高校 レベル の JSL生 徒 の 日本 語 教 育 を考 え る 一― 町SLバ ンドスケール」による日本語能力調査を踏まえて一―
川 上 郁 雄
キーワー ド
高校レベルの」SL生徒、JSLバ ンドスケール、日本語能力、母語、第二言語
1. は じめに
現在、全 国の学校現場 では「 日本語 を第二言語 と して学ぶ子 どもたち」(以 下、」
SL児
童生徒)の
日本語能力 を把握す る適切 な方法が ないため、 日本語指 導 をどう進 め るか について指針が もてない状況 にある。筆者 は、その ような現状 を改善するために、2002年 か ら」
SL児
童生徒 の 日本語 能力 を把握 す る方法 と して 町
SLバ
ン ドスケール」(小学校編 お よび中学 ・ 高校編)を
開発 して きた。すで にその成果 と実践 について公表 して きた。その 結 果、現在、 町SLバ
ン ドスケール」 は各地の さまざまな教育現場 に広が りつ つある。一方、 これ までの
JSL児
童生徒 に関する 日本語教育実践研究 は小 中学校の児 童 生徒 に関す る ものが 中心 であ り、一部 の研 究 (たとえば広 崎、2002)を
除 き、JSLの高校 生 の実態 は ほ とん ど知 られてい ない。 しか し、高校 レベルのJSL生
徒 に関す る 日本語教育 は、学習言語 能力 の伸 長や 「不就学」 な どの点 で、小 中学校 レベルの 日本語教育のあ り方 とも密接 に関わる重要なテーマであ る。本 稿 で は、その ような問題意識 か ら、町
SLバ
ン ドス ケールJ(中
学 ・高校 編)を
使 い、高校 に在籍す るJSL生
徒 の 日本語能力の把握 を試みた調査報告 を 行 う。 同時 に、高校 レベルの 日本語教育のあ り方 について論ず ることを目的 と す る。2.先
行研 究 と課題高校 に在籍す る
JSL生
徒 の 日本語能力 について考 える うえで、先行研 究 を踏 まえ、い くつかの論点 をまとめてお く。第一 は、母語能力 と日本語能力の関係 である。第一言語 (この場合、母語)
と第二言語 (この場 合、 日本語
)の
そ れぞ れの言語 能力 は、 い わ ゆ る Com―mon Underlying Proficiency(CUP)モ デルの立場 に立てば、相互依存 関係 に ある
(Cummins&swraln,1986)と
考 え られ る。ただ し、第一言語 能力が第二 言語能力の習得 に どの程度影響す るか については、必 ず しも明確 で はない。第二 は、言語習得 と年齢 お よび滞在期 間の関係 である。異 なる言語社 会へ移 動す る子 どもの言語習得 における、年齢 と滞在期 間の関係 については、すで に 研究がある。 た とえば、幼少期 に異 なる言語社会へ移動 した子 どもの場合、発 音 な どの習得 においては、幼少期 を過 ぎた年齢 で異 なる言語社会へ移動 した子 どもの場合 よ りも習得が早い。 しか し、語彙の習得 においては、認知発達 レベ ルの高い後者 の子 どもの方が習得 は早い
(Cummins&SwJn,1986)と
言 われる。ただ し、いずれの場合で もその ように言 えるのか、 また滞在期 間が長 くな れば、言語習得 はおのず と進むのかな ど、必ず しも明確 ではない。
第三 に、第二言語 能力 を捉 える ときに、 日常 会話 で必 要 な第二言語 能力、
Badc lnterpersond Communicauve Sk■
ls(BICS)と
、教科学習 に必要 な第二言 語能力 、Cognitive/Academic Language Proficiency(CALP)と い うふたつの視 点 か ら第 二 言 語 能 力 を捉 え る こ とが 指 摘 され て い る(Cummins&swaln,
1986)。 これは、第二言語 を話す子 どもが、 日常会話 はで きるが教科学習が な
か なか進 まない事情 を理解す る うえで重要である。 ただ し、BICSと
CALPが
子 どもの言語能力全体 の発達 に どう関わるのか については、必 ず しも明確 では ない。
以上の論点 は、 日本 に在住する
JSL生
徒 の 日本語能力 を考 える うえで も重要 な論′点であ る。 しか し、本稿 はこの ような課題 を解析 す るこ とを目的 としてい ない。 この ような論点 を考慮 しなが ら、 日本 に在住す るJSL生
徒 の 日本語能力 の実態 を把握す ることを第一義的な目的 としている。以下、調査 の概要、調査 結果、お よび考察 とい う順序 で論 を進 め る。‑14‑
3.調
査 の概要本稿 の調査 が行 われたの は、神奈 川県立愛川高校 であ る(lt以下、学校 の概 要、愛川町の概況、調査方法 について述べ る。
3‑1.学
校 の概要愛川高校 は1983年 に開校 して以来、愛川町の唯一の県立高校 として地元 を中 心 に広 く生徒 を受け入れ、高等学校教育 を行 って きた。教育 目標 は「豊かな心 を養い健やかな身体 を培 う」である。学校の特色 として、「①多様な進路希望 に対応 した学習指導……選択科 目の多様化、②資格取得 を目指す教育、③地域 学習の取 り組み……伝統文化 (三増の獅子舞、海底和紙)、 ④部活動活性化」
があげられている。
クラス数は、
1学
年8ク ラス、2学
年6ク ラス、3学
年6ク ラスの計20クラ スで、全校生徒数は621人 (男 :352人、女:269、 2005年 5月現在)で
ある。生徒の居住地域は、愛川町が284人 (46%)、 厚木市が264人 (43%)、 海老名 市が30人
(5%)と
なっている。クラブ活動 を行 っている生徒数は、運動系が 106人 (17%)、 文化系が89人(14%)で
ある。進路状況は、第20期生 (2005年 3月卒業
)の
場合、卒業生180人のうち、進 学は68人 (内訳:4年
制大学・16人、短期大学・10人、専門学校 ・40人、職業 技術校 ・2人
。38%)、 就職は65人 (36%)、 進学準備 ・家事 ・アルバイ ト等が 47人(26%)と
なっている。(注
1)こ
の節は、『平成17年度学校要覧』(神奈川県立愛川高等学校
)を
参照 した。数字は四捨五入。32.愛
川町の概況愛川町は、「神奈川県中央北部に位置 し、都心から50km圏内、横浜から30km 圏内にあ り、町の西部には丹沢山塊の東端にあたる仏呆山を最高峰 とする山並 みが連な り、東南部は相模川 と中津川にはさまれた標高
100m前
後の台地が広 がる中央部の くびれた"ひ ょうたん形"の 地形」(愛川町役場のHPよ
り)を
し ている。愛 川 町 の も と となる愛 川村 は明治 時代 まで湖 る。愛 川 町 と して は戦前 か ら歴
史が あ るが、昭和31年 (1956年
)に
中津村 を合併 して以来、現在の愛川町 とし て発展 し、2005年 9月 に50周 年 を迎 えた。愛川町の人 口は、2005年10月現在 、42,773人 である。昭和41年 (1966年
)に
内陸工業 団地が建設 され、町の産業構造 が変化 した昭和45年 代後半 (1970年 代
)よ
り町の人 口は右肩上が りで上昇 して きたが、近年10年 間はほぼ横 ばいである。
平成12年 (2000年
)の
国勢調査 か ら産業別人 口を見 る と、就労人 口、22,745 人の うち、製造業 :8,192人 (36%)、 サ ー ビス業 :4,708人 (21%)、 卸売 ・小 売 業 :3,675人 (16%)、 建 設業 :2,481人 (11%)、 運 輸 ・通信 業 :2,395人 (11%)、 農業 :288人(1%)で
あ り、大都市周辺の製造業お よびサー ビス業 を中心 とした産業地域 の性格が見 られる。また、愛川町の外 国人登録人 口は、平成 13年 (2001年
)に
は1,934人 であっ たが、平成16年 (2004年)に
は、2,297人 と増加 している。町全体 の人 口増加 が横 ばいであるのに対 し、外 国人登録者が増加 してお り、町全体 の人 口の約5表
1.愛
川町の外 国人登録人口 (平成13年 と平成16年)国籍/年 平成13年
(2001年)
平成16年 (2004年)
1 ペ フレー
ブラジル 668
3 フ イリピ ン
4 タ イ
5 中 国
ドミニカ共和 7 カ ンボ ジア
韓国 。朝鮮
ア ル ゼ ンチ ン
イラン 8
11 その他
総
数 1,934 2,297
‑16‑
%を
占め てい る。 国籍別 で見 る と、ペ ル ーが最 も多 く、続 い て、 ブ ラジル、フ イリピン、 タイ、中国、
ドミニ カ共和 国、 カンボジアと続 く。 この
4年
間の 外 国人登録者数 の推移 は以下の通 りであ る。「韓 国 ・朝鮮」「イラ ン」 の国籍者 が減少 しているが、他 の上位の国籍者が増加 していることがわかる。(注
2)こ
の節 の デー タは、愛 川 町役 場 のHP:http:〃 www town dkawa
kanagawajp/を もとに してい る。3‑3.調
査方法の概要愛 川高校 に在籍す る
JSL生
徒 の 日本語能力 を把握す る調査 は、2005年 9月 5 日よ り同年 9月29日まで、延べ 日数、17日 間で実施 された。 9月 3日 、 4日 の「学園祭 :愛 高祭
Jも
含 め、連 日、朝 の授 業時間か ら放課後 までの時間 を利用 し、調査が行 われた。調査 団は、早稲 田大学大学院 日本語教育研究科 ・日本語 研 究教育 セ ンターの教員 お よび修 了生、大学 院生の12名である。調査 方法 は、主 に以下の方法 を とった。
①「授業見学」
教室で授業を見学 し、授業中に行われる会話やや りとりを記録 し
た。②「授業で使用 した資料・プリン ト類の収集 と分析」
授業中に担当教員から配布 された資料やプリン ト類 を、担当教員お よび生徒本人の許可を得て、収集 した。そのプリン トに書 き込 まれた 生徒の文章か ら授業中の理解度や「書 く力」 を分析 した。
③ 「生徒への個別のインタビュー」
生徒 を呼び出 し、直接話 を聞 くインタビューを行 った。②の資料 を もとに、授業の ことを聞いた り、中学時代のこと、家庭のこと、母 語、 日本語、学習、進路のことを聞 くなど、多岐にわたる話題につい て聞いた。ひとりの生徒 につ き、複数回のインタビューを行 った。イ ンタビューの時間は、ひとり30分か ら
2時
間ほ どであつた。インタ ビューの間は、本人の許可を得て、録音 をする場合 もあった。インタ ビューの場所 と時間は、放課後の「会議室J「調査団控 え室 (生徒指 導室)」「廊下のベ ンチ」「教室J「廊下」などであった。また、9月 3日、 4日 の文化祭の ときには、会場 となった教室での活動や 日本人生 徒 との議論、や りと りも参与観察 した。 またインタビューに日本人生 徒 が複数参加 して、いっ しょに議論 をすることもあった。 これ らの観 察 、会話、や りとりか ら、資料 を収集 した。
④「アンケー トおよび課題提出」
「読む力J「書 く力」 を見るために、「アンケー ト」形式の質問紙に 日本語で回答するように指示 した り、授業中の話題 をもとに、テーマ を与え、それについて回答 を書 くように指示 し、生徒 自身の「書いた もの」 を提出させた。た とえば、現代文で扱 った教科書の文、「ふ し ぎということ」 を参考 にして、「である
J調
の文体で自分 にとっての「ふ しぎということ
Jを
自由に書 く作文課題 を与えた り、雑誌の記事 を読み、その論 旨を踏 まえて自分の意見を述べる作文の課題 を与えた りな どした。その ような方法で得 られた資料 か ら「読 む力J「書 く 力」 を分析 した。⑤「担任へのインタビュー」
生徒の担任や教科担当教員にインタビュー し、生徒の 日本語能力や 学習状況、家庭状況等について情報を収集 した。また、国語の作文な
どを、本人の許可を得て、コピーを入手 し、分析の材料 とした。
⑥「生徒 とのメール、携帯での通信」
生徒 によっては、メールや携帯で意見交流や会話 をすることがあっ た。そのような場合は、母語に関する情報や個人的な内容 について、
学校では聞けない多 くの情報 を得た。
JSL生
徒の 日本語能力の把握 に際 しては、川上研究室が開発 した 町SLバ
ン ドスケール」(中学・高校編)を
使用 した。4技
能別の枠組みは、「初めて日本表
2.町 SLバ
ン ドスケール」(中学・高校編)の
フ レームワーク中学 。高校 聞 く 1・ 2・ 3・ 4・
5 6・
7・ 8 話 す 1・ 2・ 3・ 4・5 6・
7・ 8 読 む 1・ 2・ 3・ 4・5 6・
7・ 8 書 く1 2・
3・ 4・ 5・ 6・7 8
‑18‑
語 に触 れ る
Jレ
ベル1から「 日本語母語話者 に近いJレ
ベル 8ま で設定 されて い る。4.生
徒協 力者の プロフィール本調査 に協力 して くれた生徒 の プロフイールは、表
3の
通 りであ る。今 回の調査 では、愛川高校 に在籍す る
JSL生
徒 の うち、調査協力 の了解 を本 人か ら得 た15名を対象 に したが、途 中で1名 (生徒番号13)は
家庭 の事情 か ら 欠席が多 くなったため調査 を中止 した。 したが って、最終的には、1年
生:3
名、
2年
生:6名
、3年
生:5名
、計 14名 (内訳 は男 :10名 、女:4名 )で
あ った。
このうち、母語および家庭内言語別に見ると、スペイン語
:7名
、ポル トガ ル語:3名
、ポル トガル語 。日本語:1名
、中国語:1名
、中国語・日本語:表
3.愛
川高校 日本語能力調査協力者一覧番 号 学 年 性 国 籍 主 な家庭内言語 来 日時の年齢
/
編入学年 滞 日年数
1 3年 男 ペ リレー スペ イン語 1歳 16年
3年 男 ペ リレー スペ イン語 1歳 17年
3年 女 ペ リレー スペ イ ン語 中 2 4年
4 3年 女 ブ ラジル ポル トガル語 8年
5 3年 男 ブラジル ポル トガル語 中 2 5年
2年 男 日本 日本語 。中国語 高1 7年
7 2年 男 ペ フレー スペ イ ン語 9年
2年 男 ブ ラジル ポル トガル語 3歳 13年
9 2年 男 ブラジル ポル トガル語
日本 語 3歳 13年
2年 女 ペ リレー スペ イン語 3歳 13年
11 2年 男 ラオス 日本語 日本生 まれ 16年
1年 男 ペ フレー スペ イ ン語 5年
1年 男 ドミニ カ共和 国 スペ イ ン語 中 2 2年
1年 男 中 国 中国語 4年
1年 女 ペ フレー 日本語 3歳 13年
1名、 日本語
:1名
であつた。また、来 日時の年齢 は
1歳
か ら13歳 まで多様で、 日本生 まれ も1人
含 まれて い る。 したが って、滞 日年数 も5年
以下が4人
、6年
か ら10年 が3人
、11年 か ら15年 が4人
、16年 以上が3人
と幅が広い。5.生
徒 の 日本語能 力調査の結果本調査 に よって、
JSL生
徒 の 日本語 能力 が判定 された。その結果 は、表4の
通 りである。表
4.町 SLバ
ン ドスケール」 による 日本語能力の判定 レベル生徒番号 聞 く 話 す 読 む
董日
1 7 4〜5 5
2 7〜8 7〜8 7〜8 7〜8
3 4〜 5 4〜5 3〜4
4 6〜 7 5 5
5 4 3 3
6 7〜8 7 4〜 5
7 6 4
8 7 7 5
9 7〜8 7 7
6 4〜 5 4〜 5
11 6〜 7 6〜 7 5〜6 5〜6
12 6 4〜 5 5〜6
13
14 4 4 3
5〜6 5〜6 4〜 5 4
6.調
査 結 果 の考 察前 節 で詳 述 した生 徒 の 日本 語 能力 調 査 の結 果 か ら、何 が わ か つ た の か、 ま た、 どの よ うな こ とが考 え られ るのか につ いて、考 察す る。以 下 、
一‑ 20 ‑―
(1)生徒 間の 日本語能力の多様性 、
(2)日本語能力のア ンバ ラ ンス、
(3)母語力 と母語 に よる学習経験 (4)言語生活環境 と日本語能力
(5)JSL生 徒の コミュニケーシ ョン・ス トラテジー の順で述べ る。
(1)生徒 間の 日本語能力の多様性
今 回、 日本語能力 を観察 した生徒 たちは全部 で14人 であ つたが、その 中に も 日本語能力 はさまざまであった。つ ま り、一見、 日本語 による日常会話が可能 で、 日本 語 能力 に差 が ない ように見 える生徒 た ちで も、 町
SLバ
ン ドス ケ ー ル」 によ り観察すると、 日本語能力 に差があることが明確 になった。その差の幅は、14人 の生徒 の中では、聞 く力 と話す力が レベル
4か
らレベ ル 8ま であ り、読 む力 と書 く力 は レベル3か
らレベ ル7〜 8ま であった。具体的 に言 えば、生徒 2と 生徒9は4技
能が どれ もレベ ル7〜 8と 高いが、生徒5は4技
能が レベ ル4〜 3と 低い。 また、生徒1、 生徒3、 生徒6、 生徒7、 生徒10、 生徒12、 生徒14、 生徒15も、
4技
能の うち、 ひ とつ以上 は レベ ル4に
とど まってい る。た とえば、生徒5の場合、 日常 的な語彙が不足 してお り (例 :通 学方法 ・放 課後・来 日・筆記試験 ・右折 ・左折 ・趣味 ・乗 り継 ぎ・記事 ・車種)、 発話 は 一語文 ・単文が大半 を占めている。文脈の類推か ら読 むため、漢字の読み違い も目立つ。 したがって、板書 を写す ことはで きて も、 自分で一文 を書 くの も苦 労 してい るのが現状 である。
生徒7の場合、書 く力 は レベル 4と まだ低 い。漢字 の読み書 きに苦手意識が 強 く、長 い文章の読み書 きを進 んで しようとしない。特 に、「書 く
Jこ
とに対 して拒否反応 を示 し、書 く場合で も、短い文 しか書 こうとせず、箇条書 きの記 述 が多 い。 この複文構成力の弱 さは発話 に も現 われ、単文で話す ことに もなる。その結果、分か りづ らい発話が時々ある。
生徒10の 場合、聞 く力、話す力 は レベル
6だ
が、読 む力は高 くな く、難 しい 漢字や漢字が た くさんある文章 を読 む ときは、漢字 を飛 ば して読み、質問や内容 を類推 す る ことがあ る。読 む力が弱いため、 自分の関心 のないテーマの文章 は読み続 けることは困難で、かつ、 自分のわか りたい内容 を抽出す ることもで
きない。
生徒15も、読 む力 と書 く力が レベル4〜 5と 比較的低 い。板書 を読み、書 き 写す ことはで きるが、新 聞記事 を読 んで理解する力 は弱い と思 われる。考 えた こ とを書 くのが難 しい状況であるため、作文 な どの場合、「書 き方」が分か ら ず、書 こ う とい う意欲 はあ って も書 くこ とがで きない状 況 にあ る。 したが っ て、書 く時、他の生徒 よ りも、多 くの時間がかかる。
(2)日本語能力のアンバ ランス
ひ と りの生徒 の中で も、 日本語能力の
4技
能 に レベ ル差 のある生徒 が多い こ とがわかった。聞 く力 と話す力 は、文字表記 に頼 ることが少 ないため、読 む力 や書 く力 よ りも高い レベルにある生徒が多いが、読む力や書 く力 との差が大 き い生徒 もいる。た とえば、生徒1は、聞 く力 、話す力 は レベル
7か 6で
あ るが、読 む力 と書 く力 は レベル4〜
5と それ よ り低い。 日本 に16年 以上滞在 しているため、話題 を自分の馴染みのある話題 にかえることが多いことや、言いたい ことをどん ど ん並列 に並べ てい くとい う方略 によって切 り抜 けて きた と思 われる。 しか し、その方略 は読 む力や書 く力 にはつなが っていない。読めない漢字 は文脈 で類推 し、板書が なければ書 かない し、書 けない状況 にある。 したが って、読 む力 と 書 く力が弱 い ままになっている。
生徒
3の 4技
能 は レベル3か
ら 5と 開いている。聞いた ことを理解 していな くて も、相手 の話 に合 わせて「 うん」 と相槌 を打 った り、相手の切 り出 したこ とば に続 けて文 をつ くった りす るので、話題 の展 開が早 い印象 を与 える。一 見、聞 く力 や話す力が高い ように見 えるが、文が未完結の まま発話が終 わるこ とや、言いたい ことを最後 まで発話で きないことがある。 この レベルは、授業 についてい くことが困難 な レベルである。 したがって、早 回の授業や、授業展 開がはやい授 業 は、内容が理解で きない とあ きらめて、 ウォークマ ンで音楽 を きいた り、机上で寝 ていた りす ることになる。生徒 14の 場合、聞 く力 は レベル
5だ
が、書 く力 は レベ ル3で
あ る。 た とえ―‑ 22 ‑―
ば、使用で きる接続詞が非常 に限 られてお り、語彙量 も非常 に少 ないため、話 し言葉 と同 じように、単文で並べ て、書いている。語順、時制 などにも問題が あ り、教室で書 き方 を習 つて も、積極的には うま く使 えない様子が見 られる。
表現 の ための語彙量 や言 い方が 限 られ てい るので、yesと
nOで
簡単 に話 を終 わ らせ て しまう傾向があ り、 したが って、 まだ一人で、正確 な複文 を書 くこと がで きない状態 にある。この ように、 日本語能力 とい つて も、 よ く観 察す る と、技 能 に差が見 られ る。その ことを十分 に踏 まえた指導が望 まれる。ただ し、だか らといって、文 字指導や漢字指導 を日本語指導のすべ てである と考 えることは誤 りである。 4 技 能 は相互 に関連 してお り、 日本語能力 は総合的な力であると捉 えることが重 要で、部分 か ら補強 し全体へつなげ、かつ全体か ら部分 を強化 してい くとい う 総合的 な指導が必要 となる。その ような指導 を効果的 に行 うためにも、
4技
能 のバ ランスを把握 してお くことが重要である。(3)母語力 と母語 による学習経験
で は、 この ような 日本語能力の レベルの多様性やア ンバ ランスの背景 には、
どの ような事情 と要因が考 え られるのか。
まず、母語力である。母語 によって育成 された言語能力の基礎力 は日本語 を 学 習 す る と きに も役 に立 つ。換 言す れば、母語 に よる言語生 活 と言語教 育 が
しっか りと行 われて きたか どうかが、 日本語能力の伸長 に大 きく影響する。
た とえば、生徒3、 生徒5、 生徒12、 生徒14は すべ て滞 日期 間が
5年
以下で あ るため、それぞれの 日本語能力が同様 の レベル まで習得 されているか といえ ば、そ うではない。生徒3と 生徒
5は
、 どち ら も中学2年
時 に来 日 し、現在、高校3年
生 であ る。背景 として、生徒3は
ペルー出身でスペ イン語 を母語 とし、生徒5はブラ ジル出身で、ポル トガル語 を母語 とす る点は異 なるが、二人 とも日本語能力の4技
能 で はいず れ もレベ ル5以
下 で、授 業 についてい くには困難 な状態 であ る。 どち らか と言えば、 日本語能力 は生徒3の
方が高 い。生徒3は家庭 内言語 がスペ イ ン語で、母語 によるコ ミュニケーシ ョンカ はスペイ ン語母語話者 と同 じ程度 に高い。生徒 5も インターネッ トな どでポル トガル語 を使用するな ど、母語力 は維持 されてい る。 これ らの生徒 の母語力 と日本語能力 との関係 は さら に詳細 な検討が必要であるが、母語 による言語教育の経験が 日本語習得 に影響 を与 えていることは確 かであろう。
生徒5は中学で 日本語教室があった と言 うが、いずれ にせ よ、 この二人は中 学
2年
か ら高校3年
まで、十分 な 日本語指導 を受 け られなかったことが考 えら れる。来 日時 に母語 を使 った 日本語指導 とその後 の継続 的な指導があれば、現 在 よ りも日本語能力が向上 していたであろ う。一方、生徒12と生徒14の場合 は、 どち らも小学校高学年 で来 日し、現在 、高 校1年生 である。生徒12はベルー出身のスペイ ン語 を母語 とす る生徒で、生徒 14は中国出身で中国語 を母語 とす る生徒である。生徒12はペ ルーの学校 にいた 頃は成績優秀で、母語のスペイ ン語 による学習言語能力が十分 に発達 していた と思 われ る。 したが って、家庭 内言語 はスペ イ ン語 で、かつ新 聞や イ ンター ネ ッ ト、テ レビや友達 を通 してスペ イン語 に触 れる機会があ り、母語の力 は 4 技能 ともに高 い。そのため、学習意欲 も高 く、積極性 を示す こともあ る。それ
に対 し、生徒14は、中国語 を母語 とし、当然 、漢字 を理解す る力があ る と考 え られるが、中国での中国語 による読 む力が まだ定着 していなかったためか、 日 本語 の漢字 を見 て も推測で きない場合 もある。家庭 内言語 は中国語 であ るが、
現在 中国語 の勉 強 はあ ま り意識 していないため、中国語 の能力 を 日本語学習 に 生かせ ていない。
したが って、生徒12の日本語能力 は レベル6を示す ほ どであ るが、生徒14の 方 は レベ ル
5か
らレベ ル 3と 、二人の 日本語能力 に明 らかな差が生 じている。この ように、」
SL生
徒 の 日本語習得 には、母語力や母語 に よる学習経験 が大 きく影響 を与 えているであろうことがわかる。14)言語生活環境 と日本語能力
で は、来 日年齢や滞 日期 間 (年数
)は
、JSL生
徒 の 日本語習得 に どの ような 影響 を与 えるのか。生徒8、 生徒9、 生徒10、 生徒15は、それぞれ
3歳
の ときに来 日し、13年 以 上 日本 に暮 ら してい るこ とになる。生徒8、 生徒9は
ブ ラジル出身で、生徒10、 生徒15はベ ルー出身である。 この
4人
の来 日時の年齢 と滞 日期 間はほぼ同―‑ 24 ‑―
じなのだが、 この
4人
の 日本語能力 に差がある。生徒8、 生徒9の
聞 く力 、話 す力 は レベル7や
レベル 8と 高いが、生徒10、 生徒15の場合 、聞 く力 、話す力 は高 くて もレベル6で
、読 む力、書 く力の面では レベル4〜
5と 低 い。この ように日本語能力 に差が生 まれる背景 には、何があるのか。そのひ とつ は家庭 における言語生活環境であると考 え られる。
た とえば、生徒9は、
4技
能すべ て レベル7あるいは 8と バ ランス良 く日本 語能力が身 についてお り、語彙 も広が り、話す力 は議論 に参加 して意見 を述べ るまでに達 し、ス ピーチで必要 とされる論理的表現 も習得 しつつある。 この生 徒 は、3歳
で来 日し、家庭 内言語 はポル トガル語が主である。今 回の調査 では この生徒の母語力は明 らかではないが、 この生徒 は 日本 の漫画、小説、ゲーム が好 きなため、常 に日本語 を多 く読み、友人 と会話 していることが幅広 い 日本 語 の語彙習得 に影響 してい る と思 われ る。読み書 きに対 して、 まだ指導が必要 であるが、授業 に参加 してい く力 は十分 にある。一方、生徒10は、
4技
能 の うち、聞 く力 と話す力 は レベル6で
、 日常生活 に お ける会話 に支障はない ようにみ られるが、相手 に頼 つて話 を した りす る。使 用語彙が狭 く限 られてい るため、年齢相応 の抽象的な会話 を続 けることが困難 であ り、ス ピーチゃ作文の ような単独 による自己表現 の際 には、試みる前か ら 断念 して しまうことが多い。 この生徒 も、生徒 9と 同 じ年齢 の3歳
で来 日し、家庭 内言語がスペ イン語 である。 この生徒 のスペ イ ン語力 は、家族 と会話 をす る程度であ り、スペ イン語 に関 して も相手 に頼 りなが ら会話 を していることが 多 い。スペ イ ン語 の読み書 きは構造的 に理解 を してい るわけで はな く、母語 の 力が十分 でない ことが、 この生徒 の 日本語 による使用語彙や思考力、表現力 に 大 き く影響 している と考 え られ る。
この ように、生徒 9と 生徒10はともに高校
2年
生であ り、来 日年齢や滞 日期 間が同 じであ るが、2人
の 日本語能力 には差が生 じている。生徒9は
好 きな漫 画や小説、ゲームな どか ら日本語 の語彙 を習得 して きたのに対 し、生徒10は、 家庭 ではスペ イ ン語で、学校 では 日本語 を使用 して きたが、両言語 ともに語彙 が少 ない。この生徒 9と 生徒10の例 は、家庭 にお ける言語生活環境 が生徒 の 日本語習得 に影響 を与 えていると考 え られる例であるが、両者の 日本語能力 に差が生 じる
原 因は、 けっ して家庭 における言語生活環境 だけではない。生徒10の 日本語能 力が生徒9に比べ て低 い原 因のひとつ に、生徒10が 日本 の小学校 か ら高校 まで 教育 を受 けて きて も、適切 な言語教育、 日本語指導 を受 けてこなか ったことが 尾 を引いている と考 えられる。
この他 に、 日本生 まれで、同 じく高校
2年
生の生徒11は、 ラオス語 を話す両 親 と暮 ら して きたが、生徒 11は ラオス語 がで きず、 日本語 しか話せ ない。一 方、両親 は片言 の 日本語能力 しかないため、生徒11は両親 と片言の 日本語で コ ミュニケーシ ョンを取 っているような状況である。生徒11の場合、幼少期 か ら の家庭 における言語生活環境が言語能力 に影響 を与 えている と考 え られる。生 徒 11は 16年 以上 日本 に暮 ら してお り、生徒9や
生徒10よ りも滞 日期 間は長 い が、 日本語能力では2人
よ り低 い レベルに留 まっている。この ように、 日本生 まれや幼少期 に来 日した「定住型
Jの JSL生
徒 も、長 く 滞在す れば 日本語能力 は上が る とは必ず しも言 えないのである。加 えて、 これ らの生徒 の 日本語能力の現状 を見 る と、 これ まで十分 な 日本語指導 を受 けて こ なか った こ とは明 らかである。小学校 に入学 し、 日本語 を母語 とす る 日本人の 子 ど もと同様 に、「国語」 の授業 を受 けて きた として も、それはけっ して有効な 日本語指導 にはならかなった とい うことである。
(5)」
SL生
徒 の コ ミュニケー シ ョン・ス トラテジー生徒 たちは、来 日年齢や編入学年 にかかわ らず、 日本の学校 ではほ とん ど日 本語指導 を含 む言語教育指導 を受 けて きていない。その中にあって、生徒 たち は、それ までの成育環境や性格、 日本語能力の レベルな どによって、 さまざま な コ ミュニケーシ ョン・ス トラテジーを駆使 して、 日本社会で、 また学校社会 で、意識的 に生活 して きた と言 える。
ここでは、彼 らが 日本語 を使 って 日本社会で生 き抜 くためのス トラテジーを 観 察 し、 そ の意 味 を考 えたい。以下、「聞 く・話 す」「読 むJ「 書 く」 に分 け て、記述す る。
● 聞 く 。話す
・「自分の31染 みのある話題 にかえることが多い」
―‑ 26 ‑―
。「言いたいことを、どんどん並列で並べてい く」(以上、生徒1)、
・「聞いたことを理解 していなくても
,相
手の話に合わせて「うん」 と相槌 を打つ。」。「相手の切 り出したことばに続けて文をつ くる」
。「早回の授業や、授業展開がはやい授業は、内容が理解できないとあきら めて、ウォークマ ンで音楽 をきいた り、机上で寝ていた りすることがあ る。
J(以
上、生徒 3)。「説明要素を全て言わず、動詞を並べて説明する」
・「接続詞「て
Jを
使用 して文章を終わらせる」(以上、生徒 5)。「説明をする場合、単文をどんどん並べる。」
・「自分の話や、身近な話題、得意な分野の話に話題をかえる」(以上、生 徒 9)
・「主語を省略 して話すことが多い。
J(生
徒10)・「「分か らない」 と言って、詳細な説明を拒んだ りなどし、話す力の停滞 を隠すことがで きる。」(生徒11)
・「複雑な説明が必要な場合には、「覚えていない」「わからない」 と答える ことで、論理的に説明することを避けようとする。
J(生
徒15)●読む
。「読めない漢字を文lFrkで読む」(生徒1)
・「わか らない漢字や言葉があつたときは、携帯電話の辞書で調べたり、友 達に聞 く。
J(生
徒10)●書 く
・「書 こうとする文章を口で言いながら、文字をイメージしている。」
・「漢字 を書 く時、紙にす ぐ書かず、空中で書いて確認 をしている。」(以 上、生徒 5)
。「短い文 しか書こうとせず、箇条書 きの記述が多い」(生徒7)
。「文が途中で終わる。」(生徒11)
。「話 し言葉 と同じように、単文で並べて書いてい く。」(生徒14)
・「その場面で求められる必要最低限の範囲内で済 まそうとする。
J(生
徒15)
以上のス トラテジーか ら見 えるのは、生徒 の 日本語能力 の レベルや性格 、そ れ までの成育環境 か ら、彼 ら独 自のス トラテジーを駆使 して、 コミュニケー シ ョンをとろうとしている姿である。それは、ある ときは消極 的方法 として、
またある ときは積極的 に生 き抜 く方法 として使用 していることがわか る。それ は、 まさに彼 らの生 きる力である と言 えるか もしれない。
これ まで見 て きた ように、」
SL生
徒 たちは、 自分 の意志 とは異 なる家庭 の事 情等 で国境 を越 えて「移動 して きたJ生
徒 たちであ る。その結果 として、 日本 の学校制度の中で第二言語 としての 日本語 を駆使 して学習せ ざるを得 なかった のであるが、その過程 に言語能力 を伸長す る支援が十分 に受 け られなかったこ とが、今 回の調査結果か ら読み取れる。 これ らの生徒 たちの人権 の問題 として も、 これ らの生徒の言語能力 を伸長す るための教育指導的支援が必要 なことは 明確 である。 それは、母語教育である と同時 に、 日本語教育であ る。日本語指導 については、来 日間 もない時期 に行 われる初期指導 だけでは不十 分 で、その後
5年
か ら7年
は継続的に指導 を行 うことが必要である。その よう な指導がない場合 は、学習 に参加す る学習言語能力が育成 されることは期待 で きない。今 回の調査 で 町SLバ
ン ドスケール」 の レベルが5以
下 の生徒 は、そ の困難 に直面 している生徒 たちである。その レベル を越 えるためには、教育指 導的支援が必要 なのである。7.高
校側 への提言では、以上の調査結果 と考察 を踏 まえ、高校側への提言 をまとめる。
高校側 への提言
(1)JSL生 徒 の 日本語能力 を把握 した上で、一人ひ とりにあった指導方法 を検 討す る こ とが重 要 で あ る。前述 の ように、生徒 の 日本 語 能力 は多様 で あ る。ひ とりの生徒 の中で も
4技
能 に差がある場合が多 い。 その実態 を正確 に把握す ることが、指導の前提 となる。そのことをまず理解することが必 要である。(2)その ため には、 町
SLバ
ン ドスケール」 を使 つた 日本語能力 の把握 を定期 的に行 うことが必要である。学期の始め と終わ りに、担任 をは じめ、複数 の教員が 町SLバ
ン ドスケール」 によって 日本語能力の把握 を試み、その―‑ 28 ‑―
結果 を持 ち寄 り、検討す る機会 を もつ ことが重要である。 これは、「複数 視 点 に よる 日本語能力の把握の方法」であ り、それが「複数視点 による協 働 的指導
Jに
つ ながる。(3)その うえで、母語 を含 む言語能力 を伸長するため に、長期的視野 に立 った 教育指導的支援のあ り方 について、外部の専 門家 を交 えた指導体制 を考 え る ことが望 まれる。校内 に特別委員会 を設置 し、その中で、入学時 よ り卒 業時 まで、
JSL生
徒用 の ファイル を作成 し、「JSLバ
ン ドスケールJに
よる日本語能力の記録や生徒の情報や成果 を保管 し、指導 に役立 てるシステム を構築することが望 まれる。
に)同時 に、 日本語指導だけではな く、学校全体の現行 の授業のあ り方 につい て も検討す る必要がある。 プリン トを使 った授業 は授業 を成立 させ るには 有効 だが、単語や単文 を書 き込むだけの授業では、 ことばの力がつかない だろ う。「 日本語で学ぶ力」 をつ けることが「考 える力」 の育成 につ なが る と考 え られる。
(5)JSL生 徒 に関 しては、小学校、中学校 との連携が必要である。生徒の話で は、中学校で受 けた 日本語指導が よかった とい うもの もいる し、高校の授 業 内容が中学校の方 よ り簡単である とい うもの もいる。小学校 、中学校 と 連携 をとり、生徒が高校入学前 にどの ような日本語指導 を受 け、 どの よう な 日本語学習 を進めて きたかについて情報 を入手す ることは、生徒の 日本 語能力 の把握 に も役立つ し、入学後の長期的な支援 を構築す ることに役立 つであろう。地域の全体 の中で生徒 を教育す る とい う視点が重要である。
今 回の調査 は、2005年 9月 段階の
JSL生
徒 の現状 を明 らかに したが、 これが 生徒 たちの 日本語能力 を固定的 に「評価」する ものではない。言語能力は(1)常に動いているもの (動態的
)で
あ り、(2科大況や場所 によって表 出の仕方が変わ る性質 (非均 質性)が
あ り、 さらに(3膵日手 との関係 によって異 なるとい う性質 (相互作用性)を
持 ってい る。 したが って、今回明 らかになった生徒 たちの 日 本語 能力 も、決 して静 的 な もので はな く、絶 えず変化 してい くものなのであ る。今後の教育的指導 を行 う場合、その ような視点か ら、 日本語能力 を定期的 に、かつ継続的 に把握 し、長期的な視野 にたった教育的指導 を行 うことが必要 である。8.結
語今 回の調査 か ら高校 レベ ルの
JSL生
徒 の 日本語能力 について まとめ る と、以 下 の5点
となる。(1)幼少 の頃 に来 日し滞 日10年 以上の「定住型」 のJSL生
徒 で も、 日本語の4技
能 にア ンバ ラ ンスがあ ること、(2)単文 を多用する反面、複文 を使 った論理的な説明は不慣れで、聞 き手 に文脈的に依存 した会話 を頻繁 にす るこ と、(3)未習の漢字や単語 は類推 で理解す るな ど、多様 なコ ミュニケー シ ョ ン・ス トラテジー を使用 していること、(4)滞 日5年
以下の生徒 の場合、4技
能 が「JSLバ
ン ドスケールJの
レベ ル3か
ら 5と 低迷 している例が多 く、母語力 が未発達 な小学生 レベルの子 どもに比べ、母語力が しつか りしている中学生以 上 の子 どもの場合 は母語 による概念理解がで きているゆえに日本語習得 も早い とい う考 えは、必ず しも妥当ではない こと、(5)その背景 に、母語教育や母語 に よる学習経験、家庭内の母語 を含 む言語生活環境、中学 までの 日本語指導が影 響 してい る と思 われるこ とな どが わか った。 したが って、 どのJSL生
徒 に も、教育指導的支援が必要であることが判明 した。
この調査結果 については高校 で「報告会
Jも
行 われ、JSL生
徒へ の教育 のあ り方 について全教職員 と協議 を重ねた。その中で見 えて きたことは、小 中学校 との連携や長期 的な 日本語指導の必要性、お よび高校 における日本語指導の方 法や通常授業 の見直 し、高校教員のJSL生
徒へ の理解 な どの課題 であ る。本稿 は、高校 レベルのJSL生
徒 の 日本語能力 の実態 を明示 し、かつその背景 にあ る こ とが らを明 らかに したことにより、 これ らのJSL生
徒 の課題 が高校 レベ ル に 限定 されるとい うよ りは、小 中学校 レベルの 日本語教育のあ り方 と合 わせ て考 える ことが必要であることを示唆す る。その点で、年少者 日本語教育の実践研 究 の視野 の拡大 を提起す る。注
(1)本調査は、愛川高校 (廣田克己校長
)か
ら 阿SLバン ドスケール」 を使 った調査の 依頼 を受けて行われたが、生徒たちを含 む高校側の全面的な協力があっては じめて可 能 となった。記 して、謝意 を申 し上げる。なお調査 は、筆者のほかに、池上摩希子、広崎純子、坂田麗子、国府田晶子、山田裕子、荻野裕子、藪本容子、渡辺千奈津、青 木優子、裔
立再、山崎遼子、計12名で行われた。
―‑ 30 ‑―
付記
本稿 は2005年度文部科学省科学研究助成・基盤研究(BX2)「研究課題:年少者 日本語教 育 における日本語教材、教授法お よび教育行政 システム構築に関する研究J(代表
川 上郁雄、課題番号 :16320067)の 成果の一部である。
参考文献
川上郁雄 (2003)「年少者 日本語教育における「日本語能力測定
Jに
関する観点 と方法J『早稲田大学 日本語教育研究』2、 pp l 16早稲田大学大学院日本語教育研究科. 川上郁雄 (2003)「年少者 日本語学習者の 日本語能力測定の方法
JSLバ
ン ドスケールの試みJ『 2003年度 日本語教育学会秋季大会予稿集』pp 125 130日 本語教育学 会.
川上郁雄 (2004)「子 どもの日本語能力の とらえ方」(新時代の 日本語教育 をめざして一 早稲 田大学大学院 日本語教育科の取 り組み・第 7回)『日本語学』10月号Vd 23, pp 80‑91 明,台書院.
川上郁雄 (2005)「言語能力観か ら日本語教育のあ り方 を考 える」『リテラシーズ1』
pp3 18く ろしお出版.
川上郁雄 (2005)阿SLバン ドスケールを使 った言語能力の把握一一年少者 日本語教育 の実践研究 としてJ『2005年度 日本語教育学会春季大会予稿集』pp 143 148日本語 教育学会.
川上郁雄 ・石井恵理子・池上摩希子
齋藤 ひろみ・野山広 (2004)「年少者 日本語教育 学の構築へ向けて一― 『日本語指導が必要な子 どもたち』 を問い直すJ『2004年度
日本語教育学会春季大会予稿集』pp 273 284日本語教育学会.
広崎純子 (2002)「者6立高校 におけるニューカマーの生徒への対応J『早稲田大学大学院 教育研究科紀要』pp 35 45別冊、第 9号一.
早稲田大学大学院 日本語教育研究科年少者 日本語教育研究室編 (2005)『愛川高校「日 本語能力調査」報告書』早稲 田大学大学院 日本語教育研究科.