2006年2月6日
課程博士学位申請論文本審査報告書
早稲田大学大学院
経済学研究科科長 森 映雄 殿
審査委員
主査 政治経済学術院・教授 森 映雄 同 ・教授 秋葉弘哉 (Ph.D・ニューヨーク州立大学) 同 ・教授 貞廣彰
(経済学博士・京都大学)
明治大学商学部・教授 渡辺良夫 (商学博士・明治大学)
学位申請者:得田雅章(経済学研究科博士後期課程6年。研究指導 森 映雄 )
学位申請論文:「金融システムショックを考慮した貨幣と実体経済の関係−内生的貨幣供 給理論の観点から−」
審査委員は、予備審査報告書(2005年12月13日経済学研究科運営委員会で合格判定・承 認を得た)で指摘した論文修正が適切にされているかを含め上記の学位申請論文について 慎重に審査し、且つ、申請者に対し2006年2月1日の口頭試問を実施した結果、上記の学位 申請論文が経済学博士を付与するに値する論文である、ことを全員一致で承認した。
記
Ⅰ 学位申請論文の構成と概要 1.学位申請論文の構成 第1章 序文
1−1 本論文の内容 第1部 理論分析
第2章 マネタリーモデルの整理 2−1 はじめに
2−2 貨幣の非中立性 2−3 貨幣需要
2−4 まとめ
第3章 金融システムショックと内生的貨幣供給理論 3−1 はじめに
3−2 アコモデーショニスト・ビュー
3−3 ストラクチュアリスト・ビュー
3−4 ストラクチュアリストとアコモデーショニストの論争 3−5 モデルの整理
3−6 金融イノベーションに伴う岩佐(2002)モデル 3−7 まとめ
第2部 実証的分析
第4章 金融システムショック下の貨幣と実体経済
4−1 はじめに
4−2 金融システムショックの歴史的背景 4−3 貨幣と実体経済の関係
4−4 貨幣需要関数の推定
4−5 金融システムショックの定量化
4−6 金融システムショックを考慮した場合の貨幣需要関数の推定
4−7 まとめ
第5章 内生的貨幣供給仮説の因果性テスト 5−1 はじめに
5−2 理論的背景:再述 5−3 実証分析
5−4 まとめ
第6章 内生的貨幣供給理論をふまえた貨幣総量再評価 6−1 はじめに
6−2 理論モデル 6−3 実証モデル 6−4 まとめ
第7章 マクロ経済変数のショック波及分析 7−1 はじめに
7−2 モデル 7−3 推計
7−4 予備的需要を考慮しての推計 7−5 まとめ
第8章 非線形VARによる金融政策効果分析 8−1 はじめに
8−2 実証分析 8−3 まとめ 第9章 結びに代えて
Ⅱ 本論文の概要
本論文は、ポスト・ケインジアン、中でもストラクチュアリストの諸理論の有機的統合 を試み、理論的仮説として4つの仮説①緩やかな貨幣の内生性(=貨幣供給が内生要因だ けでなく、外生要因にも作用される)、②貨幣の長期非中立性、③貨幣需要の不安定性、
④金融政策効果の非対称性を立て、実証分析ではそれらを数種の計量モデルで構築して多 元的・包括的な検討を加えた。
理論・実証分析で、筆者は実体経済を実質GDPで代理させている。時系列データーの利 用可能性、数量方程式による貨幣・実物経済分析では実質GDPで実物部門分析がされてき たことから実質GDPで実体経済の動向を示すと考え、本論文の分析をすすめている。
本論文は、Ⅰ部(2,3章)で理論的考察を、Ⅱ部(4−8章)で実証分析を行ってい る。各章の概要を以下略述する。
2章「マネタリーモデルの整理」。まず筆者は、シュンペーター言うところのオーソド ックス・ビューをサーベイし、そこでは貨幣の中立性はロバストなものとなっていない、
金融仲介機関の資金供与機能が等閑視され貨幣が外生的に取り扱われている、貨幣需要が 安定的と取り扱われているとする。ここで、筆者がオーソドックス・ビューとして取り上 げたシドラウスキー理論をベースに貨幣と経済成長の関係に再検討を加え、モデルが数学 的に「ブロック再帰的でない」ことを数学付録をつけて論証している。こうした「実物的 分析」対し、筆者はストラクチュアリストの立場から、企業家のアニマル・スピリッツの 発生による計画投資支出、銀行部門を含む金融仲介機関の行動を明示的に取り入れる。分 析では貨幣は本質的な仕方で経済は入り込み、貨幣は実物経済に非中立的影響を与えると いう「貨幣的分析」に与する。筆者は、貨幣の非飽和性仮説から貨幣の非中立性を提唱す るOno(1994)を、そこでは重要な要因である貨幣の限界効用の臨界値βがどのように定式化 できるか不分明であるとして排し、貨幣が何時でも・何処でも・誰とでも一般的受容性を もつ特殊な性質から銀行部門を含む民間経済主体の予備的貨幣需要動機や金融的動機によ る貨幣需要に対する銀行部門の内生的反応が実物経済に非中立的な仕方で影響を及ぼし、
殊に、主体の金融不安度を考慮すると貨幣需要は不安定的になりうる、とする。その行論 過程で、筆者はNewlyn(1971)の貨幣の予備的需要分析を緻密に分析・検討し、貨幣の予備的 需要にはケインズの金融的動機による貨幣需要を包含するものとの解釈をしている。この 解釈に基づく貨幣需要の実証分析が本論文第Ⅱ部で採られている。
3章「金融システムショックと内生的貨幣供給理論」。中央銀行が銀行の銀行として完全 受動的に行動すると考えるアコモデーショニストの中央銀行の「最後の貸し手機能」への 過度の強調は経済安定化機能を酌慮しない議論として筆者は棄却する。筆者は、アコモデ ーショニストとストラクチュアリストのモデル比較分析を綿密に行い、市中銀行の貸出供 給から中央銀行の準備供給と中央銀行の準備供給から市中銀行の貸出(=預金通貨供給)
の双方向的因果関係、したがって貨幣供給には外生的側面と内生的側面があることを認め る。金融動機による貨幣需要に対する銀行行動、銀行自身のALM(資産負債管理)行動か ら「緩やかな貨幣供給の内生性」を主張するストラクチュアリスト・ビューに筆者は与す る。また、利潤最大化行動を採る市中銀行のALMが中央銀行のベース・マネー供給管理の 影響と企業の金融動機による資金需要に対する内生的反応から金融イノベーションを惹起 させうること、それが金融システムの変容や金融システムショックを内包させ、貨幣の長 期非中立性と金融政策の非対称的効果を生起させる、と筆者は主張する。そこで、筆者は、
3.3.2節の中で実物的なヴィクゼル分析では無視されてきた貨幣利子率の慣習性というRoger s(1989)の理論−経済主体の心理的期待要因を反映するする貨幣利子率の慣行的性質が金融 資産及び実物資産の資産価値評価をを通して経済機構に本質的に入り込むとする−を援用
して貨幣の長期非中立性を論述する。(本章は、馬場義久編『マクロ経済学と経済制度』、
早稲田大学出版部、2005、70-103p所収「内生的貨幣供給理論の一考察」を加筆・修正した。)
4−8章の実証分析では、2・3章で提起した4つの理論仮説①緩やかな貨幣の内生性(=
貨幣供給が内生要因だけでなく、外生要因にも作用される)、②貨幣の長期非中立性、③ 貨幣需要の不安定生、④金融政策効果の非対称性に対する実証分析として多元的モデリン グ手法を用い、包括的考察を加えている。4章「金融システムショック下の貨幣と実体経 済」では、金融システムショック(=金融不安心理が市中銀行の流動性選好の急激な上昇 を伴って発生する状態)をTARCH(閾値ARCH)モデルを用いて定量化した金融不安項と資 産変数、及び貨幣保有の機会費用を従来型の単回帰貨幣需要関数に加えた貨幣需要関数を 誤差修正モデルで検証する。1997年わが国で発生した大型金融機関の破綻による金融シス テムの不安定性が民間経済主体の予備的貨幣需要を変動させ、それが実体経済の動向に作 用し、いわゆる、ミッシング・マネーといわれた貨幣量と実体経済との希薄化を生じさせ ている判断のもとに金融不安項を組み込んだ分析が重要である、というのが筆者の視点に ある。分析期間は、1980年第1四半期から2004年第2四半期である。分析結果から、金融 不安項を導入した場合貨幣需要関数は長期的に安定するが、短期的要因を含めたモデルで は十分説得的結果が得られなかった。金融システムショックにより貨幣と実体経済(=実 質GDP)との関係が変容し、貨幣需要の不安定性が検証された、と筆者は結論する。(本 章は、『早稲田経済学研究』No53、早稲田大学経済学研究科経済学研究会、2001、41-59p 所収「金融システムショック下の貨幣と実体経済」、松本保美・馬場正弘編著『日本経済 の新たな進路』、文眞堂、2002、147-181p所収「貨幣総量と実体経済との関係」、『早稲田 経済学研究』No54、早稲田大学経済学研究科経済学研究会、2002、79-91p所収「貨幣の予 備的需要についての一考察」を加筆・修正したものである。尚、これに関連して2001年日 本金融学会春季大会(於:慶應義塾大学)、2001年日本金融学会関東部会(於:早稲田大 学)で研究発表をした。)
5章「内生的貨幣供給仮説の因果性テスト」。本章では3章で理論的展開をした内生的貨
幣供給理論の実証的検証を日本のデーターをもとに行う。ここでは、マネーサプライ統計 量4種、ベースマネー1種、銀行貸出1種、貨幣乗数4種とより包括的なデーターを用いた分 析が行われている。単位根検定で検定法により差異が存在したため変数群を2タイプに分け、
それぞれ標準型グレンジャー因果性テストをするとともに、共和分検定も行い共和分に懸 念のあるものには誤差修正項をふくむ因果性テストを試みている。
標準型グレンジャー因果性テストより「銀行貸出→マネーサプライ」への強い因果性が、
「マネーサプライ→銀行貸出」、「ベースマネー→銀行貸出」、「マネーサプライ→所得」
へのそれぞれ弱い因果性が得られた。誤差修正項をふくむ因果性テストから長期的にマネ ーサプライと所得との双方向的因果が得られた。これらの分析結果からアコモデーショニ スト・ビューではなく、ストラクチュアリスト・ビューの緩やかな貨幣の内生性が妥当性 を有する、と筆者は解析する。
尚、分析期間が「ゼロ金利局面」と「非ゼロ金利局面」を含んでいることが分析結果に 与える影響を考慮して、本章のAPPENDIXで両期間を分けて分析し、変数の組み合わせに有 意な共和分関係が見いだせないとの結論を引き出す。(本章は、『早稲田経済学研究』No5
9、早稲田大学経済学研究科経済学研究会、2004、45-59p所収「内生的貨幣供給仮説の因果
性テスト」(査読付き)を加筆・修正したものである。尚、これに関連して2004年日本金 融学会春季大会(於:明治学院大学で報告をした。)
6章「内生的貨幣供給理論をふまえた貨幣総量再評価」。4章、5章の分析が単方程式体系
を用いての分析であるのに対し、本章ではBOE(イングランド銀行)連立方程式体系モデル に筆者自身の借入準備関数と貸出金利決定式を付加するという改良を加えた修正モデルを 構築し、そのパフォーマンスを検証する。そのマクロモデルのフィットが良好であること から筆者は、貨幣の内生性と非中立性を唱える内生的貨幣供給理論の妥当性が確認できる とする。
さらに、本章では①現状維持ケース、②金融緩和(a)(=非借入準備の増加による金融緩 和)ケース、③金融緩和(b)(=準備率の低下を含めた金融緩和)ケース、④金融引き締め ケース、⑤企業家マインド(アニマルスピリット)改善のケースにわけ外挿シミュレーシ ョンテストを行う。そのテスト結果、②、③の金融緩和政策は貨幣総量を変化させるもの でない、一方で④は実質GDPを大きく下落させるし、⑤はそれを大きく上昇させることが 得られ、それは筆者の金融政策効果非対称性仮説を裏打ちするものである。本章(
6.25)式でインフレ率決定の説明変数に金融変数を加えていないことに対して、筆者は(6.27) 式で実質為替レートが金融変数に即時的に反応する、という考えで分析している。
(本章は、『早稲田経済学研究』No57、早稲田大学経済学研究科経済学研究会、2004、15- 31p所収「Evaluation of Financial Policy Effects via Time Series Analysis」(査読付き)、秋 葉弘哉編『現代マクロ経済学のフロンティア』、2003、78-97p所収「時系列分析による金融 政策効果の評価」を加筆・修正したものであり、これに関連して2003年日本金融学会秋季 大会(於:滋賀大学)報告をした。)
7章「 マクロ経済変数のショック波及分析」。同時方程式構造型モデルで分析した6章 とは異なり、本章では特定経済理論に依拠しないVAR(Vector Auto Regression)モデルを使用 して分析する。本章で、筆者が用いるVARモデルは短期・長期の識別制約が出来る、内生 変数を実質貨幣と実質GDPの2変数(2変数による分析について、筆者はBlanchard-Quah(1 989)や木村・藤田(1999)等の先行研究をもとに金融政策の「中間目標」と「最終目標」との 簡略化トランスミッション・メカニズムによる分析の利点を指摘しているが)とする構造V ARモデルである。2変数モデルを構築し、その後インパルス応答関数で実物的ショックの 貨幣への影響、貨幣的ショックの実質GDPへの影響、さらに予測誤差分散分析で各ショッ クの影響寄与度を検証するとともに、4章で算定した金融不安項を外生的に導入した構造V ARモデルについても同様な検証をする。ここで、筆者は日本における金融自由化の影響を 考慮して分析を1973-1985年と1985-2004年の2期間に分けている。
本章の実証分析から筆者が抽出する結論は、①金融不安項導入による影響は1973-1985年 では総じて小さかったが、1985-2004年では大きいことから金融自由化による金融システム の変化を考慮する必要性が確認できた、②インパルス応答関数、及び予測誤差分散分析に よる分析は、貨幣には外生的側面と内生的側面があり、「緩やかな貨幣の内生性」仮説が 実証された、③1985-2004年の期間分析から(7.14)の符号条件に合わない貨幣ショックの実質 GDPへの影響が長期にわたり負であるという反応結果から、貨幣の長期非中立性の存在を 論証できた、④期間区分による分析から金融政策の非対称性が示された、である。(本章 は、『早稲田経済学研究』No55、早稲田大学経済学研究科経済学研究会、2003、25-42p所
収「マクロ経済変数のショック波及分析」を加筆・修正したものである。尚、これに関連 して2002年日本金融学会春季大会(於:横浜市立大学)と2002年日本経済学会春季大会(於:
小樽商科大学)で報告をした。)
8章「非線形VARによる金融政策効果分析」。7章の分析では銀行部門の行動を表す変 数が明示的に導入されていない点を、本章ではベースマネーと銀行貸出というデーターを 加えた分析で補正する。本章で筆者は金融システムの変化を離散的に扱うではなく、スム ーズに構造が遷移するモデル、すなわちLST-VAR(ロジスティック円滑遷移VAR)モデルを 採用する。
分析は、①VARモデルを構成する変数(ここでは、実質GDP、貨幣供給量、銀行貸出、ベ ースマネーの4変数)選択し、単位根検定と共和分検定で属性判断 、②線形VARモデルの ラグ数の決定、③経済構造を左右するスイッチ変数の選択(ここでは、VARモデル全体で 有意性が高いこと、先行研究結果をもとに2期前の実質GDPを選択)、④遷移関数の特定 化、⑤LST-VARモデルを推計する、⑥どのロジスティックも1%の有意水準を満たしてい ることを確認した後、実質GDPショック、銀行貸出ショック、貨幣量、ベースマネーショ ック(政策ショックとみなす)のそれぞれを加えた場合のインパルス応答関数による分析、
という手順ですすめる。
筆者は、①貨幣供給量から実質GDPへの影響が大きく、逆の影響がほとんどない、②ベ ースマネーから貨幣供給量への影響、銀行貸出が全ての変数に長期的にも有意に作用して いるという分析結果から「緩やかな貨幣の内生性」仮説が論証された、と主張する。さら に、本章では銀行貸出の要因分析は施していないが、銀行貸出が企業家マインド(アニマ ル・スピリット)による金融動機による貨幣需要に対応する銀行部門のALMによるものと 理解すると(この理解の根拠として9章「結びに代えて」で指摘する銀行貸出の低迷が日 本銀行当座預金勘定で超過準備として積み増しされている事実を指摘する)、「貨幣の内 生的供給理論」と「貨幣の長期的非中立性」の仮説は妥当するという評価を筆者は加える。
さらに銀行貸出から各マクロ変数への大きな反応があるが、一方逆方向からのショックに は殆ど反応を示さない「非対称な効果」が得られた、と筆者は結論する。
9章「結びに代えて」。ここでは、筆者の今後の研究への展望が述べられている。
Ⅲ 本論文への評価と学問的貢献
本論文は、非主流派経済理論といえるポスト・ケインジアン理論のうちストラクチュアリ ストの理論に焦点をあてた論文で、この方面を研究しようとする研究者に一つの示唆を与 える研究といえる。
需要追随型の内生的貨幣供給を提唱するアコモデーショニストの理論は、中央銀行の政 策主体としての機能を考慮していないし、民間銀行部門の貸出行動が明示的に分析されて おらず、手形の自己還流性法則に則った実物分析の考えで貨幣が本質的な仕方で経済分析 に導入されていないと位置づけ、その理論よりストラクチュアリスト・ビューの立場を筆 者は銀行ALM管理を含む民間経済主体の資産選択行動による内生的貨幣が実物経済へ浸透 する仕方に重要性を見出すとして採用する。前2つの理由付けは多く議論されてきている が、筆者の論理展開は十分とは云えないが、第3点に言及しているのは、評価に値する。
パリー等の内生的貨幣供給理論だけでなく、ミンスキーの金融不安定仮説や岩佐の金融
自由化のもとでの銀行の金融イノベーション行動理論を有機的統合することによって金融 システムショックの発生蓋然性を説明に包含し、4つの仮説①緩やかな貨幣の内生性(=
貨幣供給が内生要因だけでなく、中央銀行の政策目的行動から来る能動的なベースマネ ー・コントロールという外生的要因にも左右される)、②貨幣の長期非中立性、③貨幣需 要の不安定生、④金融政策効果の非対称性について理論的説明を試みた点はこの論文の貢 献の一つと云える。
本論文の大きな貢献は、実証的分析によって4つの仮説の妥当性を論証した点にある。貨 幣の内生的供給理論の理論的研究業績は存在するが、その実証的視点からの研究は日本で は殆ど見当たらない。その実証分析は多元的モデリング手法を駆使したもので、単一方程 式モデルだけでなく、同時方程式型マクロモデル(イングランド銀行モデルに筆者独自の 改訂を施したモデル)、構造VARモデル、LST-VARモデルを構築・推計し、シミュレーシ ョン分析を入れて4つの仮説の妥当性を実証的に論証した研究は本研究以外例が殆ど無い といえる、その意味でも本論文の貢献は高いと認められる。
その実証分析過程で金融不安度の定量化を行い、殊に1990年代後半以降それが急激な高 まりを見せたことを確認した上で、それを分析において金融不安項として1変数を付加し、
貨幣需要の不安定性や貨幣と実体経済との関係にも影響を及ぼしていることを論証した。
貨幣の緩やかな内生性に関する分析では、内生的貨幣供給の力の方が外生的それより強い という実証結果をもってストラチュアリスト・ビューの妥当性を論証した。これらの実証 分析結果は、オーソドックス・ビューに立脚する金融政策論に対するアンチ・テーゼを投 げかけるもので評価に値する。
金融政策の実質GDPへのショックに非対称性があるという実証分析は、現在日本銀行が 採用している金融政策を評価する一材料を提供している意味でも興味ある分析と理解でき る。
Ⅳ 修正論文の加筆条項
審査委員は、予備審査報告書で指摘したように8点の修正事項を指摘した。それに対し 申請者は全てについて適切な修正を施した論文を提出した。2006年2月1日に行った口頭試 問に際し、修正点に関する審査委員からの様々な疑問・見解に対し極めて的確な・評価で きる回答をした。尚、口頭試問では修正事項を含め論文全体の内容に関しても改め質疑・
応答がなされた
筆者は、審査委員からの修正要求事項以外の項目について下記のように加筆している。
①4章、7章で単位根検定をやり直し、PP検定とKPSS検定を追加した。
②7章の分析期間をデーター入手可能な2004年2四半期にまで延ばし、他章の分析期 間に合わせた。
③8章インパルス応答関数の反応期間を約500四半期に延長し、その結果の内生的貨幣 供給理論の妥当性について追記した。
④予備審査報告書で審査委員が提起した要望事項を理解した上で、筆者が研究者として 今後課題とすべきことについて9章の内容を明確化した。
審査委員は、筆者の修正・加筆点は適切であり、本論文の評価を向上させていると判断
する。
Ⅴ 結論
審査委員は、本学位申請論文は早稲田大学大学院経済学研究科が課程博士号(経済学)
を授与するに値する論文である、と認めることに全員一致で合意する。