■ 短 報
混合病棟で小児に関わる看護師のプレパレーションに
対する認識と実践の状況
Nurses recognition and practice about psychological preparation for children in
child health nursing in the combined child and adult ward
宮内 環
1寺井 孝弘
2本庄 美香
1Tamaki MIYAUCHI Takahiro TERAI Mika HONJOU
キーワード :子ども、プレパレーション、看護師、混合病棟
Key words :child, psychological preparation, nurse, child and adult ward
本研究の目的は、混合病棟で小児に関わる看護師のプレパレーションの認識と実施状況を調査することである。小 児科を標榜し、500床以上の総合病院に勤務する看護師500名のうち混合病棟に勤務する69名を分析対象とした。質 問紙調査の内容は、看護師の属性、プレパレーションに対する認識(意味・効果・必要性)と実施状況である。分析は χ2検定、Fisherの直接法を行い、有意水準は5%とした。調査の結果、プレパレーションの認識が9割であるのに対し、 実施状況は6割弱に過ぎなかった。また、実施するためには時間の確保が必要であり、物品(ツール)の充実や、子ど もの成長発達と実施方法に関する知識の有無も影響していた。小児から高齢者までの入院患者を対象とする混合病棟 でプレパレーションを実践するためには、子どもの成長発達を配慮した病棟環境の工夫と同時に、子どもの認知発達 や実施方法に関する知識や技術を獲得することが必要である。
Ⅰ.はじめに
近年、わが国は少子化が進み、小児の入院数が減少 している1。また、成人患者と比べると、小児は診療 や看護に人手を要するが採算面で報われない現状があ るため2、小児科の縮小や閉鎖が相次ぎ、大人と子ど もが一緒に入院する混合病棟への移行が進んでいる3。 入院児に付き添う家族を対象とした先行研究による と、小児だけが入院する病棟よりも、混合病棟に入院 する小児の家族の方が満足度は低く、その理由として 小児に合った病棟環境になっていないことが挙げられ ている4。しかし、入院する子どもにとって病棟環境 は、治療を受ける場としてだけではなく、短期間の療 養であっても成長に向かう生活の場として整えられな ければならない。このことは「病院のこども憲章」で 謳われており5、子どもの権利である。 わが国では、日本看護協会が「小児看護領域で特に 留意すべき子どもの権利と必要な看護行為」を1999 年に提唱した6。この中には、検査・治療・病状・処 置などに関する説明を子どもと養育者に対して適時に 行い、納得・了解・理解が得られるように努めること や、その際、発達に応じたわかりやすい言葉や絵を用 いて説明する必要性が述べられている。これを契機と して小児医療現場では、治療や検査を受ける子どもに 対し、認知発達に応じた方法で説明を行い、子どもや 親の対処能力を引き出すような環境および機会を保障 するプレパレーションを実施するようになった7。プ レパレーションには、“病院に来る前(第1段階)”、“発 達心理的身体的アセスメント(第2段階)”、“医療行為 などの説明(第3段階)”、“処置中のディストラクショ ン(第4段階)”、“検査や治療終了後のpost procedure play(第5段階)”の5段階があると言われ8、子どもの 痛みや心理的混乱を軽減し、治療へのコーピングが高 まると報告されている9‒11。つまりプレパレーション は、医療において子どもの権利を保障する倫理的な実 践と言うことができ、小児だけが入院する病棟だけで1 関西国際大学保健医療学部 Faculty of Health Sciences, Kansai University of International Studies 2 金沢医科大学看護学部 Faculty of Nursing, Kanazawa Medical University
なく、今後増えることが予想される混合病棟において も実施頻度を高める必要があると言えるだろう。 プレパレーションの実施者となることが多い小児に 関わる看護師を対象とした調査を概観すると、効果が あることや必要性への認識は高いが、プレパレーショ ン自体を難しく捉えてしまうことで実施に至らない実 態がわかっている12。一方、混合病棟に勤務する看護 師だけを対象としたプレパレーションの実態報告は皆 無であった。 そこで今回、小児だけが入院する病棟に比べ、様々 な制約がある混合病棟に勤務する看護師のプレパレー ションの認識と実施状況を検討することにした。
Ⅱ.研究目的
混合病棟に勤務する看護師の小児に対するプレパ レーションの認識と実施状況を調査することである。Ⅲ.用語の定義
プレパレーション:治療や検査を受ける子どもに対 し、認知発達に応じた方法で病気、手術、検査、その 他の処置について説明を行い、子どもや親の対処能力 を引き出すような環境および機会を与えることであ る。本研究ではプレパレーションのプロセスを、先行 研究8を参考に、“第1段階:受診前あるいは入院前の 情報収集・アセスメント”、“第2段階:医療行為など の説明”、“第3段階:処置中のディストラクション”、 “第4段階:検査や治療終了後のpost procedure play”の4つとした。 子ども:3歳から11歳までの子どもとし、ピアジェ の認知発達理論で述べると前操作期から具体的操作期 とした13。
Ⅳ.研究方法
1.調査対象 小児科を標榜し、500床以上の総合病院で、人口約 100∼250万人の県内19施設と約500∼800万人の県 内11施設に勤務する病棟・外来看護師500名のうち 混合病棟に勤務する看護師69名である。 2.調査方法 各施設の看護部長に依頼文にて研究を依頼し、対象 となる看護師へ依頼文、自記式質問紙、返信用封筒を 配布してもらい、記入後、看護師個人で研究者へ返送 してもらった。調査期間は平成25年1月から3月であ る。 3.調査内容 質問紙の構成は先行研究14, 15を参考として以下とし た。 1) 対象者の属性 (1)看護師の外的要因:所属病院の設置主体、所属病 院の種類。 (2)看護師の内的要因:年齢、小児看護経験年数、最 終学歴、プレパレーションに関する勉強会参加の有 無、参加した勉強会の情報入手方法、勉強会に参加し なかった理由。 2) 看護師のプレパレーションに対する認識 プレパレーションの意味・効果・必要性について4 件法で回答を求め、「プレパレーションを行う上で必 要と思うもの」については2件法で回答を得た。 3) 看護師のプレパレーションの実践 プレパレーション実施状況は4件法で回答を求め た。プレパレーションのプロセスごと(“第1段階: 受診前あるいは入院前の情報収集とアセスメント”、 “第2段階:医療行為などの説明”、“第3段階:処置中 のディストラクション(気晴らし)”、“第4段階:検査 や治療終了後のpost procedure play”)の実施状況は、 研究者らが作成した各段階の具体的な内容を紙面上に 示し、2件法で回答を求めた。 なお、本研究の子どもの定義については文章で質問 紙に明示した。 4.分析方法 対象者の外的・内的要因と、プレパレーションの認 識・実施状況の基本統計量を算出した。4件法で回答 を得たプレパレーションの認識・実施状況は2群にグ ループ化した。プレパレーションの認識と実践状況と の関係は、χ2検定、Fisherの直接法を行って検討し、 有意水準は5%とした。また自由記載は質問の目的に 沿って内容分析を行った。 5.倫理的配慮 金沢医科大学の研究倫理審査委員会で承認を得た (平成24年12月17日:番号152)。研究参加の意志は 質問紙の返信によるとし、文書で「参加の任意性の強 調」「無記名個別回収」「データの匿名性の保証」「デー タ管理の安全性の保証」「データは研究目的以外では 使用しない」「公表予定」について説明した。また、 配布に際しては強制力がかからないように配慮をお願 いした。Ⅴ.結果
1.対象者の属性(表1) 表1に 示 す。 小 児 看 護 経 験 年 数 は1.0∼26.0年 で あった。「プレパレーションに関する勉強会への参加 (n=69)」は「あり」が約2割、「なし」が約8割であり、 自由記載で回答を求めた「勉強会に参加しなかった理 由」を内容分析すると(n=23)、最も多かったのが 「勉強会があるのを知らなかった」で47.8%、「関心が無かった」が26%、「身近で勉強会が無かった」「時間 が無かった」がそれぞれ8.0%、「所属先で実施してい ない」「会費が高い」がそれぞれ5.1%であった。 2.プレパレーションの認識状況 プレパレーションの意味(n=69)は「知っている∼ 少し知っている」が94.2%、次に効果(n=68)は「あ 表1 対象者の属性 年齢(平均±SD(歳)) 小児看護経験年数(平均±SD(年)) 33.29±9.25 4.54±4.76 項目 n=回答者数 回答数(%) 所属病院設置主体 大学病院 18(26.1) 独立行政法人国立病院機構および公立病院 23(33.3) 医療法人 28(40.6) 最終学歴 看護師養成所 1(1.4) 看護専門学校 48(69.6) 短期大学 8(11.6) 看護系大学 11(15.9) 大学院 1(1.4) 基礎教育でプレパレーションを学んだ経験 あり 30(43.5) なし 28(40.6) 覚えていない 11(15.9) プレパレーションに関する勉強会への参加経験 あり 12(17.4) なし 57(82.6) 表2 プレパレーション4段階別実施状況(n=39) 回答数(%) している していない 第1段階 アセスメント 子どもの状況をアセスメントし、どのような言葉で説明するかを考える 32(84.2) 6(15.8) これから経験する処置・検査・手術に対する子どもの気持ちを聴いている 22(57.9) 16(42.1) 子どもの発達段階をもとにツールの選択をしている 26(68.4) 12(31.6) 子どもが今から処置・検査・手術を受ける気持ちになっているかを確認している 12(31.6) 26(68.4) 保護者が同席するか否かについて、子どもに希望を確認している 11(28.9) 27(71.1) 第2段階 説明 具体的にわかりやすい言葉で説明している 32(82.1) 7(17.9) 子どもと目の高さを合わせて説明している 33(84.6) 6(15.4) 対処法(例:痛みを感じた時に手を上げるなどサインを決める)について説明し ている 10(25.6) 29(74.4) 子どもが質問した場合には具体的にわかりやすく答えている 22(56.4) 17(43.6) 処置・検査・手術の直前に説明をしている 11(28.2) 28(71.8) 処置・検査と同時に説明をしている 4(10.3) 35(89.7) 子どもに進行状況を説明している 11(28.2) 28(71.8) 第3段階 ディストラクション (処置中の気晴らし) 常に声をかけ、励ますようにしている 27(69.2) 12(30.8) 愛着のあるおもちゃやタオルを持ってもらう 16(41.0) 23(59.0) 好きな音楽を聴いてもらう 8(20.5) 31(79.5) 処置室をキャラクターで飾り付けるなど工夫している 28(71.8) 11(28.2) 医療器具や椅子をキャラクターで飾り付けるなど工夫している 4(10.3) 35(89.7) 看護師自身の持ち物や衣服をキャラクターで飾り付けるなど工夫している 14(35.9) 25(64.1) 第4段階 『検査・処置・手術 後のケア』の実践 子どもの頑張りを褒めるようにしている 39(100.0) 0(0.0) 終わったことを言葉で子どもに伝えるようにしている 32(82.1) 7(17.9) 気持ちの表出を促すような声かけをしている 22(56.4) 17(43.6) 一緒に遊ぶことで気持ちの表出を促すようにしている 7(17.9) 32(82.1)
る∼どちらかといえばある」が98.5%、そして必要性 (n=68)は「とても必要∼ある程度必要」が97.1%で あった。また、“プレパレーションを行う上で必要と 思うこと”(n=69複数回答)は、「子どもとのコミュ ニケーション技術」と「子どもの認知発達の知識の習 得」がそれぞれ78.3%、「時間の確保」が75.4%、「適 切な方法の習得」が72.5%、「人員の確保」が52.2%、 「物品(ツール)の充実」が47.8%、「場所・スペース の 確 保」が34.8%、「診 療 報 酬 へ の 位 置 づ け」が 17.4%、「その他」2.9%の自由記載の中には「医師の 協力」があった。 3.プレパレーションの実施状況(表2) 実施状況(n=69)は、「実施している∼ときどきし ている」が56.5%、「あまりしていない∼していない」 が43.5%であった。実施していない理由(n=30複数 回答)は、「時間が足りない」が56.7%で最も多く、 「人員が足りない」が33.3%、「方法がわからない」が 20%、「子どもの反応に対応できるかわからない」が 13.3%、「実施することで子どもに恐怖を与える」が 10%であった。また「その他」13%の自由記載の内容 分析では(n=9)、「病棟で実施する機会・習慣が無い (55.6%)」が半数を占めていた。 次に、実施状況を段階別にみると表2の通りである (n=39)。8割以上が実施していると回答した項目は、 第1段階の『子どもの状況をアセスメントし、どのよ うな言葉で説明するかを考える』、第2段階の『具体 的にわかりやすい言葉で説明している』『子どもと目 表3 段階別実施状況と「プレパレーションを行う上で必要と思うこと」との関連(n=39) プレパレーションを行う上で 必要と思うこと カテゴリー 第2段階: 具体的にわかりやすい言葉で 説明している 計 p値 している(人数(%)) していない(人数(%)) 適切な方法の習得 必要 25(78.1) 2(28.6) 27 0.02 必要と思わない 7(21.9) 5(71.4) 12 計 32(100.0) 7(100.0) 39 プレパレーションを行う上で 必要と思うこと カテゴリー 第2段階: 具体的にわかりやすい言葉で 説明している 計 p値 している(人数(%)) していない(人数(%)) 物品(ツール)の充実 必要 19(59.4) 1(14.3) 20 0.04 必要と思わない 13(40.6) 6(85.7) 19 計 32(100.0) 7(100.0) 39 プレパレーションを行う上で 必要と思うこと カテゴリー 第2段階:子どもに進行状況を説明している 計 p値 している(人数(%)) していない(人数(%)) 認知発達の知識の習得 必要 11(100.0) 19(67.9) 30 0.03 必要と思わない 0(0.0) 9(32.1) 9 計 11(100.0) 28(100.0) 39 プレパレーションを行う上で 必要と思うこと カテゴリー 第4段階: 終わったことを言葉で子どもに 伝えるようにしている 計 p値 している(人数(%)) していない(人数(%)) 認知発達の知識の習得 必要 27(84.3) 3(42.9) 30 0.04 必要と思わない 5(15.6) 4(57.1) 9 計 32(100.0) 7(100.0) 39 プレパレーションを行う上で 必要と思うこと カテゴリー 第4段階: 終わったことを言葉で子どもに 伝えるようにしている 計 p値 している(人数(%)) していない(人数(%)) 物品(ツール)の充実 必要 19(59.4) 1(14.3) 20 0.04 必要と思わない 13(40.6) 6(85.7) 19 計 32(100.0) 7(100.0) 39
の高さを合わせて説明している』、第4段階の『子ど もの頑張りを褒めるようにしている』『終わったこと を言葉で子どもに伝えるようにしている』であり、第 3段階には8割以上実施している項目は無かった。 4. プレパレーションの段階別実施状況と “プレパ レーションを行う上で必要と思うこと” との関連 (表3) 第2段階の『具体的にわかりやすい言葉で説明して いる』の実施割合では、「適切な方法の習得」と「物品 (ツール)の充実」で有意差があり、いずれも必要と回 答した群の実施割合が高かった。また、第2段階の 『子どもに進行状況を説明している』の実施割合は「子 どもの認知発達の知識の習得」が必要と回答した群に おいて高かった。 第4段階の『終わったことを言葉で子どもに伝える ようにしている』の実施割合は「子どもの認知発達の 知識の習得」と「物品(ツール)の充実」で有意差があ り、いずれも必要と回答した群の実施割合が高かっ た。