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博 士 ( 獣 医 学 ) 岡 本 宗 裕

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Academic year: 2021

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博 士 ( 獣 医 学 ) 岡 本 宗 裕

学 位 論 文 題 名

Intraspecific variations within Taenia taeniaeforrnts          and Echinococcu.s rnMZ と ilocu.laris,        and their phylogenetic origins in Japan.

(ネ コ 条虫 と多包条 虫にみられ る種内変 異と日本 における 両種の起 源)

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  寄生虫の種内変異は、宿主に対する感染性や病原性の差異、駆虫薬に対する感受 性の差異として現れてくるため、同一種内でも性質の異なる個体群が存在するか否 かを正確に把握しておくことは重要である。多包条虫は、ヒ卜の多包虫症の原因と なる条虫であり、北方圏におぃて医学的に最も重要な寄生虫のーつである。一方ネ コ条虫は、実験室での継代維持が容易なため、多包条虫を含む医学的、経済学的に 重要なテニア科条虫のモデルとして広く研究に用いられており、これら両種の種内 変異を把握することは緊急の研究課題である。近年北海道におぃて、他の流行地で はほとんど感染例のなぃ宿主からの多包条虫の自然感染例が報告され、北海道で流 行してぃる多包条虫と他の地域の多包条虫との異同が問題となってきてぃる。また、

北海道産ネコ条虫の中に中間宿主への感染性の異なる個体群が存在することが報告 された。そこで本研究では、ネコ条虫と多包条虫にみられる種内変異を様々な方法 によ り検討し 、それら の結果か ら日本に おけるこ れら両種の 起源を推 定した。

1.北海道南部で捕獲されたドブネズミに見られた多包条虫の自然感染例について   北海道 南部のご み処理場 で捕獲し た42頭のド ブネズミのうち1頭で、多包条虫 の自然感染が見られた。多包条虫の病変は、肝臓、肺、腸間膜等にみられ、各病巣 とも壊死や炎症性の細胞反応はほとんど見られなかった。肝臓の病巣中大きなもの では内部に未熟な原頭節の形成が認められた。この原頭節をラッ卜およびスナネズ ミの腹 腔内に移 植し4〜7カ月後に剖検したところ、正常な原頭節の形成が認めら れた。以上より、自然感染してぃたドブネズミにおぃても時間の経過に伴い正常な

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原頭節の形成がみられると推定された。本例により、北海道南部では、ドブネズミ を 中 間 宿 主 と し た 生 活 環 が 野 外に お ぃて 存 在 して い る可 能 性 が示 さ れた 。

2.種々の基準からみたネコ条虫の種内変異について

  虻田のエゾヤチネズミ由来、札幌のドブネズミ由来、マレ―シアのドブネズミ由 来、ベルギーのハツカネズミ由来のネコ条虫4分離継代株(以下それぞれACR,SRN, KRN,BMM)について、形態(小鈎と大鉤の長さ)、各種齧歯類への感染性、嚢虫の蛋 白組成 、DNAの制限 酵素切断 パターン について 比較検討し た。頭節の鈎の長さで は、SRN株 の大鉤とACR株の小鉤 で他の分離継代株との間に有為な差が見られた。

各 分離 株 の 感染 性 は、SRN株 とKRN株 はラ ッ 卜 に、BMM株 はマ ウ スに 、ACR株は エゾヤ チネズミ にもっと も高い感 染性を示 した。嚢虫 の蛋白組成、DNAの制限酵 素切断 パタ―ン について は4分離継代株間で互いに類似してぃたが、ACR株ではわ ずかに 差異が見られた。以上のように、ACR株は今回調べたすべての基準で他の分 離株と異なっており、ACR株が別種あるぃは独立したstrainであることが強く示唆さ れた。 ー方他の3分離株は、これら種々の寄生虫の分類に応用されてぃる基準では 区 別 で き ず 、 互 い に そ の 性 状 が 類 似 し て ぃ る こ と が 示 さ れ た 。

3. ジゴキシ ゲニン標 識オリゴ ヌクレオ チドブロ ーブ(CAC)sを用 いたDNAフィン     ガ ― ブ リ ン 卜 法 に よ る ネ コ 条 虫 と 多 包 条 虫 の 遺 伝 的 変 異 の 解 析   ネコ 条虫よりDNAを 抽出し、 ジゴキシ ゲニン標 識(CAC)sをプローブとしたサザ ンハ イブリダイ ゼーショ ンを行っ たところ 、明瞭なDNAフィンガープリント像が 得ら れた。ネコ 条虫4分離 継代株(ACR,SRN,KRN,BMM)について本法により分離 株 間の遺伝 的変異を 調べた。 その結果 、4分離株 すべてか ら分離株特 異的なDNA フア ンガープリ ン卜像が 得られ、ACR株のみならず他の3分離株の問にも明瞭な遺 伝的差異があることが明らかとなった。これに対し多包条虫では、ブタおよびドブ ネズミ由来を含む北海道産6分離株の問で全く差異がみられなかった。北海道内の 多包条虫は、遺伝的にきわめて均一な集団と考えられた。―方、アラスカのセン卜 ロ― レンス島か らの分離 株と比較した場合にもわずかな差しかみられなかった。

4. ネ コ 条 虫 に お け る ア イ ソ ザ イ ム の 種 内 変 異 と そ の 系 統 関 係   ネコ条虫3分離継代株(KRN,BMM,ACR)および日本国内の野外分離株(72株)に ついて、その系統関係を明らかにするためデンプンゲルを用いた電気泳動法により

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アイソザイム変異(10酵素)について検討した。その結果、日本国内のドブネズミ寄   生のネコ条虫個体群のaverage heterozygosity(0 ‑ 0.0902)およびtotal genetic   variability (0.0499)は非常に小さく、日本国内のドプネズミ寄生のネコ条虫は遺伝学   的にはかなり均一な集団であることが明らかとなった。また、各遺伝子座における   遺伝子頻度から各集団間の系統関係を推察したところ、日本国内のドブネズミ寄生   のネ コ条 虫はBMM株 やKRN株 、と くにマレーシア由来のKRN株ときわめて近縁であ   ることが示された。これに対しACR株は、住家性ネズミ寄生のネコ条虫とは遺伝的   に大きく離れてぃることが明らかとなり、ACR株の北海道における起源はドブネズ   ミ に 寄 生 し て ぃ る ネ コ 条 虫 と は 明 ら か に 異 な る と 考 え ら れ た 。

5.テニア科条虫間にみられるcytochromeCoxidase subunitl (COI)遺伝子の塩基     配 列 の 多 様 性 と そ れ ら か ら 見 た テ ニ ア 科 条 虫 の 系 統 関 係   ネコ条虫と多包条虫の数分離株を含むテニア科条虫について、ミトコンドリア DNA中のCOI遺伝子の―部(391 bp)の塩基配列を調べ、それらの結果から系統関係 を推定した。その結果、ネコ条虫10分離株間の系統関係は、アイソザイムから推 定されたものとほば同様の関係であることが明らかとなった。―方、多包条虫では 北海道内の5分離株間でこの領域の塩基配列に差異がみられず、北海道内の多包条 虫は遺伝的にきわめて均一な集団であることが示唆された。また、セントローレン ス島の多包条虫もまったく同じ塩基配列であり、北海道とセントロ―レンス島の個 体群間に大きな遺伝的差異はなぃことが明らかとなった。

結論

  以上の研究結果より、日本には少なくとも2つの性質の異なるネコ条虫の個体群 が存在し、そのうちのーっは世界的に住家性のネズミに寄生するネコ条虫と生物学 的にも遺伝学的にも近縁であることが明らかとなった。日本におけるこれらの起源 は、遺伝的な類縁関係や過去の日本の交易の歴史から東南アジアであることが推察 された。一方、北海道には、これらとは全く起源の異なるエゾヤチネズミを中間宿 主とする別のネコ条虫個体群が存在することが明らかとなった。これに対し多包条 虫の場合、北海道では他の流行地ではみれらなぃドブネズミを中間宿主とする生活 環が成立してぃる可能性があるが、これらを含めて北海道内に流行してぃる多包条 虫は、遺伝的にきわめて均一な個体群であることが明らかとなった。さらに、セン

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卜ローレンス島の多包条虫との間にもわずかな遺伝的差異しかみられなかったこと から、北海道で流行してぃる多包条虫はアラスカよりごく近年に北海道の一部に移 入され、その個体群を起源として北海道全域に急速に広がったものであることが示 唆された。

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

神谷 橋本 喜田 奥

学 位 論 文 題 名

正男 信夫     宏 祐三郎

Intraspecific variations within Taenia taeniaeforrn む s          and EchinococcMs rnu.ltilocMlaris,        and their phylogenetic origins in Japan.

( ネ コ 条 虫 と 多 包 条 虫 に み ら れ る 種 内 変 異 と 日 本 に お け る 両 種 の 起 源 )

  多 包 条 虫 は 、 ヒ ト の 多 包 虫 症 の 原 因 と な る 条 虫 で あ り 、 北 方 圏 に お け る 人 獣 共 通 寄 生 虫 と し て 重 要 で あ る 。 一 方 、 ネ コ 条 虫 は 、 多 包 条 虫 を 含 む テ ニ ア 科 条 虫 の 実 験 モ デ ル と し て 広 く 研 究 に 用 い ら れ て い る 。 こ れ ら の 種 内 変 異 は 、 寄 生 虫 の 進 化 の 面 か ら だ け で は な く 、 宿 主 に 対 す る 感 染 性 や 病 原 性 の 差 異 、 駆 虫 薬 に 対 す る 感 受 性 の 差 異 と し て 現 れ て く る た め 、 重 要 な 研 究 課 題 で あ る 。 本 研 究 で は 、 両 種 の 種 内 変 異 を 様 々 な 方 法 に よ り 検 討 し 、 そ れ ら の 結 果 か ら 日 本 に お け る 起 源 を 推 定 し た 。

  分 離 さ れ た 地 域 ・ 中 間 宿 主 の 異 な る ネ コ 条 虫4分 離 株 に つ い て 、 形 態 、 齧 歯 類 へ の 感 染 性 、 嚢 虫 の 蛋 白 組 成 、DNAの 制 限 酵 素 切 断 パ タ ー ン に つ い て 比 較 検 討 し た 。 さ ら に 野 生 動 物 よ り 分 離 さ れ た 個 体 を 加 え 、DNAフ イ ン ガ ー プ リ ン ト 、 ア イ ソ ザ イ ム パ タ ー ン 、 cytochromecoxidase subunitI (COI)遺 伝 子 の 塩 基 配 列 を 調 べ 、 こ れ ら ネ コ 条 虫 の 系 統 関 係 を 推 定 し た 。 そ の 結 果 、 日 本 に は 少 な く と も2つ の 性 質 の 異 な る ネ コ 条 虫 の 個 体 群 が 存 在 し 、 そ の う ち の ー っ は 世 界 的 に 住 家 性 の ネ ズ ミ に 寄 生 す る ネ コ 条 虫 と 近 縁 で あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 日 本 に お け る こ れ ら の 起 源 は 、 遺 伝 子 系 統 解 析 と 過 去 の 日 本 の 交 易 の 歴 史 か ら 東 南 ア ジ ア で あ る と 推 察 さ れ た 。 一 方 、 北 海 道 に は 、 こ れ ら と は 全 く 起 源 の 異 な る エ ゾ ヤ チ ネ ズ ミ を 中 間 宿 主 と す る 別 の 個 体 群 の 存 在 が 明 ら か と な っ た 。   多 包 条 虫 の 場 合 、 北 海 道 で は ド ブ ネ ズ ミ を 中 間 宿 主 と す る 生 活 環 が 成 立 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 し か し 、DNAフ イ ン ガ ー プ リ ン ト お よ びCOI遺 伝 子 の 塩 基 配 列 を 比 較 し た 結 果 、 北 海 道 内 に 流 行 し て い る 多 包 条 虫 は 遺 伝 的 に き わ め て 均 一 な 個 体 群 で あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 さ ら に セ ン ト ロ ー レ ン ス 島 産 の 分 離 株 と の 比 較 か ら 、 北 海 道 で 流

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行している多包条虫は、近年アラスカから北海道に移入され、その後、急速に広がった ものであると推定された。

  これらの成果は、両種内に見られる種内変異の程度と日本における起源を明らかにし たものであり、今後の多包条虫やその他のテニア科条虫の防除を目的とした疫学的研究 の進展に資するところが大きい。よって審査員一同は、岡本宗裕氏が博士(獣医学)の学 位を受ける資格が十分あるものと認める。

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