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る しかしながら いずれの場合も 系の複雑さや刺激応答性の低さが原因で 遮光用材料としての利用は進んでいない そのため 異なるアプローチで遮光性制御材料を開発する必要がある 複屈折は 光の偏光軸毎の屈折率に差 ( 異方性 ) が生じることで発現する 複屈折を示すフィルムを2 枚の直交させた偏光子の間

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Abstract:

We studied the birefringence control of poly(methyl methacrylate) (PMMA) containing azobenzene by photo-isomerization using ultraviolet (UV) / visible lights, for automatic control of light transparency in residential windows. Irradiation of UV light (360 nm) to PMMA/azobenzene film reduces the orientation birefringence. The visible white light recovers the birefringence to the initial value. Fourier-transformed infrared (FT-IR) spectroscopy reveals that UV / visible while lights reversely transform the azobenzene molecule between trans and cis. IR dichroic ratio represents that degrees of orientation for PMMA, trans- and cis-azobenzenes exhibit constant values during the photo-isomerization. From these results, we concluded that the phot-isomerization of azobenzene generates the reversible birefringence change of PMMA stretched films. The photo-induced birefringence change can be applied for automatic adjustment of light shielding ability for optical films. 1.はじめに 光シャッターや遮光フィルムは、光の透過量を調節するために用いられる。例えば、マトリック ス中に分散した液晶の液滴を外部電場により配向させることで光透過量を制御する、高分子分散型 液晶が開発されている1,2)。また、温度変化により生じる相分離構造も光透過性の制御に利用され

光照射強度に応じて遮光性を調節する

窓用ポリマーフィルムの開発

信川 省吾

(名古屋工業大学)

Development of polymeric window films with automatic

control of transparency in response to light intensity

Shogo Nobukawa

(Nagoya Institute of Technology)

〈一般研究課題〉 光照射強度に応じて遮光性を調節する

窓用ポリマーフィルムの開発 助 成 研 究 者 名古屋工業大学  信川 省吾

(2)

る。しかしながら、いずれの場合も、系の複雑さや刺激応答性の低さが原因で、遮光用材料として の利用は進んでいない。そのため、異なるアプローチで遮光性制御材料を開発する必要がある。 複屈折は、光の偏光軸毎の屈折率に差(異方性)が生じることで発現する。複屈折を示すフィルム を2枚の直交させた偏光子の間に挿入すると、その複屈折の大きさに応じて光の透過量を制御する ことが可能である(図1)。すなわち、透明材料の複屈折を変化させることができれば、遮光性の制 御も可能となる。なお、この原理は、液晶ディスプレイなどの表示素子に利用されている。 ポリメタクリル酸メチル(PMMA)やポリカーボネート(PC)などの透明高分子材料は、成形性、 柔軟性に優れるため、光学フィルムに用いられている。高分子フィルムにおける複屈折は、分子鎖 の配向度と繰り返し単位の分極率異方性で決定されるため、添加剤や異種高分子をブレンドするこ とで、複屈折の制御を行っている。特に、低分子は高分子との相溶性に優れるため、様々な種類の 低分子を用いた複屈折制御が検討されている。例えば、小池らはスチルベン等の低分子化合物を PMMAに添加することで、複屈折をゼロにすることが可能であると報告している3)。また、我々は セルロースエステルにエステル系化合物を添加することで、複屈折の値を3倍に増大させることに 成功している4-7)。このような複屈折制御は、分子間の配向相関(ネマチック相互作用)により、低分 子が周囲のPMMAの主鎖と協同的に配向することで可能となる8,9) 一方、ひずみや温度、光などの外部刺激に応答し、色や形状、硬さなどの物性を変化させる高機 能性材料が数多く開発されている。例えば、池田らは、アゾベンゼンを側鎖にもつ高分子(アゾ高 分子)のフィルムに、偏光紫外(UV)光を照射すると、図2のようにアゾベンゼンがtrans体からcis体 へ異性化するため、体積の異方的な収縮が生じ、フィルムが屈曲することを報告している10,11) アゾ高分子フィルムの屈曲はアゾベンゼンの構造変化と配向状態が密接に関係している。つま しかしながら、いずれの場合も、系の複雑さや刺激応答性の低さが原因で、遮光用材料としての利 用は進んでいない。そのため、異なるアプローチで遮光性制御材料を開発する必要がある。 複屈折は、光の偏光軸毎の屈折率に差(異方性)が生じることで発現する。複屈折を示すフィル ムを2枚の直交させた偏光子の間に挿入すると、その複屈折の大きさに応じて光の透過量を制御す ることが可能である(図 1)。すなわち、透明材料の複屈折を変化させることができれば、遮光性の 制御も可能となる。なお、この原理は、液晶ディスプレイなどの表示素子に利用されている。 図 1.複屈折と光透過率の関係 ポリメタクリル酸メチル(PMMA)やポリカーボネート(PC)などの透明高分子材料は、成形性、 柔軟性に優れるため、光学フィルムに用いられている。高分子フィルムにおける複屈折は、分子鎖 の配向度と繰り返し単位の分極率異方性で決定されるため、添加剤や異種高分子をブレンドするこ とで、複屈折の制御を行っている。特に、低分子は高分子との相溶性に優れるため、様々な種類の 低分子を用いた複屈折制御が検討されている。例えば、小池らはスチルベン等の低分子化合物をポ リメタクリル酸メチル(PMMA)に添加することで、複屈折をゼロにすることが可能であると報告して いる 3)。また、我々はセルロースエステルにエステル系化合物を添加することで、複屈折の値を3 倍に増大させることに成功している4-7)。このような複屈折制御は、分子間の配向相関(ネマチック 相互作用)により、低分子が周囲の PMMA の主鎖と協同的に配向することで可能となる8,9) 一方、ひずみや温度、光などの外部刺激に応答し、色や形状、硬さなどの物性を変化させる高機 能性材料が数多く開発されている。例えば、池田らは、アゾベンゼンを側鎖にもつ高分子(アゾ高

分子)のフィルムに、偏光紫外(UV)光を照射すると、図 2 のようにアゾベンゼンがtrans体からcis

体へ異性化するため、体積の異方的な収縮が生じ、フィルムが屈曲することを報告している10,11) 図 2.アゾベンゼンの光異性化 しかしながら、いずれの場合も、系の複雑さや刺激応答性の低さが原因で、遮光用材料としての利 用は進んでいない。そのため、異なるアプローチで遮光性制御材料を開発する必要がある。 複屈折は、光の偏光軸毎の屈折率に差(異方性)が生じることで発現する。複屈折を示すフィル ムを2枚の直交させた偏光子の間に挿入すると、その複屈折の大きさに応じて光の透過量を制御す ることが可能である(図 1)。すなわち、透明材料の複屈折を変化させることができれば、遮光性の 制御も可能となる。なお、この原理は、液晶ディスプレイなどの表示素子に利用されている。 図 1.複屈折と光透過率の関係 ポリメタクリル酸メチル(PMMA)やポリカーボネート(PC)などの透明高分子材料は、成形性、 柔軟性に優れるため、光学フィルムに用いられている。高分子フィルムにおける複屈折は、分子鎖 の配向度と繰り返し単位の分極率異方性で決定されるため、添加剤や異種高分子をブレンドするこ とで、複屈折の制御を行っている。特に、低分子は高分子との相溶性に優れるため、様々な種類の 低分子を用いた複屈折制御が検討されている。例えば、小池らはスチルベン等の低分子化合物をポ リメタクリル酸メチル(PMMA)に添加することで、複屈折をゼロにすることが可能であると報告して いる 3)。また、我々はセルロースエステルにエステル系化合物を添加することで、複屈折の値を3 倍に増大させることに成功している4-7)。このような複屈折制御は、分子間の配向相関(ネマチック 相互作用)により、低分子が周囲の PMMA の主鎖と協同的に配向することで可能となる8,9) 一方、ひずみや温度、光などの外部刺激に応答し、色や形状、硬さなどの物性を変化させる高機 能性材料が数多く開発されている。例えば、池田らは、アゾベンゼンを側鎖にもつ高分子(アゾ高

分子)のフィルムに、偏光紫外(UV)光を照射すると、図 2 のようにアゾベンゼンがtrans体からcis

体へ異性化するため、体積の異方的な収縮が生じ、フィルムが屈曲することを報告している10,11)

図 2.アゾベンゼンの光異性化

図1.複屈折と光透過率の関係

(3)

屈折を制御できる可能性がある。この時、偏光板を組み合わせることで、光透過性(遮光性)制御へ の応用にもつながる。以上を踏まえ、本研究では光異性化するアゾベンゼンをPMMAに添加し、 紫外(UV)光照射による複屈折制御の可能性を検討した。また、光応答性を評価するため、光異性 化と複屈折変化の関係についても調査した。 2.試料および実験方法 ポリメタクリル酸メチル(PMMA)(Mw = 120,000 by GPC)、アゾベンゼン、ジクロロメタンは購 入したものをそのまま用いた。ジクロロメタン中でPMMAとアゾベンゼン(0 - 10 phr,1 phrは PMMA 100 gに対して1 g)を溶液混合した後、溶液キャスト法により、フィルム状試料を得た。そ の後、80 ℃ で真空乾燥を行い、溶媒を完全に除去し、厚み300および60 μmのフィルムを得た。 加熱延伸機を用いて、各フィルムを2.0倍に延伸した。加熱延伸は、ひずみ速度は0.05 s-1、貯蔵弾 性率が100 MPaとなる温度で実施した。なお、図4に示すように、延伸前後において、全てのフィ ルムは透明であった。

調製したフィルムの粘弾性特性を調査するために、DMS6100(Seiko Instruments, Inc.)を用いて、 動的粘弾性測定を行った。温度範囲は25-150 ℃、2 ℃ /minの昇温速度で、各試料の引張貯蔵弾性 率 (E’)、損失正接(tan δ)の温度依存性を測定した。 He-Neレーザー(632.8 nm)を用いたセナルモン法により、延伸フィルムの複屈折を評価した。 フィルター (365 nm ± 10 nm)を取りつけたUVスポット光源 L9566-02A (浜松ホトニクス)、お よびメタルハライドファイバー光源 MH-100(DOLAN-JENNER)を用い、UV光、可視光を所定の 時間、フィルムに照射した後、複屈折と赤外吸収スペクトルを測定し、アゾベンゼンの光異性化と 配向状態を評価した。なお、光照射によるフィルム形状変化は確認されなかった。 3 アゾ高分子フィルムの屈曲はアゾベンゼンの構造変化と配向状態が密接に関係している。つまり、 図 3 のように、高分子フィルム中のアゾベンゼンを光異性化させることで、フィルム全体の複屈折 を制御できる可能性がある。この時、偏光板を組み合わせることで、光透過性(遮光性)制御への 応用にもつながる。以上を踏まえ、本研究では光異性化するアゾベンゼンを PMMA に添加し、紫外(UV) 光照射による複屈折制御の可能性を検討した。また、光応答性を評価するため、光異性化と複屈折 変化の関係についても調査した。 図 3.PMMA フィルム中のアゾベンゼンの光異性化による複屈折変化 2. 試料および実験方法 ポリメタクリル酸メチル(PMMA)(Mw = 120,000 by GPC)、アゾベンゼン、ジクロロメタンは購入 したものをそのまま用いた。ジクロロメタン中で PMMA とアゾベンゼン(0 - 10 phr,1 phr は PMMA 100 g に対して 1 g)を溶液混合した後、溶液キャスト法により、フィルム状試料を得た。その後、 80 oC で真空乾燥を行い、溶媒を完全に除去し、厚み 300 および 60 μm のフィルムを得た。加熱延 伸機を用いて、各フィルムを 2.0 倍に延伸した。加熱延伸は、ひずみ速度は 0.05 s-1、貯蔵弾性率 が 100 MPa となる温度で実施した。なお、図 4 に示すように、延伸前後において、全てのフィルム は透明であった。 図 4.アゾベンゼン/PMMA フィルムの外観(高濃度ほど、オレンジに着色) (左から、PMMA、1 phr、5 phr、10 phr)

調製したフィルムの粘弾性特性を調査するために、DMS6100(Seiko Instruments, Inc.)を用いて、 動的粘弾性測定を行った。温度範囲は 25-150 ◦C、2 ◦C /min の昇温速度で、各試料の引張貯蔵弾性 率 (E')、損失正接(tan δ)の温度依存性を測定した。 He-Ne レーザー(632.8 nm)を用いたセナルモン法により、延伸フィルムの複屈折を評価した。フ ィルター (365 nm ± 10 nm)を取りつけた UV スポット光源 L9566-02A (浜松ホトニクス)、およ 3 アゾ高分子フィルムの屈曲はアゾベンゼンの構造変化と配向状態が密接に関係している。つまり、 図 3 のように、高分子フィルム中のアゾベンゼンを光異性化させることで、フィルム全体の複屈折 を制御できる可能性がある。この時、偏光板を組み合わせることで、光透過性(遮光性)制御への 応用にもつながる。以上を踏まえ、本研究では光異性化するアゾベンゼンを PMMA に添加し、紫外(UV) 光照射による複屈折制御の可能性を検討した。また、光応答性を評価するため、光異性化と複屈折 変化の関係についても調査した。 図 3.PMMA フィルム中のアゾベンゼンの光異性化による複屈折変化 2. 試料および実験方法 ポリメタクリル酸メチル(PMMA)(Mw = 120,000 by GPC)、アゾベンゼン、ジクロロメタンは購入 したものをそのまま用いた。ジクロロメタン中で PMMA とアゾベンゼン(0 - 10 phr,1 phr は PMMA 100 g に対して 1 g)を溶液混合した後、溶液キャスト法により、フィルム状試料を得た。その後、 80 oC で真空乾燥を行い、溶媒を完全に除去し、厚み 300 および 60 μm のフィルムを得た。加熱延 伸機を用いて、各フィルムを 2.0 倍に延伸した。加熱延伸は、ひずみ速度は 0.05 s-1、貯蔵弾性率 が 100 MPa となる温度で実施した。なお、図 4 に示すように、延伸前後において、全てのフィルム は透明であった。 図 4.アゾベンゼン/PMMA フィルムの外観(高濃度ほど、オレンジに着色) (左から、PMMA、1 phr、5 phr、10 phr)

調製したフィルムの粘弾性特性を調査するために、DMS6100(Seiko Instruments, Inc.)を用いて、 動的粘弾性測定を行った。温度範囲は 25-150 ◦C、2 ◦C /min の昇温速度で、各試料の引張貯蔵弾性 率 (E')、損失正接(tan δ)の温度依存性を測定した。 He-Ne レーザー(632.8 nm)を用いたセナルモン法により、延伸フィルムの複屈折を評価した。フ ィルター (365 nm ± 10 nm)を取りつけた UV スポット光源 L9566-02A (浜松ホトニクス)、およ 図3.PMMAフィルム中のアゾベンゼンの光異性化による複屈折変化 図4.アゾベンゼン/PMMAフィルムの外観(高濃度ほど、オレンジに着色) (左から、PMMA、1 phr、5 phr、10 phr)

(4)

3.実験結果 3.1 動力学特性 PMMA/アゾベンゼンフィルムの動的粘弾性測定(DMA)を行い、相溶性を調査した。PMMA、 PMMA/アゾベンゼン(1, 5 phr)フィルムの貯蔵弾性率(E’)、損失正接(tan δ)の温度依存性を図5に 示す。いずれの試料でも、E’が急激に低下するガラス転移温度(Tg)が観測され、その温度はアゾ ベンゼンの添加量が多いほど低くなった。Tgの低下は可塑化と呼ばれ、一般に、高分子に低分子 を添加すると観測される現象である。各試料の損失弾性率(E”)のα分散のピーク温度をガラス転移 温度(Tg)と定義し、ガラス転移温度(Tg)と延伸温度(E’ =100 MPa)を図6に示す。可塑化の程度はア ゾベンゼンの濃度とともに増大し、5 phr以降で一定値となった。アゾベンゼン添加後も測定の温 度範囲において新たな力学分散が現れていないことを考慮すると、1 ‐ 5 phrの温度範囲では相溶 しているが、5 phr以上では相溶性が低下すると考えられる。 3.2 光照射によるPMMA/アゾベンゼン延伸フィルムの複屈折変化

PMMA/アゾベンゼンフィルムの複屈折は次式のように、3成分(PMMA, trans-アゾベンゼン, cis-アゾベンゼン)の和で与えられる。 4 びメタルハライドファイバー光源 MH-100(DOLAN-JENNER)を用い、UV 光、可視光を所定の時間、フ ィルムに照射した後、複屈折と赤外吸収スペクトルを測定し、アゾベンゼンの光異性化と配向状態 を評価した。なお、光照射によるフィルム形状変化は確認されなかった。 3. 実験結果 3.1 動力学特性 PMMA/アゾベンゼンフィルムの動的粘弾性測定(DMA)を行い、相溶性を調査した。PMMA、PMMA/ア ゾベンゼン(1, 5 phr)フィルムの貯蔵弾性率(E')、損失正接(tan δ)の温度依存性を図 5 に示す。 いずれの試料でも、E'が急激に低下するガラス転移温度(Tg)が観測され、その温度はアゾベンゼ ンの添加量が多いほど低くなった。Tg の低下は可塑化と呼ばれ、一般に、高分子に低分子を添加す ると観測される現象である。各試料の損失弾性率(E”)のα分散のピーク温度をガラス転移温度(Tg) と定義し、ガラス転移温度(Tg)と延伸温度(E' =100 MPa)を図 6 に示す。可塑化の程度はアゾベンゼ ンの濃度とともに増大し、5 phr 以降で一定値となった。アゾベンゼン添加後も測定の温度範囲に おいて新たな力学分散が現れていないことを考慮すると、1‐5 phr の温度範囲では相溶しているが、 5 phr 以上では相溶性が低下すると考えられる。 6 7 8 9 10 -2 -1 0 1 2 0 50 100 150 PMMA 1 phr 5 phr Lo g [ E' / Pa] log [ tan δ] Tempreature / oC 10 Hz E' tan δ α 図 5.PMMA,PMMA/アゾベンゼンフィルムの 動力学特性 70 80 90 100 110 120 0 2 4 6 8 10 T g , T dra w ( o C) Azobenzen content (phr) Tg Tdraw 図 6.PMMA /アゾベンゼンフィルムの ガラス転移温度(Tg)と延伸温度(Tdraw) 3.2 光照射による PMMA/アゾベンゼン延伸フィルムの複屈折変化

PMMA/アゾベンゼンフィルムの複屈折は次式のように、3 成分(PMMA, trans-アゾベンゼン, cis

-アゾベンゼン)の和で与えられる。 cis trans azo cis trans trans azo trans PMMA PMMA PMMA

F

n

X

F

n

X

F

n

n

=

0

+

0

+

0

(

1

)

φ

φ

φ

(1) ここで、∆n0φFは固有複屈折、体積分率、配向度であり、X

transはtrans体の割合である。PMMA/

アゾベンゼンフィルムの複屈折を図 7 に示す。アゾベンゼン添加量が増えるにつれて、負の複屈折 ここで、∆n0、φ、Fは固有複屈折、体積分率、配向度であり、X transtrans体の割合である。 PMMA/アゾベンゼンフィルムの複屈折を図7に示す。アゾベンゼン添加量が増えるにつれて、負 の複屈折は正に変化した。UV光照射前は、アゾベンゼンはほぼtrans体で存在している。さらに、 分子構造を踏まえると、transアゾベンゼンは正の複屈折を有するため、PMMA鎖と同様、延伸方 向に配向していることがわかる。また、延伸フィルムに紫外光を30分間照射すると、アゾベンゼ ンを添加した系では複屈折が低下した。UV光によるtrans-cis異性化が複屈折を変化させたと考えら 図5.PMMA,PMMA/アゾベンゼンフィルムの 動力学特性 図6.PMMA /アゾベンゼンフィルムのガラス転移温度(Tg)と延伸温度(Tdraw) 4 びメタルハライドファイバー光源 MH-100(DOLAN-JENNER)を用い、UV 光、可視光を所定の時間、フ ィルムに照射した後、複屈折と赤外吸収スペクトルを測定し、アゾベンゼンの光異性化と配向状態 を評価した。なお、光照射によるフィルム形状変化は確認されなかった。 3. 実験結果 3.1 動力学特性 PMMA/アゾベンゼンフィルムの動的粘弾性測定(DMA)を行い、相溶性を調査した。PMMA、PMMA/ア ゾベンゼン(1, 5 phr)フィルムの貯蔵弾性率(E')、損失正接(tan δ)の温度依存性を図 5 に示す。 いずれの試料でも、E'が急激に低下するガラス転移温度(Tg)が観測され、その温度はアゾベンゼ ンの添加量が多いほど低くなった。Tg の低下は可塑化と呼ばれ、一般に、高分子に低分子を添加す ると観測される現象である。各試料の損失弾性率(E”)のα分散のピーク温度をガラス転移温度(Tg) と定義し、ガラス転移温度(Tg)と延伸温度(E' =100 MPa)を図 6 に示す。可塑化の程度はアゾベンゼ ンの濃度とともに増大し、5 phr 以降で一定値となった。アゾベンゼン添加後も測定の温度範囲に おいて新たな力学分散が現れていないことを考慮すると、1‐5 phr の温度範囲では相溶しているが、 5 phr 以上では相溶性が低下すると考えられる。 6 7 8 9 10 -2 -1 0 1 2 0 50 100 150 PMMA 1 phr 5 phr Lo g [ E' / Pa] log [ tan δ] Tempreature / oC 10 Hz E' tan δ α 図 5.PMMA,PMMA/アゾベンゼンフィルムの 動力学特性 70 80 90 100 110 120 0 2 4 6 8 10 T g , T dra w ( o C) Azobenzen content (phr) Tg Tdraw 図 6.PMMA /アゾベンゼンフィルムの ガラス転移温度(Tg)と延伸温度(Tdraw) 3.2 光照射による PMMA/アゾベンゼン延伸フィルムの複屈折変化

PMMA/アゾベンゼンフィルムの複屈折は次式のように、3 成分(PMMA, trans-アゾベンゼン, cis

-アゾベンゼン)の和で与えられる。 cis trans azo cis trans trans azo trans PMMA PMMA PMMA

F

n

X

F

n

X

F

n

n

=

0

+

0

+

0

(

1

)

φ

φ

φ

(1) ここで、∆n0φFは固有複屈折、体積分率、配向度であり、X

transはtrans体の割合である。PMMA/

(5)

3.3 PMMA/アゾベンゼン延伸フィルムの複屈折変化と光異性化速度 PMMA/アゾベンゼン(1, 5 phr)における、UV/可視光照射時の複屈折の時間(t)依存性を図8に示 す。UV光照射により複屈折は減少し、可視光により元の値へと回復することがわかる。図中の実 線は次式の単一の指数関数を用いてフィッティングを行った結果である。 5 は正に変化した。UV 光照射前は、アゾベンゼンはほぼtrans体で存在している。さらに、分子構造 を踏まえると、transアゾベンゼンは正の複屈折を有するため、PMMA 鎖と同様、延伸方向に配向し ていることがわかる。また、延伸フィルムに紫外光を 30 分間照射すると、アゾベンゼンを添加した

系では複屈折が低下した。UV 光によるtrans-cis異性化が複屈折を変化させたと考えられる。

-15 -10 -5 0 5 10 0 2 4 6 8 10 ∆n x 1 0 4 Azobenzen content (phr)

after UV light irradiation (30 min) stretched PMMA/azobenzene film

図 7.UV 光照射前後の PMMA/アゾベンゼン延伸フィルムの配向複屈折変化 3.3 PMMA/アゾベンゼン延伸フィルムの複屈折変化と光異性化速度 PMMA/アゾベンゼン(1, 5 phr)における、UV/可視光照射時の複屈折の時間(t)依存性を図 8 に示 す。UV 光照射により複屈折は減少し、可視光により元の値へと回復することがわかる。図中の実線 は次式の単一の指数関数を用いてフィッティングを行った結果である。

B

t

A

n

=

+

exp(

/

τ

)

(2) AB はフィッティングパラメータであり、τは複屈折変化の特性時間である。5 phr の場合、τuv、 τvisはそれぞれ 3.9、4.1 min であった。 アゾベンゼンの異性化を追跡するため、赤外吸収スペクトルの時間変化を調べた。所定の時間 UV 光を照射した後の PMMA/アゾベンゼン(5 phr)フィルムの赤外吸収スペクトルを図 9 に示す。照射時 間とともにtrans体由来の 695 cm−1のピークが減少し、cis体由来の 705 cm−1のピークが増大する ことがわかる。各スペクトルを 2 つのローレンツ型関数の和としてピーク分離し、次式からtrans 体の割合Xtransを見積もった。

d

X

c

A

d

X

c

A

trans azo cis cis trans azo trans trans

)

1

( −

=

=

ε

ε

(3) A、ε、c、d はそれぞれ吸光度、モル吸光係数、アゾベンゼン濃度、フィルム厚である。なお、全

て時間でAtrans + (εtrans / εcis) Acisが一定となると仮定した。得られたXtransを図 10 に示す。Xtrans

の時間変化は複屈折とよく一致していることがわかる。実際に、UV/可視光照射時の特性時間は 4.0/5.0 min と見積もられ、複屈折変化と近い値を示した。

A、Bはフィッティングパラメータであり、τは複屈折変化の特性時間である。5 phrの場合、 τuv、τvisはそれぞれ3.9、4.1 minであった。

アゾベンゼンの異性化を追跡するため、赤外吸収スペクトルの時間変化を調べた。所定の時間 UV光を照射した後のPMMA/アゾベンゼン(5 phr)フィルムの赤外吸収スペクトルを図9に示す。照 射時間とともにtrans体由来の695 cm−1のピークが減少し、cis体由来の705 cm−1のピークが増大す ることがわかる。各スペクトルを2つのローレンツ型関数の和としてピーク分離し、次式からtrans 体の割合Xtransを見積もった。 5 は正に変化した。UV 光照射前は、アゾベンゼンはほぼtrans体で存在している。さらに、分子構造 を踏まえると、transアゾベンゼンは正の複屈折を有するため、PMMA 鎖と同様、延伸方向に配向し ていることがわかる。また、延伸フィルムに紫外光を 30 分間照射すると、アゾベンゼンを添加した

系では複屈折が低下した。UV 光によるtrans-cis異性化が複屈折を変化させたと考えられる。

-15 -10 -5 0 5 10 0 2 4 6 8 10 ∆n x 1 0 4 Azobenzen content (phr)

after UV light irradiation (30 min) stretched PMMA/azobenzene film

図 7.UV 光照射前後の PMMA/アゾベンゼン延伸フィルムの配向複屈折変化 3.3 PMMA/アゾベンゼン延伸フィルムの複屈折変化と光異性化速度 PMMA/アゾベンゼン(1, 5 phr)における、UV/可視光照射時の複屈折の時間(t)依存性を図 8 に示 す。UV 光照射により複屈折は減少し、可視光により元の値へと回復することがわかる。図中の実線 は次式の単一の指数関数を用いてフィッティングを行った結果である。

B

t

A

n

=

+

exp(

/

τ

)

(2) AB はフィッティングパラメータであり、τは複屈折変化の特性時間である。5 phr の場合、τuv、 τvisはそれぞれ 3.9、4.1 min であった。 アゾベンゼンの異性化を追跡するため、赤外吸収スペクトルの時間変化を調べた。所定の時間 UV 光を照射した後の PMMA/アゾベンゼン(5 phr)フィルムの赤外吸収スペクトルを図 9 に示す。照射時 間とともにtrans体由来の 695 cm−1のピークが減少し、cis体由来の 705 cm−1のピークが増大する ことがわかる。各スペクトルを 2 つのローレンツ型関数の和としてピーク分離し、次式からtrans 体の割合Xtransを見積もった。

d

X

c

A

d

X

c

A

trans azo cis cis trans azo trans trans

)

1

( −

=

=

ε

ε

(3) A、ε、c、d はそれぞれ吸光度、モル吸光係数、アゾベンゼン濃度、フィルム厚である。なお、全

て時間でAtrans + (εtrans / εcis) Acisが一定となると仮定した。得られたXtransを図 10 に示す。Xtrans

の時間変化は複屈折とよく一致していることがわかる。実際に、UV/可視光照射時の特性時間は 4.0/5.0 min と見積もられ、複屈折変化と近い値を示した。

A、ε、c、dはそれぞれ吸光度、モル吸光係数、アゾベンゼン濃度、フィルム厚である。なお、全 て時間でAtrans + (εtrans / εcis) Acisが一定となると仮定した。得られたXtransを図10に示す。Xtransの時間変

化は複屈折とよく一致していることがわかる。実際に、UV/可視光照射時の特性時間は4.0/5.0 minと見積もられ、複屈折変化と近い値を示した。 5 は正に変化した。UV 光照射前は、アゾベンゼンはほぼtrans体で存在している。さらに、分子構造 を踏まえると、transアゾベンゼンは正の複屈折を有するため、PMMA 鎖と同様、延伸方向に配向し ていることがわかる。また、延伸フィルムに紫外光を 30 分間照射すると、アゾベンゼンを添加した

系では複屈折が低下した。UV 光によるtrans-cis異性化が複屈折を変化させたと考えられる。

-15 -10 -5 0 5 10 0 2 4 6 8 10 ∆n x 1 0 4 Azobenzen content (phr)

after UV light irradiation (30 min) stretched PMMA/azobenzene film

図 7.UV 光照射前後の PMMA/アゾベンゼン延伸フィルムの配向複屈折変化 3.3 PMMA/アゾベンゼン延伸フィルムの複屈折変化と光異性化速度 PMMA/アゾベンゼン(1, 5 phr)における、UV/可視光照射時の複屈折の時間(t)依存性を図 8 に示 す。UV 光照射により複屈折は減少し、可視光により元の値へと回復することがわかる。図中の実線 は次式の単一の指数関数を用いてフィッティングを行った結果である。

B

t

A

n

=

+

exp(

/

τ

)

(2) AB はフィッティングパラメータであり、τは複屈折変化の特性時間である。5 phr の場合、τuv、 τvisはそれぞれ 3.9、4.1 min であった。 アゾベンゼンの異性化を追跡するため、赤外吸収スペクトルの時間変化を調べた。所定の時間 UV 光を照射した後の PMMA/アゾベンゼン(5 phr)フィルムの赤外吸収スペクトルを図 9 に示す。照射時 間とともにtrans体由来の 695 cm−1のピークが減少し、cis体由来の 705 cm−1のピークが増大する ことがわかる。各スペクトルを 2 つのローレンツ型関数の和としてピーク分離し、次式からtrans 体の割合Xtransを見積もった。

d

X

c

A

d

X

c

A

trans azo cis cis trans azo trans trans

)

1

( −

=

=

ε

ε

(3) A、ε、c、d はそれぞれ吸光度、モル吸光係数、アゾベンゼン濃度、フィルム厚である。なお、全

て時間でAtrans + (εtrans / εcis) Acisが一定となると仮定した。得られたXtransを図 10 に示す。Xtrans

の時間変化は複屈折とよく一致していることがわかる。実際に、UV/可視光照射時の特性時間は 4.0/5.0 min と見積もられ、複屈折変化と近い値を示した。

(6)

3.4 PMMA延伸フィルム中のアゾベンゼンの光異性化と配向状態 光異性化によるアゾベンゼンの配向状態の変化について調査するため、偏光板を用いた赤外吸収 スペクトル測定を行った。測定により得られた延伸方向と垂直方向の吸光度の比(赤外二色比,  A││/A⊥)からPMMAおよびアゾベンゼンの配向度を評価した。その結果を図11に示す。750 cm-1 吸収ピークはPMMAのα-メチル基の変角振動に由来する。PMMA、trans体、cis体のピークは、い ずれも偏光子の角度によって大きさが異なっており、それぞれの遷移モーメントが配向しているこ とがわかる。 -5 -4 -3 -2 -1 0 0 15 30 45 60 75 90 ∆n x 1 0 4 time / min 5 phr

UV light visible white light

1 phr 図 8.UV/可視光照射時の PMMA/アゾベンゼン フィルムの複屈折変化 670 680 690 700 710 720 0 min 1 min 5 min 15 min 45 min 0.04 0.08 0.12 0.16 0.20 Wavenumber / cm-1 Abs or ban ce irradiation of UV light 5 phr 図 9.UV 光照射による PMMA/アゾベンゼンフ ィルムの赤外スペクトル変化 -3 -2 -1 0 1 2 0 20 40 60 80 100 0 15 30 45 60 75 90

∆n

x 1

0

4

X

trans

/ %

time / min

Xtrans

∆n

5 phr

UV light visible light

図 10.UV/可視光照射時の PMMA/アゾベンゼンフィルムの複屈折と光異性化の関係

3.4 PMMA 延伸フィルム中のアゾベンゼンの光異性化と配向状態

光異性化によるアゾベンゼンの配向状態の変化について調査するため、偏光板を用いた赤外吸収 スペクトル測定を行った。測定により得られた延伸方向と垂直方向の吸光度の比(赤外二色比,

A||/A⊥)から PMMA およびアゾベンゼンの配向度を評価した。その結果を図 11 に示す。750 cm-1の吸

収ピークは PMMA のα-メチル基の変角振動に由来する。PMMA、trans体、cis体のピークは、いずれ

も偏光子の角度によって大きさが異なっており、それぞれの遷移モーメントが配向していることが わかる。 6 -5 -4 -3 -2 -1 0 0 15 30 45 60 75 90 ∆n x 1 0 4 time / min 5 phr

UV light visible white light

1 phr 図 8.UV/可視光照射時の PMMA/アゾベンゼン フィルムの複屈折変化 670 680 690 700 710 720 0 min 1 min 5 min 15 min 45 min 0.04 0.08 0.12 0.16 0.20 Wavenumber / cm-1 Abs or ban ce irradiation of UV light 5 phr 図 9.UV 光照射による PMMA/アゾベンゼンフ ィルムの赤外スペクトル変化 -3 -2 -1 0 1 2 0 20 40 60 80 100 0 15 30 45 60 75 90

∆n

x 1

0

4

X

trans

/ %

time / min

Xtrans

∆n

5 phr

UV light visible light

図 10.UV/可視光照射時の PMMA/アゾベンゼンフィルムの複屈折と光異性化の関係

3.4 PMMA 延伸フィルム中のアゾベンゼンの光異性化と配向状態

光異性化によるアゾベンゼンの配向状態の変化について調査するため、偏光板を用いた赤外吸収 スペクトル測定を行った。測定により得られた延伸方向と垂直方向の吸光度の比(赤外二色比,

A||/A⊥)から PMMA およびアゾベンゼンの配向度を評価した。その結果を図 11 に示す。750 cm-1の吸

収ピークは PMMA のα-メチル基の変角振動に由来する。PMMA、trans体、cis体のピークは、いずれ

も偏光子の角度によって大きさが異なっており、それぞれの遷移モーメントが配向していることが わかる。

図8.UV/可視光照射時のPMMA/アゾベンゼン

フィルムの複屈折変化 図9.UV光照射によるPMMA/アゾベンゼンフィルムの赤外スペクトル変化屈折変化

(7)

各ピークの吸光度から赤外二色比(D = A││/A⊥)を求め、次式より配向度Fを決定した12) 7 680 700 720 740 760 0o 90o Wavenumber / cm-1 5 phr (A) 680 700 720 740 760 0o 90o Wavenumber / cm-1 5 phr (B) 図 11.UV 光照射前後の PMMA/アゾベンゼン(5 phr)延伸フィルムの偏光赤外スペクトル (A)UV 光照射前 (B)UV 光 30min 照射後

各ピークの吸光度から赤外二色比(D = A||/A⊥)を求め、次式より配向度Fを決定した12)。

2

1

1

2

0 0

+

+

=

D

D

D

D

F

(4)

α

2 0

=

2

cot

D

(5) ここで、αは各結合の遷移モーメントと分子軸(または高分子主鎖)の角度である。各成分の配向

度を図 12 に示す。値が小さいため誤差は大きいが、PMMA、trans-、cis-アゾベンゼンの配向度の平

均値はそれぞれ 0.09、0.03、0.01 と見積もられた。また、光異性化による配向度の変化は小さい。 cis体がtrans体よりも配向度が低い理由は、次のように説明できる。低分子が高分子中に分散し た系では、両者の間には配向相関(ネマチック相互作用)がはたらく8,9)。この相互作用は分子のア スペクト比が大きいほど強くなることがわかっており、本系でも球状のcis体よりも棒状のtrans 体の方が PMMA 鎖との配向相関は強くなる。 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0 15 30 45 60 75 90 O rien ta tion f unc tio n, F Time / min PMMA trans cis 5 phr 図 12.UV/可視光照射過程における PMMA/アゾベンゼンフィルム中の各成分の配向状態 ここで、αは各結合の遷移モーメントと分子軸(または高分子主鎖)の角度である。各成分の配向度 を図12に示す。値が小さいため誤差は大きいが、PMMA、trans-、cis-アゾベンゼンの配向度の平 均値はそれぞれ0.09、0.03、0.01と見積もられた。また、光異性化による配向度の変化は小さい。 cis体がtrans体よりも配向度が低い理由は、次のように説明できる。低分子が高分子中に分散した 系では、両者の間には配向相関(ネマチック相互作用)がはたらく8,9)。この相互作用は分子のアスペ クト比が大きいほど強くなることがわかっており、本系でも球状のcis体よりも棒状のtrans体の方 がPMMA鎖との配向相関は強くなる。 3.5 複屈折変化のメカニズムと可逆性 (1)式より、PMMA/アゾベンゼン延伸フィルムの複屈折は、3成分の和で表される。アゾベンゼ ンの光異性化によるPMMAの配向度は変化しないと仮定すると、複屈折はtrans体の割合(Xtrans)と trans体とcis体の配向度(Ftrans,Fcis)によって変化する。しかしながら、3.4で述べたように、2成分の

7 680 700 720 740 760 0o 90o Wavenumber / cm-1 5 phr (A) 680 700 720 740 760 0o 90o Wavenumber / cm-1 5 phr (B) 図 11.UV 光照射前後の PMMA/アゾベンゼン(5 phr)延伸フィルムの偏光赤外スペクトル (A)UV 光照射前 (B)UV 光 30min 照射後

各ピークの吸光度から赤外二色比(D = A||/A⊥)を求め、次式より配向度Fを決定した12)。

2

1

1

2

0 0

+

+

=

D

D

D

D

F

(4)

α

2 0

=

2

cot

D

(5) ここで、αは各結合の遷移モーメントと分子軸(または高分子主鎖)の角度である。各成分の配向

度を図 12 に示す。値が小さいため誤差は大きいが、PMMA、trans-、cis-アゾベンゼンの配向度の平

均値はそれぞれ 0.09、0.03、0.01 と見積もられた。また、光異性化による配向度の変化は小さい。 cis体がtrans体よりも配向度が低い理由は、次のように説明できる。低分子が高分子中に分散し た系では、両者の間には配向相関(ネマチック相互作用)がはたらく8,9)。この相互作用は分子のア スペクト比が大きいほど強くなることがわかっており、本系でも球状のcis体よりも棒状の trans 体の方が PMMA 鎖との配向相関は強くなる。 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0 15 30 45 60 75 90 O rien ta tion f unc tio n, F Time / min PMMA trans cis 5 phr 図 12.UV/可視光照射過程における PMMA/アゾベンゼンフィルム中の各成分の配向状態 7 680 700 720 740 760 0o 90o Wavenumber / cm-1 5 phr (A) 680 700 720 740 760 0o 90o Wavenumber / cm-1 5 phr (B) 図 11.UV 光照射前後の PMMA/アゾベンゼン(5 phr)延伸フィルムの偏光赤外スペクトル (A)UV 光照射前 (B)UV 光 30min 照射後

各ピークの吸光度から赤外二色比(D = A||/A⊥)を求め、次式より配向度Fを決定した12)。

2

1

1

2

0 0

+

+

=

D

D

D

D

F

(4)

α

2 0

=

2

cot

D

(5) ここで、αは各結合の遷移モーメントと分子軸(または高分子主鎖)の角度である。各成分の配向

度を図 12 に示す。値が小さいため誤差は大きいが、PMMA、trans-、cis-アゾベンゼンの配向度の平

均値はそれぞれ 0.09、0.03、0.01 と見積もられた。また、光異性化による配向度の変化は小さい。 cis体がtrans体よりも配向度が低い理由は、次のように説明できる。低分子が高分子中に分散し た系では、両者の間には配向相関(ネマチック相互作用)がはたらく8,9)。この相互作用は分子のア スペクト比が大きいほど強くなることがわかっており、本系でも球状のcis体よりも棒状の trans 体の方が PMMA 鎖との配向相関は強くなる。 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0 15 30 45 60 75 90 O rien ta tion f unc tio n, F Time / min PMMA trans cis 5 phr 図 12.UV/可視光照射過程における PMMA/アゾベンゼンフィルム中の各成分の配向状態 図11.UV光照射前後のPMMA/アゾベンゼン(5 phr)延伸フィルムの偏光赤外スペクトル (A)UV光照射前 (B)UV光30min照射後 図12.UV/可視光照射過程におけるPMMA/アゾベンゼンフィルム中の各成分の配向状態

(8)

配向度は光異性化過程において一定であるため、複屈折変化はXtransのみに依存する。さらに、Xtrans はUV光により低下した後、可視光照射により再び回復する。そのため、図13のように、UV光と 可視光による複屈折の繰返し制御が可能である。 4.総括 PMMA/アゾベンゼン延伸フィルムの光異性化と複屈折変化の関係を調べた。アゾベンゼンが増 えるほど、PMMA/アゾベンゼンのTgは低下した。さらに延伸フィルムの複屈折は、アゾベンゼン 添加量とともに強くなった。これは、transアゾベンゼンの複屈折が正であることに起因する。 また、UV光照射により複屈折は低下し、可視光照射により再び増加した。この複屈折変化は単 一の指数関数に従った。また、赤外分光測定を行いtrans体の割合を追跡したところ、複屈折と同 様、照射時間に対して指数関数的に増減した。一方、PMMA、trans、cisアゾベンゼンの配向度は、 光異性化中、ほぼ一定であった。以上より、PMMA/アゾベンゼンフィルムの複屈折変化は、光異 性化によるtrans体の割合のみで説明できることが判明した。 2枚の直交した偏光板にフィルムを挟むことで、複屈折変化は遮光性変化に変換される。すなわ ち、光照射時間や強度により、遮光性が制御可能となる。特に、PMMA鎖の配向状態はフィルム 全体のマクロな形状に影響するため、光異性化過程で配向度が変化しないことは、遮光フィルム材 料への応用を考えた上で重要な特性であると言える。 参考文献

1) Brostow W, Hess M, Lopez BL, Macromolecules, 27, 2262 (1994) 2) Brostow W, Hess M, Lopez BL, Sterzynski T, Polymer, 37, 1551 (1996)

3) Tagaya A, Iwata S, Kawanami E, Tsukahara H, Koike Y, App. Opt., 40, 3677 (2001)

4) Abd Manaf ME, Miyagawa A, Nobukawa S, Aoki Y, Yamaguchi M, Opt. Mater., 35 , 1443 (2013)

8 3.5 複屈折変化のメカニズムと可逆性

(1)式より、PMMA/アゾベンゼン延伸フィルムの複屈折は、3 成分の和で表される。アゾベンゼン

の光異性化による PMMA の配向度は変化しないと仮定すると、複屈折は trans 体の割合(Xtrans)と

trans 体と cis 体の配向度(Ftrans,Fcis)によって変化する。しかしながら、3.4 で述べたように、2

成分の配向度は光異性化過程において一定であるため、複屈折変化はXtransのみに依存する。さらに、 Xtransは UV 光により低下した後、可視光照射により再び回復する。そのため、図 13 のように、UV 光と可視光による複屈折の繰返し制御が可能である。 -3.0 -2.5 -2.0 -1.5 -1.0 0 1 2 3 4 5

∆n x

10

4 Cycles

UV light

5 phr

vis light

図 13.UV/可視光照射による PMMA/アゾベンゼン(5 phr)フィルムの複屈折変化の可逆性 (照射時間はすべて 30 分間) 4. 総括 PMMA/アゾベンゼン延伸フィルムの光異性化と複屈折変化の関係を調べた。アゾベンゼンが増え るほど、PMMA/アゾベンゼンの Tg は低下した。さらに延伸フィルムの複屈折は、アゾベンゼン添加 量とともに強くなった。これは、transアゾベンゼンの複屈折が正であることに起因する。 また、UV 光照射により複屈折は低下し、可視光照射により再び増加した。この複屈折変化は単一 の指数関数に従った。また、赤外分光測定を行いtrans体の割合を追跡したところ、複屈折と同様、

照射時間に対して指数関数的に増減した。一方、PMMA、trans、cisアゾベンゼンの配向度は、光異

性化中、ほぼ一定であった。以上より、PMMA/アゾベンゼンフィルムの複屈折変化は、光異性化によ るtrans体の割合のみで説明できることが判明した。 2 枚の直交した偏光板にフィルムを挟むことで、複屈折変化は遮光性変化に変換される。すなわ ち、光照射時間や強度により、遮光性が制御可能となる。特に、PMMA 鎖の配向状態はフィルム全体 のマクロな形状に影響するため、光異性化過程で配向度が変化しないことは、遮光フィルム材料へ の応用を考えた上で重要な特性であると言える。 図13.UV/可視光照射によるPMMA/アゾベンゼン(5 phr)フィルムの複屈折変化の可逆性 (照射時間はすべて30分間)

(9)

5) Nobukawa S, Aoki Y, Yoshimura H, Tachikawa Y, Yamaguchi M, J. Appl. Polym. Sci., 130, 3465 (2013)

6) Nobukawa S, Hayashi H, Shimada H, Kiyama A, Yoshimura H, Tachikawa Y, Yamaguchi M, J. Appl. Polym. Sci., 131, 40570 (2014)

7) Nobukawa S, Aoki Y, Fukui Y, Kiyama A, Yoshimura H, Tachikawa Y, Yamaguchi M, Polym. J., 47, 294 (2015)

8) Doi M, Pearson D, Kornfield J, Fuller G, Macromolecules, 22, 1488 (1989) 9) Nobukawa S, Urakawa O, Shikata T, Inoue T, Macromolecules, 43, 6099 (2010) 10) Ikeda T, Nakano M, Yu YL, Tsutsumi O, Kanazawa A, Adv. Mater., 15, 201 (2003) 11) Kondo M, Yu YL, Ikeda T, Angew. Chem.-Int. Edit., 45, 1378 (2006)

参照

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