公共投資は役に立っているのか
岩本 康志
東京大学大学院経済学研究科
2005 年7月
*本稿は日本経済学会 2001 年度春季大会の特別報告「社会資本の経済分析:展望」として 準備された原稿を加筆・修正の上,改題したものである。本稿の研究は,科学研究費補助 金・特定領域研究(B)「経済システムの実証分析と設計」の資金援助を受けている。 ** 〒 113-0033 東 京 都 文 京 区 本 郷 7-3-1 東 京 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 科 。 TEL(03)5841-5641,FAX(03)5841-5521。[email protected]。1 序論 公共事業は,1990 年代以降の財政政策の大きな争点となっていた。わが国では,バブル 崩壊以降に,景気刺激の観点から公共投資を大きく伸ばした。しかしながら,経済の回復 は思わしくなく,さらにマスコミで長良川河口堰,有明海干拓などの個別事業の問題点が 取り上げられることにより,無駄な公共事業がおこなわれているのではないか,という意 見が強くなった。そして,小泉政権になってからは逆に,公共事業は歳出削減の重点項目 となった。 1990 年代は,社会資本に関する研究(とくに実証分析)が,わが国の学界でも積極的に おこなわれた時期であった。学界での関心の高まりは,公共事業の効率性に関する現実的 な問題意識が反映されているものと解釈できよう。マスコミでの報道は個別事業の問題点 に主として向かうことになるが,公共事業が全体として非効率であるか否かを科学的に検 証することは,経済学者に課せられた重要な研究課題であるといえる。本稿は,わが国に おける社会資本の経済分析が,公共事業をめぐる問題とどのように関連しているのかに注 意を払いながら,最近までの研究の現状を展望することを目的とする。 本稿で考察対象となっている社会資本は,これまでさまざまな定義が提示されており, 唯一の公式の定義が存在するものではない1。社会資本を定義する際には,それが生み出す サービスが市場を通して取引されるものでないことと,公的な主体が保有ないし利用して いることに着目することが多い。両者は重なり合う部分が多いが,例えば通行料金を徴収 する高速道路は前者の定義には当てはまらないし,私立学校の校舎は後者の定義に当ては まらないなど,どの特徴に着目するかによって,社会資本の範囲が違ってくることになる。 『国民経済計算』の定義に則していえば,前者の定義は一般政府と対家計民間非営利団体 が利用する資本であり,後者の定義は公的部門(一般政府と公的企業)が利用する資本に 対応するという整理ができる2。本稿の目的は実証分析の展望にあり,実証分析では研究に よって違った定義がとられていることから,本稿では,社会資本の唯一の定義を与えるこ となく,上にのべた2種類の概念を中心に種々の定義が実際に使用されていることを指摘 するにとどめる3。 1 これまでに提示された定義の整理については,内閣府政策統括官(2002)を参照されたい。 2 なお,社会資本の英語は social infrastructure である。これとは別に,ソーシャル・キャ ピタル(social capital)を,人々のネットワークのなかで蓄積されてきた関係を指すもの として社会学,政治学の分野で用いられ,経済学でも用いられるようになっている。ソー シャル・キャピタルの概念が文献にどのように現れてきたかについては,Woolcook (1998) を参照されたい。 3 本稿では議論が煩雑になることを避けるために,実証分析での社会資本の定義の違いにつ いては触れない。読者は各文献を読むに当たって,定義の違いについて注意をされたい。
本稿の構成は,以下の通りである。まず,2節で社会資本の生産性を推計する研究が注 目されるようになった理由をのべた後,その背景にある事情が日米間で異なることを指摘 する。3節では,社会資本の供給が適切におこなわれているのかどうか,の規範的な判断 基準を説明する。4節では,規範的分析をおこなう3つの方法を説明した後,わが国での 実証研究の結果を整理する。5節では,今後の研究に残された課題をまとめる。
2 なぜ社会資本の生産性への関心が高まったのか?
社会資本の生産性への関心は,1990 年代に入る頃から,わが国だけではなく米国を中心 として外国でもほぼ同時期に高まってきた。社会資本の生産性を計測した実証分析の軌跡 をさかのぼると,Mera (1973)がわが国の都道府県別データを用いて,社会資本 G を生産要 素に含んだCobb-Douglas 型の生産関数ε
β
β
β
α
+
+
+
+
=
G
K
L
Y
Gln
Kln
Lln
ln
(1) を推定した研究が嚆矢である4。そして,この研究が可能となったのは,経済企画庁のプロ ジェクトとして都道府県別の社会資本ストックのデータがいち早く整備されていたからで ある。その後,Ratner (1983),Aschauer (1989)が米国のマクロデータを用いて同様の生産 関数を推定し,Asako and Wakasugi (1984),岩本(1990a)が日本のマクロデータを用いた 推定をおこなっている。ところが最近の研究では,Mera (1973),Ratner (1983)が引用さ れることは少なく,Aschauer (1989)を最近の研究の端緒と位置付けている5。これは,単に 社会資本の生産性を計測したという事実だけでなく,そのことの重要性がAschauer (1989) の研究と同時期に認識されるようになったからなのである。 社会資本の生産性への関心が高まる要因は2つあった。ひとつは理論面での要因である。 1970 年代にフィリップス曲線の妥当性に対する信認が失われてきたことから,マクロ経済 学のなかでケインズ経済学の後退と新古典派経済学の再興現象が生じた。これをうけて, 需要創出の面(公共事業の乗数効果)ではなく,新古典派の観点から公共投資ないし社会 資本をどう考えたらよいかという問題意識が重要になったのである。この段階での重要な 研究にBarro (1981),Aschauer and Greenwald (1985)がある。もうひとつの要因は,生産性成長率の低下に関するパズルである。1970 年代以降は,全 要素生産性の成長率が60 年代までに比較して,ずっと低位で推移してきた。成長会計の研 究者はこの成長率低下の原因を解明しようと努力を続けていたが,その原因は明らかとは ならなかった6。ところが米国の社会資本ストックは,それまで建設を進めてきたInterstate Highway 網の完成と学校施設への需要の減少を主たる原因として,1970 年代以降にその成 4 ここで,Y は産出量,K は民間資本,L は労働を表す。Meade (1952)の定義によれば, 生産関数はG,K,L について1次同次のとき,社会資本は不払要素型,K,L について1 次同次のとき環境創出型と呼ばれる。 5 ひとつの研究分野が確立されるまでの創生期に見られる現象であろうか,ここで挙げた文 献は,岩本(1990a)が Ratner (1983)を引用している以外には,どれも先行文献を引用して いない。拙稿に関しては,浅子・目良・若杉先生にはこの場を借りて不明をお詫びしたい (注7も参照)。 6 生産性パズルについては,Jorgenson (1988)を参照。
長率が鈍化しており,その動きが全要素生産性の動きと非常によく符合している7。全要素 生産性とは付加価値から労働から資本の寄与分を除外して計算されるが,かりに社会資本 が生産性に寄与するとすれば,全要素生産性の部分には社会資本の寄与分が含まれている ことになる。このことから,全要素生産性成長率の低下を社会資本の寄与分の低下で説明 できるのではないかという考えが生まれ,生産性パズルへのひとつの有力な解答として, 社会資本の生産力効果に対する関心が高まったところに,Aschauer (1989)の研究が現れた わけである8。 しかし,現在でも生産性成長率の鈍化はパズルのままであるとされており,社会資本の 動きによる説明は決定打とはならなかった。社会資本による説明に対する重要な反証とな ったたのが,Hulten and Schwab (1986)の分析である。経済成長と社会資本の関係は,地 域経済の関係についても議論されてきた。すなわち米国では東海岸から中西部の伝統的な 地域(Snow Belt)が地盤沈下し,南部・西海岸の新興地域(Sun Belt)に経済活動が移動 していった。また同時に,ニューヨークの道路が穴だらけだけれど修理できないといった Snow Belt 地域での社会資本の老朽化・劣化現象が見られ,社会資本が経済成長に影響を与 えているのではないかと推測された。しかし,Hulten and Schwab (1986)は,米国を9地 域に分割して,各地域について1951 年から 1978 年までの成長会計の推計をおこなったと ころ,確かにSun Belt の付加価値成長率は Snow Belt の2倍であったが,その格差は資本・ 労働投入の格差がもたらしたものであり,全要素生産性成長率はむしろSnow Belt の方が 大きかったという結果を得た。したがって,Snow Belt の衰退の原因を,同地域の社会資本 の劣化に求めることには無理があり,社会資本以外の要因での全要素生産性の変動が重要 であるといえることになる。 では,ひるがえって日本を見ると,社会資本は生産性パズルの解答になりうるのだろう か9。図1は,日本の社会資本ストックの動きであるが,米国とは違って 1970 年代以降に 社会資本ストックの成長率が急激に落ち込むような動きはしていない。表1は,Jorgenson and Nishimizu (1978), Jorgenson and Kuroda (1992)にある全要素生産性上昇率と社会資 本ストック成長率を比較したものである。急激に全要素生産性が落ち込んでいる第1次石 油危機時(1970−1975 年)を例外としても,その後に生産性上昇の落ち込みを見て取れる。 社会資本の成長率も落ち込んでいるものの,生産性上昇率の大きな落ち込みを説明できる ほどではない。したがって,かりに社会資本が正の生産力をもつとしても,生産性パズル 7 Gramlich (1994)がこの事実を説得的に図解している。 8 Ratner (1983)の研究動機も同様なものであるが,ひとつの研究分野が確立するには時期 の問題が重要であるのかもしれない。 9 この問題を検討している初期の研究として,竹中・石井(1991)がある。
は解消されず,米国の研究にならって,ただ単にわが国の社会資本が正の生産性をもつか どうかを計測しようとする研究の動機には,その意義はあまり認められないのである。
図1 を挿入
3 規範分析
では,なぜ筆者は岩本(1990a)において,社会資本の生産性の計測をおこなったのか10。 その理由は単に正の生産性を計測することではなく,社会資本の供給が適切におこなわれ てきたかどうかを規範的な観点から問うことにあった。 3節では,社会資本の最適な供給量はどのように決定されるべきであるかについて,若 干の理論的な整理をおこなう。この問題は,費用便益分析によって検討される。社会資本 の便益は長く将来にわたって発生するので,公共投資の便益を評価するにあたっては,将 来の便益の流列を資本化するための割引率(社会的割引率)を定める必要がある。便益の 割引率を定め,この割引率で割り引いた便益の現在価値が費用を上回れば投資をおこなう というルールを定めることにより,適正な社会資本の供給がおこなわれる。 社会的割引率については,以下の3つの代替的な考え方が存在した。 (a) 社会的割引率は民間資本の収益率に等しくすべきである(Baumol [1968])。 (b) 社会的割引率は民間資本の収益率の水準にかかわらず,消費の限界代替率に等しく すべきである(Arrow and Kurz [1969])。(c) 社会的割引率は,社会資本の1単位の増加によって生じる消費の増加分と民間資本 の減少分をウエイトとして,消費の限界代替率と民間資本の収益率の加重平均として決定 されるべきである(Sandmo and Dreze [1971])。
このような諸説の含意の違いが,どこに由来するのかを,簡単な成長モデルを用いて説 明してみよう。いま,経済成長モデルでの財の分配は
(
t t)
(
t t)
t t tg
n
k
g
f
k
g
c
k
&
+
&
+
+
=
,
−
(2) で表されるとする。(2)式の左辺は総投資をあらわし,右辺は産出量から消費を差し引いた 総貯蓄である。ここで,kは1人当たり民間資本,gは1人当たり社会資本,nは人口成 長率,cは1人当たり消費を表す。また,fは1人当たり産出量を表す生産関数であり, 総産出量は民間資本,社会資本,労働の3生産要素について1次同次であると仮定する。 また,ここでは単純化のため,民間資本および社会資本ともに資本減耗はなく,技術進歩 も存在しないものとする。 政府は,目的関数 10 雑誌発表の時間的順序のため,岩本(1990a)が Aschauer (1989)の後続研究のように引用 されることがあるが,両者は独立におこなわれた研究である。Aschauer (1989)は,1988 年5月にJournal of Monetary Economics 誌に投稿され,1988 年9月に最終稿採用されて いる。岩本(1990a)は最初,1987 年7月の計量経済学研究会議(琵琶湖コンファレンス)の ために執筆され,1988 年3月に『経済研究』誌に投稿され,1989 年3月に最終稿が採用さ れている。( )
( )∫
∞ − −=
t t s s tu
c
e
ds
U
ρ (3) を最大化するものと考える。ρ
は消費者がもつ割引率である。 まず,政府が民間資本ストックの水準も制御できるような状況を考えよう。このような 場合,ファーストベストの解の条件としてρ
=
=
g kf
f
(4) が導出される。これは,民間資本,社会資本がともに修正された黄金律を満たすべきとい う条件である。 市場経済においては,民間資本を直接的に制御することは不可能であり,資本ストック は政策変数の影響を受けて,モデルのなかで内生的に決定されるものである。さまざまな 構造型モデルによる理論研究がおこなわれてきたが,本稿では資本形成のメカニズムの具 体的な特定化を避けて( )
t tk
g
k
=
(5) という一般的な形で表現できると仮定しよう。(5)式を時間で微分した式と(2)式を目的関数 に代入して変分法を用いると,最適条件が求められる。定常状態では,その条件は k gf
g
k
g
k
f
∂
∂
−
⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜
⎝
⎛
∂
∂
+
=
1
ρ
(6) となる。(6)式は,最適な社会資本の供給は社会資本の限界生産性が右辺で示された水準に することで達成されることを意味している。(6)式の右辺がすでにのべた社会的割引率を示 すものである。したがって,社会的割引率は消費者がもつ割引率(1人当たり消費が成長 しない場合,消費の限界代替率に相当する)と民間資本の収益率の加重和として決定され ることを意味している。 (6)式をもとにすると,条件(a)と(b)は(c)の特殊ケースと解釈される。社会資本の1単位の 増加が民間資本を同額だけ減少させてしまうケース(∂
k
∂
g
=
−
1
)では,(a)が導かれる。 たとえば,静学的設定では社会資本と民間資本の総量が固定されており,gの1単位の増 加は,kの1単位の減少を引き起こすので,このケースに当てはまる。 一方,民間資本の供給量が社会資本の供給量にはまったく影響を受けないで決定される 場合(∂
k
∂
g
=
0
)には,(b)の条件が得られる。たとえば,貯蓄率が固定されていると, このケースに当てはまる。 以上のモデルでは,社会資本は生産活動にのみ貢献すると想定されていた。これは,産 業基盤型社会資本をモデル化したものと解釈することができる。一方,生活関連型社会資 本のモデル化としては,社会資本は効用関数の1変数となり,消費者のためのサービスを直接生み出す機能をもつと考えることができる。このような社会資本では,社会資本の限 界効用を所得の限界効用で除して金銭評価したものを社会的便益としてやれば,上記の費 用便益分析の議論を同様に適用することができる。
4 規範的分析の方法
わが国において社会資本の供給が効率的におこなわれていたかを検証する方法は,素朴 な方法から順に3つに分類することができよう。 4.1 政府の表明 第1は,政府がどのような意図にもとづいて社会資本整備をおこなおうとしてきたのか を見ることである。こうした方針に基づいた分析として,奥野・八木・二神(1994)は,経済 計画における公共投資の基本方針を追跡することによって,政策方針が時間的に変化した ことを指摘している。60 年の「国民所得倍増計画」では,産業基盤投資を最優先するとい う考え方に立っていたが,65 年の中期経済計画では,この方針のもたらしたひずみへの反 省が見られ,70 年の「新経済社会発展計画」では,ナショナル・ミニマム拡充を最重要点 と位置づけており,生活関連投資への重点の移行と,都市圏と地方圏の所得格差を是正し ようとする問題意識が含まれている,と指摘している。 こうした方針の転換は,実際の公共投資データにも反映されている。奥野・八木・二神 (1994)は,1958 年度から 80 年度までの生活関連投資と産業基盤投資の相対的比率を観察し, 68 年度以降,この比率が顕著に上昇していることを指摘している。また,1958 年度から 81 年度までの公共投資の大都市圏(東京圏,名古屋圏,大阪圏)と地方圏での公共投資の 相対的比率が70 年頃を境に落ち込んでいることが観察される。 このように政府が効率性を目指さないことを言明し,その結果がデータで確認できるこ とは,素朴ではあるが,もっとも直接的な証拠であると考えられる。 4.2 民間資本と社会資本の関係 第2の方法は,地域間の社会資本と民間資本の関係を見ることである。社会的割引率が 地域間で相違がなければ,社会資本の生産性は地域間で均等しているはずである。生産関 数が社会資本を含み1次同次である場合には,地域間の社会資本と民間資本の関係は,(4) 式の後半を全微分することによって,dk
f
f
dg
kg kk−
=
(7) を満たしている必要があることがわかる。両者が正の相関を示すか,負の相関を示すかは, 生産関数の形状(f
kgの符号)に依存するが,生産関数の形状が安定的であれば,どちらか の関係が安定的に観察されるはずである。岩本他(1996,図3)では1人当たり民間資本と社 会資本の都道府県での相関の3時点の推移が示されているが,これによると 1966,1973年には正の相関をもっていたのが,1984 年には負の相関をもっている11。この事実は,地 域間配分は効率的であったが生産関数の形状が変化したと解釈するよりも,公共投資が地 方圏にシフトすることによって,民間資本が少ない地域の社会資本が多くなるいという関 係が現れたと解釈するのが自然であろう。 4.3 社会資本の便益の計測 第3の方法は,社会資本の便益を計測して,機会費用を上回っているかを確認するもの である。生産に与える影響に着目した場合には,社会資本の生産性を計測して,合理的と 考えられる社会的割引率の水準に対応しているかどうかを検証する方法をとる。もし社会 資本の生産性が社会的割引率よりも低ければ,社会資本が過剰であるという結論が得られ る。生産性パズルの解明の視点からは有意に正の生産性があるかどうかが注目されたが, 規範分析では生産性の数値を正確に得ることが必要となってくる。社会的割引率の求め方 については,最善の状態では(4)式より民間資本の収益率を用いることができる。次善の状 態については,理論的な研究で得られた公式より計算する方法がとられ,わが国の研究に 対しては,Ogura and Yohe (1977)と Burgess (1988)の公式が応用されている。
社会資本の便益を計測する手法としては,(1)生産関数の推定により生産性を得る方法, (2)費用関数の推定により生産性を得る方法,(3)その他の変数への影響から生産性または便 益を計測する方法,の3種類に大きく分類することができる。それぞれの手法には一長一 短がある。 (1) 生産関数の推定による方法 社会資本を生産要素として含む生産関数を推定して,その生産性を計測する手法はもっ とも基本的な実証分析の方法であると考えられる。この方法の問題点としては,以下の2 つが指摘できる。第1に,推定にあたっては資本ストックデータが必要であるが,資本ス トックはフローデータに比較して,一般的に精度が劣るとされており,場合によっては適 当なデータが存在しないこともある12。第2に,集計時系列データを用いた労働と民間資本 11 この事実は筆者たちの発見ではなく,筆者が浅子他(1994)のワークショップでの発表原 稿における同様の図から教えられたものである。残念ながらこの図は出版された浅子他 (1994)では割愛されたので,岩本他(1996)で同趣旨の作図をおこなったものである。 12 社会資本のデータの作成方法は,民間資本のそれと基本的には同じであり,毎期の名目 投資データを投資財デフレータで実質化したものを積算することで推定される。固定資本 減耗は,一定の償却率を仮定する場合と,耐用年数内は減耗しないと仮定する場合がある。 投資データは社会資本の概念と整合的でなければならない。財政統計での公共事業費に は用地費が含まれるが,これは除外しなければならない。また,一般政府を対象にした場 合には,公的企業の資本形成を含まない投資系列を用いけければならない。投資財デフレ ータを設定する際には,公共事業は入札で価格が決定されるため,市場価格が存在しない
ストックによる生産関数の推定では,外生変数である社会資本の変動量は時系列面に限ら れ,信頼できる生産性の推計値を得るのに十分な変動量を得られないおそれがある。 後者の問題を改善するには,地域データを用いることが考えられる。社会資本の生産力 を計測するのに理想的な状態は,他の事情が一定で,社会資本の量のみが異なる状態が観 察できることであり,そのときの生産量の違いが社会資本の生産力に対応する。時系列デ ータでは,「その他の事情」も同時に働き,生産力を観測するのに理想的な状態はなかなか 得られない。しかし,地域によって社会資本の整備状態に違いがあれば,このことは生産 力の計測に有益な情報となりうる。これが,地域経済データを用いることの利点である。 しかし注意しなければならないのは,通常の回帰分析で生産力が正しく計測されるため には,社会資本の整備状態が外生的でなければならない。地域経済データにおいては時系 列データよりもこの前提が満たされにくく,以下のような状況が生じる可能性を十分に考 慮する必要がある13。民間資本と労働力は各地域でさほど違いがないが,地域固有の事情で 生産性に違いがあるとき,政府が所得の地域間格差を縮小するために,生産性の低い地域 に重点的に社会資本を配分する政策をとったとしよう。この場合,社会資本が生産量を増 加させる効果があったとしても,社会資本の多い地域で生産性が低くなっており,生産関 数の推定では,社会資本の生産力の係数が下方に偏って推定されてしまう。因果関係は, 生産関数が想定する社会資本から生産の方向ではなく,公共投資政策によってもたらされ た生産から社会資本への方向である。生産関数の推定では,政策の影響による社会資本整 備状況の内生性に十分注意しなければならない14。 ことが通例である。そこで,投入された財やサービスのデフレータを投入比率で合成して, デフレータを作成する,等の手法がとられる。耐用年数は,法定耐用年数や実際の経験値 をもとに,個別の資本ごとに設定されることが多い。 13 吉野・吉田(1988),土居(1995)では,社会資本の地域間配分がどのような要因で決定さ れているのかが考察されている。岩本他(1996)では,社会資本の地域間配分の内生性に関す る問題をより詳細に議論している。 14 岩本他(1996)はこの内生性の問題をくわしく論じた後,それに対処する方法のひとつと して,地域ダミーを用いる推定をおこなっている。このことについて,林(2003a)は,「固定 効果モデル…を用いて推定することによって同時性の問題に対処できるという考えが広く 共有されている(e.g.,岩本ほか 1996…)。この主張は…2つの異なった原因による内生性を 混同していることに起因していると考えられる」と批判している。 林(2003a)は,誤差項と説明変数が相関することによって正しい推定量が得られない問題 を「内生性」と呼び,それが生じる原因を「同時性」と「省略された変数」の2つに区別 している。「同時性」については操作変数で,「省略された変数」については変数を追加す ることで対処するのが常道である。公共投資が地域の所得水準に影響を受けるというのは 「同時性」の問題であって,操作変数で対処すべきであり,地域ダミーの追加で解消する 問題ではないというのが,林(2003a)の主張の根拠である。 しかし,岩本他(1996)では,「同時性に対処する一般的な方法は,操作変数を用いるこ とである」(37 頁)とのべており,問題を混同しているのではなく,「地域間格差に持続性
一方,社会資本を種類別に分割して,それぞれの影響をわけて分析することや,影響を 受ける生産量を産業別に分割して分析することが考えられる。 (2) 費用関数の推定による手法 (1)式のような Cobb-Douglas 型よりも一般的な生産関数を推定する場合には,推定すべ きパラメータ数が多くなり,結果が不安定になりやすい。一般的な関数型を安定的に推定 する手段として,費用最小化あるいは利潤最大化行動から得られる関係式を推定する手法 があり,Lynde and Richmond (1992)によってはじめて社会資本の分析に適用された。しか しながら,生産関数の推定との間にはトレードオフがある。費用関数等の推定では,民間 部門が最適化行動をおこなっているという制約からもたらされる情報を用いているのに対 し,生産関数による推定では生産フロンティア上で操業していること(技術的効率性)の みが要請され,利潤最大化のために最適な生産要素の使用は前提とされていない。 また,費用関数のモデル化では社会資本が対価を払わず使用することが可能であると想 定されていることに注意すべきである。例えば,高速道路は,建設費を料金収入で償還す る仕組みとなっており,標準的モデルの仮定とは整合的でない。高速道路を含む財政投融 資で供給される社会資本については,使用者がその対価を支払うことを考慮したモデル化 が本来は必要である。 (3) その他の手法 上記2手法による実証研究の結果については,4.4 節で検討することにし,それ以外の手 法による研究についてここで触れる。 まず,収束の接近方法を用いた研究がある。上記の手法では実現された生産量とその時 があるならば,適当な操作変数を求めることは非常に困難であり,同時推定では問題を解 決できなくなる」(37 頁)という認識から,他の対処方法を模索したものである。これに対 して,林(2003a)の議論では,誤差項の系列相関がないことが前提にされている。しかし, 公共投資の意思決定に影響を与えるものとして重要なのは,一時的な生産性の変動ではな く,その地域固有の要因(したがって,ある程度の期間にわたって持続するもの)である と考えられる。このような要因は,系列相関の強い誤差項と考えなくてはならず,過去の 社会資本ストックは適切な操作変数とはならなくなる。 岩本他(1996)では,内生性の問題を最初からこのように認識していたが,後続研究では, 誤差項に系列相関はないとの想定のもとで,過去の社会資本ストックを操作変数にとって 内生性の問題に対処したものが多く現れた。岩本他(1996)の問題意識が十分には伝わってい なかったといえる。 内生性の問題が計量経済学の教科書で議論されるときには,教育的配慮から誤差項の系 列相関がない場合から出発するが,実証分析をおこなう際に重要なことは,それを機械的 に当てはめることではなく,現実に生じている問題をよく見極め,それを表現するのに適 切なモデルから議論を出発させることである。こうしたことから,誤差項の系列相関がな いモデルから出発して論点を整理しようとした林(2003a)の議論には,筆者は不満を感じる。
点での社会資本の関係を見ているのに対して,中里(1999a, 1999b),Shioji (1999),塩路 (2000, 2001)では,より長期での生産量と社会資本の関係を推定することを目指している。 ただちには観測できない斉一成長経路上の生産量を特定するために,異時点間の最適な資 源配分の結果として,地域の生産水準が斉一成長経路上に収束していくという制約がもた らす情報を用いることが,この手法の特徴である。ただし,生産・費用関数等による推定 では,他の生産要素を所与として社会資本が変化した場合の限界生産力を計測しようとす るのに対して,収束の概念では,社会資本の変化が引き起こした,他の生産要素の変動も 加味した効果が計測されることになるので,単純に両者を比較することはできない。 ある地域の社会資本の便益がその地域の地代の上昇に反映されるという想定から,社会 資本の便益を推定しようとした研究に,田中(1999),井出(1999),三井・林(2001),遠藤(2003) 等がある15。この接近方法では地域間の人口移動に摩擦がなく,住民の効用水準は他の地域 の居住との裁定で,社会資本の量に関わらず一定という仮定が含まれている。したがって, 地域間の所得格差を縮小させる政策的意義がない設定になっていることに注意すべきであ る。 また,井堀・近藤(1998),近藤・井堀(1999)は,社会資本の生産力効果が所得増を経由し て消費増につながると考えて,消費の動きから社会資本の便益を計測している。一方,赤 木(1996)は,社会資本が消費に与える影響から,生活関連型社会資本の便益を計測して いる。消費への影響を考察することにより,効用に直接与える影響をとらえることも可能 となるが,消費行動が正しく定式化されているという追加的な仮定が満たされる必要があ る。 4.4 実証研究の評価 実証研究のひとつの焦点は,社会資本の生産性([1]式でいえば
β
K)が有意に正であるか, どの程度正確に推定できるかにあったが,本稿の関心は規範的視点であるので,わが国で 社会資本が効率的に供給されてきたか否かに焦点をしぼり,実証研究の結果を評価してみ よう。 集計データを用いて,マクロ経済の次元で社会資本が最適量に比較して過大であったか 過小であったかを検証した研究としては,岩本(1990a),釜田・河村・竹内・水野(1994), 三井・井上(1995),Nemoto, Kamada and Kawamura (1999),井上・宮原・深沼(1999), 吉野・中島・中東(1999a),北坂(1999)等がある16。表2では,これらの研究の推定期間,
15 ただし,三井・林(2001)では,「逆地代関数」として,説明変数に地代を含み,被説明変
数が税収である関数を推定している。
特定化した関数型,検証の対象とした最適条件(最善解または次善解),結論をまとめたも のである。まず,吉野・中島・中東(1999a)が 1970 年以降で社会資本が過大,北坂(1999) が適切であったという結論づけている以外は,社会資本は過小であるという結論を得てい る。ただし,過小と結論づけた研究の標本終期は1982 年から 1993 年と比較的古い。また, ほとんどの研究で,最近時になるほど社会資本の限界生産性が低下してきていることが見 られる。 表2 を挿入 このことから,少なくとも高度成長期までは社会資本が過小な時期にあったということ ができるであろう。その後,社会資本が整備されて,最近時では適正ないし過大な領域に 入った可能性もあるが,表2の研究のみからは,現在時点の社会資本の水準については過 小・適正・過大のどれかを確定することはできないと考えられる。 現在の公共事業への批判が高まっているなか,実証研究で確定的な結果が得られないこ とをどのように考えればよいのだろうか。まず,本来は個別事業の便益と費用を集計して 判断すべき問題を,集計データ間の関係でとらえようとする定式化の誤りによって,推定 の精度が十分ではなく,結果が確定できないことが考えられる。つぎに,個別事業(とく に地方において)において非効率なものが生まれつつあるが,日本経済全体としては社会 資本はまだ過剰な水準に達していないという可能性も考えられる。 後者の可能性のうちで一部の社会資本に過剰な部分があるということは,地域別・部門 別データを用いた分析によって指摘されている。まず社会資本の限界生産性が地域間・部 門間で違っていれば,現在の社会資本量を変化させず,社会資本の配分を変えてやること によって,総生産量を増加させることができる17。さらに社会的割引率と比較することで, 地域別・部門別に適正水準か否かを判断することができる。堀(1989),大河原・山野(1995), 土居(1995)が地域別データにより社会資本の適正水準を検証しているが,社会資本は都市圏 で過小であり,地方圏で過大であるという結論で一致している18。わが国の公共投資が地域 and Wakasugi (1984),西垣(1994),三井・井上(1995),畑農(1998),長島(2000)等があげ られる。 17 地域間・部門間の所得を同等に評価するのであれば,このような変更は経済厚生上望ま しい。しかし,地域間所得を平等化することが社会的厚生関数で考慮されるならば,総所 得最大化を図ることは望ましくない可能性がある。Merriman (1990)は,1963 年時点で社 会資本を再配分することにより所得を地域間で平等化することを図った場合に,総所得が 14%低下することを示している。なお,彼の分析では,社会資本以外の生産要素の地域間 移動はないものと考えられている。 18 古川・下野(2002)は,2地域で工業製品と農産物が生産され,社会資本は工業製品生産
間の所得格差を是正するために,効率性をある程度犠牲にしてきたことがここでも確認さ れている。吉野・中島・中東(1999b)は,第1次産業において社会資本が過大な水準にあっ たことを観察している19。 のために投入されるモデルにおいて,社会資本を1地域に集中して投資する政策と2地域 に分散して投資する政策の比較をおこなっている。そして,社会資本の限界生産性が低下 した場合には分散投資が望ましくなる可能性が高まることを根拠に,1990 年代以降に大都 市圏への公共投資の配分率が高くなった事実に対して,1980 年までの地方圏に重点を置い た公共投資配分を継続すべきであったと主張している。 都市圏の社会資本の限界生産性が高いとすれば,本文の指摘は,都市圏に公共投資を重 点化させることを支持している。これは一見,古川・下野(2002)の議論と対立するように見 えるが,本稿で指摘していることは,各地域の生産関数の形状が異なるときの望ましい分 散投資のあり方である。分散投資が望ましいことは共通しており,生産技術の想定の違い が現状の解釈に違いをもたらしている。 この他に地域別データによって生産関数を推定した研究に,Mera(1973),浅子・坂本 (1993),浅子他(1994),吉野・中野(1994,1996),三井・竹澤・河内(1995),大河原・山野(1995), 岳(1995),岩本他(1996),金本・大河原(1996),土居(1998),楊(1997),林(1997),坂本(1999), 臼木・山田(2000),Yamano and Ohkawara (2000),大河原・山野・Kim(2001),遠藤(2002), 井出・山崎・大重(2003),宮崎(2004a)等が,費用関数または利潤関数を推定した研究に三 井・竹澤・河内(1995)がある。
19 部門別データによる推計をおこなった他の研究には,Merriman (1990),三井・井上・
竹澤(1995),岩本他(1996),金内(1998),井田・吉田(1999),野崎(1999),光多(2000),Ihori and Kondo (2001),宮崎(2004b)等がある。
5 結論とのこされた課題
社会資本に関する最近の研究は,非常に重要な政策課題に綿密な実証分析でこたえよう と努力している。「無駄な公共事業がおこなわれているのではないか」という懸念は多くの 国民に共有されることとなったが,経済学者が心がけるべきことはマスコミ報道や生活実 感ではなく,学術的な分析の蓄積に基づいてこの問題について発言することである。 地域別に見た場合に都市圏で過小であり,地方圏で過大となっていることや,第1次産 業向けの社会資本が過大であることについては,ほぼ一致した結論が出ているといってよ い。しかし,マクロ的な次元でみた場合,社会資本の生産性は低下しているが,現在の水 準が過大か過小かについては明確な結論を下すことは難しい。データを集計することによ り,社会資本が過大である側面と過小である側面が混在し,結論が明確でなくなっている ものと考えられる。 ここで,集計量での議論と個別事業での議論の整合性をどのようにとるかは,研究上の 課題であるとともに,政策上の課題ともなる。 集計されたデータでは社会資本と生産量との関係をとらえる際に多くの誤差が含まれる ことを考えると,両者の関係をより明確にするためには,社会資本あるいは生産を細分化 していくことが考えられる。この方向につき進むと,個別事業の費用便益分析に行き着い てしまうが,これを積み上げてマクロ的な政策的含意を導くことは実務上困難である。し たがって,研究上の課題となるのは,マクロの集計量と個別事業の中間において,信頼で きる推定値が得られ,かつ全体の効率性について議論できる位置はどこになるのだろうか ということである。 これにほぼ対応した形で政策上の重要な課題がある。1999 年度から国のすべての新規事 業の採択時に費用対効果分析をおこなうことが義務づけられ,公共事業の政策決定の透明 性は以前よりはるかに改善された。しかし,予算編成での事業費決定は個別事業の費用便 益分析と連動しているわけではなく,費用便益比の順に機械的に事業が採択されるのでは ない。事業費の総量決定に費用便益分析をどのように反映させるかは,予算編成の重要な 課題である。この問題の背景には,事業分野間の費用便益分析手法の整合性がとれていな いため,現在のところ分野間の便益を比較することができないという事情がある20。 これと関連して,個別事業の費用便益分析と4.3 節で展望された研究では,便益の計測手 法で大きな違いがあることに注意すべきである。個別事業の費用便益分析では発生ベース で計測する手法が一般的である。例えば,交通関係では移動時間の節約,事故の減少等の 20 2001 年より国土交通省は,所管の公共事業の評価手法を整合性のとれたものにする取り 組みを始めた。項目ごとに金銭評価して積算する手法をとる。一方,4.3 節で展望したような総生産への影 響を見る手法は帰着ベースと呼ばれ,整備新幹線の費用便益分析のみで用いられる例外的 なものである。帰着ベースによる便益の測定は発生ベースの場合よりも推定誤差が大きい と見なされており,マクロ的な便益を帰着ベースで測定する困難さを十分に認識しておく 必要があるだろう。 もうひとつのこされた重要な研究課題は,わが国の公共投資政策は非効率となった原因 は非合理的なものなのか,もしそうならばそれを是正するにはどのような手段が講じられ るべきなのか,という点である。公共投資政策を非効率なものとさせた原因としては,2 点を指摘しておきたい。第1は,本来は経済環境に応じて伸縮的に調整されてしかるべき 公共投資の対GDP 比が長期にわたって硬直的なものになっている可能性である21。図2で 見るように,高度成長が終焉して経済成長率が鈍化したにもかかわらず,公共投資の対GDP 比率はそれに呼応した低下を見せていない。加速度原理が教える通り,その結果として社 会資本の対GDP 比はずっと上昇を続けている(図3)。この事実については,過去から現 在にいたるまで(現状より高い)水準に向けて調整していく過程にある,という説明は考 えられる。しかし,その場合は民間資本と社会資本が同様の調整過程をとることが理論的 に予想されるが,高度成長期以降に民間投資の水準が下がっているにもかかわらず,公共 投資の水準は下がっていない。したがって,政策当局が公共投資の望ましい水準を判断す べき基準をもたなかった(あるいは経済学的に正当化されるものとは違った基準をもって いた)と考えるのが妥当であろう。第2は,利益誘導政治がとられたという考え方である。 土居(1995)は地域間の公共投資の配分に,地域の与党議員の比率が正で有意に影響を与える ことを報告している。 図2を挿入 図3を挿入 以上の点が主要な原因であるならば,それに対処することが,公共投資政策の改善につ ながるであろう。まず後者の点でいえば,公共投資比率を固定的に維持する政策に経済的 合理性がないことが広く認識されるべきであろう。 利益誘導政治を排除して,公共投資の意思決定をより合理的なものとしていくことは, より難しい課題である。この課題については,理論的な検討がさらに深まることが望まれ る。実証研究の成果はすでに蓄積されているので,それを踏まえて理論研究と実証研究が 21 この点は,岩本(1990b)にくわしい議論がある。
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図1 社会資本ストック(実質・対数)
12
12.5
13
13.5
14
14.5
15
15.5
16
1953
1958
1963
1968
1973
1978
1983
1988
1993
1998
年
表1 全要素生産性とGDPの成長率 (%) 年 成長率 全要素生産性 社会資本 Jorgenson-Nishimizu (1978) 1955-60 4.56 4.97 1960-65 4.64 8.60 1965-70 5.48 13.83 Jorgenson-Kuroda (1992) 1960-65 3.27 8.60 1965-70 4.98 13.83 1970-75 -3.94 15.54 1975-80 1.11 12.13 1980-85 0.00 5.90
表2 集計データによる社会資本の適正水準の検証 検定仮説 関数型の定式 化 標本期間 社会資本水準に関 する結論 岩本(1990a) 最適, Cobb-Douglas 1956-84 過小 Ogura-Yohe 釜田他(1994) 最適 Translog 1970-87 過小 三井・井上(1995) 最適 Cobb-Douglas 1956-89 過小
Nemoto, Kamada and Kawamura (1999) Burges 2次 1960-82 過小 井上・宮原・深沼(1999) Burges Translog 1957-93 過小 吉野・中島・中東(1999a) 最適 Translog 1955-93 過小(70年以前), 過大(70年以降) 北坂(1999) 最適 Cobb-Douglas, CES 1970:1-94:1 適正
図2 公共投資率と経済成長率
-0.04
-0.02
0
0.02
0.04
0.06
0.08
0.1
0.12
0.14
1956
1961
1966
1971
1976
1981
1986
1991
1996
年
GDP成長率
公共投資/GDP
図3 社会資本(対GDP比)
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
1955
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1995
年
実質/実質
名目/名目
図1 (注)内閣府政策統括官(2002),表 3-41,1995 暦年基準の実質値を対数表示。 図2 (注)公共投資は公的総固定資本形成,GDP 成長率は実質成長率,公共投資/GDP は名目 値の比率。 (出所)『国民経済計算』(68SNA,内閣府),実質値は 1990 年暦年基準。 図3 (出所)社会資本:内閣府政策統括官(2002),表 3-41,実質値は 1995 年暦年基準。GDP: 1980 年度以降は『国民経済計算』(93SNA,内閣府),実質値は 1990 年暦年基準。1979 年度以前は『国民経済計算』(68SNA,内閣府)データを 1980 年度の 93SNA と 68SNA データの比を乗じることで接続。