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解 説 一方 乳成分にも違いが見られた 分娩後30日以内 産牛100頭規模の農場としている 損失額の計算は で乳脂肪率が5 を超える場合は栄養不足で体脂肪の ①雄子牛の出生頭数減少 雄子牛の売却減 ②雌子 過剰な動員が起こっていると判断できる この時期に 牛の出生頭数減少 更新牛購入コスト ③出荷乳

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解 説

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はじめに

乳牛の繁殖成績はここ10年で大きく低下し、受胎率 の低下や空胎日数の延長がみられている。例えば、全 国の乳用牛群検定成績(検定成績)の年次推移では、 平成4年(1992)に空胎日数は132日であったのが、 15年(2003)には158日となり、26日間延びている (図1)。この背景として、遺伝的改良による高泌乳化 や一農場あたりの飼養頭数が増加したことなどが挙げ られている。確かに、この10年で経産牛1頭あたり乳 量は7,994kgから9,093kgに、そして、1農場あたりの 経産牛頭数も35頭から50頭ほどに増えている。しかし、 乳量が増加したから繁殖成績は悪化したと単純に考え て良いのだろうか。また、飼養頭数が増えたことによ り発情の見逃しも増えているというのは本当なのだろ うか。最近では、分娩後60日を過ぎても発情が見つか らずに獣医師にホルモン処置を依頼する例も多くなっ ているようである。乳牛の繁殖は今どうなっているの か、そして、その悪化を引き起こしている原因は何か を探る必要があろう。 そこで、北海道根室管内の酪農家ならびに根釧農試 の調査研究事例から繁殖に影響する要因について検討 した。この成績をもとに作成した分娩前後の健康状態 北海道立根釧農業試験場 研究部・乳牛繁殖科

草刈 直仁

を個体毎に把握する「周産期モニタリング」、検定情 報を活用して牛群の繁殖を改善するための問題点を農 場毎に把握する「繁殖改善モニタリング」について紹 介したい。

2 

繁殖成績の現状と

経済的損失

1)繁殖成績が良好な農場の乳量・乳成分 1つの農場の中で乳量が多い牛と少ない牛とを比べ れば、確かに乳量の多い牛は繁殖成績が悪いように見 えるかもしれない。では、農場毎に見た場合、繁殖成 績の良い農場は悪い農場よりも乳量水準は低いのだろ うか。これを根室生産連の協力のもと根室管内のデー タから解析した(根釧農試、2004)。 根室管内で乳用牛群検定(検定)を実施している 710農場について初回授精日数と空胎日数でそれぞれ 成績上位の農場から25%ずつ4区分した。これを3年 間続けて解析し、常に初回授精日数および空胎日数が 上位25%に該当した37農場(繁殖良好群)と、下位 25%の56農場(繁殖不良群)とを比較した。その結果、 繁殖良好群の農場は、全乳期を通じて不良群に比べ乳 量水準が有意に高いという成績であった(図2)。

乳牛の繁殖改善モニタリングについて

乳牛の繁殖改善モニタリングについて

∼繁殖成績悪化の要因と改善に向けたモニタリング∼

∼繁殖成績悪化の要因と改善に向けたモニタリング∼

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解 説

一方、乳成分にも違いが見られた。分娩後30日以内 で乳脂肪率が5%を超える場合は栄養不足で体脂肪の 過剰な動員が起こっていると判断できる。この時期に 乳脂率5%を超える牛の割合は、繁殖良好群に比べて 繁殖不良群で多かった。また、乳タンパク質率はエネ ルギー充足の目安になるが、繁殖不良群では乳タンパ ク質率が泌乳前期を通じて繁殖良好群よりも有意に低 く推移した(図3)。つまり、泌乳前期にエネルギー が不足していたと考えられる。 これらのデータから、繁殖成績の良い農場は、乳牛 の泌乳能力を十分に引き出す良好な飼養管理を行って おり、そのことが繁殖にも良い結果をもたらしている と考えられる。 2)繁殖成績の悪化による経済的損失 乳牛の繁殖成績が悪化すると経済的な損失を招き、 酪農経営に多大な影響を及ぼす。これまで、いくつか の試算がされてきたが、ここでは十勝農協連が2004年 に行った例をもとにどれくらいの損失が生じたのかを 見てみよう。 1994年における十勝管内の検定実施酪農家の空胎日 数は平均で123日であったが、2004年には151日に延長 していた。これをもとに空胎日数延長による経済的損 失を試算したのが図4である。計算しやすいように経 産牛100頭規模の農場としている。損失額の計算は、 ①雄子牛の出生頭数減少(雄子牛の売却減)、②雌子 牛の出生頭数減少(更新牛購入コスト)、③出荷乳量 の減少による収入減、④授精回数増加に伴うコストを もとにした。 その結果、経産牛100頭規模の牛群では空胎日数が 28日延びたことにより約510万円の損失が生じた。こ のうち、最も大きいのが出荷乳量の減少による損失で 全体の7割を占めている。空胎日数の延長により牛群 の平均搾乳日数が延び、1日1頭あたりの生産乳量が 低下する。これが最も大きな損失である。ちなみに、 この試算から、空胎日数が1日延びることで1頭あた りおよそ1,800円の損失となった。

乳牛の繁殖成績に

影響する要因

1)空胎日数を延長させる要因とは? 繁殖成績の指標として最も良く使われる空胎日数に ついて見てみよう。検定成績などに示される牛群の平 均空胎日数は、あくまでその農場の平均値である。同 じ農場内でも牛によって空胎日数は異なっている。何 故違いが出るのだろうか。根釧農試の乳牛40頭につい て分娩8週前から各種項目を調査し、空胎日数との関 係を調べ、相関のあった項目を表1に示した。 1)周産期の体調不良(肥満、糖代謝異常、体脂肪 動員、難産、後産停滞) 2)分娩後のエネルギー不足(主にエネルギー、他 にタンパク質・ミネラルも関与) 3)発情が見つからない(初回排卵・初回発情の遅 れ、発情微弱、初回授精の遅れ)、 この3つが空胎日数を延長させる大きな要因と言え る。 2)周産期の体調不良は何故起こる 肥満・糖代謝異常と難産 前述の40頭の調査では、分娩の1∼2週前から飼料の

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解 説

摂取量が大きく低下してエネルギーが不足した牛ほど 難産が多発する傾向にあった(図5)。難産牛は、そ の後ケトーシスや四変など周産期病も発生しやすく、 除籍される割合が増加し、最終的に受胎する牛の割合 も減少した(図6)。 難産の直接的な原因は、主に分娩時の性ホルモンバ ランスの不均衡にあるとされており、このバランスを 良好に保つためには性ホルモンの原材料となるタンパ ク質、コレステロールやその合成に必要なエネルギー の充足が必要である。これらが不足する場合、つまり、 分娩の1∼2週前に飼料の摂取量が不足することで難 産 が 発 生 し や す い よ う で あ る 。 乾 乳 期 に 肥 満 傾 向 (BCS:3.75以上)にある牛や糖代謝異常(インスリン 感受性低下)を示す牛は分娩前に飼料摂取量が低下し やすく(図7、図8)、飼養管理に注意が必要である。 ここで言う「糖代謝異常」とは、人間で言えば糖尿病 (Ⅱ型)に当たる病態である。妊娠は糖代謝異常のリ スク因子で、妊娠末期に肥満と運動不足が加わると、 一層、糖代謝異常が起こりやすくなるとされている。 後産停滞の発生 周産期の体調不良を起こすもう一つの要因に後産停 滞がある。牛の胎盤は母体側と胎子側が剥がれにくい 構造をしているので、他の家畜に比べて後産停滞の発 生が多い。今回調査した乳牛では、後産停滞は分娩の 1∼2週前に血液中の遊離脂肪酸(NEFA)濃度が高い 牛に多発していた。血液中のNEFA濃度は飼料摂取量 が少なくエネルギーが不足する場合やストレスが加わ った時に高い値を示す。最近の研究では胎子娩出後に 母体側から胎子側の胎盤が剥がれる過程に免疫反応が 関わっているとされている。NEFA濃度が高くなると 白血球の機能を抑制することが培養系を用いた実験で 明らかにされていることから、分娩前の血中NEFA 濃 度の上昇が後産停滞の発生を増加させる要因になって いる可能性がある。 つまり、分娩の1∼2週前に飼料の摂取量が不足し たり、何らかのストレスが加わると後産停滞が発生す るリスクが高くなる。したがって、後産停滞を減らす にはセレンやビタミンEの充足はもとより、十分に飼 料が摂取できるように、また、妊娠末期のストレス軽 減に努める必要がある。後産が停滞した牛では子宮内 膜の修復が遅れて黄体遺残が起こりやすくなったり、 受胎率が低下しやすくなる。 A vsB; p<0.01, a vs b, c vs d; p<0.05

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解 説

周産期の健康維持のためのポイント 難産や後産停滞を含めた健康状態の悪化が分娩後の エネルギー不足、つまり飼料摂取量の立ち上がりを悪 くする原因の一つになっている。今回の調査でも、分 娩前の乾乳後期にTDN充足率(日本飼養標準、1999) が低い牛は、分娩後の充足率も低い傾向が見受けられ た(図9)。周産期に栄養充足をはかるために最も重 要なのは、ルーメンの機能を正常に保つことである。 そのためには、①乾乳期に繋ぎっ放しにせず運動させ る、②食い止まりを起こすような飼料の急変を避ける、 ③分娩予定の3∼4週前から乾乳後期の増し飼い(濃 厚飼料2∼3kg程度)を始める、④飼料は十分(乾物重 量でおよそ12kg/日)に食い込ませる、ことが重要で ある。 3)分娩後の栄養充足 産褥機と泌乳初期の栄養充足との関係 分娩後2ヶ月を一般に泌乳初期と呼ぶが、ここでは 分娩直後の3週間を産褥期と呼び、分娩後4週から8 週を泌乳初期と呼ぶことにする。産褥期は、分娩した 後に急激に増加する乳量、それに追いつかない採食量、 その中で、子宮を修復しなければならいなど、乳牛に とっては過酷で不安定な時期である。この時期に、食 い止まりをおこさずに採食量を増やして行くことが、 その後の泌乳初期の栄養充足につながる。産褥期と泌 乳初期のエネルギー充足率の関係を図10に示した。産 褥期のTDN充足率が高い牛ほど泌乳初期にもTDN充足 率が高いことがわかる。つまり、産褥期の飼料摂取の 立ち上がりが良い牛ほど泌乳初期の飼料摂取量も多 い。いかに産褥期が重要かわかるだろう。しかし、こ れは分娩後に濃厚飼料をどんどん増やしていけば良い ということではない。理想を言えば粗飼料と濃厚飼料 の比率を変えずに採食量が増えるのが良い。これが混 合飼料の給与、TMR方式である。分離給与であれば濃 厚飼料の増給は、3∼4週間かけて行い、1日4∼6 回にわけてトップドレスすればTMRに近い状況が作れ る。分娩後最初の3週間いかに粗飼料をコンスタント に食い込ませるかが重要である。濃厚飼料の増給速度 が早すぎるとルーメンアシドーシス(pHの低下)を起 こし、ルーメン内の繊維分解菌の増殖が抑えられ、繊 維消化率が低下し、ひいては飼料摂取量の低下、つま り食い止まりへとつながっていく。 分娩後の栄養充足と乳成分 分娩後の栄養不足は乳成分に現れる。産褥期にエネ ルギー充足状況が異なる牛群で、TDN充足率が80%以 上であった牛(H群)とそれ未満だった牛(L群)で 乳成分に違いが見られた。つまり、TDN充足率80%未 満のL群では産褥期に乳脂率が異常に高い値(5.0%以 上)を示す牛が多く(図11)、また、泌乳初期に乳タ ンパク質率の異常に低い値(2.8%未満)を示す牛の割 a vs b; p<0.05

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解 説

合も多かった(図12)。産褥期に乳脂率が異常に高く なるのは、分娩前後に採食量が低下したことで体脂肪 の過剰な動員が起こり、血中に動員された遊離脂肪酸 が乳脂肪に移行するからである。このような乳脂率の 異常高値は分娩後1週目に多く見られ、3週目まで続 くこともある。体脂肪を使い果たすと乳脂率は正常範 囲まで低下する。分娩後3∼4週目頃までに飼料摂取 量が要求量の90%程度を超えれば、その後の繁殖は良 好である。しかし、これ以降も飼料摂取量が伸び悩む とエネルギー不足によりルーメン内の菌体タンパクの 生成量が低下し、結果として乳タンパク質率の低下が 起こる。それが分娩後30日以降に見られる乳タンパク 質率の異常低値となって現れる。これは比較的長く続 くことが多いので月1回の検定成績からでも十分に問 題牛を検出することができる。 分娩後の乳成分値と繁殖成績 乳牛73頭について泌乳初期の乳成分と繁殖成績との 関係を調べてみた。乳脂率ならびに乳タンパク質率と もに正常範囲であった31頭(全牛の42.5%)の最終受 胎率は96.8%、空胎日数は105日であった(図13)。こ れに対し、とくに乳タンパク質率に異常低値が見られ た22頭は、乳脂率の値にかかわらず最終受胎率は低下 し、空胎日数も140日以上と延長していた。しかし、 乳脂率の異常高値のみが見られた牛は、栄養不足が長 引くとことはなかったものと考えられ、空胎日数も 124日であった。このように分娩後の産褥期および泌 乳初期の乳成分は、栄養充足状況を反映し、繁殖成績 とも一定の関係が見られる。 4)卵巣機能の回復と発情発見 周産期の体調不良と栄養不足が卵巣機能の回復を遅ら せる 初回授精を早く開始することは空胎日数を短縮させ ることにつながる。そのためには、分娩したあと40日 以内に初回排卵が起こり、分娩後60日以降には周期的 に 発 情 が 来 る こ と が 望 ま れ る 。 し か し 、 根 室 地 区 NOSAIが8戸565頭の乳牛に定期的な繁殖検診を実施 した調査では、半数近い246頭の乳牛が初回授精前に 繁殖障害の治療をされる結果となった(中尾(茂)ら、 2004)。これらの結果から生産現場において卵巣機能 が正常に回復する牛は半数程度と推定される。正常に 回復する牛とそうでない牛とではどこが違うのだろう か。分娩後の卵巣機能について見てみよう。 分娩後の乳牛37頭について周期的な排卵が起こって いるかどうかを血中プロジェステロン濃度の測定と卵 巣の超音波検査で調べてみた。その結果、分娩後の卵 巣機能の回復が正常だったのは14頭で、残りの23頭に は何らかの異常が認められた。卵巣機能の回復に異常 が見られた牛のほとんどは周産期に健康上の問題があ った。さらに、分娩後のTDN充足率(日本飼養標準、 1999)は正常な牛に比べて低く、エネルギー不足の状 態であった(表2)。

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解 説

エネルギー不足は発情発見率を低下させる!? 分娩後のエネルギー不足は繁殖に影響することは多 くの研究者が指摘してきた。そこで、分娩後のエネル ギー不足と発情の関係について調べてみた。まず、根 釧農試の経産牛27頭を産褥期のTDN充足率が80%以上 のH群(17頭)と80%未満のL群(10頭)の2群に分 けた。産褥期にエネルギー不足が顕著であったL群で は、分娩後4週以降の泌乳初期にも飼料摂取量がなか なか増えず、TDN充足率は100%に達しなかった。分 娩後100日までの成績を両群で比較したところ、H群で は発情発見率([発情発見回数/排卵回数]×100)が 73%であったのに対し、L群では30%と低かった(図 14)。そこで、エネルギーが不足している場合は発情 行動が弱くなり、発情見逃しにつながると考えられた。 高泌乳は繁殖に影響するのか? 乳量の増加に伴い繁殖成績が低下していることか ら、高泌乳と繁殖性との関連性を指摘する報告も見ら れる。高泌乳牛では性ホルモンの分泌や発情行動に何 か問題があるのだろうか。1万㎏以上の高泌乳牛につ いて、卵巣活動や性ホルモンと発情との関係を詳しく 見てみよう。 発情周期に伴って変動する血漿プロジェステロン濃 度(性ホルモン)、さらに発情の発現ならびに疾病発 生状況について2頭の高泌乳牛の成績を図15に示し た。泌乳初期の栄養充足状況も併せてグラフの右に示 した。2頭のうち泌乳初期の栄養充足率が良好であっ た492号牛は、初回排卵は順調でその後の発情もよく 発見できており、空胎日数は109日とほぼ良好な繁殖 成績を示した(図15上段)。この牛は、血漿プロジェ ステロン濃度の推移から見てホルモン分泌も良好で、 初回排卵以降は他の疾病にも罹患していない。 これに対して、泌乳初期にTDN充足率が低かった 453号牛は、分娩後35 日目に初回排卵が見られ、その 後も周期的に排卵していた(図15下段)。しかし、4 回の発情周期を回帰しているにもかかわらず、1日2 回の発情観察では一度も発情行動および徴候を確認で きなかった。これを鈍性発情と呼ぶが、血漿プロジェ ステロン濃度はいずれの周期においても低い傾向にあ った。今回は測定していないが、発情行動を引き起こ すエストラジオール(プロジェステロンと同様にコレ ステロールから合成されるホルモン)の濃度も低かっ たのではないかと推測された。この牛は泌乳初期の栄 養 充 足 率 が 低 く 、 泌 乳 最 盛 期 に 至 っ て も 血 清 中 の NEFA濃度が高かったことから、長期にわたってエネ ルギーが不足していたと考えられた。 453号牛は泌乳中期以降に2回のホルモン剤による 治療を経て297日目の人工授精(AI)でようやく受胎 している。本牛は、分娩前からDMIが低下傾向にあり、 血清中のNEFA濃度が高く、総コレステロール濃度も 低 か っ た 。 分 娩 前 か ら の 飼 料 摂 取 量 の 低 下 と 高 い NEFA濃度が分娩後の健康状態に影響を及ぼしたのか もしれない。 このように、泌乳初期以降に栄養が充足され健康状 態も良好に維持されるなら、高泌乳牛であっても卵巣 機能は早期に回復して明瞭な発情徴候を現し、分娩後 100日程度で受胎可能であると考えられる。そのため には、乾乳期の肥満予防や分娩1∼2ヶ月前の削蹄な ど健康面に気を配り、分娩前後の粗飼料摂取を低下さ せないように注意する必要がある。 図16に、繁殖成績を低下させる要因についてその概要 をまとめて示した。

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解 説

「周産期モニタリング」

で健康チェック

分娩後に乳牛の卵巣機能が回復するためには、十分 な栄養摂取が必要であり、そのためには周産期の健康 が最も重要となる。前述したとおり、周産期の健康状 態が、卵巣機能の回復を左右するとも言える。そこで、 周産期の健康状態を分娩時点で評価し、繁殖障害のリ スクを分娩時点で予測するモニタリングを考案した。 モニタリング項目は、簡単に実施できるBCS、分娩難 易度、後産停滞の有無、初乳の比重ならびに初乳ケト ン体(3-ヒドロキシ酪酸)の5項目に絞り、試験成績 をもとに基準を設定してチェックシート形式にした (図17)。 ①乾乳期のBCSをチェックする 分娩の1∼2ヶ月前にはボディコンディションスコ ア(BCS)を測定する。太りすぎや痩せすぎがないか をチェックし、3.25∼3.5であればスコア0(問題なし)、 それ以外はスコア2(問題あり)とする。BCSはファ ーガソンのUV法を用いるが、今回の目的だけから言 うと、とりあえずBCSは3.0∼3.75までの4段階だけを 覚えれば十分である。乾乳期のBCSの目標は3.25∼3.5 とされている。 ②分娩状況を記録する 分娩時には分娩介助の有無や難産があったかどうか 記録する。分娩房がある場合は、分娩が始まる半日ほ ど前に分娩房に入れて分娩させる。検定で用いられて いる分娩難易度で言うと、難易度1(無介助で自力分 娩)はスコア0、難易度2(軽度な介助)はスコア2、 難易度3以上は難産としスコア4とする。 ③後産の排出を確認する(後産停滞のチェック) 子牛を出産して12時間を過ぎても後産を排出しない 場合を後産停滞とする。後産排出の有無は必ず確認す る。後産停滞がなければスコア0、あればスコア4、と する。 ④初乳の比重で分娩前の栄養代謝をモニターする 初乳の比重やケトン体は分娩前の栄養や代謝の状態 を反映している。初乳は分娩後最初に搾乳したものを 検査に用いる。 比重は初乳の温度によって変わり、搾乳直後に測っ た比重は室温で測った比重よりも0.008低い値となるの で注意する。「周産期モニタリング・チェックシート」 には室温(約20℃)の場合の基準を示している。今回、 比重の測定は市販の初乳用比重計(富士平工業K.K) を用いた(写真1)。初乳は温度が低くなると粘稠性を 増すので、室温で測る場合には比重計を浮かべてから 5分程度放置する必要がある。比重1.060以上(初産牛 は1.050以上)をスコア0とし、1.050未満(初産牛は 1.040未満)であればスコア4と判定する。これが搾乳 直後であれば比重1.052以上でスコア0、比重1.042未満 でスコア4となる。

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解 説

初乳の比重は、初乳中の乳タンパク質率と高い正の相 関(r=0.904)があり、ほとんど乳タンパク質率によっ て決まる。つまり、初乳の比重を評価するということ は、ほとんど初乳中の乳タンパク質率を評価している ことと同じである。そして、この乳タンパク質率は分 娩前の1∼2週間にルーメンで合成される菌体タンパ ク量などによって左右されると考えられる。したがっ て、初乳の比重を測定することは、分娩前のルーメン における菌体タンパク合成が良好であったかどうかを 評価していると言える。実際に、分娩前に糖代謝能が 異常だった牛は、正常な牛に比べて飼料摂取量が少な く、初乳比重も低かったという成績が得られている。 ⑤初乳中ケトン体で健康をモニターする ケトン体は、市販の牛乳中ケトン体測定試験紙(サ ンケトペーパー、三和化学)を初乳に浸して1分間反 応させ、乳白色∼紫色の色調表から判定する(写真1)。 この試験紙は、ケトン体の一種である3-ヒドロキシ酪 酸という物質を検出しており、初乳中で擬陽性以上の 濃度で検出されれば、ケトーシス予備軍と考えた方が 良い。陰性はスコア0、擬陽性はスコア2、陽性はスコ ア4とする。 これら5項目について付けたスコアを合計したもの が個体の周産期スコアとなる(図17)。個体の周産期 スコアが6ポイント以上の牛は、健康状態に問題があ り、その後、周産期病や繁殖障害などを発生するリス クが高いと判定できる。このような問題牛には特別な 注意が必要となる。 今回の周産期モニタリングでチェックする項目に は、特別困難なものはない。初乳比重計とケトン体試 験紙さえあればすぐに実行できる。 実際に6農場353頭の乳牛を調べたところ、周産期ス コアが6ポイント以上の牛では繁殖成績が悪化し、周 産期病も多発していた(表3)。

5 

検定情報等を活用した

「繁殖改善モニタリング」

繁殖成績を良好に保つためには、周産期の健康に加 え、分娩後の栄養充足や適切な発情発見技術もモニタ リング項目として重要である。各農場の繁殖に関わる 管理の良し悪しを、検定情報や農場の記録から総合的 に評価する「繁殖改善モニタリング・チェックシート」 を付図1(最終ページ)に示した。今回作成したチェ ックシートに必要な数値を記入していくことで、繁殖 成績を向上させるために何を改善すべきかを客観的な 数値として捉えることができる。モニタリングは大き く分けて4つの項目から成るので、各項目ごとに説明 する。 ①牛群の繁殖成績評価(概要) 牛群成績:農場の繁殖成績の現状を把握するためのモ ニタリング項目である。 牛群成績表の初回授精日数、初回授精受胎率、空胎 日数等の数値をそのまま使用する。初回授精日数は75 日以内、空胎日数は115日以内が目標である(図18)。 この基準は、根室管内の検定実施酪農家の上位25%が クリアしている水準である。除籍率は、ここでは疾病 等による淘汰のみを問題とするので、乳用売却を除い た除籍頭数が経産牛全頭に占める割合とする。 繁殖効率:分娩後120日までに何%の牛が授精され、 150日までに何%の牛が妊娠しているかおおまかに把 握する。毎月実施される検定成績表からデータを拾う ことができる。授精率は、各月の検定日に分娩後91∼ 120日に該当する牛を拾い出し、そのうち何頭が授精 済みであるかを調べてその割合をチェックシートに記 入する。妊娠率は、各月の検定日に分娩後121∼150日 に該当する牛の番号と授精日を拾い出し、その授精で 妊娠したかどうかを調べ、妊娠した牛の割合をチェッ クシートに記入する(図18)。この割合を出すために 過去1年分の個体成績を集計する。目標値は、授精実 施率(分娩後91∼120日)が85%以上、累積妊娠率 (分娩後121∼150日)が60%以上である。これは根室 管内酪農家の上位25%のデータを基準に設定してい る。 ②周産期モニタリング牛群チェック(周産期管理を評価) 前述の周産期モニタリング個体チェックシートの周 産期スコアを集計し平均値とスコア3以下、6以上の

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解 説

牛の割合を計算する(図19)。周産期スコアの平均値 は3以下が目標である。個体の周産期スコアの目標値 として、スコアが3以下の牛が60%以上、スコア6以上 の牛が10%未満であれば良好な管理と言える。これに より乾乳期管理の良し悪しがわかる。 ③乳成分の評価 (栄養充足の評価) 個体乳成分のモニタリング:産褥期と泌乳初期の個体 乳成分は、分娩後の栄養充足を反映する。この時期の 栄養に問題があると卵巣機能の回復に異常を来すこと になる。モニタリングには、毎月の検定情報のうち個 体成績のデータを使う。個体乳成分は、乳脂率と乳タ ンパク質率について異常値を示す牛の割合で評価す る。目標値は根室管内の検定データを解析して設定し た。 乳脂率については、検定日数が30日以内の牛の乳脂 率を拾い出し、そのうち乳脂率高値(5.0%以上)を示 す牛の割合を1年分ほど集計してチェックシートに記 入する(図20)。この割合が12%以下であることを目 標とする。12%を超えている牛群は、分娩直後の飼料 摂取量が著しく低く、過剰な体脂肪動員が起こってい る牛が多いと判断できる。 乳タンパク質率については、検定日数が31∼60日、 61∼90日に該当する牛の乳タンパク質率を調べ、2.8% 未満の低値を示す牛の割合を同様に1年分調べチェッ クシートに記入する。31∼60日の低値割合が25%以下 であることを目標とし、25%を超えている牛群は、泌 乳初期にエネルギー不足の状態にある牛が多いと判断 できる。この時期のエネルギー不足は繁殖障害につな がる。 バルク乳成分のモニタリング:バルク乳成分のうち乳 タ ン パ ク 質 率 で 牛 群 全 体 の エ ネ ル ギ ー 過 不 足 を 、 MUN濃度でタンパク質とエネルギーのバランスを把 握することができる。放牧期のMUN濃度目標値は根 釧農試(2003)、それ以外の目標値は根室管内酪農家 およそ1,500戸の平均値±標準偏差から設定している (図20)。 乳タンパク質率は夏と冬に分けて平均値と最高値、 最低値とをチェックシートに記入する。MUN濃度は、 放牧期と舎飼期で基準が異なるので時期別に平均値と 最高値、最低値を記入する。バルク乳成分は1ヶ月に 2∼3回のデータが示されるので、これらの値をその 地域の平均値とともにグラフに記入し、その推移をモ ニターするとよい(図21)。バルク乳の乳タンパク質 率が3.1%を下回る月に授精した牛は受胎率が低下する 傾向がある(図22)。乳タンパク質率は粗飼料の品質 や摂取量が変化したときに変動しやすいので、サイレ ージのロットが変わった時などはよくチェックする必 要がある。 ④発情発見の評価 空胎日数を短くするために、分娩後100日以内の授 精回数、ならびに発情をスタンディングやマウンティ ングで発見した割合をモニタリングする。 授精回数(分娩後100日間):授精回数のデータは農場 での繁殖記録、または個体の検定成績から分娩後100 日以上在籍した牛について100日以内に何回授精され

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解 説

たか集計する(図23)。分娩後50日から授精を開始し ている場合には1.2回、60日から開始していれば1.0回 を目標とする。簡便な方法としては、①の授精実施率 (分娩後91∼120日)の項でピックアップした牛につい て授精回数の合計を頭数で除すると105日以内の授精 回数になる。 発情を行動で発見する:人工授精する場合に、発情を スタンディングやマウンティングといった発情行動で 見つけた割合が50%を超えていれば、牛が発情をよく 発現し、発情発見も良好と考えられる。発情を行動で 発見した割合を知るには、牛が発情行動を現すことが できる環境で1日2回発情観察を行う必要がある。そ して、授精を依頼したときに、発情を行動でみつけた か、あるいはそれ以外なのかを記録し1年分集計する (図23)。発情行動から発情を確認した場合の受胎率は 高い(表4)。

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まとめ

産乳量の上昇に伴い、周産期を健康に乗り切ること の重要性が増している。周産期モニタリングおよび繁 殖改善モニタリングを活用することで繁殖成績が向上 し、経営の安定化が図られることを望みたい。 主な参考資料 1.北海道酪農検定検査協会:年間検定成績、(1993∼2003) 2.北海道立根釧農業試験場:「乳牛の繁殖改善モニタリングシス テム」、平成15年度北海道農業試験会議(成績会議)資料(2004) 3.根 室 生 産 農 業 協 同 組 合 連 合 会 : 根 室 管 内 乳 用 牛 群 検 定 成 績 (2000∼2002) 4.十勝農業協同組合連合会:「十勝管内における繁殖成績の現状 と経済的損失」、冬期講座(繁殖管理対策)資料(2004) 5.北海道立根釧農業試験場:「草地酪農における飼料自給率70% の放牧技術」、北海道農業試験会議(成績会議)資料(2003) 6.草刈直仁:「乳牛の繁殖成績を向上させるためのポイントが見 えてくる」、Dairy Japan、8月号、P10∼15(2004) 7.中尾 茂、中本慎二、後閑賢一(2004):「繁殖障害診療が乳 牛の生産性向上に及ぼす影響」、日本産業動物獣医学会(北海道)、 北海道獣医師会誌、第48巻、8号、P27(2004) 8.大滝忠利、草刈直仁、宍戸則雄、中尾 茂、糟谷広高、山川政 明、小関忠雄:「分娩状況ならびに栄養と繁殖管理方法が乳牛 の分娩後初回授精受胎率に与える影響」、北海道畜産学会報、第 46巻、P31-36(2004) 9.草刈直仁:「高泌乳牛の栄養摂取と発情発現」、臨床獣医、第22 巻、12号、P16-21(2004) ●ETニュースレターNo.28 ………1,800円 ●ETニュースレターNo.27 ………1,800円 ●ETニュースレターNo.26 ………1,800円 ●ETニュースレターNo.25 ………1,800円 ●ETニュースレターNo.24 ………1,800円 ●ETニュースレターNo.23 ………1,800円 ●ETニュースレターNo.22 ………1,800円 価格は送料・税込み ●その他資料 LIAJ News《当団機関紙》 ─隔月 発行─ 卵通信《当団の体外受精卵情報》 ─年4回発行─

DIARY SIRE DIRECTORY 2005-8月 2005 黒毛和種種雄牛案内

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