歴史叙述としての民事訴訟 ⑷
ヴァン・カネヘム『ヨーロッパ民事訴訟の歴史』を中心に
貝 瀬 幸 雄
ઇ.クヌート・ヴォルフガング・ネルの
『ヨーロッパ大陸民事訴訟慨史』
本章では,クヌート・ヴォルフガング・ネル(1935 年生)の近作『ヨーロッ パ大陸民事訴訟概史』(2015 年)を紹介する1)。表題から明らかなように,イ ングランド訴訟法史は同書の考察の対象外である。著者のネル(チュービンゲ ン大学名誉教授)は,教授資格取得論文『初期学識訴訟における裁判官の地位』
(1967 年)以後,『自然法と民事訴訟』(1976 年),『訴訟は 3 人の行為である ヨーロッパにおける民事訴訟法の歴史への寄与』(1993 年),『ローマ=カ ノン訴訟法』(2012 年)といった一連の著作でヨーロッパ民事訴訟法史研究に 大きく貢献し,村上淳一の訳筆にかかる『ヨーロッパ法史入門:権利保護の歴 史』(1999 年)でもわが国に知られた碩学である2)。
ここでとりあげる『ヨーロッパ大陸民事訴訟法概史』は,著者 79 歳のとき の出版であり,従来のヨーロッパ民事訴訟法史研究の成果をコンパクトに圧縮 した高度の概説書といえるであろう(叙述はいささかドライである)。ローマ法,
ローマ=カノン訴訟法を別にすれば,ドイツ,フランス,スイス,オーストリ アの代表的民事訴訟法典の構造を内在的に記述したにとどまる部分が多く,カ ネヘムのような広汎な比較法史の視点に乏しいところに不満は残るが,本格的
) Knut Wolfgang Nörr, Ein geschichtlicher Abriss des kontinentaleuropäischen
な自身の研究書にもとづき著わされたローマ=カノン訴訟の章,19 世紀訴訟 法学を簡潔に叙述して 1877 年ドイツ帝国民事訴訟法典に架橋する章(ネルの 旧著『自然法と民事訴訟』の成果を踏まえ,キヨヴェンダ論を加える),本書中も っとも詳細な 1895 年オーストリア民事訴訟法典の章(全体の約 4 分の 1 を占め る)など,充実した内容となっている。
ヨーロッパ大陸諸国の民事訴訟法の理論家および実務家が,あまり苦労せず に専門的な意思の疎通が可能であるとすれば,その理由は中世学識訴訟におけ る共通の遺産にまで遡ることができる。その遺産は,個々の部分に分解すれば,
おおむねユスティニアヌス法典の中に発見されてきたが,中世の法律家が解釈 と綜合化(Synthetisieren)によって一貫した訴訟法を構成した。ネルはこのよ うに指摘して,その「理性」と典型的性質ゆえに(seiner „Vernunft“ und Typi- zität wegen),ローマの方式書訴訟から概説を始め3),ローマ=カノン訴訟,
1781 年プロイセン訴訟法典,1806 年フランス民事訴訟法典,1819 年ジュネー ヴ民事訴訟法,19 世紀における訴訟法学,1877 年ドイツ帝国民事訴訟法典,
1895 年オーストリア民事訴訟法典を順次分析したうえで,最終章の「総決算
) ネ ル に つ い て は,Morio Ascheri/ Friedrich Ebel/ Martin Heckel/ Antonio Padoa Schioppa/ Wolfgang Pöggeler/ Filippo Ranieri/ Wilhelm Rutten(hrsg.), Ins Wasser geworfen und Ozeane durchquert, Festschrift für Knut Wolfgang Nörr(2003)の編者序 文と巻末の業績リストを参照されたい。また,Zeitschrift der Savigny-Stiftung für Rech- tsgeschichte, Kanonistische Abteilung, Bd. 96, H. 1(2010)が ネ ル 献 呈 号(Widmung Knut Wolfgang Nörr)となっている。本文に掲げた著作は次の通りである。
① Zur Stellung des Richters im gelehrten Prozeß der Frühzeit:iüdex secundum allegata non secundum conscientiam iudicat(1967).
② Naturrecht und Zivilprozeß:Studien zur Geschichte des deutschen Zivil- prozeßrechts während der Naturrechtsperiode bis zum beginnenden 19. Jahrhun- dert(1976).
③ Iudicium est actus trium personarum:Beiträge zur Geschichte des Zivil- prozeßrecht in Europa(1993).
④ Romanisch-kanonisches Prozessrecht:Erkenntnisverfahren erster Instanz in civilibus(2012).
⑤ クヌート・W・ネル(村上淳一訳) ヨーロッパ法史入門:権利保護の歴史(1999 年)。
) Nörr, supra note 1, VIII-XIV.
のこころみ」にいたるのである。
⑴ 本書の第 1 章「ローマ方式書訴訟」は,まず「方式書訴訟の規範的特 色」として,現代に比べ,裁判規範にいたるルートが複雑であり,「ケースご とに私人に宛てて発せられる法務官の裁判指示・命令」(Judikationsbefehl)が 核心である。「法務官は,彼の 1 年の在職期間の初めに,いかなる私法関係に おいて法務官が当事者を助けて彼に権利を得させるか,を予告する。彼の告示
(Edikt)の 中 で,法 務 官 は,仮 定 的 な 先 取 り の 形 で(als hypothetisch- antizipierende Figuren)特定の方式書(formulae)を白地の形で提出し,その中 で法務官は私人を裁判人(iudex)として任命し,審理プログラムを前もって 定 め た の で あ る。方 式 書 は 綿 密 に 編 集 さ れ た。方 式 書 は 訴 訟 原 因
(klagegrund)に関係し,裁判人が裁判を行う範囲を前もって定める。全体と して,実体法と訴訟法を明快に区別しないローマ人のアクチオ的思考について 語るのが常である。そこでは,アクチオ概念の多義性も利用された」と述べ る4)。
次いでネルは,方式書訴訟手続を,①両当事者内での訴訟の開始(die bin- nenparteiliche Verfahrenseinleitung),②法務官の面前での手続(in iure),③法 的紛争を終結させる判決を伴う裁判人の面前における手続(apud iudicem)の 3 段階に分けて概観する(②と③の間で,争点決定〔litis contestatio〕に進む)。 ここでの叙述は,都市ローマの関係に限定され,特示命令(interdicta)のよう な特別訴訟形態は考慮しない5)。
すなわち,まず第 1 に ,両当事者間での訴訟の開始は,原則として,原 告が着手する裁判外での訴訟開示(editio actionis)である。「両当事者がローマ 市民であれば,原告は,市民係法務官(praetor urbanus)の告示に含まれた方 式書に従うし,一方ないし双方の当事者がローマ市民権を有していない場合に は,外人係法務官(praetor peregrinus)の告示から方式書が選択されるべきで ある。訴えが基礎とする具体的事実関係につき,適切な方式書が見出せない場 合には,原告は,かかる新たな事実関係向けにアレンジされた方式書とともに,
) Id., 1-2.
先へ進もうとこころみることができる(事実にもとづく訴訟〔actio in factum〕)。 原告は,得ようとつとめるアクチオを,予定している証拠方法(instrumenta)
とともに,(口頭であれ書面であれ)被告に通知しなければならない。それに両 当事者間の交渉が続く可能性がある。すなわち,被告は,たとえば異議を述べ るとともに,自らに有利と思われるアクチオを持ち出す。あるいは,被告は,
原告のアクチオを認めつつ抗弁(exceptio)をはめ込み,次いで,場合によっ ては,原告が方式書の再抗弁(eine formulare replicatio)を提出する。……交渉 は,結局,特定の時点に法務官裁判所(prätorischen Gerichtsstätte;ius)の近 くの場所にやって来るという合意にいたりうるのであって,それを担保するた めに,被告は罰金の合意の形式の出頭保証契約(vadimonium)を締結した。合 意のあらゆるこころみが失敗したときは,原告は 同じく裁判外の行為で 法務官の面前への被告の呼出しを表明する(法廷召喚〔in ius vocatio〕)」6)。 第 2 に,ネルは,「法務官の面前での手続」を,㋐被告の出頭,㋑法務 官の審理(Verhandlung),㋒手続的局面の審査,㋓訴訟代理,㋔宣誓,㋕裁判 人(iudex)の選任,㋖争点決定(litis contestatio)の各項目に分けて解説する7)。
まず,㋐被告が原告からの呼出しに従わず,保証人・出頭市民(vindex, Ges- tellungsbürge)も出頭しない場合には,法務官は,出頭を強制するために,被 告の破産の一種である総財産の売却(venditio bonorum)にまで到る強力な措 置を講ずる(被告の訴訟代理人〔代訟人 cognitor もしくは管理人 procurator〕が欠 席した場合も,同様)。
㋑法務官の裁判所(Gerichtssitz)での審理は,審理手続(iudicium)の開始,
すなわち予定されている裁判人(iudex)への方式書の形での裁判指示・命令
(Judikationsbefehl)と審理プログラムの策定(アクチオ,抗弁など)を目標とし,
特定の形式や順序には拘束されずに,公開で実施される。アクチオとありうる 抗弁について,両当事者の意見が一致している場合には,法務官はそれに従う
(ただし,一定の状況下では,さらに事実状態・法律状態の審査が可能であるし〔狭 義のコグニチオ cognitio im engeren Sinn〕,一種の有理性の審査も行われる)。両当
) Id., 3-4.
) 以下の叙述は,Id., 4-6.
事者の意見が一致していない場合には,ⓐ法務官が被告に有利なアクチオにつ き判断したにもかかわらず,なお原告が自己の(アクチオの)選択に固執する ときは,訴えは拒絶される(訴訟拒絶 denegatio actionis),ⓑ原告のアクチオに 有利な法務官の判断がなされ,被告がそれに応ずることを拒んだという逆のケ ースでは,必要な防禦をなさなかったもの(indefensus)と評価され,アクチ オの種類に応じた多様な効果が生ずる。
㋒法務官は,方式書以外の手続的局面,すなわち,呼出しの有効性,当事者 能力(奴隷はこれが欠けている),訴訟能力(婦人の場合に,部分的に欠けている), 弁論能力(17 歳未満ではこれを欠く。法務官は,弁論能力を欠く当事者に補佐人 advocatus を付する)について審査する。訴訟要件の欠缺が確定されず,さら に証拠調べが必要であれば,法務官はそのための抗弁を方式書の中に採用し,
そのことによって裁判人が訴訟要件に取り組む。
㋓当事者は,代訟人(cognitores)または管理人(procuratores)によって代 理されることができ,それらの者は,当事者のために当事者として訴訟を追行 し,当事者のために方式書を申請し(postulare),訴訟行為を行う。代訟人は 相手方に向けられた言葉によって正式に選任されるのに対し,管理人は無方式 で授権される。原告側の管理人は,当事者が管理人の訴訟追行を承認している ということを保証するために,担保を提供しなければならない。被告の側では,
代理の 2 つのヴァリアントのいずれの場合も,判決の履行のために担保の提供 が必要である(ヴァリアントに応じて,代訟人が代理する被告本人自身による担保 提供か,被告の訴訟代理人たる管理人による担保提供かに分かれる)。法務官は,
訴訟代理のための選任の有効性を審査し,必要であれば,代理人に関する抗弁
(exceptio cognitoria beziehungsweise procuratoria)を方式書に挿入する。
㋔法務官の面前の手続において,宣誓は少なからぬ役割を果す。宣誓は,判 決に関連する宣誓と手続に関する宣誓とに分かれ(後者の例として,不濫訴宣誓
〔iusiurandum calumniae〕がある),前者は,(当事者が相手方に対し求める)任意 的宣誓(iusiurandum voluntarium)と,(法 務 官 が 当 事 者 に 課 す)必要的宣誓
(iusiurandum necessarium)との 2 つのカテゴリーがある。任意的宣誓が原告に よって被告に転嫁され,被告が宣誓した場合には,法務官は訴えを斥ける
(abweisen)。反対に,被告から原告に対して宣誓が転嫁され,原告が宣誓した 場合には,法務官は事実にもとづく訴訟(actio in factum)を認め,その訴訟で 裁判人は(請求権の存在が宣誓して保証されると,争う余地がなくなってしまう
〔unbestreitbar〕のであるから)宣誓の提供に関する争点につき判断をする。必 要的宣誓(der vom Prätor autorisierte Eid)は特定のアクチオに限定され,原告 が被告にこれを転嫁し,被告が宣誓するかまたは原告に再転嫁する(zurück- schiebt)のである。
㋕裁判人(iudex)を選任するのは両当事者の義務であり,予め作成された 裁判人リスト(その構成は身分上の条件にもとづく)の中から選択できる。しか し,両当事者はリスト以外の人物を身分上の制約なしに指名することができ,
両当事者が合意に到らないときは,裁判人リストからの選択手続が必要となる
(最終的決定権は被告にある)。裁判人に定められた者は,障害事由(Hindrungs- gründe)を主張できない限り,その職務を引き受けなければならない。
㋖「両当事者が,争点決定において,裁判人の任命と審理プログラムを最終 的に受諾した場合にのみ,法務官は裁判人への道を開く。争点決定には,実体 法上の効果とともに,一連の訴訟法上の効果も結びつけられている。裁判人と 当事者は審理プログラムに拘束され,方式書の変更としての訴えの変更は,方 式書訴訟の構造に反する。裁判人の判決の基準となるのは,原則として争点決 定の時点での法状態であって,判決を下す時点のそれではない。第 3 の効果は,
司法上の(判決に関する)2 分法が基礎にある。すなわち,法定の訴訟(iudi- cium legitimum)と命令権にもとづく訴訟(iudicium imperio continens)とが区 別される。前者は,ローマでの訴訟が許容され,すべての関係者がローマ市民 である場合に存在する。他のすべての訴訟は命令権にもとづく訴訟である。法 定の訴訟の範囲内では,市民法(ius civile)の定める債務法上の訴訟(対人訴訟
〔actio in personam〕)が重要であって,争点決定とともに,訴求されたアクチ オは『消耗し』(konsumiert),その結果として,そのアクチオを再び訴求する ことはできない。それ以外の場合はすべて,二重の行使を阻止するために,
(申立てまたは職権により)争点決定完了事項の抗弁(exceptio rei iudicatae vel in iudicium deductae)を第 2 訴訟の方式書に挿入しなければならない。こうすれ
ば,同様に,争点決定によって生じた『訴訟係属』が,判決により生じた『既 判力』と結びついて一体となるのである」8)。
第 3 に ,「裁判人の面前での手続」は,㋐審理期間,㋑手続の進行,㋒
証拠調べと証拠方法,㋓判決と判決効,㋔上訴に分けて論じられる。
すなわち,㋐裁判人の面前での弁論は複数期日を請求することもできるが
(第 1 回期日は,当事者の申立てにもとづき,法務官が決定する),原則として,裁 判所を設置する法務官の在職期間である 1 年を越えてはならない(法定の訴訟
〔iudicia legitima〕の特則として,18ヶ月)。この場合,在職期間が終了しても,
訴権はまったく影響を受けず,新法務官の面前での手続が新たに開始される。
㋑裁判人の面前での手続の進行については,ごくわずかの法規があるにとど まり,規格化された慣習から生じたルールに従う。裁判人がまず原告とその弁 護人(advocatus)に対して発言し,次いで被告とその補佐人(Beistand)に対 し発言するという順序も慣習で,双方審尋の保障原則も,裁判慣行的なスタン ダードに含まれる。
㋒裁判人の面前での手続の中心は証拠調べ(Beweiserhebung)である。証拠 法は,概念的にはまだ未熟であったが(本証と反証,主観的証明責任〔訴訟追行 責任〕と客観的証明責任のような今日では周知の区別も,熟考されていたわけでは ない),証明責任については,裁判人を拘束する若干の根本原則が妥当してお り,⒜原告はアクチオの要件,被告は抗弁の要件を立証しなければならない,
⒝単なる否認は原則として証明責任を動かさない,などとされる。挙証(Be- weis zu führen)と証拠方法は当事者の問題(Sache)で,裁判人が職権で証拠 を収集することはない(裁判人からの発問は妨げない)。証拠方法の中では,証 人証拠(Zeugenbeweis)が第 1 等の役割を果し,証人は先行宣誓(Voreid)を 行って,裁判人ではなく当事者から質問を受ける。立証の評価において,裁判 人は法的拘束力のあるルールには従わず,無制限の自由を享受する。
㋓法務官が裁判指示命令(Judikationsbefehl)において審理と判決を命じて も(判決権限付与〔condemnato〕/免訴〔absolvito〕),裁判人は,「事件が自分
には判然としない」(rem sibi non liquere)との宣誓によって当該命令を免れる ことができ,その場合には新しい裁判人が選任された。判決(sententia)は方 式書に従わなければならず,訴えを許可する場合には,判決は訴えによる要求
(Begehren)の内容と範囲を越えてはならない。この 普通法では『申立て を越えてはならない』(ne ultra petita)と表現された 原則は,特定のアク チオでは,訴権が過度に高額に表現された場合には(in Fällen übersteigerter Formulierung des Klageanspruchs),『申立てを下回ってはならない』(ne infra petita)の原則に変化した。過多請求 pluris petitio の危険である(訴えを部分的 にのみ認容することは問題外であった)。判決は当事者の申述と立証の結果に従 う。これは中世では secundum allegata et probate partium と表現された」。大 半が法律家ではない(素人の)裁判人は,独力で解決できない法律問題につい ては,法律家の顧問(consilium)を利用できる。判決は裁判人が公開で
(öffentlich)言渡すが,今日の基準にそくした判決理由は知られていなかった
(unbekannt)。例外的に原状回復(restitutio in integrum)が認められない限り,
同一物に関し(de eadem re)その当事者間での新訴は排除される。「(実体的)
既判力については,res iudicata pro veritate accipitur ないし res inter alios iudicatae aliis non praeiudicant のような覚えやすい命題を発見できるが,既判 力はコンテクストによって決定されるもので(kontextbestimmt),抽象化され ないのである」。被告が敗訴したにもかかわらず任意に履行しない場合には,
判決債務履行請求訴訟(actio iudicati)の危険にさらされる。
㋔判決に対する固有の意味での不服申立ては,ヒエラルヒー的に確立した審 級制度を前提とするが,そのようなものは存在していなかった。不利益をこう むった当事者は,国法上の手段を使用すること,すなわち,執政官,法務官の collega,護民官(Volkstribune)に近づいて彼らに異議(intercessio)を申し立 てることができたが,これは裁判人による判決にではなく,法務官の裁判権活 動(Jurisdiktionsakte)に対してのみ作用できる(一定の場合には,法務官は原状 復帰〔restitutio in integrum〕を認める)のである。これに対し,帝政期(Prinzi- pat)に お い て は,コ グ ニ チ オ 訴 訟 を 経 て(vom Kognitionsprozess herüberreichend),裁判人による判決につき皇帝に上訴する可能性がはっきり
した形をとるにいたり,少なからぬ判決無効の場合には,敗訴当事者は判決債 務履行請求訴訟(actio iudicati)に対してこの上訴を利用することができた9)。 ネルの結論はこうである。「中世のローマ=カノン訴訟は,方式書手続 とではなく,市民法大全における訴訟法的な寄せ集め(Konglomerat)と結び ついた。方式書手続の破片が反復されているように思われる場合(とりわけ争 点決定)には,どんなにうまくいっても,いわばユスティニアヌス的なフィル ターのかかった,ユスティニアヌス的に芯を取り除いた形(justinianisch ent- kernter Gestalt)で連続性が問題となるのである。つまり,表現は同じだが,
実態は全く別のものとなったのである。しかしながら,ユスティニアヌス法も,
ローマ=カノン訴訟法による加工の中でそのアイデンティティを失った。たし かに,学識法曹はユスティニアヌスのルールをきわめて忠実に遵守するよう努 めたが,異なる時代の思想の所産を吸収する場合の このように簡単な定式 化が許されるとすれば 文化的・知覚的制約に関する今日では周知の理解が 彼らには欠けていた」10)。
⑵ 本書の第 2 章「ローマ=カノン訴訟」は,ネルの詳細な概説書『ローマ
= カ ノ ン 訴 訟 法』(2012 年)(K. W. Nörr, Romanisch-kanonisches Prozessrecht.
Erkenntnisverfahren erster Instanz in civilibus)を踏まえて記述されている11)。 ただし『ローマ=カノン訴訟法』の分析が第一審訴訟手続に限られているのに 対し,本書は上訴についても比較的詳しい解説をこころみている12)。第 2 章 は,叙述の対象,手続に関与する者たち,手続法の基本的常数(Grundkon- stanten),手続進行の概要(その 1) 争点決定まで,手続進行の概要(その 2) 争点決定から終局判決まで,裁判官による判決,判決に対する不服申
) 以上は,Id., 6-9. なお,過多請求の場合には,請求全体が,理由のある部分も含めて 敗訴に帰するとするのは,アルトゥール・エンゲルマン(小野木常・中野貞一郎編訳)
『民事訴訟法概史』(2007 年)162 頁以下。
10) Id., 9.
11) 前 注)の 著 書 ④ を 参 照。同 書 の 書 評 と し て,Steffen Schlinker, Zeitschrift der Savigny-Stiftung für Rechtsgeschichte, Germanische Abteilung, Bd. 131, 656(2014);
Wolfgang Ernst, Zeitschrift der Savigny-Stiftung für Rechtsgeschichte, Kanonistische Abteilung, Bd. 100, 697.
立て,ローマ=カノン訴訟の特色,の各節に分けて論じられている。
ネルは,民事訴訟法における共通のヨーロッパ的遺産は立法でも判例で もなく学問から生まれた,とする。すなわち,市民法大全(Corpus iuris civli- lis)中の不格好かつ異質な法文の素材を中心に,イタリアの条例法(Statutar- recht)と法廷慣行,法王の立法たる教皇法令集(Dekretalen)も加わり,ロー マ法学者およびカノン法学者の学問的努力によって,ローマ=カノン訴訟法
(中世のユス・コムーネの一部)が形成されたが,法廷慣行(stilus curiae もしく は usus fori)も重要であるため,ここでの叙述はルールの基本型にとどまる,
とする。また,今日の分類では憲法上・行政法上の争訟に分類されるものも causae civilis に属すること,多くの教会法上の紛争(causae spirituales)には 特別のルールが妥当すること,簡易な略式手続には論及しないことを特にこと わっている13)。
次いでネルは,「訴訟に関与する人々」として,まず「訴訟は 3 人(裁 判官,原告,被告)の行為である」(Iudicium est actus trium personarum)との格 言を挙げ,裁判官,その他の裁判機能担当者,当事者,管理人(Prokurator), 補佐人(Advokat)について概説する。すなわち,㋐誰に裁判官職を委ねるか および裁判権の構造は中世ヨーロッパの政体(における裁判所制度)に応じて 多様である,㋑裁判官の地位に関する今日のような憲法上の保障はまだ存在し ない,㋒受任裁判所(delegierte Gerichtsbarkeit)はあらゆる法域にみられたが,
教皇の受任裁判所による法形成が重要である,㋓不公正を理由とする裁判官の 忌避が可能であった14)。ネルは,その他の裁判機能担当者として,両当事者 の合意により選任され,証人尋問,裁判官への助言などを行う調査判事
(assessor),調書を作成する書記官(notarius ないし tabellio. 1215 年第 4 回ラテラ ノ会議で教会裁判所に調書強制が導入された),裁判官の命令を実施するための廷 吏(apparitores)などの補助人を挙げている15)。対席手続において,学識法曹 は,当事者(qui suo nomine agunt もしくは conveniuntur),訴訟代理人(他人の
13) Id., 11-12.
14) Id., 13-14.
15) Id., 14-15.
名で alieno nomine 出頭する),当事者を補助する(qui adminiculum causae praes- tant)補佐人(とくにAdvokat)の三層構成を考え出した。補佐人についての み,今日の弁論能力に相当する要件が求められたが,当事者能力・訴訟能力・
訴訟追行権(Prozessführungsbefugnis)は概念的に区別されず,まとめて legi- timatio personae と呼ばれた。他人の名で訴訟を追行する者は,(tutor や cura- tor のような)法定訴訟担当,(syndicus, actor, oeconomus のような)訴訟におけ る必要的代理,任意代理としての管理人(procurator)の 3 つのカテゴリーに 分けられる。補佐人(Advokat)については,普通法(de postulando のタイトル で法令集にまとめられている)および地方特別法に規律があり,弁論能力が要求 される(中世のテクストでも,postulare と advocare を同一視するものが稀ではな い)。地方特別法上,補佐人は独自の職業的地位として発達した(補佐人が assessor, auditor, consiliarius として裁判所のために活動できるかどうかは裁判所慣 行による)16)。
ネルは,ローマ=カノン訴訟法の基本的常数(Grundkonstanten)とし て,①順序主義(Reihenfolgeprinzip)と期日の続行(Terminsequenz),②口頭 性・調書化・書面性,③訴訟行為のカテゴリーなどに言及する。次いで争点決 定にいたるまでの手続の進行と,争点決定から終局判決にいたるまでの手続の 進行を解説する。すなわち,通常訴訟手続においては,当事者と裁判官の訴訟 行為の時間的順序が定められ,後行訴訟行為は先行訴訟行為を締め出す排除効 のサンクションを伴う可能性があった。すでにユスティニアヌス法において,
訴訟上の抗弁に対する争点決定の排除効(失権)が認められていたが,13 世紀 以降に,教皇立法・学説・地方実務によって排除効(失権)を伴う期間・期限
(Fristen und Termine)の制度が まず延期的抗弁(exceptiones dilatoriae)に つき,次いでこれにならって滅却的抗弁(peremptorische Exzeptionen),証拠 申出一般につき 創造された。さらに,実務上の必要と,同時に係属する訴 訟をよりよく処理する高次の利益とから,個々の訴訟行為に別々の期日(Ter- mine)を配するようになる。期日が増加して訴訟が引延ばされることを防ぐた
めに,期日と期日の間の期間(Fristen)を裁判官が自らの裁量で適正に設定す るようになった(omnes induciae arbitrariae sunt の原則)。なお,口頭性と書面 性の分担は,かなりの程度まで地方特別法(Partikularrecht)と裁判慣行によ って決定された17)。
ネルは,手続の進行の概要を,①争点決定までと,②争点決定から終局 判決までの 2 段階に分かち,①では,手続の開始と訴えの種類,呼出し(cita- tio),懈怠(contumacia),第 1 回共通期日における訴訟行為,訴えと訴状,訴 えに対する応答すなわち抗弁(exceptio)を,②では,手続状況の概観,証拠 法の一般的テーマ,人証,書証,判決に関連する宣誓を論ずる。判決について は独立の項を設け,裁判官による判決発見のための手続原則,判決の要件・無 効原因,訴訟費用,既判力を解説する。
まず,「学識法曹は,ユスティニアヌス法から,準備手続(praeparatoria iudicii)と審判手続(iudicii)との基本的 2 分法を連結するために,争点決定の 像(die Figur der litis contestatio)を取り出した」。原告は,管轄裁判所に訴え を提起し,被告の呼出し(citatio)を求める。訴えとともに訴状(libellus)が 送達される。手続開始の特別形式として,今日の憲法・行政法上のケースを対 象とする appellatio extraiudicialis が存在する。給付・確認・形式の訴えとい う周知の 3 分法は中世の法律家に は 事実に応じて訴えの種類が存在したた め なじみのないものであった18)。学識法曹は,主に第 1 回共通期日のた めの呼出しに関するルールを精緻化し,そこにはわれわれのいう法的審問保障 原則(unseren Grundsatz der Gewährung rechtlichen Gehörs)が具体化されてい る。懈怠すなわち裁判官の命令に対する当事者の手続的不服従(その中心は被 告の欠席)の効果を発生させるには,原則として相手方からの申立てを要する
(当事者主導のローマ=カノン訴訟の特色)。争点決定前の被告欠席は,被告の出 頭ないし弁論を強制する効果を有し,争点決定後の欠席は,原告による立証を 伴う一方的手続(欠席手続〔eremodicium〕)へと進む。第 1 回共通期日(ersten gemeinsamen Termin)における訴訟行為として,ネルは,事件を迅速に終結さ
17) Id., 18-20.
18) Id., 22.
せるための被告による認諾(執行認諾 confessio)が認められていたものの,学 識法曹は請求認諾と主張事実の自白とを体系的に区別していなかったこと,し かしながら,原則として被告は最初の防禦活動を行い,無管轄などの法廷回避 の抗弁(exceptiones declinatoriae)を提出すること,第 1 回期日に裁判官は訴 えの有理性を審査でき(Schlüssigkeitsprüfung),(所有権や相続にもとづく特定の 請求については)被告の受働適格も審査されるであろうこと(法廷質問 interro- gatio in iure)などを指摘する19)。呼出しとともに被告に送達されるか,または 期 日 に 手 交 さ れ る 訴 状(libellus)に お い て,訴 え の 対 象 と 訴 訟 原 因
(Klagegrund)を挙げ,原則として審理プログラム(Streitprogramm)が確定さ れる。ユスティニアヌスの訴権(die justinianische actio)は,その名称(nomen)
を示すことが初期においては不可欠であるとされた。学識法のテクストにおけ る訴権概念は,多義的かつ玉虫色であることを強調すべきである。訴えに対す る応答すなわち抗弁(exceptio)の学は,延期的抗弁(exceptio dilatoria)と滅 却的抗弁(exceptio peremptoria)の 2 分法を基礎としており,前者は争点決定 の前に,後者は争点決定の後に提出されなければならないとするのが原則であ る20)。
次いでネルは,争点決定から終局判決にいたる手続進行を解説する。「学識 法曹の理解によれば,手続の核心は審判手続(iudicium)で実現される。そこ において,とくに事件の中心(die sachentscheideden Umstände; merita causae)
に関する立証が展開する」。審判手続は争点決定(litis contestatio) 原告が プログラム化した争訟に応ずる準備ができている旨の,被告による正式な表明 に始まり,これに双方の不濫訴宣誓(iusiuramentum calumniae)が続き,
原告が Klagebegehren を事実の主張すなわち訴点(positiones)に分類し,被 告が答弁(responsio)で訴点を追加ないし争うことによって,事件の中心
(merita causae)の立証段階が開始される。その終了後に,両当事者と補佐人 が陳述(allegationes)を行って,それ以上の弁論を放棄し(renunciatio),弁論 が正式に終結する(conclusio in causa)21)。証拠法の一般的テーマとしては,原
19) Id., 23-24.
告の請求の立証のためのルールがまず発達し,相手方が容認しない訴点(posi- tiones)は立証を要する項目(articuli)に変わるという形で,立証主題(Be- weisthema)は裁判官ではなく当事者によって確定されること,前学問的な土 着のモデルに従った証拠判決(Beweisurteil)と初期普通訴訟の証拠中間判決
(Beweisinterlokut)とは学識訴訟では知られていなかったこと,証拠方法は原 則として当事者も提出しなければならなかったが,裁判官は単なる受動的役割 にとどまらず,立証期間・期日を確定し,証明責任を分配し(分配のルールは 今日の場合にほぼ対応している),証拠方法の許容性を審査し,立証の結果を評 価すること,証拠収集が裁判官の職責である場合でも,とりわけ人証について は証拠調べは調査判事(auditor)のような他の裁判所構成員に委ねられたこと
(現代の直接主義の意味で理解してはならない),立証の対象となるのは争いのあ る事実であって,法規が対象となるのは例外であること,学識法曹は今日では 周知の主観的立証責任と客観的確定責任(証明に失敗した場合のリスク)の区別 にいたっていなかったこと,が指摘される22)。ネルは,証拠方法(その数は法 学文献の中でも確定していない)の中から,人証,書証,判決に関係する宣誓を 選んで,検討している。中世では,人証は他の証拠方法に比べて優先的地位を 与えられており,証人の提案(testium productio)のために当事者は一期日以 上を利用できるが,裁判官がその期限を設定する。証人は,当事者の申立てに より,裁判所が呼出す(証言能力の欠如〔Zeugnisunfähigkeit〕は相手方当事者が 立証する)。証人は証言および証人宣誓を強制される。立証主題は,地方特別 法に反しない限り,項目(articuli)の中に分類され,裁判官がこれを審理して,
不適法ないし事案解明に役立たないと判断した場合には,排除される。証人に 対し相手方当事者が提出した反問(interrogatoria)に対しても,同様のコント ロールが及ぶ。裁判官の質問権(むしろ質問義務)がさらに行使される。証人 尋問は,当事者や他の証人が同席せずに秘密に(secrete et sigillatim)行われる。
尋問終了後は,それまで保管されていた証人尋問調書は正式な手続で当事者に アクセス可能となる(publicatio attestationum)。証人の信憑性(Glaubwürdig-
21) Id., 26.
22) Id., 26-27.
keit)は裁判官の自由な評価に委ねられ,信憑性の前提となる証人の数(法定 証拠理論の特色である二証人証明の要請〔Erfordernis des Zwei-Zeugen-Beweises〕)
は原則として裁判官を拘束するが,証人 1 人の場合(半証明〔halben Beweis〕)
であっても,(法廷で要求された)判決にかかわる宣誓(iuramentum delatum)
などのその他の要素で完全証明(Vollbeweis)へと補強される23)。書証は公文 書(とくに公正証書)と私文書に分かれ,前者は完全証明となるが,公文書と 2 人の証人による反対証明(Gegenbeweis)とが対立したような場合(完全証明 の impugnatio)については議論がある24)。判決に関係する宣誓は,裁判官が当 事者に課す必要的宣誓(iuramentum necessarium)と,当事者間で要求・転嫁 される裁定宣誓(iuramentum iudiciale)とに分かれ,前者は原則として半証明 の場合を前提とし,後者は最初から原告が被告に何ら立証せずに転嫁する場合
(宣誓の対象は Klageanspruch 全体)と,判決を下すには立証が不十分である場 合(個々の争点も宣誓の対象になる)とに利用され,宣誓を転嫁された者は,争 訟決定的な宣誓を行うか,それを押し戻すか(referre),一定の要件のもとで 宣誓を拒否するか(recusare),いずれかを選択する25)。
ネルは,裁判官による判決(中間判決〔sententia interlocutoria〕と終局判決
〔sententia definitiva もしくは sententia diffinitiva〕。訴えを斥ける場合は,さらに本 案判決〔absolutio diffinitive〕あるいは訴えの即時却下・訴訟判決〔absolutio ab in- stantia〕)を,①裁判官による判決発見のための手続原則,②判決の要件・無 効原因,③訴訟費用,④既判力(res iudicata)の各項目に分けて叙述する。ま ず,手続原則として,判決は原告の審理プログラム(Streitprogramm)を志向 するものでなければならず,今日の処分権主義が妥当する。さらに判決は原則 として当事者の申立てと挙証の結果を志向しなければならず,職権主義に対す る意味での弁論主義が妥当する(iudex secundum allegata et probata partium の 格言,裁判官による事実補充〔supplere de facto〕の禁止がこの原則を表わす)。学 識法曹は,裁判官による証拠評価を包括的・総合的概念(ein Gesamtkonzept)
23) Id., 27-28.
24) Id., 28-29.
として理解・整理することはできず,自由な場合(個別の挙証,とくに証人とそ の証言の信憑性)と制限される場合(当事者を裁判官の恣意から保護し,法的安定 を保障するための法定証拠理論)とを無関係に並列するのみである26)。裁判官は,
判決とその言渡しに際しては,当事者および公衆に対する公開の要請に従わな ければならず(原則として書面で作成した判決を朗読する),判決内容は訴えによ る請求(Klageanspruch)を要約して,判決主文は特定の方式に従うことが厳 格に要求される(判決理由は不要)。判決言渡しの際のルールが遵守されない場 合は判決は無効となるが,学識訴訟法においては,本質的な手続上の瑕疵
(wesentliche Verfahrensmängel) 今日でいえば訴訟要件の欠缺など も 判決の無効をもたらすとされた(訴訟全体の手続が適式に進行したことが,判決 のための要件だからである)。地方特別法が顧問(consilium)の提案を判決に取 り入れることを裁判官に義務づけている場合,これに違反すれば手続上の瑕疵 として無効となる27)。訴訟費用は原則として敗訴当事者が負担する(判決上重 要な法律問題につき,法律家の間で争いがあるような場合は,正当な原因〔iusta causa des Prozessierens〕ありとして,訴訟費用は当事者間で調整される。訴訟費用 の分担は判決それ自体の中で示される)。10 日間の上訴期間の経過によって,原 則として形式的既判力が生ずる。実体的既判力は,客体的には訴訟物の同一性 を前提とし,主体的には当事者間で 状況に応じて第三者に対しても 作 用する。既判力ある判決が存在するときは,当事者は滅却的抗弁(exceptio peremptoria)を提出できるが,職権によっても顧慮されなければならない28)。 判決に対する不服申立てについて,ネルは,ローマ法学者とカノン法学 者との見解が一致するような完結したカタログは存在しないが,学識法の文献 では上訴(appellatio)がとくに詳しく述べられている,とする。終局判決だけ ではなく中間判決に対しても上訴できるかどうかにつき,カノン法とローマ法
(ius legale)では見解が統一されていない(カノン法上は,中間判決〔sententia interlocutoria〕,裁判人〔iudex〕が当事者に与えた訴訟の要点〔gravamen〕に対し
26) Id., 30-31.
27) Id., 31.
28) 以上は,Id., 32.
ては原則として上訴でき,ローマ法上は,終局判決の効力を有する中間判決や,終 局判決に対する上訴によっては除去できない不利益を与えるような中間判決に対し ては,上訴できるとされていた)。「上訴は,第一審裁判所が属する政治的統一体 の裁判所制度が創設した審級に従い,段階的になされなければならない。法皇 に対しては,中間審級を考慮せずに直接に上訴できる。通常裁判所の判決だけ ではなく,受託裁判官の判決に対しても(後者の場合は受託裁判所に)上訴され る。同一事件につき,2 回の上訴が可能である」。地方特別法上不服額が定め られていたり,不上訴合意がなされたりする場合は,上訴は制限される。上訴 できるのは利害関係人(is cuius interest) 敗訴当事者,一部認容の場合は 両当事者,手続に参加しない第三者でも,判決がその者の不利に作用する場合 は当該第三者 であり,欠席者(contumax)はこれに含まれない。原則とし て原審裁判官(iudex a quo)に申し立てられる上訴の形式は,終局判決と中間 判決では異なり,終局判決に対する上訴状(Appellationsschrift)には,上訴理 由(causa der Beschwer)を挙げる必要はない(判決言渡後に口頭で調書に対し直 接に上訴することもできる)。複数の争点の一部(項目)に対する上訴も可能で ある。不変期間である上訴期間は,地方特別法に別段の定めがない限り 10 日 間で,判決が言渡されこれを知ったときから開始される。その他の法定期間は,
当事者および裁判官の自由処分に委ねられ,短縮可能である(たとえば,上訴 人は,判決言渡しから 30 日以内に,原審裁判官から上訴審裁判官に対する意思表示 である伝達状〔apostoli〕を取得しなければならない)。終・局・判・決・に対する上訴が なされると,既判力は発生せず,執行を開始できない(確定遮断効と移審効
〔Suspensiv- und Devolutiveffekt〕)。中・間・判・決・に対する上訴の場合には,第一審 裁判官が上訴審裁判官に上訴を送付するならば,原審の手続を次の段階に進め ることはできなくなるが,原審裁判官が上訴を許容せずに,拒絶伝達状
(apostoli refutatorii)の形で拒絶の意思を表明するならば,上訴審裁判官が発す る正式の制止(inhibitio)によって禁じられるまで,原審の手続は続行できる。
上訴人の上訴審における弁論は,第一審で提出された訴訟資料(Prozesstoff)
書面と調書は上訴審に渡っている を新たな法的評価に委ねることに限 られ,新たな訴訟上の請求や訴訟物は排除される。ただし,終局判決に対する
上訴において,新たな事実の申述と立証,すでに呈示されていた事実に関する 新証拠の提出は,両当事者に許される(第一審ですでに論じられていた争点〔項 目〕に関する人証につき,ローマ法は原則として許容するが,カノン法はこれを認 めない)。上訴審裁判官の面前での手続はおおむね第一審と同様のルールに従 う。上訴を容れる判決には理由を付す必要がある29)(上訴以外の不服申立て方 法として,ネルは請願〔supplicato〕,原状回復〔restitutio in integrum〕,無効〔確 認〕の訴訟・無効抗告〔querela nullitatis〕を挙げている)30)。
最後に,ネルは,「ローマ=カノン訴訟の特色」として,中世学識訴訟 の基本的特色 ただし,学識法曹はその初歩的考察をこころみたにすぎず,
後期自然法時代(der späten Naturrechtsperiode)以降に,訴訟法が基本思想と 構成原理に従って解析されるようになってからその大半が構想されたものであ る を,訴訟対象の支配,手続の支配,手続的正義に分かって説明する。ま ず,訴訟対象の支配については,審理プログラム(Streitprogramm)を確定し,
判決の基礎となる事実を特定するのは当事者であり,処分権主義と弁論主義が 手続を形成する,訴訟のアゴン的構造(die agonale Struktur des Prozesses)に 鑑みれば,ローマ=カノン訴訟は対席的ないし当事者対抗的手続の類型(dem Typus des kontradiktorischen oder adversativen oder isonomen Verfahrens)に分類 されるべきである,という。手続の支配については,当事者の処分権主義が出 発点であり,その限りで対席的手続というべきであるが,裁判官は手続の進行 に関して受働的役割にとどまるのではなく,当事者の訴訟行為の許容性と事件 解決上の有益性(Sachdienlichkeit)をコントロールし,また手続上の瑕疵によ る判決の無効を回避することも裁判官の任務であるから,そのための広範な審 査と規制を行う余地がある,手続の連続的構造(der serielle Aufbau)は遅延の 危険を伴うから,裁判官は手続の迅速化のための多様な手段を利用できる,と 解説する(裁量により期間を決定する,複数の訴訟行為を期日に集約する,排除効
(失権)を伴う期日〔präkludierende Termine〕を設定する,原則として無制限な質 問権を行使し,遅延の策略を阻止する)。手続的正義については,呼出方式と呼
29) 以上は,Id., 31-36.
30) Id., 37-39.
出期間の綿密な規律が現代の双方(の法的)審尋の原則(Grundsatz der Gewä- hrung beiderseitigen rechtlichen Gehörs)に機能的に対応していること,当事者 の防禦権の保障(die Sicherung der Abwehrrechte)のために,手続進行の適式 性(Rechtsförmlichkeit)がしばしば過剰になること,これらの措置を講じてい る目的は,当事者のより良い権利が勝利を収めるように援助するとともに,法 秩序を制度的に保証するという双方的なものであること,などを論ずる31)。
ネルは,ローマ=カノン訴訟法によって,ヨーロッパの広い部分で共通のル ールの集成すなわちユス・コムーネが利用可能となったが,その特色は差異と 特殊性を伴った地方的発展に対してオープンだったところにある,と指摘する。
共通の遺産を全面的に振るい落とすことなく,訴訟の地域化と「国家化」とが 次第に進行し(ただし,ヨーロッパ内部でもその進行の程度は一様ではなかった), いたる所で固有の制定法が生成した。このテーマを検討すると,人文主義や宗 教改革の民事訴訟法への影響,自然法と啓蒙の影響といった注目すべき新たな テーマが生じた近代(Neuzeit)へと境界を越えてゆくことになる。ネルは,
啓蒙的絶対主義の精神を訴訟法典にプロトタイプ的に実現しようとした著名な 例として,プロイセンを採り上げる32)。
⑶ 本書の第 3 章「1781 年プロイセン訴訟法典の手続」は,手続原則,手 続のリズム(Rhythmus),手続進行の概要,プロイセン=フリードリッヒ訴訟 法典の特色,の各節から構成される。
第 1 の「手続原則」の節は次の通りである。ネルは,プロイセン国王の 司法改革は,司法に携わる人々への人的およびプロフェッションとしての要求
(die persönlichen und professionellen Anforderungen)を徹底的に改め,すべての 裁判所に関する規則を確実に実施すること,手続の規範的枠組の改革をプログ ラムに立脚させること,に重点が置かれたと指摘する。訴訟改革の課題として,
形・ 式・ 面 で は,普 通 ロー マ = カ ノ ン 法 の テ ク ス ト(Texten des gemeinen romanisch-kanonischen Rechts)と,普通法が確認しもしくは変更を加えた地方 特別法のテクストとの,堆積した大きな塊りを,統一的で完結した訴訟法典に
31) Id., 40-42.
変えること,内・容・面では,そのような見通しのきかない素材を,「確固たる基 礎の上に立ち,考え抜かれた体系に組み込まれているがゆえにアクセスしやす い」Regelwerk と取りかえることが要求された。前者の課題は,1781 年の
「フリードリッヒ大全,第 1 部訴訟法」(CJF)で実現され,その後の修正を加 えて 1793 年および 1795 年の「プロイセン一般裁判所法」(AGO)に集成され た。1781 年訴訟法典が立脚している基礎についての解説は,フリードリッヒ 2 世の閣令にもとづき作成され,法典よりも先に出された Vorbericht の中でな されている。そこでは,「裁判官が自ら真実を探求する立場に立つこと」と,
その埋め合わせとして,「当事者をあらゆる恣意的な扱いに対し保護すること」
が手続のもっとも高貴な Entzweck である,と述べられている33)。さらに,
「裁判官と当事者の役割分担」では,普通訴訟と明らかに区別されるのが,裁 判官の判断の基礎となる事実の収集とその立証の責任(「真実の探求」)が,通 常訴訟においても裁判官に課せられた点である(原理的には〔maximentheore- tisch〕,審問主義〔Untersuchungsgrundsatz〕が優位に立ち,当事者は裁判官の任 務を援助しなければならない)。「こうした関係は,補助官(Assistenzrat)とい う裁判官像に明瞭にあらわれている。国王は,訴訟の本質を誤解させた主たる 責任は弁護士の態度にあるとして,訴訟における弁護士の地立を 俸給を受 ける 補助官とかえるために,即座に弁護士を追放した。こうした実情に疎 い改正は,当事者の側に二重の課題を与えた。一方では,補助官は,最初から 割り当てられた当事者を,証拠方法の提出を含む訴訟事件の全状況について徹 底的に調べなければならず,その際に補助官は原則として当事者本人からの聴 き取りを行うことになる。補助官は手続の進行と訴訟の結果を予想し,彼の側 の当事者の手続上の損失を配慮して,そうした結果を裁判官合議体に伝えなけ ればならない。他方では,補助官は彼の当事者のために法律上の陳述を行わな ければならず,これは 普通法上の主張の段階(Allegationsstadium)に対応 して 審理(Instruktion)の終了から判決言渡しまでの間の時点に留保され ている。ここでは,補助官は裁判所の機関というよりも当事者の法律上の補佐 33) Id., 43-44. プロイセン一般裁判所法については,鈴木正裕『近代民事訴訟法史・ドイ
ツ』(2011 年)300 頁以下に詳細である。
(Rechtsbeistand)として機能するのである」。真実の探求にあたっては,当事 者が裁判官を援助し(その限りで補助官と同じく裁判官の補助者〔Gehilfen des Richters〕である),その結果無制限の真実義務を負う。「これは証拠調べ手続
(Beweisverfahren)においてとくに顕著であり,そこでは,補助官を動員しつ つ,裁判官団(Kollegium)の別の一員である受命裁判官(Deputierten)が指揮 を行い,真実ありのままにかつ完全に証拠方法を陳述する義務を当事者が果す ように,配慮しなければならない」。ただし,訴訟対象と全体としての手続に ついては職権主義(Offizialmaxime)は支配せず,当事者の自由処分に委ねら れる34)。「裁判官の間の役割分担」として,「審問主義の実施により裁判官と 当事者の間に生ずる権力の格差(Machtgefälle)を緩和するために,プロイセ ンの立法者は,手続法上の新たな工夫として,少なくとも 4 種の裁判官像に裁 判官の機能を巧みに配分することを思いついた」として,既述の(当事者に付 される)補助官,(証拠調べを含む審問ないし審理〔Untersuchung oder Instruk- tion〕を指揮する)受任裁判官に加え,訴状の受付・審査担当裁判官(Dezer- nent),判決起案裁判官(Referent)を挙げている。「立法者は,相互にいたる 所でコントロールする裁判官の義務を役割分担と結びつけたのである。とくに 補助官がこうした任務を託された」35)。
第 2 の「手続のリズム」の節では,裁判官組織に手続支配の重点が移動 したことともに,失権・排除効の法的形態(die Rechtsfigur der Präklusion)が,
普通訴訟と著しく異なるプロイセン訴訟のメルクマールであるとする。まず,
「統一と分割」と題して,以下のように指摘する。普通訴訟は,順序主義にも とづく一括審理主義の形式を採り(in Form der auf dem Reihenfolgeprinzip beruhenden Eventualmaxime),後行訴訟行為ののちに先行訴訟行為はなしえな いとして訴訟行為の順序・連続的推移に強行的性格を与えたが,プロイセン訴 訟の場合には,4 つに区切られた裁判官組織が存在したことから,手続の段階 的区分はあったものの,このような「区切り」(Zäsuren)は,当事者間の争点 をコントロールし(die Regulierung des Status controversiae),上訴可能な証拠
34) 以上は,Id., 44-46.
中間判決(Beweisinterlokut)制度を廃止するもので,失権・排除効を伴わず,
中間的紛争は本案と併せて弁論され,ともに終局判決で判断された。すなわち,
手続の統一性をプロイセン訴訟の特色として挙げることができる36)。次に,
「期間,形式」の項目に移る。手続の「区切り」の間の期間(Fristen)は,原 則として裁判官の裁量で決定できる(審問請求権は保障されなければならない)。 多様な裁判官組織が活動することから,証拠調べを含む弁論の直接性がきわめ て重要となるが,訴状の受付・事件審査担当官(Deputierte)が終局判決に協 力する限りで(補助官はこれにかかわらない),最終的に判決を行う合議体に関 していえば,部分的直接性(partieller Unmittelbarkeit)があるといえよう37)。
第 3 の「手続進行の概要」の節は,㋐弁論から証拠調べまで,㋑証拠調 べから判決言渡しまで,㋒判決,㋓不服申立て,の各項目に分けて概観する。
㋐「プロイセン=フリードリッヒの訴訟改革は,ヨーロッパのあちこちで法 曹に知れ渡ったが,それは基本概念に関してであって,手続の細部に関してで はなかった」。立法者は訴訟の迅速な終結を推し進めたが,「3 段階の訴え提起 という贅沢(Luxus)」を提供した。すなわち,①原告による仮の申立て段階
(die sogennante vorläufige Anmeldung)〔ここで,訴状の受付・審査担当裁判官
(Dezernenten)が合議体に報告し,管轄の有無が審査される〕,②補助官
(Assistenzrat)が訴えの受理と審査(Aufnehmung und Instruktion)を処理する 段階〔補助官は,15 点に及ぶ質問等のカタログに沿って原告から情報を得て,
原告の申立ての適法性と有理性を審査し,疑義があれば裁判官に報告する〕,
③補助官の調書(Aufnahmeprotokol)とともに主報告書(Hauptbericht)が訴 状受付・審査担当裁判官(Dezernenten)に交付され(後者が合議体に報告),再 度適法性・有理性を審査し,疑義がなければ,主報告書の形式で被告に送達さ れる段階,と進む。被告が出頭すれば(欠席は自白〔confessio〕の機能を果し,
敗訴判決にいたる),被告側にも同様に補助官が付され,答弁の受理と審査を担 当する。被告が提供する情報には,抗弁を構成する事実も含まれるが,立法者 は抗弁理論(Lehre von den Einwendungen oder Exzeptionen)については同時代
36) Id., 48-49.
37) Id., 49.
の普通法学説に依存している。手続に関する延期的抗弁(dilatorische Exzep- tionen)は,補助官,訴状受付・審査担当裁判官のいずれの審査においても検 討され,抗弁が明白でなくて証拠調べを要する場合には,本案の審理(der In- struktion der Hauptsache)の際にともに審査される。被告側の審査にも主報告 書が作成され,これによって原告に知らされる。「実際の」審理のための期日 が同時に決定されて,その指揮を行う審査担当裁判官(Deputierte)が選任さ れる。この期日のために補助官は立会いを求められ,審査担当裁判官は,訴え 提起および答弁の際に実施された尋問と調査を繰り返し,その内容を補充する。
当事者間の争点(Status controversiae)の確定は当事者双方の尋問(Einverneh- men)を通じて行われなければならないが,たとえば証明の必要(Beweisbe- dürftigkeit eines Umstands)について審査担当裁判官と当事者(ないし補助官)
とで見解が一致しない場合には,手続を中断せずに合議体の決定を得る38)。
㋑証明と証拠調べ(Beweisaufnahmen)は裁判所(審査担当裁判官)の職務
(Sache)であって,当事者は審査担当裁判官を援助し,その指示に従わなけれ ばならない(挙証責任〔Beweisführungslast〕は重要ではなく,その時々に関係当 事者が証拠調べの成功ないし失敗を負担すること〔Feststellungslast ないし Risko der Beweislosigkeit〕は念頭に置いていない)。証明段階では,中間手続・中間判 決の余地はない。証拠方法については,自白と推定が「むしろ付け足りで」
(eher beiläufig)処理され,裁判官による検証のほかに,書証,証人証拠,当事 者宣誓による証明に独立の節が置かれていて,証人証拠(Zeugenbeweis)の手 続を除けば,全体として普通法と異ならない。証人証拠については,原則とし て確定した「当事者間の争点」に従って証拠調べが行われ(できる限り審査担 当裁判官個人が尋問する),補助官は審査担当裁判官を監視するために立会いを 求められる。呼出された証人は原則として尋問を免れることはできない(証人 宣誓を伴う証言強制)。証言が矛盾する証人同士は対席させられる(gegen- übergestellt)。当事者宣誓においては,立法者は,普通法上周知の当事者から 当事者に転嫁される宣誓(転嫁宣誓)と,裁判官が当事者に課す必要的ないし
裁定宣誓との区別を行った(後者の場合,裁判官はすでに他の証拠が提出されて いても,その補完ないし解明のために宣誓を命ずることができる)39)。
㋒普通訴訟と比べたプロイセン訴訟の特色は,独自に取消しうる中間判決を 放棄したことであり,Dekrete などの各種の名称の決定(Bescheide)は判決と ともに上訴できるにとどまった。判決は,主任裁判官(Referenten)が準備し たのち,合議体によって下され,普通法上の訴権の分類と方式(genera et for- mulae actionum)を考慮することは禁止された。事実状況につき疑義があると きは合議体の多数決により決せられ,法律問題につき疑義があるときは Gesetzes-Kommission の判断を求めるものとされた。明文規定はないが,法文 の全体的関連からして,裁判所は訴えによる申立てに拘束され(処分権主義), 裁判官は訴訟行為で伝えられる現実の事象(Vorgänge in der Lebenswirklich- keit)のみに依拠しなければならず,判決は裁判官の私知に依存してはならな いとする不文の命題が妥当するものと解された。証拠方法の信憑性の存否は裁 判所の義務的裁量(pflichtgemäßen Ermessen)により評価される。普通法上の 法定証拠理論についても立法者はこの信憑性を留保しておくことで,その相対 化をはかった。たとえば,提出された証拠方法が矛盾しているために,証拠調 べが確実な結果にいたらない場合には,最終的には裁判所が自由に評価できる。
その他の不確定な場合においても,裁判所は必要的宣誓をいずれの当事者に求 めるかを自由に決定できる。判決理由は公表される。訴訟費用についても言渡 される。10 日間の上訴期間が経過すると,判決に既判力が生ずる(普通法の伝 統によれば,その形成は実体法に委ねられるが,第三者に既判力が拡張される若干 の場合について訴訟法に規定されている)40)。
㋓上訴は移審効(Devolutiveffekt)を基準に分類でき,控訴(die Appellation)
と再考案の申立て(die Revision)は移審効を伴うが,無効の訴え,原状回復の 申立て(Gesuch um Restitutio in integrum),被告欠席を理由とする欠席判決
(Contumacial-Resolution)に対する被告からの回復申立ては,いずれも移審効 を欠く。控訴は大体において第 1 審に対応する手続を作動させ(当事者双方か
39) Id., 52-54.
40) Id., 54-56.
ら,新事実と新たな証拠方法〔Nova〕が提出可能),第 1 審と同じく多数の種類 の裁判官が関与する。控訴審判決に対しては再度の考案の申立てができ(審理 期日を伴う手続,新事実・新証拠方法の提出は不可),再考案裁判所は自判もしく は再審理のための差戻しを行なう41)。
最後に,プロイセン=フリードリヒ訴訟法典の 2 つの指導理念のうちで,
裁判官による真実探求(審問主義〔Untersuchungsgrundsatz〕と裁判官による訴 訟運営)は後世の訴訟法典・草案にとってインスピレーションの源泉となった が,もう 1 つの,裁判官の機能を多くの者に分配することの方はほとんど無視 された,とネルは評価する。訴訟プログラム(das Streitprogramm)と訴訟追 行およびその終了についての判断は当事者が支配するが,審理(die Instruk- tion すなわち判決にとって重要な事実関係の探求とそのための手続上の措置)は裁 判官が支配し,裁判官による真実探求にあたり,当事者は単に裁判所の補助者 の役割を果すにとどまる。規範類型的・法様式的には,抽象的・仮説的な性質 の規定よりも論証的で常軌を逸した法文が,教育的・不満気なトーンで定めら れている(〔半〕専制国家性のあらわれ)。法典論からすれば,訴訟法典の対象は あらゆるニュアンスでの臣民に即したプログラム(dem Programm gemäß die Untertanen in allen Schattierungen)であった(政治的ファクターとしては,啓蒙 的 官 僚 組 織 の 確 立 を 挙 げ る こ と が で き,立 法 の た め の „ die bürgerlich-staats- bürgerliche Fundierung はまだはっきりと認めることはできない)。プロイセン民 事訴訟法典以外にも,啓蒙絶対主義時代の訴訟法典としては,1753 年バイエ ルン裁判所法典(der bayerische Codex juris Bavarici judiciarii),1781 年のオー ストリア一般裁判所法典があるが,いずれも手続の進行を原則として地方特別 法の規律に委ねている点で異なる。両法典が,その目的設定・方法・形式・内 容においてどこまで(初期)自然法思想に倣っているかは,いまだ十分詳しく は解明されていない42)。
⑷ 本書の第 4 章「フランス民事訴訟法典の手続」は,①フランス民事訴訟 法典の成立条件,②裁判所制度と関係人,③手続法の基本的常数(Grundkon-
41) Id., 56-57.
stanten),④手続進行の概要,⑤証拠,⑥判決,⑦判決に対する不服申立て,
⑧フランス民事訴訟法典の手続の特色,の各節から成る。以下,順次検討して ゆこう。
まず,1806 年民事訴訟法典は,全体としてみれば,革命の努力の成果 でも,ナポレオンが法典化に参画したことの成果でもなく(民事訴訟法規には ほとんど関心が向けられなかった),訴訟法典起草のために1802 年に設置された 委員会は,アンシャン・レジーム期に活動し,当時の法状態を良好かつ合目的 的(gut und zweckmässig)であると考えていたプロフェッションの諸勢力から 構成され,1667 年民事法令(Ordonnance civile. ルイ法典)とパリ最高法院の実 務を立法作業の出発点とした。起草委員会のメンバー(その中心は Eustache Nicolas Pigeau)は,手続法への同時代人の批判の中から,手続の遅延(len- teurs),規律の甚しい多様さ,その厳格さ,手続のコストがかさむことなどの 主たる欠陥をとり集めたが,実務における形式主義,コスト,遅延の策略を抑 制するだけの改正にはいたらなかった。しかしながら,新法典はアンシャン・
レジーム下の規律を基礎としているけれども,革命期の手続法の相当重要な要 素 治安判事(justice de paix)制度,通常手続に前置された調停(concilia- tion),証人証拠の自由評価,判決理由を付する裁判官の義務,控訴期間の短 縮 を導入した。フランス民法典の場合に比べ,民事訴訟法典を全面的に成 功した立法作品として評価する者は少ないが,それはフランスの国境を越えて 伸張し,諸国の民事訴訟法に数 10 年にわたって影響を与えた(少なくとも間接 的にその形成に協力した)43)。
アンシャン・レジーム特有の多様な裁判権にかわり,革命期以降は,同 形で統一的でヒエラルヒー的な裁判所の構造が登場する。それは通常裁判所
(下級ないし第 1 審裁判所と控訴裁判所)と特別裁判所(治安判事,商事裁判所,
労働裁判所〔conseils de prudʼhommes〕)とに分かれ,二審級の原則(des Prinzip des double degré de juridiction)が妥当する。王座を占める破毀院は,法律違背
(Rechtsverletzung)を理由とする判決の取消しに管轄が限定されているため,
43) Id., 61-63.