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木 村 絵 里 子

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Academic year: 2021

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氏 名 学 位 の 種 類 学 位 記 の 番 号 学 位 授 与 年 月 日 学 位 授 与 の 条 件 学 位 論 文 題 目

論 文 審 査 委 員

木 村 絵 里 子 博 士 ( 学 術 ) 甲 第 195 号

2016( 平 成 28) 年 9 月 14 日 学 位 規 則 第 4 条 第 1 項 該 当

‹女 性 美 ›の 歴 史 社 会 学 ― 1880 年 か ら 1930 年 ま で の 近 代 性 の 位 相

主 査 遠 藤 知 巳 ( 現 代 社 会 論 専 攻 教 授 ) 副 査 成 田 龍 一 ( 現 代 社 会 論 専 攻 教 授 ) 副 査 田 中 大 介 ( 現 代 社 会 論 専 攻 講 師 )

副 査 品 田 知 美 ( 城 西 国 際 大 学 福 祉 総 合 学 部 准 教 授 ) 副 査 野 上 元 ( 筑 波 大 学 人 文 社 会 系 准 教 授 )

論 文 の 内 容 の 要 旨

本 論 文 は、1880 年 から 1930 年 までに焦 点 を当 て、‹女 性 美 ›と諸 要 素 間 の影 響 関 係 に ついて、歴 史 社 会 学 、とりわけ言 説 分 析 的 手 法 を用 いて接 近 することを目 的 とする。それは、

これまで自 明 であり、かつ歴 史 を欠 いていると考 えられてきた‹女 性 美 ›というそれそのものが、

いかに近 代 において成 立 したのかを明 らかにするための試 みである。また本 論 の各 章 で取 り 上 げる多 様 な要 素 に関 わる言 説 は、制 度 や装 置 としての‹女 性 美 ›を成 立 せしめるための歴 史 的 な諸 条 件 となる。

第 1 章 (「『東 京 百 美 人 』という経 験 ――19 世 紀 末 における『美 人 写 真 』と『芸 妓 』」)では、

‹女 性 美 ›を女 性 の写 真 を「見 る」という経 験 との関 わりのなかで考 察 した。「芸 妓 」という特 定

の身 分 の女 性 を被 写 体 とする写 真 を掲 げた 1891[明 治 24]年 の「東 京 百 美 人 」展 は、「美 人

写 真 」というものが生 まれ、かつ「美 人 」という見 方 が成 立 する重 要 な契 機 であった。だが、明

治 期 においてよく知 られた文 化 現 象 であるこの「美 人 写 真 」は、これまでもともと芸 妓 が容 姿

を高 く評 価 される職 業 であり、かつ「美 人 」であったために、こうした写 真 の被 写 体 へとなるに

至 っ たという 風 に 解 釈 が なさ れて きた。しか し、 こ う した見 方 は 、 やは り 現 代 的 な 女 性 と「 美 」

の関 係 性 を 自 明 視 したところから発 生 するもので ある。そうで はなく、写 真 というメディアによ

ってイメージとして切 り取 られ、芸 妓 評 判 記 に記 述 されていたような花 柳 界 という場 と密 接 に

関 連 していた芸 妓 に対 する多 様 かつ包 括 的 な評 価 がそぎ落 とされたときに、(一 部 の)芸 妓

が、はじめて容 姿 のみが高 く評 価 されるようになったのである。さらにこの「美 人 」は「芸 妓 」に

限 定 されており、そのなかには、芸 妓 以 外 の女 性 が含 まれていないということも指 摘 しておか

ねばならない。芸 妓 以 外 の女 性 が「美 人 写 真 」のなかに加 わるためには、家 号 や源 氏 名 とは

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異 なる情 報 が別 の形 で付 与 される必 要 があった。

また「東 京 百 美 人 」展 では、花 柳 界 といういわばウラの世 界 に属 す女 性 を「覗 き見 」し、そ れを所 有 したいという欲 望 が同 時 に働 いていたのだが、それを可 能 にしたのが写 真 という形 態 であったのである。この「美 人 写 真 」は、遊 女 などの「美 人 」を描 いた近 世 の浮 世 絵 との違 いから「美 人 」という言 葉 へと我 々を注 視 させた。すなわち、前 者 では豪 華 な装 いや身 のこな し、そして場 によって表 現 される「風 情 」に、後 者 では統 制 された写 真 の構 図 が示 す「美 しい」

「顔 」にそれが表 現 されている。「美 人 写 真 」とは、自 律 した形 における「美 しい外 貌 (顔 )」と いうものを可 視 化 させたが、それをきっかけにして、外 貌 に「内 面 性 」を読 み取 ろうとする試 み と、美 しい外 貌 の形 態 そのもの、つまり「美 人 」の標 準 と偏 差 を言 語 化 する試 みという二 つの 様 式 が出 現 し、ここから、この後 にみられた、ある種 の混 乱 を伴 う「美 人 論 」の系 譜 ともいうべ きものが始 まっていた。

第 2章 (「衛 生 学 における‹皮 膚 ›へのまなざし」)では、近 世 より続 いている日 本 社 会 にお ける肌 の「色 の白 さ」の価 値 とその変 容 について着 目 した。 近 世 におい ては、『都 風 俗 化 粧 伝 』の記 述 にみられたように「色 の白 さ」は、「化 粧

け わ い

」あるいは「徳 容 」のなかに包 摂 されていた が、 西 洋 か ら の 衛 生 学 の 知 の 流 入 に より 、 その 知 覚 に 決 定 的 な 変 換 が も たら さ れ、< 皮 膚 >

が分 節 化 された。1900 年 前 後 における一 般 の家 庭 向 けの通 俗 的 な衛 生 書 では、とくに‹皮 膚 ›の衛 生 が重 視 されていたのだが、それは美 容 法 へと少 しずつ移 行 していく。‹皮 膚 ›の衛 生 法 では、「色 の白 さ」は必 ずしも重 視 されておらず、有 害 な白 色 薬 や白 粉 の使 用 を禁 じ、

その代 わりに 、「外 面 」に影 響 を 与 え る健 康 な 身 体 と気 高 く 優 美 な 精 神 を保 つこ とを 要 請 し た。だが、女 性 向 けの雑 誌 『女 学 世 界 』のなかでその‹皮 膚 ›の衛 生 法 が語 られ始 めると、衛 生 学 的 な「美 しい皮 膚 」の見 方 に対 して、読 者 は異 議 を申 し立 てている。そこでは確 かに女 性 たちの間 に「美 」に対 する自 意 識 が立 ち上 がっている。ここでいう「美 」とは、獲 得 するのが 困 難 なものとして捉 えられると同 時 に、化 粧 品 などの商 品 を通 じて獲 得 できると信 じられてい るものである。こうした‹美 ›の価 値 の高 まりとともに、‹皮 膚 ›は資 本 と化 し、おびただしい言 葉 が 費 や さ れてい く。 衛 生 学 ・ 科 学 的 な 知 を ‹美 › を 体 現 す る 方 法 の なか に 組 み 込 む こ とで 商 品 化 された「美 顔 術 」もそのひとつである。あいかわらず「色 の白 さ」に対 する価 値 は、近 世 か ら継 続 しているようにみえるのだが、衛 生 学 の知 を経 由 したことで美 容 法 、化 粧 法 ともに、生 身 の‹肌 ›への志 向 が強 まり、近 世 的 な「化 粧

け わ い

」からは遠 ざかっていく。

第 3 章 ( 「 化 粧 品 広 告 か ら み る『 女 学 世 界 』の 変 容 」 ) で は 、『 女 学 世 界 』 ( 1901 -1925) と いうという「女 学 生 」年 代 向 けの雑 誌 メディアと同 誌 に掲 載 された化 粧 品 広 告 に目 を向 けな がら、雑 誌 そのものの変 容 を描 いた。とりわけ注 目 すべきは、誌 面 の記 事 を装 う化 粧 品 の記 事 風 広 告 が登 場 したことであり、それは誌 面 にも侵 食 し、同 誌 を貫 いていた啓 蒙 の論 理 が、

徐 々 に 資 本 の 論 理 に 組 み 込 ま れつ つ あっ た。 記 事 風 広 告 で は 、 消 費 者 とし て の 読 者 を 主

役 に据 える形 でストーリーが展 開 されるが、こうした形 式 の広 告 が『女 学 世 界 』において比 較

的 早 い時 期 にみられたのは、同 誌 が読 者 の投 稿 文 や手 記 を積 極 的 に誌 面 で取 り上 げてい

たからである。化 粧 品 の記 事 風 広 告 は、とくに読 者 の投 稿 文 に綴 られた「美 」への欲 望 を積

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極 的 に掬 いあげることで読 者 の生 活 のなかへうまく滑 りこんでいった。他 方 で化 粧 品 とよく似 た美 容 薬 があったことも指 摘 したが、この記 事 風 広 告 の形 式 こそが、美 容 薬 と比 して化 粧 品 が‹女 性 美 ›を構 成 する商 品 として優 越 していくきっかけを与 えたのである。ただし、『女 学 世 界 』は、資 本 の論 理 に侵 食 されつつも、結 局 のところ、それが全 面 を覆 うまでには至 らなかっ たのだが、このせめぎ合 いこそが明 治 期 から大 正 期 にかけて発 刊 された女 性 雑 誌 の特 徴 の ひとつだといえよう。

第 4 章 (「 資 本 としての ‹女 性 美 ›」) では、 第 1 章 で 触 れた「 美 人 論 」のその 後 の 展 開 に つ いて『女 学 世 界 』(1901[明 治 34]年 創 刊 、博 文 館 )と『婦 人 世 界 』(1906[明 治 39]年 創 刊 、実 業 之 日 本 社 )のなかの記 述 を比 較 しながら、その変 容 を辿 ることを試 みた。まず『女 学 世 界 』 では、「美 人 罪 悪 論 」や「表 情 論 」として展 開 されており、これらは自 律 した形 における「外 面 の美 」を否 定 し、「内 面 の美 」を強 調 することで成 り立 っていた。それは良 妻 賢 母 思 想 に基 づ く女 子 教 育 を推 進 する雑 誌 メディアにおける、いわば女 学 的 な作 法 であった。逆 にそうせざ るを 得 な いほ どに、やはり このとき、「 美 人 」が「 芸 妓 」の「外 貌 」 を指 し 示 す 言 葉 で あっ たこ と がわかる。しかし、それは近 代 における‹女 性 美 ›に関 する語 られ方 の全 域 を示 すほどの厚 み はなく、『女 学 世 界 』とほぼ同 時 期 に刊 行 された『婦 人 世 界 』では、「美 人 」=「芸 妓 」とする見 方 や 、 当 然 「 美 人 」 を 罪 悪 視 す る見 方 も み ら れな い 。 同 誌 で は、 芸 妓 以 外 に も 多 様 な 女 性 が「美 人 」として位 置 づけられており、「内 面 /外 面 」という二 項 対 立 も曖 昧 になっている。ま た配 偶 者 選 択 の基 準 、あるいはセクシュアルな魅 力 としての「美 」についても言 及 されており、

「外 面 の美 」そのものを論 じる「美 人 論 」へと変 貌 を遂 げている。こうした過 程 から読 み取 れる のは、先 の『女 学 世 界 』の「美 人 論 」が、成 立 しつつあった資 本 としての「美 」をあえて否 定 し、

不 在 とする論 理 であったということである。一 方 、<女 性 美 >における外 面 の魅 力 と、それに対 するまなざしは、『婦 人 世 界 』に掲 載 された女 性 の「見 合 い写 真 」に鮮 鋭 に現 れている。「見 られる存 在 」である被 写 体 の女 性 たちが「外 面 の美 」と格 闘 し始 めたのは、「美 」へのまなざし が拡 散 し 偶 発 性 に 満 ち たもので、か つ結 婚 とい う 女 性 の 運 命 を切 り 開 く 可 能 性 を 備 え た資 本 と 化 し て い るか ら で あっ た。 配 偶 者 選 択 の 基 準 とし て の 「 美 」 を 語 り 、 そ し 誌 上 の 「 見 合 い 写 真 」をまなざすのは、主 として男 性 であり、多 様 な<女 性 美 >も、実 は男 性 の視 点 によってカ テゴライズされたものにほかならない。ここにおける「美 」は、「内 面 」に対 する関 心 もかなり薄 く、

「外 面 の美 」をめぐる明 らかなジェンダーの非 対 称 性 を確 認 し得 る。ただし、それも事 態 の半 面 でしかないことを第 5章 で取 り上 げた衣 服 の流 行 に関 する記 述 は示 している。

第 5章 (「衣 服 の流 行 の語 られ方 」)では、衣 服 を通 しての「外 見 」が、再 び「内 面 」に近 似 す るもの との 結 び 付 きを 見 せ て い た。 第 5 章 で も 、 先 の 第 4 章 と 同 様 に 『 女 学 世 界 』 と『 婦 人 世 界 』における衣 服 の流 行 の記 述 のされ方 の違 いを比 較 した。まず『女 学 世 界 』に記 述 され た流 行 では、「女 学 生 スタイル」と「芸 妓 の装 い」が模 倣 され広 がっていくさまが確 認 された。

衣 服 におけるコードが流 動 化 するこれらの流 行 は、後 の「モダンガール」のような「洋 装 化 」と

は 別 の 「 衣 服 の 近 代 化 」 の 様 相 を 呈 し て い る 。 だ が 、 こ う し た 個 人 ・ 社 会 的 属 性 と 装 い の 切

断 は、やはり流 行 に対 する批 判 を招 き、ここでも女 学 的 な作 法 によって身 分 に応 じた服 装 の

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規 制 が強 化 されていった。一 方 、『婦 人 世 界 』では、流 行 案 内 の記 事 などで積 極 的 に衣 服 の流 行 現 象 が取 り上 げられていたのだが、やはり『婦 人 世 界 』でも、流 行 に対 する批 判 が誌 面 のなかに混 在 しており、消 失 しつつあった年 齢 や身 分 に応 じた装 いが要 請 されたのである。

この並 存 状 態 は、装 いのコードにおいて近 世 を知 る者 と知 らぬ者 、あるいは新 たな運 動 を知 る者 と知 らぬ 者 との 間 のせめぎ合 い を示 しており、ある種 の衣 服 が属 性 か ら切 り 離 されつつ あったこの時 期 特 有 のものである。ただし、この流 行 案 内 と流 行 批 判 は、それぞれが別 の主 張 を行 っているようでいて、両 者 はいつの間 にか共 振 し、いずれも衣 服 と自 分 自 身 の人 柄 や 外 形 との 調 和 の 重 要 性 が主 張 さ れ、 流 行 現 象 に おける「 均 等 化 」 と「 差 異 化 」 とい う 運 動 を 稼 働 させるきっかけを与 えている。昭 和 初 期 では、それが「その人 らしさ」と結 び付 く「個 性 」と い う 言 葉 に よ っ て 表 現 さ れ、 衣 服 だ け で な く 、 装 飾 品 や 髪 型 、 化 粧 法 に 至 るま で 「 個 性 」 が 求 められるようになっていく。そこには、自 分 自 身 と調 和 する商 品 を選 びだすという購 買 行 動 における、あるいは自 分 自 身 のイメージを膨 らませ、演 出 するという楽 しみが確 かにあるのだ ろう。この衣 服 の流 行 と<女 性 美 >との関 係 においては、その「美 」が、「顔 」だけでなく、衣 服 を通 して「外 見 」と呼 び得 るところまで広 がりをみせており、また男 性 的 なまなざしのなかに包 括 されていた「美 」とは別 に、「個 性 」という言 葉 によって自 分 自 身 の側 へと引 き寄 せるような そういう振 る舞 いがあったことが明 らかとなった。

以 上 のように本 論 文 では、1930 年 までの‹女 性 美 ›の位 相 について、配 偶 者 選 択 の基 準 、 あるいはセク シュアルな‹女 性 美 ›、そ して衣 服 な どにおける「個 性 」として の‹女 性 美 ›までを 論 じることができた。それは、現 代 の‹女 性 美 ›と全 く同 じであるとまではいえないが、かなりの 程 度 、近 似 するものである。また本 論 では、「内 面 」と「外 面 」の「美 」をめぐる循 環 運 動 が「外 面 の 美 の 可 視 化 」 に よ っ て 始 まっ て い たこ とを 示 し て きたが 、 そ れも 近 代 と 現 代 が 明 確 に 切 断 しているようにみえながらも、実 は現 代 的 な‹女 性 美 ›のある側 面 を、近 代 から続 く、「浅 さ」

を伴 うその運 動 の先 に位 置 づけることもできるのである。

論 文 審 査 結 果 の 要 旨

【 論 文 要 旨 】 序 章

本 論 文 は 、1880 年 か ら 1930 年 ま で に 焦 点 を 当 て 、‹女 性 美 ›お よ び 、そ れ を 構 成

す る 諸 要 素 の 布 置 に 、歴 史 社 会 学 、と り わ け 言 説 分 析 的 手 法 を 用 い て 接 近 す る こ と

を 目 的 と す る 。す な わ ち 、時 代 毎 の 美 人 イ メ ー ジ の 変 遷 へ の あ る 種 の 類 型 論 的 関 心

や 、さ ま ざ ま な 化 粧 素 材 や 技 法 の ヴ ァ リ エ ー シ ョ ン を 扱 う 化 粧 文 化 史 の よ う に 、女

性 と 美 と の 属 性 的 な 結 び つ き を 前 提 と し た う え で 、「 女 性 の 美 し さ 」 や 「 美 し い 女

性 」を 社 会 的 出 来 事 と し て 扱 う の で は な く 、こ れ ま で 歴 史 貫 通 的 な も の と し て 自 明

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視 さ れ て き た ‹女 性 美 ›と い う 意 味 的 ま と ま り が 、近 代 に お い て い か に 成 立 し た の か を 明 ら か に す る 試 み で あ る 。

女 性 が つ ね に〈 美 〉を 体 現 す る こ と を 要 請 さ れ 、か つ 本 人 た ち も 一 定 程 度 以 上 に そ れ を 求 め て い る は ず で あ る と い う 命 題 を 、あ る 時 点 で 構 成 さ れ た 現 代 的 な 想 定 と し て 留 保 す る こ と は 、日 本 社 会 に お け る 近 代 性 の 位 相 に 対 す る 従 来 の 分 析 枠 組 み を 再 検 討 す る こ と に も つ な が る 。国 民 国 家 論 モ デ ル は 、女 性 あ る い は 女 性 身 体 が 国 民 化 の 対 象 と し て 編 入 さ れ て い く 過 程 に 着 目 す る が 、男 性 に 比 し て 、女 性 は 直 接 的 な 統 制 の 対 象 と な る 度 合 い は 緩 か っ た 。と り わ け〈 女 性 美 〉を め ぐ る 価 値 づ け や ふ る ま い の 編 制 は 、 国 民 化 に と っ て は 二 次 的 な 課 題 に 留 ま る の で あ り 、 む し ろ そ こ に 、 こ の 主 題 の 特 徴 が あ る と い え る 。 一 方 、「 上 か ら の 」 国 民 化 を 強 調 す る 近 代 化 論 に 対 す る 違 和 感 は 、 現 代 性 ( モ ダ ニ テ ィ ) の 様 相 の 成 立 を 1930 年 代 前 後 に 見 よ う と す る 試 み を も た ら し た 。広 告 や デ パ ー ト と い っ た 文 化 装 置 の 成 立 を め ぐ る 歴 史 社 会 的 な 文 脈 を 強 調 し つ つ 、消 費 社 会 の 起 源 を 遡 ら せ る こ と が で き る か の よ う な 議 論 が 行 わ れ て い る 。と く に 昭 和 初 期 以 降 の〈 女 性 美 〉を よ り 積 極 的 に 位 置 づ け ら れ る 点 で 、 こ の 視 角 は 有 意 義 で あ る 。 と は い え 、 こ の 時 期 の 社 会 が 、 1980 年 以 降 に 本 格 的 に 始 動 す る 消 費 社 会 と 異 な る こ と は 明 ら か で あ り 、「 現 代 性 」 の 歴 史 的 成 立 そ の も の が 十 分 に 問 わ れ て い な い 憾 み が 残 る 。国 民 国 家 論 モ デ ル と 消 費 社 会 論 モ デ ル に は 、 そ れ ぞ れ 固 有 の 意 義 と 限 界 が あ り 、〈 女 性 美 〉 は そ の い ず れ に も 回 収 し き れ な い 側 面 を も っ て い る 。多 様 な 言 説 を 扱 う こ と で 、制 度 や 装 置 と し て の ‹女 性 美 ›の 歴 史 的 な 諸 条 件 を 考 察 し た 。

第 1 章 「『 東 京 百 美 人 』と い う 経 験 ― ― 19 世 紀 末 に お け る『 美 人 写 真 』 と『 芸 妓 』」

こ の 章 は 、 女 性 の 写 真 を 「 見 る 」 と い う 経 験 の 時 代 的 文 脈 を 扱 っ た 。 1891[明 治 24]年 の「 東 京 百 美 人 」展 は 、「 美 人 写 真 」と い う も の が 生 ま れ 、か つ「 美 人 」と い う 見 方 が 成 立 す る 重 要 な 契 機 で あ っ た 。 こ の 「 美 人 写 真 」 は 、「 芸 妓 」 と い う 特 定 の 職 業・身 分 の 女 性 を 被 写 体 と し て い る 。も と も と 芸 妓 が 容 姿 を 高 く 評 価 さ れ る 職 業 で あ る た め か 、彼 女 ら が「 美 人 」と さ れ た こ と の 意 味 は 、こ れ ま で ほ と ん ど 論 じ ら れ て こ な か っ た け れ ど も 、 〈 女 性 美 〉を 自 明 視 し な い 立 場 か ら す れ ば 、 「 芸 妓 」と し て の 「 美 人 」 と い う 等 号 の 成 立 自 体 が 、 説 明 さ れ る べ き 対 象 と な る 。

そ こ で は 、江 戸 末 期 か ら 継 承 さ れ た 芸 妓 評 判 記 的 な 形 式 と の 連 続 と 切 断 が 注 目 に

値 す る 。芸 妓 評 判 記 は 、花 柳 界 と い う 疑 似 親 密 空 間 の な か で 生 産・消 費 さ れ る 多 様

か つ 包 括 的 な 評 価 を 、そ の 外 部 に 伝 え る と い う 形 式 だ っ た 。こ う し た 評 価 の 空 間 が

そ ぎ 落 と さ れ 、写 真 と い う メ デ ィ ア に よ っ て イ メ ー ジ と し て 切 り 取 ら れ た と き 、 ( 一

部 の )芸 妓 の 容 姿 の み

を 高 く 評 価 す る こ と が 、は じ め て 可 能 に な っ た の で あ る 。 「 東

京 百 美 人 」展 で は 、花 柳 界 と い う い わ ば ウ ラ の 世 界 に 属 す 女 性 を「 覗 き 見 」し 、そ

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れ を 所 有 し た い と い う 欲 望 が 働 い て お り 、そ れ を 可 能 に し た の が 写 真 と い う 形 態 で あ っ た 。

こ の「 美 人 写 真 」は 、遊 女 な ど の「 美 人 」を 描 い た 近 世 の 浮 世 絵 に お け る「 美 人 」 と の 意 味 的 差 異 と し て 成 立 し て い る 。す な わ ち 、江 戸 期 に お け る「 美 人 」は 豪 華 な 装 い や 身 の こ な し の 全 体 に 、 そ し て 場 に よ っ て 表 現 さ れ る 「 風 情 」 を 表 し て お り 、 顔 そ れ 自 体 は 非 個 性 的 で 、 記 号 的 な も の で す ら あ る 。 と こ ろ が 明 治 期 に お い て は 、 統 制 さ れ た 写 真 の 構 図 が 示 す「 美 し い 」 「 顔 」に 、関 心 が 中 枢 化 し て い る 。 「 美 人 写 真 」と は 、自 律 し た 形 に お け る「 美 し い 外 貌( 顔 )」と い う も の を 可 視 化 さ せ た が 、 そ れ を き っ か け に し て 、外 貌 に「 内 面 性 」を 読 み 取 ろ う と す る 試 み と 、美 し い 外 貌 の 形 態 そ の も の 、つ ま り「 美 人 」の 標 準 と 偏 差 を 言 語 化 す る 試 み と い う 二 つ の 様 式 が 出 現 し つ つ あ る 。こ の 時 期 に お い て は 、「 美 人 」に は 芸 妓 以 外 の 女 性 が 原 則 と し て 含 ま れ て い な い が 、こ こ か ら 、こ の 後 に み ら れ た 、あ る 種 の 混 乱 を 伴 う「 美 人 論 」 の 系 譜 と も い う べ き も の が 展 開 し て い く 。

第 2 章 「 衛 生 学 に お け る ‹皮 膚 ›へ の ま な ざ し 」

こ の 章 は 、近 世 よ り 続 い て い る 日 本 社 会 に お け る 肌 の「 色 の 白 さ 」の 価 値 と そ の 変 容 を 論 じ る 。 近 世 に お い て 、「 色 の 白 さ 」 は 「 化 粧

け わ い

」 あ る い は 「 徳 容 」 の な か に 包 摂 さ れ て い た 。西 洋 の 衛 生 学 的 知 の 流 入 に よ り 、そ こ に 決 定 的 な 変 換 が も た ら さ れ た 。「 色 の 白 さ 」 は 、 健 康 へ の 影 響 を 度 外 視 し た 白 粉 の 厚 塗 り に よ っ て 達 成 さ れ る も の で も 、あ る 種 の 階 級 性 と 道 徳 性 の 指 標 で も な く 、<皮 膚 >の 状 態 と し て 観 察 で き る / さ れ る べ き も の へ と 移 行 し て い っ た 。

1900 年 前 後 に お け る 一 般 の 家 庭 向 け の 通 俗 的 な 衛 生 書 で は 、 と く に ‹皮 膚 ›の 衛 生 が 重 視 さ れ た 。 そ こ で は 、「 色 の 白 さ 」 は 必 ず し も 重 視 さ れ ず 、 有 害 な 白 色 薬 や 白 粉 の 使 用 を 禁 じ 、 そ の 代 わ り に 、「 外 面 」 に 影 響 を 与 え る 健 康 な 身 体 と 気 高 く 優 美 な 精 神 を 保 つ こ と が 要 請 さ れ て い た 。し か し 、日 露 戦 争 を 境 に 、そ れ は 美 容 法 へ と 少 し ず つ 移 行 し て い く 。こ う し た 観 点 か ら 、1901 年 に 発 刊 さ れ 、お よ そ 25 年 続 い た『 女 学 世 界 』が 長 期 に 亘 っ て 連 載 し た 、読 者 と 医 師 と の 問 答 を 分 析 し た 。医 師 は ‹皮 膚 ›の 衛 生 法 を 啓 蒙 す る が 、見 た 目 の 白 さ で は な く 、衛 生 学 的 に 健 康 で あ る こ と こ そ が 「 美 し い 皮 膚 」 で あ る と す る 教 説 に 対 し て 、「 色 が 白 く な り た い 」 読 者 は 繰 り 返 し 異 議 を 申 し 立 て て い る 。そ こ で は 、確 か に 女 性 た ち の 間 に「 美 」に 対 す る 自 意 識 が 立 ち 上 が っ て い る 。

さ ら に 、か か る 衛 生 学 的 言 説 が 、そ れ が 警 戒 や 攻 撃 の 対 象 と し た「 不 健 康 な 」化 粧 品 の 広 告 と 同 居 し て い る 。こ う し て 、‹美 ›の 価 値 の 高 ま り と と も に 、‹皮 膚 ›は 資 本 の 対 象 に も な り 、お び た だ し い 言 葉 が 費 や さ れ て い っ た 。衛 生 学・科 学 的 な 知 を

‹美 ›を 体 現 す る 方 法 の な か に 組 み 込 む こ と で 商 品 化 さ れ た「 美 顔 術 」も 、そ の ひ と

つ で あ る 。あ い か わ ら ず「 色 の 白 さ 」に 対 す る 価 値 は 、近 世 か ら 継 続 し て い る よ う

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に み え る の だ が 、 衛 生 学 の 知 を 経 由 し た こ と で 、 美 容 法 、 化 粧 法 と も に 、 生 身 の ‹ 肌 ›へ の 志 向 が 強 ま り 、 近 世 的 な 「 化 粧

け わ い

」 か ら 遠 ざ か っ て い っ た の で あ る 。

第 3 章 「 化 粧 品 広 告 か ら み る 『 女 学 世 界 』 の 変 容 」

こ の 章 は 、『 女 学 世 界 』 に 掲 載 さ れ た 化 粧 品 広 告 を 中 心 に 据 え て 、 雑 誌 そ の も の の 変 容 を 描 い た 。と り わ け 注 目 す べ き は 、誌 面 記 事 を 装 う 広 告 が 登 場 し た こ と で あ る 。 記 事 風 広 告 の 出 現 に 着 目 す る 従 来 の 研 究 が 指 摘 し て い る 時 期 よ り 20 年 以 上 早 い 。『 女 学 世 界 』 に お け る 記 事 風 広 告 は 、 消 費 者 と し て の 読 者 を 主 役 に 据 え る 形 で ス ト ー リ ー が 展 開 さ れ て い る 点 に 特 徴 が あ る 。こ う し た 形 式 が『 女 学 世 界 』に お い て 比 較 的 早 い 時 期 に み ら れ た の は 、同 誌 が 読 者 の 投 稿 文 や 手 記 を 積 極 的 に 誌 面 で 取 り 上 げ て い た か ら で あ る 。化 粧 品 の 記 事 風 広 告 は 、読 者 が 綴 っ た「 美 」へ の 欲 望 を 積 極 的 に 掬 い あ げ る こ と で 、 読 者 の 生 活 の な か へ 滑 り こ ん で い っ た 。

ま た 、こ う し た 広 告 は 、化 粧 品 と 美 容 薬 の 分 節 に も 一 役 買 っ て い る 。こ の 時 期 に お い て は 、化 粧 品 と 美 容 薬 の 区 別 は 薬 事 学 的 に 明 瞭 で は な い 一 方 で 、衛 生 学 的 言 説 は と く に 美 容 薬 に 対 し て 不 寛 容 だ っ た 。だ が 、こ の 記 事 風 広 告 が 、美 容 薬 と 比 し て 化 粧 品 が ‹女 性 美 ›を 構 成 す る 商 品 と し て 優 越 し て い く き っ か け を 与 え た の で あ る 。 た だ し 、『 女 学 世 界 』 は 、 資 本 の 論 理 に 侵 食 さ れ つ つ も 、 結 局 の と こ ろ 、 そ れ が 全 面 を 覆 う ま で に は 至 ら な か っ た 。資 本 に 媒 介 さ れ た「 美 」へ の 欲 望 と「 女 学 」的 啓 蒙 主 義 と の こ の せ め ぎ 合 い こ そ が 、明 治 期 か ら 大 正 期 に か け て 発 刊 さ れ た 女 性 雑 誌 の 特 徴 の ひ と つ だ と い え よ う 。

第 4 章 「 資 本 と し て の ‹女 性 美 ›」

第 1 章 で 触 れ た「 美 人 論 」の そ の 後 の 展 開 に つ い て 、 『 女 学 世 界 』と『 婦 人 世 界 』 (1906[明 治 39]年 創 刊 )の な か の 記 述 を 比 較 し な が ら 、そ の 変 容 を 辿 っ た 。 『 女 学 世 界 』に お い て 、美 と い う 主 題 は「 美 人 罪 悪 論 」や「 表 情 論 」と し て 展 開 さ れ て お り 、 自 律 し た 形 に お け る 「 外 面 の 美 」 を 否 定 し 、「 内 面 の 美 」 が 強 調 さ れ る 。 2 章 で 論 じ た よ う に 、読 者 が そ れ を ス ト レ ー ト に 受 け 取 っ た か は 別 と し て 、い ず れ に せ よ こ の よ う な 体 裁 を 取 る こ と が 、良 妻 賢 母 思 想 に 基 づ く 女 子 教 育 を 推 進 す る 雑 誌 メ デ ィ ア に お け る 、 い わ ば 女 学 的 な 作 法 で あ っ た 。 そ し て 、 そ う せ ざ る を 得 な い ほ ど に 、

「 美 人 」 は 「 芸 妓 」 め い た 「 外 貌 」 を 指 し 示 す 言 葉 で あ っ た 。 こ の 外 貌 は 、 ‹女 性 美 ›を め ぐ る 現 代 的 な 語 り 方 が 全 面 的 に 依 拠 し て い る よ う な 厚 み を ま だ 獲 得 し て い な い 。 一 方 、『 女 学 世 界 』 と ほ ぼ 同 時 期 に 刊 行 さ れ た 『 婦 人 世 界 』 で は 、「 美 人 」 =

「 芸 妓 」 と す る 見 方 や 、「 美 人 」 を 罪 悪 視 す る 見 方 は み ら れ な い 。 同 誌 で は 、 芸 妓

以 外 に も 多 様 な 女 性 が 「 美 人 」 と し て 位 置 づ け ら れ て お り 、「 内 面 / 外 面 」 と い う

二 項 対 立 も 曖 昧 に な っ て い る 。ま た 配 偶 者 選 択 の 基 準 、あ る い は セ ク シ ュ ア ル な 魅

力 と し て の 「 美 」 に つ い て も 言 及 さ れ て お り 、「 外 面 の 美 」 そ の も の を 論 じ る 「 美

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人 論 」 へ と 変 貌 を 遂 げ て い る 。

『 女 学 世 界 』の 美 人 論 が 、成 立 し つ つ あ っ た 資 本 と し て の「 美 」を「 見 な い ふ り を す る 」論 理 で あ っ た の に 対 し 、広 く「 婦 人 」一 般 を 対 象 と す る こ と を 謳 う『 婦 人 世 界 』 に お い て は 、「 見 ら れ る 存 在 」 で あ る 被 写 体 の 女 性 た ち が 「 外 面 の 美 」 と 格 闘 し 始 め て い る 。そ の こ と は 、同 誌 に 掲 載 さ れ た 女 性 の「 見 合 い 写 真 」に 鮮 鋭 に 現 れ て い る 。「 美 」 は 結 婚 と い う 、 女 性 の 運 命 を 切 り 開 く 可 能 性 の あ る 資 産 と 化 し て い る が 、同 時 に 、そ う し た「 美 」へ の ま な ざ し は 拡 散 し 偶 発 性 に 満 ち た も の で も あ る 。配 偶 者 選 択 の 基 準 と し て の「 美 」を 語 り 、誌 上 の「 見 合 い 写 真 」を ま な ざ す の は 、主 と し て 男 性 で あ り 、多 様 な <女 性 美 >も 、実 は 男 性 の 視 点 に よ っ て カ テ ゴ ラ イ ズ さ れ た も の に ほ か な ら な い 。 同 誌 で は 、「 美 」 と 「 内 面 」 の つ な が り に 対 す る 関 心 も か な り 薄 く 、「 外 面 の 美 」 の 受 容 を め ぐ る 明 ら か な ジ ェ ン ダ ー 的 非 対 称 性 を 確 認 で き る 。

第 5 章 「 衣 服 の 流 行 の 語 ら れ 方 」

衣 服 を 通 し て の「 外 見 」が 、再 び「 内 面 」に 近 似 す る も の と 結 び 付 く さ ま を 、4 章 と 同 様 に『 女 学 世 界 』と『 婦 人 世 界 』に お け る 衣 服 の 流 行 の 記 述 の さ れ 方 の 違 い を 比 較 す る こ と で 考 察 し た 。 ま ず 『 女 学 世 界 』 に 記 述 さ れ た 流 行 で は 、「 女 学 生 ス タ イ ル 」と「 芸 妓 の 装 い 」が 模 倣 さ れ 広 が っ て い く さ ま が 確 認 さ れ た 。衣 服 に お け る コ ー ド の 流 動 化 に よ っ て 生 じ た こ れ ら の 流 行 は 、洋 装 化 = 西 洋 化 と い う 分 か り や す い 指 標 を 伴 う 後 の 「 モ ダ ン ガ ー ル 」 と は 独 立 し た 場 所 で 、「 衣 服 の 近 代 化 」 の 論 理 が 胚 胎 し て い る こ と を 示 し て い る 。と は い え 、女 学 的 な 作 法 の 内 部 に あ っ て 、個 人・社 会 的 属 性 と 装 い の 切 断 は 、や は り 流 行 に 対 す る 批 判 を 招 き 、身 分 に 応 じ た 服 装 の 規 制 が 叫 ば れ る よ う に も な る 。 一 方 、『 婦 人 世 界 』 で は 、 流 行 案 内 の 記 事 な ど で 積 極 的 に 衣 服 の 流 行 現 象 が 取 り 上 げ ら れ て い た 。し か し 、そ こ で も や は り 、流 行 に 対 す る 批 判 が 誌 面 の な か に 混 在 し て お り 、消 失 し つ つ あ っ た 年 齢 や 身 分 に 応 じ た 装 い が 要 請 さ れ た の で あ る 。

流 行 へ の 随 順 と 批 判 が 並 存 す る こ と は 、近 世 的 な 衣 服 の コ ー ド か ら ま す ま す 遠 ざ

か り 、 流 行 と い う 社 会 内 現 象 を 構 成 し つ つ あ っ た こ の 時 期 特 有 の も の で あ る 。「 す

べ て の 」衣 服 で は な い が 、特 定 の 状 況 下 で の 、あ る 種 の 衣 服 は 、属 性 か ら 確 実 に 切

り 離 さ れ て い く 。た だ し 、一 見 逆 向 き で あ る よ う な 随 順 と 批 判 は 、い つ の 間 に か 共

振 す る 。い ず れ の 途 を 選 ぼ う が 、衣 服 と 自 分 自 身 の 人 柄 や 外 形 と の 調 和 の 重 要 性 が

主 張 さ れ る の で あ り 、ま さ に そ の こ と が 、流 行 現 象 に お け る「 均 等 化 」と「 差 異 化 」

と い う 運 動 を 駆 動 さ せ る の で あ る 。昭 和 初 期 に な る と 、そ れ が「 そ の 人 ら し さ 」と

結 び 付 く 「 個 性 」 と い う 言 葉 に よ っ て 表 現 さ れ 、 衣 服 だ け で な く 、 装 飾 品 や 髪 型 、

化 粧 法 に 至 る ま で「 個 性 」が 求 め ら れ る よ う に な っ て い く 。自 分 自 身 と 調 和 す る 商

品 を 選 び だ す と い う 購 買 行 動 に お け る 、 あ る い は 自 分 自 身 の イ メ ー ジ を 膨 ら ま せ 、

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演 出 す る と い う 楽 し み が 生 じ つ つ あ っ た 。こ の 衣 服 の 流 行 と <女 性 美 >と の 関 係 に お い て は 、 そ の 「 美 」 が 、「 顔 」 だ け で な く 、 衣 服 を 通 し て 「 外 見 」 と 呼 び う る と こ ろ ま で 広 が り を み せ て お り 、 ま た 男 性 的 な ま な ざ し の な か に 包 括 さ れ て い た 「 美 」 と は 別 に 、「 個 性 」 と い う 言 葉 に よ っ て 自 分 自 身 の 側 へ と 引 き 寄 せ る よ う な 振 る 舞 い が あ っ た こ と が 明 ら か と な っ た 。

終 章

以 上 の よ う に 本 論 文 で は 、1880 年 代 に 登 場 し た 近 代 的 な ‹女 性 美 ›と い う 主 題 が 、 配 偶 者 選 択 の 基 準 、あ る い は セ ク シ ュ ア ル な ‹女 性 美 ›、そ し て 衣 服 な ど に お け る「 個 性 」 と し て の ‹女 性 美 ›と い う 課 題 に 接 続 し は じ め る 地 点 ま で を 論 じ た 。 現 代 の ‹女 性 美 ›と 全 く 同 じ で あ る と ま で は い え な い け れ ど も 、 か な り の 程 度 近 似 す る し く み が 成 立 し て い く よ う な 、重 層 的 な 過 程 を そ こ に 読 み 取 る こ と が で き る 。ま た 、本 論 で は 、「 内 面 」 と 「 外 面 」 の 「 美 」 を め ぐ る 循 環 運 動 が 「 外 面 の 美 の 可 視 化 」 に よ っ て 始 ま っ て い た こ と を 示 し た が 、現 代 的 な ‹女 性 美 ›の あ る 側 面 も 、近 代 か ら 続 く 、

「 浅 さ 」を 伴 う こ う し た 運 動 の 先 に 位 置 づ け る こ と が で き る の で は な い か 。こ の よ う な 視 角 か ら 、本 論 文 が 扱 っ た 諸 事 象 が 、戦 後 以 降 に 明 瞭 と な る「 現 代 性 」の 位 相 と い か に 接 続 さ れ て い く の か を 論 じ る こ と が 、 今 後 の 課 題 で あ る 。

【 評 価 と 結 論 】

本 論 文 は 、自 己 の 美 的 あ り よ う に 対 す る 関 心 と い う か た ち で 現 れ る 、身 体 に 対 す る 女 性 の 自 己 関 与( 筆 者 は そ れ を〈 女 性 美 〉と 表 現 し て い る )の 生 成 を 主 題 と し て 、 現 代 と 強 く 連 続 し つ つ も 、微 妙 に そ れ と 異 な る「 近 代 性 」の 位 相 を 浮 上 さ せ よ う と 試 み た 。化 粧 技 術 や 衣 服 の な か に 、あ る い は「 美 人 」と い う か た ち で 物 象 化 さ れ た

「 女 性 の 美 し さ 」や「 美 し い 女 性 」を 歴 史 的・社 会 的 に 考 察 す る 研 究 は 少 な く な い が 、そ も そ も 女 性 と 美 と を 結 び つ け る 社 会 論 理 そ の も の を 問 題 と し 、そ の 近 代 的 な 成 立 や 展 開 を 論 じ る と い う タ イ プ の 歴 史 社 会 学 的 研 究 は 、 筆 者 の 主 張 す る と お り 、 あ ま り 類 例 が な い 。 先 行 研 究 を 十 分 に 押 さ え た う え で 、 そ れ ら を 批 判 的 に 参 照 し 、 多 様 な 史 料 群 を 丁 寧 に 追 う な か で 、新 し い 切 り 口 を 提 示 す る こ と に か な り の 程 度 成 功 し て い る 。日 本 近 代 史 と も そ れ ほ ど 無 理 な く 接 続 す る か た ち で 、歴 史 記 述 と し て 数 々 の 有 意 味 な 論 点 を 提 出 し て お り 、と り わ け ジ ェ ン ダ ー 史 、ジ ェ ン ダ ー 論 研 究 に と っ て 刺 激 的 な 考 察 に な り え て い る と 評 価 で き る 。

も ち ろ ん 、研 究 の 常 と し て 、今 後 改 善 し て い く べ き 点 や 取 り 組 む こ と が 期 待 さ れ

る 課 題 も 散 見 さ れ る 。審 査 に お い て 、そ う し た 点 が い く つ か 指 摘 さ れ た 。た と え ば 、

史 料 の な か に 読 み と ら れ た 諸 事 象 に は 、「 美 」 や そ れ に 類 す る 語 が 必 ず し も 明 瞭 な

か た ち で 用 い ら れ て い な い も の も あ る 。〈 女 性 美 〉 と い う 領 域 設 定 の 方 法 的 意 義 を

理 解 し た う え で 、し か し 、そ れ ら が〈 女 性 美 〉に 属 す る と い え る の は な ぜ か 。あ る

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い は 逆 に 、現 代 に お い て〈 女 性 美 〉に 該 当 す る 領 域 が 必 ず し も「 美 」と い う 語 に よ っ て 表 現 さ れ な い と す れ ば 、そ れ を ど う 考 え る べ き な の か 、と い っ た 問 い が 出 さ れ た 。こ れ ら は 、概 念 の 歴 史 被 拘 束 性 に 敏 感 な 言 説 分 析 的 方 法 を 採 用 し た さ い に 、と り わ け 強 く 出 現 す る 、概 念 の 身 分 を め ぐ る 問 題 で あ る 。こ れ を「 解 決 」す る 必 要 は な い が 、概 念 を 歴 史 に 繰 り 込 む 手 つ き を よ り 洗 練 さ せ る こ と で 、よ り 立 体 的 な 描 像 が 得 ら れ た だ ろ う 。

こ れ と 関 連 す る が 、『 女 学 世 界 』 等 の 歴 史 史 料 の 扱 い は お お む ね 妥 当 で は あ る も の の 、特 定 の 史 料 を 選 択 す る / し な い 理 由 に つ い て 、も う 少 し 積 極 的 な 方 法 論 的 位 置 づ け が あ っ た 方 が よ か っ た 、と い う 指 摘 や 、本 論 文 の よ う な 立 場 か ら「 現 代 」を ど う 扱 え る の か 、補 論 と い う か た ち で も よ い か ら 、た と え ば 美 容 整 形 等 の 事 例 を め ぐ る 議 論 が な か っ た こ と が 惜 し ま れ る 、と い っ た 意 見 も 出 さ れ た 。と り わ け 、序 章 で 論 じ ら れ て い る 消 費 社 会 論 モ デ ル か ら 一 定 の 距 離 を 取 る と い う 方 法 的 選 択 の 有 効 性 は 、 そ の こ と で こ そ 測 ら れ る の で は な い か 、 と い う 示 唆 も な さ れ た 。

し か し 、こ の よ う な 批 判 や 意 見 は 、本 論 文 が 、研 ぎ 澄 ま さ れ た 問 題 意 識 に 基 づ く

方 法 的 意 識 を 背 後 に 抱 え な が ら 多 量 の 史 料 群 を 博 捜 し 、そ こ で 見 い だ さ れ た 主 題 形

象 を 具 体 的 に 描 き 出 し た こ と で 、は じ め て 明 示 的 に な っ た 課 題 で あ る こ と も 確 認 さ

れ た 。そ の 点 を 含 め て 、本 論 文 が 歴 史 社 会 学 と し て 意 義 を 有 す る 研 究 で あ る こ と に

は 疑 い が な く 、学 位 申 請 論 文 と し て ふ さ わ し い 内 容 と 水 準 に 有 す る も の で あ る こ と

に 、 全 審 査 委 員 が 一 致 し て 同 意 し た 。

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