博 士 ( 教 育 学 ) 瀧 澤 一 騎
学 位 論 文 題 名
ウォーミングアップが
最大作業のパフオ―マンスヘ及ぼす影響 学位論文内容の要旨
本研究は,最大作業において高いパフオーマンスを発揮するための適したウォーミングアッ プ(以下W‑up)を模索する目的で行われた.一連の研究では,W‑upが最大作業のパフオーマ ンスに及ぼす影響とその背景となる生理的な応答を測定し,より効果的なW‑upを検討した,
研究1では,W‑upが引き起こす生理的応答が最大作業のパフオーマンスに影響を及ぼすこ とを検証した,被験者は健康な男子大学生7名とし,60%V02peak強度のサイクリング運動に よ っ てW‑upを 行 う 条 件(WU)と ,W‑upを 行 わ な い 条 件(NWU)を 行 っ た .WUで はW‑
up終了5分後に主運動を開始し,NWUは一切のW‑upを行わずに主運動を開始した.主運動 は100%V02peak強度でのサイクリング運動であり,その持続時間をパフオーマンスとした,
W‑up前から実験終了までを通じて外側広筋温と直腸温,呼気ガスを測定した.また,主運動 中に外側広筋より筋電図と活動筋での酸素動態が測定された,さらに,主運動開始1分後,3 分後,主運動終了時に耳朶より採血を行い,血中乳酸値を測定した,結果として,主運動の継 続時 間はNWUと比 較してWUで有 意に延長 した(pく0.001). WUで運動持続時間が長くな った背景には,W‑upが活動筋ーの酸素供給を増大させ,V02のべースライン上昇や運動開始 時のすばやいV02の立ちあがりにっながったことがあげられる.また,血中乳酸増加率はW‑
upによって有酸素性のエネルギー代謝が増加したことを示した,さらに,主運動中の筋電図か らWUでは神経・筋活動が効率的であったことも運動持続時間の延長に関与していたと推察で きる.これら生理的変化には筋温や体温が上昇したこととも関わっており,W‑upによる生理 的 な 変 化 が パ フ オ ー マ ン ス 向 上 に 寄 与 す る こ と を 裏 付 け る も の で あ っ た . 研究2では,乳酸聞値(LT)に一致する強度,LTより低い強度,LTより高い強度の3条件 のW‑upを行い,最大作業のパフオーマンス向上にっながるW‑up強度を検討した.被験者は 健康 な男子大 学生7名とし た.W‑upはLT強度,LTの50%に相当する強度(50%LT),血中 乳酸 値が4mmol/lに相 当する強度(OBLA)に相当する強度のそれぞれで15分問のサイクリ ング運動とした.被験者はW‑up終了5分後に主運動を開始した,主運動は100%V02peakの強 度におけるサイクリング運動とし,その持続時間をパフオーマンスとた,また,研究1と同様
に外側広筋温と直腸温,呼気ガス,筋電図,活動筋での酸素動態が測定された.さらに,W‑up 前,主運動開始直前,主運動終了時に耳朶より採血を行い,血中乳酸値を測定した,結果とし て,I」TのW‑upは50%LTのW‑upよりも主運動の持続時間が有意に長かった(pく0.05),し かし,I」TとOBLA,50%LTとOBLAの問には主運動持続時間について有意差は認められな かった,50%LTよりもLTで主運動持続時間が長くなった理由としては,体温上昇が十分であ りV02が早期に立ち上がっていたこと,活動筋での酸素化動態の変化,筋活動の効率化等が関 与していたと考えられる.反対に50%I」TでのW・upは体温上昇が十分ではなく,パフオーマ ンスを改善するに足りるだけのW・up強度ではなかった,また,主運動持続時間においてOBLA はI」Tと有意差が認められなかったが,W.upの強度が高過ぎ,疲労した状態で主運動が開始 されていた可能性がある,また,OBLAは50%I」Tとも主運動持続時間に差が認められなかっ たため,W.upとして適切とは言えなかった.
研究3では,W.upの距離と強度の積を一定にする場合,すなわちW.upの総仕事を同一に して強度だけを変化させた場合にっいて実験を行い,効果的なW‐upを検証した,被験者は健 康な男子大学生7名とした.W・upは,LTでは15分間とし,50%LT,OBLAでは負荷と時間 の積がI円で15分間の負荷と時間の積と同じになるように設定した,被験者はW‐up終了5 分後に主運動を開始した,主運動は100%V02peakの強度におけるサイクリング運動とし,その 持続時間をパフオーマンスとした,また,研究2と同様に外側広筋温と直腸温,呼気ガス,筋 電図,活動筋での酸素動態,血中乳酸値が測定された.結果として,100%V02peakの強度にお ける最大持続時間にW・up条件間で有意差は認められなかった,したがって,50%LTから OBLAの範囲であれば,W.upをI円で15分間と同じにすることで,この種の最大作業のパフ オーマンスは同程度に発揮できる.また,主運動開始時の筋温と直腸温,主動筋でのEMGに W‐up条件間で有意差は認められず,V02においても条件と時間において交互作用は認められ なかった,故にW・upは生理的にも同等の効果があったことが推察される.しかしながら,被 験者7名中5名が50%I」TでのW・upにおいて最大作業の持続時間が最短となった,多くの被 験者が50%LTで最短の運動持続時間となった理由のひとっにV02や活動筋での酸素動態が亢 進あまり起こっていなかったことが考えられ,50%LTより低い強度でのW・upは長時間行っ て も 最 大 作 業 の パ フ オ ー マ ン ス 改 善 に は っ な が ら な い 可 能 性 が 示 さ れ た , 以上,一連の研究より,W・upによる最大作業の持続時間延長には,活動筋への酸素供給増 大や全身V02の立ち上がり早期化,有酸素的なエネルギー供給の増大,効率的な神経・筋活動 が関与していたことが明かとなった.至適なW.upの強度や時間は,W‐up後の主運動形態や 強度,あるいは対象者によっても異なることが考えられる,しかし,lOO%V02peakの最大作業 持 続 時間 延 長の た め には ,50%LTやOBLAで15分間のW‐upよりもLTで15分間のW.up が適していることがいえる,さらに,50%I亅TからOBLAの強度であれば,I亅Tで15分問と同
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じ総仕事であれば同じようにパフオーマンス向上が期待できる.ただし,50%LTよりも低い 強度では総仕事が同じであったとしてもパフオーマンス改善には至らないことが示唆された.
この結果は,競技者または指導者にとって最大作業において高パフオーマンスを発揮させるた めのW‑up強度・時間の指標となる,また,W‑upには障害予防の効果もあるため,W‑upが必 要 であ る こと を 示 した こ とは ス ポ ーツ の 安 全性 を 確保 す る 上で も 重要 で あ ろう ,
学位論文審査の要旨
主査 准教授 石井好二郎 副査 教授 水野眞佐夫
副査 教授 川初清典(高等教育機能開発総合 センター)
副査 教授 山地啓司(新潟医療福祉大学健康 科学部)
学 位 論 文 題 名
ウォーミングアップが
最大作業のパフオ―マンスヘ及ぼす影響
本論文は、最大作業において高いパフオーマンスを発揮するために適したウォーミングアップ
(以下W‑ up)を模索 している。一連の研究では、W‑upが最大作業のパフオーマンスに及ばす影 響と、 その背 景となる生理的な応答を測定することで、より効果的なW‑upを明らかにすること を試みている。
第1章では 、W‑upに関す る先行 研究にっ いて文献的検討を行っている。その結果、W‑upによ るパフオーマンスの向上に対する生理的な影響については、状況証拠的な研究がほとんどであり、
パフオーマンスと生理的指標を同時測定した研究が極めて少ないことを指摘している。また、最 大作業 のパフ オーマンス改善にっながるW‑upの強度や時間が明らかではなぃことを述べ、本論 文において検討すべき課題を説明している。
第2章では 研究1として、W‑upの有無 による最 大作業 のパフオ ーマン スと生理的応答を同時 に測定 するこ とで、W‑upによるパフオーマンス向上効果と生理的な背景を結ぴっけることを試 みた。W‑upによル パフオーマンスが向上した背景には、活動筋への酸素供給増大や主運動開始 時のす ばやい 酸素摂取量の上昇、神経・筋活動が効率的になること等が関与したとしている。
第3章では研究2として、W‑upの強度を乳酸閾値程度、乳酸閾値の50%、血中乳酸値が4mmol/l に相当 する強 度(OBLA)のそれ ぞれ15分 間とした 場合に ついて、 最大作 業のパフオーマンスと
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生理的応 答につ いて検討 してい る。乳酸 閾値のW‑upは乳酸閾 値50%のW‑upよりも主運動のパ フオ ー マ ンス が 向 上し た こ とを 認 め た。 しかし、 乳酸閾 値とOBLA、乳 酸閾値50%とOBLAに はパフオーマンスの差がなかった。乳酸閾値50%よりも乳酸閾値でパフオーマンスが向上した理 由として、体温上昇が十分であり酸素摂取量が早期に上昇していたこと、活動筋での酸素化動態 の好まし い変化 、筋活動 の効率化等の関与を明らかにしている。反対に乳酸閾値50%でのW‑up は体温上 昇が十 分ではな く、パフォーマンスを改善するに足りるだけのW‑up強度ではなぃとし た。また 、OBLAはW‑up強 度が高 過ぎるた めに疲 労した状 態で主運 動を開 始していた可能性が あり、W‑upとして適切ではないことを示唆している。
第4章で は 研究3として 、W‑ upの 距離と 強度の積 を一定 にする場 合、す なわちW‑upの 総仕 事を同一 にして 強度だけ を変化 させた場 合につい て実験 を行って いる。 乳酸閾値で15分間の W‑upと負 荷 と 時間 の 積 と同 じ に な るよ う、乳 酸閾値50%およびOBLAのW‑upを設 定し、最 大 作業のパフオーマンスと生理的応答について検討した。その結果、最大作業のパフオーマンスに W‑up条件間 で差は認 められな かった 。したが って、 乳酸閾値 で15分間 のW‑upと同じ仕事量で あれ ば 、 乳酸 聞値50% からOBLAの範 囲のW‑ upは、最 大作業 のパフオ ーマン スを同程 度に発 揮できることが明らかにされた。また、主運動開始時の筋温と直腸温、主動筋での筋電図にW‑up 条件間で有意差は認められず、酸素摂取量においても条件と時間において交互作用は認められな かったた め、各 々のW‑upは生理的にも同等の効果があったことが推察された。しかしながら、
被験者7名中5名が 乳酸閾値50%でのW‑upにおい て最大作 業の持続 時間が 最短となり、その背 景として、酸素摂取量や活動筋での酸素動態が亢進されていなかった可能性を示している。した がって、乳酸閾値50%より低い強度でのW‑ upは酸素摂取が亢進されず、長時間行っても最大作 業のパフォーマンス改善にはっながらない可能性を述べている。
最後の第5章では一連の研究をまとめ、本研究の結果が最大作業において高パフオーマンスを 発揮させ るため のW‑up強度・ 時間の 指標とな ると述 べている 。また 、W‑upには障害予防の効 果につい ても触 れ、W‑upが必要であることを示したことはスポーツの安全性を確保する上で重 要であることを提言している。
なお、本論文の一部は、2編の英文原著論文、1編の和文全国誌原著論文,2編の和文総説論文,
4編の著書として掲載されている。また著者は、全国学会より優秀発表賞(ランニング学会)と 奨励賞(日本運動生理学会)を、本論文の一部を構成する内容から受賞されており、研究者とし ての外部評価も高い。
よ って審査委員会は、著者を北海道大学博士(教育学)の学位を授与される資格があるものと 認め る。
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