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博 士 ( 水 産 学 ) 持 田 和 彦

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Academic year: 2021

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博 士 ( 水 産 学 ) 持 田 和 彦

学 位 論 文 題 名

Studies on the functions of sperm autoantigens    in the Nile tilapia, Oreochrornzs niloticuis

( ナ イ ル テ ラ ピ ァ 精 子 自 己 抗 原 の 機 能 に 関 す る 研 究 )

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

    数 種 の 硬 骨 魚 類 の 精 子 変 態 期 に は 、 生 殖 細 胞 表 面 に い く つ か の タ ン パ ク 質 が 発 現 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 こ れ ら の タ ン パ ク 質 は そ の 発 現 の 時 期 よ り 生 殖 細 胞 の 最 終 成 熟 期 及 び 精 子 に お い て 特 有 の 機 能 を 有 し 、 ま た 、 通 常 自 身 の 免 疫 系 に 対 し て 寛 容 を 獲 得 し て お ら ず 自 己 抗 原 と な っ て い る こ と が 知 ら れ て い る 。 哺 乳 類 に お い て は 、 こ れ ら の タ ン パ ク 質 の う ち の い く つ か が 、 受 精 時 に 機 能 し て い る こ と も 報 告 さ れ て い る 。 し か し 、 硬 骨 魚 類 に お い て は 、 精 子 変 態 期 に 発 現 す る タ ン パ ク 質 の 機 能 に つ い て は ほ と ん ど 調 べ ら れ て い な い 。

    水 産 有 用 魚 種 の ― つ で あ る ナ イ ル テ ラ ピ アOreochromis niloticusの 養 殖 に お い て は 、 本 種 の 強 い 繁 殖 カ に 由 来 す る 密 殖 に よ り 魚 体 の 不 均 一 化 を 生 じ る こ と が 問 題 点 の ― っ と し て 指 摘 さ れ て お り 、 そ の た め 、 密 殖 防 止 を 目 的 と し た 雄 の 生 殖 の 人 為 的 統 御 法 の 確 立 は 重 要 な 課 題 の ― つ で あ る 。 そ こ で 、 本 研 究 で は ナ イ ル テ ラ ピ ア を 用 い 、 最 終 成 熟 及 び 受 精 の 分 子 機 構 に 関 す る 基 礎 的 知見 を得 るこ とを 目 的と して 、 先 ず 、 精 子 変 態 期 に 発 現 す る タ ン パ ク 質 精 子 自 己 抗 原 を 検 索 し 、 次 い で こ れ ら に 対 す る モ ノ ク ロ ― ナ ル 抗 体 を 作 製 し て 、 こ の 抗 体 を 用 い た 機 能 の 解 析 を 試 み た 。     界 面 活 性 剤(n‑octyl‑p ‑D‑thioglucopyranoside)を用 いて 可溶 化し た テラ ピア 精 子 膜 タ ン パ ク 画 分 か ら 、 テ ラ ピ ア 精 子 自 己 抗 体 を 用 い た ア フ ィ ニ テ ィ ― ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー に よ り 自 己 抗 原 を 精 製 し た 。 そ の 結 果 、 自 己 抗 原 画 分 に は 主 と し て 80kDa及 び27kDaの タ ン パ ク が 含 ま れ る こ と が 明 か と な っ た 。 次 に 、 こ の 自 己 抗 原 画 分 をBalb/c雌 マ ウ ス に 免 疫 し て モ ノ ク 口 ― ナ ル 抗 体 の 作 製 を 試 み 、4種 類 の 抗 体 を 得 た 。 ― つ 目 の 抗 体 は27kDaタ ン パ ク を 認 識 し 、 ま た 免 疫 組 織 学 的 検 索 に

(2)

より、この 抗原は精子の特に中片域、精子変態後期の精細胞、A 及び初期

B

型精 原細胞に局 在すること が示された 。ニつ目の 抗体は

80kDa

及び30‑40kDa の複数 のタンパクを認識し、三つ目の抗体は

80kDa

のタンパクのみを認識した。これら の抗原は共に精子変態後期の精細胞及び精子頭部に局在していた。四つ目の抗体は

120kDa

のタンパクを認識し、その抗原は精子頭部及びセルトリ細胞、輸精管上皮 細胞に局在が認められた。これらの抗体はTesticular Antigen of Tilapia の頭文字 をとり、それぞれTAT‑10 ,′rAT ・

20

,TAT ・21 及びTAT .30 と命名した。また、こ れらの抗体はその認識抗原の局在部位より考えて、最終成熟から受精にいたるー連 の分子機構の解明に有用であることが示された。

    

次に、これらの抗体が認識する抗原の機能について調べた。最近の哺乳類の研 究では、嗅覚系受容体が精子においても発現し、受精時に卵からの走化性因子ある いは精子活性化因子の受容体として機能していることが示唆されている。また、数 種のサケ科魚類では、卵巣腔液中に精子運動時間を延長させる因子が存在すること が知られている。予備的実験によりTAT ・10 抗原が嗅覚系にも存在していること及 びTAT ・

10

抗原が精子の中片域に局在していたことから、テラピア卵巣腔液の精 子運動延長活性とTAT ・10 抗原との関連について調べた。まず、卵巣腔液中に精 子運動延長因子カ存在しているか否かを調べた。その結果、卵巣腔液を含むバッファ ーで希釈した精子は、バッファーのみで希釈した精子に比較して―定時間後に有意 に高い運動比率を示したことから、テラピア卵巣腔液中にも精子運動延長因子が存 在していることが示された。また、この因子はSephadexG .

25

を用いたゲル濾過 により分子 量約

2

,OOO であると推定された。また、卵巣腔液を100 °

C

、5min の 熱処理した後にも精子運動延長活性が保持されたことから、この因子は熱安定な物 質であると考えられた。次に、精子を

TAT

.10 処理した結果、この因子による運 動延長が有意に抑制された。また、対照群としてTAT ・21 処理した精子において は、この因子による運動延長抑制は認められなかった。この結果よりTAT .10 抗 原 が 、 卵 巣 腔 液 中 の 運 動 延 長 因 子 の 受 容 体 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。

    TAT

・10 抗原の組織特異性について、イムノブロッ卜法により調ぺたところ、

精巣の他に、嗅覚系及び卵巣において同―分子量27kDa のタンパクとして存在し

ていることが示された。嗅覚系及び卵巣におけるTAT ・10 抗原の局在部位を免疫

組織化学的に検索した結果、嗅覚系においては嗅上皮の核に特に強い局在が認めら

(3)

れ、このほか嗅神経束及び嗅球に入り込む軸索部分に局在が認められた。この結果 より、

TAT‑10

抗原は嗅覚受容においても何らかの役割を果たしていることが示唆 された。卵巣においては、最初に卵原細胞から染色仁期にある卵母細胞の細胞質部 分に発現し、周辺仁期から卵黄胞期へと発達するにっれて抗原の局在部位が細胞質 及び核の両者から、核のみへと変化することが示された。卵黄形成が始まると抗原 の局在 はほとんど 観察されなくなった。このことから、

TAT‑10

抗原は卵巣にお い て は 卵 黄 形 成 前 の 卵 細 胞 の 成 長 に 関 わ っ て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。

    

数種の硬骨魚類の精漿中における精子運動抑制因子はカリウムイオンや精漿の 持つ浸透圧であることが知られている。しかし、テラピア精漿中の抑制因子はどち らにも属さないことが予備的実験により確かめられた。また、哺乳類ではタンパク 性の運動抑制因子が精漿中に存在していることが知られている。加えて、TAT‑30 抗原が精漿中に分泌される型のタンパクであることから、精漿中での精子運動抑制 とこの抗原との関連について調べた。部分精製した精漿タンパク成分は濃度依存的 に精子運動を抑制し、また、この抑制活性はTAT‑30 処理により顕著に減少した。

このことから、TAT‑30 抗原は精漿中に存在し、精子運動抑制因子のーっとして機 能していることが示された。精漿を

Superose6

を用いたゲル濾過により分画し、

TAT‑30

陽性画分を検索した結果、この運動抑制因子の本体は分子量約

2

,000 ,OOO の高分子タンパクであることが示された。また、免疫沈降反応法によりこの因子は、

TAT‑30

抗 原

(120kDa)

27kDa

及び

18kDa

タン パクがモ ル比

1

1

:1 で構成さ れ ている と推察され た。また、レクチンを用いた糖鎖の検索によりTAT‑30 抗原は 少なくともLens culinarlSs agglutinin (LCA) 親和性糖鎖を持っていることが示さ れた。免疫電顕による観察の結果、

TAT‑30

抗原はセル卜リ細胞によりさかんに分 泌されることが示された。同時に、ライソゾ―ム上にも局在が認められたことから、

余剰分、あるいは退行した抗原がさかんに取り込まれていることも示唆された。

    

以上の結果より、今回検索を行なった精子自己抗原は精子運動に関与するタン

パクで あることが 示された。TAT‑20 及び

TAT‑21

認識抗原の機能については今後

の課題として残された。

(4)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

Studies on the functions of sperm autoantigens    in the Nile tilapia, Oreochrornz.s nilotict.LS

( ナ イ ル テ ラ ピ ァ 精 子 自 己 抗 原 の 機 能 に 関 する 研 究 )

    水 産 有 用 魚 種 の ― つ で あ る ナ イ ル テ ラ ピ ア の 養 殖 に お い て は 、 本 種 の 強 い繁 殖 カ に 由 来 す る 密 殖 に よ り 魚 体 の 不 均 ― 化 を 生 じ る こ と が 問 題 点 の ― っ と して 指 摘 さ れ て お り 、 そ の た め 、 密 殖 防 止 を 目 的 と し た 雄 の 生 殖 の 人 為 的 統 御 法 の 確立 は 重 要 な 課 題 の ー つ で あ る 。 そ こ で 、 本 研 究 で は 、 最 終 成 熟 及 び 受 精 の 分 子 機 構に 関 す る 基 礎 的 知 見 を 得 る こ と を 目 的 と し て 、 本 種 の 精 子 変 態 期 に 発 現 す る タ ン パク 質 精 子 自 己 抗 原 に 対 す る モ ノ ク ロ ー ナ ル 抗 体 を 作 製 し て 、 こ の 抗 体 を 用 い た 機 能の 解 析 を 試 み た 。

    界 面 活 性 剤 を 用 い て 可 溶 化 し た テ ラ ピ ア 精 子 膜 タ ン パ ク 画 分 か ら 、 テ ラ ピア 精 子 自 己 抗 体 を 用 い たア フ イ ニテ ィ ー クロ マ ト グラ フ ィ ― によ り 自 己抗 原 を 精製 し た 。 こ の 自 己 抗 原 画 分 をBalb/c雌 マ ウ ス に 免 疫 し て モ ノ ク ロ ― ナ ル 抗 体 の 作 製 を試 み 、 4種 類 の 抗 体 を 得 た 。 − つ 目 の 抗 体 は27kDaタ ン パ ク を 認 識 し 、 ま た 免 疫 組 織 学 的 検 索 に よ り 、 こ の 抗 原 は 精 子 の 特 に 中 片 域 、 精 子 変 態 後 期 の 精 細 胞 、A及 び 初 期 B型 精 原 細 胞 に 局 在 す る こ と が 示 さ れ た 。 二 つ 目 の 抗 体 は 80kDa及 び 30‑40kDaの 複 数 の タ ン パ ク を 認 識 し 、 三 つ 目 の 抗 体 は80kDaの タ ン パ ク の み を 認 識 し た 。 こ れ ら の抗 原 は 共に 精 子 変態 後 期 の精 細 胞 及 び精 子 頭 部に 局 在 して い た 。 四 つ 目 の 抗 体 は120kDaの タ ン パ ク を 認 識 し 、 そ の 抗 原 は 精 子 頭 部 及 び セ ル 卜 リ 細 胞 、 輸 精 管 上 皮 細 胞 に 局 在 が 認 め ら れ た 。 これ ら の 抗 体はTesticular Antigen of Tilapiaの 頭 文 字 を と り 、 そ れ ぞ れ ′rAT‑10TAT‑20TAT‑21及 びTAT‑30と 命 名 し た 。

平 雄

晧 文

内 崎

山 山

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

  

次に、これらの抗体が認識する抗原の機能について調べた。まず、テラピア卵巣 腔液の精子運動延長活性とTAT‑10 抗原との関連について調べた。まず、卵巣腔 液中に精子運動延長因子が存在しているか否かを調べた結果、卵巣腔液を含むバッ ファ―で希釈した精子は、バッファーのみで希釈した精子に比較して一定時間後に 有意に高い運動比率を示したことから、テラピア卵巣腔液中にも精子運動延長因子 が存在していることが示された。次に、精子をTAT‑10 処理した結果、この因子 による運動延長が有意に抑制された。また、対照群として

TAT‑21

処理した精子 においては、この因子による運動延長抑制は認められなかった。この結果より

TAT‑10

抗原が、卵巣腔液中の運動延長因子の受容体であることが示唆された。

    TAT‑10

抗原の組織特異性について、イムノブロッ卜法により調べたところ、

精巣の他に、嗅覚系及び卵巣において同―分子量27kDa のタンパクとして存在し ていることが示された。嗅覚系及び卵巣における

TAT‑10

抗原の局在部位を免疫 組織化学的に検索した結果、嗅覚系においては嗅細胞の核に特に強い局在が認めら れ、このほか嗅神経束及び嗅球に入り込む軸索部分に局在が認められた。この結果 より、

TAT‑10

抗原は匂い受容においても何らかの役割を果たしていることが示唆 された。卵巣においては、最初に卵原細胞から染色仁期にある卵母細胞の細胞質部 分に発現し、周辺仁期から卵黄胞期へと発達するにっれて抗原の局在部位が細胞質 及び核の両者から、核のみへと変化することが示された。卵黄形成が始まると抗原 の局在はほとんど観察されなくなった。このことから、TAT‑10 抗原は卵巣にお い て は 卵 黄 形 成 前 の 卵 細 胞 の 成 長 に 関 わ っ て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。

    

次に、精漿中での精子運動抑制と

TAT‑30

抗原との関連について調べた。部 分精製した精漿タンパク成分は濃度依存的に精子運動を抑制し、また、この抑制活 性はTAT‑30 処理により顕著に減少した。このことから、TAT‑30 抗原は精漿中に 存在し、精子運動抑制因子の―っとして機能していることが示された。精漿を

Superose6

を用 いたゲル濾過により分画し、TAT‑30 陽性画分を検索した結果、

この運動抑制因子の本体は分子量約2 ,

000

,000 の高分子タンパクであることが示 さ れた 。ま た、レ クチ ンを 用いた 糖鎖 の検 索に よりTAT‑30 抗原は少なくとも ぬ

culinaris agglutinin (LCA)

親和性糖鎖を持っていることが示された。以上の 結果より、今回検索を行なった精子自己抗原は共に精子運動に関与するタンパクで あることが示された。

    

上述のように、ナイルテラピア精子自己抗原の機能解析より得られた結果は、

魚類の生殖生理機構を知るうえで重要な示唆を与えるに留まらず、増養殖における 生殖の人為的統御法確立のための基礎的資料を提供したものとして高く評価され、

本論文が博士(水産学)の学位請求論文として相当の業績であると認定した。

参照

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