地 域 在 住 高 齢 者 の 身 体 活 動 基 準 策 定 に 関 す る 疫 学 研 究:複 数 コ ホ ー ト 研 究
キ ー ワ ー ド : 加 速 度 計 ,身 体 活 動 ,身 体 活 動 基 準 ,地 域 在 住 高 齢 者 ,複 数 コ ホ ー ト 研 究 行 動 シ ス テ ム 専 攻 矢 次 春 風 【問題と目的】 一定の身体活動の実施は、肥満、糖尿病、脳卒中、心血 管疾患、骨粗鬆症、認知症などの罹患率および死亡率のリ スクを低下させることが報告されており1‐6)、18~65 歳の 健康な成人では 1 日 30 分以上、週 5 日以上の中強度(3~ 6METs)の身体活動(moderate physical activity; MPA)を行 うか、あるいは 1 日 20 分以上、週 3 日以上の高強度(≧ 6METs)の身体活動(vigorous physical activity; VPA)を行う ことが推奨されている。また高齢者は、週に合計 150 分以 上の中・高強度身体活動(moderate to vigorous physical activity; MVPA)を 1 回 10 分以上の長さで行うことが WHO(World Health Organization)、 ACSM(American College of Sports& Medicine)などによって推奨されている7,8)。 わが国では、国民の健康の維持・向上を目的とした、「健 康づくりのための身体活動基準 2013」(厚生労働省)が制定 されている9)。65 歳以上の高齢者では身体活動を「10METs・ 時/週」行うという基準が設けられており、現在の基準には 高齢者に推奨される運動強度や座位時間に関する基準は設 けられておらず、その基準化のためには大規模な高齢者集 団における実態調査の成績が求められている。 そこで、本研究では地域在住高齢者を対象とした複数の 疫学コホート研究の活動量計データを用いて、性・年齢・ BMI のカテゴリー別に身体活動・座位時間の実態とこれら の相互の関連性を検討した。さらに、「健康づくりのための 身体活動基準 2013」の条件(10METs・時/週)を満たす高 齢者の割合を検討する。 【方法】 1)研究デザイン 本研究は、福岡県で実施された複数の疫学コホート(篠 栗元気もん研究,太宰府研究,久山町研究,糸島フレイル研 究)における横断研究のデータを用いた統合研究である。 篠栗元気もん研究は、福岡県糟屋郡篠栗町(2011 年~)で 実施されている65 歳以上の篠栗町民を対象とした疫学研究 である。本研究では 2011 年のベースライン時のデータを用 いた。太宰府研究は、福岡県太宰府市(2009 年~2012 年) で実施された65 歳以上の太宰府市民を対象とした疫学研究 である。本研究では 2009 年のベースライン時のデータを用 いた。久山町研究は、福岡県糟屋郡久山町(1961 年~)で 実施されている40 歳以上の久山町民を対象とした疫学研究 である。本研究では 2009 年のデータを用いた。糸島フレイ ル研究は、 福岡県糸島市(2017 年~)で実施されている 65 歳~75 歳の糸島市民を対象とした疫学研究である。本研 究では 2017 年のベースライン時のデータを用いた。 2)対象者 介護認定を受けておらず、それぞれの研究における体力 測定会に参加した65 歳以上の地域在住高齢者を対象とした (Fig.1)。その内訳は、篠栗元気もん研究 2,629 名、太宰府 研究 932 名、久山町研究 1,125 名、糸島フレイル研究 949 名の合計 5,635 名(男性:2,555 名,女性 3,080 名)である。 3)測定項目 身体活動・座位行動の評価には,3 軸加速度センサー内蔵 活動量計(Active style Pro HJA-350IT:オムロンヘルスケア 社)を用いた。参加者には入浴時間を除いた起床時から就 寝時まで活動量計を装着するように指示し、測定期間は 7 日間とした。座位行動(ST)は 1.5METs 以下、低強度身体 活動(LPA)は 1.6~2.9METs、中高強度身体活動(MVPA) は 3.0METs 以上と定義した(単位:分/日)。活動量調査を 拒否した者、1 日 10 時間以上の活動量計データが 4 日以上 無い者を除外し、3,998 名(70.9%)を最終対象者をとした (Fig.1)。すべての解析は SAS ver.9.4 を用いて行い、統計 学的有意水準は 5%とした。【結果】 性・年齢・BMI のカテゴリー変数別に対象者数を示した。 年齢を 5 歳ごとに区分した結果、65-69 歳は 1,438 名(男 性 625 名、女性 813 名)、70-74 歳は 1,239 名(男性 526 名、 女性 713 名)、75-79 歳は 806 名(男性 323 名、女性 483 名)、80-84 歳は 366 名(男性 137 名、229 名)、および 85 歳以上は 149 名(60 名、女性 89 名)であった。また WHO の区分に基づき BMI を 18.5 未満(低体重)、18.5-24.9(標準 体重)、25.0-29.9(過体重)、30.0 以上(肥満)の4つに分類し た。その結果、低体重は 1,067 名(男性 460 名、女性 607 名)、 標準体重は 2,151 名(男性 903 名、女性 1,248 名)、 過体重は 708 名(男性 293 名、女性 415 名)、肥満は 72 名 (男性 15 名、女性 57 名)であった。 一日当たりの身体活動・座位時間(単位:分/日)につい て、平均(標準偏差)中央値、十分位値は以下の通りであ った。男性全体での平均(標準偏差)中央値は、MVPA は 46.1(34.0)39.6 分、LPA は 286.4(87.8)283.6 分、ST は 479.3(122.5)478 分であった。また女性全体での平均(標 準偏差)中央値は、MVPA は 50.4(5.7)43.2 分、LPA は 374.4 (85.7) 373.1 分、ST は 425.1(112.3)417.9 分であった。 カテゴリー変数については、年齢別の一日当たりの男女 別の身体活動・座位時間について平均(標準偏差)中央値、 十分位(単位:分/日)で示した。また BMI 別の一日当た りの身体活動・座位時間(単位:分/日)について平均(標 準偏差)中央値、十分位値で示した。 ST の活動量計装着時間に占める割合は、男性で 60%、女 性で 51%であり、男女ともに装着時間の半分以上を占める ことが観察された(Fig.2)。また年齢、BMI が高いほど、LPA、 MVPA が短いのに対し、ST が長い結果となった。 各身体活動と座位時間の相関を検討した結果、LPA と MVPA との間に有意な正の相関(r=0.30)、MVPA と ST(r =-0.42)および LPA と ST との間(r=-0.60)に有意な負の 相関を認めた(p<0.001)(Table.1)。 「健康づくりのための身体活動基準 2013」の条件に即し て 10METs・時/週を満たす者の割合は、LPA、MVPA を含 んだ総身体活動量から算出すると、全対象者がこの基準値 を満たしていた。さらに活動量の計算を MVPA のみに絞っ た場合でも約 7 割の人が基準を満たしていた(Fig.3)。 【考察】 本研究では、4 つの疫学コホート研究のデータを統合する ことで、地域在住高齢者を対象とした身体活動・座位行動 の実態を性・年齢・BMI 別に把握することに加え、「健康づ くりのための身体活動基準 2013」における高齢者身体活動 の基準値である 10 メッツ・時/週を満たす者の割合を調査 することで、その妥当性を検討した。 身体活動・座位時間の実態については、身体活動が男 女ともに年齢、BMI が高いほど、LPA、MVPA が短く、ST が長かった。また、男性は女性に比べ LPA、MVPA が短く、 ST が長いことが観察された。これは個々人の性・年齢・BMI の違いによって生活活動における行動習慣が異なることが 理由として考えられた。先行研究のシステマティックレビ ューでは年齢・性別によって、身体活動量が異なること、 データを別々に示すことが推奨していることからも 10)、同 一の基準を用いて評価することは好ましくないと考えた。 身体活動・座位行動について、性・年齢・BMI 別に MVPA、 LPA、ST の違いが確認されたことからも、同一の基準では なく、 性・年齢・BMI 別に身体活動の基準を制定すること の必要性が示唆された。 一日の身体活動・座位時間の割合(分布)については、 先行研究と同じく11、12)、男女ともに ST が全装着時間(覚 醒時間)の約半分以上を占める結果となった。MVPA につ いては、ともに全装着時間の 5%を占めており、性差は観察 されなかった。一方、男性は女性に比べて LPA は 10%近く 少なく、ST が 10%程度多いことが観察された。この結果か ら、男性は女性よりも座位時間の占める割合が高いことが、 LPA の占める割合が低いことの背景として考えられた。事 実、LPA と ST との間(r=-0.60)に有意な負の相関を認め られ(p<0.001)、先行研究と同様の結果であった13)。 健康づくりのための身体活動基準2013 における高齢者の 身体活動量の基準値である 10 メッツ・時/週を満たす者の 割合については、 LPA、MVPA を含んだ総身体活動量から 算出すると、全対象者が基準値を満たしていた。 MVPA の みに絞っても全体の 70%以上の者が基準値を満たしており、 年齢、BMI が高くなるほど、基準値を満たす者の割合は少 なくなることが観察された。現在の健康づくりのための身 体活動基準 2013 の基準策定の背景には、身体活動不足に至
らないように注意喚起することが提唱されているが、高齢 者の身体活動の増進を目的とするのであれば、身体活動の 強度を含めた基準の見直しが必要であることが考えられた。 身体活動ガイドラインの次期改定に向けての課題もしく は必要な証拠として「①筋力などの全身持久力以外の体力 の基準値 ②座位行動の基準値 ③身体活動量、運動量の上 限値 ④体力の客観的・簡便な評価法」の4つが挙げられて いるが 14)、本研究によって地域在住高齢者の身体活動・座 位行動の実態によって②座位行動の基準値について、新た な結果を示すことができた。また、本研究では身体活動量 について平均値、十分位数を示し、③身体活動量、運動量 の上限値に関して今後の研究に繋がる結果を示すことがで きた。身体活動基準 2013 における高齢者を対象とした 10 メッツ・時/週の条件は、総身体活動量から算出した場合、 全対象者がこの基準値を満たし、MVPA のみに絞っても評 価した場合でも 7 割の人が満たしていたことからも、現在 の基準値が低く設定されている可能性が示唆された。 次期策定に当たっては、アウトカム評価を含めた基準値 の見直しをすることが課題としてあげられた。さらに、性・ 年齢・BMI 別に身体活動・座位行動の基準を制定すること の重要性を指摘した。 【主要引用文献】
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