昭和戦前期綴方教育史の研究
一雑誌「教育・国語教育J を中心として一
教科・領域教育専攻 言語系(国語)コース 木 村 江 里
1 研究の目的と方法
昭和戦前期の綴方教育は,それまでに生まれ 育ってきた作文・綴方教育観を踏まえ,さらに 深化あるいは新しく生まれた理論・実践が数多 くある「わが国の作文教育の興隆期あるいは充 実期」であったとされている。この時代の綴方 教育理論がどのように生まれ育ってきたのか,
その歴史を研究することで,どのような綴方教 育の目的や指導法等があったのかを明らかに し,今後の国語教育の実践に役立てようとする ことが本研究の自的である。
以上の目的のために,昭和戦前期の綴方教育 の理論や実践を分析する基本資料として,昭和 6年に創刊された全国誌「教育・国語教育J(千 葉春雄主幹)をとりあげて考察した。
2 論文の構成
本論文は,序章と結章,及び次の三つの章で 構成する。
第1章 雑 誌 「 教 育 ・ 国 語 教 育Jの創刊事情 第1節 雑 誌 「 教 育 ・ 国 語 教 育J創刊までの
作文・綴方教育史概要
第2節 雑 誌 「 教 育 ・ 国 語 教 育Jの創刊 第2章 雑 誌 「 教 育 ・ 国 語 教 育J の特色と綴方
教育理論の展開
第1節 特集・小特集からみる雑誌 f教育・
国語教育」の特色
第2節雑誌「教育・国語教育」で展開され
指導教員 村 井 万 里 子
た綴方教育の理論
第3章 雑 誌 「 教 育 ・ 国 語 教 育J を中心にみる 綴方教育の理論と実践
第1節 千葉春雄の綴方教育理論 第2節 木 村 寿 の 綴 方 教 育 実 践 3 論文の概要
第1章第1節では,明治から本誌が創刊され る昭和戦前までの綴方教育の歴史を概観した。
昭和に入る頃には,随意選題による綴方,課題 主義による綴方,雑誌「赤い鳥J綴方などが実 践されていた。昭和初めにかけての不況や恐慌 が子どもの生活に影響を及ぼしていく中,綴る ことを通して生活を意欲的に高め生きていく力 を養っていくことの必要を訴え実践され始めた のが生活綴方であるo 本誌はまさに生活綴方運 動の真っ只中に発行され続けた雑誌である。
第2節では,雑誌「教育・国語教育Jの先行 研究を確認し,創刊意図を明らかにした口本誌 主幹の千葉春雄は,国語教育を教育全体から考 えることの必要を説き,社会や教育思潮,直面 している事実や問題をよく見極め,本誌をもっ て各地域の実情に即した自己の主張を発信・交 流する場にしようと考え本誌を創刊した。
第2章第1節では,本誌を三つの編集期に分 類し,綴方教育に関する特集・小特集を中心に,
それぞれの編集期の特色を明らかにした。
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第 2節では,本誌の綴方教育論考の主な執筆 者は高師系訪日導と,雑誌「綴方生活J,
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北方教 育J,r
国・語・人jの同人や執筆者である,生 活綴方運動の中心的役割を担っていた地方の公 立小学校教師たちであることを明らかにした。これらの人々が 本誌でどのように綴方教育に 関する問題に取り組み,議論していったかをま と め た 。 特 に 千 葉 春 雄 編 集 期 に は 科 学 的 綴 方J
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調べる綴方Jr
実用的綴方Jr
郷土主義綴 方Jr
リアリズム綴方Jr
働く綴方J等の綴方教 育理論が展開された。これらは児童の実態から 綴方教育理論を構築し実践していったものであ る。よって,生活の「何Jを対象に,それを「ど のような方法Jで「どのようにj捉えるか,児 童文をどのように評価するか等を定義すること は困難である。本誌は,特に調べる綴方の理論 と実践の構築に尽力し,誌上では生活指導と表 現指導の重視,綴方科の独自性,綴方の地方性 等について繰り返し議論された。第3章では,個人の綴方教育の理論と実践に 焦点を当て考察した。第 1節では,千葉春雄の 綴方教育理論を考察した。千葉は児童文の観方 の研究こそが最も重要な教師の研究課題だと
し,千葉が主張した児童文の観方の観点を明ら かにした。「自j のみの文が正しい文であり,
形式主義的な文の観方から完全に解放されるこ と,四つの絶対的価値「個性的力量J
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環境的 力量Jr
年次的特色Jr
社会的関心Jの発現の有 無を文全体から観ることを,児童文の観方の観 点として主張した。さらに,文集の教育的意義 を高く評価した千葉はその観方の研究を生か し,本誌「文集談議jにおいて文集を紹介・批 評することで,文集製作活動を推進していった。その中で,特に「調べる綴方j を推進し,生活 を正しく認識し生活に生かしていくことのでき
る力を綴方で養わなければならないとし,生活 重視の考えを尊重した。
第 2節では,千葉春雄が高く評価した宮崎県 の綴方教師・木村寿の実践について考察した白 木村は児童の生活調査をし続けることで,児童 観や教材観,児童文の観方の研究等に生かして いった。調べる綴方の実践では,児童の「生活 に役立つものJ
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生活に学び得るもの」を身近 な事象から調べさせ綴ることで,生活を正しく 認識させ,生活をよくしようとした。指導方法 の特徴として,綴方学習計画を個人別に作成し たり,心を調べる綴方,共同製作の調べる綴方 などを実践したりした。児童に目的や調べる対 象とその方法を自ら体験させた後,学級で話し 合い,相互学習させた。それは,目的を持って 調べさせ,調べて知識を得るだけでなく,学び、方を学ばせ,調べることを通して行動的で積極 的な態度を育成する木村の生活指導観が表れて いた。また,木村の学級文集『光』は,当時,
全国的に高く評価されていた。木村は文集に,
創作心や読書欲を増進させる文集,表現生活へ 誘い生活を見る目を聞かせ,生活の知性を養う 生活読本としての性格を文集組織に取り入れ た。児童の日々変わりゆく生活の軌跡,学習記 録を文集として残すため,できるだけ数多く文 集を製作し,児童に提供し続けた。
4 今後の課題
「目の前の児童のためにどういう力をつけて いったらよいかJということに教師たちが必死 で取り組んで、いく過程やその方法等を,この歴 史研究を通して学ぶことができた。この先達の 遺産をしっかりと受け継ぎ,私自身のこれから の教師としての実践に生かしていきたい。また,
実践を積み重ねていくことによって,私自身の 実践理論を樹立したい。
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