早稲田大学大学院 先進理工学研究科
博士論文審査報告書
論 文 題 目
Conceptual Core Design of Super Fast Reactor with Fuel Shuffling in Multi-Axial Layers
スーパー高速炉の
多段燃料シャッフリング炉心概念設計
申 請 者
SUKARMAN
スカルマン
Cooperative Major in Nuclear Energy Research on Reactor Theory
2019 年 12 月
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本 申 請 論 文 は 、 原 子 炉 冷 却 材 に 超 臨 界 水 を 用 い る ス ー パ ー 高 速 炉 の 新 た な 高 増 殖・高 温 炉 心 概 念 を 創 出 し て い る 。三 次 元 核 熱 結 合 炉 心 燃 焼 計 算 に よ り 、 核 分 裂 性 プ ル ト ニ ウ ム (Pu) の 増 殖 に 要 す る 時 間 の 指 標 で あ る 複 合 シ ス テ ム 倍 増 時 間 (Compound System Doubling Time: CSDT) が 将 来 の 軽 水 炉 寿 命
(60~80 年 )以 下 と な る 高 増 殖 性 と 炉 心 平 均 冷 却 材 出 口 温 度 が 約 490℃ の 高 温 を 両 立 す る 炉 心 概 念 を 世 界 で 初 め て 示 す こ と に 成 功 し て い る 。こ れ に よ り 、 プ ル ト ニ ウ ム の 増 殖 や 高 熱 効 率 の 達 成 は 困 難 で あ る と い う 従 来 の 軽 水 冷 却 炉 の 持 続 可 能 性 に 対 す る パ ラ ダ イ ム シ フ ト の 可 能 性 を 示 し て い る 。 本 申 請 論 文 は 以 下 の 5 章 か ら 構 成 さ れ て い る 。
第 一 章 で は 研 究 の 背 景 、 必 要 性 、 目 的 に つ い て 論 じ て い る 。 軽 水 炉 は 世 界 で 最 も 普 及 し て い る 発 電 用 原 子 炉 で あ る が 、2 3 8U か ら 2 3 9Pu へ の 転 換 効 率 や 熱 効 率 が 低 く 、 一 般 的 に は 長 期 的 に 持 続 可 能 性 の あ る エ ネ ル ギ ー 源 と み な さ れ て い な い と し て い る 。 ま た 、 こ れ ま で の 軽 水 炉 の 研 究 に お い て も 、 原 子 炉 冷 却 材 に 用 い る 軽 水 が 炉 心 で 発 生 す る 中 性 子 を 減 速 す る た め 、 高 い プ ル ト ニ ウ ム (P u) の 増 殖 性 能 を 達 成 す る 軽 水 炉 概 念 は 示 さ れ て い な い と し て い る 。
ス ー パ ー 高 速 炉 (Super FR) は 超 臨 界 圧 軽 水 冷 却 炉 (SCWR) の 高 速 炉 概 念 の 一 つ で あ る が 、 水 の 超 臨 界 圧 で 運 転 す る た め 、 軽 水 炉 の 飽 和 蒸 気 温 度 に 相 当 す る 擬 臨 界 温 度 を 超 え る 炉 心 の 高 温 化 が 可 能 で あ り 、 従 来 の 軽 水 炉 よ り も 高 い 熱 効 率 が 達 成 で き る と し て い る 。 ま た 、 炉 心 冷 却 材 の 温 度 上 昇 に 伴 う 密 度 低 下 が 中 性 子 の 減 速 効 果 を 低 減 す る た め 、 高 速 中 性 子 を 活 用 し た 高 効 率 の Pu 転 換 や 増 殖 が 可 能 と し て い る 。し か し 、従 来 は 炉 心 の 高 温 化 と Pu の 増 殖 性 能 向 上 を 両 立 す る 炉 心 概 念 は 示 さ れ て い な い と し て い る 。
以 上 を 背 景 に 、 ス ー パ ー 高 速 炉 の 熱 特 性 ( 炉 心 平 均 冷 却 材 出 口 温 ) の 向 上 と 核 特 性(Pu 増 殖 性 能 )向 上 を 両 立 す る 新 た な 炉 心 概 念 を 創 出 し 、従 来 の 軽 水 冷 却 炉 の 持 続 可 能 性 に 対 す る パ ラ ダ イ ム シ フ ト を 示 す 必 要 が あ る と し て い る 。 そ の た め に 、 ス ー パ ー 高 速 炉 の 高 温 化 と 増 殖 性 能 の 向 上 を 両 立 す る た め の 課 題 を 明 ら か に し 、 両 者 を 両 立 す る 炉 心 概 念 を 創 出 す る こ と が 本 研 究 の 目 的 で あ る と し て い る 。
第 二 章 で は 炉 心 設 計 の 目 標 、 境 界 条 件 、 基 準 、 手 法 が 解 説 さ れ て い る 。Pu 増 殖 性 能 の 目 標 に は 、 将 来 の 軽 水 炉 の 寿 命 ( 約 60 – 80 年 ) を 念 頭 に 、 ス ー パ ー 高 速 炉 が 増 殖 す る 余 剰 核 分 裂 性 Pu が 同 一 炉 型 の 稼 働 に 必 要 な 量 に 達 し た ら 直 ち に 同 一 炉 型 を 稼 働 す る と 仮 定 し 、 炉 シ ス テ ム 全 体 の 核 分 裂 性 Pu イ ン ベ ン ト リ を 倍 増 す る の に 要 す る 時 間 の 指 標 で あ る 複 合 シ ス テ ム 倍 増 時 間
(CSDT)を 60 – 80 年 以 下 と し て い る 。炉 心 平 均 冷 却 材 出 口 温 度 の 目 標 に は 、 代 表 的 な SCWR の 高 温 炉 心 設 計 を 参 考 に 、 約 480 – 500℃ と し て い る 。 炉 心 の 運 転 圧 力 は 25MPa と し 、 炉 心 概 念 設 計 の た め の 基 本 的 な 基 準 と し て 、 固 有 の 安 全 性 ( 負 の ボ イ ド 反 応 度 係 数 )、 冷 却 性 ( 被 覆 管 表 面 最 高 温 度 650℃ 以 下 )、健 全 性( 最 大 線 出 力 密 度 39kW/m 以 下 )の 設 計 基 準 が 定 め ら れ て い る 。 そ し て 、 こ れ ら を 考 慮 し 、 炉 心 性 能 を 評 価 す る た め に 必 要 な 三 次 元 核 熱 結 合
2 炉 心 燃 焼 計 算 手 法 に つ い て 解 説 さ れ て い る 。
第 三 章 で は 炉 心 を 混 合 酸 化 物 (MOX) 燃 料 か ら な る シ ー ド 燃 料 集 合 体 と 、 劣 化 ウ ラ ン か ら な る ブ ラ ン ケ ッ ト 燃 料 集 合 体 か ら 構 成 す る 径 方 向 非 均 質 炉 心 の 設 計 概 念 が 示 さ れ 、 そ の 熱 特 性 と 核 特 性 の 向 上 の 両 立 の 課 題 が 論 じ ら れ て い る 。 炉 心 の 熱 特 性 ( 熱 出 力 、 冷 却 材 平 均 出 口 温 度 ) と 核 特 性 ( 燃 料 平 均 取 出 燃 焼 度 、CSDT) の 間 に ト レ ー ド オ フ の 問 題 が あ る こ と が 示 さ れ て い る 。 そ の 問 題 の 原 因 は 、 増 殖 性 能 向 上 の た め に 炉 心 に 装 荷 す る ブ ラ ン ケ ッ ト 燃 料 集 合 体 を 増 や す と 運 転 サ イ ク ル 中 の 炉 心 径 方 向 出 力 分 布 の 変 動 が 大 き く な り 、 炉 心 の 高 温 化 に 必 要 な 効 率 的 な 冷 却 が 困 難 に な る た め で あ る と し て い る 。
第 四 章 で は 、 第 三 章 で 明 ら か に な っ た 問 題 を 解 決 す る 軸 方 向 に 非 均 質 な 多 段 燃 料 シ ャ ッ フ リ ン グ 炉 心 概 念 が 示 さ れ て い る 。 先 ず 、 炉 心 を 軸 方 向 に 複 数 の ブ ラ ン ケ ッ ト 燃 料 層 と MOX 燃 料 層 か ら 構 成 す る こ と で 、 増 殖 性 能 向 上 の た め に 炉 心 の 非 均 質 性 を 向 上 し て も 燃 焼 に 伴 う 炉 心 径 方 向 出 力 分 布 の 変 動 は 径 方 向 非 均 質 炉 心 に 比 べ て 大 き く な ら な い た め 、 炉 心 の 効 率 的 な 冷 却 は 維 持 さ れ 、Pu 増 殖 性 能 の 向 上 と 炉 心 平 均 出 口 温 度 の 向 上 を 両 立 で き る と し て い る 。
次 に 、 増 殖 性 能 を さ ら に 向 上 す る に は 炉 心 設 計 に 応 じ て そ の 炉 心 の 燃 焼 特 性 に 適 し た 燃 焼 度 で ブ ラ ン ケ ッ ト 燃 料 を 取 り 出 す こ と が 効 果 的 で あ る と し て い る 。 し か し 、 軸 方 向 非 均 質 炉 心 は 、 燃 料 集 合 体 を 取 り 出 す 際 に ブ ラ ン ケ ッ ト 燃 料 と MOX 燃 料 が 一 体 的 に 取 り 出 さ れ る た め 、 ブ ラ ン ケ ッ ト 燃 料 の 取 出 燃 焼 度 を 自 由 に 定 め る こ と が で き な い 。そ こ で 、「 多 段 燃 料 シ ャ ッ フ リ ン グ 法 」 が 新 た に 提 案 さ れ て い る 。 同 手 法 で は 、 炉 心 の 上 部 と 下 部 を 独 立 し た 燃 料 集 合 体 か ら 構 成 す る こ と で 、 そ れ ぞ れ の 領 域 に つ い て 異 な る 燃 料 シ ャ ッ フ リ ン グ に よ り 燃 料 を 取 り 出 す と し て い る 。 こ の と き 、 ス ー パ ー 高 速 炉 は 炉 心 軸 方 向 に 冷 却 材 密 度 が 大 き く 変 化 し 、 炉 心 の 上 部 と 下 部 で は ブ ラ ン ケ ッ ト 燃 料 の 燃 焼 特 性 が 異 な る こ と に 着 目 し た 設 計 が 必 要 で あ る と し て い る 。 そ こ で 、 上 部 ブ ラ ン ケ ッ ト 燃 料 層 と 下 部 ブ ラ ン ケ ッ ト 燃 料 層 そ れ ぞ れ の 取 出 燃 焼 度 に 対 す る 各 炉 心 特 性 (CSDT、 核 分 裂 性 Pu イ ン ベ ン ト リ 、 ボ イ ド 反 応 度 係 数 、 最 大 線 出 力 密 度 、 炉 心 平 均 冷 却 材 出 口 温 度 ) の 変 化 の 関 係 が 明 ら か に さ れ て い る 。 こ れ ら の 関 係 を 踏 ま え た 提 案 設 計 で は 、 下 部 ブ ラ ン ケ ッ ト 燃 料 層 取 出 燃 焼 度( 約 10GWd/t)に 比 べ 上 部 ブ ラ ン ケ ッ ト 燃 料 層 取 出 燃 焼 度( 約 15GWd/t) を 高 め 、 ス ー パ ー 高 速 炉 の 炉 心 設 計 概 念 で 初 め て 高 い 増 殖 性 能 (CSDT 約 74 年 ) と 高 い 炉 心 平 均 冷 却 材 出 口 温 度 ( 約 490℃ ) を 両 立 し て い る 。
第 五 章 は 本 研 究 の 結 論 を 示 し て い る 。 ス ー パ ー 高 速 炉 は 高 い Pu 増 殖 性 能 と 高 温 化 の 両 立 が 可 能 で あ り 、 従 来 の 軽 水 冷 却 炉 の 持 続 可 能 性 に 対 す る パ ラ ダ イ ム シ フ ト の 可 能 性 を 示 す こ と が で き た と 結 論 付 け て い る 。 ス ー パ ー 高 速 炉 の Pu 増 殖 性 能 と 高 温 化 の 両 立 に は 、 炉 心 の 非 均 質 性 の 向 上 が 炉 心 の 冷 却 性 に 影 響 し な い よ う に 軸 方 向 に 非 均 質 な 炉 心 構 成 と す る こ と が 有 効 で あ る こ と が 示 さ れ た と し て い る 。 さ ら に 、 ス ー パ ー 高 速 炉 特 有 の 炉 心 軸 方 向 の 大 き な 水 密 度 変 化 に 着 目 し 、 新 た に 考 案 し た 多 段 燃 料 シ ャ ッ フ リ ン グ 法 に よ り 、
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炉 心 軸 方 向 そ れ ぞ れ の 領 域 の 燃 料 を 適 切 な 燃 焼 度 で 取 り 出 す こ と で 、Pu 増 殖 性 能 の 向 上 が 可 能 で あ る こ と が 示 さ れ た と し て い る 。
本 申 請 論 文 の 審 査 過 程 で は 、 以 上 に つ い て 確 認 ・ 議 論 し た 上 で 、 以 下 に つ い て 申 請 者 と 議 論 し 、申 請 論 文 に 必 要 な 修 正 を 反 映 さ せ た:① 論 文 の 新 規 性 ・ 独 創 性 、 ② 申 請 者 が 提 案 す る 炉 心 仕 様 と そ の 特 性 の 評 価 結 果 の 妥 当 性 。
第 一 点 目 で あ る 論 文 の 新 規 性 ・ 独 創 性 に つ い て 議 論 し た 結 果 、 申 請 者 が 示 し た よ う に 、 以 下 の よ う な 新 規 性 ・ 独 創 性 が あ る こ と が 認 め ら れ た :
超 臨 界 圧 軽 水 冷 却 炉 の 高 温 化 と 増 殖 性 能 向 上 を 両 立 す る 研 究 ( 新 規 性 )
炉 心 軸 方 向 に 冷 却 材 の 密 度 が 大 き く 変 化 す る ス ー パ ー 高 速 炉 の 特 性 を 活 用 し 、 炉 心 の 上 部 と 下 部 そ れ ぞ れ の 燃 料 交 換 を 独 立 に 行 う 多 段 燃 料 シ ャ ッ フ リ ン グ 法 の 考 案 と そ れ に よ る 炉 心 性 能 向 上 の 研 究 ( 独 創 性 )
第 二 点 目 で あ る 申 請 者 が 提 案 す る 炉 心 仕 様 と そ の 特 性 の 評 価 結 果 の 妥 当 性 は 申 請 者 が 提 案 す る 多 段 燃 料 シ ャ ッ フ リ ン グ 法 の 有 効 性 を 検 証 す る 過 程 で 議 論 さ れ た 。 そ の 議 論 の 過 程 で は 、 超 臨 界 水 の 密 度 変 化 が ブ ラ ン ケ ッ ト 燃 料 の 燃 焼 特 性 と 炉 心 の 増 殖 性 能 (CSDT) に 及 ぼ す 影 響 の み な ら ず 、 上 部 と 下 部 そ れ ぞ れ の ブ ラ ン ケ ッ ト 燃 料 層 の 燃 焼 度 が 核 分 裂 性 Pu イ ン ベ ン ト リ の 変 化 、 ボ イ ド 反 応 度 係 数 、 最 大 線 出 力 密 度 、 炉 心 平 均 冷 却 材 出 口 温 度 等 の 広 範 な 炉 心 特 性 パ ラ メ ー タ に 及 ぼ す 影 響 を 明 ら か に す べ き で あ る こ と が 議 論 さ れ た 。 そ れ ら の コ メ ン ト に 対 応 し た 評 価 結 果 を 踏 ま え て 申 請 者 が 提 案 す る 炉 心 仕 様 と そ の 特 性 の 評 価 結 果 の 妥 当 性 が 認 め ら れ た 。
以 上 よ り 、 軽 水 冷 却 炉 の Pu 増 殖 と 高 温 化 を 両 立 す る 概 念 を 示 し た こ れ ら の 成 果 は 、 将 来 の 原 子 力 発 電 技 術 の 持 続 可 能 性 向 上 の 可 能 性 を 示 す 重 要 な 知 見 と 認 め ら れ る 。 よ っ て 、 本 申 請 論 文 は 博 士 ( 工 学 ) の 学 位 論 文 と し ふ さ わ し い も の と 認 め る 。
2019 年 11 月 審 査 員
主 査 早 稲 田 大 学 准 教 授 博 士(工 学)(東 京 大 学) 山 路 哲 史
署 名 副 査 早 稲 田 大 学 特 任 教 授 工 学 博 士(早 稲 田 大 学) 師 岡 愼 一
署 名 早 稲 田 大 学 教 授 工 学 博 士(東 京 大 学) 鷲 尾 方 一
署 名 早 稲 田 大 学 教 授 工 学 博 士(早 稲 田 大 学) 大 木 義 路
署 名 東 京 都 市 大 学 教 授 博 士 ( 工 学 )(東 京 工 業 大 学) 高 木 直 行
署 名