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『長時間労働と法律』

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Academic year: 2021

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2019 年度過労死防止啓発講演会

日時:2019年11月28日(木) 8:50~10:30 会場:立教大学 池袋キャンパス 11号館 AB01教室

労働問題・労働条件に関する啓発授業

『長時間労働と法律』

講師 中村 優介 氏(江東総合法律事務所/日本労働弁護団事務局次長)

木谷 晋輔 氏(東京過労死を考える家族の会)

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■過労死・過労自死と法律実務

日本労働弁護団事務局次長 弁護士 中村 優介

【身近に潜む労働問題】

○中村:今日は身近に潜む労働問題ということで、これから皆さ んが働くに当たって、どういうことが長時間労働につながってい ってしまうのか。また、過労死・過労自死の実態をぜひ知ってい ただき、それから、私の後にお話しいただく木谷さんから、実際 の体験を聞いていただいて、学んでいただきたいと思っておりま す。

<「過労死等」とは>

まず、過労死とは何か。 「過労死等」には定義があります。2014 年に過労死等防止対策推進法 という法律ができて施行されていますが、この法律知っているという人、どれくらいいますか?

「過労死等」というのは、この過労死等防止対策推進法という中で定義されているのですが、そ の2条の中に、①業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡。

ここはいわゆる過労死というくくりです。次に、②業務における強い心理的負荷による精神障害 を原因とする自殺による死亡が自死ですね。又は③これらの脳血管疾患もしくは心臓疾患もしく は精神障害ということで、ここは死亡が入っていませんが、 「過労死等」とくくられた場合は、

過労死、 過労自死、 過労によるこういった障害が残ってしまうということが含まれているのです。

このように定義は①過労死、②過労自死、③過労によって脳血管疾患、心臓疾患、精神障害を起 こしてしまった場合の3つに分けられます。

この法律は過労死の認定のための法律ではなく、その過労死等を防止して、その防止のために 対策できることは何かということを考えていくための法律なので、いわゆる実体法ではないので す。

過労死等について、その発生した後のことについて考えていきます。まず、過労死等で労働災 害の場合です。労災が発生したら労働者災害補償保険法という法律のもとで、その申請をして、

労災認定を受けるということがあります。民間の場合、働く人(労働者)と雇う人(使用者)が いて、ここに雇用契約があります。労災保険の場合は、保険料を使用者が政府(労働基準監督署)

に納付します。

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<労災認定について>

労働災害が発生した場合、これは過労死だけに限らず、例えば通勤途中に事故に遭ったとか、

働いている最中に、床の掃除をしていて滑って転んでしまったということも労働災害に当たる可 能性はありますが、発生したときには、労働者が政府機関に対して支給の申請し、その支給申請 に対して政府が決定をします。認容決定なのか、却下決定なのか、どちらか決定をすることによ り、認容決定が出れば保険金が支給されるという仕組みです。

では、労働者が会社に対してどう責任追及するのか。会社に対しては、安全配慮義務違反とい うことで、別途民事訴訟を起こすことになるという仕組みです。

例えば労働基準監督署が労災認定をせず不支給決定になった場合には、その行政処分に対して 処分取り消しの訴訟を起こしたりすることもあります。 このように争い方としては大きく分けて、

労災の保険金の支給決定と、会社に対する安全配慮義務違反、2つのルートがあるということに なります。

その過労死等についてですが、原因として挙げられるのが大きく3つあります。①長時間労働、

これは働き過ぎです。次に、最近よく出てくる②ハラスメントです。それから、③職場環境で悩 んでしまうとか、仕事が過密であるということも原因になってきます。③職場環境や仕事の状況 というのは、大まかには①長時間労働や②ハラスメントの方に収 斂

しゅうれん

されていくことが多いのです が、大きくはこの3つに分けられるということになります。

「過労死等」とは (発生とその後)

・過労死等は、 「労働災害」

※労働者災害補償保険法

※「法」は、実態把握のための調査研究及び防止対策推進

・「労働災害」認定のためには…?(民間の場合)

支給申請

決定

政府(労働基準監督署)

労働者 使用者 災害発生

保険料の納付

安全配慮義務違反

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その労災の認定基準について、脳・心臓疾患は体自身の問題、精神障害は心から体自身に行っ てしまう問題の 2 つがあり、脳・心臓疾患については、 「発症前1カ月間に残業時間が 100 時間を 超えている、または発症前2カ月ないし6カ月前に残業時間 80 時間、平均で超えている場合」と いうことになっています。一方で精神障害は、 「一定の精神障害発症前のおおむね6カ月間に、客 観的に当該障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷」というものが、行政上の 基準になっています。これはあくまで行政上の基準ですから、裁判上の基準ではないのですが、

行政上の基準が労災認定の基準になっていますので、まずはこれを参照することになります。

ところで、脳・心臓疾患についての「1カ月 100 時間」 「2カ月ないし6カ月の 80 時間」はど こかで聞いたことありませんか。 労働法の授業で労基法 36 条という法律があったのを皆さん覚え ていますか。いわゆる 36(サブロク)協定というものです。まず前提として、労基法 32 条にあ ります労働時間のルールは1日8時間と週 40 時間です。 労基法 36 条に基づく労使協定を結べば、

この8時間、40 時間の枠を超えて残業させることができる、それが 36 協定でした。

その 36 協定の中に、これまでは時間外労働の上限はなかったのですが、2018 年の通常国会で

「働き方改革関連法」が成立し、その中で労働基準法が改正されたことによって、上限規制とい うものが初めてできたとマスコミ等で報道され、皆さんもご存じかと思います。それが労基法 36 条の6項2号と3号になります。6項2号は1カ月 100 時間未満。6項3号は2カ月ないし6カ 月の間で平均が 80 時間を超えないということが、 罰則つきで時間外労働の上限となったのです。

ただ、労災ということから考えると、その上限規制は本当に十分なのかという問題があり、私 たち日本労働弁護団は反対をしていました。時間外労働が 80 時間、100 時間という枠はできたの ですが、労災認定基準も同じ 80 時間、100 時間の時間外労働です。行政は心身に大きな影響を与 える可能性があるということで労災認定基準を設けたのですが、上限規制がそれと同じ時間でい いのかということで、私たち日本労働弁護団は反対の運動をしていました。

「 過労死等」とは (労災認定)

<原因>

①長時間労働 ②ハラスメント ③職場環境や仕事の状況

<労災認定基準(行政)>

・脳・心臓疾患(平成 13 年 12 月 12 日基発 1063 号)

➡①発症前 1 か月間に残業時間 100 時間超え

②発症前 2 ないし 6 か月間に残業時間 80 時間超え ・精神障害(平成 23 年 12 月 26 日基発 1226 第 1 号)

➡一定の精神障害発症前おおむね 6 か月の間に、客観的に当該 障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷

労基法

36

6

2

号 及び同条

3

号参照

労働時間数も

重要ポイント

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次に精神障害の方です。おおむね6カ月の間に客観的に当該障害を発病させるおそれのある業 務による強い心理的負荷とありますが、この中の1つ、労働時間数も重要なポイントとなります。

やはり客観的な証拠による認定ということを、行政も司法も重視しますので、どういう労働実態 があったのかということを調査するに当たって、労働時間がポイントになってくるのです。

精神障害の場合における時間外労働の時間数ということで、1カ月平均別の労災支給決定の件 数表を見てみます。平成 30 年度を見てみると、この赤枠内が 80 から 140 時間ですが、これが合 計で 45%になっています。

月の残業時間である 80 時間、100 時間ですが、皆さん大体どれくらい残業しているか想像でき ますか。朝8時半から休憩1時間入れて8時間働くと大体夕方5時半ですね。100 時間、仮に残 業すると、1カ月の働く日は大体 22 日として、1日の残業時間は 100 時間を 22 日で割ると、1 日当たり大体 4.5 時間ぐらいなので、5時半から 10 時まで残業しないといけないのです。夜の 10 時まで働き、通勤時間が大体1時間とすると、帰宅時間が 11 時になります。そこから風呂入 って、ご飯食べて、寝るのは大体0時です。そして朝起きるのが6時でしょう。こんな生活が毎 日毎日続くということをちょっと想像してみてください。これがリアルな時間外労働の実態です。

あくまでもこれは想像上のもので、実際にはもっと過酷だと思います。これに更に土日の残業が 加わるので、月の残業時間 80 時間、100 時間はなかなか大変だということが、実感できるかと思 います。

45%

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【過労死等の実態】

次に、過労死等の実態についてです。まず、過労死事件が起こると私たちは何をするかという と、労災の認定を取りに行きます。労災認定が取れれば、労働災害であるということを前提に、

裁判の中で使用者に対し安全配慮義務違反を理由にした損害賠償請求がしやすくなります。この 労災請求、労災申請の件数の推移としては、平成 30 年度末で 877 件と、ここ5年ぐらい、ずっと 増え続けているという状況です。877 件がどれくらい多いかというと、このグラフで一番多かっ たのは平成 18 年度で、938 件とありますが、ちょうどこの時は景気が悪くなっていたときなので、

その前からの分が請求として多かったのだろうと想像できるところではあります。

続いて、実際認定される件数を見てみましょう。平成 30 年度、青いグラフの支給決定件数が 238 件、その下赤いグラフは労災死の支給決定件数で 82 件です。このように、労災請求しても、

労災認定が通りにくいということがわかると思います。さらに、死亡の事例が認定されるのは 82

件しかなく、実際に労災死だと訴えたとしても、それが通らないということが、現状でもあるの

ではないかと思います。このことも考えると、実際の労災案件はそれ以上にたくさんあり、82 件

というのは氷山の一角と言えると思います。

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次に、精神障害による労災請求件数の推移です。平成 30 年度末で 1,820 件。これはずっと増え 続けています。最近、働くことによってメンタルを崩してしまうという人が多いのですが、実際 にこれが年々上がっているというような状況になっています。

では、この請求に基づく支給決定の状況を見ると、平成 30 年度の支給決定件数は 465 件、うち 死亡(自殺)は 76 件となっております。29 年から 30 年度にかけて請求件数は増えているのに、

認定件数は減っています。これはいろいろなことが考えられます。例えば行政の判断が厳しくな ったということも考えられますが、一方で、単純に去年は認定を出さなかったということもある かもしれないので、一概には評価しづらいところでもあります。

<過労自死について>

さて、その「自死」についてちょっと考えてみます。これは労災ではなく、自殺者数の推移で

す。大体年間にどれくらいの人が自殺をしているかをグラフであらわしたものですが、総件数(棒

グラフ)20,840 件、そのうち勤務問題を原因の1つとするもの(折れ線グラフ)が 2,018 件。この

ように、さきほどご紹介した労災に関する自死や、労災死、過労死が労災認定されている件数と

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比べてどれくらい少ないかということが、想像できると思います。

【長時間労働の実態】

次は過労死・過労自死の原因の1つである長時間労働の実態です。

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日本人は働き過ぎだとよく言われますが、グラフを見てみると、労働時間数はずっと減ってい ます。総労働時間が青、所定内労働時間が赤のグラフですが、いずれも減っています。一方で着 目したいのが緑のグラフで、これは所定外労働時間(残業)で、ここ5年ぐらいは増えている傾 向にあります。この調査にはパートタイム労働者、つまり勤務時間が短い人の労働時間も含んで いて、ここにからくりがあるのです。

次のグラフで一般の労働者とパートタイム労働者を分けてみると、一般労働者の労働時間数

(青)はずっと変わっていませんが、パートタイム労働者の労働時間数(赤)は減り続け、一方 で、パートタイム労働者の比率(緑)はずっと増え続けているのです。つまり、さきほどの第 1-1 のグラフの、労働時間数が減っている主な要因としては、パートタイム労働者が増えていること も一因にあると思われます。正社員の数が減っており、いわゆる非正規の人が増えているという ことが背景にあり、正社員の労働時間はほとんど変わっていないのです。

このような実態に対応するために、労働基準法の改正が行われ、時間外労働の時間数に罰則つ きで上限を設けたのが労基法 36 条6項でした。ただ、幾つか例外職業はあります。特に問題にな っているのは医者、自動車運転者、そして今話題になっている教員です。

医者については、労基法の附則 141 条に、時間外労働の時間数については厚生労働省で基準を 定めるとなっております。その厚生労働省の特別部会の直近の議論では、医者は年間 960 時間。

地方など医者が足りないところは 1,800 時間までという基準にしたいという方向で議論がされて

います。タクシーやバスの運転手などの自動車運転者については、年間で 960 時間。これは時間

外労働の上限規制で、休日労働はまた別です(労基法附則 140 条) 。年間 960 時間がどれくらいか

というと、1 カ月当たり 80 時間の残業時間です。それに休日労働はまた別に入るというので、 1,000

時間は軽く超えてしまうという実態が残ってしまうということになります。

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私は、タクシー運転手の労働組合の顧問をしておりますが、タクシー運転手の働き方を見てみ ると、朝7時に会社を出て夜中の3~4時に戻ってくるという、いわゆる変形労働時間制をとっ ていて、働く時間がこのような状態なので、突然死も多い状況です。さらに営業しないと、歩合 給制度なので給与が上がらないということも相まって、長時間労働になりやすいのが実態です。

そして、今話題になっているのは公立学校の教員です。皆さん、Twitter などで見たことあり ますか。公立学校の先生の場合、 「給特法」とよばれる「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給 与等に関する特別措置法」があり、一部の労働時間規制が適用除外です。中でも一番大きいのは 割増賃金制度(労基法 37 条)の適用除外です。こういった中で、教員はきちんと休みをとれない ので、夏休みに休日のまとめ取りをするなど、1年間の変形労働時間制をできるようにしようと いうことが、国会で議論されています(2019.12.4 一部改正可決)。

1年間変形労働時間制については、所定労働時間を1年間全体で何時間として、あとは自由に できるという感じです。例えば学校の先生だと4、5、6、7月にしっかり働いて、8月にまと めて休めるようにするということですが、実際には8月に出校日などがあるので、学校の先生は 本当に休めるのかという問題もあり、1年を通して労働時間の枠を外すようなことは危ないと言 われています。必ず労使協議をやらないといけないとか、労基法のルールではなくて条例で決め るとか、こういうことが今、問題になっているのです。ぜひこういった問題について Twitter な ども見ていただければと思います。

一方で働き方改革関連法では、年次有給休暇の取得について、使用者に対する付与の義務付け 制度(時季指定)など、労働者をきちんと休ませるということが法律で義務づけられました。ま た、働き方改革の中で労働安全衛生法という法律も改正されまして、労働時間の状況を把握する 義務が事業者にあるとされました。具体的には、タイムカードだけではなく、パソコンのログイ ン・ログオフの時間をきちんととっておくということがあります。

それからもう一つ、ワーク・ライフ・バランスの観点から、労働時間等設定改善法が改正され、

企業にインターバル規制を導入するよう、努力義務ですが義務づけられました。インターバルと いうのは、働く時間が終わってから次の始業時間までの空き時間のことを言うのですが、ヨーロ ッパの基準だと 11 時間となっています。

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【ハラスメントの実態】

次に、もう一つの過労死等の原因になっているハラスメントの実態についてお話します。まず このグラフです。仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる労働者の割合です が、58.3%の人が、仕事、職業生活に関して不安を覚えているということです。

次の悩みやストレスの内容についての問いに、一番多かった回答は“仕事の量や質を求められ る”62.6%。 “対人関係(セクハラ、パワハラを含む)”は 30.6%となっています。労働側の弁護 士が相談の中でよく聞かれるのは、 「時間を削られても仕事の量は変わらないのですが、どうすれ ばいいですか。 」ということです。そしてもう一つ、ハラスメントも今、1つの大きな問題であり、

これが労災の原因、過労死等の原因になっているというような実態があります。

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どれくらいハラスメントが増えているのかですが、これはいじめ・嫌がらせの割合です。個別 労働紛争相談件数といって、労働局が実施しているものですが、これがずっと増え続けており、

昨年が 82,797 件で、全相談のうちのトップということになっています。

ハラスメントにはいろいろな種類があり、よく耳にするのは『パワハラ』 『セクハラ』 『マタハ ラ』の3つです。パワハラについては法律の規制はなく、2012 年 3 月に開かれた、「職場のいじ め・嫌がらせ問題に関する円卓会議」で提言された、こういうものがパワハラに当たるという、

いわゆるパワハラ6類型というものがあります。

参考 URL☞ハラスメントの類型と種類|ハラスメント基本情報|あかるい職場応援団 -職場のハ ラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-

セクハラ、マタハラについては、雇用機会均等法9条で結婚、出産、妊娠を理由とする不利益取 扱いは禁止されております。例えばこれを理由に解雇すると、その解雇は無効になるくらい厳し い規制になっております。また、事業主に対しては、窓口を設けるなどの「防止措置義務」をと ることが定められておりますが、これは努力義務となっております。

また、ハラスメントについては、パワハラ以外にも、最近よく目につくのが、カスタマーハラ

スメント(お客様からのクレーム)、SOGIハラ(LGBT・性的マイノリティの方々に対す

るハラスメント) 、就活セクハラです。就職活動の場でも大変なことが起こっているというのが

実態としてあります。また、いろいろなハラスメントがあり、パワハラも含めた規制を私たち労

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働側はずっと求めていたのですが、2019 の通常国会で労働施策総合推進法という法律が改正され ました。パワハラの定義は、 「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業 務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と、抽象的ですが定義づけられ、事業主に相談センター を設けるなどの「措置義務」を課す法律はできました。また、パワハラ、セクハラ、マタハラに ついて、行政上の指針として、こういうものがパワハラ、セクハラに当たるということが、今、

議論されています。

2019 年6月には、ILO(国際労働機関)の総会で創立 100 周年の条約が採択され、職場、職場 以外でのあらゆるハラスメントの禁止を求める条約というのが採択されました。これは日本政府 も賛成をしておりますが、日本では使用者側が反対をしていて、まだ批准はされておりません。

また、先ほど紹介したパワハラ指針案及びセクハラ指針改正案について、行政手続上のパブリ ックコメントに付していますが、この指針案が不十分なため、私たち労働者側に立っている日本 労働弁護団は声明を出しています。

参考 URL☞

パワハラ指針案及びセクハラ指針改正案に対する意見書を発表しました! | 日本労働弁護団

例えば、この指針の中にある「優越的な関係」という定義は、上司の部下に対するものを中心 にしているのですが、同僚間同士や、部下から締め上げられる上司のパワハラはないのか。また、

パワハラに該当する例と、該当しない例を挙げているのですが、 「一定程度強く注意する範囲」と なっており、抽象的な表現が指針になっているのです。日本労働弁護団での声明では、使用者の 弁解カタログではないかと批判をしたところであります。

【最後に】

最後に、私が実際にどういうことを悩みながら仕事をしているかお話したいと思います。

過労死等の実態については、 「長時間労働」と「ハラスメント」この2つの原因があり、長時間 労働も本当に悩むことが多いです。実は、労働時間の記録がないことが結構あるのです。大体、

タイムカードやパソコンのログイン・ログオフ、また、スマホの GPS 機能を使って、スマホのア プリを入れることで、自分がどこにいるかを全部記録したり、GPS を使った Google のロケーシ ョン履歴などの機能もあるのですが、そういった機能を知らずに記録できていないということが 結構あります。よくメールのやり取りを使いながら、労働時間がどうだったのかを見ていくので すが、労働時間は1日ずつ全部見ていかないといけないので、1~2日分だけのデータがあって 他の日は全くない場合は、調査してもどれくらい働いたのかわからなくなってしまうので、そう いうところが大変だと思います。

その他では、よくある会社側からの反論で、タイムカードは確かに 0 時に押しているが、仕事

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は 22 時に終わっていたので、勝手に会社にいただけじゃないか、寝ていた、サボっていた、遊ん でいたなどとよく言われます。PC のログイン・ログオフだと、パソコンの不具合でずれていた のではないかと言われることがあります。

長時間労働の方は、まだ客観的証拠が残りやすいのですが、ハラスメントはもっと大変です。

客観的な証拠を集めるためには、録音することが一番ですが、相手から突然何を言われるかわか らない状況でずっと録音し続けることは難しいので、この場合は、関係者の方から陳述書という ものを作ります。職場の仲間の人に、手伝ってもらいたい、裁判所に一緒に来て欲しいとお願い することもあります。最終的に、裁判所での証言をお願いする場合もあるのですが、もうかかわ らないで欲しいと言われ、どうしようもない時にはしんどいと思うことがあります。対処法とし て考えられるのは、スマホを使って録音することです。また、最近の裁判でもありましたが、家 族や恋人と LINE でやりとりした「今帰ります」 「今から出ます」といった履歴から労働時間を認 定されることもあると思います。証拠保全という、 民事訴訟法上で手続きをとることもあります。

また、いざというときに相談できる、頼れる人を職場でつくることが大事で、労働組合をつくっ て会社と交渉できるようにします。その交渉で大事なことは、記録をきちんととってほしいので す。交渉する前に、事前にあなたはどういうことを会社に対して求めるのか、きちんと自分がや りたいことをメモしておき、会社の人と話します。会社の人が、 「いや、そんなことはない」等と 言うやりとりの中で、何かポロっと言うことがあり、その言葉を使って証拠にするということが あるのです。記憶ではなくて記録として残っているということが、私たち弁護士としてはとても 大事だと思っております。

○司会:中村先生、どうもありがとうございました。

過労死・過労自殺のところで、自殺の問題で一言だけ加えると、日本での自殺者数の総数は平 成 10 年から3万人を超えていた時代が長かったのですが、最近減ってきて平成 30 年度では約2 万人です。その中で仕事を理由にして亡くなった方の認定というのは、遺書が残っていた場合等 の推計なので、本当はもう少し多いかもしれないのですが、約 2,000 人ということになります。

一方で、日本での交通事故死は何人ぐらいかわかりますか。自殺する人が年間2万人に対して、

交通事故はどうでしょうか。大体 4,000~4,500 人ぐらいです。5,000 人超えていた時代もありま したが、今は少なくなっています。つまり日本では、交通事故で亡くなる人よりも自殺・自死を 選ぶ人が実は4~5倍いるという、そういう社会なのです。その深刻さもよく知っておいてほし いと思います。

次に「東京過労死を考える家族の会」の木谷晋輔さんにお話をいただきます。木谷さんは、大

手電子機器メーカーの子会社の元システムエンジニアとして働かれていて、同僚の方、それから

ご自身でも過労の問題に取り組んでこられた方です。お願いいたします。

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■ワークルールを学ぶ意義

東京過労死を考える家族の会 木谷 晋輔

○木谷:僕は大手電機メーカー子会社の元システムエンジ ニアをしていました。同期同僚で同じ部署に入った仲のよ い友人がいましたが、友人は仕事をしている中で病気にな り、僕自身も病気になりました。そして、友人は過労死し てしまい、僕は後々、会社を退職することになってしまっ たという経験があります。みなさんには、僕や友人のよう にならないためにはどうしたらよいのかということでお話 しさせていただきます。

【過酷な長時間労働の実態】

僕が入社した 2002 年は、当時「e-Japan 計画」という政府の方針があり、例えば光ファイバー などの超高速インターネットの整備や、住民票などの電子申請の推進、インターネットや IT 化を 進めていくために、国全体のプラットフォームが進んでいました。その中で僕が担当したのが、

省庁向けの電子申請システムのプロジェクトで、僕は厚生労働省や総務省、金融庁、財務省など の省庁を担当しましたが、その中で個人的に一番厳しかったのは総務省の時代でした。

この頃の担当はシステムテスト工程で、本番直前の最終チェック段階の仕事でした。この段階 できちんと障害が起こらないような状況にしないと、例えばメガバンクがシステム障害を起こし てしまうなど、大変なことが起きてしまいますし、特に総務省というのは国のシステムなので、

大変な中で仕事をしていました。このとき、僕はまだ新人でしたので、初めのうちはテスト仕様

書の通りにきちんと動くかどうか動作チェックして、動かなかった場合、どこがどうなのかなど

の比較的簡単な作業でした。しかし、システムテストをするための環境をつくったり、運用や保

守を担当したりと、いろいろな仕事を紆余曲折あって任されることになってしまい、本来は数名

でやるべき業務を1人で行っていました。保守の担当がいないと、何かトラブルがあったときに

システムテスト自体ができなくなってしまうので、保守や運用の担当は必ずいなければならない

のですが、自分がやってみたらできてしまったために、任されてしまったのです。さらに、開発

の品質が非常に悪く、リリース直前の最終テスト段階で問題がたくさんあると、顧客である総務

省に出すことが出来ないため、何が何でも直さないといけないということで、勤務体系も 24 時間

2交代制になっていきました。朝組と夜組に分かれ、朝組は朝9時から夜 10 時まで、夜組は夜9

時から朝 10 時までが定時という形になり、僕は夜組に入りました。労基法では1日8時間、週

40 時間というのが労働の目安ですが、このように 13 時間拘束が定時となり、1時間休憩を引い

ても 12 時間拘束というような状態でした。僕の場合はさらに残業するという状況でしたので、労

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16 / 26 基法も関係ないという状態でした。

右はこの頃の残業時間推移表です。e-Japan の厚生労 働省も 135 時間と結構厳しいのですが、e-Japan の総務 省では 100 時間を超えるのが3カ月ぐらい続いています。

僕の場合、労働時間の正確な資料が残っていないため、

この時間外労働時間は、銀行の預金通帳の記録をもとに、

振り込まれた額から計算して、大体の残業時間を出した ものです。

この円グラフは僕が働いていた会社の社内報で掲載されていた 10 年目社員の標準的な働き方 ということで掲載されていたものです。これをよく見ると、朝の9時に出勤して夜 11 時に退勤し ています。労基法上、1日8時間以上労働する場合は、1時間の休憩を取らないといけないので すが、この会社の場合は、休憩時間は①昼 12:10-13:00(50 分間)②夕方 17:40~18:10(30 分間)

③夜 22:00-22:30(30 分間)、さらに深夜にも休憩がありました。そのため、社内規則上の休憩時 間を差し引くと、1日の労働時間が 12 時間で、1日残業時間が4時間 10 分、1カ月大体 85 時間 ということなので、うちの会社の場合、100 時間を超える残業というのは、22 日間、朝9時から 夜 11 時まで仕事をして、プラス徹夜をどこかで入れたり、休日出勤を入れたりしないと 100 時間 は届かないという感じです。ちなみに、このくらい長時間働く状況のときは、実際は昼休憩には ご飯は食べますが、その他の休憩時間は実際休んでいないので、結局、社内規則上の休憩時間は 実質ただ働きになっているというのが実情になります。

年月

月あたり 時間外労働

(時間)

担当 2002年8月 56.12

2002年9月 135.47 2002年10月 57.85 2002年11月 45.72 2002年12月

54.65 2003年1月

154.21 2003年2月

154.21 2003年3月 101.10

e-Japan 厚生労働省

e-Japan 総務省

仕事: 会社に着いて缶コーヒーを一杯。仕 事に入る。休憩なしで残業。終電を 気にして追い込み。週に一度の徹 夜、休日なしで毎日出勤のことも。

通勤: 帰るコールで妻に夕食を注文。帰り の電車でマンガを読む。この時だけ は仕事から解放される。

帰宅後 : 24 時前に夕食が食べられれば幸せ

スポーツニュースを見ながらおや

すみなさい。

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この状況で働いていると、いつの間にかメンタルをやられてきます。1月は時間外労働が 154 時間ですが、このときの日記では、「突然ですが。死にそうです。」と書いていました。

夜シフトなので、21 時から 34 時が定時となっていて、そこからさらに残業なので、徹夜という か徹昼という状況で、勤務時間も 21:00-45:00 となります。これは「昨日も寝ていません。 」と書 いているとおり、徹夜して、さらに多分仕事中の、どこかの明け方の合間とかに書いているよう な文章です。2月になると、もう曜日感覚がだいぶなくなっていて、3月になると、もう何か生 きていてもどうなどと書いていて、ますます本格的にやばい状態になっています。ここまでが、

僕が病気になっていくまでのプロセスになっています。

一方、同僚も同じように入社してきた当時、会社で e-Japan の電子申請システムと 2 大ビック プロジェクトだった地上波デジタル放送のシステムのプロジェクトを担当していました。今、テ レビはデジタル放送ですが、昔は東京タワーからアナログ波が出ていて、それをアンテナで受信 してテレビは映っていたのです。それをアナログからデジタルに変えてくプロジェクトでした。

【SE 業界の死の行進~友人の死~】

次に紹介するのは、 “SE 業界「死の行進」”というタイトルの朝日新聞の記事で、友人に関する 記事になります。1つのフロアに大人数すし詰めで、当日は社外も含め 200 人以上の SE が集まっ ていました。

<日記>

2003/1 突然ですが。

死にそうです。

ここのところ、休日という概念が存在していません。

というか、21:00-45:00というありえない時間になって少し笑えます。

昨日も寝てません。

いや、意識は微妙に飛びましたが。

とりあえず、今日は早く帰れるそうです。

家賃を支払い忘れている気がしますが、んなもん払う暇があったら布団で丸まりま す。

2003/2 (休日出勤した午前5時頃会社から)

今日は何曜日でしょう。

今は何時でしょう。

なんか変な今日この頃です。

2003/3

時にそれが真実であるかどうかということは問題ではないことがある。

あまり気分のよくないものだ。

いつどこにでも転がっている話であったりもするのだが。

直接ふれたわけでもないのだが。

生きていても別にいいことはないかもしれない。

死んでも別にいいことはない。

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当時の社内報でも、「労働環境は最悪で、大体1人当たり 80 センチで狭く暑い」と書かれていま

すが、狭い場所に人がたくさん詰め込まれているので、空調が効かないのです。社外からたくさ

んの人を集めてきているので、新しい椅子を用意する経費も時間もなく、会議室に折り畳み椅子

という中で仕事をしていました。また、後々裁判をすることになるのですが、会議室の二酸化炭

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素の濃度が基準値を超えていたり、さらに終電がなくなったら、パイプ椅子を並べてその上に寝 たりという状況でした。この時上司は、タクシーチケットを使って帰っていたというのが、後々 裁判の証言でわかったことでした。

このプロジェクトは何が大変だったかというと、仕様変更がとても多かったことです。仕様変 更とは、1回注文したものを途中で内容を変えることです。ラーメンを例に挙げると、しょう油 ラーメンを注文されるとしょう油ラーメンをつくります。そこでチャーシューの追加注文が来る、

これも仕様変更です。でもチャーシュー追加であれば、チャーシューをトッピングすればいいの ですが、そこまで作ったところで、チャーシュー麺やめてみそラーメンにしてくださいと言われ た場合は、スープだけ入れ替えるわけにはいかないので、つくったものを全部捨てて、もう一回 つくり直すしかなくなってしまいます。そのような仕様変更がこの地上波デジタル放送のプロジ ェクトではよく起きていたのです。地デジ化も国策です。当時、地デジ化直前の頃は、総務省が テレビで、 「二千何年何月何日、地デジが始まる」とCMを一斉に打ち、地デジ化の対応を遅らせ るわけにはとてもいかないという雰囲気でした。地デジ化の対応はテレビ局ごとに進めているの で、ほかの局は終わっているのにうちの局だけ終わっていないとなると、大手キー局ではとても 話にならないくらい大問題になるので、いくら仕様変更があっても納期は絶対に変わらないとい う状況の中で仕事をしていました。

では、現場はどうなるかというと、当然、長時間労働になります。新聞記事には、 「2003 年4 月 103 時間、7月で 98 時間以上の残業時間」と書いてありますが、ここで書いている時間外労働 の 130 時間というのは、月の1日から月末までを単位として区切る場合で、月の中間部分の最も 多いところにスパンを当てると、うつ病発症前の1カ月の労働時間は 296 時間 57 分、時間外が 128 時間 57 分、約 130 時間の時間外をしていました。その中でも、ある日のタイムカードは朝9 時に出社して、32 時 30 分に打刻していました。32 時 30 分とは、徹夜して翌朝の8時半のことで す。そして、その 30 分後にまた出勤の打刻があり、退社が 21 時 54 分なので、朝9時から丸一日 徹夜をして、さらにその日の夜 10 時まで仕事をしていたというような状況がありました。僕が1 月の日記に書いていたのと同じような状況が発生していたのです。

結局、 友人もやはり精神を病んでしまって、 休職と復職を繰り返すようになってしまいました。

彼の母親は「会社を辞めたら」と説得したのですが、亡くなった同期の西垣さんは、 「うつなのは 他の人も同じだ。働きながら治すしかない」と言い、薬を飲みながら仕事をしていました。ちな みに、 「うつなのはほかの人も同じ」とは、当時の上司が言い始めた言葉で、自分たちもそういう ものなのだと思って仕事をしていました。

しかし、友人は治療薬を過量服薬してしまい、その結果、重篤な副作用が発生して、そのまま 帰らぬ人となってしまいました。結局、たくさん仕事をしてうつ病になってしまい、その結果、

薬をたくさん飲んで死んでしまったので、これは労災に違いないと、友人の母親は労災の申請を

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することになります。その結果、行政では不認定で、裁判で認定されるということになりました。

しかし、地裁で認定されたのは、それから5年間もかかってのことでした。

皆さんはなぜそれほど死ぬぐらいまで、追い詰められるほど仕事を頑張ってしまうのかと思わ れると思います。僕自身も昔は、 「過労死と言うけれど、そうなるまで仕事をしないで会社を辞め ればいいのに」と思っていました。しかし、我々の時代は就職氷河期でしたので、僕や友人の場 合、やはり会社は辞めづらく、 「辞めてしまったら次の仕事が決まるのはいつになるのだろう」と いう不安がとてもありました。僕はそれなりに有名な大学を出ていますが、それでも就職が決ま らない時期がたくさんありました。そのほかにも、子どもがいるから稼がないといけない、ほか の人はもっと頑張っているからなど、人それぞれに仕事を辞められない、辞めづらい理由がある と思います。でも、もうこれ以上は無理だと思ったら会社を辞めればいいし、たとえ辞めなくて も、休みをとる、部署異動を希望するなど、何らかの措置をとることを普通の人は考えると思い ます。しかし、実際に長時間労働をしていると、そういった当たり前のことが考えられない状況 にいつの間にかなっているということがあるのです。普通なら、そんな無理する必要ないし、会 社を辞めたほうがいいと考えるところが、追い込まれてしまうと、今、目の前の仕事をしないと いけないと思い、そのために何が何でも頑張らないといけないと、いつの間にか他の選択肢が見 えなくなってしまうのです。このような状況にならないためには予防することが一番で、そこま で追い込まれてしまう前に、ある程度どこかできっちりとラインを決める、また、自分一人で考 え込まないで、なるべくまわりの人にも聞いてもらうなどの対応がとても大切になってきます。

友人は治療薬を過量服薬して亡くなりましたが、 これは死にたいと思っているのではなく、今、

この状況を本当にどうにかしたいと思っているのです。変な話ですが、薬をたくさん飲むと、よ くわからなくなって、意識が飛んで寝てしまう状況になるので、とりあえず今、考えることをや めたい、恐らくそのぐらいの感じで薬の過量服薬をし、それが結果的には、彼が命を落とすこと につながってしまったのだと思います。必ずしも自殺と言われるものは、死のうと思ってしてい るものでもなく、死ぬ気がなくても、結果的に他人から見たら自殺にしか見えないような行為で も、実は本人としては、救いの手が目の前にあるという気持ちですがったら、それがたまたま死 につながっていたというようなことがあり得ることを、みなさんの心にも留めておいてもらいた いと思います。

【労災申請の難しさ】

友人は、地上波デジタル放送のプロジェクトに携わり、このような長時間労働時間の結果、薬 を過量服薬して亡くなりました。 彼の母親が労災申請をするのですが、 母親は兵庫に住んでいて、

友人は神奈川で仕事をしていましたので、当然、どういう仕事ぶりをしているか直接見ることは

ありませんでした。息子の状況がよくわからない中で、突然会社から息子が死んだという連絡が

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来たので、いったい何があったのか、どういうことだと会社に行くのですが、その時は「遺品で す」と言われて渡されたものを持ち帰るだけでした。僕はその友人のお葬式で彼の母親に会い、

いろいろ話をしましたが、そのときは全く労災の申請を考えているような状況ではなく、ひたす ら魂が抜けた状態という感じでした。会社側からも初めは、息子さんを亡くして申し訳ない、と いう話が出て、その後、会社側ともいろいろとやり取りが出てきました。実はその友人はブログ を書いていて、それは結構な分量で、薬を何錠飲んだとか、今、どういう気分だということを、

亡くなる直前にも赤裸々に書き残していたのですが、会社の取締役が彼の母親に、 「いろんなこと を書いているけど、絵空事を書いているような感じがするんですよね」とポロッと言ったそうで す。つまりそれは、自分の息子が勝手に死んだというようにしたいのだと母親は受けとり、その 怒りが原動力になって労災の申請をすることにしたのでした。

素人なので、まずは弁護士に依頼するのですが、労災の申請にはいろいろと認定基準がありま す。ここに「長時間労働がある場合の評価方法」があります。これは精神の労働災害が発生した 場合の労働時間に関する認定の基準です。

精神の基準にはいろいろな基 準がありますが、一番客観的 なのは労働時間なので、労働 時間がわかると、比較的認定 されやすいです。具体的に時 間でいうと、1カ月 160 時間、

3週間で 120 時間。1~3カ 月では、2カ月連続で 120 時 間、3カ月連続 100 時間とい うものがあると、まずそれだ けで認定が取れることはあり ます。当然、友人の母親は知 るわけもなく、まずは弁護士 のところに行って、申請をど うしたらいいかと尋ねました。

弁護士も考え方がいろいろで、

そこの弁護士は、裁判になっ てからが仕事と思っているタ イプだったため、 「まずは申請 をしてください」と言われ、

●長時間労働がある場合の評価方法

「厚生労働省 精神障害の労災認定」より抜粋 長時間労働に従事することも精神障害発病の原因となり得ることから、

長時間労働を次の3通りの視点から評価します。

① 「特別な出来事」としての「極度の長時間労働」

発病直前の極めて長い労働時間を評価します。

【「強」になる例】

・発病直前の1か月におおむね 160 時間以上の時間外労働を行った場合

・発病直前の3週間におおむね 120 時間以上の時間外労働を行った場合

② 「出来事」としての長時間労働

発病前の1か月から3か月間の長時間労働を出来事として評価します。

【「強」になる例】

・発病直前の2か月間連続して1月当たりおおむね 120 時間以上の時間 外労働を行った場合

・発病直前の3か月間連続して1月当たりおおむね 100 時間以上の時間 外労働を行った場合

③ 他の出来事と関連した長時間労働

出来事が発生した前や後に恒常的な長時間労働(月 100 時間程度の時間 外労働)があった場合、心理的負荷の強度を修正する要素として評価し ます。

【「強」になる例】

・転勤して新たな業務に従事し、その後月 100 時間程度の時間外労働を 行った場合

上記の時間外労働時間数は目安であり、この基準に至らない場合でも、

心理的負荷を「強」と判断することがあります。

●評価期間の特例

認定基準では、発病前おおむね6か月の間に起こった出来事について評 価します。ただし、いじめやセクシュアルハラスメントのように、出来 事が繰り返されるものについては、発病の6か月よりも前にそれが始ま り発病まで継続していたときはそれが始まった

時点からの心理的負荷を評価します。

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母親が自分で申請に行き、病院に行った初診日を発病日ということで申請をしました。ただ、僕 も友人もそうですが、病院に行く前というのは、もう既に仕事にちゃんと通えなくなっている状 態でした。基本的に認定基準は直前6カ月間の労働時間としているので、病院に行った時期を基 準にすると、すでに仕事に行かなくなっている時期からの直前6カ月となるため、認定基準の労 働時間に足りず、これが大きなネックになり、行政では時間が足りずに駄目だとはねられるとい うことが起きました。労災申請は初めに行政(労働基準監督署)に申請するのですが、労基署で 駄目だった場合は、審査請求で労働局に持っていきます。この時点で母親は、有名な弁護士であ る川人先生が他の案件で労災を取ったということを知り、今度は労働の専門家である弁護士に替 えて挑んでいくことになりました。川人先生は最近では電通の過労死の事件等を担当されている 方です。

この労災認定には3つの問題がありました。最初の申請時点での発病時期というのがどうして もネックになってしまい、直近6カ月を取ったときに労働時間が足りずに、行政の判断はひっく り返りませんでした。そして次に、行政の「これは労災ではない」という支給決定は不当だとい うことで、行政に対して裁判を起こす行政訴訟に移っていきます。行政訴訟になると、国とはま た違って中立的な立ち位置で審査、判断する形になります。またいろいろと資料を出して会社と やり合っていくのですが、彼のように休職と復職を繰り返している場合はかなり難しくなります。

会社側は、 「休職しているから、 そこで病気は治っているじゃないか。確かに病気になっていても、

この休職した時点で治っており、労災だとしても、そこから病気になって休職するまでの間だ」

と主張してきます。彼の場合は、その後また病気になり休職し、復職した最中に亡くなっている ので、1回休職して復職しており、2回目の休職の直前には何も大変な仕事はしていないから、

これは全く労災ではないと会社は主張したのです。つまり、その復職を挟んでいても、労災とい うのは継続しているのかどうかというのが問題なのです。

2つめの問題は、先ほどの発病時期と労働時間の関係です。裁判の中で、国側の主張と原告側 の主張を争っていきました。労災申請があると、労基署から通院をしている医者にカルテの提出 を求めるのですが、実はなぜかその主治医がカルテの提出を拒否し、断固として出しませんでし た。しかし、裁判になり、裁判所から出すように求められた主治医から渋々提出されたカルテに は、きちんと「発病時期は何月頃だと思われる」と書いてあり、確実に認定基準に当てはまった ため、労働時間数的にはクリアとなりました。

先ほどの労災の継続性の問題については、医者の意見書と、実際に僕や同僚たちがその場で見 ていた様子から、休職後仕事に戻ったが、病気が治って戻ったというより、休職期間満了でクビ になるのは困るため、やむを得ず戻ったという状況だったという陳述書を、僕も含めてほかの同 僚たちも提出し、それで判断されました。

あと1つは、亡くなったときの状況です。彼は治療薬の過量服薬で亡くなっていますが、これ

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が自殺なのかどうかです。精神の疾患による自殺というのは、労災認定の基準には合致するので すが、この母親は、自殺かどうかわからないという主張をしました。自殺だと言えば、その方が すんなり通るのですが、僕も友人の母親もそうではないと思っていました。では、自殺ではなく ただの事故なのかという話になってくると、労災ではないという話にもなってきてしまうので、

ここもポイントでした。結局、裁判所の判断としては、 「発病に伴う薬物依存傾向がなければ治療 薬の過量服薬もしなかった。したがって、これらの一連は関連性があるから、地裁で行政の判断 は誤りであり、労災である」という判断が出ました。それでも、申請してから5年がかかったと いう状況でした。

実は、自分自身も今、労災を申請しています。ただ、労災の申請というのは実務的な部分だと、

やはり素人が行うのはとても難しく、専門家、特に労働問題に強い弁護士を必ずつけないと難し いです。そして、弁護士は申請の段階からつけることが非常に大切だと思います。申請はまず行 政(労基署)に行い、そこで審査が駄目だったら、次に労働局、それでも駄目だったら、労働保 険審査会へ出るという3段階があるのですが、これがなかなかひっくり返らないのです。労働保 険審査会でひっくり返る確率は約5%です。裁判だと4割ぐらいで、裁判の方がまだ芽があると いう感じです。しかし、最初にきっちりと資料を用意していけば、労基署で取れたりします。友 人の弁護士だった川人先生などは、認定率 70%ぐらいといわれています。もちろんそういうこと がないに越したことはないですが、もし労災を申請するようなことがあったら、専門家に、ぜひ 申請の前の段階からご相談された方がいいかと思います。

最後に“自分自身を大切に”ということ、これは単なる精神論といえば精神論ですが、こうい うことが一番大切だと僕は思っています。精神的に追い込まれてしまうと、どうしてもまわりが 見えなくなり、正しい判断ができなくなってしまいます。そこで力強く誰かが正しい方向に引っ 張り直してくれればいいのですが、特に一人で社会に出て、一人暮らしをしていると、難しいこ とだと思います。

まずは病気にならないこと。病気になると、簡単に治る場合もちろんありますが、なかなか回

復せず、今までどおりに仕事ができるようにはならないということもよくあります。そういった

ときは、なるべく安全な道を選ぶということが大切だと思っています。みなさんは、逃げること

はよくないとか、頑張れと、子どものころから教育されてきたと思いますが、僕は決してそうは

思っていません。やばいときは逃げるべきだと思うし、適度に頑張るのはいいのですが、頑張り

すぎるのは決してよくないことで、何事もほどほどがいいと思っています。そういう点では、結

果的には、ここで頑張らないと、周りにも悪いだろうと思ったとしても、結局、自分の身を大切

にすることが、長い目で見たときにはプラスになっていると思います。結局、無理をしてほんの

数年、数カ月で、僕の場合は入社1年目の終わりで、友人は入社2年目の半ばで病気になってい

ます。僕も友人も、実は会社からとても評価されていました。辞めてから、後で人事の人から聞

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いたのですが、 実は僕がこの入社の時の社内評価1位で、亡くなった友人が2位だったそうです。

そういった意味で、会社にとっても大切な資産を失うということになります。これは普通に 30 年 40 年会社に勤めていたら、会社にとってもはるかに利益が出るはずなのに、それをこいつはで きるからもうガンガン使ってやれと、1年、2年でつぶしたら、どちらにとっても不幸ですよね。

最後に、息子を亡くしたご遺族の言葉というのを紹介させていただきます。「命より大切な仕 事はない。きついと言える勇気は逃げではない」この言葉はとても重いなと思っています。みな さんにもいつもこの言葉を心にとめ置いて、仕事や社会に出ていってもらえればいいと思います。

【質疑応答】

○司会:ありがとうございました。私も大学卒業が 2000 年なので、木谷さんと同じぐらいの年 代かと思います。私たちの年代というのは本当に、就職氷河期の問題があり、公務員でも再募集 したりするくらいに、まさに失われた世代でした。全然就職先もなく、私が卒業した 2000 年は、

初めて大卒の有効求人倍率が1を切った、超氷河期という時代で、時代の閉塞感というのが本当 にありました。その中で、せっかく就いた仕事を手放してはいけないというのは、もう当然と言 えば当然で、真面目な人ほど、優秀な人でも、たくさんの会社に落とされているような時代だっ たので、そこで仕事に就いている人は本当に優秀で真面目な人たちです。だからこそ、こうなら ざるを得ないような状況で、そこで使い捨てのようなことをされてしまうという時代でした。で も、それは全然昔の話ではなくて、今、本当に人手不足でもあるので、繰り返されると思います。

これは構造的な問題なので、それを知っておいてほしいと思います。

では、私から中村先生にお聞きします。弁護士の悩みどころをお話しいただきましたが、パソ コンのログインやログオフ、スマホの機能などで、会社にいる滞留時間がわかったとしても、そ れで仕事をしていたとは限らないだろうという会社の反論があるとおっしゃっていましたが、そ れはどのようにつぶしていくというか、働いていたと言えるのでしょうか。

○中村:それはとても難しく、裁判所からも、 「サボったり休憩もしますよね」と言われます。

そういうときには、ほかのまわりで働いていた同僚に、 「休憩なんてなかった」と陳述書をつくっ たりして証言してもらい、休憩はなかったということを言いやすくします。客観的にまわりから 固めていくというのがまず1つです。それに対して、労働実態として、どういう仕事をしている かですが、例えば、ワンオペで回さないといけない状態ならば、休憩がとれるわけがないので、

そういうことを主張していくことはよくあります。何人かの証言があって、 「どういう仕事内容だ ったから、休む時間がなかった」と主張したり、また、メールのやり取りなどの取引履歴など、

そういうところで休憩時間をつぶしていくということはよくあります。

この他では、最近、自分が担当した事件ですが、会社が勤務表を改ざんしているということが

あり、とても衝撃を受けました。それは外国人労働者の事件で、残業 150 時間とあるのですが、

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そこに「×500 円」と書いてあったのです。500 円って何だろうと思ったら、残業時間の単価だっ たのです。そんなことをしている会社があるということで、大変衝撃を受けて、残業代をバンと 請求したら、会社側は「ごめんなさい、破産します」と言ったのです。これには自分もどうしよ うかなと思ってしまった、そんなこともありました。

○質問者A:中村先生に質問です。最近、自分はアルバイト先で 12 時間、休憩なしでキッチン をやったことがあります。それは、もう一人のアルバイトの人が格好つけて無理をして、 「できる できる」とか言っておきながら、結局、 「無理」と言って帰ってしまったのですが、そういうこと は1回だけなら、問題になったりしないのでしょうか?

○中村:1回だけでも、それは労働基準法違反になります。8時間超えたわけでしょう?

○質問:そうです。それは休憩もなく、ご飯を食べる暇もなく、トイレに行くのもちょっとドキ ドキしながら行ったくらいです。中休憩がないバイト先で、いつお客さんが入るかわからなかっ たのでずっとそんな状態でした。

○中村:休憩がなかったら、労基法違反になりますね。8時間超えての労働で、たとえ1回であ ってもです。それをもって、次に何ができるかということですが、私たちがするのは、労働基準 法違反がありましたと労働基準監督署に申告することです。ただ、労働基準法違反ではあります が、刑事罰が下るかというと、それはなかなかそういうことではないのです。例えば、警察に被 害届を出して、それが起訴されるかといったら、実はそうではない。皆さん刑事訴訟法を勉強し たときに、起訴便宜主義というのがあったと思いますが、そういうことで起訴されないこともあ ります。1回だけでももちろん法律違反ですが、それが全部処分されるかといったら、それはま た別の話ということに、今の法律実務としてはなっています。1回としても、それに対してちゃ んと割り増し賃金を当然払わなければいけないのです。4時間分オーバーしているので、4時間 分については上増しになるので、会社側はきちんと支払わなくてはいけないものです。

○質問A:ありがとうございます。

○司会:以前にゼミ生から聞いた話では、いきなり会社が逮捕されるということはないのですが、

労基署が来るとわりと会社側が何かちゃんとしないといけないという空気になり、その後きちん と払ってくれるようになったという例は結構ありました。どうせ大したことにならないだろうと 思って何も言わないよりは、きちんと言ったほうがいいのではないかと思います。恐らくそうい う土壌があるので、本当に1回だけということもないので、しかるべきところに相談するなどの アクションを起こしてみるなど、過小評価しなくてもいいのではないか思います。

○木谷:補足になると思いますが、先ほどの新聞記事の青線のところに、「迪世さんは会社の改

善を見守るとともに、国に過労死問題への取り組みを義務づける過労死防止基本法の制定を呼び

かける」と書いてあります。この記事は 2013 年2月1日の記事ですが、このとき、先ほど中村先

生が最初に紹介した過労死等防止対策推進法という法律がまだありませんでした。この法律が作

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られるまでには、実は、過労死した遺族や、その遺族を支援する弁護士たちが 30 年ぐらいずっと 活動を続けてきました。国会で呼びかけたり、あるいは、ジュネーブの国連人権規約委員会に行 ってスピーチをして、その結果、人権規約委員会が日本に対し、過労死の問題を何とかするよう にという勧告を出したこともあります。僕は東京過労死を考える家族の会に入っていますが、全 国の代表の方や、当時兵庫代表で友人の母親の西垣さん、その他にも東京代表の人たちが、積極 的に国や国連などをあっちこっちに駆けずり回り、地方議会へ陳情に行ったりなどの結果、何と か与党側も説得して、与野党全会一致でつくられたというなかなか珍しい法律になっています。

実際に具体的に何かを規制するような法律ではないのですが、 「過労死を防止するのは国の責務で ある」とか、国の法律に一切存在しなかった「過労死」や「過労死等」という言葉が初めて法律 上に定義されるようになったもので、これは、理念法ではありますが、とても大きな法律です。

実は、その過労死等防止対策推進法の中に「民間団体の活動に対する支援」というものがあり、

その中で、 「学生への周知啓発」ということがあります。その一環でこの授業もさせていただいて います。実はこれは大切な法律なので、ぜひ知っていただければと思います。

○司会:ありがとうございました。何も変わらないとあきらめていたら、本当に何も変わらない ですが、すごく大きな法律ができたという動きで、かつ過労死防止学会までできて、今、一生懸 命対策をしているところです。まずは知るということで、行動するということはとても大事だと 思います。

(終了/1時間 40 分)

参照

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