髙橋孝輔 論文内容の要旨
主 論 文
Predictive factor of recurrence after endoscopic papillectomy for ampullary neoplasms
十二指腸乳頭部腫瘍に対する内視鏡的乳頭部切除術後の再発予測因子
髙橋孝輔、小澤栄介、安田一朗、小松直広、宮明寿光、大仁田賢、山尾拓史、
大場一生、市川辰樹、中尾一彦
Journal of Hepato-Biliary-Pancreatic Sciences, 28(7), 625-634, 2021.
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻
(主任指導教員:中尾一彦教授)
緒 言
十二指腸乳頭部腫瘍の治療において、以前は膵頭十二指腸切除術(PD)が施行されて いたが、侵襲性の高さが問題視されていた。内視鏡的乳頭部切除術(EP)は十二指腸乳 頭部腫瘍に対する局所切除術の一つであり、乳頭部腺腫(Ampullary adenoma: AA)に おいては PD に代わる治療法として広く受け入れられている。乳頭部腺癌(Ampullary adenocarcinoma: AC)においては、胆道癌取扱い規約第6版の T 分類で T1b(Oddi 筋 に達する)より深達度が進んだ AC に対しては治療として PD が推奨される。一方で、
リンパ節転移率が極めて低い Tis(上皮内癌)や T1a(粘膜内限局)AC は EP で根治が 得られる可能性が高いものの、治療方針に関していまだに結論が定まっていない。そ の原因として EP 後の短期成績の報告が散見される一方で、再発や長期予後について 十分に検討されていないことが挙げられる。したがって、本研究では EP 後の乳頭部 腫瘍の再発予測因子を明らかにすることを目的とした。さらに、再発病変に対する再 治療とその成績、長期予後について検討した。
対象と方法
2000 年 1 月 1 日から 2018 年 10 月 31 日の間に佐世保市総合医療センター(SGH)、長
崎みなとメディカルセンター(NHC)、当院(NUH)、JCHO 諫早総合病院(IGH)で十二指腸 乳頭部腫瘍に対して EP を施行した 129 例(SGH 73, NHC 35, NUH 16, IGH 5))のうち、
非腫瘍性病変などを除き経過観察可能であった AA 62 例、早期 AC 34 例を対象とした。
各施設における EP の適応基準は、露出腫瘤型の AA あるいは胆管・膵管内進展陰性の AC としている。「完全切除」は切除標本の水平断端(Horizontal margin:HM)および 垂直断端(Vertical margin:VM)陰性が顕微鏡的に証明された症例と定義した。「遺 残病変」は病理所見によらず、EP1週間後の内視鏡検査で肉眼的あるいは生検によっ て病理学的に証明された腫瘍とし、遺残病変がなく経過観察中に新たな病変が出現し た症例を「再発」と定義した。本研究の病理組織学的所見は胆道癌取扱い規約第6版 に準拠した。HM および VM の評価は 0(断端陰性)、1(断端陽性)、X(断端不明瞭)
と定義した。EP 後は 1 週間、1 ヶ月、3 ヶ月、6 ヶ月、1 年後、以後は 1 年毎の内視鏡 による経過観察が予定された。EP 後の再発率と再発後の臨床転機、再発予測因子につ いて解析した。
結 果
病変径中央値は 12mm で、93 例(96.9%)が一括切除であった。HM0 および VM0 は、
それぞれ 84 例(87.5%)、82 例(85.4%)であった。HM0 かつ VM0 であった完全切除 例は 79 例(82.3%)であった。AC においては,Tis が 6 例,T1a が 24 例,T1b が 3 例,残り 1 例は不明、であった。初回 EP 後の経過観察期間中央値は 55 カ月(範囲:
6 カ月~216 カ月)で、再発は 13 例(13.5%)(AA 10 例、AC 3 例)に認められ、T1b AC を除く全例が局所再発であった。再発 13 症例のうち 2 例は分割切除で、切除断端 に関しては HMX 3 例,VMX 3 例、VM1 3 例であった。再発期間中央値は 3 ヵ月(範囲:
1〜36 ヵ月)であった。局所再発 13 例のうち、11 例は内視鏡治療(10 例:追加 EP、
1 例:アルゴンプラズマ焼灼凝固)、1 例は PD を施行し、以後再発・原病死は認めな かった。1 例は初回 EP 時に分割切除となり、T1b AC で HM0 であったため、外科手術 を推奨したが本人の手術拒否により経過観察となった。EP 15 ヶ月後に乳頭部、肝臓、
肺に再発を認め、EP 20 ヶ月後に死亡した。EP 後再発因子に関しては、単変量解析で 分割切除、HM1、HMX、VM1 および VMX が抽出された。多変量解析の結果、VM1(HR = 12.23, 95% CI, 3.01-49.66, P ≤ .001)と VMX(HR = 5.84, 95% CI, 1.09-31.32, P = .039)
が EP 後再発の独立予測因子であった。
考 察
切除標本の VM 非陰性は,EP 後再発の独立した予測因子であった.したがって、完全 切除に至らなかった症例に対して慎重な経過観察が必要である。また、AA、Tis AC および T1a AC の再発はいずれも局所再発であり、追加治療によって全例局所制御可 能であった。EP は,AA に対する安全かつ有効な治療アプローチであり,Tis および T1a AC に対しても実施可能であると考えられた。