NON ONLINE NEWS 60 2017.1.6 号
LPC 症候群1
親戚に PD が 2 人いる発病 56 歳の PNFA-CBD
1 年前から右の上肢にしびれがあり震えることもあった。整形外科に 1 年通院したがまったく改善せず、 整形外科医が脳に詳しい医師に診てもらうようにと名古屋フォレストクリニックを紹介した。 途中で接骨院で電気をかけたりしたが痛みは続いた。私は肩の挙上は容易にできることから五十肩は否定し、 整形外科が悩むほどだから頚椎症でもないだろうと思い、歯車現象が右だけに強く、握力は右 36kg、左 42kg だったのだが、整形外科的には左右差がなく不思議ですねと言われたという。はしを落とすという。 ひも結びはできたが、細かい作業はしにくそうである。 会社の上司から仕事のミスや約束忘れについても医師への受診を勧められ、診断書をもらうように言われて 1 人で運転して初診となった。素ぶりは健常で歩きも普通に見えた。本人は言葉で出にくいことを気にして いたし、妻からも指摘されている。 改訂長谷川式スケールは 14.5 しかとれず、簡単な復唱はできるし、どもっている感じもなかったが声は濁 っていて構音障害があった。眼球はよく動き、歩行に問題はなく、ふらつきや発汗過多・立ちくらみ・尿閉 はみられない。アプロウズサイン(拍手兆候)は陰性だが、CT を撮影する前に容易に CBD とわかったが、 それまでに 15 分くらい悩んだ。 CT では、左頭頂部に CBD 溝があり、ピック切痕もあり、頭頂葉萎縮で文句なく CBD だった。最初、こ の方は 1 人で来たのであるが、右肩がしびれていることと言葉が出にくいことを直してほしいというので、私に肩のことを頼まないでくれと思ったのだが、ふつう CBD は手先の話になるのであって彼の場合は肩か ら指先まで CBD の影響が出ためずらしい症例だったので診断に時間がかかった。 患者にとって不幸であるが、右上肢拘縮、構語障害、記憶低下の三病態が、すっきり 1 疾患で説明でき、 CT の萎縮部位も左優位のため腑に落ちた。私は「開業医なので診断確定はしてはいけないのでしょうが、 確定したいなら二か所の国立病院で 1 週間精査になりますし、治療優先ならすぐ開始しますが」と説明。 彼は後者を選択した。そして希望された診断書もあたりさわりのないよう記載した。 今回この症例をぜひ紹介したかった理由は、彼の母親といとこ(母の弟の息子)がパーキンソン病で、後者 と本人の発病が約 55 歳でぴったり同じだったことである。彼が PD であることは 100%ないと思うので、 CBD がパーキンソン病関連疾患と言われる理由はここにあるのであろうかと思えた。もっとも PD と言わ れている二人が実際は PSP とか CBD である可能性は捨てきれない。近年、PSP+DLB という病理組織の 高齢者もいると聞く。 また、CBD が整形外科から回ってきたという驚きもあった。 治療はリバスタッチとフェルラ酸サプリとした。発語促進の意味ではレミニールでもよいだろう。グルタチ オン点滴は一度試すように言っておいた。当然、自動車の運転はしないほうがいい。新年の初日の外来で、 よい勉強ができ幸福であった。あとは、グルタチオンが効きにくい CBD をどう治すかに集中しなければな らない。 用語解説 原発性進行性失語(PPA)には、SD、PNFA、LPA がありそれぞれの病理基盤は、FTD、CBD、ATD が代表的である。PNFA には PSP も多いようであるが、私は CBD の患者数が少ないため、復唱困難な患 者を診たら最初に CBD ではないかと疑うことを推奨している。臨床的に PNFA で死後に CBD が確定さ れた患者は、PNFA-CBD と表記される習わしになっている。
アルツハイマー型認知症特集
認知症の勉強の基本はアルツハイマーである。この患者はアルツハイマーとは、ここが違うからこうだ、と いう考え方で鑑別をおこなってゆく。つまりアルツハイマーを熟知していないと、その医師の診断能力は根 底から揺らいでしまう。 病理学者に言わせれば、90 歳未満であれば圧倒的にアルツハイマーが多いという。90を超すとアルツハ イマーは30%となり、かわりに神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)と嗜銀顆粒性認知症(AGD) が増える。ただし、AGD は他の認知症と合併していることが多く純粋な AGD は非常に少ない。この 2 疾 患は生前診断は無理である。臨床医は、なかなか進行しない高齢者は SD-NFT、ピックのような高齢者は AGD だと思っておけばよい。2 疾患が進行しにくいのは老人斑を持たないからである。老人斑は神経毒性 を持つと考えられる。 アルツハイマーの基礎を学ぶときに、最初にやる仕事は「海馬伝説の放棄」である。海馬萎縮4+の患者は ほとんどピック病であり、典型的なアルツハイマー患者で海馬萎縮 0.5+以下ということがよくある。
典型的なアルツハイマー。海馬萎縮はなし。
改訂長谷川式スケールで1)遅延再生ができない、2)後半失点パターンは、アルツハイマーらしさを強く 演出する。この方の海馬萎縮は 0.5 でしかないがほかの萎縮はアルツハイマー的である。慎重を期すなら ピックスコア、レビースコアが 3 未満であることを確認しておけばよい。アルツハイマーへの第一選択は、 ドネペジル。易怒にはチアプリドである。
ほとんどのレビーには老人斑がある。老人斑が先に集積して、そのあとでレビー小体チームが封入を始める 患者は、彼のようにアルツハイマー萎縮を呈するであろう。海馬萎縮1+、左右差なし、頭頂葉萎縮、たら こ状の側脳室体部、まさにアルツハイマーである。レビーらしい脳萎縮とはフロンタルレビーである。 彼は前医で MIBG 心筋シンチを行い、H/M 比が低下していたので初めからレビー小体型とわかっていた。 経過を診るうちに予定通りパーキンソニズムがでてきた。つまり PDD とは逆の経過(認知症→パーキンソ ニズム)であるからまさしく DLB である。改訂長谷川式スケールは急速に低下したがいまだに遅延再生は 満点である。臨床的にはまったくアルツハイマーらしさがないのである。 このような症例を経験すると、やはり PDD と DLB は違う病気だと感じる。病理学的には同じだけれども。 野球で言えば、先行されて逆転して勝った勝利、最初から先行して勝った勝利。結果(病理)は同じという ようなことである。
LPA を形成するアルツハイマー型認知症
近年、原発性失語(PPA)の SD,PNFA に LPA が加わった。LPA の日本語訳はない。脳血管性の失語症 でいう伝導失語に相当し、錯語やしゃべりにくさがある。この病理基盤でもっとも多いのはアルツハイマー 型認知症である。従って LPA を前頭側頭葉変性症(FTLD)に入れることはできないので、FTLD 概念が 崩壊して、FTD と PPA は分離されて考えられている。 最近の FTD というのは、かつての FTLD と近い概念である。ピック病、SD、PNFA の 3 疾患を含んでい て、ピック病は bv FTD(行動障害型 FTD)と呼ぶ研究者もいる。日本でも bv FTD と言うことが最先端 という雰囲気になった。それなら FTD-MND type と FTD-FLD type はどこへ行ったのかというと、彼ら の中でとくに異常行動が多い個体を bv FTD に入れるということであろう。 彼女は脳血流検査でアルツハイマーが確定している。矢状断では前頭側頭葉変性症(FTLD)のように見え るが、側脳室はたらこであり、アリセプト 10mgにても爆発しなかったので、やはりピック病ではない。 改訂長谷川式スケールは 2.5 しかとれない。失語と言うのは、3種類が独立して存在するわけではなく、 しゃべれないし相手の意味もわからない患者はいくらでもいる。CVD でいうところの全失語に近い。私の 診断名のつけかたは、最初におきた失語タイプで診断している。最初に語義失語で始まった患者なら SD と 診断し、その患者の病理基盤は前頭側頭葉変性症(FTLD)であるはずだ。 彼女は 4 軒の医師が診断をつけられなかったという。患者をたくさん診て、医学書と照合するという作業 を続けていかないと彼女は診断できないだろう。
SD-ATD の二症例
ところが、最近語義失語の強いアルツハイマーと思われる 2 例を経験した。85 歳と 72 歳であるが 2 人 とも PNFA、LPA とは言えず、語義失語のために改訂長谷川式スケールが得点できない。脳萎縮は穏やか であり、前頭側頭葉変性症(FTLD)の片鱗がない。 下段の男性は海馬萎縮に左右差があるが、よく見ると左内側に多発梗塞があり、その虚血による二次的海馬 萎縮の要素もある。つまり病理学的にも言われているが少数派なれど、SD-ATD はいるということであ る。
ATD 基盤ならチアプリドで陽性症状はとれるはず
彼は私が予想した通り、陽性症状はウインタミンでなくグラマリールで制御できた。肝障害のリスクを考え るとチアプリドで制御したにこしたことはない。前医のアリセプトで炎上しなかったこともアルツハイマー を推測させた。 結局彼は中核症状、陽性症状ともに一発改善した。レミニールを使った理由は、SD への第一選択だからで ある。病理基盤が前頭側頭葉変性症(FTLD)であろうと ATD であろうと失語系にはレミニールがよさそ うだという材料が増えた。フェルラ酸サプリで発語させるならバコパモニエラ系であるが、彼は発語障害で なく語義失語なので、レミニールで担当させることで易怒もあることなので 100M を担当させた。
FTD 病態を示す患者の1位は、アルツハイマー病理
病理の話ではピック症状を示す患者の病理で一番絶対数が多いのはアルツハイマー型認知症だそうだ。せっ かくコウノメソッドで、ピック病を検出する方法は教わったのに、実は病理はアルツハイマーだと言われて も困るであろう。しかし、コウノメソッド実践医はもう一段階進化しなければならない。 ピックっぽい患者はすべてピック病なのだと積極的に誤診することを勧めてきた。しかし、今後アンチコウ ノメソッドの学者と学会で論議する場面が増えると思うので、病理基盤のことは知っていなければならない。 正解は、「病理基盤はアルツハイマーを予想するが、ピック症状なのでピック用の処方が合う」と答えるこ とである。そういう言い回しをすれば、コウノメソッドは非科学的と批判されずに済む。だからコウノメソ ッドでの前頭側頭葉変性症(FTLD)の頻度はやはり15%と言えばいいのである。 ある病理学者が発現する FTD という言葉は「症状」のことを指しているほどだ。「FTD を示す症例のう ち一番多いのはアルツハイマー型認知症」という言い方をしている。 つまりアルツハイマー型認知症のフロンタルバリアント という患者をもっと知る必要がある。これはいっ たい何なのか? 成書に CT 画像付きで紹介されている患者は、多くが前頭葉萎縮の強い患者である。つまり生前には絶対ア ルツハイマーと思われない患者。画像も症状もピックだからだ。我々はほとんど自分の患者の剖検結果を知 ることができないので、ずっとこの患者群をピックだったものと信じている。疑ってもいない。 一方、生前でも病理が推測できそうな患者群は、ピック症状だけれどアルツハイマーの萎縮と言う場合。こ れなら病理はアルツハイマーかもしれないという考察は可能である。そういった患者群はふつうフロンタル バリアントとは言わないようだ。それならば前頭葉機能障害のあるアルツハイマーとでもいえばよいのだろ うか。彼の CT をみるとアルツハイマーとしか思えない。