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研究論文 : 報告 RESEARCH REPORT Received April 27, 2011; Accepted January 12, 2012 研究論文 : 若年者に対するスヌーズレン空間の心理的 生理的効果の検討 Physiological and Psychological Effec

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要旨 本研究の目的は、若年者に対するスヌーズレン空間の効果に ついて心理的・生理的側面から検討し、建築デザインの中でス ヌーズレン空間をリラクセーションの場として取り入れる上で の基礎的知見を得ることである。T 高専の健康な学生 20 名を対 象とし、スヌーズレン空間外とスヌーズレン空間における被験 者の反応を比較した。その結果、以下のことが明らかになった。 スヌーズレン空間で過ごすことは、総合的な気分を改善させる 効果があり、とりわけ緊張感や抑うつ、疲労感を緩和させると いう気分の改善効果が期待できる。一方で、気分に及ぼす効果 はスヌーズレン空間の環境条件によって異なり、活気を下げる というマイナスの効果が生じることもある。また、スヌーズレ ン空間の視覚刺激系の設備・機器を操作し、環境条件を変化さ せることで、空間の印象に及ぼす心理的効果が大きく異なる。 以上より、若年者に対するスヌーズレン空間の効果の一端が明 らかになった。

Summary

The aim of this study is to investigate the psychological

and physiological effects of snoezelen rooms on young

people and to obtain basic knowledge when

incorporating these rooms as relaxation areas in

architectural design. The reactions of 20 student

subjects in the snoezelen room and outside it were

compared.The results are as follows.1)Spending time in

the snoezelen room has the effect of comprehensively

improving mood and, in particular, the effects of mood

improvement such as alleviating tension, depression

and fatigue can be expected. On the other hand, the

effects on mood differ depending on the environmental

conditions of the snoezelen room and negative effects

such as reducing energy can occur.2)By manipulating

visual stimulus-type facilities and equipment in the

snoezelen room and changing the environmental

conditions, the psychological effects that affect the

impression of the room differ greatly.

1.はじめに スヌーズレンは、さまざまな設備・機器を用いて、視覚・聴覚・嗅覚 などを心地よく刺激するスヌーズレン空間(多重感覚環境)を創り出し、 利用者の興味ある活動を引き出したり、リラックスを促したりする活動 である[注 1]。上記の活動・空間は、1970 年代にオランダにおいて、 重度知的障害者のためのレクレーションやレジャー活動のために開発さ れた。現在では、スヌーズレンは世界中に広がっており、知的障害者施 設や高齢者施設、特別支援学校、病院、個人宅などの様々なデザインの 中で取り入れられることが増えている。 また、スヌーズレンは、障害者や高齢者のみならず、健常者に対して も幅広く使われるようになりつつある。例えば、入院中の妊産婦が、不 安定な乳児に対して感情的になったり、疲労を感じたりした時に、院内 のスヌーズレン空間で落ち着いた時間を過ごすことで、精神状態をコン トロールするという用途でも活用されている事例もある[注 2]。上記 は、今後、一般の高校・大学などでもリラクセーションの場としてスヌ ーズレン空間を設置すれば、近年、大きな社会問題となっている思春期・ 青年期における抑うつの緩和や情緒を安定させるためにも有効に活用で きる可能性を示唆していると考えられる。 環境デザイン分野における既存研究としては、スヌーズレン空間の室 面積や設置機器等の実態調査[注3]や、空間の使われ方などに関する 事例研究[注 4]、生理的指標を用いてスヌーズレン空間のリラックス 効果について検証した研究[注5,6]などのいくつかの先行研究はある が、件数は少なくまだ始まったばかりであるといえる。 一方で、医療・福祉分野では豊富な研究の蓄積があり、スヌーズレン 空間の様々な効果の検証が行われている。例えば、スヌーズレン空間で の活動とジグソーパズルなどのゲームを行う活動の問題行動等の改善効 果を比較した研究[注7]や、いくつかのスヌーズレン設備・器具に対 する重度知的障害者の反応の違いを比較した研究[注 8]、認知症高齢 者の行動や感情、介護者とのコミュニケーションに及ぼす効果の検証[注 9,10]などの様々な研究が行われている。ただし、これらの研究対象は、 認知症高齢者や知的障害者がほとんどであり、一般の高校生・大学生な どの健康な若年者について言及したものは少ない。また、気分の主観的 側面の評価や空間に対する印象に及ぼす心理的効果などについて検討し たものはほとんど見られない。

若年者に対するスヌーズレン空間の心理的・生理的効果の検討

Physiological and Psychological Effects of Snoezelen room on Young Adults

● 西尾幸一郎 ● 秋本俊 ● 田中祐作 ● 松原斎樹

徳山工業高等専門学校 徳山工業高等専門学校 美建築設計事務所 京都府立大学

Nishio Koichiro Akimoto Syun Tanaka Yusaku Matsubara Naoki

Tokuyama College of Technology Tokuyama College of Technology Bi Architects Engineers Planners Kyoto Prefectural University

Key words : Snoezelen, Multi-sensory Stimulation, Architectural Design

研究論文:

Summary 要旨

研究論文: 報告 RESEARCH REPORT

Received April 27, 2011; Accepted January 12, 2012

若年者に対するスヌーズレン空間の心理的・生理的効果の検討

Physiological and Psychological Effects of Snoezelen Room on Young Adults

● 西尾幸一郎 ● 秋本俊 ● 田中祐作 ● 松原斎樹

徳山工業高等専門学校 徳山工業高等専門学校 美建築設計事務所 京都府立大学

Nishio Koichiro Akimoto Syun Tanaka Yusaku Matsubara Naoki

Tokuyama College of Technology Tokuyama College of Technology Bi Architects Engineers Planners

Kyoto Prefectural University ●Key words : Snoezelen, Multi-sensory Stimulation, Architectural Design

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以上のような視点をふまえた上で、本研究では若年者に対するスヌー ズレン空間の効果について心理的・生理的側面から検討し、建築デザイ ンの中でスヌーズレン空間をリラクセーションの場として取り入れる上 での基礎的知見を得ることを目的とする。また、若年者の空間内での過 ごし方と過ごしやすさの評価との関係等についても検討する。 2. 実験方法 2. 1. 被験者 調査の趣旨を説明し、実験の同意が得られた T 高専の健康な学生 20 名(男子10 名、女子10 名、平均年齢18.8 才)を被験者とした。なお、 被験者の選定に当たっては、過度の睡眠不足がない、身体的疲労がない 状態を条件とした。 2.2. 実験室の環境条件 実験室はS 支援学校のスヌーズレン空間(56.8 ㎡、図1)を使用した。 上記の空間に設けられている主な設備・機器は、表1に示す通りである。 これらの設備・機器を使用し、表1 に示す2つの環境条件A,B を設定し た。環境条件A では図1 に示す様々な視覚刺激系の設備・器具の電源を ON の状態にし、環境条件 B では OFF の状態とした。なお、実験室内の 照度はいずれも約 2lx(測定機器 TR-74Ui T&D 社製)、室内気温は 22 度(冬期)に設定した。 2.3. 実験手順 実験は、被験者 20 名を 5 名ずつの 4 群に割り当て、1 日に 1 群ずつ 実験を行った。実験の手順は、以下①~⑤に示すとおりである。 ①実験室に隣接する会議室(スヌーズレン空間外)において、口腔内の 清浄と乾燥緩和のための水分補給(約 100mℓ)を行い、5 分間安静状 態を保った。その後、その場での気分を評価する POMS の調査と唾液 アミラーゼ測定を行った。 ②スヌーズレン空間(環境条件A)に移動した。入室後の過ごし方につ いては、スヌーズレン空間のリラクセーション利用に近い形で評価 するために 15 分間の自由行動を指示した。その後、POMS の調査と SD 法による室内の印象評価、唾液アミラーゼの測定を行った。 ③会議室に移動し、5 分間休憩。 ④スヌーズレン空間(環境条件B)に移動し、15 分間の自由行動を指示 した。その後、POMS の調査とSD 法による室内の印象評価、唾液アミ ラーゼの測定を行った。 ⑤会議室に移動し、各環境条件における室内での過ごし方や環境条件A, B のいずれが好みかなどについて聞き取りによるアンケート調査を行 った。 なお、順序効果の影響を考慮し、被験者4 群うち2 群は②と④を入れ 替えて実施した。実験は 2010 年12 月~2011 年1 月に行った。 2.4. 測定項目 2.4.1. 心理的指標 各環境条件における被験者の気分の状態を把握するために、気分プロ フィールの測定用具として信頼性・妥当性が検証されており、環境心理 学分野の研究でも多く用いられている POMS(Profile of Mood States) を実施した[注11,12]。質問紙は日本語版 POMS 短縮版[注13]を用い た。POMS 短縮版は30 項目からなる自記式の問診票であり、被験者の一 時的な気分の状態を「緊張-不安(T-A)」「抑うつ-落ち込み(D)」「怒り -敵意(A-H)」「活気(V)」「疲労(F)」および「混乱(C)」の6つの尺度で 評価することができる。本稿では、全国平均を 50 点として換算する気 分プロフィール換算表を用い、各尺度のT 得点(標準化得点)を算出し た。また、活気以外の 5 尺度の得点の合計から活気得点を差し引いて、 総合的な気分を示す指標であるTDM(Total Mood Disturbance)得点 を算出した。 また、環境条件A,B に対する印象の違いを比較するため、SD 法によ る印象評価を行った。SD法の質問紙は20対の評価尺度により構成した。 評価尺度は、室内空間や休憩空間を対象とした既往の研究を参考に選定 した。各評定尺度について7 件法自己記入式により回答を求めた。 写真1 スヌーズレン空間 写真2 スヌーズレン関連の設備・機器 (右:光ファイバーストリングス、左:プロジェクタ) 図1 設備・機器プロット図 表1 主な設備・機器と本調査の環境条件 刺激区分 設備・機器 環境条件A 環境条件B 視覚刺激系 光ファイバーストリングス ○ - プロジェクタ ○ - ミラーボール ○ - 光るマット ○ - 天井照明(ダウンライト) - ○ 聴覚刺激系 オーディオ ○ ○ 触覚刺激系 ボールプール ○ ○ ビーズクッション ○ ○ 嗅覚刺激系 アロマテラピー(ラベンダー) ○ ○ 注)○:設備・機器を使用、-:設備・機器を使用せず

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2.4.2. 生理的指標 交感神経系の指標として唾液アミラーゼ活性を測定した。唾液アミラ ーゼ活性はストレスに過敏に反応し、定量的にストレス反応を評価する 指標として使用されており、唾液アミラーゼ活性値の低下はストレスの 減少を示すとされている[注 14,15]。測定には唾液アミラーゼモニタ ー(CM-2.1,ニプロ社)と上記のモニター専用のチップを使用した。 2.4.3. スヌーズレン空間での過ごし方や過ごしやすさ 実験終了後のアンケート調査により、スヌーズレン空間における各被 験者の過ごし方や環境条件 A,B のいずれが過ごしやすかったか、過ご しやすかった(にくかった)点などについて把握した。 3. 結果 3. 1. 心理的指標による評価の結果 3.1.1. POMS による気分の評価の結果 スヌーズレン空間外(会議室)と環境条件 A、B におけるTMD得点 の平均値を図 2 に示す。TMD得点は総合的な気分を示す指標であり、 得点が低いほど気分の状態が好ましいとされる。スヌーズレン空間外が 17.7 であるのに対し、環境条件A は3.9、環境条件B は7.5 と低くなり、 スヌーズレン環境内外で有意差がみられた(p<0.01)。これらからスヌ ーズレン空間には総合的な気分の状態を改善させる効果があることが推 察される。 また、各環境における 6 尺度の T 得点の平均値を表 2、図 3 に示す。 なお、各尺度のT 得点は、活気の尺度は高いほど、その他の尺度では低 いほど良いとされている。 尺度別にみると「緊張-不安」はスヌーズレン空間外が 51.7 である のに対し、環境条件A は37.2、環境条件B は 39.2 と低くなり、スヌー ズレン環境内外で有意差がみられた(p<0.01)。「抑うつ-落ち込み」 は、スヌーズレン空間外が 45.5 であるのに対し、環境条件 A42.3、環 境条件B41.6 と低くなり、スヌーズレン空間内外で有意差がみられた(p <0.05)。「怒り-敵意」は、スヌーズレン空間外と比べて、環境条件A、 環境条件B は低くなっているが、スヌーズレン空間内外で有意差はみら れなかった。「活気」では、環境条件Bが最も高くなった。スヌーズレ ン空間内外で有意差はみられなかったが、環境条件B の間で10%水準の 有意な傾向がみられた。また、環境条件 A、B の間で有意差がみられた (p<0.01)。「疲労」はスヌーズレン空間外が 46.8 であるのに対し、環 境条件A は38.7、環境条件B は39.5 と低くなり、スヌーズレン空間内 外で有意差がみられた(p<0.01)。「混乱」は、スヌーズレン空間外と 比べて、環境条件A、環境条件B は低くなった。スヌーズレン内外で有 意差はみられなかったが、スヌーズレン空間外と環境条件A の間で10% 水準の有意な傾向がみられた。 これらの結果から、スヌーズレン空間には気分をリラックスさせ、心 理的な緊張を和らげたり、落ち込んだ気分や疲労感を緩和させたりする 効果があることが示唆された。一方で、気分に及ぼす効果はスヌーズレ ン空間の環境条件によって異なり、活気を下げるというマイナスの効果 が生じる場合もあることが示唆された。 表2 各尺度のT 得点(平均値±標準偏差) 緊張・不安 抑うつ・落ち込み 怒り・敵意 活気 疲労 混乱 スヌーズレン空間外 51.7±13.9 45.5±6.4 39.0±2.9 39.9±10.4 46.8±7.8 49.3±10.5 環境条件A 37.2±6.5 42.3±5.3 37.7±1.6 40.6±10.2 38.7±4.3 45.5±6.9 環境条件B 39.2±7.9 41.6±3.9 37.8±2.6 35.0±10.3 39.5±4.4 46.8±5.8

図3 各尺度のT 得点平均値 図2 各環境におけるTMD得点の平均値

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3.1.2. SD 法による印象の評価の結果 図 4 に環境条件 A、B に対する印象評価の結果をプロフィールで示し た。白丸が環境条件A、黒丸が環境条件B である。形容詞対は概ね左側 にポジティブなイメージのものを配置した。 プロフィール全体を見ると、環境条件A はほとんどの項目で中央値よ りも左側に位置していることから、概ねポジティブなイメージであると いえる。「居心地の良い」という印象評価が高く、加えて「変化に富ん だ」、「個性的な」という視覚刺激系の設備・機器の特徴に関わる評価が 高かった。それに対して、環境条件B は中央値よりも右側に位置してい るものが 10 項目あり、全体にややネガティブからニュートラルなイメ ージであるといえる。「落ち着きのある」「ストレスを感じない」という 印象評価が高いが、一方で、「平静な」「暗い」「地味な」空間であると も評された。 次に、各条件の印象に統計的な違いが見られるか調べるためにt-検 定を行った。その結果、「居心地の良い-居心地の悪い」、「変化に富ん だ-変化のない」、「平静な-刺激的な」、「個性的な-平凡な」、「元気が 出る-疲れる」、「明るい-暗い」、「暖かい-冷たい」、「楽しい-つまら ない」、「開放的な-つまらない」、「親しみやすい-親しみにくい」、「派 手な-地味な」、「豪華な-質素な」の12 項目で5%または1%水準の有 意差がみられた。また、「好きな-嫌いな」、「落ち着きのある-落ち着 きのない」の2 項目で10%水準の有意な傾向がみられた。 これらの結果から、スヌーズレン空間の視覚刺激系の設備・機器を操 作し、その環境条件を変化させることにより、印象に及ぼす効果が大き く異なることが示された。 3. 2. 生理的指標による評価の結果 スヌーズレン空間外と環境条件 A、B における唾液アミラーゼ活性値 は図5 に示す通りである。なお、唾液アミラーゼ活性値が 30kIU/L 以下 であるとストレスのあまりない状態であるとされている。 各条件における平均値はいずれも24kIU/L 程度であり、いずれもスト レスのあまりない状態であるといえる。ただし、スヌーズレン空間内外 で有意な差異は認められず、スヌーズレン空間の生理的効果は実証でき なかった。 3. 3. スヌーズレン空間での過ごし方と過ごしやすさ 3.3.1. スヌーズレン空間での過ごし方 図 6 は、環境条件 A,B における被験者の主な過ごし方について聞い た結果を示したものである。環境条件A では「室内の様子を眺めていた」 が 75.0%と最も多く、加えて「ボールプールで遊んでいた」、「他の被 験者と話していた」、「室内をウロウロと歩き回っていた」などのように 動的な過ごし方をしていたとする回答が多かった。それに対して、環境 条件 B では「眠っていた」という回答が 95.0%と最も多く、静的な過 ごし方をしていた被験者が多かった。このことから、環境条件によって 被験者の室内での過ごし方が大きく異なることが示された。 3.3.2. スヌーズレン空間の過ごしやすさ 図 7 は、被験者に環境条件 A,B のいずれが過ごしやすかったと思う か聞いた結果を示したものである。環境条件A が過ごしやすかったと回 答した人が全体の 60%、環境条件 B が過ごしやすかったと回答した人 は 35%となり、環境条件 A の方が過ごしやすかったと回答した人が多 かった。 図4 各項目の評定平均値 図5 各環境における唾液アミラーゼ活性値(平均値±標準偏差) 図6 スヌーズレン空間での過ごし方(MA)

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各環境条件について過ごしやすかった点について聞いたところ(図8)、 環境条件A では「光がきれいだった」とする回答が75.0%と最も多く、 次いで「他の人と話しやすかった」、「時間が短く感じた」、「元気が出た」 などの回答が多かった。また、環境条件B では「真っ暗で落ち着いた」 とする回答が 85.7%と最も多く、次いで「眠りやすかった」、「他人の 視線が気にならなかった」とする回答が多かった。 一方で、過ごしにくかった点について聞いたところ(図 9)、環境条 件A では「音が気になった」や「光が気になった」という聴覚・視覚刺 激に対する不快感に関わる回答が多かった。それに対して、環境条件B では「退屈だった」や「時間が長く感じた」とする回答が多かった。 図 10 は、環境条件 A での過ごし方と過ごしやすさの評価との関係を 示したものである。環境条件Aが過ごしやすかったとした被験者群では、 他の被験者と話したり、室内をウロウロと歩き回ったりするなどのよう に動的な過ごし方をしていたとする回答が多かった。それに対して、環 境条件B が過ごしやすかったとした被験者群では、眠っていたとする回 答が多かった。 図 11 は、環境条件 B での過ごし方と過ごしやすさの評価との関係を 示したものである。環境条件Bが過ごしやすかったとした被験者群では、 室内の様子を眺めていたとする回答が少なかった。 このことから被験者の過ごしやすさの評価は、各環境条件における過 ごし方とも関係していることが伺えた。 4.考察 4. 1. スヌーズレン空間の心理的効果について スヌーズレン空間で過ごすことによって若年者の気分の状態がどのよ うに変化するかについて POMS を用いて評価をおこなった。その結果、 いずれの環境条件においても、スヌーズレン空間入室後に、総合的な気 分の状態を示すTMD得点が有意に低下し、尺度別にみると「緊張-不 安」や「抑うつ-落ち込み」、「疲労」が有意に低下した。一方で、気分 に及ぼす効果はスヌーズレン空間の環境条件によって異なり、「活気」 を下げるというマイナスの効果が生じることもあることも示された。既 存研究によって認知症高齢者や重度知的障害者を落ち着かせる[注9,17] などの気分の改善効果が認められているが、本実験により、スヌーズレ ン空間で過ごすことは、認知症高齢者・障害者のみならず、健康な若年 者に対する気分の改善効果も期待できることが示唆された。また、既存 研究のほとんどがスヌーズレン空間の利用者に対して専門のスタッフが 付きそう場合について検討されているが、若年者では専門のスタッフが いない場合でも効果が期待できる可能性が示された。 SD 法による空間の印象評価では、視覚刺激系の設備・機器を多用し た環境条件A の方が、環境条件B と比べて、全体的にポジティブな評価 がされており、「居心地の良い-居心地の悪い」、「元気が出る-疲れる」、 「楽しい-つまらない」などの 12 項目で有意差が認められた。このこ とから、スヌーズレン空間の視覚刺激系の設備・機器を操作し、環境条 件を変化させることで、空間の印象に及ぼす心理的効果が大きく異なる ことが示された。 4. 2. スヌーズレン空間の生理的効果について Takeda ら[注 16]による重症心身障害者を対象とした実験では、ス ヌーズレン空間入室前後で唾液アミラーゼ活性値が有意に低下すること を認めている。一方で、健康な若年者を対象とした今回の実験では、い ずれの環境条件においてもスヌーズレン空間入室前後でほとんど変化は 認められず、交感神経系の変化に至る作用は示さなかった。このことか 図8 各条件について過ごしやすかった点(MA) 図9 各条件について過ごしにくかった点(MA) 図10 環境条件A における過ごし方と過ごしやすさの評価との関係 図11 環境条件B における過ごし方と過ごしやすさの評価との関係 図7 スヌーズレン空間での過ごしやすさ(SA)

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ら、若年者に関してはスヌーズレン空間が生体に与える影響は少ないと いう可能性が考えられる。ただし、Takeda の実験で被験者となった重 症心身障害者は、スヌーズレン空間の入室前の時点で平均 74 kIU/L 程 度と高い値を示しているのに対して、今回の実験で被験者となった若年 者は平均24kIU/L程度とストレスの低い状態であったことも影響してい る可能性がある。今回の実験で 50 kIU/L とストレスの高い被験者が 2 名いたが、いずれも入室後に値が20~30 kIU/L 低下していたことから、 若年者に対してスヌーズレン空間の生体に与える効果については、今後、 被験者のスヌーズレン空間入室前のストレスの度合いの差異による作用 についても検討する必要がある。 4. 3. スヌーズレン空間での過ごし方や過ごしやすさについて スヌーズレン空間における被験者の過ごし方は、環境条件によって大 きな違いが見られ、視覚刺激系の設備・機器を多用した環境条件Aでは、 環境条件B と比べて、ボールポールで遊ぶ・他の被験者と話すなどの動 的な過ごし方がされている場合が多かった。また、過ごしやすさの評価 も高かった。Johnny ら[注8]による重度知的障害者を対象とした実験 の結果、聴覚・視覚刺激系の設備・機器よりも、視覚刺激系の設備・機 器の方がより多くの関心を引き、反応が大きかったことを報告している。 このことから、若年者の動的な過ごし方を引き出す上でも視覚刺激系の 設備・機器は有効である可能性が示唆された。 5.おわりに 健康な若年者がスヌーズレン空間で過ごすことによる生理的効果は実 証できなかったが、緊張感や抑うつ、疲労感を緩和させるなどの心理的 効果などが期待できることが示された。今後は、スヌーズレン空間入室 前のストレスの度合いの差異や、性格傾向と心理的・生理的効果の関係 性などについても明らかにしていきたい。 謝辞 本調査に御協力いただきました周南総合支援学校の吉成教諭並びに教 職員の皆様、徳山高専の学生諸氏に厚く御礼申し上げます。 参考文献 1) クリスタ・マーテンス,姉崎弘訳:スヌーズレンの基礎理 念と実際-心を癒す多重感覚環境の世界-,大学教育出版, 2009

2) Yvonne L Hauck et al.:A qualitative study of Western Australian women’s perceptions of using a Snoezlen room for breastfeeding durling their postpartum hospital stay, International Breastfeeding Journal,3:20,1-9,2008 3) 山口有次,横田善夫,渡辺仁史:スヌーズレン空間に関す る建築計画的研究,日本建築学会学術講演梗概集,415-416, 2004 4) 玉井麻美,西尾幸一郎,水野弘之:知的障害者施設におけ るスヌーズレン空間づくりとその効果に関するケーススタデ ィ,日本建築学会近畿支部研究報告集,第 43 号,197-200、 2003 5) 加藤英理子,長澤夏子,渡辺仁史:空間刺激としてのスヌ ーズレンの効果に関する研究,日本建築学会関東支部研究報 告集,561-564,2005 6) 都島有美,末廣香織:感覚を援助するスヌーズレン空間の 健常者に対する効果について,日本建築学会九州支部研究報 告,第 45 号,125-128,2006

7) Roger Baker et al.:A randomized controlled trial of the effects of multi-sensory stimulation (MSS) for people with dementia,Journal of Clinical Psychology,40,81-96, 2001

8) Johnny L. Matson et al. : An analysis of Snoezelen equipment to reinforce persons with severe or profound mental retardation , Reserch in Developmental Disabilities,25,89-95,2004

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10) Julia C.M et al.:Effects of snoezlen, integrated in 24h dementia care, on nurse-patient communication durind morning care, Patient Education and Counseling , 58, 312-326,2005 11)大石康彦,金濱聖子,比屋根哲,田口春孝:森林空間が人 に与えるイメージと気分の比較-POMS および SD 法を用いた 森林環境評価-,日本林學會誌,85(1) ,70-77,2003 12)齋藤ゆみ,西巻優,辰巳尚隆,小野さや香,木下美絵,笹 山哲,齋藤邦明:木質空間およびビニル空間における疲労・ ストレスの緩和効果 生化学的・心理学的指標による比較, 木材学会誌,55(2),101-107,2009 13)横山和仁:POMS 短縮版手引と事例解説,金子書房,2005 14)山口昌樹,金森貴裕,金丸正史,水野康文,吉田博:唾液 アミラーゼ活性はストレス推定の指標になり得るか,医用電 子と生体工学,39(3) ,234-239,2001 15)山口昌樹:唾液マーカーでストレスを測る,日本薬理学雑 誌,129(2) ,80-84,2007

16)Kazunori Takeda et al.:Correlation of salivary amylase activity with eustress in patients with severe motor and intellectual disabilities, The Japanese Association of Special Education,45(6),447-457,2008

17)Martin N.T et al. : Behavioural effect of long-term multi-sensory stimulation,British Jornal of clinical psychology,37,69-82,1998

参照

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