青年期の意思決定場面における親の態度の認知と自己表現の関連
キーワード:青年期,自己表現,親の態度の認知,進路選択 人間共生システム専攻 臨床心理学指導・研究コース 白濵 あかね 問題と目的 青年期においては,親子関係に変化が生じる時期である と考えられる。Blos(1962)の発達段階論によると,青年 期前期から親からの分離が始まり,徐々に客観的な視点で 家族のあり方を評価できるようになることが示されている。 このような青年期においては,新たな親子関係を構築する ためにも,親子が互いの要求を調整し合うような新たなコ ミュ二ケーションが必要となる(柴田,2000)。また,青年 期の重要な課題として,アイデンティティの確立が挙げら れる。杉村(2001)は,アイデンティティ形成の過程を, 他者の意見・期待も考慮し,自己と他者の視点の食い違い を解決しながら人生の重要な選択を決定していくことであ ると定義した。それゆえに,自分の意見を主張し,相手の 意見を受容する適切な自己表現は,特に青年期に必要であ ると考えられる。なかでも,家族内での自己表現は,青年 のアイデンティティ発達と関連することが示されており (Condon, Cooper, & Grotevant,1984),青年の発達に影 響する重要な要素であることが推察される。このように, 親子間において青年が適切な自己表現を行うことは,青年 期の中心的課題を乗り越えていくための重要な要素である ことが示唆されている。 自己表現のなかでも,特にコミュニケーションに対する 回避的態度については,ストレスや不安の高さ(塩見・庄 田,2004),精神的健康度(畑中,2003)などとの関連が 明らかになっており,青年の心理状態や発達に否定的な影 響を及ぼすことが示唆されている。また,回避的態度の要 因について,高橋(2006)は,対人不安などを含む個人要 因とソーシャルサポートなどを含む環境要因があると指摘 している。筆者は,青年の回避的態度を喚起する要因とし て,相手の態度の認知が挙げられると考える。なぜなら, 対人コミュニケーションは相互的なものであるため,相手 の態度をどのように認知しているかが自己表現のあり方に 影響を与えることが推察されるためである。白濵(印刷中a) は,進路選択をテーマとしたロールプレイングにおいて, 青年が親の態度をどのように認知するか検討した。その際, 親が共感的態度をとった場合でも,青年は親の意見をもっ と聞きたいと不満を抱いたり,親が実際にはどのように考 えているのか分からず不安を抱いたりする場合があり,実 際の親の態度と青年が認知した親の態度は一致しない可能 性が考えられた。先行研究においても,親が認知した自身 の態度ではなく,子どもが認知した親の態度が直接的に子 どもの適応に影響を及ぼすことが示されており(島,2014), 青年の自己表現には,青年の認知の方が影響していると考 えられる。そこで,本研究では,親の自己表現に対する認 知と青年の自己表現の関連について検討することとする。 本研究では,親子間コミュニケーションの場面として, 進路選択を取り上げる。進路選択は,「幼い頃に習得した役 割や技術を職業にどう結びつけるか(Erikson,1963)」に加 え,「親などの重要な他者から自分に向けられる期待や他者 に対する自分の意味をいかに取り込むかという問題」(杉村, 2001)」も孕んでいるため,青年期のライフイベントのなか でも親子間コミュニケーションが重要となると考えられる ためである。 以上より,本研究では,高校生および大学生の進路選択 場面における親の態度の認知が青年の自己表現に与える影 響について検討することを目的とする。また,親子間コミ ュニケーションにおける親の態度の認知や青年の自己表現 が,青年期の重要な課題であるアイデンティティ形成に及 ぼす影響についても併せて検討する。仮説をTable1に示す。 また,先述のBlos(1962)の指摘を踏まえると,高校生 と大学生では,親子関係の様相は大きく異なると考えられ るため,親の態度の認知および青年の自己表現,アイデン ティティ発達の関連にも違いが生じる可能性が考えられる。 そのため,両者の特徴を捉えるために,高校生と大学生を 対象とし,比較検討することとする。 方法 (1)調査対象者 460 名を分析対象とした(男性 137 名,女性 323 名, M=18.03 歳,SD=1.71)。高校生については,私立高校の 1, 変数 仮説 先行研究 ①青年が親の態度を主張的と捉える場合,青年は主張的態度をとる ②青年が親の態度を共感的と捉える場合,青年は共感的態度をとる ③青年が親の態度を回避的と捉える場合,青年は回避的態度をとる ④青年が親の態度を共感的と捉える場合,青年のアイデンティティ発達の度合いは高い ⑤青年が親の態度を回避的と捉える場合,青年のアイデンティティ発達の度合いは低い ⑥青年が主張と共感の両方を示す場合,青年のアイデンティティ発達の度合いは高い ⑦青年が回避を示す場合,青年のアイデンティティ発達の度合いは高い Table1 仮説の概要 親の態度の認知と 青年の自己表現 親の態度の認知と 青年のアイデンティティ 青年の自己表現と 青年のアイデンティティ 白濵 (印刷中b) 高橋 (2008) 高橋 (2008)2 年生 187 名を対象とし,有効対象者 180 名を分析対象と した。大学生については,国公立大学生12 名,私立大学生 107 名,短期大学生 43 名,高等専門学校生 123 名を対象と し,有効対象者290 名を分析対象とした。 (2)質問紙の構成 1) アイデンティティ発達に関する尺度:多次元自我同一性 尺度(MEIS)(谷,2001)を用いた。全 20 項目,7 段階 で評定を求めた。 2) 親の態度の認知に関する尺度:Condon ら(1984)の基 準をもとに筆者が独自に項目を作成し,親の自己表現尺度 とした。Condon らが定義した独自性をもとに作成した「主 張性」と,結合性をもとに作成した「共感性」の2 因子構 造を想定し,全10 項目,5 段階で評定を求めた。 3) 親の態度についての自由記述:親の態度をどのように感 じるかについて,自由記述にて回答を求めた。 4) 青年の自己表現に関する尺度:親の自己表現尺度と同様 の手続きで,独自に項目を作成した。「主張性」と「共感性」 の 2 因子構造を想定し,全 10 項目,5 段階で評定を求めた。 結果と考察 (1)尺度作成 MEIS については信頼性分析を,親の態度の認知尺度お よび青年の自己表現尺度については因子分析(最尤法,プ ロマックス回転)を行った。 (2) 親の態度の認知と青年の自己表現の関連 1) 高校生の結果 親の態度の認知および青年の自己表現について,「主張性」 と「共感性」の2 つの下位尺度得点の上位約 50%を高群, 下位約50%を低群とし,高低の組合せにより,回避群(主 張性低×共感性低),共感高群(主張性低×共感性高),主 張高群(主張性高×共感性低),主張共感高群(主張性高× 共感性高)の4 群に分類した。 親の態度の認知を独立変数,青年の自己表現得点を従属 変数とする一要因分散分析を行った。 2) 大学生の結果 親の態度の認知を独立変数,青年の自己表現得点を従属 変数とするWelch の補正による一要因分散分析を行った。 結果より,親の共感性が低いと青年が認知する場合は青 年の主張性は低く,共感高群,主張共感群の順で高いこと から,青年が主張性を発揮するためには,親が主張と共感 を表出していると青年が認知することが必要であることが 示された。よって,仮説(1)「青年が親の態度を主張的と捉 える場合,青年は主張的態度をとる」は一部支持された。 白濵(印刷中b)においては,親が主張的態度をとると青年 が認知する場合,青年は親に対して否定的感情を抱きやす いことから,青年の主張性が高くなると考えたが,親が共 感性を基盤として主張性を発揮していると青年が認知する 場合に,最も青年の主張性が高くなることが示された。ま た,青年が共感性を発揮するためには,親が共感性を表出 していると青年が認知することが必要であることが示され た。よって,仮説(2)「青年が親の態度を共感的と捉える場 合,青年は共感的態度をとる」は支持された。他方,親が 共感性を示していないと青年が認知する場合,青年は親に Table2 多次元同一性(MEIS)の信頼性分析 第1因子:自己斉一性(α = .88) ※①過去において自分をなくしてしまったように感じる ※⑤過去において自分自身を置き去りにしてきたような気がする ※⑨いつの間にか自分が自分ではなくなってしまったような気がする ※⑬今のままでは次第に自分を失ってしまうような気がする ※⑰「自分がない」と感じることがある 第2因子:対自同一性(α = .83) ②自分が望んでいることがはっきりしている ⑥自分がどうなりたいのかはっきりしている ⑩自分のするべきことがはっきりしている ※⑭自分が何をしたいのかよくわからないと感じるときがある ※⑱自分が何を望んでいるのかわからなくなることがある 第3因子:対他的同一性(α = .82) ※③自分の周りの人々は本当の私をわかっていないと思う ⑦自分は周囲の人々によく理解されていると感じる ※⑪人に見られている自分と本当の自分は一致しないと感じる ※⑮本当の自分は人には理解されないだろう ※⑲人前での自分は本当の自分ではないような気がする 第4因子:心理社会的同一性(α = .84) ④現実の社会の中で自分らしい生き方ができると思う ⑧現実の社会の中で自分らしい生活が送れる自信がある ⑫現実の社会の中で自分の可能性を十分に実現できると思う ※⑯自分らしく生きてゆくことは現実の社会の中では難しいだろうと思う ※⑳自分の本当の能力を生かせる場所が社会にはないような気がする 質問項目 F1 F2 共通性 第1因子:共感性(α= .80) ⑨親は私の意見に共感を示す .71 -.10 .41 ②親は私に質問をして話を理解しようとする .70 .21 .44 ⑩親は私の意見を尊重する .70 -.23 .38 ⑦親は私の意見に同意する .62 -.25 .31 ⑤親は私に行動の理由を聞く .60 .39 .51 ④親は私の要望に応じる .56 -.11 .57 第2因子:主張性(α= .69) ⑥親は私に親の意見を受け入れるように説得する .20 .78 .37 ⑧親は私と意見が異なるとき自分の意見を主張する .02 .62 .57 ③親は私の意見に反対する -.13 .60 .67 F1 -.44 Table3 青年期における親の態度尺度の因子分析結果 質問項目 F1 F2 共通性 第1因子:共感性(α = .76) ⑦私は親の意見に同意する .76 -.04 .31 ⑩私は親の意見を尊重する .73 .01 .24 ⑨私は親の意見に共感を示す .70 .08 .22 ④親は私の要望に応じる .47 -.08 .30 第2因子:主張性(α = .70) ⑥私は親に私の意見を受け入れるように説得する -.07 .71 .50 ⑧私は親と意見が異なるとき自分の意見を主張する -.07 .69 .56 ①私は自分の意思を親にはっきりと伝える .18 .51 .47 ⑤私は親に行動の理由を聞く .21 .48 .51 ③親は私の意見に反対する -.22 .46 .54 F1 .12 Table4 青年期における青年の自己表現尺度の因子分析結果 因子 親の態度の認知 N M SD F 多重比較 回避群 33 3.16 .67 共感高群 50 3.34 .66 主張高群 61 3.25 .61 主張共感高群 36 3.61 .46 回避群 33 2.88 .58 共感高群 50 3.59 .58 主張高群 61 3.07 .55 主張共感高群 36 3.69 .50 Table5 高校生における親の態度の認知による青年の自己表現得点の比較 青年の 共感性 青年の 主張性 19.83** 3.62* 回避,主張高 < 共感高,主張共感高 回避,主張高 < 主張共感高 ** : p < .01 *: p < .05 因子 親の態度の認知 N M SD Welch 多重比較 回避群 64 3.22 .55 共感高群 94 3.48 .70 主張高群 70 3.11 .63 主張共感高群 61 3.37 .49 回避群 63 3.26 .65 共感高群 94 3.51 .57 主張高群 70 3.39 .77 主張共感高群 61 3.77 .52 ** : p < .01 Table6 大学生における親の態度の認知による青年の自己表現得点の比較 青年の 主張性 12.17** 回避,主張高,共感高 < 主張共感高 回避<共感高 青年の 共感性 8.66** 回避,主張高 < 共感高,主張共感高
対して自己表現を行う傾向が低くなることが示された。よ って,仮説(3)「青年が親の態度を回避的と捉える場合,青 年は回避的態度をとる」は一部支持された。 平石(2000)は,青年のアイデンティティや対人意識に 関して,親の主張性が必ずしも肯定的な意味をもつわけで はなく,親の共感性が重要であることが指摘している。青 年の自己表現についても同様に,親の共感性が前提として あることが必要であると考えられる。また,白濵(2016b) では,親の共感的態度に対しては,青年が肯定的感情を抱 きやすいことが指摘されていることからも,親の共感性が 青年の共感性につながる可能性が示唆される。しかしなが ら,自由記述では,親が主張と共感の両方を示すと青年が 認知する場合,「お互いの意見を主張しあい、説得しあい、 気持ちをぶつけることで、結果的に最善の選択ができてい るので、いつもありがたいと思っている」などの肯定的な 感想がみられ,親の共感性に加え主張性を認知することで, 親との相互的な議論が活性化する可能性が考えられた。こ のことから,青年が親に対して主張と共感の両方を表出す るためには,親が共感性を基盤として主張性を表出してい ると青年が認知することが重要であることが推察される。 (2)親の態度の認知と青年のアイデンティティ発達の関連 1) 高校生の結果 親の態度の認知を独立変数,青年のアイデンティティ得 点を従属変数とする一要因分散分析を行った。 結果より,親の共感性を高く認知する青年は,親の態度 を共感的であると認知しない青年よりも,現実社会におけ る自己の感覚を確立していることが示された。しかしなが ら,その他のアイデンティティ因子における有意差は示さ れなかった。よって,仮説(4)「青年が親の態度を共感的と 捉える場合,青年のアイデンティティ発達の度合いは高い」, 仮説(5)「青年が親の態度を回避的と捉える場合,青年のア イデンティティ発達の度合いは低い」は一部が支持され, 現実社会おける自己の感覚以外の因子については,親の態 度の認知とは関連がみられないことが明らかになった。 2) 大学生の結果 親の態度の認知を独立変数,青年のアイデンティティ得 点を従属変数とするWelch 法を行った。 結果より,青年が親の態度を共感的と捉える場合,青年 のアイデンティティ発達の度合いは高くなることが示唆さ れた。また,対自的同一性および心理社会的同一性におい ては,親が主張と共感の両方を表出していると青年が認知 する場合も,青年のアイデンティティが高いことが示され た。よって,仮説(4)「青年が親の態度を共感的と捉える場 合,青年のアイデンティティ発達の度合いは高い」は支持 され,大学生においては,親の態度を共感的であると認知 することが,青年のアイデンティティ発達と関連すること が示された。これは,高橋(2007)と概ね一致する結果で あり,大学生のアイデンティティ形成には,親の態度を共 感的であると認知することが重要であると考えられる。 (3)青年の自己表現と青年のアイデンティティ発達の関連 1) 高校生の結果 青年の自己表現を独立変数,青年のアイデンティティ得 点を従属変数とする一要因分散分析を行った。 結果より,青年が親に対して主張や共感を示す場合,青 年のアイデンティティ達成の度合いは高くなると考えられ る。他方,青年が親に対して回避的態度をとる場合,青年 のアイデンティティ達成の度合いは低くなることが示唆さ れた。よって,仮説(6)「青年が主張と共感の両方を示す場 合,青年のアイデンティティ発達の度合いは高い」,仮説(7) 「青年が回避を示す場合,青年のアイデンティティ発達の 度合いは高い」は支持された。これは,高橋(2006)の結 果と一致するものであった。アイデンティティ形成の過程 は,自己と他者の視点の食い違いを解決しながら人生の重 要な選択を決定していくことであると指摘されていること からも(杉村,2001),青年が親との議論に積極的に関わる 場合は青年のアイデンティティ発達の度合いが高くなり, 因子 親の態度の認知 N M SD F 多重比較 回避群 33 4.55 1.39 共感高群 50 4.99 1.33 主張高群 61 4.38 1.55 主張共感高群 36 4.77 1.27 回避群 33 4.06 1.23 共感高群 50 4.46 1.45 主張高群 61 4.22 1.25 主張共感高群 36 4.42 1.28 回避群 33 3.70 1.00 共感高群 50 4.13 1.21 主張高群 61 3.70 1.13 主張共感高群 36 4.12 .98 回避群 33 4.01 1.12 共感高群 50 4.60 1.15 主張高群 61 4.10 1.09 主張共感高群 36 4.26 1.10 Table7 高校生における親の態度の認知による青年のMEIS得点の比較 自己 斉一性 対自的 同一性 対他的 同一性 心理社会的 同一性 1.89 .80 2.22 3.04* 回避,主張高 < 共感高 *: p < .05 因子 青年の自己表現 N M SD F 多重比較 回避群 62 4.94 1.23 共感高群 92 5.57 1.05 主張高群 69 4.40 1.28 主張共感高群 60 4.80 1.42 回避群 63 4.32 1.11 共感高群 93 4.46 1.09 主張高群 70 3.81 1.18 主張共感高群 61 4.30 1.09 回避群 63 4.07 1.13 共感高群 94 4.30 1.00 主張高群 69 3.70 1.09 主張共感高群 61 4.02 1.06 回避群 64 4.08 1.02 共感高群 93 4.55 1.01 主張高群 70 3.90 1.09 主張共感高群 61 4.36 1.03 Table8 大学生における親の態度の認知による青年のMEIS得点の比較 対自的 同一性 5.94** 主張高 < 回避, 共感高 主張共感高 **: p < .01 対他的 同一性 4.89** 主張高 < 共感高 心理社会的 同一性 6.60** 回避, 主張高 < 共感高 主張高 < 主張共感高 自己 斉一性 主張高<回避,主張共感高<共感高 因子 青年の自己表現 N M SD F 多重比較 回避群 52 4.43 1.29 共感高群 30 4.65 1.43 主張高群 48 4.68 1.30 主張共感高群 50 4.88 1.21 回避群 52 3.98 1.22 共感高群 30 4.10 1.01 主張高群 48 4.26 1.13 主張共感高群 50 4.78 1.12 回避群 52 3.61 1.12 共感高群 30 3.79 1.13 主張高群 48 3.88 .98 主張共感高群 50 4.30 .98 回避群 52 3.82 1.09 共感高群 30 4.30 1.13 主張高群 48 4.23 1.07 主張共感高群 50 4.61 .96 **: p < .01 *: p < .05 対他的 同一性 3.61* 回避 < 主張共感高 心理社会的 同一性 4.37** 回避 < 主張共感高 自己 斉一性 .89 対自的 同一性 3.75* 回避 < 主張共感高 共感高 < 主張共感高 Table9 高校生における青年の自己表現による青年のMEIS得点の比較
親との議論を回避する場合は青年のアイデンティティ発達 の度合いが低くなると考えられる。 このことから,高校生においては,親の態度の認知より も,青年自身の自己表現のあり方が,青年のアイデンティ ティ発達と関連があることが示唆された。Blos(1962)は, 青年期前期では,青年が客観的に家族を捉えることが難し く主観的に反応することが多いことを指摘しており,青年 期前期にあたると考えられる高校生は,親の態度よりもむ しろ自身の自己表現のあり方に注目しやすいと考えられる。 このような高校生の特徴が,アイデンティティ形成のあり 方に影響していることが推察される。 (2) 青年の自己表現と青年のアイデンティティ発達の関連 青年の自己表現を独立変数,青年のアイデンティティ得 点を従属変数とする一要因分散分析を行った。 結果より,青年が親に対して主張を示す場合,青年が親 に対して回避的態度をとる場合よりも,現実社会における 自己の感覚を確立している可能性が示唆された。しかしな がら,その他のアイデンティティ因子における有意差は示 されなかった。よって,仮説(6)「青年が主張と共感の両方 を示す場合,青年のアイデンティティ発達の度合いは高い」, 仮説(7)「青年が回避を示す場合,青年のアイデンティティ 発達の度合いは高い」は一部が支持される形となった。 このことから,大学生においては,青年の自己表現より も,親の態度の認知のあり方が,青年のアイデンティティ 発達と関連があることが示唆された。Blos(1962)が,青 年期中期では,青年が客観的に家族成員を評価するように なると指摘していることから,青年期中期にあたると考え られる大学生は,自身の自己表現よりも親の態度に注目し やすいと考えられる。このような大学生の特徴が,アイデ ンティティ形成のあり方に影響していることが推察される。 (4)高校生と大学生の比較 1)学校区分と親の態度の認知および青年の自己表現の関連 学校区分,親の態度の認知を独立変数,青年の自己表現 を従属変数とする二要因分散分析を行った結果,親が回避 的態度をとると青年が認知する場合,大学生が高校生より も親に対して共感性を発揮する傾向が高いことが示された。 親が回避的態度であると青年が認知する場合,親が主張 も共感も示さないと青年が捉えるため,親の感情や考えが 分かりにくいと考えられる。青年期中期では,青年が客観 的に家族成員を評価するようになる(Blos,1962)という 指摘のように,大学生は高校生に比して,親の態度を客観 的に捉え,親の言動の背景にある思いや考えを推察するこ とができると考えられる。それゆえに,大学生の場合,親 が青年の意思決定に積極的に関与してないと認知したとし ても,その背景にある親の肯定的な感情を推察し,親に対 して理解や感謝を示しやすくなることが示唆される。 また,自由記述からは,親が回避的態度をとると認知す る場合,高校生においては,「もう少し大学選びに助言して ほしい」と親の意見を求める感想や,「もっと自分の話を聞 いてほしい」と親の共感を求める感想が示された。他方, 大学生においては,「自分の考えを尊重してくれて嬉しい」 などの青年に選択を委ねる親の態度に対する感謝を示す感 想が多くみられた。高校生は,親からの自立が始まるもの の,経済的にも精神的にも親の庇護のものもとにあるため, 進路決定にあたっては,親からの主張や共感が必要になる と考えられる。他方,大学生は,親からの自立が進み,職 業選択や将来展望について自分の考えを確立していると推 察され,主張も共感も示さない親の態度に対して,自由に 選択させてくれると肯定的に認知する可能性が考えられる。 このような違いから,親の態度を回避的と認知する場合で も,大学生の方が親に共感性を示すやすいと推察される。 主要引用文献
Blos,P, 1962, On Adolescence. The Free Press., 野沢栄司訳,1971, 青年期 の精神医学,誠信書房
Condon, S.L., Cooper, C.R , & Grotevant, H .D , 1984 Manual for the analysis of family discourse . Psychologic adlocrtmen. No.2616. 白濵あかね,岩男尚美,古賀聡,印刷中a,進路相談場面のロールプレイン グを用いた親の態度に対する青年の認知についての検討,心理劇研究, 採択 白濵あかね,五位塚和也,江頭愛,古賀聡,印刷中b,進路選択における親 子間コミュニケーションと大学生のアイデンティティ形成および親子 関係認知の関連,九州大学心理学紀要,採択 高橋彩,2008,男子青年における進路選択時の親子間コミュニケーション とアイデンティティとの関連,パーソナリティ研究,16, 2, 159-170 谷冬彦,2001,青年期における同一性の感覚の構造-多次元自我同一性尺 度(MEIS)の作成-,教育心理学研究,49, 265-273 因子 青年の自己表現 N M SD F 多重比較 回避群 69 4.65 1.29 共感高群 56 5.05 1.43 主張高群 72 5.09 1.30 主張共感高群 87 5.11 1.21 回避群 69 4.11 1.22 共感高群 56 4.04 1.01 主張高群 72 4.26 1.13 主張共感高群 87 4.47 1.12 回避群 69 3.80 1.12 共感高群 56 4.06 1.12 主張高群 72 4.19 1.13 主張共感高群 87 4.13 .98 回避群 69 3.65 1.09 共感高群 56 4.28 1.13 主張高群 72 4.38 1.07 主張共感高群 87 4.36 .96 +:p < .10 対他的 同一性 1.88 心理社会的 同一性 2.54+ 回避 < 主張高,主張共感高 Table10 大学生における青年の自己表現による青年のMEIS得点の比較 自己 斉一性 2.05 対自的 同一性 2.17 高校 大学 高校 大学 高校 大学 高大 親の態度の認知 交互作用 回避群 53 66 3.19 3.26 .62 .64 主張高群 64 84 3.38 3.54 .61 .58 共感高群 41 74 3.28 3.38 .66 .74 主張共感高群 21 54 3.59 3.48 .55 .53 回避群 53 67 2.95 3.22 .53 .56 主張高群 64 84 3.59 3.50 .56 .64 共感高群 41 74 3.09 3.12 .50 .61 主張共感高群 21 54 3.73 3.67 .64 .49 Table11 学校区分と親の態度の認知および青年の自己表現の関連 **:p < .01,+:p < .10 SD F 4.42回避, 共感高, 主張高 < 主張共感高8.13** 回避 < 主張高 0.19 .39 回避, 主張高 < 共感高,主張共感高26.78** 回避群:高校<大学2.22+ 青年の 主張性 青年の 共感性 因子 親の態度の認知 N M