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利得償還請求権をめぐる判例の動向

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利得償還請求権をめぐる判例の動向

池 島 宏 幸

まえがき一︑利得償還請求権の取得と手形所持の要否

二︑利得償還請求権と利得の存否

三︑利得償還請求権と失権の程度

四︑利得償還請求権の譲渡方法

五︑利得償還請求権の行使方法をめぐる権利の本質論

六︑利得償還請求権の時効期間

まえがき

 手形上の権利が︑時効または︵権利保全︶手続の欠鉄によって︵手形法−以下︑手と略−五三条参照︶︑消滅した

ときであっても︑所持人︵←請求権者︶は︑振出人・引受人・裏書人または支払保証人︵←義務者︶に対し︑その受

けたる利益の限度において︑償還の請求をなすことができる︵手八五条︑小切手法−以下︑小と略i七二条︶︒これ

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が利得償還請求権であるが︑この権利は︑いわゆる手形上の権利の消滅を前提として賦与される特別の救済権である

ものとされ︑手形法の規定にもとつく手形法上の権利ではあるが︑手形関係の内容である︑いわゆる手形上の権利と

は区別されるものとされる︒

 その根拠は︑もともと手形の振出または裏書によって︑振出人または裏書人は︑それぞれ対価を取得するし︑また

為替手形の引受人または小切手の支払保証人は︑振出入から︑その手形または小切手の支払に充当すべき資金の供給

を受けていることが通例であろう︒したがって︑8時効または手続の欠訣によって手形上の義務を免がれる場合に

は︑すでに受領した対価または資金を利得せしめておくことは︑衡平の理念に反するおそれなしとしない訳である︒

ことに手形上の権利の時効が短期で︑かつ権利保全手続の厳格性を考慮すれぽなおさらといえる︒口そしてさらに︑

手形を︑その目的・手段の関係からみれぽ︑原因関係または資金関係に対しては︑単に手段的な意義をもつにすぎな

いから︑手形関係の内容である手形上の権利が︑時効または手続の欠訣により消滅した場合は︑手形の基本関係また

は実質関係である原因関係または資金関係からは︑その所期の目的が実現しえなかったことになる︒これによって︑

手形上の義務者をして︑原因関係または資金関係において取得した手形の対価または資金を最終的に利得させること

は合理的でない︒つまり︑可及的にその対価または資金︑すなわち利得を元のさやへ償還させることによって衡平を

はかろうとすることに︑利得償還請求権の立法趣旨があるものと思われる︒

 なお︑利得償還義務者は︑振出人・引受人・裏書人または支払保証人に限られ︑これらの者が利得をしたことを前

提とする︒

 本稿は︑このような特質をもつ利得償還請求権をめぐって︑以下の各項目について︑従来から形成・展開されてぎ

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た代表的な判例によって︑その法的な本質を浮びあがらせて︑今後の検討の課題をまとめることとする︒

一 利得償還請求権の取得と手形所持の要否

利得償還請求権をめぐる判例の動向

 H 利得償還請求権の発生ないし取得要件と手形の不所持

 利得償還請求権の発生ないし取得のために︑手形・小切手︵証券︶の所持は必要か? 旧時︑大審院判例は︑利得

償還請求権者は︑﹁其の消滅時効完成の時に於て︑手形所持人として其の債権を行使し得べかりし者に限るべきこと

は商法第四四四条︵現手八五条︑小七二条︶の解釈盆明なり﹂と︑失権当時手形を所持していない者は︑たと︑兄実質

的権利者でも利得償還請求権を取得しえないものとしていた︵大判昭和五・九.一七.民集九巻一〇号八=一頁︑鈴

木竹雄・判民昭五年七八事件︶︒なお学説も︑裏書の連続を欠く手形所持人は利得償還請求権を取得しないとしたも

のもあった︵田中耕太郎・手形法小切手法概論一九七頁︶︒

しかし・最高裁︵最判昭和三四皇道●必罰塞三巻六号六六四融は・右の所持必要説の立場を変更して︑失権当

時における手形の実質的権利者は︑たとえ手形を所持せずまた除権判決を得ていなくても︑利得償還請求権を取得す

るものとしたのであり︑学説の多くは︑これを支持し︑不要説が通説となっている︒

 口 所持不要説の根拠となる理由

 ω 実質的権利は形式的資格の外に﹁超越して厳として存在する以上﹂︑実質的権利者であれば︑たと︑κ形式的資

格を欠いても︑利得償還請求権を取得するのに妨げとならない︵鈴木・前掲七八事件︑伊沢孝平.手形法小切手法二

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四二頁︶︒

 そもそも︑利得償還請求権が特に認められる理由は︑権利保全手続の欠敏または時効によって︑手形債務を免れた

債務者と手形債権を失った所持人との間の衡平を図るため︵松本蒸治・手形法九六頁︑田中耕太郎.手形法小切手法

概論一九五頁︶であるから︑失権当時に手形を現実に所持するか否かによって︑この権利の成否を区別すべきではな

い︒ ② 利得償還請求権は︑手形上の権利の変形︵縮小︶したもの︑ないし手形から生ずる権利︵鈴木竹雄.手形法.

小切手法三一〇頁︑田中誠二・手形・小切手法一一八頁︑北沢正啓・商法演習皿問題︹二一︺一一〇四頁︑手形法上の

特別の救済権−大浜信泉・手形法小切手法四〇頁︶であって︑手形上の権利と異なり︑手形の所持が権利取得の直接

の理由となるものではない︒

 圖 手形法八五条︑小切手法七二条に﹁所持人﹂という文言があるが︑条文は通常の場合を対象として規定してい

ると考えることができるし︑権利発生取得の要件を論ずる場合に︑別に妨げとならない︵河本一郎.手形小切手判例

百選︵新版・増補︶五七事件一三〇頁︶︒

 ㈲ 実際上も︑小切手のような呈示備畜の短いものでは︑所持人が呈示期間経過前に︑これを取戻し︑または除権

判決を得ることは︑事実上困難であるから︑所持人に利得償還請求権を認めなければ︑その実効性を露なわしめるこ

とになる︒などがその主たる論拠である︒

 なお︑利得償還請求権の行使と証券の所持については︑はげしい学説の対立がある︵後述五参照︶︒

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利得償還請求権をめぐる判例の動向

︵1︶ 手形の不所持と利得償還請求権の取得︵書判昭和三四・六・九民集一三巻六号六六四頁︶

 ︹事実︺Y銀行甲支店長は︑甲支店を支払人とする自己宛の持参人払式一般線引小切手一通をAおよびBのために振出し︑.X

は︑AとBからこの小切手を譲受けた︒ところが譲受の翌日これをCに盗取され︑呈示期間内に呈示することができず︑手続の

欠訣により小切手上の権利を失った︒この小切手の振出については︑AとBはY銀行甲支店に預金を有していたが︑当座取引関

係がなく︑右預金の払戻に代えて右振出を受けたという事情があった︒

 Xは︑右小切手の振出によりY銀行のAとBに対する預金債務は小切手に組入れられた金額の限度で消滅したから︑Y銀行は

同額の利得を得ているとして︑Y銀行に対して利得償還請求の訴を提起した︒

 ところが︑本件小切手は盗取者CからD︑Eと交付によって譲渡され︑しかもY銀行はこれをF銀行との手形交換を通じて決

済を完了していた︒

 第一︑二審ともX敗訴︑ことに第二審判決は︑利得償還請求権は失権当時小切手の所持人として小切手上の権利を行使しえた

者に対してのみ与えられるとして︑控訴棄却︑Xはこれを不服として上告︒

 ︹主旨︺ ︵破棄差戻︶ ﹁利得償還請求権は︑小切手の所持人が手続の欠訣もしくは時効により︑本来正当に有していた小切手

上の権利を喪失した事実があるに拘わらず﹂︑7⁝−振出人その他の者が対価を得て利得している事態﹂﹁⁝⁝の衡平を図るため

特に認められた権利で﹂︑﹁小切手上の権利と異なり小切手の所持をもって権利取得の直接の理由とするものではない︒﹂

﹁正当な所持人として小切手上の権利を行使し得べかりし者が︑たまたま小切手を盗取せられ︑失権当時︑小切手の現実の所持

を有せず︑もしくは逸早く除権判決を得ていなかったとしても︑もしその間他の第三老においてその小切手上の権利を取得する

に至らず︑被盗取者において依然実質上の権利者たることを失っていなかったものとすれば︑振出人等に利得の存する限り︑そ

の間の衡平を図る必要がないものとは即断し得ない﹂︑﹁⁝⁝もしかかる場合であるとすれば︑右被盗取者が︑失権当時︑小切手

の現実の所持を有せず︑もしくは除権判決を得ていなかったとしても︑その一事によって直ちに利得償還請求権の取得を否定し

得ない﹂︒

 ︹本件評釈︺伊沢孝平・判例評論四〇号︒北村良一・ジユリスト一八四号︒長谷部茂吉・金融法務事情二ご一号︒田中誠・福

岡・手形研究二七号︒升本喜兵衛・判例評論二〇号︒大隅健一郎・民商法雑誌四一巻五号︒保住昭一・法律論叢三三巻四号︒前

田庸・法学協会雑誌七七巻二号︒河本一郎・手形小切手判例百選︵新版・増補︶五七事件︒北沢正啓・商法演習皿問題︹一=︺︒

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二 利得償還請求権と利得の存否

 日 利得の存在と利得償還請求権の発生

 もともと︑利得償還請求権の発生要件には︑①有効に存在する手形上の権利が時効または遡求権保全手続の解怠に

よって消滅したこと︑②手形債務者が利得をしていることを要することについては︑異論はない︒しかしさらに︑③

手形の所持人は︑手形上の権利を失うほか︑他の権利をも失うこと︑つまりすべての権利を失うことを要するかどう

かについては︑学説が分かれている︵服部栄三・手形・小切手法綱要一四二頁︒第三要件については︑後期三参照︶︒

 利得償還請求権の発生についての第二要件をめぐって︑最高裁判例︵最判昭和三八・五・二一民器一七巻四号五六 ︵2︶○頁︶は︑既存債務の消滅と手形債務者における利得の存否との関連について︑従来の判例の立場を踏襲・支持して

いる︒ すなわち︑第二要件の手形法八五条﹁受ケタル利益﹂つまり利得の存在について︑利得とは︑手形債務者が手続の

欠訣または時効によって︑単に手形上の債務を免れたこと自体ではなく︑手形授受の基礎である実質関係において受

けた利益のことで︑実質関係において受領した対価または現実の資金を保持できることを意味する︵大判大正五二

.三一民録二二輯一〇三頁︑法律新聞一一〇三号二七頁︑大判大正六・七・五要録一一一二輯一一一八四頁︶︒

 しかし︑実質関係において︑積極的な全員の交付など積極的利益にかぎらず︑消極的に原因債務を免れること︑例

えば既存債務である売買代金の支払を免れた場合︵大判大正五・一〇・四民録二二輯一八四八頁︑大判大正八・二・

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利得償還請求権をめぐる判例の動向

二六民録二五輯三八一頁︶︒あるいは更改または代物弁済のため手形を授受して既存の債務を免れた場合︵大判大正

六・七・五民録二一二輯=一八二頁︑大判大正九・三・一民録二六輯一二三頁︶も消極的利益として︑これに含まれる︒

 昌 原因債務の時効消滅と利得の存否

 そこで︑この利得の存否をめぐって︑さらに手形上の義務を免れた手形債務者に利得が認められるためには︑原因

関係上の既存債務を免れていることを要するかの点については︑これを必要と解するのが︑判例︵大判大正九.一.

二九民録二六輯九九頁︑大判昭和=・一〇・二一法律新聞四〇六四号一八頁︶および通説である︒すなわち︑手形

上の債権が時効によって消滅しても︑原因債務がなお存続する場合には︑対価を取得していても利得とはならないの

であって︑つまり債務者がいま充原因債務を負担している以上は︑利得は存在しない︑したがって︑利得償還請求権

は発生しないと解する︒

 これに対して︑不要説である批判説は︑原因債務が消滅していなくても︑利得ありとする︒すなわち︑利得償還請

求権を手形上の権利に代るものと解すれば︑他の債務者に対する手形上の権利の消滅の要否より︑確定的な利得の存

否が問題となるだけであるとする︵鈴木竹雄・手形法・小切手法三一二頁︶︒

 とくに︑前述最高裁判例は︑必要説・通説の立場から︑原因債務の時効消滅と利得償還請求との関連について︑①

手形上の権利消滅後に︑原因債務が消滅した場合も︑利得ありとはいえず︑利得償還請求はなしえないとの従来から

の判例の立場をとっている︵同旨大判昭和一六・六・二〇民主二〇巻九一六頁︶︒なおまた︑②原因債務の時効消滅

後に︑手形上の権利の消滅した場合であっても︵最判昭和四〇・四・一三判例時報四一三号七六頁︶︑利得ありとは

いえない︒その両者の消滅の時間的前後を問わない︒その根拠は︑債務者が原因債務を免れたのは︑手形の授受とは

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関係ない消滅時効の完成という別個の法定事由に基づくものであるからであるとされる︒

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︵2︶ 原因債務の時効消滅と利得償還請求権︵最判昭和三八・五・一=民集一七巻四号五六〇頁︶

 ︹事実︺Xは︑YのXに対する消費貸借上の債務の支払方法として振出した三通の約束手形︵満期日昭和二九年二月五日〜四

月一〇日︑合計金額二六万五千円︶を︑それぞれの満期日に支払場所に呈示して支払を求めたが拒絶されたので︑昭和三二年九

月三日その支払をYに対して訴求した︒ 第一審は︑Yの手形債務は時効消滅している旨の抗弁を認めて︑Xの請求を棄却︒Xは利得償還請求の追加をして控訴した

が︑手形が消費貸借上の債務の弁済のために振出された場合には︑手形債務が時効消滅しても︑なお原因関係上の既存債権たる

貸金債権を行使しうるから︑Xには救済方法が残っており︑Yは手形法入五条にいう利益を受けた者に該当しないとしてXの請

求を棄却︒そこでXは︑本件の原因関係上の既存債権は商行為によって生じたもので︑すでに昭和三四年四月一〇日で五年の時

効期間を経過している︵控訴審の判決日は昭和三六年七月二七日︶などを理由として上告︒

 ︹判旨︺ ︵棄却︶ ﹁本件手形上の権利が時効に因り消滅した後︑本件消費貸借上の債権もまた時効に因り消滅しているとして

も︑該債権の消滅はXがその行使を怠った結果に外ならず︑Yにおいて右手形上の権利の消滅により利得したものとはいえない

から︑Xに利得償還の請求権が発生するものではない︒従って︑所論の点につきXをして釈明せしめなかった原判決に違法があ

るとはいえず︑所論は︑採用できない﹂︒

 ︹本件評釈︺

 田辺康平・手形小切手判例百選︵新版・増補︶五六事件︒大浜信泉・手形小切手判例百選︵旧版︶四八事件︒山田弘之助﹁利

得償還請求権の発生要件﹂北沢正啓編・商法の争点三〇二頁︒

三 利得償還請求権と失権の程度

H 失権の程度と利得償還請求権の発生要件

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利得償還請求権をめぐる判例の動向

 前述二で述べた発生要件の第三要件をめぐって︑失権した手形の所持人サイドの救済如何に関する問題である︒

 失権一権利消滅の程度とは︑利得償還請求権の発生において︑①利得償還請求の直接の相手方である手形債務者に

対する手形上の権利のみならず︑他のすべての手形債務者に対する手形上の権利の消滅が必要であるかどうか︑②さ

らに︑他の民法上の救済方法もないこと︵最終手段性︶を必要とするかの問題である︒

 これについて︑判例・学説は︑つぎの三つに分かれている︒

 ω 手形法上︑民法上の全権利または全救済方法もないことを要するとする説︵従来からの判例の立場である︒大

判昭和三・丁三民集七巻一敦はじめ・大判昭和一〇三・天法律新聞三八二七量防毒大判昭和一三・五・

一〇民集一七巻八九一頁︑大判昭和一六・六・二〇民集団〇巻九一四頁など︑小町谷操三.判例民事法昭和一六年度

五九事件︑伊沢孝平・手形法・小切手法二三六頁︶︒

 ② 手形上の権利ないし救済方法を有しないことで足りるとする説︵竹田省・手形法・小切手法五六頁︑大隅健一

郎・手形法小切手法講義六七頁︒田中誠二・手形・小切手法一〇四頁︶︒

 ㈲ 利得償還請求の直接の相手方に対する手形上の失権のみで足りるとする説︵戦前からの多数説−松本蕉治.手

形法九七頁︑田中耕太郎・手形法小切手法概論一九八頁︑大浜信泉・手形及小切手法一三八頁︑石井照久.商法下一

八七頁︑鈴木竹雄・手形法・小切手法三一〇頁︑服部栄三・手形・小切手法綱要一四四頁など︶︒

 口 権利消滅の程度をめぐる学説の展開

 ω 第一の説は︑主に従来の判例の立場であるが︑前述大審院判例において︑いまだ原因債権が存続しており︑こ

の既存債権の行使ができうることを理由にして︑利得償還請求権の成立を否定したように︑手形法上も︑民法上も他

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に救済手段がない場合のみに利得償還請求をなしうるとする︒       m その根拠は︑本請求権が手形厳正の制度を緩和し︑時効または保全手続の建武によって手形上の権利を喪失した者

と︑それによって利得を受けた者との利益衡量上衡平の理念から認められた制度であるから︑他に手形上の権利を有

する者または民法上の救済権を有する者は︑保護をする必要がないとして︑利得償還請求権の二次性ないし最終的救

済性の方法であることを強調する説である︒

 この説に対しては︑民法上の救済方法もないことを要すると解する法律上の根拠を欠くとの批判がなされている︒

 ② 第二の説は︑民法・商法上の権利または救済方法がなくなることを要しないが︑手形上の権利はすべてなくな

ったことを要するとともにそれで足りるとする説であり︑前説より︑手形所持人をより厚く保護することとなる︒

 ㈹ 第三の多数説は︑第一の説が厳格説とすれば︑緩和説ともいえる︒利得償還請求の相手方である手形債務者に

対する手形上の権利が︑時効または保全手続の解怠によって消滅すれぽ足り︑その者に対する利得償還請求権が発生

し︑他に手形上または民商法上の権利が存在してもさしっかえないと解する︒この説は第三要件を必要としない見解

といえる︵服部・前掲書一四四頁︶︒

 この説によれぽ︑①利得償還請求権は︑実質ないし本質的には手形上の権利の変形物または残存物ないし延長物さ

らには復活物︵性質論については︑後述五口ω参照︶と解すれば︑各手形債務は独立したものであるから︑他の債務

者に対する手形上の権利の消滅の有無よりも︑利得償還請求の直接の相手方に対する手形上の権利の消滅によって︑

相手方が確定的に利得をえているかどうかだけを問題とすべきことをその根拠とする︒そして︑②密航説によって

も︑他の債務者に対する権利が残存している場合︑その債務者が無資力で︑所持人が満足をうる見込みがないときに

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は︑衡平の見地から認められた利得償還請求権の趣旨から︑特別にその発生を認めるべきであると解しているが︑本

説を採れば︑端的に同様な結論を導きうるし︑手形所持入の保護においてまさっているとする︒

このように︑学説は︑厳格説を採る従来の判例に対して︑実務上ないしその理論上︑比較的簡明な多数説である緩

和説へと展開している︒

利得償還請求権をめぐる判例の動向

︵3︶ 原因債権の存続と利得償還請求権︵大判昭和三・一・争心集七巻一頁︶

 ︹事実︺Yは︑大正九年五月二二日Xに対する商品の売買代金の支払方法として︑受取人Y︑支払人Aなる為替手形を振出し︑

Aの引受を得たうえ︑これをXに裏書譲渡した︒その後右手形は︑大正一一年三月九日振出︑満期同年五月三日︑その他同一の

為替手形に書き替えられた︒Xは︑Aに対し呈示期間内に支払呈示しなかったので︑Yに対する手形上の権利を失った︒そこで︑

Xは︑Aが支払った手形金の一部支払額を控除した残代金につき︑Yに対し利得償還請求を訴求した︒ 一︑二審ともX敗訴︒

原審は︑Aが無資力であると否とを問わず︑Aに対する手形上の権利が存在していること︑また︑手形が支払方法として譲渡さ

れた場合には︑手形上の権利が消滅しても︑既存債権の行使ができること等の理由で︑利得償還請求権の成立を否定︒X上告︒

 ︹判旨︺ ︵強酒差戻︶ ﹁手形力既存ノ民法上ノ債権二対スル弁済ノ方法トシテ振出サレタル場合二於テハ其ノ債権ハ手形授受

二因リ消滅セサル朝酒二縦令其ノ手形上ノ権利力時効二因リ若クハ手続上ノ欠訣軸性リ消滅スルモ手形所持人力既存ノ民法上ノ

債権ヲ行使スルコトヲ得ルトキ即チ他二三法上ノ救済方法ヲ有スルトキハ利得償還ノ請求権ヲ有セサルモノトス﹂︒

  ︹本件評釈︺小町谷操三・判例民事法昭和三年度一事件︒田辺康平・手形小切手判例百選︵新版.増補︶五六事件︒

四 利得償還請求権の譲渡方法

e その譲渡方法

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 前述のように︑この請求権が別段譲渡に適さぬ性質をもつことなく︑譲渡可能であるとするが︑その際の譲渡方法

に関しては︑この請求権は︑手形上の請求権ではないから︑民法上の指名債権譲渡の手続方法によるべきであって︑      ︵4︶裏書の方法によるべきものではないことを明示した最初の大審院判例があり︵その後も同趣旨先例として︑大判昭和

五・七・四新聞三一六三号六頁一後掲五注︵5︶︶︑学説上も︑この判例を支持する立場が︑通説である︒

 なお︑前掲大審院判例がこのように解した論拠としては︑手形上の権利が消滅した場合は︑﹁手形ハ⁝⁝手形トシ

テノ法律上ノ存在ヲ失フ﹂ので手形は最早︑有価証券ではなく︑証拠証券となるものとすることを前提とするものと

いえよう︒

 したがって︑単なる証拠方法となることから︑後述のように︑その権利の譲渡および行使に︑手形証券︵正確には

手形であった証券︶の交付ないし所持を必要としないとする通説にもつながってくるのである︒

 口 その譲渡に手形証券の交付を必要とする?

 しかし︑その譲渡については︑指名債権譲渡の方法のほか︑手形証券自体の交付を必要とするかどうかの点につい

ては︑見解が分かれ︑まさにその権利の行使に証券の所持または除権判決を必要とするか否かという問題に関する見

解の相異と同様な対立が存在する︵服部栄三﹁利得償還請求権と手形証券﹂現代商法学の課題︵中︶鈴木古稀記念七

四七頁︶︒この対立は︑基本的には︑この請求権の法的性質論︵後述五目ω参照︶に結びついていると考えられる︒

 通説である交付不要説は︑①利得償還請求権を︑その性質上︑手形法上の権利ではあるが︑手形上の権利ではなく︑

衡平を図るため︑とくに法の直接規定によって認められた特別の請求権︵松本蒸治・手形法九五頁︑田中耕太郎.手

形法小切手法概論一九五頁︶ないし一種の指名債権と解して︑失効した手形は︑この権利の存在を証明する証書にす

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j得償還請求権をめぐる判例の動向

ぎず︑他の方法で立証可能であれぽ︑手形証券の所持なき権利の行使をも否定する理由はないとして︑その権利の行

使に手形証券の所持または除権判決を必要としない︒②その権利の譲渡は︑指名債権譲渡の方式による︒証券の交付

を必要としないから︑譲渡はその意思表示のみで成立し︑ただ対抗要件として債務者に対する通知などを必要とする

にとどまる︵大隅・河本・増補手形法小切手法四〇一頁︶︒したがって︑不要説の立場では︑証券の交付は︑譲渡の成

立要件でもなく︑対抗要件でもない︒この点︑後掲︵五型︵5︶︶判例は︑利得償還請求権の譲渡は︑指名債権の譲渡

として当事者の合意のみによって成立し︑手形の移転を要しないとして︑交付不要説を採っている︵同旨東京地判事

正五・五・六新聞=三八号二一頁︶︒③この請求権の行使について︑手形の所持不要説を採れば︑譲渡についても︑

交付不要説となる︒

 これに対して︑有力説である交付不要説は︑利得償還請求権が実質的には︑手形上の権利の残存物または復活物的

性質を有すること︵服部栄三・手形・小切手法綱要一四〇頁以下︶から︑償還請求をうける義務者をさして︑正当な

請求権の確認による二重写の回避のため︑手形の回収を必要とし︑また存在しうる失効前の手形の善意取得者の保護

の必要性︑さらに権利者が手形または除権判決なしに︑権利者との立証の困難性などを理由として︑①その行使に手

形証券の所持を必要と解すれば︑譲渡にも交付を必要と解すべきであるとする︒②失効した手形は︑利得償還請求権

という非手形上の権利︵すなわち手形外の権利ではあるが︑実質的には手形上の権利の残存物または復活物ともいえ

る︑いわぽ純粋の手形外の権利−商法または民法上の普通の権利1と手形上の権利との中間物とみる︶を表署する有

価証券と解するのである︒③したがって︑譲渡には︑指名債権譲渡の方式にともなって︑手形証券の交付を必要と解      鵬することになる︒つまり譲渡は︑譲渡の意思表示と証券の相手方への交付により成立し︵成立要件︶︑これに加え︑

(14)

民法四六七条により債務者に対する通知または債務者の承諾を要する︵対抗要件︶とする︵浜田一男﹁利得償還﹂手       脳形法・小切手法講座5一六一頁︑田中誠二・手形小切手法詳論上巻二七九頁︑前田庸・判例評釈−最判昭和三四・六

・九−法学協会雑誌七七巻二号二二九頁︑

掲七四七頁以下︶︒ 北沢正啓﹁利得償還請求権﹂鈴木・大隅編商法演習二二〇九頁︑服部・前

︵4︶利得償還請求権の譲渡方法︵大判大正四・一〇・=二輯録︑一=輯一六七九頁︶

 ︹事実︺Yは︑Aに対する五〇円の原因関係上の債務の支払に代えて︑約束手形を振出交付したが︑Aが権利保全手続を怠っ

たため︑時効によって手形上の権利が消滅したので︑AはYに対し五〇円の利得償還請求権を取得した︒ところが︑Aはその後この手形を裏書の方法によってXに譲渡し︑XはYに対して利得償還請求をした︒原審はYを敗訴させたので︑Yは︑利得償還

請求権の譲渡は民法四六七条の指名債権譲渡の対抗要件をみたさなければならないとして上告︒

 ︹判旨︺ ︵破棄差戻︶ ﹁商法第四百四十四条ノ利益償還請求権ハ﹂ ﹁別段譲渡二適当サル性質ヲ有スルコトナク譲渡ヲ許ササ

ル法律ノ規定モ亦存スルコトナキヲ以テ之ヲ譲渡スルハ妨ケナシ然レトモ手形ヨリ生シタル債権力時効又ハ手続ノ欠敏二因リテ

消滅スルトキハ手形曲弦二手形タルノ効力ヲ失ヒ爾後手形トシテノ法律上ノ存在ヲ失フヘク従テ利益償還請求権ハ手形上ノ請求

権二非サルカ故一こ ﹁通常ノ債権譲渡ノ手続二審ルノ外ナク手形裏書ノ規定二従ヒ裏書二依リテ之ヲ為スハ法律上不可能ナリト

謂ハサルヘカラス而カモ﹂﹁法律ノ直接規定二依リテ手形ノ効力消滅当時ノ所持人二付与セラレタル指名債権二黒スル﹂﹁⁝⁝民

法第四百六十七条ノ手続ヲ履ムニアラサレハ其譲渡ヲ以テ債務者タル振出人又ハ引受人二対抗スルコトヲ得サルモノトス﹂︒

 ︹本件評釈︺

 並木俊守・手形小切手判例百選︵旧版︶五一事件︒田中昭・手形小切手判例百選︵新版・増補︶五八事件︒

(15)

五 利得償還請求権の行使方法をめぐる権利の本質論

利得償還請求権をめぐる判例の動向

 8 手形証券の所持は︑利得償還請求権の行使の要件か?

 前述のように︑通説は︑利得償還請求権の発生ないし取得に︑手形証券の所持を要件としないと解している︒そし

て︑一度取得した以上は︑その後手形の所持を失っても︑これによって当然に右請求権を喪失するものでもなく︑そ

の行使または譲渡にも必ずしも︑手形証券の所持を必要としないものと解するのが︑判例︵大判昭和五.七.四新聞

三六三号六翫.である・最近の判例︵最判昭和三四ニハ・富民集=・養ハ六四頁︶で蔑・の権利の実質的権利と

しての性質を理由として︑小切手の事例ではあるが︑証券の所持は︑その取得および行使のいずれの要件でもない

︵不要説︶ことを判示している︒

 ω 判例を支持する通説である不要説は︑利得償還請求権を手形上の権利ではないことを︑その根拠として︑①善

意取得者のないことを立証すれば︑除権判決を得る必要はなく︑②手形証券の所持がなくても︑有価証券取引の通念

上︑相当と認められる証明をした者への支払に限って︑債務者は免責されるものと解している︒

 ② これに対して︑有力説である必要説︵西ドイツの通説︶は︑①行使に所持を要しないと解する不要説のもとで

は︑除権判決を得る方法が許されなくなるから︑実質的権利者から︑最も有力な立証方法を奪うこととなる︒②行使

に所持または除権判決を必要とすると︑債務者にとっては︑それと引換に支払をすることとなって︑二度払いをさけ      05られ安全である︒③善意取得者の保護の観点から︑実質的権利者と称する者に︑比較的簡単な立証方法︵新聞などに ー

(16)

よる私的催告など︶によって︑権利行使させるべきではない︒④さらに︑利得償還請求権の成立要件を︑手形上また

は手形外のすべての権利の消滅とせずに︑利得償還請求の当該相手方に対する手形上の権利の消滅で足るとする立場

を採ったとき︑遡求権は消滅したが︑為替手形の引受人または約束手形の振出人に対する権利がなお存続する場合に

は︑不要説では︑手形上の権利と利得償還請求権とが︑それぞれ別の者に帰属しうることも可能であって︑これを疑

問として批判が出されている︵北沢・前掲二〇八頁︑服部・前掲七四八頁︶︒

 口 法的性質論ないし比較衡量論か?

 本件をめぐる問題は︑まず一つは︑日利得償還請求権の法的性質論︑ついで◎関係当事者間の利益調整をめぐって

の比較衡量論などにいかなる見解を採るかにかかわると思われる︒

 ω 権利の性質論としては︑まず通常の指名債権とみるか︑または手形より生ずる債権とみるか︑あるいはその中

間物と解するかによって︑①特殊権利︵指名債権︶説︵従来の通説で︑証券交付不要論︑裏書否定説︶︑②変形物説

︵田中誠二・手形・小切手法詳論⊥巻二七一頁︑鈴木竹雄・手形法・小切手法三〇九頁以下︶︑③残存物説︵西ドイツ

の通説︑例えばウルマー︶ないし延長下説︑④復活物説︵交付必要論︑裏書肯定説−服部・前掲七五二頁︶などの諸

説が展開されている︒

 ② 利害調整論としては︑①失権前の善意取得者の権利保護︑②支払をなす債務者の免責と権利者の便宜などを検

討しつつ︑当事者の合理的意思により︑それぞれ調和的に保護をはかるべく解決すべき問題とされる︵河本一郎・手

形小切手判例百選︵新版・増補︶五五事件︑佐藤庸・手形小切手判例百選︵旧版︶四六事件︶︒

106

(17)

利得償還請求権をめぐる判例の動向

︵5︶利得償還請求権の行使方法︵大判昭和五・七・四新聞三一六三号六頁︶

 ︹事実︺Yは︑本件約束手形︵支払期日大正=二年八月一三日受取人A宛︶を振出し︑Aは︑支払期日より満三年経過した昭

和二年八月=二日時効によって手形上の権利が消滅した後の昭和二年九月二一二日に右手形を白地裏書によりXに譲渡し︑その後

さらに︑同年一一月一六日付の債権譲渡通知書によって︑Yに対して︑償還請求権をXへ譲渡する旨の通知をした︒原審は︑A

を利得償還請求権を有する手形所持人と認め︑権利譲渡の通知を有効として︑Yに利得償還の義務を負わしめて︑X勝訴︒そこ

でYは︑Aは同九月二一二日白地裏書によって手形をXに譲渡して手形上手形の所持を離脱したものであるから︑同一一月一六日

に償還請求権の譲渡をなすことはできないから︑Xは償還請求権を取得しえないと上告︒

 ︹諭旨︺ ︵棄却︶ ﹁手形ノ所持人力一度前記償還請求権ヲ取得シタル以上其ノ後該手形ノ所持ヲ失フモ之二三リ当然右請求権

ヲ喪失スル謂ナキハ勿論右請求権ノ行使又ハ譲渡二当り手形ノ所持ヲ伴フコトヲ要スヘキニ非サル温故︐こ﹁⁝⁝指名債権ノ譲

渡トシテ当事者ノ合意ノミ二型リ成立スヘキモノナルカ故二筍モ当事者間合意ノ存スルニ於テハ本件手形ノ時効完成後室Aヨリ

X二対スル本件手形ノ白地裏書ノ有効ナルト生月拘ラス右請求権ノ譲渡ハ其ノ効力ヲ生スルニ妨ナク⁝⁝﹂︒

 ︹本件評釈︺

 並木警守・手形小切手判例百選︵旧版︶五一事件︒田中昭・手形小切手判例百選︵新版・増補︶五八事件︒北沢正啓﹁利得償

還請求権﹂鈴木・大隅編・商法演習皿二〇五頁︒田中昭﹁利得償還請求権の譲渡・行使の方法﹂北沢正啓編・商法の争点三〇六

頁︒

六 利得償還請求権の時効期間

ω 利得償還請求権の消滅時効期間の一〇年説から五年説へ

 利得償還請求権︵手八五条︑小七二条︶の消滅時効期間については︑従来︑大審院判例は︑一〇年説を採っていた       07︵大判明治四五・四・一七落込一八輯三九七頁︑同大正八・二・二六呈出二五輯三八一頁︶︒当時の学説も一〇年説が ー

(18)

多数︵松本・手形法九五頁など︶であった︒その論理構成の理由は︑すなわち︑利得償還請求権は︑手形行為によっ

て生じたものでもなけれぽ︑その他なんらの商行為によって生じた債権でもない︒したがって︑一般の商事債権とし

ての五年の消滅時効期間の規定︵商五二二条︶は適用されず︑普通債権として︑民法一六七条一項により︑一〇年の

時効が適用されるものとした︒しかし︑一〇年強は︑あまりに権利の性質論よりする形式的見解であるとの批判をう

けつつ︑その後︑実際界のニーズは︑より短期であるべきとする五年説を拾頭せしめることとなった︒      ︵6︶ 最近の最高裁の判例︵最判昭和四二・三・三一民集二一巻二号四八三頁︶は︑このような動向に立脚して︑右の一

般債権の時効︵民一六七条一項︶による一〇年説の見解を改めて︑手形行為の商行為性からして︑商行為︵商品〇一

条四項︶によって生じた債権に準じて︑商法五二二条を類推適用する五年説を宣言しており︑これが今日の通説とな

っている︒

 もっとも︑右最高裁判旨中で︑利得償還請求権の消滅時効期間を手形債権に準じて︑三年と解する説への道を示唆

し︑むしろ判決理由だけを読めば︑三年冬の結論が打ち出されるのではないかとも推測される﹁ものがないでもな

い﹂といわれる︵大隅健一郎﹁手形の時効﹂判例手形法小切手法︵伊沢還暦記念︶五一一頁︶︒その理由としては︑

利得償還請求権は︑手形上の権利が実質的に変更されて既存の法律関係とは全く別個な権利たる性質をもつにいたっ

たのではなく︑手形上の権利の変形と見るべきであって︑商法五二二条にいう﹁商行為により生じた債権﹂に対して

よりも︑はるかに手形債権そのものに対して﹁親近性を有することを示唆﹂しており︑実質的にも︑三年と解する方

が︑妥当であるとされ︑さらにドイツ手形法︵八九条一項後段︶は︑手形上の義務の消滅後三年の時効を定めてい

て︑日本でも解釈上これと同一の結果を認める有力学説を生じているからとの三年忌に好意的な見解の展開もある

108

(19)

利得償還請求権をめぐる判例の動向

︵大隅・前掲五=一頁︶︒

 口 三年説の浮上へ?

 学説は︑このようにして︑さらに一歩進めて︑利得償還請求権を︑手形上の権利の変形とみる見解を集約・徹底さ

せれぽ︑商法五二二条の当然適用を認めることになるとの見解も登場している︵田中誠二・手形・小切手法詳論上巻

二七一頁︑北沢正啓・民商法雑誌五七巻四号五九四頁︶︒

 さらに︑むしろ近時では︑手形上の権利の消滅時効期間との均衡上︑より短期にと︑三年説が提唱されたり︵鴻常

夫・商法研究ノート皿一八一頁︑浜田一男﹁利得償還﹂手形法・小切手法講座5一六三頁︶︑利得償還請求権の各々

の債務者に対する手形の各々の消滅時効の準用︵喜多川篤典﹁手形時効﹂手形法・小切手法講座5一一九頁︶とか︑

利得償還請求権の時効期間を︑手形上の権利の時効期間と合算ないし通算して︑五年半解しては︵北沢・前掲五九五

頁︶︑また手形法および小切手法が独立の法体系をなしており︑その法体系においてのみ認められる請求権であるか

ら︑同法の時効規定︵置綿〇条︑七七条一項︑小五一条︶の類推適用が妥当である︵斉藤武﹁利得償還請求権の行

使﹂手形・小切手の基礎三〇三頁︶などの問題提起もなされている︒

 しかし逆に︑手形に関する短期時効消滅による法律関係の衡平性をはかる趣旨から︑法的な衡平粛正の最終的な救

済手段としての本権利の存在意義を重視すれぽ︑むしろ判例・通説程度にやや永めに解しておくことが︑現状では妥

当性をもつかもしれない︒

︵6︶ 利得償還請求権の時効期間︵最判昭和四二二二・三一民集一=巻二号四八三頁︶

109

(20)

 ︹事実︺X株式会社は︑Yが引受した為替手形一〇通︵満期は昭和二八年一二月一四日までの数通り︶を受取人AまたはB株      10式会社︵Aが代表者︶から昭和二八年一二月一五日に裏書譲渡を受けて所持している︒Yに対する本件手形上の債権は︑いずれ 一

も各手形の満期から三年の経過とともに時効によって消滅した︒

 そこでXは︑本件手形債権の時効消滅によりYは買受商品の代金の一部弁済による残金の支払を免れこれに相当する利得をえ

たとし︑Yに対してその利得の償還を請求して︑本訴を提起した︒これに対し︑Yは︑おそくとも右請求権全部が発生した昭和

三一年一二月一五日から満五年の経過により全部が時効消滅したと抗弁した︒

 第一審︵函館地判昭和三九・三・一八︶は︑Yは本件手形債権の時効消滅により︑前記残金の利益を得たものと判示するとと

もに︑その時効期間は民法一六七条により一〇年と解するのが相当である︒原審︵札幌高裁函館支判昭和四〇・五・二五︶は︑

一審判決を支持して︑Yの控訴をしりぞけたので︑Yは上告︒

 ︹七七︺ ︵破棄差戻︶ ﹁利得償還請求権は︑⁝⁝﹂ ﹁手形上の権利自体ではないが︑既存の法律関係が形式的に変更されるだ

けで︑手形上の権利の変形と見るべきであり︑手形上の権利が実質的に変更されて既存の法律関係とは全く別個な権利たる性質

を有するに至るものというべきではない︒したがって︑利得償還請求権は商法五〇一条四号にいう﹁手形二関スル行為﹂によって

生じた債権に準じて考うべく︑これが消滅時効期間については︑同法五二二条が類推適用され︑五年と解するのが相当である﹂︒

 ︹本件評釈︺

 北沢正啓・民商法雑誌五七巻四号五八八頁︒鴻常夫・法学協会雑誌八五巻三号四六二頁︒菅原菊志・手形小切手判例百選︵新

版・増補︶一三四頁︒関俊彦・商法の争点三〇七頁︒

      ︵一九七九・八︶

参照

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一一 Z吾 垂五 七七〇 舞〇 七七〇 八OO 六八O 八六血

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〔追記〕  校正の段階で、山﨑俊恵「刑事訴訟法判例研究」

何日受付第何号の登記識別情報に関する証明の請求については,請求人は,請求人

したがって,一般的に請求項に係る発明の進歩性を 論じる際には,