 社 会 経 済 的 変 化 に 加 え 、 東 欧 ・ 旧 ソ 連 圏 諸 国 は 社 会 主 義 経 済 か ら 市 場 経 済 へ の 移 行 と い う 激 甚 な 変 化 を 経 験 し た 。 こ の た め ド イ ツ 語 圏 ・ 南 欧 ・ 日 本 よ り も 出 生 率 が 大 き く 低 下 し た と し て も 、 不 可 解 で は な い 。 し か し 市 場 経 済 化 と い う 追 加 的 要 因 が な か っ た 韓 国 ・ 台 湾 の 出 生 率 が さ ら に 低 い 水 準 ま で 低 下 し た の は 、 東 欧 ・ 旧 ソ 連 圏 を 上 回 る 激 烈 な 変 動 が あ っ た た め と は 考 え に く い 。 し た が っ て 韓 国 ・ 台 湾 の 極 端 な 出 生 率 低 下 は 、「 圧 縮 的 近 代 化 」(장 경 섭 2001;2002) の よ う な 要 因 の 特 異 性 で は な く 、 反 応 の 特 異 性 と し て 考 察 す べ き で あ る 。
図 4 文 化 圏 ご と の 出 生 力 低 下
1
出生率低下をもたらすポスト近代的変化
北西欧、
英語圏
南欧、
独語圏 日本 韓国、台湾
出生率低下
東欧、
旧ソ連 市場経済化
McDonald(2002) が 個 人 志 向 的 制 度 ( 特 に 学 校 や 職 場 ) と 家 族 志 向 的 制 度 ( 特 に 家 族 そ の も の ) に お け る ジ ェ ン ダ ー 平 等 の 乖 離 に 注 目 し た よ う に 、 低 出 生 力 は 急 激 に 変 化 す る 経 済 社 会 シ ス テ ム と 緩 慢 に し か 変 化 し な い 家 族 シ ス テ ム の 葛 藤 の 結 果 と 考 え ら れ る 。 韓 国 ・ 台 湾 の 極 端 に 低 い 出 生 率 を 解 釈 す る 場 合 、 欧 米 先 進 国 お よ び 日 本 と 異 な る 何 ら か の 文 化 的 特 徴 が 影 響 し た と 考 え る べ き だ ろ う 。 そ の よ う な 文 化 的 差 異 と し て 、 欧 米 と 日 本 が 近 代 化 以 前 に 封 建 制 を 経 験 し た 封 建 家 族 の 子 孫 で あ る の に 対 し 、 日 本 以 外 の 東 ア ジ ア は 近 代 化 直 前 に は 中 央 集 権 的 な 農 業 官 僚 制 (Cumings 1997a) で あ り 、 儒 教 家 族 の 子 孫 で あ る こ と が 指 摘 で き る 。
表3. 近代化直前の家族パターン
中国 朝鮮 日本
イデオロギー 孝重視 孝重視 忠重視
非親族への信頼 低い 低い 高い
女性の地位 厳格な隔離 厳格な隔離 比較的平等
親族集団 父系制 父系制 双系制または
弱い父系制
婚姻 同姓不婚 同姓不婚 内婚
養子縁組 異姓不養
世代重視
異姓不養 世代重視
非血縁可 世代無視
相続 男子均分 長男優待 単独
世帯構造 合同家族または
親の輪住
直系家族 直系家族
Suzuki (2014)
表 3 は 近 代 化 直 前 で あ る 19 世 紀 半 ば の 中 国 ・ 朝 鮮 ・ 日 本 の 家 族 パ タ ー ン を ま と め た も の で あ る 。 儒 教 圏 で は 「 孝 」 が 最 も 重 視 さ れ る イ デ オ ロ ギ ー で あ り 、 家 族 関 係 が 最 も 重 要
視 さ れ 他 の 社 会 関 係 の モ デ ル と な っ て い た 。 儒 教 の 礼 教 性 と 宗 教 性 は 、 孝 に よ っ て 結 ば れ て い る 。 儒 教 の 深 層 に は 死 者 と の 対 話 を 可 能 に す る 宗 教 性 が あ り 、 孝 は 「 生 命 の 連 続 の 自 覚 」 に 基 づ く 宗 教 的 意 識 で あ る 。 こ の 孝 の 上 に 家 族 道 徳 が 築 か れ 、 そ の 上 に 様 々 な 社 会 的 道 徳 が 作 ら れ た ( 加 地 1997)。
日 本 の 儒 教 受 容 は「 忠 」を「 孝 」の 上 に 置 く か な り 変 形 さ れ た も の だ っ た が 、さ ら に「 孝 」 が 「 恩 」 に 条 件 付 け ら れ る と い う 儒 教 の 原 型 に は な い 特 徴 を 持 つ 。 こ れ は 封 建 的 主 従 関 係 が 家 族 関 係 に 適 用 さ れ た も の で 、 中 国 等 で は 逆 に 家 族 関 係 が あ ら ゆ る 社 会 関 係 を 規 定 し た の と は 際 立 っ た 差 異 が あ る 。 古 典 儒 教 で は 「 孝 」 は 子 の 絶 対 的 で 単 純 無 条 件 的 な 義 務 で 、 親 に よ る 慈 愛 と は 無 関 係 と さ れ た( 桑 原 1927)。孝 は 天 地 そ の も の の 理 法 で 自 然 の 性 で あ る ゆ え に 行 う の で あ り 、 親 の 恩 に 報 い る た め の も の で は な い 。 こ れ に 対 し 日 本 で は 、 親 の 恩 は 無 限 に 深 く い く ら 返 し て も 返 し 切 れ な い と さ れ た が 、 孝 は あ く ま で 恩 を 返 す た め に 行 う も の と さ れ た ( 川 島 1957)。
Fukuyama(1995) は 、 中 国 の 低 信 頼 社 会 と 日 本 の 高 信 頼 社 会 の 差 の 源 泉 を 、 家 族 主 義 の 違 い に 帰 し て い る 。 台 湾 を 含 む 中 国 人 社 会 で 大 企 業 が 育 ち に く い の は 、 非 親 族 へ の 信 頼 が な く 同 族 経 営 か ら な か な か 脱 却 で き な い か ら で あ る 。 一 方 、 日 本 で は 親 族 へ の 義 務 は は る か に 弱 く 、 日 本 の イ エ は 家 産 を 存 続 さ せ る こ と に 重 点 が 置 か れ 、 そ の た め 非 血 縁 養 子 が 頻 繁 に 行 わ れ た 。
儒 教 圏 と 日 本 の 差 は 、 ジ ェ ン ダ ー 関 係 に お い て も 際 立 っ て い た 。 儒 教 的 理 念 に 従 っ て 女 性 を 公 的 な 場 か ら 隔 離 し た 中 国 ・ 朝 鮮 に 比 べ る と 、 近 代 化 直 前 の 日 本 女 性 の 地 位 は 相 対 的 に 高 か っ た よ う で あ る 。 こ れ は 幕 末 に 日 本 を 訪 れ た 西 洋 人 の 記 録 で も 裏 づ け ら れ る
(Screech 2005; Murphy 2009; Perry 1856; Griffis 1876)。
中 国 で は 家 族 は 父 系 血 縁 集 団 で あ る 宗 族 に 包 含 さ れ る 。 宗 族 の 原 理 は 同 姓 不 婚 と 異 姓 不 養 で 、 前 者 は 血 縁 集 団 内 で の 結 婚 を 禁 忌 す る こ と 、 後 者 は 血 縁 集 団 内 か ら し か 養 子 を 取 ら な い こ と で あ る 。 男 女 と も 父 の 姓 を 継 ぎ 、 結 婚 後 も 姓 を 変 え る こ と は な い 。 し た が っ て 父 の 血 族 は 同 じ 宗 族 の 成 員 だ が 、 母 や 妻 の 血 族 は 異 な る 宗 族 に 属 す 。 特 に 祭 祀 権 の 継 承 は 重 要 な 宗 教 的 意 味 を 持 ち 、 鬼 神 は 直 系 卑 属 の 男 子 で な け れ ば 祀 り を 受 け な い と さ れ た 。 こ の た め 養 子 は 兄 弟 や 従 兄 弟 の 息 子 を 取 る の が 原 則 で 、 宗 族 の 系 譜 に お け る 世 代 関 係 の 遵 守 が 重 視 さ れ た( 官 文 娜 2009)。李 氏 朝 鮮 は 朱 子 学 の 礼 を 強 制 す る 過 程 で 、同 姓 不 婚 ・ 異 姓 不 養 の 原 理 も 両 班 層 を 中 心 に 普 及 し て 行 っ た 。( 殷 棋 洙 2009)。
日 本 で は 同 姓 不 婚 ・ 異 姓 不 養 の 原 理 は 導 入 さ れ ず 、 近 代 直 前 の 家 族 パ タ ー ン は 中 国 ・ 朝 鮮 と 非 常 に 異 な っ て い た 。 日 本 で は 内 婚 性 向 が 強 く 、 養 子 を 取 る 際 に 世 代 を 考 慮 せ ず 、12 世 紀 以 降 は 非 血 縁 の 異 姓 養 子 を 取 る 例 も 増 え た( 官 文 娜 2009)。鎌 倉 武 士 の 惣 領 制 は 南 北 朝 以 降 に 長 子 単 独 相 続 に 移 行 し 、 こ の 過 程 で 女 性 の 権 利 が 著 し く 縮 小 し た と さ れ る 。 庶 民 層 で 家 業・家 産 の 維 持 、単 独 相 続 、直 系 家 族 世 帯 と い っ た 特 徴 が 出 揃 う の は は る か に 遅 く 、 江 戸 時 代 後 期 と さ れ る (Mosk 1995, 平 井 2008)。
こ の よ う に 日 本 は 同 姓 不 婚 ・ 異 姓 不 養 の 原 理 を 欠 き , 中 国 ・ 朝 鮮 の 宗 族 と は 明 ら か に 異 な る 家 族 パ タ ー ン を 持 つ .ト ッ ド(2001) の 分 類 で は ,中 国 は 外 婚 制 共 同 体 家 族 ,朝 鮮 と 日 本 は 直 系 家 族 に 分 類 さ れ る . 相 続 と 世 帯 構 成 に 注 目 す れ ば , 朝 鮮 は 中 国 よ り む し ろ 日 本 の パ タ ー ン に 近 い . た だ し 複 数 の 息 子 が 結 婚 後 も 親 と 同 居 す る 大 家 族 は , 中 国 で も 実 際 に は 多 く な か っ た と 想 像 さ れ る . 老 親 が 息 子 の 世 帯 を 輪 往 し て 扶 養 さ れ る 習 慣 は , 大 家 族 の
集 住 が 難 し か っ た こ と に よ る も の だ ろ う . そ の 場 合 , 世 帯 構 造 と し て は 日 本 ・ 朝 鮮 の 直 系 家 族 に 近 か っ た と 考 え ら れ る . 相 続 に 関 し て は ト ッ ド の 分 類 の よ う に 中 国 が 朝 鮮 ・ 日 本 と 異 な る と 見 る こ と が で き る が , 全 体 と し て は 儒 教 家 族 と し て の 中 国 ・ 朝 鮮 と , 封 建 家 族 と し て の 日 本 と の 対 比 が 目 立 つ .
日 本 文 明 が 中 華 文 明( 儒 教 文 明 )と 異 な る 独 自 の 文 明 で あ る と い う 視 点 は 、Huntington
(1996)に も み ら れ る 。そ れ 以 前 に も 、封 建 制 か ら 絶 対 王 政 へ 進 む 歴 史 的 展 開 に お け る 日 本 と ヨ ー ロ ッ パ の 類 似 性 は 、 多 く の 学 者 に よ っ て 指 摘 さ れ て き た (Eisenstadt 1996)。 梅 棹 (1957) の 『 文 明 の 生 態 史 観 』 は , 西 ヨ ー ロ ッ パ と 日 本 に 共 通 す る 特 異 性 を 指 摘 し た 。 こ の よ う に 日 欧 の 共 通 性 と 、 儒 教 圏 の 日 欧 か ら の 乖 離 に つ い て は 、 既 存 研 究 で も 指 摘 さ れ て い る 。 し た が っ て 日 欧 と 異 な る 儒 教 的 家 族 パ タ ー ン ( 孝 重 視 イ デ オ ロ ギ ー 、 非 親 族 へ の 不 信 、 伝 統 的 ジ ェ ン ダ ー 観 、 厳 格 な 父 系 制 と 同 姓 不 婚 ・ 異 姓 不 養 の 慣 行 ) 等 が 、 韓 国 ・ 台 湾 の 極 端 に 低 い 出 生 力 低 下 に 関 連 し て い る と し て も 不 自 然 で は な い 。
3 . ポ ス ト 近 代 的 経 済 社 会 変 動 と 家 族 シ ス テ ム − ジ ェ ン ダ ー 平 等 を 中 心 に
産 業 化 以 後 の 経 済 社 会 変 動 は 英 国 、 次 い で 米 国 が 先 導 し 、 モ デ ル を 提 供 し て き た 。 英 語 圏 先 進 国 の 出 生 率 低 下 が 比 較 的 緩 慢 だ っ た こ と は 、 ポ ス ト 近 代 的 変 化 が ア ン グ ロ ・ サ ク ソ ン 的 家 族 パ タ ー ン と 深 刻 な 葛 藤 を 起 こ さ な か っ た た め と 解 釈 で き る 。 一 方 で 出 生 力 低 下 が 深 刻 だ っ た ド イ ツ 語 圏 、 南 欧 、 東 欧 、 旧 ソ 連 圏 、 東 ア ジ ア で は 、 ア ン グ ロ ・ サ ク ソ ン と 大 き く 異 な る 家 族 パ タ ー ン が 、ポ ス ト 近 代 的 経 済 社 会 シ ス テ ム に 適 合 的 で な い と 考 え ら れ る 。 特 に 儒 教 的 家 族 パ タ ー ン は ア ン グ ロ ・ サ ク ソ ン 家 族 か ら の 乖 離 が 大 き く 、 そ れ だ け 出 生 力 低 下 が 急 激 に 進 ん だ も の と 思 わ れ る 。
McDonald(2000) の 命 題 5「 ジ ェ ン ダ ー 間 平 等 が 個 人 志 向 的 制 度 で 高 ま り な が ら 、 家 族 志 向 的 制 度 で 低 い 水 準 に と ど ま れ ば 、 出 生 率 は 非 常 に 低 い 水 準 ま で 低 下 す る 」 は 、 そ う し た 経 済 社 会 シ ス テ ム と 家 族 社 会 シ ス テ ム の 間 の 齟 齬 を 、 ジ ェ ン ダ ー 平 等 に 焦 点 を 当 て て 述 べ た も の と 解 釈 で き る 。 そ の 意 味 す る と こ ろ は 、 学 校 ・ 職 場 で の ジ ェ ン ダ ー 平 等 が 達 成 さ れ て も 、 家 庭 内 で の ジ ェ ン ダ ー 平 等 が 低 い 水 準 に と ど ま れ ば 、 女 性 た ち は 家 庭 内 で の 役 割 よ り 家 庭 外 で の 活 動 を 重 視 す る こ と に な り 、 出 生 率 が 非 常 に 低 い 水 準 ま で 低 下 す る と い う も の で あ る 。 ま た 、 公 的 分 野 で の ジ ェ ン ダ ー 平 等 が あ ま り に も 急 速 に 進 み す ぎ る と 、 保 守 的 な 男 性 の 敵 意 を か き 立 て 男 女 間 葛 藤 を 促 進 す る か も 知 れ な い 。
東 ア ジ ア の 家 庭 外 に お け る ジ ェ ン ダ ー 平 等 は 、指 標 に よ っ て は き わ め て 高 い 水 準 を 示 す 。 特 に UNDP(2013) の GII(Gender Inequality Index) に よ る と 、 日 本 は ジ ェ ン ダ ー 平 等 度 の 高 い 方 か ら 21 位 、 韓 国 は 27 位 、 中 国 は 35 位 で あ り 、 英 国 (34 位 ) や 米 国 (42 位 )と 同 等 か そ れ 以 上 の 平 等 度 を 達 成 し て い る こ と に な る 。さ ら に 行 政 院 主 計 總 處(2013) に よ る と 、UNDPと 同 じ 方 法 で 計 算 し た 台 湾 のGIIは 、世 界 第 2位 の 高 い 平 等 度 を 示 し た 。 こ れ は WEF(2013) の OGG(Overall Gender Gap) と 異 な り 、GII で は 政 治 的 ・ 経 済 的 平 等 度 の ウ ェ イ ト が 低 く 、 保 健 的 平 等 度 ( 十 代 出 生 率 と 妊 産 婦 死 亡 率 ) の ウ ェ イ ト が 高 い こ と に よ る (Suzuki 2014)。 さ ら に 台 湾 で は 政 治 的 平 等 度 ( 女 性 議 員 割 合 ) も 高 く 、 そ れ が オ ラ ン ダ に 次 ぐ 世 界 第 2 位 の 平 等 度 に つ な が っ て い る 。
家 庭 内 で の ジ ェ ン ダ ー 平 等 に 関 す る 確 立 し た 指 標 は な い の で 、 国 際 比 較 が 可 能 な デ ー タ を 渉 猟 し て み る 。表 4 は 2006 年 の EASS(East Asian Social Survey)モ ジ ュ ー ル に 見 る
家 族 規 範 意 識 で 、台 湾 ま た は 韓 国 が 最 も 伝 統 的・保 守 的 な 意 識 を 持 ち( 太 字 )、日 本 が 最 も 非 伝 統 的 で 、 中 国 は そ の 中 間 に 来 る と い う 図 式 に な っ て い る 。 全 体 と し て は 台 湾 が 韓 国 よ り も 保 守 的 で 、 特 に 夫 稼 得 者 モ デ ル へ の 支 持 ( 問 7) へ の 支 持 の 高 さ は き わ だ っ て い る 。
表4. 東アジア4カ国の家族主義−「強く賛成」の%
台湾 韓国 日本 中国
1. 自分の幸福よりも、家族の幸福や利益を優先すべきだ 2 8 . 5 21.5 4.4 9.3 2. 親の誇りとなるように、子どもは努力すべきだ 3 4 . 2 18.3 2.7 19.5 3. 夫と妻の両方の親族が、妻の助けを必要としているときには、
妻は夫の親族を優先して助けるべきだ
8 . 2 7.8 1.5 3.2 4. 長男が、多くの財産を相続すべきだ 3.0 6 . 1 1.5 2.8 5. どのような状況においても、父親の権威は尊重されるべきだ 25.9 3 1 . 1 3.9 17.6 6. 妻にとっては、自分自身の仕事よりも夫の仕事の手助けをする
方が大切である
1 2 . 8 1 2 . 8 1.8 5.1 7. 夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ 1 5 . 4 9.7 2.2 5.6 8. 景気がわるいときには、男性よりも女性を先に解雇してよい 2 . 0 1.8 1.0 1.5 岩井・保田(2009)
表5. 既存研究における夫方・息子方同居と妻方・娘方同居
文献 国 (年) 夫親同居 妻親同居 妻親/夫親
Martin&Tsuya (1991) 日本 (1988) 34.8% 9.3% 26.7%
Rindfuss et al. (2004) 日本 (1994) 37% 9% 24.3%
西岡 (2000) 日本 (1998) 629 175 27.8%
施利平(2008) 日本 (2002) 29.2% 6.3% 21.6%
Rindfuss et al. (2004) 韓国 (1994) 24% 4% 16.7%
Chu&Yu (2010) 中国 (2004) 454 90 19.8%
Chu&Yu (2010) 台湾 (2003) 459 51 11.1%
文献 国 (年) 息子夫婦同居 娘夫婦同居 娘/息子
田渕・中里(2004) 日本 (1998) 21.7% 6.8% 31.3%
Chu&Yu (2010) 中国 (2004) 33.2% 4.8% 14.5%
Chu&Yu (2010) 台湾 (2003) 44.1% 2.4% 5.4%
2010 年 セ ン サ ス に お け る 65 歳 以 上 高 齢 者 の 子 と の 同 居 割 合 は 、 台 湾 (52.2%) が 日 本
(40.7%) を 上 回 っ て い る 。 韓 国 ・ 中 国 の 同 居 割 合 は よ く わ か ら な い が 、 台 湾 に 特 徴 的 な の は 妻 方 ・ 娘 方 同 居 の 少 な さ で あ る 。 表 5 に 見 る よ う に 、 日 本 で は 夫 方 : 妻 方 の 比 は 4:1 程 度 だ が 台 湾 は 9:1 で 、韓 国・中 国 よ り 強 い 偏 り が 見 ら れ る 。親 か ら み た 子 と の 同 居 で は 、 台 湾 は 娘 方 同 居 が 息 子 方 同 居 の 20分 の 1し か な く 、 さ ら に 強 い 偏 り を 見 せ て い る 。 こ の よ う に 規 範 意 識 と 同 居 規 則 に つ い て は 、 台 湾 が 最 も 保 守 的 で 伝 統 的 な 意 識 を 保 持 し て い る よ う に 見 え る 。 一 方 中 国 は 、 文 化 大 革 命 と 改 革 開 放 を 通 じ て 伝 統 的 価 値 観 が 大 き く 浸 蝕 さ れ た と み ら れ 、 台 湾 ・ 韓 国 に 比 べ 伝 統 的 パ タ ー ン が 希 薄 に な っ て い る 。 と こ ろ が 図 4 に み る よ う に 、 出 生 性 比 の 偏 り は 中 国 で 最 も 大 き い 。 こ れ は 農 村 部 を 中 心 に 、 強 い 男 児 選 好 が 残 っ て い る こ と を 示 唆 す る 。 つ ま り 共 産 主 義 の 熱 狂 と 狂 気 も 、 儒 教 的 家 族 パ タ ー ン を 全 体 的 に 浸 蝕 し た わ け で は な い ら し い 。
さ ら に 日 本 は 、 儒 教 的 ・ 家 族 主 義 的 特 徴 が 最 も 希 薄 で あ る 点 で は 一 貫 し て い る が 、 家 庭 内 ジ ェ ン ダ ー 平 等 の 面 で は は な は だ 好 ま し く な い 一 面 を 持 つ 。 表 6 は 表 4 と 同 じ 2006 年 EASS の 結 果 だ が 、 日 本 の 夫 は 東 ア ジ ア で 最 も 家 事 に 非 協 力 的 と い う 結 果 に な っ て い る 。 こ れ は 日 本 人 の 夫 が 儒 教 圏 の 夫 ほ ど 家 族 主 義 的 で な い た め 、 職 場 生 活 が 占 め る ウ ェ イ ト が 高 い た め と も 解 釈 で き る 。
こ の よ う に 台 湾 ・ 韓 国 が 伝 統 的 な 儒 教 家 族 的 パ タ ー ン を 保 持 し て い る こ と を 示 唆 す る デ ー タ も あ れ ば 、 そ う で な い デ ー タ も あ る 。 さ ら に 家 族 生 活 に 関 わ る 行 動 ・ 意 識 パ タ ー ン と し て は 、 夫 の 家 事 参 加 に 加 え 育 児 参 加 、 同 居 に 加 え 金 銭 ・ サ ー ビ ス 交 換 に お け る 夫 方 ・ 妻 方 へ の 偏 り 、 夫 妻 の 勢 力 関 係 と 意 志 決 定 過 程 、 そ れ に 影 響 す る 同 類 婚 の 動 向 、 親 子 紐 帯 と 夫 婦 紐 帯 の 相 対 的 強 度 と い っ た 側 面 も 重 要 だ ろ う が 、 こ れ ら に つ い て は 比 較 可 能 な デ ー タ が み つ か ら な か っ た 。 こ こ に 示 し た デ ー タ か ら は 、 や は り 台 湾 家 族 が 儒 教 的 パ タ ー ン を 最 も よ く 保 存 し て い る よ う に 思 わ れ る 。 こ れ は 日 本 時 代 か ら 都 市 化 や 階 級 分 化 が 朝 鮮 よ り 緩 慢 で (Cumings 1997b)、 中 国 の よ う な 価 値 観 の 大 混 乱 を 経 な か っ た こ と か ら 演 繹 さ れ る 結 果 で も あ る 。
McDonald(2000) は 家 庭 内 と 家 庭 外 の ジ ェ ン ダ ー 平 等 の 乖 離 に 着 目 し た が 、 儒 教 的 特 性 を 出 生 力 低 下 に 結 び つ け る 解 釈 は 他 に も あ り 得 る 。 た と え ば 高 い 教 育 熱 は 教 育 費 の 急 騰 を も た ら し 、 夫 婦 出 生 力 を 引 き 下 げ 得 る 。 肉 体 労 働 の 蔑 視 は 強 い ホ ワ イ ト カ ラ ー 志 向 を 生 み 、 熾 烈 な 競 争 社 会 を 出 現 さ せ 、 結 婚 ・ 出 産 を 阻 害 し て い る の か も 知 れ な い 。 孝 イ デ オ ロ ギ ー の 影 響 で 儒 教 圏 の 親 子 紐 帯 が 日 本 や 欧 米 よ り 強 い と す れ ば 、 乳 幼 児 保 育 サ ー ビ ス の 利 用 を た め ら わ せ 、 子 の 離 家 と 経 済 的 独 立 を 遅 ら せ て い る の か も 知 れ な い 。 強 い 道 徳 志 向 性 は 、 同 棲 や 婚 外 出 生 の 増 加 を 抑 制 し て い る 可 能 性 が あ る 。 こ れ ら の 解 釈 を 科 学 的 ・ 体 系 的 に 検 証 す る の は 難 し い が 、 状 況 証 拠 な り と も 探 し て み る 価 値 は あ る だ ろ う 。
中 国 の 人 口 普 査 に お け る 合 計 出 生 率(2000 年 に 1.22、2010 年 に 1.18)は 、低 す ぎ る と し て 信 頼 さ れ て い な い 。UNPD(2013) は 、2005〜10年 の 推 定 値 を 1.63 と し て い る 。 中
100 105 110 115 120 125
1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015
女児100対男児
図4. 出生性比
日本 韓国 台湾 中国
表6. 夫の家事参加(「ほぼ毎日」の%)
日本 韓国 中国 台湾
掃除 4.3 10.9 18.3 11.2 洗濯 4.5 6.1 10.7 11.7 夕食 3.2 6.9 22.9 11.6 岩井・保田(2009)
国 の 合 計 出 生 率 は 1.3 を 下 回 っ た こ と が な い と 考 え ら れ る が 、そ れ は 経 済 発 展 が 2000〜05 年 の 韓 国 ・ 台 湾 の 水 準 に ま だ 達 し て い な い た め だ ろ う 。 今 後 一 人 当 た り 所 得 が 1 万 ド ル を 大 き く 超 え 、 発 展 の 果 実 が 農 村 部 に ま で 充 分 に 分 配 さ れ れ ば 、 韓 国 ・ 台 湾 並 み の 低 出 生 率 が 出 現 す る 可 能 性 が あ る 。IMF に よ る 中 国 の 一 人 当 た り GDP の 推 定 値 は 2015 年 に 8 千 ド ル 程 度 で 、7%の 経 済 成 長 が 続 け ば 2021 年 に は 1 万 2 千 ド ル に 達 す る 。 も し 2020 年 代 に 中 国 の 出 生 率 が 急 低 下 す る と し た ら 、図 1に 示 し た 人 口 高 齢 化 の 軌 道 は 修 正 が 必 要 に な り 、 韓 国 ・ 台 湾 に 迫 る 水 準 ま で 高 齢 化 が 進 む だ ろ う 。 そ の よ う な 急 激 な 人 口 高 齢 化 は 中 国 の 経 済 成 長 を 阻 害 し 、 現 在 の 韓 国 ・ 台 湾 の よ う に 一 人 当 た り 3万 ド ル に 迫 る の は 難 し く な る か も 知 れ な い 。
Ⅳ . 人 口 高 齢 化 と 高 齢 者 の 福 祉
1 . 家 族 ・ 市 場 ・ 政 府
か つ て は 家 族 が 老 後 保 障 の 唯 一 の 担 い 手 だ っ た が 、 産 業 化 と と も に 市 場 部 門 ・ 公 共 部 門 の 役 割 が 増 し て 行 く 。 こ こ で 市 場 部 門 に は 、 高 齢 者 本 人 の 勤 労 所 得 に 加 え 、 個 人 年 金 ・ 企 業 年 金 、 貯 蓄 ・ 退 職 金 の 運 用 や 引 き 出 し 、 借 金 な ど も 含 ま れ る 。 公 共 部 門 は 公 的 年 金 、 医 療 保 険 、 各 種 福 祉 制 度 を 通 じ た 現 金 ・ 現 物 給 付 が 含 ま れ る 。 こ れ ら に よ っ て 家 族 の 役 割 が 全 く な く な る わ け で は な い が 、 家 族 に よ る 扶 養 ・ 介 護 が 急 激 に 縮 小 す れ ば 、 高 齢 者 の 福 祉 を 大 き く 損 な う こ と に な る 。 そ の 場 合 、 政 府 は 社 会 保 障 制 度 の 整 備 を 急 ぐ 必 要 に 迫 ら れ る だ ろ う 。
国 民 移 転 計 算(National Transfer Account)研 究 は 、高 齢 者 の 勤 労 所 得 以 外 の 生 涯 経 費
(lifecycle deficit)を 公 的 移 転 (public transfers)、 私 的 移 転 (private transfers)、 資 産 運 用 (asset-based reallocations) の 三 つ に 大 別 す る 。 私 的 移 転 は 主 に 子 か ら の 経 済 的 支 援 で 、資 産 運 用 は 勤 労 所 得 以 外 の 市 場 を 通 じ た 自 助 努 力 と 考 え れ ば よ い だ ろ う 。Lee, et al.
(2012)に よ る と 、先 進 国 で は 公 的 移 転 、途 上 国 で は 資 産 運 用 の 比 重 が 大 き い 。日 本 と 中 国 で は 公 的 移 転 、韓 国 で は 資 産 運 用 の 比 重 が 最 も 大 き い 。驚 く べ き こ と に 、ア ジ ア・欧 米 ・ ラ テ ン ア メ リ カ 20 ヵ 国 中 、 私 的 移 転 が 最 大 の シ ェ ア を 占 め る 国 は 台 湾 だ け で あ る 。 こ れ は 上 述 の 家 族 規 範 や 同 居 規 則 に 加 え 、 儒 教 イ デ オ ロ ギ ー が 台 湾 で 最 も よ く 実 践 さ れ て い る こ と を 示 唆 す る 。
韓 国 の 公 的 年 金 は 、 公 務 員 年 金 (1960 年 )、 軍 人 年 金 (1963 年 )、 私 立 学 校 教 職 員 年 金
(1975 年 )と い っ た 特 殊 職 域 年 金 が 先 行 し 、国 民 年 金 は 1988 年 に 発 足 し た 。発 足 当 時 は 従 業 員 10人 以 上 の 事 業 所 勤 労 者 に 限 定 さ れ て い た が 、1992 年 に 従 業 員 5人 以 上 の 事 業 者 勤 労 者 に 拡 大 さ れ 、1995 年 に 農 漁 民 ・ 農 漁 村 地 域 自 営 業 者 を 包 摂 し た 。1999 年 に は 最 後 ま で 制 度 外 に あ っ た 都 市 自 営 業 者 が 包 摂 さ れ 、 こ の 時 点 で 国 民 皆 年 金 化 が 達 成 さ れ た ( 金 領 祐 2001)。 国 民 年 金 の 満 額 給 付 に は 20 年 以 上 の 保 険 料 納 付 が 必 要 だ が 、5 年 以 上 納 付 し た 60 歳 以 上 加 入 者 は 減 額 給 付 を 申 請 で き る 。2009 年 時 点 で 65 歳 以 上 の 年 金 受 給 者 の 90%以 上 は 5〜9 年 加 入 の 特 例 老 齢 年 金 受 給 者 で あ り 、 平 均 給 付 月 額 は 18.8 万 ウ ォ ン に 過 ぎ な か っ た ( 金 成 垣 2011)。 国 民 日 報 (2014 年 7 月 14 日 付 ) に よ る と 、2012 年 の 韓 国 の 年 金 受 給 率 は 34.8%、 平 均 給 付 月 額 は 36 万 ウ ォ ン で 、 い ま だ に 日 本 の 受 給 率 96.4%、 月 額 160 万 ウ ォ ン と 大 差 が あ る と さ れ る 。
台 湾 で も 軍 人 保 險 (1950 年 )、 勞 工 保 險 (1950 年 )、 公 教 人 員 保 險 (1958 年 )、 農 民 健 康 保 險 (1985 年 ) の よ う に 、 特 殊 職 域 年 金 が 並 立 し て い た 。 国 民 党 は 2000 年 か ら 国 民 年 金 を 開 始 す る 予 定 だ っ た が 、9.21 大 地 震 (1999 年 ) や 民 進 党 へ の 政 権 交 代 の た め 遅 れ 、 2008 年 か ら よ う や く 実 施 さ れ た( 陳 小 紅 2009)。2013 年 時 点 で の 加 入 者 は 、軍 人 保 険 21.7 万 人 、公 教 人 員 保 険 59.4 万 人 、勞 工 保 険 974.6 万 人 、農 民 健 康 保 険 141.0 万 人 、国 民 年 金 367.8 万 人 と な っ て い る 。 勞 工 保 険 は 1950 年 か ら 実 施 さ れ て お り 、15 年 以 上 で 満 額 給 付 の 資 格 が 得 ら れ る 。 農 民 健 康 保 険 は 1985 年 に 発 足 し て お り 、1998 年 以 前 に 加 入 し 15 年 以 上 保 険 料 を 負 担 し た 者 は 、 月 7,000元 の 老 農 津 貼 を 受 領 で き る ( 國 家 發 展 委 員 會 人 力 發 展 處 2014)。 国 民 年 金 の 受 領 者 は 、 ま だ ほ と ん ど い な い と 思 わ れ る 。
中 国 の 年 金 制 度 は 、中 華 人 民 共 和 国 労 働 保 険 条 例(1951 年 )に 始 ま っ た 。国 が 財 政 を 担 い 、保 険 料 支 払 い が な い こ の 制 度 は 、公 務 員 と 準 公 務 員( 大 学・研 究 機 関 等 の「 事 業 単 位 」 の 勤 労 者 ) を 対 象 と す る 機 関 ・ 事 業 単 位 養 老 保 険 と し て 現 在 ま で 続 い て い る 。 改 革 開 放 後 は 、公 務 員 以 外 に 対 し て は 旧 来 の 制 度 が 維 持 で き な く な り 、1997 年 に 都 市 の 勤 労 者 と 自 営 業 者 を 対 象 と す る 城 鎮 職 工 基 本 養 老 保 険 が 発 足 し た 。 改 革 開 放 後 、 農 村 部 で は 長 ら く 公 的 年 金 が な か っ た が 、2009 年 に 新 型 農 村 社 会 養 老 保 険 が 発 足 し た 。さ ら に 都 市 の 非 就 労 者 を 対 象 と す る 城 鎮 居 民 社 会 養 老 保 険 が 2011 年 に 発 足 し 、 制 度 上 は 国 民 皆 年 金 が 達 成 さ れ た
( 尹 豪 2013)。2014 年 に は 新 型 農 村 社 会 養 老 保 険 と 城 鎮 居 民 社 会 養 老 保 険 が 統 合 さ れ 、 三 レ ー ル 制 に 治 ま っ た 。統 合 制 度 は 任 意 加 入 で 、実 態 は ま だ 皆 保 険 と は ほ ど 遠 い が 、「 普 恵 」 に 向 か っ て 変 化 が 進 行 中 と さ れ る ( 于 洋 2014)。
2 . 高 齢 者 の 福 祉 と 居 住 状 態
韓 国 と 台 湾 は 終 戦 ま で 日 本 の 植 民 統 治 を 受 け 、1970 年 代 に は ア ジ ア NIEs と し て め ざ ま し い 経 済 発 展 を 遂 げ 、1980 年 代 末 に ほ ぼ 同 時 に 民 主 化 を 達 成 す る な ど 、似 通 っ た 発 展 過 程 を 経 て き た 。 現 在 は と も に 世 界 最 低 水 準 の 低 出 生 率 に 苦 し み 、 い ず れ 人 口 高 齢 化 で 日 本 を 凌 駕 す る で あ ろ う こ と は 、 上 に 見 た と お り で あ る 。 低 出 産 ・ 高 齢 化 問 題 へ の 対 処 で は 、 韓 国 が や や 先 行 し た 感 が あ り 、 国 民 皆 年 金 の 達 成 も 韓 国 の 方 が 早 か っ た 。
表7. 65歳以上高齢者の状況(2010年前後)
日本 韓国 台湾 中国
相対貧困率 (%) 19.4 47.0 16.6 ? 自殺率(10万対) 17.9 81.9 35.8 ? 独居割合 (%) 16.4 19.7 14.3 12.1 大西(2014), 薛承泰(2014), Suzuki (2014)
【社説】韓国の高齢者自殺率、日米の4〜5倍とは(中央日報 2012-09-11)
台灣老人好苦悶 自殺死亡率高居全國第一(立法院 2012-04-02)
そ れ に も か か わ ら ず 、 高 齢 者 の 状 態 は 韓 国 が は る か に 深 刻 で あ る 。 表 7 に み る よ う に 、 韓 国 の 65 歳 以 上 高 齢 者 の 貧 困 率 と 自 殺 率 は 、 日 本 ・ 台 湾 を は る か に 上 回 っ て い る 。 貧 困 率 ・ 自 殺 率 に 加 え 、 老 人 虐 待 の 頻 度 も 米 国 ・ 英 国 ・ カ ナ ダ よ り は る か に 高 い と い う 報 道 も あ っ た ( 朝 鮮 日 報 2011 年 8 月 23 日 付 )。 韓 国 の 高 齢 者 は 公 的 移 転 も 私 的 移 転 も 不 足 す る た め 、 働 か ざ る を 得 な い と さ れ る 。 図 5 は 2010 年 セ ン サ ス に お け る 各 国 の 男 子 の 年 齢 別
労 働 力 率 だ が 、65歳 以 上 で は 韓 国(34.3%) が 日 本 (31.5%) を 上 回 る 。70 歳 以 上 で は 韓 国 の 27.1%に 対 し 日 本 は 22.5%で 、 差 は さ ら に 大 き く な る 。
こ れ に 対 し 、 台 湾 の 高 齢 男 子 の 労 働 力 率 は 他 の 三 国 に 比 べ 顕 著 に 低 い 。 日 本 が 55
〜59 歳 を ピ ー ク に 急 激 に 労 働 力 率 が 低 下 す る の に 対 し 、 他 の 三 国 で は 50 代 か ら 労 働 力 の 低 下 が 始 ま る が 、 特 に 台 湾 で 低 下 が 著 し い 。 こ れ は 60 歳 定 年 制 が 守 ら れ て い る 日 本 と 異 な り 、他 の 三 国 で は「 肩 た た き 」 の よ う な 早 期 退 職 を 促 す 圧 力 が 強 い こ と を 示 唆 す る 。 台 湾 で 高 齢 男 子 の 労 働 力 率 が 火 杭 に も か か わ ら ず 、 状 況 が 韓 国 ほ ど 深 刻 で な い の は 、 家 族 支 援 の 強 さ が 考 え ら れ る 。 表 7 に み る よ う に 、 台 湾 の 独 居 老 人 割 合 は 14.3%で 、 日 本 (16.4%) や 韓 国 (19.7%) よ り 低 い 。2010 年 セ ン サ ス に お け る 65歳 以 上 の 子 と の 同 居 割 合 は 52.2%で 、日 本(40.7%) よ り 高 い 。 こ の よ う な 高 齢 者 の 居 住 状 態 の 違 い が 、 韓 国 ・ 台 湾 の 高 齢 者 福 祉 の 差 異 の 一 因 と 考 え ら れ る 。
こ の よ う な 高 齢 者 の 居 住 状 態 の 差 異 は 、 日 本 統 治 時 代 の 発 展 パ タ ー ン の 違 い に ま で 遡 り 得 る 。 農 村 が 疲 弊 し 膨 大 な 人 口 が 都 市 と 国 外 に 流 出 し た 朝 鮮 と 異 な り 、 日 本 時 代 の 台 湾 で は 農 村 か ら の 人 口 流 出 が 緩 慢 だ っ た 。 こ れ は 台 湾 農 業 が 好 調 で 、 砂 糖 ・ 茶 ・ 缶 詰 ・ ア ル コ ー ル 等 を 日 本 に 輸 出 し て 大 幅 な 黒 字 を 達 成 し た こ と に よ る 。GDP に 占 め る 第 一 次 産 業 割 合 は 、1920〜40 年 の 間 に 朝 鮮 で は 58.4%か ら 43.1%ま で 低 下 し た の に 対 し 、台 湾 で は 37.8%
か ら 36.0%へ と 、 ほ ぼ 停 滞 し て い た 。 好 調 な 農 産 品 輸 出 に よ っ て 、 台 湾 の 工 業 製 品 の 貿 易 収 支 は 均 衡 し て い た が 、朝 鮮 は 大 幅 な 赤 字 だ っ た( 金 洛 年 2004)。大 地 主 へ の 土 地 所 有 集 中 が 進 ん だ 朝 鮮 と 異 な り 、 台 湾 で は 1931〜45 年 の 間 に 富 の 分 配 が む し ろ 平 等 化 し た
(Cumings 1997)。 こ う し て 朝 鮮 で は 農 村 部 の 荒 廃 と 貧 困 化 が 、 台 湾 で は 農 村 部 で の 資 本 集 積 と 経 済 発 展 が 進 ん だ 。
台 湾 か ら の 輸 出 品 は 1960 年 代 前 半 ま で 農 産 品 が 中 心 だ っ た が 、 後 半 か ら は 農 村 部 で 軽 工 業 製 品 を 製 造 し 輸 出 す る 中 小 企 業 が 勃 興 し た 。 繊 維 ・ プ ラ ス チ ッ ク ・ 電 機 製 品 を 製 造 す る 農 村 工 業 が 農 村 部 の 余 剰 人 口 を 吸 収 し た た め 、 都 市 化 は 依 然 と し て 緩 慢 だ っ た(石 田 2005)。 政 府 は 韓 国 の よ う な 少 数 の 巨 大 企 業 と 財 閥 へ の 集 中 政 策 を 採 ら ず 、 多 く の 中 小 企 業 が 日 米 へ の 輸 出 を 通 じ て 急 成 長 し た 。 政 府 の 保 護 策 も あ っ て 、 台 湾 の 中 小 企 業 は 多 国 籍 企 業 の 支 配 を 回 避 で き た(Vogel 1991)。こ の よ う に 少 数 の 巨 大 財 閥 へ の 集 中 と 多 数 の 中 小 企 業 の 乱 立 と い う 違 い も 、 都 市 化 の テ ン ポ に 影 響 を 与 え た と 考 え ら れ る 。 そ し て 都 市 化 や 格 差 拡 大 が 緩 慢 だ っ た こ と は 、 世 帯 構 造 や 居 住 状 態 に 限 ら ず 儒 教 的 家 族 価 値 が 相 対 的 に 保 存 さ れ る 結 果 と な り 、 一 方 で は 韓 国 を 上 回 る 急 激 な 出 生 力 低 下 を 招 来 し な が ら 、 他 方 で は 高 齢 者 の 福 祉 が 保 護 さ れ て い る と い う 解 釈 も 可 能 だ ろ う 。
0 25 50 75 100
-19 20-24 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65+
(%)
各国人口センサス 図5. 男子の年齢別労働力率(2010年)
日本 韓国 台湾 中国
3 . 人 口 高 齢 化 の 政 治 学
日 本 で は 人 口 高 齢 化 に 伴 う 持 続 的 な 社 会 保 障 負 担 の 急 増 を 受 け て 、 な が ら く 消 費 税 率 の 引 き 上 げ が 政 治 的 懸 案 と な っ て 来 た が 、2014 年 4月 に よ う や く 8%へ の 引 き 上 げ が 実 現 し た 。し か し 2015 年 10月 に 予 定 さ れ て い た 10%へ の 引 き 上 げ は 先 送 り さ れ 、い か に 増 税 へ の 政 治 的 ハ ー ド ル が 高 い か を 改 め て 示 す 結 果 と な っ た 。社 会 保 障 ・ 税 一 体 改 革 成 案(2011 年 6月 ) に よ る と 、 増 税 分 の 社 会 保 障 費 へ の 充 当 の う ち 、 子 ど も ・ 子 育 て 支 援 に 充 て ら れ る の は 4分 の 1程 度 で 、 多 く は 年 金 ・ 医 療 ・ 介 護 分 野 へ の 充 当 が 予 定 さ れ て い た 。 こ こ に は 人 口 高 齢 化 に 伴 う 高 齢 者 の 政 治 的 パ ワ ー の 拡 大 も 影 響 し て い る と 考 え ら れ る 。 老 人 は 自 分 で も 投 票 し 、 誰 も が 老 年 に な る た め 自 分 の 老 後 を 心 配 す る 中 壮 年 層 も 老 人 福 祉 の た め に 投 票 し 、 扶 養 ・ 介 護 を 肩 代 わ り し て も ら い た い 老 人 の 家 族 も 投 票 す る 。 こ れ に 対 し 子 ど も は 自 分 で 投 票 で き ず 、 誰 も 子 ど も に 戻 る こ と は な い た め 中 壮 年 層 も 投 票 し て く れ ず 、 結 局 子 育 て 中 の 親 し か 利 害 集 団 は い な い 。 民 主 主 義 社 会 に お け る 決 定 は 利 害 集 団 の パ ワ ー に 影 響 さ れ 、 そ の パ ワ ー は 集 団 の 規 模 ・ 富 ・ 動 員 力 に よ る 。 そ の た め 人 口 高 齢 化 が 進 む ほ ど 、 老 人 の 政 治 的 発 言 力 は ま す ま す 強 く な り 、 子 ど も は 弱 く な る (Preston 1984)。 全 国 消 費 実 態 調 査 を 用 い 国 民 移 転 計 算 分 析 (Ogawa et al. 2011; 2012) に よ る と 、1994 年 頃 か ら 60代 で 私 的 移 転 の 出 フ ロ ー が 現 れ 、2004 年 に は 70代 前 半 ま で 拡 大 し た 。こ れ は 前 期 高 齢 者 が 、 子 や 孫 を 経 済 的 に 支 援 し て い る こ と を 意 味 す る 。 不 況 に よ っ て 現 役 世 代 の 生 活 は 苦 し く な っ た が 年 金 は 増 え 続 け た た め 、 成 人 子 よ り 老 親 の 方 が 経 済 的 余 裕 が あ る 家 族 が 増 え た こ と が 示 唆 さ れ て い る 。
手 厚 い 社 会 保 障 制 度 に 保 護 さ れ た 日 本 の 高 齢 者 と 対 照 的 に 、 韓 国 の 高 齢 者 の 状 況 は 上 述 の よ う に 深 刻 で あ る 。 朴 槿 惠 大 統 領 は 「 増 税 な き 福 祉 」 を 公 約 に 掲 げ 、 非 課 税 ・ 減 免 対 象 の 調 整 、地 下 経 済 の 陽 性 化 、お よ び 歳 出 構 造 の 調 整 で 高 齢 者 福 祉 政 策 を 含 む 事 業 費 135 兆 ウ ォ ン を 捻 出 す る と し た 。 し か し 大 幅 な 税 収 不 足 が 続 き 、 国 会 予 算 政 策 処 の 長 期 財 政 見 通 し 報 告 書 は (2015 年 1 月 ) は 統 合 財 政 収 支 が 2021 年 に 赤 字 に 転 換 し 、2033 年 に は 破 綻 の 恐 れ が あ る と 警 告 し た 。2015 年 2月 に は 朴 政 権 の「 増 税 な き 福 祉 」政 策 の 続 行 は 不 可 能 と の 評 価 が 定 着 し 、 与 党 セ ヌ リ 党 は 福 祉 削 減 を 、 新 政 治 民 主 連 合 等 の 野 党 は 法 人 税 引 き 上 げ を 主 張 し た 。 し か し 朴 大 統 領 は 既 定 路 線 に 固 執 し 、 与 野 双 方 か ら 批 判 を 買 っ た 。 朴 大 統 領 、 与 党 、 野 党 の 三 者 と も 普 遍 的 な 増 税 と い う 選 択 肢 は 念 頭 に な く 、 韓 国 が 北 西 欧 型 の 社 会 民 主 主 義 に 移 行 す る 可 能 性 は み ら れ な い 。 大 幅 な 増 税 が な い 限 り 、 福 祉 は 委 縮 し た 社 会 民 主 主 義 ( 大 西 2014) と い う 均 衡 点 に と ど ま り つ づ け る だ ろ う 。
台 湾 で 高 齢 者 の 福 祉 が 韓 国 ほ ど 悪 化 し て い な い の は 、 子 と の 同 居 割 合 の 高 さ と 儒 教 的 価 値 の 保 存 に よ っ て 家 族 支 援 が 手 厚 い こ と が 主 な 要 因 と 考 え ら れ る 。 極 端 に 低 い 出 生 率 へ の 懸 念 は あ る も の の 、 当 面 の 問 題 と し て 高 齢 者 の 福 祉 は さ ほ ど 切 迫 し た 問 題 に な っ て い な い よ う で あ る 。 台 湾 の 場 合 、 選 挙 戦 で は 中 国 と の 両 江 関 係 が 圧 倒 的 な 比 重 を 占 め 、 社 会 保 障 政 策 は か す ん で し ま い が ち で あ る 。2014 年 に は 中 国 と の サ ー ビ ス 貿 易 協 定 を め ぐ っ て 馬 英 九 政 権 は 大 き く 支 持 率 を 下 げ 、統 一 地 方 選 挙 で も 大 敗 を 喫 し た 。2016 年 の 総 統 選 挙 ま で 現 政 権 の レ ー ム ダ ッ ク 化 は 続 く と 考 え ら れ 、 増 税 を 伴 う 社 会 保 障 制 度 や 低 出 産 対 策 の 大 幅 な 強 化 は 起 こ り 得 な い と 思 わ れ る 。
中 国 は 共 産 党 独 裁 政 権 で 、 民 主 国 家 よ り 政 治 的 決 断 が 容 易 に 思 わ れ る が 、 必 ず し も そ う で は な い 。 出 生 率 が 置 換 水 準 未 満 ま で 低 下 す る 中 で 、 一 人 っ 子 政 策 緩 和 の 必 要 性 は 1990
年 代 か ら か ら 指 摘 さ れ て い た 。し か し 2000 年 の 人 口 白 書『 中 国 21世 紀 の 人 口 と 発 展 』で 一 人 っ 子 政 策 の 必 要 性 を 強 調 さ れ た の に 続 き 、 潘 貴 玉 ・ 張 維 慶 ・ 李 斌 ・ 趙 白 鴿 ら 歴 代 の 国 家 人 口 与 計 画 生 育 委 員 会 幹 部 が 繰 り 返 し 一 人 っ 子 政 策 堅 持 の 方 針 を 発 表 し た 。 ま た 一 人 っ 子 政 策 に よ っ て 「 世 界 人 口 の 70億 人 到 達 を 5 年 遅 ら せ た 」「4 億 人 の 人 口 抑 制 効 果 が あ っ た 」と い っ た 成 果 も 強 調 さ れ た 。2013 年 に「 単 独 二 孩( 夫 婦 の 一 方 が 一 人 っ 子 な ら 第 二 子 を 認 め る )」が 容 認 さ れ る ま で に は 、相 当 の イ デ オ ロ ギ ー 闘 争 が あ っ た と み ら れ る 。出 生 抑 制 策 を 一 部 緩 和 す る だ け で こ れ だ け の 抵 抗 が あ る の を み る と 、 実 際 に 中 国 人 口 が 減 少 を 開 始 し て も 出 生 促 進 策 に 転 換 で き る か は 疑 わ し い 。
中 国 の 「 未 富 先 老 」 問 題 は 、 韓 国 ・ 台 湾 よ り 経 済 発 展 が 低 い 段 階 で 、 韓 国 ・ 台 湾 と ほ ぼ 同 じ タ イ ミ ン グ で 人 口 高 齢 化 が 進 行 す る こ と に よ る 。 当 然 年 金 ・ 医 療 ・ 介 護 と い っ た 社 会 保 障 制 度 の 発 展 も 韓 国 ・ 台 湾 よ り 遅 れ て お り 、 文 化 大 革 命 と 改 革 開 放 後 の 拝 金 主 義 に よ っ て 儒 教 的 価 値 観 は 台 湾 ほ ど よ く 保 存 さ れ て い な い こ と か ら 、 今 後 は 高 齢 者 福 祉 の 深 刻 な 悪 化 が 懸 念 さ れ る 。 中 国 政 府 は 新 型 農 村 社 会 養 老 保 険 と 城 鎮 居 民 社 会 養 老 保 険 の 統 合 や 新 型 都 市 化 政 策 と い っ た 政 策 対 応 に 加 え 、 家 族 支 援 を 強 化 し て セ ー フ テ ィ ・ ネ ッ ト 整 備 の 遅 れ を 補 お う と す る 意 図 も 見 せ て い る 。 子 の 老 親 宅 訪 問 を 義 務 化 し た 改 正 老 年 人 権 益 保 障 法
(2013 年 ) は 、 そ の ひ と つ の 現 れ で あ る 。
Ⅴ . 結 語
日 本 は 長 ら く 東 ア ジ ア 唯 一 の 先 進 国 だ っ た が 、1970 年 代 に 韓 国・台 湾・香 港・シ ン ガ ポ ー ル で め ざ ま し い 経 済 発 展 が 起 こ り 、 そ の 流 れ は 中 国 に 受 け 継 が れ た 。 し か し な が ら 東 ア ジ ア の 出 生 力 低 下 は 急 激 で 、 特 に 韓 国 ・ 台 湾 は 世 界 最 低 水 準 の 出 生 率 を 示 す に 至 り 、 今 後 は 急 激 な 人 口 減 少 と 高 齢 化 が 予 想 さ れ る 。 既 に 世 界 で 最 も 老 い た 国 と な っ た 日 本 を 含 め 、 東 ア ジ ア は 欧 米 先 進 国 に 比 べ て 「 未 富 先 老 」 現 象 が 著 し い と 言 え る 。 こ う し た 人 口 要 因 が 東 ア ジ ア の 経 済 発 展 を 阻 害 す る な ら 、 そ れ は か つ て 従 属 理 論 が 主 張 し た よ う な 国 家 間 の 経 済 格 差 を 固 定 化 す る メ カ ニ ズ ム と し て 作 用 す る こ と に な る 。
19世 紀 の 帝 国 主 義 を 通 じ て 確 立 し た ヨ ー ロ ッ パ 文 明 と そ の 子 孫( 英 語 圏 先 進 国 )が 支 配 す る 世 界 秩 序 に 、 最 初 に 挑 戦 し た の は 日 本 だ っ た 。 日 本 は 枢 軸 国 の 一 員 と し て 戦 っ た が 、 敗 戦 に よ っ て 民 主 主 義 に 転 じ た 。ア ジ ア NIEs 諸 国 も 開 発 独 裁 下 で 経 済 発 展 を 実 現 し た が 、 1980 年 代 末 に は シ ン ガ ポ ー ル を 除 い て リ ベ ラ ル な 民 主 主 義 に 移 行 し た 。現 在 は 中 国 が 共 産 党 独 裁 下 で 経 済 発 展 の 最 中 で あ り 、 リ ベ ラ ル な 民 主 主 義 こ そ が 政 治 の 最 終 形 態 で あ る と い う テ ー ゼ(Fukuyama 1992)へ の 挑 戦 者 と み な せ る 。果 た し て 中 国 の 発 展 が 人 口 要 因 に よ っ て 阻 害 さ れ フ ク ヤ マ の 正 し さ が 証 明 さ れ る の か 、 そ れ と も 米 国 を 押 し の け て 唯 一 の 超 大 国 と な り 独 裁 政 治 の 優 越 性 を 示 す の か は 、 世 界 史 的 視 野 か ら も 重 要 な 意 味 を 持 つ 。
文 献
Becker, Gary S. (1991) A Treatise on the Family, Enlarged Edition, Harvard University Press, Cambridge, Massachusetts.
Chu, C. Y. Cyrus and Ruoh-Rong Yu (2010) Undestanding Chinese Families - A