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大規模電力系統のロバスト安定化に関する研究

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Academic year: 2021

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(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

大規模電力系統のロバスト安定化に関する研究

吉村, 健司

九州大学システム情報電気電子システム工学

https://doi.org/10.11501/3180438

出版情報:Kyushu University, 2000, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)
(3)

爪ν

大規模電力系統の口バスト安定化に関する研究

200 1

吉村健司

(4)

大規模電力系統の口バスト安定化に関する研究

第1章 緒論

. .

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .. 1

1 . 1

電力系統安定化技術の現状と問題点 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .

1 1

.2 本研究の目的と位置付け

第2章 複数の系統条件を考慮したロバスト制御系定数最適化手法の開発

8

2.1 開発手法の背景と概要 .

.

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .. . .

.

.. . . .

. .

. 8 2.2 大規模系統固有値解析手法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .

.

.

11

2.2.1 電力系統の安定度と解析手法 .

. . . . . . . . . . . .

.

. . . . . . . . . . .

11 2.2.2 大規模電力系統の定式化

1 2

2.2.3 大規模系統固有値解析手法( s法) . . . .17 2.3 固有値感度による多機系統安定化手法 . . . . . . . . . . . . .. .. .

..

.. . .24 2.3.1 多機系統安定度評価関数と制御系定数最適化手法 . . .

. .

.. ..24 2.3.2 固有値感度 .. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .. ... . . .26 2.4 複数の系統条件を考慮したロバストな制御系最適設計手法の開発

・ ・

27

2.4.1 複数の系統条件の安定度評価関数 27 2.4.2 発電機PSS定数最適化による長距離串形多機系統安定度向上効果

.. . .28

(5)

第3章 複数の信号を入力した発電機PSSによる多機系統安定化手法の開発

・ ・ ・

34

3.1

開発手法の背景と概要 . . . . . .. . . . . . . . . . . . .. .

.. .... . . .... ..34 3.2

P+ω形発電機PSS定数最適化手法の

.

..

. . . .. .. . . .. . . .. .. . . . .36 3.2.1

P+ω形PSSモデルと基本制御性能 . . . . . . . . . . . .. . . . . . . .

.36

3.2.2

複数の系統条件を考慮したP+ω形PSS定数最適化手法 .

.

. .

..37

3.2.3

長距離串形多機系統モデ‘ルへの適用による安定度向上効果

..39

3.3

遠端情報入力形発電機PSS定数最適化手法の開発 .

. .. . . .. .. . . . .45

3.3.1

遠端情報PSSの概要と定式化

45 3.3.2

遠端情報検出箇所選定の考え方

46 3.3.3

遠端情報PSSによる広域動揺抑制効果 .. . . . . .. . . . . . . . .

.48

第4章 発電機励磁系とパワエレ機器の併用による安定化対策手法の開発

・・50 4.1

開発手法の背景と概要 . . . . . . . . . . . . . . .. . . . .

.

. . .. . . . . . . . .

. . .50

4.2

SVCダンピング制御系定数最適化手法の開発 .

. . . .51 4.2.1

SVC制御系モデルと定式化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .

.51

4.2.2

SVCダンピング制御系定数最適化による安定度向上効果

. . . .54

4.2.3

長距離串形系統へのSVCの導入指針

.

. . . . . . . . . . . . . . .

.

.

.57 4.3

電力輸送力向上のための発電機励磁系設計手法の開発 .

. . . .61

4.3.1

開発手法の背景 . . . . . . . . . . . . . .

. . . . . .61

4.3.2

制御系定数最適化におけるダンピング力と同期化力の向上方策

・ ・ ・

65

4.3.3

SVCと発電機励磁系の併用による安定度向上効果

.

. . . .

. . .70

4.3.4

発電機励磁系入力信号の拡張による限界送電電力向上効果

..74

一-u-

(6)

第5章 安定度を総合的に向上させるための電力系統安定化対策の提案

・ ・ ・ ・ ・

7 9

5. 1

多機電力系統のロバスト安定化方策の,まとめ .

. . . . ... . . ... . .79

5. 1 . 1

電力系統の定態安定度向上方策 .

. . . .. ... . . ... .. .. . . .79

5. 1 .2

電力系統の過渡安定度向上方策 . . . . . . . . . . . . .. . . . . .

. . .79

5.2

定態

過渡安定度の向上のための総合的制御系定数設計方策の提案 ・ ・

81

第6章 結論 .. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .. . . . . . . . . . . . . . . . . .. . . . . . . ..83

参考文献 . . . . . . . . . . . . . . . . . .. . . . .. . .. . . ... . . . . ... . . . ... . . .. ..85

Append i x . . . . . . . .90

謝辞 . . . . . . . . . . .. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .. . .93

(7)

第1章 緒論

1.1

電力系統安定化技術の現状と問題点

近年, 電力需要の伸び率は次第に鈍化しつつあるものの依然堅実な増加を続けてお り, 21世紀中葉までに現在の1 .5倍程度まで増加するとの見通しもあるI}。 また, 電力 自由化の進展により一層不確定性が拡大しつつある。 このような条件下において, 電 力系統には柔軟

・ロバスト性が求められ,

より一層安定な系統運用が重要となる。 さ らに, 大都市近傍への発電所立地難による電源の大容量化・ 遠隔偏在化や電力融通の 広域連系化を背景とする電力系統の大規模化・複雑化も進んでいる。

大規模電力系統で問題となる系統の安定度2)は, 定態安定度itJ (換言すると制動力) の面からは, 発電機単体に起因する1秒周期程度の短周期動揺現象(以下, ローカル 動揺)だけでなく, 系統の広域に影響するダンピングの悪い3秒周期程度の長周期動 揺現象(以下3 広域動揺)が発生することが懸念される。 また, 送電電力の重潮流化 による発電機内部相差角の拡大や3 中間母線電圧の維持能力低下により過渡安定度山 (換言すると同期化力)が悪化することも懸念される。

このような, 大規模電力系統の安定化を検討する際に3 とりうる手段としては例え

ば図1

. 1のようなものが挙げられる。 最も根本的な安定化対策は3 電力系統そのもの

の強化である。 すなわち, 送電線の増強(多回線化やループ化)や送電電圧の昇圧

(UHV)

, 直流送電の導入などである。 しかしながらこれら対策のためには多大な資 金が必要となる上に3 環境問題等により新たな送電線の建設は困難になりつつあり,

現実的な解決策にはなりにくい。 これについては3 我が国だけでなく海外でも同様の 問題を抱えている。 米国では既設の送電線を有効に活用するために,

F ACTSiì3構想3.4

}が 提唱された。 これは3 主として自励式のパワーエレクトロニクスデバイスを電力系統

花l定態安定度:電力系統に微小外乱が生じた際の系統の安定度で,一般に発電機の制動力を向上させることに より安定化できる。微小外乱を前提としているので電力系統方程式を線形化することができ固有値による解析的な 安定度判別が可能。

11:2過渡安定度:電力系統に大外乱が生じた際の系統の安定度で,一般に発電機の同期化力を向上させることに より安定化できる。大外乱が対象なので、解析的な安定判別はで、きずシミュレーション手法が必要o

fE3FACTS :Flexible AC Transmission System

の略。従来送電線ネットワークは固定(不変)なものとして扱われて きたが, パワーエレクトロニクスデ-パイスを適用することによりフレキシブノレなネットワーク制御を実施するシステム。

-

1

-

(8)

系統強化

FACTS

.UHV 制御系強化

-可変直コン

-ループ化 -速 移 相 器

-多重化 .PSS定数最適化 -可変SDR

- 直流連系 -系統多断面最適化 .p+ω型PSS最適化

-遠端情報PSS最適化

ロバスト性の向上

・異なる系統運用条件における安定度の確保

-広域動揺モード.

ローカル動揺モード安定化の両立

図1 . 1 大規模電力系統の安定化対策例

に導入し3 より柔軟に電力系統を制御するもので, 具体的例としては, (1)送電線に サイリスタ制御形の直列コンデンサ導入による送電線インピーダンスの制御, (2)サ イリスタ形移相変圧器導入による送電線電力潮流量の制御, (3)SVCやSVGi�4導入によ る高速電圧制御等が挙げられる。FACTSは送電線ネットワークを直接制御するために 得られる安定化効果は大きいが3 反面, 自励式サイリスタ素子を多用するためコスト も大きくなる他に, 大容量化の点からも課題が大きく3 現状では電力系統に多量に導 入することは難しい。 そこで, 我が国では, 費用対効果の最も大きい発電機励磁制御 系(特にPSS凶) を活用する方策を採っている。PSSは発電機ダンピング向上のため に, 発電機励磁電圧を制御するAVRに補助的な信号を付加するもので, 既存の励磁制 御装置に比較的簡単に設置することができる。したがって, 現用設備の有効利用の観

点からも今後ますます発電機PSSは系統安定化対策として重要となると思われる。

図1.2に大規模電力系統の安定化と電力輸送力向上を目的とした本論文の研究の流 れ図を示す。発電機PSSの設計については3 従来から基本的に非常に単純化された系

M SVC:Static Var Compensatorの略で他励式サイリスタ制御による無効電力補償装置。SVG:Static Var Generator の略で、自励式サイリスタ制御形(自励式SVCとも呼ばれる)。

f13PSS:PowerSystem Stabilizerの略。発電機の界磁電圧制御系(AVR)に補助的な信号を加え,発電機のダンピ

ングを向上させることを目的とする。

(9)

<現状の安定化対策>

発電機PSS設計手法 一機無限大母線系統を用いた設計

単一の系統運用条件が設計対象 安定化対象は発電機ローカル動揺 PSS入力信号は発電機有効電力(P)

<複数の系統運用条件の安定性を保証する PSS設計手法>

-大規模電力系統を用いた広域動揺の安定

・複数の系統条件の安定性を固有値で定 的に評価し. 全ての固有値を安定化すよう PSS定数を最適訟計

PSS入力信号は発電機有効電力(P)

<幅広い周波数領域の動揺現象の安定性を 向上させるPSS設計手法>

-大規模電力系統を用いた安定化

'PSS入力信号を鉱張し2種類の信号入力 .各信号入力PSSで発電機ローカル動揺と広

域動揺の安定化を役割分担

・複数の系統運用条件の安定化

<生じる問題点>

・系統運用条件変化時の安定性が保

証できない

広域動揺の安定化が保証できない

<生じる問題点>

・系統運用条件変化時の安定性は 保誼できるが,幅広い周波数領域 の動揺現象の最適化が達成できな .発電機ローカル動揺と広域動揺の

より一層の安定化が必要

<生じる問題点>

・小外吉しを前提とした定態安定度の みを対象とした安定化対策 -系統に大外乱が発生した際の過渡

安定度の向上が考慮できない

<定態安定度と過渡安定度を総合的に向上させる系統安定化方策>

'PSSとAVRを一体とした発電機励磁制御系の定数最適設計 'PSSのダンピング向上能力とAVRの電圧維持能力積極的に利用 .PSS定数最適訟E十時に定態安定度と過渡安定度を定量的に評価 -発電機励磁系だけでなく1\ワエレ機器との併用による電力輸送力増強

<最終的に達成されること>

大規模電力系統のロバスト安定化と電力輸送力の増強

図1.2 大規模電力系統のロバスト安定化に至る研究過程

統(一機無限大母線系統)が用いられてきた。 これは3 電力会社聞の電力融通が大き くなく比較的に系統連系が緩やかな状態では, 電力系統の安定性は発電機個々の特性 に起因するローカル的な電力動揺(以下3 ローカル動揺)が主であったためである。

したがって, PSS設計対象発電機以外は全て単純な無限大母線として模擬し3 発電機 と無限大母線閣の送電線インピーダンスも一般に定態安定度の厳しい夜間の系統にお ける短絡インピーダンスで模擬する等, 非常に単純化された系統モデルでも十分で

-3-

(10)

あった。 しかしながら今後ますます電力需要が増大し, 電力会社聞の電力融通量が大 きくなり系統連系が強まってくると, 発電機ローカル動揺だけでなく, 電力系統の全 域に亘って広域的な電力動揺(以下, 広域動揺) が発生することが懸念される。 この 広域動揺は一般に, 電力系統送電線ネットワークそのものが持つ特性と発電機の制御 系の特性とが複雑に絡まって発生するものであるため, PSSを設計する際に, 当該発 電機以外を単純に無限大母線として取り扱うことができなくなる。 系統インピーダン スもただ一つの値のみで設計すると3 ある条件下のみにおいて設計された制御系定数 は, 昼間/夜間や平日/休祭日といった発電機並入条件や潮流条件が大きく変化した り, 送電線の計画的補修にともなう系統切替えなどの系統構成が変化した場合3 これ ら系統条件変化後の系統の広域動揺の安定度は従来手法では保証されず3 場合によっ ては安定性が悪化する恐れが生じることが懸念される。 もし, 安定化対象となる系統 条件以外で系統の安定性が損なわれた場合, これを安定化させるためには, 制御系定 数最適化発電機を対象としてPSSゲインや位相進み遅れ回路の時定数を再調整するご とになるが, 一機無限大系統のような簡単な系統モデルならともかく3 系統運用実務 で取り扱う大規模系統の場合にはその調整には多大な労力 を要することになる。 ま た,

PSS入力信号も従来は発電機有効電力(P)のみを用いていたが,

発電機ローカル動 揺と広域動揺は動揺の様相が異なるだけでなくE 動揺周波数も異なるため(発電機ロ ーカル動揺は約1. OHz程度3 広域動揺は約O.5Hz程度) , ただ一つの入力信号だけでは 幅広い周波数領域の動揺現象を全て安定化させることは難しい。 したがって3 発電機 PSSをより積極的に系統安定化制御装置として活用するためには, 大規模系統を対象 とした安定度を考慮し, 幅広い系統運用条件や幅広い周波数の動揺現象に対して最良 なダンピングを得るため, 最適なPSS定数の自動設計手法が必要不可欠となる。

一方3 電力系統の安定化対策を講じる際3 系統の定常状態の安定性を決める定態安 定度 (ダンピング) を向上させることはいうまでもないが3 系統事故時の安定性(過 渡安定度) の向上対策も電力輸送力向上の観点から重要となる。 定態安定度と過渡安 定度はどちらかが一方だけが良くても電力輸送力を向上させることはできない。 定態 安定度と過渡安定度の向上の両立を目指した研究としては、 大擾乱時の非線形性を考

(11)

慮し発電機有効電力(P)と発電機回転数偏差(ω)をPSS入力信号とするP+ω形PSSに発 電機無効電力(Q)を加えた多入力PSSが開発されている。 しかしながら、 その設計に関 しては, Q入力に関連した部分については既に設計手法が確立されているが、 P+ω形 PSS部分については開発者の技術的ノウハウ・経験に依存する部分が多く3 これをよ り普遍化するには定態安定度と過渡安定度をバランス良く向上させるような制御系定 数を最適に設計する手法を開発する必要がある。

(12)

1

.

2

本研究の目的と位置付け

本報告書では3 大規模系統の安定化対策として大きく分けて以下の2つを目的とし て研究を実施した。

- ダンピング向上のためのロバストな制御系設計手法の開発 .限界送電電力向上のための制御系設計手法の開発

前者の目的の主眼は, 定態安定度を対象としたロバストな制御系の設計手法の研究 である。 本研究における「ロバスト」とは, (1)系統運用条件が変化しても安定性を 確保すること, (2)発電機ローカル動揺と広域動揺といった動揺様相の異なる現象を 安定化すること3 の両方が含まれる。(1 )については第2章において3 複数の系統運 用条件の定態安定度を同時に定量的に評価し制御系定数を最適に設計する手法につい て提案する。 安定度の定量評価は大規模系統を固有値解析した固有値により計算し,

制御系定数の最適化は安定化対象動揺モードに対する固有値感度により計算する。

(2 )については第3章において, 従来の1入力形PSSに代わるものとして, 発電機ロー カル動揺と広域動揺の安定化の役割分担をさせたP+ω形PSSの定数最適化手法につい て提案する。 また, 従来のPSSは当該設置発電機の状態量(以下, 自端情報) のみを 入力信号としていたが3 これを発電機から遠方にある系統情報(以下3 遠端情報)を 積極的にPSS入力として活用することにより3 系統に接続されている全ての発電機が 系統の安定化対策の選択肢として利用することができることを明らかにする。

後者の目的の主眼は, 定態安定度と過渡安定度の両者をバランス良く向上させるこ とによる電力輸送力増強(限界送電電力の向上)のための発電機励磁系(AVRおよび PSS) の設計と, パワーエレクトロニクスデバイスの一つであるSVCとの併設効果の研 究である。 安定度を向上させ限界送電電力を一層向上させるためには, ダンピングだ けでなく同期化力も考慮に入れた総合的設計手法とする必要がある。 第4章では3 ダ ンピングを固有値で定量的に評価しながら, 周期化力についても同様に向上させる論 理を二つの観点から提案する。 具体的には, 発電機励磁系定数を最適設計する際に,

従来手法をベースとしつつ新たに同期化力も併せて向上するよう, 設計対象となる制

(13)

御系をPSSだけでなくAVRにも拡張することを提案し3電圧維持能力を積極的に定数最 適化ヘ反映させた。 同時に, 安定度評価関数のパラメータとして従来のダンピング係 数(固有値の実部)に加え, 動揺周波数(固有値の虚部)も組み込みこむ論理を提案 し, 過渡安定度を定量的に評価した。 これにより3大規模擾乱時の安定度が向上す る。 また, 重潮流の系統条件において, 母線電圧の低下による安定度の悪化を防ぐた めに, 主要母線電圧を遠端情報として発電機励磁系に入力する手法も提案する。 さら に近年電力系統への導入実績が進んで、いるSVCによる同期化力向上効果にも着目しp 発電機励磁系とSVCとの併設による限界送電電力の向上効果も明らかにした。 最後に

第5章で, 提案した各種手法をとりまとめ3安定度を総合的に考慮した大規模電力系 統の総合安定化対策を提案した。 表1.1に本論文の各章のタイトルと研究目的の一覧 を示す。

表1

. 1 本論文の構成と各童の研究目的

小外乱に対するダンピング向上

大外乱に対す

タイトル る電力輸送力

複数の系統運用 広周波数領域の動 向上 条件の安定化 揺現象の安定化

複数の系統条件の安定性を

2章 考慮した発電機PSS定数最適

設計手法の開発

複数の信号を入力した発電

3章 機PSSによる多機系統安定化手法の開発

。 。

発電機励磁系とパワエレ機

。 。 。

4章 器の併用による安定化対策 手法の開発

5章 安定度を総合的に向上させるための電力系統安定化対策の提案

-7-

(14)

第2章 複数の系統条件を考慮したロバスト制御系定数最適化手法の開発42,川4)

2. 1

開発手法の背景と概要

発電機励磁系に付加されるPSSは, 安価で効果的な電力系統の安定化制御装置とし て現在, 電力会社において広く採用され高い制御実績を挙げている。 そのPSSの定数 を設計する際には, 基本的には図2. 1に示すような一機無限大母線系統と図2.2に示す ようなPSSを用いる。

発電機

図2.1 一機無限大母線系統

図2.2 現用の1入力信号形PSSモデル

(Exciter) AVR

一方, 図2.3の発電機線形ブロック図において, ムωを入力としムTQgを出力とする 伝達関数G (s)の実部が制動トルク5 )である。

G(s)

制動トルク== Real (G(s))

図2.3 発電機線形ブロック図と発電機制動トルクの定義

(15)

従来のPSS設計は発電機の制動トルクが適切な値になるようにPSSゲインと(

G

)位相進 み遅れ補償回路の時定数(例えば, T3,T4)を適切に設定し, シミュレーションでその

制御性能をチェックする。 しかしながら, ここで安定化対象となっているのは発電機 ローカル動揺であり, 将来的に電力系統の広域連系が強まったときに系統全体の発電 機が動揺するような広域動揺6)も安定化しなければならない場合, 次のような二つの問 題点が生じる。

一つは, P S S設計時の系統規模とその安定度の評価関数である。 発電機ローカル動 揺の安定化を主目的とした従来設計法では一機無限大母線系統を用いている。 広域動 揺も安定化対象となった場合3 一般に系統全体の特性を考慮、する必要があるため,

PSS設計対象以外を無限大母線系統で表現することは不適切となり3 系統全体をモデ ル化して解析する必要がある。 また, PSS設計の際に制動トルクを用いた場合, その 値がどの程度あれば十分かという明確な指標が無く, 実際の系統外乱後のダンピング が十分に確保できているかはシミュレーションで検証する必要がある。 良好な制御性 能が得られていなければ再度設計に修正を加えるなど設計者の技術的ノウハウや経験 が必要になる。 この点を改善するためには, ダンピングそのものを直接定量的に評価 する必要がある。 そのために本論文では, 2.2節のように線形微分方程式で定式化さ れた大規模電力系統の固有値に着目し電力動揺現象のダンピングを定量的に評価し た。 さらに3 ダンピングを最大限大きくするよう最適な制御系定数を自動的に設計す るために3 固有値感度を用いてダンピングの評価関数を最小化する最適設計手法を提 案する7,45)。

二つ目の問題は3 設計したPSSの制御性能のロバスト性である。 従来は一般にただ 一つの系統条件を用いて(ただ一つのインピーダンスの値と発電機出力を用いて) PSSは設計される。 発電機から系統を見た特性を短絡インピーダンスとしてのみ考え た場合, 重潮流である昼間条件と軽潮流で‘ある夜間条件の短絡インピーダンスの差は さほど大きくなく, ある一つのインピーダンスで設計すればその他のケースも概ね安 定性は保たれる場合が多い。 しかしながら広域動揺の場合, PSS設計発電機以外の発 電機や負荷の電圧特性も重要となる6)。 昼間条件と夜間条件では系統に並列している発

-9-

(16)

電機の数も負荷の大きさも大幅に異なるため, ただ一つの系統条件を考慮、したPSSの 設計では, 他の条件の安定性が保証されずにロバスト性の面で問題となる。 そのため 本論文では, 2.4節のように系統構成や系統運用条件が異なる複数の重要な条件を用 意し3 これらの条件全ての安定度を固有値で評価するとともに, この評価値を最小化 することにより全ての条件の安定性を確保するような制御系定数最適化手法を提案す る。 本章で開発した手法の位置づけと従来手法との比較を表2. 1に示す。

(脚注)市IJ動トノレク:発電機制御動特性伝達関数G(s)の実部の絶対値の大きさ。 この値が大きければ一般 に発電機のダンピングが向上する。

表2.1 PSS定数設計手法の特徴比較

設計手法 対象系統規模 対象系統条件 設計対象モード 発電機モデル

現用設定手法 ボード線図によ 一機無限大母線 主として 主として る設計 系統 一つの運用条件 ローカル動揺 簡略

2章で提案する 固有値法による

大規模系統も可 複数の系統運用 ローカル動揺 最適設計手法 自動設計 条件 広域動揺 詳細

L一一一一一一一一一

(17)

2.2

大規模系統固有値解析手法

2.2. 1

電力系統の安定度と解析手法“)

電力系統は, 縦横無尽に張り巡らされた送電線に数百台の発電機や各種多様な特性 をもっ負荷が接続され3 非常に大規模で複雑なシステムである。 さらに発電機ひとつ だけをとってみても, 図2.4のように発電機の周辺にはタービンやボイラなどの機器 がある。 また, これらの回転速度を調節するガパナや 発電機の電圧 を一定に保つ AVR(Automatic Voltage Regulator), さらに系統 安定化装置PSSといった制御装置 が接続されている。

r---T--- - --- - - - -

図2.4 発電機ユニット概略図

このような電力系統が3 何かの外乱を受けた場合にどの程度電力を安定に送電する ことができるかを解析することを「安定度解析」と呼ぶ8)。 本来, 電力系統の動特性は 非線形微分方程式で表され, 一般に落雷などのように外乱の大きい場合には3 その振 る舞いは時間軸上で数値積分によって解析される。 しかしながら, 電力系統に加わる 外乱が微小である場合は, この非線形式を初期の平衡状態(電圧や電流が落ち着いて いる状態) の回りで線形化して扱うことができる。 したがって, 安定度解析に用いら れる数学的手法は3 以下に示すように非線形微分方程式を取り扱う手法と, 線形微分 方程式を取り扱う手法に分類される9)。

-11一

(18)

非線形微分方程式 寸ー 数値積分法(オイラー法, ルンゲクッタ法など) の安定度解析手法

|

」直擁法(リアプノフ法,エネルギー関数法など) 線形微分方程式の一一一「一 周波数応答法(ナイキストの安定判別法) 安定度解析手法

|

」ー固有値解法(QR法,8法など)

本論文では3 非線形微分方程式の安定性解析はルンゲクッタ法を線形微分方程式の安 定性解析は固有値法を用いた。

次節では上記のように微小外乱を対象とした線形微分方程式の安定度解析に対する 固有値解析について解説する。

2.2.2

大規模電力系統の定式化

一般に状態量ベクトjレx(t)に関する次のような非線形微分方程式で表現される。

x = f(x)

ー…-・…-一…・ -………・ー…・・・…・…・ …・……・ . . . … . . .…. .……… ・… 一・……・(2.1)

where 土=生

dt

電力系統の安定度は, 平衡点Xoからの微小変動量ムxに対する(2.

1

)式の安定性を問 題としている。 ここで3 平衡点Xoとはf(xo)=Oを満足する点で, 電力系統に外乱が加 わる前の初期状態である。 したがって, ここでの安定度解析は通常(2 .

1

)式を線形化

した線形状態微分方程式(2.2)式が用いられる。

以= A& . . .. . .. . . . .. . . .. . . . . . . . . . . . . . . .. . . ... ・ ・ … ・

(2.2)

where, A = ðf I ðx Ix-x o

電力系統の固有値解析とは, (2.2)式の安定性を調べることであり, 具体的には係 数行列Aの固有値を求めることである。 係数行列Aを求めるためには, 電力系統を構 成する発電機や負荷, 送電線網といった各要素について, その動特性の線形化モデル を作成する必要がある。

(19)

( 1

)構成要素の線形化モデル (a)発電機および制御装置

図2.4のタービンを含む発電機ユニットは, 発電機本体の他にガパナ, AVR, PSSな どの制御装置から構成されていることは既に述べた。 ここでは, 各要素の線形化モデ ルについて説明する。 まず, 発電機本体については発電機の回転子の運動方程式が存 在し3 以下のように表される510

M8+D8=Tm一乙 ……・……… -…-……… - ・ -………

(2

.

3)

ただし, M:慣性定数, D ダンピング定数, θ:位相角,

Tm:タービン出力トルク, T

e :電気出力トルク

(2.3)式をθの微小変化分ムθについての1階の線形微分方程式に書き直すと次の ようになる。

D . 1 .

_

1

・…・ …-…一 一……… …….

(2

.

4)

(

ω=一一--ôω+一--ôT 一一--ôT.

M M '" m… M ‘

= c

,ôω +ιôT.

A + ムôT.d

一方3 発電機の内部は3 回転子上の界磁回路(簡単に言えば磁石) によって発生す る磁束が3 その周囲を取り囲んだ電機子と呼ばれる巻線を横切る際に電圧が誘起され るという現象によって成り立っている。 ここでは電機子回路の振る舞いを無視した簡 単なモデルで説明する。 発電機の詳細な動特性モデルおよび定式化, および励磁制御 系の特性については文献(10,11,12)を参照されたい。

界磁回路における磁束の微分方程式は以下のようになる。

h中f =色.Vf - c4ôやf - cSôiGd ………・………一ο吟

ただし, φf :界磁磁束, Vf:界磁電圧, i

Gd :発電機電流 i Gのd軸成分iE13

C4' c

5 発電機の特性定数により求まる係数

また, 発電機電流ムiGと発電機電圧ムVGの聞には以下の代数関係式が成立する。

加d軸成分:発電機の動揺現象を解析するためには,

rp

arkの二反作用理論(d-q座標法とも呼ばれる)が 一般に用いられる。 これは, 発電機電圧や電流といった発電機内部諸量を回転子よに設けられた直角座標 系(d-q座標)で表現するものである。

-13-

(20)

( AVGd=C6Aω+ c7AiCq

AVCq = c8Aω+c9Aゆf + clOAiCd …- 一一一 ・……・-…- …・…………ー…・………

( 2

.

6 )

ただし, vGd( vGq) :発電機電圧VGのd軸(q軸)成分,

C6"'C10:発電機内部定数より求まる係数

係数C 1 C 10についての詳細は, 例えば文献(

13

)を参照されたい。

発電機のガパナは, 発電機の回転速度偏差ムωを入力としターピントルクムTmを出 力する制御系で, ラプラス演算子Sを含む伝達関数Gov(s)を用いて以下のように表す ことができる。

ATm = Gov(s)Aω

・………・……・・………・………・・……… ・……… …・…

…(2.7)

また, AVRは発電機電圧の大きさの偏差ムI

vG

Iを入力, PSSは発電機回転数偏差ム ωを入力として界磁電圧ムVfを出力とする制御系で, それぞれ伝達関数AVR(s),

PSS(s)を用いて次のように表される。

AVf = AVR(s)AI叶+ PSS(s)AωC ..

.

...

. . .

...

. . .

...

.

...

.

..

.

...

.

...

.

... '(2.8) where, A l vc l = 担坐ι +出旦, I v c l

=

J V C d 2 + Vc/

|川 |町I

'

IrG I - V

ここで, (2.7), (2.8)式を連立一階微分方程式に書き直し(Appendix-A) , (2.4)

�(2.6)式に代入して, さらに発電機電圧VGを入力, 発電機電流iGを出力とする線 形モデルの形にすると以下のようになる(Appendix-B) 。

(

的=仇+九

Aicο; = cσA.x.C + DCAνc

.…….一….….. .一…….一…….一….一. . . ...一…….口….一. .一…….…….一.……….一…….一…….一…….一…….一…….一…….一…….一…….一…….……….……….一…….……….一…….一…….一…….一…….一…….一…….……….一…….一…….……….一…….一…….……….一…….…….一.. .一.. .一'

(2

.

9 )

ただし, ムXGは発電機の状態変数ベクトルで,

A.x.C

= (A.x.C仰,A.x.AvR,A.x.COV l, Vc = (νGd,VGq)T,も=(tcd,icq)T ムXGEN'ムXAVR'ムXGOV

:

Appendix-Bを参照

AG' BG' CG' DG :係数C1"'C10などからなる係数行列 図2.5はこれをブロック図で表現したものである。

(21)

| PSS I

図2.5 発電機の線形ブロック図 (b)送電線網

ω :ロータ一角速度

口ータ一位相角

Tm

・機械トルク

Te 電磁トルク

U :PSS入力

PSS:PSS出力

通常の安定度解析では, 送電網に関しては電圧と電流の過渡的特性は無視すること ができるので, 次式のように代数表現を用いる14)。

ドり(trrT) !l ir J = l Y r

Y " Jl !lνJ

. . . ... . . ... . . . ... . . ... . ... .... ... . . .. … ー ・ ・

(2.10)

ただし, vG(iG):発電機電圧(電流), vL( iL):負荷電圧(電流)

ここで3 係数行列はアドミタンス行列と呼ばれ, 各要素YGG, YGL, YLG, YLLは送電網 の構成と送電線の抵抗やリアクタンス3 キャパシタンスから求まる。

(c)負荷特性

負荷の有効電力Pぃ無効電力QLは, 一般には負荷電圧の大きさI vLIおよび周波数 の関数となっているが, ここでは単純化のため電圧特性のみを指数α, βを用いて以 下のように与える。

! 日ojvLr

QL

=

QLOjVLjß

. . . ... . . ... .... . . ... . . ... . ... . . ... . ... . .

'(2.11)

ただし,

PLO( QLO) :初期状態の有効電力(無効電力),

α, β:負荷の電圧特性定数 汀2

PL, QLはi L' VLの関数であるので, (2.11)式を平衡点において線形化し3 各変数

m負荷の電圧特性:α=0,

1, 2の時それぞれ定電力特性, 定電流特性, 定インピーダンス特性と呼ばれ る(βも同様) 15)。

-15一

(22)

の 微少変動量に対する関係式を求めると次 式となる(Appendix-C)。

ML = JLð.vL

………一 一………ー…………・・……・…・ 一一一

(2

.

12)

ただし,

JL: PLO' QLO' α, βなどからなる係数行列

(2 )多機系統の線形状態微分方程式

N機の発電機およびM個の 負荷から成る系統の線形微分方程式は3 前節の(2.9)"-' (2.11)式から, それぞれ 次の(2.13)"-'(2.15)式 で表すことができる。 なお , 以降で

は簡単のため微小変化分を示すムは省略して表す。

rc

=仇+BG

: (:) = (t:どr:)

where,

匂1)(tC3i(vcllfL11lviI

X=1XG2. lp=tG2. Vc= VG2, IL=tL2, HVLz 11L. 2 XGN) \lGN) \ VCN)

\'凶)

vLN

%1 BGJ 。

%2

, Bc = BG2

。 %N BGN

CC1 。 DGI 。

CG2 DG

==

DG2

。 CGN 。 DGN

AG 1'" AGN :各発電機毎の係数行列, BG' CG, DGも同様

(2.14), (2.15)式から負荷ノードの電圧電流VL

' 1

L を消去すると,発電機端 子の電圧 ,電流に 関する 次の代数式が得られる。

1G

=九九 …・・………・・……… ………-………・(2.16)

where,ト ト GG - YCL (YU - J 1. )ーl九G }

さらに(2.13),(2.16)式から,

1 G '

V Gを消去すると, 求める系統の線形状態微分 方程式が次のように 得られる。 このとき , 行列Aは一般にシステム行列と呼ばれる。

(23)

土= Ax . . 一………一 一. . . .…・・………ー ・・ー…一 …・ ・…ー ・・・・…・…・・・・・・・………-

(

2.1 7

)

where, A =

Ac - Br;(Yc - Dc)ーlCC

このように, 電力系統の安定性は, 電力系統を構成している発電機 や負荷3 その他 の系統安定化機器などの動特性を線形状態微分方程式で表現し, 行列Aの固有値を求 めることにより判別できる。

ここで, A行列の元数が問題となる。発電機十数機程度の系統モデルならQR法によ り全ての固有値を求めることができる。しかしながら3 電力系統の広域動揺現象の解 析や安定化対策を詳細に検討する際には, 対象となる系統全体のモデルを考慮するこ とが必要不可欠となる。例えば我が国60Hz系統の場合(電力会社6社の集合体) , 夏 季の電力ピーク時にはその発電機数は優に300機を超える。(2.17)式における各発電 機発電機ユニットの元数はそれぞれ10元程度であるので, 系統全体では3000元にも達 する巨大な行列となり, QR法による固有値解析および系統安定化対策の検討は不可能 である。

本論文では, 筆者の所属する(財)電力中央研究所で開発された, 3000元程度の行列 の固有値から減衰性の悪い固有値を優先的に求める手法(8法) を基に3 大規模系統 の定態安定度を解析した。 S法で求めた固有値に対する発電機励磁制御系定数の固有 値感度(後述) を求め, これに筆者の開発した各種の制御系定数最適化手法を適用し 自動的にその定数を最適化することにより, 上記大規模系統の安定化を容易に達成す ることを可能とした。 S法と固有値感度については, 2.2.3以降でその解説を簡単に 述べる。

2.2.3

大規模系統固有値解析手法( s法)

16,17)

(

1

)固有値, 固有ベクトルによるモード分解

(2.17)式の線形微分方程式の解x(t)は3 よく知られているようにシステム行列A の固有値がすべて相異なる場合には, n個の固有値・固有ベクトルによって表される 動揺モードの重ね合わせによって表される。

-17-

(24)

x(t) = c 〆) 1 Pl + C2e�1 P2 +…+ c〆λ.IPn ……・……… ( 2.1 8 )

」ーー-v-ーー.J '-ー--v---'

mode-l modど-2 moùe-n

ただし, 人1"""λn' システム行列Aの固有値, Pl"""Pn:固有ベクトル

c 1""" C

n :初期値x(O)により求まる係数

解x(t)の安定性は, (2.18)式の全てのモードがt→∞で零に収束することにより 与えられる。 すなわち3 システム行列Aの固有値を求め, その実数部の符号がすべて 負であればシステム(2.17)式は安定であると判定することができる。 さらに, 虚数部 を調べることで電力動揺の振動周波数を把握することができる。

(2)固有値計算法の分類

システム行列Aの固有値をいかにして求めるかということが問題となるが, これに ついて簡単に触れておく。

行列の固有値を求める計算法は数多くあるが, 図2.6に示すように大きく分けて次 の2種類がある18.19 )。

図2.6 行列の固有値- 固有ベクトルを求める方法

( i

)行列Aをハウスホルダ一法等の相似変換により一度ヘツセンベルグ行列あるい は三重対角行列に変換し, QR法などによって固有値と固有ベクトルを求める方法

( i i

)行列Aそのものは変形せず, 固有ベクトルの近似値をつくり, ベクトルの反復

変形だけで固有値と固有ベクトルを求めるいわゆるベクトル反復法

行列は密だがあまり大きくなくすべての固有値を求めたい場合は(

i

)がよく, 行列 が疎で大きい固有値を数個求めたい場合には(

i i

)が良いとされている。 なお, 実用上

(25)

QR法は精度の面ですぐ、れており,比較的小規模のシステムの解析においてはこの方 法が優れている。 ただし,計算時間が行列の次数nの3乗に比例するので,大規模電 力系統には不向きである。 以下に,後述の固有値解析(S法) に関係のある2つの方 法について説明する20.2l,ZM310

( a)ベクトル反復法

ベクトル反復法は行列Aに対して3 次式の計算を繰り返すものである。

Xk_l = Axk

. ... ... . . ... ... . .... .. . . ... ..… .. . .. . ... .. .. . . ... . . . .. . .

(2.19)

ただし, xkはk回目の反復で得られる固有ベクトルの近似値

いま,初期ベクトルをXoとし,このXoに対して(2.19)式をk回繰り返し,行列A の絶対値最大固有値λ1で全体をくくると次式になる。

ベザ1+ C2P2(ガ+...+叶n

ここで,k→∞の極限では,

Xk→入1kelp1 ………ー…………・………… ・………(

2

.

2 1

)

となり,Xkは 最大固有値λiの固有ベクトルの方向に収束することが分かる。 この ような手法はべき乗法と呼ばれ,絶対値最大の固有値を一つ求める場合には,計算の 高速性に優れている。

べき乗法は計算過程が非常に単純である特徴をもっ反面,微分方程式((2.17)式) のシステム行列Aの絶対値最大の固有値を求めることはシステムの安定性判別とは全 く関係がないので,これをそのまま利用することは無意味である。

(b)ランチョス法

ランチョス法はベクトル反復法とハウスホルダー法に代表される全ての固有値を求 める手法の中間に位置する手法である。 行列が疎で絶対値の大きい固有値を数個求め る場合に効率的な計算ができるとされている。

ランチョス法は,図2.6に示したように固有値を計算する前段階で行列を3重対角

-19-

(26)

行列に変換する。 まず初期ベクトルを2つ選び(X 1 およびY1 ) , 次式を反復する ことで2組のベクトル列{Xk}, {Yk}を作る。

(

仏1=ケk引- ßk-1xk-1

Yk+l = A ' Y/c -αkY/C - ßk-1Yk-l .. .(2.22)

ただし,

α (Y/c'Axk)β (Y/c , Xk)

k =万戸了, μ/c --(Yトl'X,ト1)

( )は内積

このようにすると, {Xk} , {Yk}は双直交(bi-orthogonal)となる。 つまり3 it:jのとき(Yi,Xj) =0となる。 n次元空間にはこのようなベクトルは各n個し かないので, この反復はn回またはそれ以前で終了することになる。 ここで, (2.22) 式を移項し3 反復がn固まで続いたとすると次式のようになる。

AXn = XnHn

一一 -一 ・・・・…一 -…ー・ー…・一………・ ・ ・ ・ ・ ・ ・…... .. . . ... . ... . . ... . . . .………・ぃ・….(ユユ�3) 7こ?とし,

Xn=(祈,巧,...,Xn�

Hn=

α1 ß) 1α2β2

1α3 ß3

o 1 αn-l ßn-l 1 αn

これにより3 行列Aは次式のように3重対角行列Hnに相似変換された。

Xn-1AXn =Hn

…一一………一一………H・H・..…一…一………一…・(2.24)

ここで, ランチョス法には興味深い性質がある。 それは, 初期ベクトルxぃ Ylを 適切に選ぶことによって, 上記手)11貢の途中(r回目) でXrがOとみなせる程小さくな ることで計算を終了でき, 日nより小さな行列Hrを求めることができることである。

この性質を使って, QR法によってHrから複数個の固有値(実際の大規模電力系統の 場合には20個程度) を求めることができる。

しかしながら, 先に述べたように例えば60Hz系統全体の安定性を解析する場合, 系

(27)

統全体の行列Aは3000元にも達する巨大行列であり, この固有値を求めることは不可 能である。 また, 3000個の固有値の中で安定度上問題となる固有値は実際には数個程 度であり, その他のほとんどの固有値のダンピングは非常に安定であるため行列Aの 固有値を全て計算することは必要とされない。 したがって, 大規模電力系統の安定度 を効率的に解析し安定度向上対策を容易に実行するためには3 上記の安定度上問題と なる減衰の悪いいつくかの固有値を優先的に求める手法(電力中央研究所開発のS法 47) )が必要不可欠である。 そこで以下で, s法について簡単に解説する。

(3) S行列変換16,17)

べき乗法で電力系統の安定度を判定するためには, 固有値の絶対値の大きいものが 減表の悪い固有値となるように行列Aを変換すればよいことになる。 そこで, 次式の ように, あるスカラー量hを含んだ変換を行う。

S

=

(A + hl XA - hJ)

1

(2

.

25)

ただし, h> 0の実数

この行列Sの固有値λsと, もとの行列Aの固有値λAとは以下の関係にある。

入 ーム1 -…一・….

(2

.

26)

λA -h

このような性質をもっ行列Sに行列Aを変換することをS行列変換と呼ぶ。 このS 行列変換を図で示すと図2.7のようになる。

(a)行列Aの固有値領素平面

(b)行列Sの固有値複素平面

図2.7 固有値平面上のS行列変換

-21一

(28)

このように, s行列変換とは3 もとの行列Aの安定固有値平面(すなわち, Aの固有 値平面の左無限半平面)から, sの固有値平面上の単位円の中への1対1写像であ る。 したがって, 系統が安定である場合(人Aの実部λARが負値)にはλSの絶対値|

λS Iは1より小さくなり, 系統が不安定である場合(λAの実部λARが正値)にはλs の絶対値|λs Iは1より大きくなる。 すなわち, λS固有値平面では単位円の外側力 不安定ということになるので3 この行列Sについてべき乗法を用いて絶対値が最大の 固有値を求め, これがlを超えないことで系の安定性を判定することができる。

次に, s行列の固有ベクトルとA行列の固有ベクトルの関係について説明する。

n個の固有ベクトルをもっnXnの非大称行列Aは3 通常3 固有ベクトルPi (i=1,…,n)を並べた行列Pを用いて以下のように対角イじすることができる制。

A = PAP-1

. .一・…・・・…・ ・一一-…一… …・・…・……・・…ー………・一 - 一 …一…・……・・・…一

( 2

.

27 )

ただし, 八二diag(λ1 '

…, λn), P=(Pl' …, Pn)

λ1 ' …, λnは行列Aの固有値, Pぃ …, Pnは行列Aの固有ベクトル

したがって,(2.25)式にこれを適用すると次 式となる。

s=い(A + hl)P作(八一hl)→p-1 }

=

P(A + hlXA _ hl)-1 p-1

=

PASP-1

………一 一… …………・……・………… ……一………ー

( 2

.

28 )

ただし, AS=diag (λs 1 , λs2, …, λsn)

:

λsは行列Sの固有値

上式と(2.27)式から, 行列Sと行列Aの固有ベクトルは同一であることが分かる。

(a)べき乗法の行列Sへの適用

(2.19)式のべき乗法の計算式において行列Aの代わりに行列Sを用いると, k→∞

でXk は行列Sの絶対値最大の固有値λsmaxに対応する固有ベクトルに収束する。 こ のとき行列Aが不安定固有値をもつならば3 それに対応する|λs I

(>

1 )は他の安定 固有値の絶対値(< 1 )より大きくなるため, 上記λsmaxの値を調べることで容易に 安定度の判別ができる。 べき乗法では固有値が一つしか求まらないが, 安定性の判別 のみが目的であれば実用上問題ない。

(29)

減衰の悪い複数個の固有値をもとめるためには, このべき乗法の利点を活用して,

ランチョス法により効率的に求めることができる。 もとの行列をランチョス法により 3重対角に変換するときに, 初期ベクトルの選択が重要になる。 ここに先のS行列に 対してべき乗法を適用し, 絶対値最大固有値に収束あるいはほぼ収束した状態の固有 ベクトルを初期ベクトルとして用いる。 これにより, 十数回程度の少ない繰り返し計 算で次数の小さい3重対角行列が得られることが経験的に知られている。 縮小された 行列の固有値はS行列の絶対値の大きい固有値を含んでいる。 したがって, これにQ R法を適用することで, 大規模電力系統の減衰の遅い固有値を複数個求めることがで きる。

-23ー

(30)

2.3

固有値感度による多機系統安定化手法

2.3. 1

多機系統安定度評価関数と制御系定数最適化手法

(

1

)定態安定度評価関数

安定度や制御系の性能を評価する一つの手法として, 以下の関数がある。

J= 対

唱T

X(t)Tx(t)dt ...

.

.

.

.

. . .

...

.

... ... '(2.29)

これは, ある外乱に対する状態変数x(t)の変動分の2乗の時間積分として表した関 数である。 評価関数Jの値を最小化することはx(t)の変動分を最小化することと等価 で3 これによりシステムの安定性は保証できる 利点がある。 しかしながら, 変動分の 最小化はシステムの減衰性 (ダンピング)を保証するものではなく, 安定性だけでな くシステムの減衰性の向上をも目的とした場合, (2.29)式の適用は不適切である。 ま た, 評価関数Jの最適化は3 理論解が得られず数値的に最小化問題を解かざるを得 ず,計算時間の制約により大規模系統への適用も困難である。

そこで, 本論文では, 大規模電力系統の減衰性を定量的に評価することのできる 固 有値の実部(ダンピング係数)を用いた評価関数として次式を利用した7 )。

F=Î/'λR, ...

.

.

.

...

.

.

.

...

.

....

. .

...

.

...

.

...

.

'(2.30)

ただし, kf:重み定数(正値) , λRi :固有値λiの実部

この評価関数Fは固有値λに対する 単調増加関数でかつ導関数も単調増加である の で, 物理的な安定度の把握や最適化の際の数値的取り扱いが容易である。 なお,

(2.30)式における 最適な重み定数kfの値についてはAppendix.Dを参照されたい。

(2 )評価関数の最小化手法

定態安定度の向上 は(2.30)式のFを最小化することにより得られる。 本論文では最 小化の手段として最急勾配法18) (いわゆる山登り法)を用いた。 最急降下法は3 パラ

メータαの修正分ムαの方向をFのαに関する傾き (=θF/δα) の方向 にとるもの である。 すなわち3 次式となる。

(31)

。F .:?:、1. aλ'Ri _k, λR,

�= X kf �e" ' ''H' … … …

一……一一

… …一 一

一… …………一一 一…一……・(2.3 1)

ここで, α=(α1 ' α2 ' …, αm)T

そして, 次式を最小にするスカラーなステッブ幅γを求める計算を繰り返す。

。F I

F(九1) = minF(αk -

Y -::-I )……・…・………'(2 .32)

y , ..

aα la -a ..

しかしながら, この方法は一般に収束性が良くなく19), F, λおよびθF/θαの計 算回数が多くなるのが普通である。特に大規模系統を対象とした場合, 最固有値計算 人の計算に多くの時間が割かれる。したがって3 本論文では, αの変化がそれ程大き くない範囲ではθλi/θαを一定値と見なし3 λiを次式,

λ'i =λik

+

ð.α 苧I

. . ... . . ... . . .... ... . ... . ... .. . . ... . . . ... . ... ... ....

'(2.33 )

.

dα la・a,

ここで, 入i

k

:繰り返し計算k回目のλiの初期値

で近似し, 各繰り返し毎に次式3

ミも、 fパ(川λ~瓜 F凡�(仏Aα)=

y e

c i h l (234)

。α

|ロ

・a,

ここで, 入Rik

:λikの実部

を最小にするムαを求め, αk+l =αk+ムαとして繰り返しを行う方法を利用した7)。た だし本論文では, αの変化幅ムαの上限値を11α11 2の20%とした。このような工夫を しさらにS法による固有値計算手法と組み合わせることにより, 大規模電力系統の安 定化計算を容易にした。ここで3 αは各種の発電機に関する変数が候補となる。本論 文では, αとして発電機励磁制御系の制御系パラメータを選択することにより, 発電 機励磁系による大規模電力系統の安定度向上方策を検討した。(2.33)式のθλi/θ αは固有値感度と呼ばれ, 2.4節以降の安定化対策の検討において重要な役割を果た す。2.3.2において簡単に固有値感度を説明する。

-25-

(32)

2.3.2

固有値感度

電力系統の固有値解析の最大の目的は, ある与えられた条件下における電力系統が 安定か否かを判断する安定度判別であることはいうまでもないが, この他にも固有 値・固有ベクトルから有益な情報を得ることができる。 系統に含まれるパラメータα が微小変化したときの固有値の変化量θλ/θαを求めることができれば3 その系統 の安定度向上策を検討するうえで貴重な情報となる“)。 これをαに対するλの固有値 感度と呼び, 以下にその求め方を説明する。

いま, 系統のパラメータαの微小変化ムαに対し, αを陽にあるいは陰に含むシス テム行列AがムAだけ変化したとする。 そして, 固有値人, 右固有ベクトルp, 左固 有ベクトルqもそれぞれλ+ムλ, p+ムp, q +ムqのように変化したとする。 こ のとき, 固有値, 固有ベクトルの定義式から次式が満足される。

(q + ÔqXA + MxP +!::.p) = (q + ôqXλ+ôλXp + !::.p)

. . . • . . .

.(2.35)

これを展開して微小変化量の2次以上の項を無視すると次式のようになる。

判p+ô科p+qMp+qA!::.p

=

qJ..p + ôqJ..p + qôJ..p + q入ôp .... . . ..…- ・……... . .. .……・・ ・ ・ ・…・ ・・ ・ ・・……ー - ・ ・ ・ ・・…… ・ ・ ・ ・…・

(2.36)

ここで, A p ==λp, qA==λqであるので3 これを代入すると次式となる。

qMp = qÔJ..p = Ôλqp

Aλ=9..坐p . .... . . ... . . . ...… .. . . . .. ・ ・ …- …- …・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ …

…(2.37)

qp

したがって, αに対する固有値感度θλ/θαは次式で求めることができる。

Oλ 勺EP

。A

・・・(2.38)

。α qp

次節2.4では3 この固有値感度を用いて3 大規模電力系統のロバスト安定化の目的 の内, 系統運用条件が変化しても幅広い安定性を保証するための発電機励磁系設計手

法を提案しその概要を説明する。

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