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「内分泌かく乱物質」 平成 10 年度採択研究代表者

香山 不二雄

(自治医科大学医学部 教授)

「植物由来及び人工の内分泌かく乱物質の相互作用」

1.研究実施の概要 植物由来のエストロゲン様物質には様々なものが存在する。それらはエストロゲンとの構造相関 性あるいはエストロゲンレセプター(ER)への結合性または in vitro での ER 依存的転写活性化能等 によってエストロゲン活性のある物質として認識されている。しかしながら、それらの物質の生理機 能発現の過程では、種々の差異が有ることが観察されている。我々は、その反応性の多様性に関 して、植物由来および人工の内分泌撹乱物質の作用に関して、レセプター親和性、転写活性レベ ル、転写後制御、および生理機能の発現レベルと異なったレベルで検討を加えてきた。 テルペノイドの一種、フェルチニン、ツチガネジンが ER-αアゴニスト、ER-βパーシャル・アゴニ ストであることが明らかとなった。その機序としては、転写共役因子 TRAP20 が、これらのリガンドが ER-βに結合したときに結合阻害が起こっており、その立体構造の変化がこのような特異的な反応 性の原因になっていることが推察された。また in vitro では非常に強いアゴニスト活性を示すゲニス テインは動物体内ではエストロゲン活性をほとんど示さないことを見いだした。 また動物体内でのエストロゲン作用は転写制御ばかりでなく、転写後の mRNA 安定化制御も重 要であり、植物エストロゲンの種類によってその活性が異なることを明らかにした。また、今後、エス トロゲンによる mRNA 安定化制御の 分子機構を解明することにより、細 胞内の未知なエストロゲンシグナル 伝達経路を明らかにできる可能性 が予想される。 エストロゲンやクメステロール投 与によって誘導される遺伝子およ ぶ抑制される遺伝子を、PCR ディフ ァレンシャル・ディスプレー法を用 いて見出し、それぞれの発現量の 変化から種々の作用機序が徐々に 明らかとなってきた。また、エストロ 細胞質 生理作用 細胞核 GHs & Cytokines Gene p o l II ERE シグナル・トランス ダクション 転写制御 AAAA m R N A 分解制御 Estrogens 翻訳 タ ン パク 質 919

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-ゲンおよび DES によりエリスロポイエチン産生誘導が抑制されることが明らかとなった。また、免疫 系細胞では、植物由来および人工の内分泌かく乱物質が、自己応答性クローンの生存率を上昇さ せることが明らかとなってきた。 これらの機能的な解析の知見を人の健康リスク評価につなげるために、人工の内分泌かく乱物 質の農薬類と大豆イソフラボン量の血中濃度を、農家女性集団で検討し、内分泌かく乱作用の相 互的作用があるのかどうか、それぞれの血中濃度と骨密度などの健康指標との間に関連が有るの かどうかを調べるために疫学調査を行っている。 2.研究実施内容 研究目的 植物由来および人工のエストロゲン様物質の子宮に対する作用機序を分子レベルで明らかに すること、また発現遺伝子および抑制遺伝子の検索を行いその生理機能を解析すること、また免 疫系細胞、造血系細胞に対する影響を調べることを目的とする。 方法 1. 植物エストロゲン(クメステロール、ゲニステイン)をラットに投与し、エストロゲンによって子宮 特異的に誘導が見られる AUF1 遺伝子の発現を確認した。さらに、その発現制御を検討した。 2. AUF1 は mRNA の分解制御に関与する mRNA 結合タンパクの一つである。そこでラット子宮組

織における AUF1 の機能を明らかにし、さらに植物エストロゲンの作用機序解明の端緒を得る目 的で、AUF1 標的 mRNA のスクリーニングを行った。 3. フェルチニンを in vitro の転写活性評価系で評価することと転写共役因子との関連について 検討した。 4. 低酸素分圧曝露により誘導されるエリスロポイエチン産生誘導が、エストロゲン、DES、ゲネス チンの前投与により影響を受けるかどうか検討した。 5. エストロゲンにより誘導される遺伝子およぶ抑制される遺伝子を、PCR デイファレンシャル・デ ィスプレイ法を用いて検討を行った。 6. 血中イソフラボン濃度の定量方法が確立したので、農家女性の血中イソフラボン濃度と p,p’-DDE, γ-BHC、β-BHC、trans-nonachlor 等の有機塩素系農薬の濃度を LC+ECD を用 いて、またダイオキシン(PCDD+PCDF)濃度を Gene-Reporter アッセイ法の CALUX アッセイを用 いて測定をした。 結論 1. ラット子宮組織におけるクメステロールおよびゲニステインの AUF1 遺伝子発現制御能は異な っていることを見いだした。すなわち、クメステロールは E2 同様に AUF1 遺伝子発現を誘導した が、ゲニステインには AUF1 遺伝子発現誘導能は見られなかった。子宮組織での E2 による AUF1 遺伝子発現制御の一部は AUF1mRNA の安定化によって誘導されていることをすでに見 いだしているので、クメステロールおよびゲニステインについて AUF1mRNA 安定化能を検討し た。その結果、クメステロールは E2 同様に AUF1mRNA を安定化したが、ゲニステインは安定化

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しなかった。 2. AUF1 標的 mRNA をスクリーニングした結果、2 つの既知遺伝子(機能未知)が同定された。そ れらの子宮組織における遺伝子発現を確認したところ、E2 およびクメステロール投与にともなっ て AUF1mRNA 発現量の増加と相関して取得遺伝子の発現量が減少することを見いだした。 3. フェルチニンは ER-αアゴニスト、ER-βアンタゴニストとして働き、その ER-βアンタゴニスト 作用機序は転写共役因子 TRAP20 との結合阻害が原因となっていることが明らかとなった。 4. 低酸素分圧で飼育したラットは血中エリスロポイエチンの産生誘導が起こり高値を示したが、 エストロジェンおよび DES 前投与により、その上昇が有意に抑制された。しかし、ゲネスチンでは 抑制することができなかった。 5. エストロゲンおよびクメステロールで誘導される遺伝子の中であらたに見出されたのは、 Ramp2 とよばれる遺伝子で、これはアドレノメジュリン・レセプターの一部を構成している。このこ とから、エストロゲン投与後に急速に起こる子宮の浮腫化との関連に注目し、アドレノメジュリン投 与により、ほぼ同様の組織学的変化を起こすことが明らかとなった。また、抑制される遺伝子とし てクローニングした遺伝子は、N 末側に BTB/POZ ドメインが存在し、C 末側に6回繰り返しの kelch モチーフが存在しており、アクチン結合タンパク質の特徴を有していた。その機能の解析 を現在行っている。 6. 全国5カ所1500名余りの血液の採取が終わり、現在、血中農薬、ダイオキシン、血中イソフラ ボンを測定中である。現在までの解析では、血中農薬および血中ダイオキシン濃度は年齢ととも に上昇する傾向があり、ある農薬が高い個人は他の種類の農薬の血中濃度も高い傾向にあるこ とが明らかとなった。 3.研究実施体制 香山グループ ① 香山不二雄(自治医科大学、主任教授) ② ・ mRNAの安定化制御機構 ・ フェルチニンの作用機序、エストロゲン誘導遺伝子解析 ・ エストロゲン抑制遺伝子の解明 ・ エリスロポイエチン産生制御に関する研究 ・ 農家女性の血中農薬濃度、イソフラボン濃度解析 山田グループ ① 田耕路(九州大学大学院、教授) ② ・ ヒト乳癌MCF-7細胞の増殖に及ぼすイソフラボンの作用 ・ 植物エストロゲンの分析法の確立 山下グループ ① 山下優毅(産業医科大学免疫学、教授) ② 内分泌撹乱物質のマウス脾臓細胞に対する影響

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平野グループ

① 平野 靖史郎(国立環境研究所)

② 植物エストロジェンの骨芽細胞に対する影響

4.研究成果の発表 (1) 発表論文

○ Horiguchi H, Oguma H, Kayama H, Sato H, Fukushima M: Dexamethasone prevents acute cadmium-induced hepatic injury but exacerbates kidney dysfunction in rabbits, Toxicology and Applied Pharmacology, 174, 225-234, 2001.

○ Ikeda K, Arao Y, Otsuka H, Nomoto S, Horiguchi H, Kato S, Kayama Terpenoids found in the umbelliferae family act as agonists/antagonists for ER(alpha) and ERbeta: differential transcription activity between ferutinine-liganded ER(alpha) and ERbeta. Biochem Biophys Res Commun. 2002 Feb 22;291(2):354-60.

○ 相川浩幸、木之上高章、吉田貴彦、香山不二雄、坂部貢、ラット脳発育期に母体を介してス チレン曝露を受けた仔の行動への影響 臨床環境医学10巻1号 33-41, 2001

○ Arao Y, Kikuchi A, Ikeda K, Nomoto S, Horiguchi H, and Kayama F. A+U-rich-element RNA-binding factor 1/heterogeneous nuclear ribonucleoprotein D gene expression is regulated by oestrogen in the rat uterus.Biochem.J, 361; 25-132, 2002

○ D-H. Han, Y. Miyazaki, H. Tachibana and K. Yamada. Optimization of estrogenic activity detection method using human breast cancer MCF-7 cells. J. Fac. Agr., Kyushu Univ., 44 (3・4), 339-348, 2000.

○ 山田耕路, 韓達昊, 宮崎義之, 菅野道廣, 立花宏文. ヒト乳癌 MCF-7 細胞の増殖に及ぼす イソフラボンの作用. 大豆たん白質研究, 3, 54-58, 2000.

○ D-H. Han, H. Tachibana and K. Yamada. Inhibition of environmental estrogen-induced proliferation of human breast carcinoma MCF-7 cells by flavonoids. In Vitro Cell. Develop. Biol. Animal, 37, 275-282, 2001.

○ 山田耕路, 韓達昊, 菅野道廣, 立花宏文. 大豆イソフラボンのエストロゲン活性発現抑制効 果. 大豆たん白質研究, 4, 123-128, 2001.

○ Kuroda, E., Sugiura, T., Okada, K.,, Zeki, K. and Yamashita, U.: Prostaglandin E2 up-regulates macrophage-derived chemokine production but suppresses IFN-inducible protein-10 production by APC. J. Immunol., 166: 1650-1658. 2001

○ Okada, K.,Sugiura, T., Kuroda, E. and Yamashita, U.:Phenytoin promotes Th2 type immune response in mice. Clin. Exp. Immunol., 124: 406-413. 2001

○ Yamashita, U., Sugiura, T. and Kuroda, E.:Effect of endocrine disrupters on immune responses in vitro. J. University of Occupational and Environmental Health, 24: 1-10. 2002

(5)

総説 ○ 呉博聖, 韓達昊, 安田伸, 山田耕路. 大豆イソフラボンの生体調節機能とその定量. 生物機 能研究会誌, Vol. 5, 6-12, 2001. ○ 香山不二雄 特集 内分泌撹乱物質の基礎と臨床 序論 最新医学 57(2) 181-182, 2002 ○ 香山不二雄 特集 内分泌撹乱物質の基礎と臨床 アプローチ 最新医学 57(2) 183-189, 2002 ○ 荒尾行知、池田和博、香山不二雄 特集 内分泌撹乱物質の基礎と臨床 植物エストロゲ ンと人工化学物質 最新医学 57(2) 197-202,2002 ○ 香山不二雄 アルキルフェノールのヒトの健康影響 日本医師会雑誌 127(2) 216-220, 2002 (2) 特許出願 特になし

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