博 士 ( 農 学 ) 杉 山 慶 太
学 位 論 文 題 名
スイカの野生種・外国栽培品種を利用した
多雌花性および耐裂果性の改良に関する基礎的研究 学位論文内容の要旨
ス イ カ ほtruDus lanatus Matsum.) の 品 種 改 良 に は , 野 生種 ぼtrullus colocyntis Schard)や外 国品 種を 利用 する こと が効 果的 で ある 。し かし ,これは民間企業など で行う に は大 きな 困難 を 伴う と考 えら れる ,本研究は,多雌花性および耐裂果性の改良を 行うた め の 基礎 的知 見を 得る こと を目 的と して 行っ た もの で, 内容 は次 のよ うに 要約 され る.
1.遺伝資源の特性評価と野生種の果 実形質の遺伝
日本の 栽培品種は,着果性,早期収穫適性において野生種およ び外国栽培品種より優れ,
改 良が 進ん でい る と判 断さ れた .ま た,日本のFi品種は,果実は球形で,果皮が緑 色で縞 状 斑の ある もの が 多く ,果 肉は 柔ら かく,多汁性で,舌触感に優れ,糖度が高く, 甘味が 強 いの が特 徴で あ った .一 方, 野生 種の果肉は白〜黄白色で硬く,糖度が低かった .赤色 果 肉と 高糖 度は 劣 性形 質で あり ,果 肉の硬さは不完全優性であるため,これらの形 質を栽 培 品 種 程 度 に ま で 改 良 す る に は , 戻 し 交 雑 を 繰 り 返 え す 必 要 が あ る と 判 断 さ れ た . 2.雌花着 生能の遺伝変異と育種素材の検索
スイ カの 雌花 着 生能 には ,明 らか な品種・系統間差異が認められ,性表現に関与 する遺 伝 子の 影響 が大 き く, 遺伝 的な 改良 が可 能で ある こと がわ かっ た.また,野生種の Red seeded 3b は , 多 雌 花 性 の 育 種 素 材 と し て 利 用 で き る こ と が 明 ら か に な っ た , 3.結実不 良要因の解析
花粉 発芽 率は , 開花 当日 の16時ま では,高い状態で維持されていたが,午後(16時)の 受 粉で は, いず れ の品 種に おい ても ,結実率が低下した.花粉発芽時の温度が15〜35'Cで は ,発 芽率 に差 は 認め られ なか った .受粉後の雌蕊の遭遇温度を変化させた場合, 花粉管 伸 長に 大き な影 響 が認 めら れた .受 粉時刻によって雌蕊内の花粉管伸長に違いがみ られ,
花 粉管 伸長 と雌 花 の発 育程 度と が大 きく関わっていることがわかった.また,結実 率には 品 種間 差異 が認 め られ た. 以上 のこ とから,結実不良には,雌花の受精能力・結実 能カが 大きく関 与していることが明らかになった.
4.苗の高 温・長日処理による多雌花性検定
子葉 展開 期以 降 の苗 を高 温・ 長日(25℃.30001x,16時間日長)で2週間処理した 場合,
10節位 まで の範 囲 で品 種間 差異 が認 められた.また,異なった時期に播種し,高温 ・長日 処 理し た苗 の雌 花 着生 数に っい てみ ると,無処理との間の相関は全般的に高い傾向 を示し た .こ のこ とか ら ,子 葉展 開期 苗を 高温 ・長 日で2週間 処理 することにより,雌花 が多く 着 生 す る 品 種 ・ 系 統 を 任 意 の 時 期 に 選 抜 で き る こ と が 明 ら か に な っ た 。 5‑ STS処理及びエセフオン処理によ る多雌花性の早期検定
子 葉 展 開 期 お よ び 本 葉1枚 展 開 期 に ,3〜6 mMのSilver thiosulfate (STS)を散 布す
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ることにより,第1雌花着生節位が無処理区のそれよりも低くなり,雌花着生数の多い品 種ほど,低い傾向が認められた,このとき,子葉展開期の6 mMのSTS処理が第1雌花着生 節位を下げる効果が最も高かった.STS処理後における第1雌花着生節位の低い個体の後 代における雌花着生数は,高い個体の後代のそれよりも多くなることから,雌花着生節位 による選抜が有効であった.この方法により,早期に多雌花性個体を選抜することが可能 であることがわかった,
また,工セフオン処理による子葉の黄化速度は,雌花着生数の多い品種ほど遅い傾向が 認 め られ , こ れに よ り雌 花 着 生能 をよ り早期に 検定でき る可能性 が示唆さ れた,
6.雌花着生能の遺伝様式
スイカの雌花着生は,Flでは不完全優性を示し,F2では連続的変異となっだこ己から,
複数の遺伝子が関与していると考えられる.また,F2から推定した雌花着生の遺伝率は,
比較的高い値を示し,雌花着生能は遺伝的に決定されている部分が大きいと判断された,
7.耐裂果性の遺伝変異と育種素材の検索
野生種は,日本の栽培品種よりも果皮が硬く,欧米系品種では,果皮が硬くて厚いこと がわかった.日本の小玉品種では,果皮が柔らかく薄い傾向があり,果皮の硬さと果肉の 硬さには正の相関がみられた.しかし,果皮の硬さと果肉の硬さには品種固有の特性が認 められ,果皮の硬さのみの改良も可能であると考えられる.
8.耐裂果性検定法
スイカ果実を落下させるか,または,鉄塊を果実に衝突させることによって,裂果程度 を測定すると,明らかな品種問差異が認められたが,これらの方法は,同一果実を反復し て測定できず,耐裂果性検定法としては不適当であった.果実切断抵抗カをオートグラフ により測定する方法は,測定途中に裂果が起きることがあり,同一果実の反復測定が不可 能であるなどの欠点があるため,耐裂果性検定には不適当であった,一方,果皮切片の屈 曲抵抗力,およびプランジャー貫入抵抗カには,明瞭な品種間差異が認められ,これらと 果実を落下させた場合の裂果程度との間に高い相関がみられた.以上の検定法の中では,
果皮貫入抵抗カによる検定法が,試料調製が容易であり,多くの果実を検定するのに適し ていた.
9.耐裂果性の遺伝様式
耐裂果性の低い品種・系統と耐裂果性の高い系統とを交雑し,このFl,F2および戻し交 雑系統の果皮硬度を調べたところ,果皮の硬さは,柔らかい側への部分優性であることが わかった.また,果皮の硬さには,複数の遺伝子が関与していると判断されるが,交雑後 代で果皮の硬い個体が出現したことから,果皮の硬さの改良は比較的容易であると推測さ れる.
10.耐裂果性と果皮組織・細胞の構造
硬い果皮では,柔らかい果皮に比べて,緑色組織が厚い傾向があった.また,表皮から 約2000pmまでの細胞は,小さくて丸味があり,単位体積当たりの数が多いことがわかっ た.硬い果皮では,緑色組織の内側に,厚壁細胞が,層状に厚く存在していた.果皮の組 織・細胞の構造は遺伝的特性であり,このことは,果皮の硬い Africa 22857 とそのF 2または,戻し交雑系統とにおいても観察された.
11.野生種および外国品種を利用した優良系統の育成
本研究で育成した多雌花性系統 MFL―1 , MFL−2 および MFL一3 は,既存の品種
・系統にはない極めて高い雌花着生能をもっていた.さらに,果実形質についての改良を 進めたところ,両性花が多く着生し,かつ果実品質の良い MFL−8 MFL一9 および MFL−10 を作出することができた.また,本研究で育成した耐裂果性固定系統 久留米1
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号 および 久留米2号 の果実は,果皮が極めて硬く,縞状斑をもつ小〜中玉固定系統 で,品質も良好である.また, 久留米1号 と 久留米2号 とのF1である 久留米交 1号 の果実は,果皮が硬くて薄く,縞状斑をもつ小〜中玉で,品質,輸送性および貯蔵 性に優れており,栽培品種としての利用が期待される.
以上のように,本研究は,遺伝資源として有用な広範囲のスイカを利用して,これまで にない雌花着生能の高い系統と,耐裂果性に優れた系統を育成するとともに,スイカの品 種改良に役立っ基礎的知見を提起したもので,今後,これらを利用した品種改良の発展が 期待される.
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
原 田 隆 伊 藤 和 彦 佐 野 芳 雄 増 田 清
学 位 論 文 題 名
スイカの野生 種・外国栽培品種を利用した
多 雌花性および耐裂果性の改良に関する基礎的研究
本 論文 は 、 序論 、 本 論12章、 摘要、引 ′『J文I}V¥73、Iz<141、表38を含 む181頁の和文 論文 で 、 別 に参 考 論 文7編 が 添 えら れ て いる 。
ス イ カ(Citrullus lanaと sMatsum.) 栽 培 に お い て 高 品 質 で 斉 一 な 果 実 を収 穫 す る た め に は 、 優 れ た 雌 花 を 多 く 着 生 す る こ と ( 多 雌 花性 ) が 必 要と な る 。ま た 、 流通 過 程 の輸 送 に 耐 え る た め に は 、 外 カ を 受 け た 場 合 に 裂 果 し 難 い こ と ( 耐 裂 果 性 ) が 重 要 で あ る 。 本 研 究 は 、 ス イ カ の 野 生 種 、 外 国 栽 培 品 種 、 日 本 栽 培 品 種 な ど 広 範 な 遺 伝 資 源 を 用 い て 、 多 雌 花 性 お よ び 耐 裂 果 性 に つ い て 検 討 す る とと も に 、 その 改 良 を試 み た もの で 、 内容 は 次 の よう に 要 約さ れ る 。
1. ス イ カ 遺 伝 資 源 の 特 性 評 価 と 野 生 種 果 実 形 質 の 遺 伝
日 本 の 栽 培 品 種 で は 、 果 実 は 、 球 形 で 、 果 肉 は 柔 ら か く 多汁 性 で 、舌 触 感 に優 れ 、 甘味 が 強 い の が 特 徴 で 、 外 国 品 種 に 比 べ て 改 良 が 進 ん で い る こ と が わ か っ た 。 一 方 、 野 生 種 で は 、 果 肉 は 白 〜 黄 白 色 で 硬 く 、 糖 度 が 低 かっ た 。 スイ カ 果 肉の 赤 色 と高 糖 度 は 劣 性 形 質 で あ り 、 果 肉 の 硬 さ は 不 完 全 優 性 であ る た め 、こ れ ら の形 質 を 栽培 品 種 程 度 に ま で 改 良 す る に は 、 戻 し 交 雑 を 繰 り 返 す 必 要 が あ る と 判 断 さ れ た 。
2.雌 花着 生 能 の遺 伝 変 異と 育 種 素 材の 検 索
ス イ カ の 雌 花 着 生 能 に は 、 品 種 ・ 系 統 間差 が 認 め られ 、 性 表現 に 関 与す る 遺 伝子 の 影 響 が 大 き く、 遺 伝 的な 改 良 が可 能 で あ るこ と が わか っ た 。ま た 、 野生 種 の Red seedecl 3b は 、 多 雌花 性 の 改良 に 利 用で き る こ とが 明 ら かに な っ た。
3.結 実 不 良 要 因 の 解 析
花 粉 の 発 芽 率 は16時 ま で は 高 い 状 態 で 維 持 さ れ て い た が 、 花 粉管 仲 長 は、 受 粉I時 刻 お よ び 雌 花 の 発 育 程 度 と 関 連 し て い た 。 結実 不 良 は、 雌 花 の受 精 能 力不 足 に よる と こ ろが 大 き く 、 品 種 間 差 の あ る こ と が 確 認 さ れ た 。
4.苗 の 高 温 ・ 長 日 処 理 に よ る 多 雌 花 性 検 定
子葉展 開以降の 苗に高温 ・長日処理(25℃、30001x、16時 間日長、2週間)を 行い、雌 花着生 が困難な 状態にし たときに着生数の多い品種は、本来的に多雌花性であることを示 し 、 こ の 処 理 に よ り 、 任 意 の ‖ 寺jWに 選 拔 で き る こ と を 明 ら か に し た 。 5.STS処理およびエセフォン処理による多雌花性の早期検定
雌 花着生数 の多い品 種ほど、第 一雌花若 生節位が 低いこと がわかり 、また、STS6mM液 で 子葉展開期の苗を処理すると低節位に着花するので、この方法により、早iUJに多雌花性 個体を選抜できることがわかった。また、エセフォン処理による子葉の黄化迎度は、雌イヒ 着生数の多い品種ほど遅いことから、これにより、雌花着生nヒの早Jり亅検定が可能であるこ とを示した。
6. 雌花着生 能の遺伝 様式
ス イカの雌 花着生は 、Fiでは不完 全優性を示し、F2では連続的変異となったことから、
複 数の遺伝 子が関与 していると 推察され 、また、Fzから推定した雌花着生の遺伝率が高い 値 を 示 し た こ と か ら 、 遺 伝 的 に 決 定 さ れ て い る 部 分 が 大 き い と 判 断 さ れ た 。
7. 耐裂果性の 遺伝変異 と育種素 材の検索
野 生種および 欧米系品 種では、 日本の栽 培品種よ り果皮が 硬かった。 また、果 皮の硬さ と 果肉の硬さ には、そ れぞれ品種固有の特性があり、果皮の硬さのみの改良が可能である こ とを明らか にした。
8.耐裂果性検定法
爿き実を落下させる方法、果実に鉄塊を衝突させる方法、果実切断抵抗カを測定する方法 な どには、 同一果実の 反復測定 が不可能 であるなどの難点があったが、果皮断片の屈曲抵 抗 カおよぴ プランジャ ー貫入抵 抗カには 明瞭な品種間差が認められ、落下衝突時の裂果程 度 (輸送過 程で受ける 外カによ る裂果に 近似)との間に高い相関があり、その中でも果皮 貫 入 抵 抗 カ に よ る 検 定 法 が 有 効 で 実 際 的 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。
9. 耐裂果性の 遺伝様式
耐 裂果性の強 い品種I系 統と弱い ものとのFi、F2および 戻し交雑 系統の果実の硬さを調 べ 、これが、 柔らかい 側への部 分優性で あり、複数の遺伝子が関与しているが、交雑後代 で 果 皮の 硬 い 個体 が出現し たことから 、果皮の 硬さの改 良が可能 であるこ とを示し た。
10.耐 裂果性と果 皮組織の 特徴
硬 い果皮では 、緑色組 織が厚く 、その内 側に厚壁細胞が厚い層をなしており、表皮から 2000ルmま で の音15分には 、球形で 小さな翁0胞 が密に存 在してぃ 、ること がわかっ た。
11.野生種 および外 国栽培品 種を利用 した優良 系統の育成
高 い 雌花 着 生 能をも つ MFL‑1'、 MFL‑2 およぴ MFL‑3 を育 成し、さ らに、こ れ らの果実 形質を改 良して、 両性花( 雌花とし て利用できる)を多く着け、果実品質の良い
MFL‑8 、 MFL‑9 およぴ MFL‑10 を作 出した。また、果皮が硬く品質の良い 久留 米1号 お よ び 久 留 米2号 を 育 成 し、 さ らに 、 こ れら のFlで あ る 久 留 米交1号 は、果皮 が薄くて 硬く、小 〜中玉で 、品質、 輸送性およぴ貯蔵性に優れており、栽培品種 として期 待されて いる。
以 上のよう に、本研 究は、野 生種をは じめ広範囲のスイカを用い、遺伝資源としての有
用´陲を評価し、雌花着生能が高く耐裂果性に優れた系統を育成するとともに、スイカの品 種 改 良 に 役 立 つ 基 礎 的 な 知 見 を 提 起 し た も の で 、 そ の 成 果 は 高 く 評 価 さ れ る 。 よって、審査員一同は、杉山慶太がll士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有す るものと認めた。