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お約束

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Academic year: 2021

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(1)

お約束 そのさん 携帯から買い換えた、ハイブリッドので電話を受ける、環。 「はい、もしもし………なーに、しーな? ………えええぇぇぇー?!マジ?…………へえぇぇ…… で?………だよね。で、………やっぱり。ん、もちろん参加する。 …………了解。じゃ、またね」 「さぁ、パーティだ」 と、独り言の後、PHS から電話をかける、荒井。 「………あ、すいません、わたくし、荒井と申します。 ………あ、はい、そうです………はい、お願いします。 ………とーどー!どうなってるんだ一体!今のは誰だ?!」 驚いているのは、籐堂も同じ。 「どーなってるってこー、そっちこそどーやってコレの番号を?! ………通知されたぁ?!………うそ………えーと、その件については、 …………違う違う違う違う、こーだって知ってっしょー、」 と、通話を続けながら、ベランダへと逃げ出す。 「…………今のはー、西森だってばー。…………あれー? そんな戯けた事、言っちゃってたりしたー?忘れちまったんかねぇ? ………そうそう、忘れて忘れて。……で、わざわざどうしたん、 こーが電話してくれる、なんて。珍しいにも程があるけど」 追求は後回しにした、荒井。 「もっと珍しいことがある。聞いて驚くな。 那智が、結婚するそうだ……大山さんと。 ………なるほどねぇ…そういえばそうだったな。誰かさんは、 そういうのだけは、妙に事情通だったっけか。…………そうか? …………連絡くれなかったーって、お前さん、音信不通だったろうが。 メールは梨の礫だし、あれだけあった PHS、どれをとっても通じないし、 いつまで待っても、新しい番号、てぇ奴連絡して来なかったじゃ…」 耳を離していた籐堂、そろそろいいかな、と。 「で、それからどうしたん、なちもとのネタは?………あ、やっぱり? 正式に招待、されるわけないぢゃん、うちらが。………でしょー? で、後日みんなで会うかどうか、ってんでしょ?…………ってこー、 そりゃ無いでしょ、もちろん参加するってば。………そんなわきゃねーって。 …………はいはい。んでは、当日」

(2)

通話を切り上げて、部屋に戻ると、 最初に電話を受けた面子が、面白げに笑って出迎えてくれている。 佐久間に、メールを送る、荒井。cc で、那智にも。 「籐堂の連絡先を見つけました。 ただし、どういうわけだか、取り次ぎがいらっしゃいます。PHS なのに。 当然ながら、女性です。籐堂曰く、従姉だ、そうですが、 儂にはそうは思えません。籐堂の従姉、なるひとには会ったことはありますが、 多分別人なのではないかな、と。 いずれにしても、連絡事項は全て伝えました。出席する、そうです」 送信後、思い出して、再度電話。…別のところに。 「………荒井です。………ん、証拠湮滅。 ………どうぞ。その方が有り難い。…………それじゃ… 何ですか?…………駄目と言おうとそうするつもりでしょう。 ………勝手にしなさい。………じゃ」 即座に、荒井に電話をかける佐久間。 「もしもし、………はい、そうです。 荒井くん、籐堂くんの連絡先を、………えぇ、急いでいます。 できるだけ早く、教えていただきたいんですけれど。 ……あら、そうですか?では、お待ちしております。 それにしても、荒井くん、……一体いつから、PHS を使うように? …………そうですわね。では、後ほど」 片や、那智に一報入れる、籐堂。 「………どーもー、とーどーでーっす。 それにしてもなちもとー、あれだけ言いたい放題してたくせにー、 やっぱりきっちりとっ捕まっちゃってー。このこのー。 ………そりゃそーだってばさ。なちもとってーば、うちらの中では、 一番フツーの野郎でねぇか。所詮フツーの野郎は、あーゆータイプの、 ………そーそ、大山さんみたいヒトから、ぜぇったい逃げ切れるもんでないって。 にしても、いいなぁ。おしゃーせにー。……ってー、 お気楽に言うかー?それって、ひとりで出来る事違うぢゃないかーい」 いつもと違って、軽くあしらって、の、那智。 「少なくとも、お主は不可能ではあるまい。 そのつもりがあるなら、そのつもりで行動すればよかろうに。 ………それとも、誰かを待っているのか?……お主のような奴、が? ………悪いが、悪い冗談にしか聞こえん。自分で言っておいて何だが。

(3)

まぁ、いずれにしても、…………そうだな。 ん、では、当日。……あぁ、それでは」 切れてから、気付く。…公衆電話からだ、と。 「…………?」 「あなたぁ、ゴハンですよぉ」 「……おう、今行く」 電話を受ける、環。 「はい、………何だ、洋子? ………ん、大山さんのこと?…………そりゃそうだってば。あたしだって、 ………そっかぁ、あんたたちは、呼ばれてるかフツーに。んー… ………あ、無理もないんだ、ほんとマジで。あんた知らないでしょ、 あたしらが、しーなの時、どれくらい無茶なコト、やってのけたのかって。 …………そういうコト。だから、うちらみんな、呼ばれてないの納得してるけど。 それに、確かに、呼ばないほうがいいと思うしね。………だって、 自分のことだったらって考えたら、絶対居てほしくない面子だと思うけどなぁ」 佐久間宅を訪れる、荒井。 「失礼しまーす」 「いらっしゃいませ。お待ちしていました」 「……しかし、いつ来ても広いお家ですねこちらは。………そうそう、コレが、 さっきお話した、籐堂の連絡先です。……では、これで失礼します」 「あら、お忙しいのかしら?」 「いえいえ、ちょっとばかり、三和土にある靴に見覚えがあるモノで。 可及的速やかに、退散させていただきます」 「……中川さん、バレてしまいましたわ。急いでくださいね」 …玄関先まで、見送りに出る佐久間。 冗談のように広い敷地の、玄関から表門に向かって、 中川に追われて荒井が走っていく、のが徐々に小さくなってゆく。 部屋に戻って来た、籐堂。 「また、お電話ありました」 「………で、何て?」 「失礼ですけれど、籐堂くんとどのようなご関係でしょうか、と…」 「………佐久間さん?!」 「正直に、答えてしまいましたけど。まずかったですか?」 笑って、いる。思い切り確信犯。 「あのねえぇぇぇ」 「隠しておきたかったのなら、事情を教えてくれれば…」

(4)

「…って、ねぇ、」 「思わず、話し込んじゃいました。お久しぶり、だったから」 「………知り合い?!」 「あら、知らなかったんですか?」 電話を受ける、荒井。 「………おかけになりました番号は、現在使用されておりません。 …………大きな声を出しなさんな。受話器が壊れる。 ………壊されたのか?………嫉妬に狂ったお相手に? ………をいをい、 ……お前さんらしくないなぁ。そういう時には、三百代言並べ立てて、 奇麗さっぱり話をずらしちまう、んじゃなかったっけか? ………あ、そう。そうすると、さっきの主張は、撤回するんだな? 惚けなさんな。さっき言っただろう自分で、今出たのは従姉だ、と」 固まる、籐堂。 「…………違う違う違う違う、 西森だって言ったじゃんよぉ…………って、えー、そのー、んー、 ………お願い。オフレコにしといて。秘密。内密。…こー、 判るっしょー、ヒトには誰にでも秘密ってーのがあるーってことくらいはぁ。 ………ったくお約束な…僕だって人間だってばさぁ!」 知らずお株を奪って、話をずらしてしまった荒井。 「そう猛りなさんな。わーったから。 でもな、信じろって方が無理だってことくらい、理解した方がいいな。 仮にも、本人に直接会ったことがある面子に、 そういう欺瞞が通用しないことくらい、押さえておくべきだろう。 取り敢えず、儂は中立を標榜する。それ以上は協力出来ない。 どうせなら、もう少し上手い嘘を吐いてくれ。騙されなきゃならない、 とかいう間抜けなオチを付けさせられる方の身になって、 ………そういうこと。じゃ、当日」 環には、佐久間から電話が。 「どうしたの、しーな? ……はっきり言いなよ、遠慮しないで。らしくないじゃない。 …………思わせぶりの効用、って、しーなが言ったことでしょ? 忘れたなんて言わせないからね。………言ってみて、 大抵のことじゃ、驚いたりしないこと、あーたは知ってるはず、だよね?」

(5)

では遠慮なく、と、佐久間。 「実は、先程荒井くんに、籐堂くんの連絡先を、教えていただいたんです。 それで、……直接、お話したいことがあったので、電話してみましたら、 ………そう、なんですけれど、……PHS で、ですけれど? ……そうかも、しれません、けれど…………えぇ、実は、 ………その、お相手が、……私の、旧くからの知り合い、 だったものですから。………環さん?!そんな反応しか、ないんですの?」 他にどうしろっていうの、と、環。 「ふーん、以外に、何を言えってーの?大体たらしが、 そーゆー奴な事くらい、あたしらの間で、今さら言いたてるほどのこと? ……まぁ、その相手の子、大丈夫かなぁって、気にはなるけど、 でも、いい加減、うちらお互い、いい歳こいて、そんなお節介、 …………って、まさか、しーなの知り合いの子って、未成年だったり?! ………じゃあ、あたしが、がたがた騒ぎたてる筋合いじゃない、 と思うけど。…………そりゃそーでしょ。運命共同体でもないのに。 ………え?……そーゆー訳でも、ないけど。………結婚?何言いだすかな、 ………大体今それどころじゃないもん。忙しいの、シゴト」 一同集合、の当日。 「で、どうだったの、新婚旅行」 「そんな大袈裟なものではない。…まぁ、久しぶりに息抜きが出来て、 お互い、いいリフレッシュになったが」 「………ふぅーん」 「…何が言いたい、籐堂」 「学生はいいよなぁー、ってー」 実は、学生結婚、だったりする。 「何とでも言え」 「……このにーちゃん、しあーせで余裕かましまくってるしー」 「って、妬いてるのか」 「………よりによってこーに言われたくはないなぁー」 「では、私が言いましょうか?珍しいですね、籐堂くんが嫉妬…」 「佐久間さんに言われるのは、別の意味でもっと嫌ぁ」 密かに、頷く他の 3 人。 昼間っから酒、のコースを邁進。 「休日昼間、なのに、新妻ほったらかして来てよかったの?」 「あの子はあの子で、後付けのバチェラーパーティ、だそうだが」 「…定義からして、矛盾かましまくってるじゃねーか」

(6)

「そう言いなさんな」 肩を竦めてみせるだけ、の荒井。 「そうするとー、そっちの会場には、独身女性が…」 「………たらし、他に考えること、無いの?相も変わらず」 「最近、お付き合いが手狭になったもんで、禁断症状がーって、 ……どーしてみんな納得しないだよー!」 「禁断症状、は納得する。しかしお主、いつになったら落ち着く気だ?」 「………それは、さっさと結婚したらどーだーというコトかいなちもと?」 あっさりうなずく、那智。ついでに、佐久間も。 「籐堂くんは、早く身を固めた方が、よろしいんじゃないかしら」 「………相手がいたらねぇ、とかって、言わせないで欲しいー」 「居ないのか?おまいさん、未だに、ひとり残らず遊び相手か?」 「ってー、人聞きの悪いコトをぉぉぉ」 「あ、そうか。今はひとりだけ、か」 「やっぱり?…同棲?」 自爆寸前、の籐堂。でも、だれも停めない。 「異性に決まってるじゃーって、…言わせるんじゃなーい!」 「言いたかったから言ってる、ようにしか見えんぞ」 「……あははは……ははは…」 「全く、ほんっと、予想通りの行動だよねぇ、こいつってば」 「そこまで言うー?!」 ヤケ気味の籐堂、 他の面子よりも少ない酒量でほーかい、の体質を無視して暴走。 に対して、ペースが下がり気味、の残り 4 人。 「環さんは、どうなってらっしゃいますの?」 「………何が?」 「相変わらず、仕事が恋人、を主張なさいます?」 「……しーな、相変わらず酒癖良くなーい」 「だって、気になりますもの。環さんたら、 ……ずぅっと、待っているつもり、なんでしょう?何も、しないまま」 「珍しく、判り易い刺がある、じゃない。別にいいでしょ、 誰かに、心配してもらう筋合いじゃないんだから…って、何で、 こーゆーハナシになっちゃったわけ?今日の主役、誰よ?」 自覚に欠けていた那智、つい、辺りを見廻す。 「………なちもと、何してん?」 「……自分、だったか?」 「これは、しあわせ過ぎてボケが来てる、という奴かな?」 「そうではない、と、思うが…」

(7)

ごく当然の成り行きとして、 籐堂、崩壊。酒量そのものは大したことはない、ので、 あとで始末すればいいよね、というのが、長年の共通認識。 「…ところで、荒井」 「何かな?」 「今度、もう一台、コンピュータを導入したいんだが」 「大手メーカー製コンポーネント、にしておいたらどーだ?」 「………なぜ、判った?」 妙に、話が早いんだか遅いんだか。 「初心者、か。だったら、その方がいい。 初手から自作機相当、というのは、サポートが大変だってこと、」 「……あたしのコトかなそれは?」 「いえいえ、そこで潰れてる奴のコトです。 …いずれにしても、無難な方がいいんだしょ?だったら、」 「…………確かに、それはそうだが、その関連で、 …今ある、旧い方の機体を、ファイルサーバとしても…」 「悪いことは言わない。独立サーバ、仕入れた方がいいと思うが」 「私のところでも、以前から導入していますけれど。気が楽ですわよ」 無難な共通の話題、が、他にない、というわけでもないのだろうけど。 「判ってはいても、気が重いな。コンピュータは、カネがかかる」 「授業料、免除になるんでしょ?って、可処分所得にはなんないか」 「……正直、中退も考えたが、」 「冗談はやめておいた方がいいと思うけどな」 「判っている。あと、1 年だからな」 「そう?ポスドク考えてたんじゃなかったっけか?」 否定も肯定もせず、グラスを一気にあける、那智。 更に、酒量が増して、 という頃合いになって、籐堂、復活。 「すいませーん、オーダーお願いしまーっす」 「……ところでたらし、」 「なーに、姉御?…えーと、海鮮鍋と焼きうどんとぬか漬けと烏龍茶と、 …何かあと頼むー?」 「冷酒」「中ジョッキ」「グラスワインを」「シンガポールスリング。と、キムチ」 「…じゃ、以上で」 毎度同じ、なオーダーなことに、苦笑を禁じえない一同。 「おーい、たらしー」 「はい何でげしょう?」 「今一緒に住んでる子、本気?」

(8)

「………って姉御ぉ、一体何のハナシでしょーかぁ?!」 「惚けないの。判ってるんでしょ、 その子が、しーなの幼なじみだーってことくらいは」 「…………ついこの前まで、知らなかった。…いやホントだってば」 質問者が、佐久間に代わる。 「それで、…どういったお付き合いを、進めてらっしゃいます?」 「どうーって、……信じてくれると思えないけどさぁ、 単に、同居してるだけ。………って、そんなにあからさまな顔するかフツー?」 「余人ならいざ知らず、お主に限ってそんなわけがなかろう」 「同感」 三々五々(って、そんなに居ないけど)、うなずき返されて、 流石に心証を害した籐堂。 「キレるぞ」 「その前に、洗いざらい喋ってから。ホントの、事を」 「……少なくとも、佐久間さんは判ってると思ったんですけどー」 「だから、心配なんですけれど」 「さーくーまーさぁん?! ご自分とタメ張るくらい、腕が立つ相手、心配しますかぁ?」 「籐堂くんが、相手ですもの」 あっさり即答されて、…でも、つい納得する。 などとやっている間に、 一旦場を改めないとキケン、な状態まで飲み進んでしまっている一同。 もちろん、素直に場替えをする。あれこれ懲りている、から。 「それで、次はどこにしましょーかねぇ?」 「お前、まだ飲めるの?」 「んー、皆さんして、まだ飲み足りないーってカオ、してるよーな気が…」 「誰かさんは、これ以上飲めないーってカオ、してるように見えるが?」 「よく見ろ荒井、奴はこれ以上喰えない、の状態だ」 「だーいじょーぶ、まだ喰える。……って、何のハナシやねん」 酔い覚ましと腹ごなしついで、で、一駅分くらいを歩いて、 学生時代、よく通った店に辿りつく。 「やっぱりここコース?」 「この面子で、飲み、ったら他にどこ行くって?」 「姉御の家、こーの家、僕んち。…って、がうー」 「判ったら、文句をたれるんじゃないの」 「文句じゃないってばさ。グチ」 「もっとよくありません」

(9)

なにはともあれ、二次会がスタート。 …まだ、陽が高い、のだけれど、誰も気にしていない。 「で、さっきの続きだけど」 「んー?この面子で飲みだとどこに行くかーって?…あとどこ行ったっけか」 「惚けるんじゃないの。真剣につきあい、考えてるのかって、」 「言質が欲しい、んでしょーか?………それはー、まぁ判るですけどねぇ、 でも、正直、それは僕じゃなくてあのお方に言ってほしい…んですけどねぇ」 「……あたし、もしかして、すっごく耳が悪くなったのかな。 今たらしが、とんでもなく傲慢な物言いしたように聞こえたんだけど」 「いえいえ、姐さんの耳は、正常でしょう。 儂にもそういう要旨のハナシに聞こえましたから。…とーどー、 もう少し、表現を選べ表現を」 「…そう言ってくれるんなら、意訳して代弁、よろしくー」 などとネタを振られて、ボケをかまさない荒井ではない。 「いいのか?…では結論だけ。遊び 100%」 「こらこらこらこらー!」 「違うとでも言う気か?」 「…………否定出来ない。けど、それってものごっつく誤解されるような…」 「たーらーしぃ?」 「ほらー、誤解されたぁ…」 しかし、別方面から、ストップがかかる。 「そういうこと、なんですか、籐堂くん?」 「………多分、そうです、ですね」 「…そう、でしたか。ごめんなさいね、あんな物言いをしてしまって」 「いえいえ、共犯者、ですからー」 というわけで、本日の主役は、放っておかれているのでしたとさ。 解説されて、でも納得出来ていない環。 「お互い、遊びだーって割り切って、って、 …しーなの知り合いに、そーゆー価値観の持ち主、居たんだ」 「私だって、人間ですのよ。…お付き合いする相手、は」 「わぁ二段オチ。…進歩しましたねぇ」 「退歩、でしょう?……それよりとーどー、いいのか?」 「何が?」 「姐さん、まだきちんと理解出来てないみたいだが」 内緒ないしょ、と、籐堂。 「いいってば。アレくらい、無難なオチだと理解しててくれれば」 「現実と多少違っていても、か?」 「なちもと、判ってるわけ、僕が何言いたかったかって?」

(10)

「当たり前だろう」 「………なちもとにも判るってーのに、姉御ってば…」 「なんか言った?」 ぶんぶん首を横振り、の籐堂。 追求を避け切った籐堂、 安心したせいで、つい飲み過ぎて、再度沈没。 今度は放っておくとまずいかな、と思いつつも、やはり放っておく 4 人。 …これまで、大丈夫だったし。 「ところで、荒井くん、」 「何用でありましょうか、お姫さま」 「真剣に、答えてほしいんですけれど。…荒井くんは、 中川さんのこと、一体どう思ってらっしゃいます?」 「どう、って………要するに、儂にここで、宣言させたい、んですね?」 「えぇ、その通りです。答えて、いただけますかしら」 「………」 頭を抱える、荒井。 「何考え込んでるわけ?……何か、隠しておきたいこと、あるんだ?」 「そういう事は、判るんだな、環にも」 「那智ぃ、何それ?喧嘩売ってる?」 「そのつもりは無い。…荒井、いつまで逃げ続ける気だ?」 耳に指をつっ込んで、聞いていないフリ、の荒井。 聞こえている、のは周知の事実なので、さらに続く質問。 「逃げ切れると、思っていらっしゃるんですか?」 「逃げ切ったら、どういうことになるのか、判っているのか?」 「余計なお世話かも、しれませんけれど、」 「…………心配していただけるうちが、華なんだ、ってのは、 それはもちろん、判っているつもりですけどね。でも、 …姫、あの子、きちんと説明しましたか、どうして儂に、って」 「その上で、手引きしているんですけれど?」 「………では、それはそれ、ですが。この場での宣言は、パスします。 それこそ、余計なお世話、というものでは?」 うなずく、佐久間。 「では、覚悟はしているんですね?」 「儂に、選択権なんて、無いですからね。覚悟もくそもありません」 「……それで、いいのか荒井?」 「他にどうしろってーの?刑事事件の加害者被害者?…冗談」 「それも、そうだな」

(11)

手持ち無沙汰で、飲みに専念、していた環、 いつの間にか、自分がネタになっていることに気付いて、身構える。 「……何、ふたりして」 「環さんは、どうなさいますか?」 「どう、って、何が?」 「ただ単に、待ち続ける、んでしょうか?…いつまでも? 誰も、迎えに来てくれないかもしれない、のに?」 「何のハナシ、一体?」 「環、それは、らしくないだろう。否定したって仕方あるまい、 もっと、自分に正直に、」 それ以上言うな、と、環。 「そーゆーのを、余計なお世話、って言うんだよね。 ……言っとくけどね、あたし、誰も待ってないから、別に。 いつか王子サマがーなんていう子たちと、一緒にしないで」 「そんなことは、判っています。だって環さん、 待っているフリ、しているんですものね」 「……ねぇしーな、…いつも、思ってるんだけどさぁ、 あーた、死んだら司法解剖、確定だと思うよ。死因が、怪しくて」 「………環さんに、扼殺されて、とかでしょうか?」 「なんであたしが、手ずから殺らないとならないわけ?」 「…つれないお言葉」 冗談だというのは、判っているので、 それ以上の展開はさせない、環。いい加減、慣れたから。 ようやく、店内が混んできた頃、更に場替え。 「ほら、とーどー、起きろって」 「…うー」 「清算するぞ、…それとも次回全額持ち、行くか?」 「冗談………ぢゃねーって。で、おいくら?」 「5。余った分は 3 次会」 こうなることは判っていた、のだが、やっぱり釈然としない籐堂。 「いつの間に…」 「あーたが寝てる間に。だから、無理しないで烏龍茶でも飲ってればいいのに」 「酒などのーても、って?……昔そうしたかった頃に、 そうさせてくれなかったのはどなたさんでしたっけか?」 「誰だろう?最近、物忘れが酷くって」 「……やっぱり、若年性痴呆…」 「あーたと一緒にしないで」

(12)

再度歩いて、やってきたのは、 「さて、どこに行くんでしょーか?」 「儂の実家は、引っ越したから無いぞ」 「それを言うなら、元僕んちだって引き払ったから無いぞー」 「……あたしんち?マジ?」 「まだ早いと、思いますけれど。…もう一軒くらい、外で飲みませんか?」 「でも、この辺って、ずいぶん様変わりしてませんかね?」 まだやっている、パソコンショップを素通りして、 駅前に辿りつく、一同。一旦立ち止まって、今後を相談。 「それ以前に、この辺りの状況、あまり知らないんだが」 「なんで?あの店、しょっちゅう通ってたんでしょあーた達は」 「姐さん、それはそうなんですけどね。でも儂は、 駅を出る、店に直行、寄り道しないで帰る、 ってやってましたから。なちもとの場合は、」 「ああ。車を降りる、店に直行、切符を切られないうちに逃げる」 「……そこまでケチるかフツー?」 結局、一番土地勘があるのは、環。 「駅のあっち側の方が、あたしには身近だけど、」 「ではそのように。………っても、ここの駅って、抜けられたっけ向こう側?」 「…それさえも、ご存知ないんですか?通り抜け、出来ますけれど」 「では参りましょー。でもって、どーゆーお店に?」 「どういう、って、」 「…いえ、何でもございません。って、どこへ行く、こー?」 「ん、……いや、何でもない」 というわけで、3 軒め。 「では改めて、かんぱーい」 「………ところでたらし、どーしてアルコール飲んでるの?」 「あれー?」 「…そろそろ、あれーじゃないって。自分の体調くらい、 きちんと把握しておいてほしいんだけどな」 「まーそー硬い事言わんとー」 「言う」 環にきっぱり言ってのけられ、あとの面子にもうなずかれて、 …そんなことで、態度を改める籐堂ではない、が。 かなりの酒量ながら、壊れないでいる一同。 その昔には、インターバル無しでも、大丈夫だったけれど、 …もちろん今は、きちんと状況を理解して、飲んでいるから。

(13)

「えーと、それで何でだっけかねぇ?」 「諄い」 「だってさぁ、わっかんないんだもんなぁ」 「…相変わらず、このオチかい」 「本当に、進歩が無いんですのね、このおふたりって」 「……安心出来るのは、事実だが」 当然ながら、例外は籐堂。きっちり、ぶっ壊れている。 「姉御はぁ、よーするに、大事なことがあるーんでしょ? 世間一般のー、お仕着せなしあーせ、みたいなのを奇麗さっぱり蹴っ飛ばして、 ついきゅーしたいコトがあるー、と。で、それってなーに?」 「あーたには、関係無いって言ってんでしょ」 「なんでなんでなんでー?」 「確かに、あたしらの付き合いって無茶苦茶長いけど、 だからって、あの頃みたく、のーみそが繋がってるような共同体じゃないでしょ、 ずいぶん前から」 肩を竦める、籐堂。 「だから、聞かなきゃわかーんなーい」 「……そんなに聞きたいわけ?」 「あ、目がマジ」 「誤魔化すんじゃないの。あーた、 聞く度胸、あるの?判ってると思うけど、あたしに半端は無いよ?」 「もちろん知ってまーっす」 傍らでは、 絶対聞きたくない、と、耳を塞いでいる面子が約 3 名。 そうこうしているうちに、 また、籐堂崩壊。あまりにお約束なので、もう知らない、の一同。 「……我ながら、嫌になるけどね、ここまで進歩が無いのかーって」 「そんなこと、ありません。環さん、 実力行使、しなかったじゃありませんか」 「…………それって、進歩っていうか、 ……そんな進歩の余地があった、なんて、あの頃のあたしって、一体何?」 「………ノーコメント」 「何よ、荒井」 「いえ、不穏当な比喩しか思いつけなかっただけ、です。 気にするなったって無理でしょうけど、気にしないでください姐さん」 気にしない、環。大体予想がついている、から。 「……たらしってば、どうしたのかな、 今日、妙に飲んでない?さっきだって、勧めてないのに飲むし」

(14)

「………姫、 確信犯と、理解の埒外、どっちが問題でしょうかね?」 「確信犯、ではありませんか?」 「同感だな」 「………そうかなぁ………そうなんですかねぇ?」 「何のハナシ?」 環に向き直って、佐久間、 「環さん、 籐堂くんのこと、どう思っているんでしょうか?」 「ダチ。他に何があるの? …そういう返事、期待してたのかどうかは知らないけどさ、 あたしが言えるのは、それ以上でもそれ以下でもないよ」 「そういう立場も、確信犯、と言うんですけれど」 「トドメを刺した方が、いいのかなぁ」 「………そうしてあげた方が、いいと思いますけれど」 「で、誰に何て言えばいいのかな?」 本気で言っていることが判るにつれ、 ぶちっ という音が、佐久間、那智、荒井のアタマの中で響く。 たたき起こされた籐堂、 まだ呆けている。…状況が理解出来ていないので、まだボケる余地が。 「へーてん?」 「籐堂、お主がイニシアティブをとらなければ何も進まん」 「お会計?で、いくら?」 「まだだ。目を覚ませ」 もちろん、覚めていないので、 「じゃ、寝せて。もうちょっとしたら、復活するからー」 「籐堂くん、」 「おやすみなさいませー」 「…………」 「…ってぇー!」 「目が、醒めましたかしら?」 籐堂の額を、片手で鷲掴みにして、 こめかみみしみしいわせながら、にこやかに佐久間。 「へい」 「では、本題ですけれど」 「…………どーしたんですか、久々の実力行使…」 「いいから、ハナシを聞け」

(15)

「……こー、何怒ってん?珍しい」 「お前にじゃない」 大体の状況が判ってしまった、籐堂。逃避を図る。 「佐久間さぁん、…モノは相談ですがー、 そのままぐっしゃり、のーみそ潰していただけませんかねぇ?」 「不許可です。これ以上、逃げ回らせませんからね」 「………バレてっかぁ」 「当たり前だ。いつまでも同じ手が使えるわけがなかろう」 「なちもとには、通用してるよーな気が…」 「その手には乗らん」 「ありゃま………で、姉御はいずこに?」 言われて初めて、気付く 3 人。 「…………居ないぢゃん」 「逃げた、か?」 「儂なら逃げただろうが、……姐さんが後ろを見せた、なんて、」 「私の知る限り、今までにない行動パターンですわね」 「まだ遠くへは行っていないでしょう。儂、ちょっと見てきましょうか」 ずいぶん、経って。 「………遅い」 「あのー、ひとついいでしょーか?」 「何でしょうか、籐堂くん?」 「このパターン、その昔なかったっけかなーって、 さっきからずっと、思い出そうとしてるんですけどねー」 考える、フリをする、佐久間。 「あの時…荒井くんも、逃げたんでしたっけか」 「今回も、そーなんぢゃないかなーと…」 「何故ですか?今回、逃げる意味なんて、ありませんでしょう?」 「………本気で言ってます?」 探るように見られて、つい目を逸らす佐久間。 「……本気、の、つもり、ですけれど…」 「んぢゃ、本音で喋って、いいでしょーか?」 「お主、いつ本音以外で喋った?」 「…それは言いっこなしー。……こーってーば、あの頃、」 「それ以上言ったら、縁を切る」 「あれ?戻ってきた?」 頷く、荒井。指差す先には、荒井の荷物が。 佐久間に耳打ち、の荒井。

(16)

即座に席を立って、姿を消す佐久間。 「………どうしたんだ一体?」 「…あー、そういうコト、こー?」 「全く珍しいことがあるもんだが、そういうコト、らしい」 「ふーん、そっかぁーって、感心してる場合ぢゃねーぢゃん」 「事情はよく判らんが、絶対に逃がさん」 …やがて、 佐久間と環が、連れ立って戻ってくる。 「おや、珍しく顔色が良くない」 「ちょっとね、…初めてだよ、こーゆーのって」 「悪阻?………ってぇー!」 「籐堂くん?今、なんて仰ったのかしら?」 「いーえぇ、なーんにもかましてませーん、ってばぁーっ!」 それほどではない、とはいえ、全体重を載せて、籐堂の足首を踏んでいる佐久間。 誰も、止めない。 「なんて、仰ったのかしら、と、お聞きしていますのに」 「………悪いじょーだん、ですってばさあぁ…」 「冗談で済む問題、でしょうかしら」 「違うと思うけど。…って、たらしの戯言の中身について、だからね。 …多分」 「……身に覚えが、あるんでしょうか?」 冷たぁい目で、佐久間を睨む環。 睨まれて、でも、大真面目、の佐久間。問いかけ続けるように、視線を外さない。 「しーなあぁ、それかなり無礼者」 「でも、気になりますもの。どちらにしましても」 「……それは、…でも、有難迷惑、だよやっぱり。 …もう、保護者代理、してくれなくっても大丈夫、なんだから」 「そんなつもりで、言ったわけではありませんのに」 「それは、判るけど。でも、」 野郎 3 人は、聞こえないフリで飲み食いに専念。 ややこしくなった話は、下手に解こうとするよりは放っておこう、 というわけで、ハナシは間抜けになっていく。 「ずいぶんさっき、サーバが云々、いうハナシだった気がするんだが」 「…あぁ、それは考えている、んだが」 「先立つモノがない、と。で、これは結婚祝代わり」 「…………DIMM かこれは?」 「また若干高騰気味だからな、いまメモリ増設は諦める、 とかさっき聞いたような気がしたが」

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何かが違うだろ、と、籐堂。 「こー、ひとつ言っていいかな? そーゆー時ってねぇ、現金を包む方がまだ正しいんでねぇかい?」 「そういう、常識的なやり方は儂のポリシーに反する。 それくらい、ここにいる面子には周知の事実だろうと思うが?」 「そーゆーモンダイぢゃねーって。そんなオチ、相変わらず過ぎるって」 「おまいさんに言われたくないな」 「言うぞ」 …間抜けさに堪え切れずに、環が割り込む。 「てゆーか、既に言ってるって」 「おや復活。…まぁ、全く自慢になりませんけどね、 儂は、相も変わらず進歩の無いシステムでやってますんで、念のため」 「不許可です。中川さんのことは、少なくとも」 「………さっき一段落したんじゃなかったんでしたっけか?」 「気のせいだろう」 深刻なのも、間抜けなのも避けたい一同、成り行きで荒井を槍玉に。 槍玉にあげた、ハズなのに、 気付くと(誰も気付いていないが)、ハナシがすり代わっている。 「で、たらし、どうなの?」 「どう、ってーも、…さっき言いませんでしたかねぇ、 お互い、確信犯で遊んでるんだーってばーって」 「覚えてない」 「……その即答………ぜぇったい嘘くさー」 「何その言い草はぁ」 そういう意味では、5 人とも確信犯。 「それで、どうなんでしょうか?」 「……だーからぁ、」 「たとえ、お互い確信犯、だとしても、」 「て言うか、あーたはあわよくばーって考えてるんでしょどーせ?」 「………あう」 反論しようとして、やめる籐堂。 「図星か、それとも諦観か?」 「どっちもーって、言わせるんぢゃなーいってばー」 「やはりそうか」 「言われたくねーななちもとにはー」 「でしたら、」 「佐久間さんにはもーっと言われたくないんですけどー」 「どうしてですか?」

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納得してもらえるような理由を挙げかねて、固まる籐堂。現実逃避。 「おまいさんがアッチの世界に逃げ込むようになるとはな」 「……反論が無いな。…珍しいこともあるもんだ」 「…ねぇしーな、 今こいつと、一緒に住んでる子って、どーゆー子なの?」 「私にとって、妹のような存在です。 …だから、心配なんです。どちらの、ことも」 「…………何だか、なぁ」 狭い世界だな、と、荒井。受けて環、 「その方がいいんじゃなかったっけか?」 「限度ってものがあります。姐さん、そう言ってましたよね以前は」 「まぁね。……そう、かぁ」 「どうなさったんですか、環さん?」 「ん、納得出来なくもないな、って。 そういう面子相手だったら、あたしなんかよりよっぽどいい抑止力だし、 ……しーなは、納得した?そういう、大事な面子、とーどーと同居」 返答に詰まる、佐久間。 誰も口を開こうとしなくなってしまって、 でも、まだお開きにならないでいる。…と、 「……はい、環………… 今忙しいの。今日明日はかけてこないでって、言ったでしょ? ………後でこっちからかけるから。じゃ」 「…………環さん、」 「ダチ。それ以上でもそれ以下でもない」 「…殿方ですわね」 「…………しーなあぁ」 スイッチを切って、バッグに押し込んでから、佐久間に向き直る環。 「聞き耳を立てたりは、していませんけれど?」 「じゃあどーし…て…」 「認めましたわね?」 「語るに落ちる、というヤツですかね、相変わらず」 「がうー」 頭を、抱える。 目を、開くと、 見慣れた天井と、重苦しい空気。 するハズの無い物音の原因を知るべく、キッチンに出てきた環を出迎える、 佐久間。

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「おはようございます」 「………ねぇ、何してんの?」 「朝食の準備、ですけれど?」 「……あのねえぇ」 「食欲、出ませんでしょうか?」 「…………そーゆー問題ぢゃないでしょーがぁ…」 なんで居るの、と、環。判っていて答えを逸らかす、佐久間。 「もしかして、覚えていらっしゃらないんですか?」 「…あれ?」 「駅の構内を、鬼ごっこさながらに走り回ったのまで、記憶にない、などと…」 「言う。それは作ってるでしょ、しーな?」 「では、どこまで覚えていらっしゃるんでしょうか?」 口を開きかけて、そのまま固まる。 「あの後、次行った?」 「どの後、でしょうか?」 「……何次会までやってたの、結局?」 「…かなり、あやふやですのね。そんなに悪酔いするほど、 ストレス、溜まっていらっしゃるのかしら?」 「…………ねぇしーな、 気にかけてくれてるのは、ありがたいけど、でもなんか場違いっていうか、」 「あんな状態の妙齢の女性、放置しておけるはずがないじゃありませんか」 などと言われて、すっごく気にかかる環。でも、詳しく聞く勇気は、まだ出ない。 「…それは措いといて、」 「そういうわけには、行きません。気心の知れた面々で、 安心していたとしても、限度というものがあるはずですわね」 「………小姑…」 「何か、仰いましたかしら」 「ん、聞こえなかったならいいけど、別に」 「環さん、お粥が出来ましたわよ」 「いつも済まないねーって、やらせないでってば」 …結局、あやふやなまま。 佐久間を送り出して、 時計に目をやって、…早朝、とまではいかなくとも、まだ朝早いのに気付いて、 まさか一日ズレてないだろう、とは思いつつも、気になって TV をつける。 「……だよね、まさか、ねぇ」 プログラムから、曜日を判断して、安心する環。 安心すると同時に、再び気になるのは、昨晩の所業。 佐久間にきちんと聞いておけばよかった、とは思うものの、

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その一方で、佐久間からは聞きたくない、とも。 で、深く考えずに、「籐堂の」PHS にかけて、 「…………あ、あの、あたし、 ……あ、はい、そうです。………あの、 ………おはよう。…………ん、どうかしてるわ。ボケてる。 昨日聞いてて、判ってるはずだったのに。………ん、大したことじゃないの。 昨日、あたし何してたっけか、お開き頃に? …………しーなに聞けってコト?…あーた、そんなふざけたコト、言う? 自分の場合で考えたらどう思う?しーなから、聞きたいあーた?」 正直、それどころぢゃねーのに、 と思いながら、出来るだけ平静を装いつつ、受け答えを続ける、籐堂。 「そりゃそーですけどねぇ、姉御、 今何時だと思ってます?こんな朝もはよから、そんなにお元気な様子で、 昨日何してたかなんて、ぼくの記憶力テストか何かですかぁ? …………その様子で、記憶が飛んでるから再構築手伝え、 なーんて冗談にしか聞こえませんってば。………そうですかぁ? じゃ行きますけど、どこまで確実に覚えてます?二次会?三次会? …………どこだっけは無いっしょー?!」 徐々に、隣で笑いを堪えている面子の存在を、忘れはじめる、が、 「三次会アタマで、珍しく姉御壊れて、 ………そうそう。確かアレ三次会。…………で、姉御のところに電話が入って、 ………こっちが聞きたかったのに、………でもって、 ちょっとシャレにならないカミングアウト、始まったところで、 佐久間さんが強制終了を………いや、こーゆーメディアで話すことぢゃ…」 でも、忘れ切ったわけではないので、自制する籐堂。 だんだん心配になってきた環、 籐堂の事情を勘案することを忘れて、キケンな発想にとらわれはじめる。 ので、真剣に記憶の再構築を図ろうとする、のだったけれども、 「……じゃ、どういうメディアで? ………で、いつならヒマなわけ?…………こらたらしぃ、 ………ちょっと待った、それは無いんじゃない?……あ、そう。 判った。那智や荒井に聞く」 要領を得ないので、通話を切ってしまって、 …改めて、考え込む。 考えるだけ無駄だ、という結論に達して、 「………切ってるな…

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環です。別に用ってわけでもないんだけど、 昨日あたし、壊れてた?何かまずいことしてたら、教えて。じゃ」 那智は、留守録。 「………こっちも、か… てことは、メール、か。………あれ?」 起動、しない。ので、佐久間に連絡。 「……しーな?あたし。 ………ん、パソコン、電源入らないの。…………あのねぇ、 そこまでボケてないってば。外側のケーブルは全部見たし、 冷却ファン、廻ってる音しないもの。…………そこまで耳が悪いとでも? ………そーぉ来るかぁ…………ん、待ってるから。じゃ」 昼近くになってから、現われる佐久間。 「ごめんなさい、遅くなってしまって」 「…どうしたの、…忙しかったとか?」 「いえ、ちょっと。……お昼ご飯、まだですわね?」 「………まぁね。差し入れ?どーもね」 「召し上がっていて下さいね。ちょっと、調べますから」 「しーなは、食べてきたの?」 「ひとつだけ、気になるものですから。確かめるまで、食べません」 そう言って、パソコンの前に向かう、佐久間。 …すぐに、戻ってくる。 「取り越し苦労、でした」 「…単純ミス、疑ってた?」 「………えぇ、実は」 「まぁいいけど、さぁ。…コレって、手作り?」 「…大丈夫ですわよ、信さんの、ですから」 それを聞いて、安心する環。ちょっと不愉快、ながら、納得する佐久間。 食後の休憩中。 「…そういえば、昨日、」 「本当に、覚えてらっしゃらないんですか?」 「聞こうと思って、メール出そうと思ったら、動かなかったんだけど」 「……何のための携帯ですの?」 「…………あ」 「環さん、おしっかり」 言われて、でも反論する。 「でもこっちに、アドレス入れてないし、」 「それは、怠慢というのでは?」

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「だって面倒じゃないよぉ」 「……メモも、無いんですの?」 「家捜し、もうやだからね」 「………では、トラブルの解消が先決、ということになりますわね」 外見からは、異常が判らない、ので、分解。 「………あら」 「ん、どーかしたの?」 「こんなところが、外れていますけれど?」 「…そんながっちり止まりそうなコネクター、勝手に取れるフツー?」 「取れない、と思います、けれど…」 マザーと電源との接続ケーブルが、半差し。 「あたし、いぢった覚えないけど?」 「……疑ってらっしゃいますの、その目は?」 「ちょっと」 「酷いじゃありませんか、そんな…」 「って、なんで笑うかな、しーな?」 「……はい、私のミスです。申し訳ありません」 ミス、と言われて、改めて筐体内部をのぞき込んで、呆れる環。 「…………この前と、部品の配置が違ってる気がするんだけど?」 「はい、マザーボード、交換させていただきました」 「……それで今朝居たわけ、もしかして?」 「はい、その通りです」 「あーた、ねぇ…」 その後も、 何かあるたびに、佐久間に、それで解決しなければ野郎どもに、 招集がかかって、そのついでに宴会、 という構図に、基本的に変更が無かったりしているので、 相も変わらず、環のパソコンは、日々進化を遂げているそうな。 …いいのかねぇ、こんな事で。 ―了―

参照

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