博 士 ( 工 学 ) 藤 原 政 司
学 位 論 文 題 名
魚血清を利用したウシ血清フリー動物細胞培養に 関する研究
学位論文内容の要旨
高齢化社会の到来を迎え、高度を医療に関わる工学技術の重要性が益々増大している。動物細胞 培養技術は、抗体医薬叔どバイオ医薬品の生産にとって、最も有用教生産技術である。また、先端 医療である再生医療でも動物細胞培養技術が中心的存在である。このよう顔医療用途の生産には高 度を安全性が要求される。しかし、これまで動物細胞培養用の培地に一般的に添加されてきた「ウ シ胎仔血清(FCS)」にはBSE問題に代表されるようにその安全性に大きを懸念がある。そこで、動 物細胞培養プロセスにおいて、FCSに代わる安全を培地添加物の開発が緊急の課題と教っている。
その解決策として、これまでにヒト血清の利用や無血清培地の利用が検討されてきたが、代替物 としての条件を十分に満たすことができ教かった。一方、魚類にはヒトに感染するウイルスが報告 されてい教いことと、魚類の血清に細胞増殖因子が含まれていることから、魚血清をFCSの代わ りに利用できることが期待できた。
本論文では、魚血清を利用したウシ血清フリー動物細胞培養に関する研究を行った。本論文は7 章から構成されており、以下にその概要を記した。
第1章は緒諭であり、研究の背景と研究の目的を明らかにした。
第2章で倣、FCSの代わりに魚血清を用いてチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を接着培 養して、魚血清を用いて細胞が培養ディッシュ底面に接着することが可能であるか、接着した細胞 が増殖することが可能であるか、魚血清を用いて接着培養した細胞が生理活性タンパク質であるヒ ト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(hGM‑CSF)を生産することが可能であるかについて検 討した。その結果、10%マダイ血清培地でCHO細胞を培養した場合、培養24hでの細胞の接着効 率が低かった(約25%)。したがって、細胞を接着させるために培養初期にFCS培地で培養した後、
魚血清培地に交換する必要があった。10% FCS培地でCHO細胞を24h培養して細胞を接着した 後、10%マダイ血清培地に交換した結果、細胞密度が10% FCS培地の約71%まで増殖すること が確認された。マダイ血清培地において、通常のディッシュでは細胞の接着効率が低かったが、タ イプIコラーゲンコートディッシュを用いた場合、接着効率が高く(60〜91qo)、さらに細胞の増殖 促進が確認された。したがって、魚血清を用いる場合、タイプIコラーゲンコートディッシュを用 いることが有効であることが分かった。コラーゲンコートディッシュを用いた20u/oマダイ血清培 地でのCHO接着培養では、100/0 FCS培地の場合とほば同等のhGM‑CSF生産活性が確認された。
第3章では、FCSでは血清中に含まれる補体による細胞増殖阻害を排除するために熱処理する ことがあるので、魚血清においても、熱処理した後、基本培地に添加してCHO細胞を接着培養し、
魚血清の熱処理が細胞増殖促進に与える影響について検討した。その結果、FCSでの補体の不活
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性 化温度 である56℃で熱 処理す ること によっ て、細 胞増殖 活性が顕著に促進されることが確認さ れ た。こ のブリ血清の56℃の熱処理による増殖活性促進には、ロット差が誼いことが確認された。
さ らに、 マダイ血清にも同様故熱処理による増殖活性促進が確認されたので、この熱処理による接 着 培 養 促 進 効 果 が 魚 血 清 に 共 通 す る 性 質 で あ る 可 能 性 が 高 い と 考 え ら れ た 。 第4章 で は 、FCSは 通 常10%の 濃 度 が 細胞増 殖に最 適教添加 濃度で あるが 、魚血 清の最 適誼添 加 濃度は 不明で あるた め、魚 血清の 添加濃 度を変 えて基本 培地に 添加し 、CHO細胞 を接着培養し て 、細胞 増殖に最適顔魚血清の濃度を検討した。また、熱処理と添加濃度の組合せに関して、細胞 増殖に最適教条件を検討した。その結果、ブリ血清の添加濃度が高い(5〜20ワ。}と増殖に阻害的に 働いたが、添加濃度が低い(1.25〜2.5u/o)と細胞増殖促進活性が顕著に向上することが確認された。
魚 血清の 低濃度添加と熱処理を組み合わせると、さらに増殖促進活性が向上することが、プリ血清 とマダイ血清の両方に共通して確認された。熱処理したプリ血清を低濃度添加した培地(1.250/0)で は 、hGM―CSF比 生 産 速 度 が10% FCS培地 で の 比 生産 速 度 の 約50%で あ っ たが 、hGM−CSFが生 産 されて いるこ とが確 認され た。結 諭として、魚血清を熱処理と低濃度添加することで、FCSの代 わりに魚血清をCHO細胞の接着培養に使用できる可能性が示された。
第5章で は、魚 血清濃度 が高い 場合、 魚血清 に由来 する培 地中の 過剰誼 脂質成分 が細胞の増殖 を 阻害し た可能 性が考 えられ たため 、魚血 清から 抽出した 脂質成 分を添 加した 培地でCHO細胞を 接 着培養 して、魚血清の脂質成分が細胞増殖に与える影響について検討した。その結果、魚血清の 脂 質 濃 度 がブ リ血 清、マ ダイ血 清共にFCSより実 際に約3〜50倍高 いこと が確認 された 。次に 、 魚 血清中 の脂質 成分を 抽出し た後、 濃度を 変えて 培地に添 加してCHO細胞 を培養し た結果、プリ 血 清を添 加した場合と同様に、添加濃度が高いと細胞増殖が減少することが確認された。したがっ て 、魚血 清濃度が高い場合に細胞増殖促進が低下する主要を原因のーつは、培地中の脂質成分によ る細胞増殖の阻害であると考えられた。
第6章で 弦、CHO細 胞によ る′ヾ イオ医 薬品生産 の多く は細胞接着を必要とし放い浮遊培養法で 行 わ れ て いる ので 、FCSの代 わりに 魚血清 を用い てCHO細胞 を浮遊 培養し て、細 胞が増 殖する こ と が可能 であるか、魚血清を用いて浮遊培養した細胞が生理活性タンパク質であるティッシュープ ラ スミノ ーゲン アクチ ベータ ー(tPA)を生産することが可能であるかについて検討した。さらに、
接 着培養 では魚 血清の 熱処理 と低濃 度が細 胞増殖 促進に有 効であったので、浮遊培養において魚 血 清の熱 処理お よび添 加濃度 がCHO細胞 の増殖 促進効 果に与 える影 響につ いて検討 した。その結 果 、40/0プ リ 血清を 用いた浮 遊培養 では、 細胞密 度が10% FCS培地の 約33%まで 増殖可 能誼こ と が 確認さ れた。浮遊培養では、血清濃度と細胞増殖促進の関係が接着培養の場合と反対であり、魚 血 清濃度 が高い と細胞 増殖が 促進さ れることが確認された。この培養では、tPAの比生産速度(8.8 fg/cell/h)が10qo FCS培地での比生産速度(5.4 fg忙e11/h)より大きかったので、tf Aが良好に生産さ れ たこと が確認された。また、10%マダイ血清を用いた浮遊培養では、熱処理が細胞増殖に全く影 響 を 与 え 教い こ と が 確認 さ れ た 。結 論 と し て、 魚 血 清 をFCSの 代わ りにCHO細 胞の浮 遊培養 に 使用できる可能性が示された。
第7章 は 総 括であり 、本研 究で得 られた 成果を まとめ た。FCS培 地の代 わりに 魚血清 培地を 用 い てCHO細 胞 の接着培 養が可 能であ り、魚 血清を 熱処理 及び低 濃度添 加するこ とで、FCS培地 の 培 養成績 と同等 を培養 成績を 得られ ること を明ら かにした 。CHO細 胞の接 着培養に おいて、魚血 清 中の脂 質成分が細胞増殖を阻害している要因のーつであることを明らかにした。魚血清培地を用 い てCHO細 胞の浮 遊培養が 可能で あるこ とを明 らかに した。 本研究 で得ら れた成果 は、ウシ血清 を 用い教 い安全顔動物細胞培養技術を開発する上で重要であり、動物細胞培養によるバイオ医薬生
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産、再生医療への貢献が期待される。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
魚血清を利用したウシ血清フリー動物細胞培養に 関する研究
高齢 化社会の到来を迎え、高度な医療に関わる工学技術の重要性が益々増大している。動物細胞 培養 技術は、バイオ医薬品の生産や再生医療において、中心的な工学技術である。このよう橡医療 用途 の培養技術には高度な安全性が要求されるが、これまで動物細胞培養用の培地に一般的に添加 さ れ てき た「 ウシ胎 仔血清(FCS)」に はBSE問題 に代表 される ようにそ の安全 性に大 き顔懸 念が ある 。そこ で、動物 細胞培 養プロ セスにおいて、FCSに代わる安全ほ培地添加物の開発が緊急の課 題と顔っている。
ここ で、魚類にはヒトに感染するウイルスが報告されてい顔いことと、魚類の血清に細胞増殖因 子 が 含 ま れ て い る こ と か ら 、 魚 血 清 をFCSの 代 わ り に 利 用 で き る こ と が 期 待 で き た 。 本論 文では 、魚血 清を利 用したウシ血清フリー動物細胞培養に関する研究を行った。本諭文は7 章から構成されており、以下にその概要を記した。
第1章は緒諭であり、研究の背景と目的を明らかにした。
第2章で は 、FCS培地 の 代 わ りに マ ダイ血清 培地を 用いて チャイ ニーズ ハムス ター卵 巣(CHO) 細 胞 を接 着培 養した 。その 結果、 培養24hで の細胞 の接着 効率が 低かっ た(約25%)が、10% FCS 培地 で24h培養 して細 胞を接 着した 後、10a/oマ ダイ血 清培地に交換した場合、細胞密度が10 010 FCS培 地の 約71%ま で増 加 す る こと が 確認され た。マ ダイ血 清培地 におい て、タ イプIコ ラーゲ ンコートディッシュを用いた場合、細胞接着効率が高く(60〜91u/o)、さらに細胞の増殖促進が確認 され た。生 理活性タ ンパク 質であ るヒト 顆粒球 マクロ ファー ジコロ ニー刺激 因子(hGM‑CSF)の生 産 活 性は 、コ ラーゲ ンコー トディ ッシュ を用い た20%マダ イ血清 培地で は、10% FCS培 地の場 合 とほば同等であることが確認された。
第3章で は、 ブリ血 清におい て、FCSでの補 体の不活 性化温 度であ る56℃で 熱処理 した後 、基 本培 地に添 加してCHO細胞を 接着培 養した。 その結 果、細 胞増殖 活性が 顕著に 促進されることが 確認 された。さらに、マダイ血清にも同様な熱処理による増殖活性促進が確認されたので、この熱 処 理 に よ る 接 着 培 養 促 進効 果 が 魚 血清 に 共 通 する 性 質 で ある 可 能 性 が高 い と 考 えら れ た 。 第4章で は、 プリ血 清の添加 濃度を 変えて 基本培 地に添 加し、CHO細胞を 接着培 養した 。その 結果、ブリ血清の添加濃度が高い(5〜20ワ。)と増殖に阻害的に働いたが、添加濃度が低い(1.25〜 2.5ワ。)と細胞増殖促進活性が顕著に向上することが確認された。魚血清の低濃度添加と熱処理を組 ー31ー
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み合わせると、さらに増殖促進活性が向上し、FCS培地の場合と同様誼培養成績が得られることが 確認された。この培養では10% FCS培地の約50%の比生産速度で、hGM―CSFが生産されたこと が確認された。このように、魚血清を熟処理と低濃度添加することで、FCSの代わりに魚血清を CHO細胞の接着培養に使用できる可能性が示された。
第5章では、魚血清の脂質濃度について調べた。その結果、プリ血清、マダイ血清共にFCSより 約3〜50倍高いことが確認された。そこで、魚血清から脂質成分を抽出し、培地に添加してCHO 細胞を培養した結果、脂質成分の添加濃度が高いと細胞増殖が減少することが確認された。した がって、魚血清濃度が高い場合に細胞増殖促進が低下するのは、培地中の脂質成分による細胞増殖 の阻害が主要を原因のーつであると考えられた。
第6章では、FCSの代わりに魚血清を用いてCHO細胞を浮遊培養した。その結果、40/0プリ血 清を用いた場合、細胞密度が10a/o FCS培地の約33%まで増殖可能顔ことが確認された。この培養 では、tPAが良好に生産されたことが確認された。熱処理した10%マダイ血清を用いた浮遊培養 では、熱処理が細胞増殖に全く影響を与え教いことが確認された。このように、魚血清をFCSの 代わりにCHO細胞の浮遊培養に使用できる可能性が示された。
これを要するに、FCS培地の代わりに魚血清培地を用いてCHO細胞の接着培養が可能であり、
魚血清を熱処理及び低濃度添加することでFCS培地の培養成績と同等教培養成績を得られること、
CHO細胞の接着培養において魚血清中の脂質成分が細胞増殖を阻害している要因のーつであるこ と、魚血清培地を用いてCHO細胞の浮遊培養が可能であることを明らかにしたものであり、動物 細胞培養工学に貢献するところ大橡るものがある。よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位 を授与される資格あるものと認める。