試験データの信頼性の条件
国際的な枠組みと各国の技術インフラ
-(財)日本品質保証機構 特別参与 試験機関連絡協議会 代表幹事
「試験」の意味と関連用語
用語集ISO/IEC 17000の定義による - 試験(適合性評価活動の一要素)とは、 手順に従って行う、対象の特性の確定 確定(determination): 限界を明確にすること 適合性評価とは、 規定要求事項が満たされていることの実証 規定要求事項とは、 規格などで明示されたニーズ又は期待 試験結果は、何らかの「決定」に使われる試験に関する市場のニーズ
国際標準化の理念の実現
One standard, One test, Accepted everywhere
ニーズに応えるための前提条件 1) 試験所の能力に関する国際的な基準の確立 2) 個々の試験所の能力(competence)の実証 3) 試験方法に関する規格(法令)の整備 4) 試験結果の相互承認に関する取決め締結 上記の条件1)として広く利用される規格 ISO/IEC 17025 (日本では JIS Q 17025)
試験所の能力の実証方法
一般にISO/IEC 17025への適合 - 認定機関による認定(又は当局による承認) 基準に基づく文書審査、現地審査及び技能試験 試験結果に責任をもつ依頼者による承認 製品認証機関などの下請負契約の内容確認 協定グループの規則による同等性評価 グループ内の製品認証機関による相互審査 ISO/IEC 17025に基づく自己適合宣言 管理システムの文書化、情報公開による透明化 認定試験所が発行する試験報告書は、国 の内外で広く受け入れられる可能性をもつISO/IEC 17025の要点(1)
試験結果の信頼性を確保するための要件 - 管理システムの要求事項 組織:責任及び権限の適切かつ明確な配置 管理システム:各プロセスの文書化・実施・記録 契約内容の確認:ニーズに対応できることの確認 技術的要求事項 要員:能力を備えた管理職員による指揮・監督 試験方法:適切な方法の選択と妥当性確認 設備:測定のトレーサビリティの確保 報告書:必要に応じ、不確かさの推定と表示 トレーサビリティの確保には、各国における 技術インフラの整備が必要ISO/IEC 17025の要点(2)
試験データの相互承認のための要件 -トレーサビリティの源を確認する
- SI に基づく国家標準(CIPM-MRA傘下) 標準器、標準物質、試験所間比較により伝達 トレーサビリティの経路を確認する
- 校正機関認定制度による校正証明書 - 試験所内の校正システム 所内での比較測定及び内部標準物質の利用 - 規定された方法による合意標準 方法の実行及び試験所間比較の実施国際相互承認の基本的要件
測定のトレーサビリティの要素
切れ目のない比較の連鎖 測定の現場から国家標準・合意標準まで 測定の不確かさの推定と表明(段階ごと) 校正の手順と結果の文書化・記録 校正実施者の能力の実証(認定など) SI 又は合意標準との関連付け 定期的な再校正及び中間チェックISO/IEC 17025の要求事項(1)
(SI準拠のトレーサビリティが利用できる場合) 適切とされるトレーサビリティの経路
1) 認定ロゴ付きの校正証明書(ILAC-MRA傘下) 2) 一次標準器又は自然定数の利用 3) 上記2)による場合、国家標準との比較実施 4) 特定の計量仕様に適合した計量器の使用 5) 国際標準・国家標準の直接利用 (周波数など) 6) 自国のみでなく、他国の国家標準も利用可能 7) 上記6)の場合、国際比較への参加機関を選ぶ 8) 別の機関・別種の校正結果の組合せも利用可能ISO/IEC 17025の要求事項(2)
(SI準拠のトレーサビリティが利用できない場合) 適格な生産者が供給する認証標準物質 (CRM)の利用 COMAR、RMinfoなどのデータベースを参照 http://www.rminfo.nite.go.jp/ 関係者によって合意されている 規定の方法又は合意標準の利用 - 国際規格・国家規格が規定する方法によって 実現された標準(硬さ、騒音レベルなど) - 試験所間比較の結果による合意値など測定のトレーサビリティの課題
国家標準が全領域に整備されていない 他国の国家標準の利用は困難かつ高価 トレーサビリティの考え方が確立していな い分野がある(化学、生物学などの一部) 校正用の認証標準物質(CRM)が未整備 利用したい校正機関が認定されていない 審査員の理解が不十分な場合がある利用できるトレーサビリティ源
国家計量機関(NMI)が維持する標準 国際比較の結果がBIPMのウェブサイトに公開されている http://www.bipm.fr 計量法による制度(JCSS)の校正証明書 詳細についてはAIST及びNITEのウェブサイト参照 http://www.nmij.jp/ http://www.nite.go.jp/ 国際MRA傘下の校正機関の校正証明書 詳細についてはAPLAC及びILACのウェブサイト参照 http://www.aplac.org http://www.ilac.org 適格な生産者による認証標準物質 ISOガイド34(JIS Q 0034)による認定制度の利用などトレーサビリティ源となる
標準物質の認証のタイプ
標準物質の認証とは、 材料又は物質の特性を確定し、認証書の 発行につながる手順(製品認証とは異なる) - 基準方法による認証(定義の実現) - 室間試験(試験所間比較)による認証 - 計量学的アプローチに基づく認証 - JCSSの校正などに基づく認証トレーサビリティ源が得られない
場合の対策
試験(校正)設備の管理方法を文書化し、 適切な妥当性確認を行う 認定されていない校正サービスを利用す る場合、次の文書(コピー)を用意しておく - 校正サービス提供者の品質システム及び校正手順 - 校正サービス提供者が用いる実用標準などのトレー サビリティに関する証拠 - 提供された標準の不確かさを推定する手順及び結果 - その不確かさが試験・校正の最終結果に及ぼす影響 の程度を推定する手順及び結果設備の校正(トレーサビリティ)について
試験所側で注意すべき事項
試験結果に及ぼす影響の程度を明らかに
しておく(Fit for the purpose の精度管理)
適切な所内校正システムを構築する 内部標準物質の利用を含む 外部校正の方法と周期を適切に決める 中間チェックの手段を用意する トレーサビリティの説明資料を備えておく 試験所間比較(技能試験)への定期的参加
試験結果の受入れを左右する