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コナラの家具利用への可能性と課題

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Academic year: 2021

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(1)94. 特集:家具のデザインと技術. 石村眞一 Ishimura Shinnichi 九州大学名誉教授 Kyushu University honorary professor. コナラの家具利用への可能性と課題 サスティナブルデザインを基調として Possibilities and Challenges for Furniture Use of Q uercus serrata Based on Sustainable Design. 1)ほた木を、ほだ木と表記する事例もあるが、榾木と漢 字表記することから、「ほた」 と本来読むべきと思わ れる。 2)石村眞一・樋田宣英・下田雅彦・長森義和:国産広葉 樹による焼酎の貯蔵に関する調査研究,調査・研究成 果報告(平成14年度),大分県酒造協同組合,43-93, 2003 アメリカのホワイトオーク材の樽に貯蔵した焼 酎と比較するため、ミズナラ、コナラ、クリ、オニグ. 1.はじめに 1.1. 既往研究 林学として、コナラ(ブナ科コナラ属)を取り扱った研究は多数あると推 察するが、研究の主たる目的は、ほた木[注1]に代表される里山の原木利. ルミ、ヤマザクラ、ミズメ、キハダの各材で18リット. 用という領域である。家具に特化した木材加工製品として、コナラを対象と. ルの試験用樽を製作し、アルコール度数44.4度の焼酎. した研究は極めて少ない。. を充填した。焼酎の欠減率は樹種によって差があり、 ニレは最も評価が低かった。また、官能評価では、ヤ. 筆者等が2003∼2005年に実施した国産広葉樹材の洋樽製作プロジェクトで. マザクラにアセトアルデヒド成分が溶出しており、焼. は、コナラの樽材による試験結果を中心に研究を進めた[注2] 。本研究に. 酎の貯蔵には不向きであることが明らかになった。 石村眞一・樋田宣英・下田雅彦・長森義和:国産広葉. おけるコナラ材の位置づけは、北米のホワイトオーク(ブナ科コナラ属)の. 樹による焼酎の貯蔵に関する調査研究,調査・研究成. 性質に比較することが主たる目的であった。コナラ材の資源と資源維持につ. 果報告書(平成15年度),大分県酒造協同組合,1-43, 2004 前年に引き続き、ホワイトオーク、ミズメ、コ ナラ、キハダ、クリ、ミズナラ、クルミ、クヌギの各 材で試験樽を製作し、焼酎の原酒を肇造した。欠減率. いても多少論じているが、乾燥方法については一切論究していない。 コナラの家具利用については、中国経済産業局の助成金を得て、筆者等に. から、クヌギはまったく適さないと判断した。官能評. よって2008∼2009年に実施した[注3] 。この中で使用した未利用国産材と. 価も含め、ホワイトオーク材に対抗できる可能性のあ. は、コナラのことで、アベマキ(ブナ科コナラ属)のような他の樹種は、参. るのは、ミズメ、クリ、コナラの3種類である。 石村眞一・樋田宣英・下田雅彦・長森義和:国産広葉. 考に示しているだけである。コナラの乾燥は、短期高温乾燥で実施した。従. 樹による焼酎の貯蔵に関する調査研究,調査・研究成. 来の乾燥方法の延長にあり、特に200℃以上という極めて高温で対応した。. 果報告書(平成16年度),大分県酒造協同組合,1-34, 2005 調査のまとめとしては、ホワイトオーク材の樽. 対象とした家具は、共同研究の家具業が箱物家具メーカーであることから、. に対抗できるのはコナラしかないという結論に至っ. テレビ台に的を絞り、椅子類については一切触れていない。また胸高直径. た。しかしながら、官能評価でホワイトオークを超え たとは言えず、優位性があるとは断言できない。樽材. 0.5m 以上のコナラを対象としているだけで、小径木の乾燥や家具への利用. の質に関しては、一般的に理解されていない。家具材. については言及していない。このことから、コナラ家具利用の全体を網羅し. より質が高く、小節も一切ない大径木の良材だけが使 用される。. ているわけではない。. 石村眞一・下田雅彦・長森義和・樋田宣英:国産広葉 樹による焼酎の貯蔵に関する調査研究,醸造論文集, 第64輯, 日 本 醸 友 会,10-23,2009  こ の 論 文 は、 2009年度日本醸友会技術賞を受賞した。 3)石村眞一他:未利用国産材を活用した新たな府中家具. 1.2. 研究の目的 コナラは材質が硬く、製材用刃物が発達していなかった時代には、加工が. の開発,平成19年度地域資源活用型研究開発事業成果. 難しいとされた。さらに製材後の変形が大きく、家具には適さないとされ、. 報告書,財団法人ひろしま産業振興機構,1-70,2008. これまで資源は十分あるのに、本格的な家具研究はなされていない。本研究. 石村眞一他:未利用国産材を活用した新たな府中家具 の開発,平成20年度地域資源活用型研究開発事業成果. の目的は、コナラの家具利用への可能性について、資源とその持続性、材料. 報告書,財団法人ひろしま産業振興機構,1-93,2009 . 特性、意匠、製作、販売といった総合的な視点で検討し、その具現化に対す. 本研究における接着には、人工高分子のイソシアネー ト系接着剤を使用した。膠による実験を試みたが、接. る見通しと課題を抽出することにある。. 着力が弱く、コナラの変形には耐えられないと判断し た。また塗料には可視光硬化型水性塗料を使用した。 確かに低 VOC 塗料ではあるが、人工高分子なので、 最終的な家具の廃棄時に生分解はしない。この生分解 は、サスティナブルデザインを考える上で、極めて重 要な点である。. 1.3. 研究の方法 本研究は、これまで取り組んできたコナラに関するフィールド調査、コナ ラ材の性質、製品の意匠と製作を通した知見を、サスティナブルデザインと.

(2) デザイン学研究特集号  Vol.27-1 No.101. いう視座で再度考察し、家具製作の可能性と課題を見出す。求めるのは、一 部分の実験や製作による定量的なデータではなく、実現のために必要な新た な枠組みであり、学際的な知見である。. 2.コナラの性質と資源 2.1.コナラの性質 ⑴ 硬さ コナラの比重は0.82で、クヌギ(ブナ科コナラ属)の比重0.85に近い。広 葉樹の家具材を代表するケヤキ(ニレ科ケヤキ属)が0.69、ミズナラ(ブナ 科コナラ属)が0.68、ブナ(ブナ科ブナ属)が0.65であることから、コナラ の硬さが比重から理解できる。現在のようなチップソー[注4]が発達する 以前は、コナラの製材は難しく、そのためイシナラという別称が用いられ た。材料が硬いことは、家具を製作する際、家具の重さに影響するため、ケ ヤキやミズナラと同じ厚みであれば、箱物家具には不向きと言うことにな る。キリ(キリ科キリ属)が箱物家具に好まれたのも、材が軽いからであ り、災害時の移動が近世には家具に求められていた。現在は、一般の家庭で 4)chip saw のカタカナ表記である。刃の先端に超合金製 の小片(chip)を付けた丸鋸で、近年は丸鋸の殆どが この刃を採用している。木材と丸鋸との間に生じる摩 擦力が軽減されることを目的とした改良鋸ということ になる。 5)日本の箱物家具は戦後の高度経済成長期には、フラッ シュ家具の出現もあって、安価な製品が大量に生産さ れた。これらの箱物家具は軽量で、キリ箪笥の持つ特 性を追従している。すなわち、三段重ねのようなパー ツに分けて移動可能な重さに設定されている。但し、. 特に家具の移動を災害時にするわけではないが、箱物家具は未だに軽さを求 める傾向がある[注5]。 ケヤキの箪笥類も、内側はキリ材を使用していることから、硬いコナラで も同じような手法を用いれば製作は可能である。 ⑵ 歪み 針葉樹に比較して、広葉樹は総体的に製材後の歪みが大きい。とりわけブ ナ、コナラは歪みが生じ、長さ2000mm、断面が45mm ×60mm に製材し、. こうした箱物家具の需要は、1970年代から徐々に減. 天然乾燥を十分施した場合でも、歪みで材が半回転することもある。ケヤキ. り、1990年代あたりから、新築のマンションを中心に. やミズナラの大径木が家具材で好まれるのは、この歪みが少ないためであ. 収納家具を必要としない室内設計が流行するようにな る。しかしながら、テレビが壁掛け型に移行すると. る。コナラでも、大径木であれば歪む確立は比較的小さいはずであるが、そ. 2000年あたりから予測されていたが、現実にはそれほ. うした素材は少ない。胸高直径0.35m 以下のコナラ材は、短尺材を集成する. ど進行しているわけではない。木製箱物家具の需要は 減っているが、形を変えながら、生活を支えているこ. フローリング、板幅を狭くして短尺材をフィンガージョイント[注6]にて. とは事実である。. 集成し、家具の天板に使用するといった方法が用いられる。こうした使用方. 6)finger joint のカタカナ表記である。木材を縦方向に継 ぐ方法で、指を組んだ形態に似ていることから命名さ. 法は、すべて歪み防止への対応である。. れたのであろう。専用の機械によって接着剤を併用す ることで量産される。板状の材から、棒状の材にも施 される。この接合力であるが、蟻継のような強度は期 待できない。それでもデンマーク家具も含め、世界的 に普及している。. 2.2. コナラの資源 ⑴ コナラの植生. 7)福島県林業研究センターからご教示をいただく。福島. コナラは九州から北海道の南部に自生し、西日本に対して東日本の方が多. 県におけるほた木の主産地は、阿武隈山系と南会津で. いようである。その理由については今後の課題とするが、福島県の椎茸栽培. ある。現在原発事故の影響で、ほた木の出荷は、一部 の地域を除き、福島県全体で停止の状態にある。 8)筆者撮影2011年。このコナラ天然林は、大分県由布市 湯布院町岳本地区にあり、民家の敷地と隣接してお り、一部は私有地である。急斜面のスギ植林地域を過 ぎると、常緑広葉樹とコナラ混交林となる。この混交 林にでは、コナラの大径木が多数倒木になっている。 天然記念物の指定林内では、倒木を木材としては利用 できないことになっている。筆者のような木材家具研 究者には、この制度は理解できない。. 用ほた木は、日本で最も多く出荷されている[注7]。このことから、東日 本の資源量が豊かであることは間違いない。 コナラの原生林は予想以上に少なく、大分県由布市湯布院町に県指定の天 然記念物に指定された原生林がある。標高は435m であるが、山麓に位置し、 温暖な気候のためか、常緑広葉樹との混交林である。大木も多く、図1 [注8]に示したものは、胸高直径1.3m に達する。. 9)筆者撮影2011年。このコナラは広島県庄原市東城町の. 図2[注9]は、広島県庄原市にある県指定の天然記念物であるコナラ. 農家に隣接した私有林にある。樹齢は600年以上と推. で、樹高30m、胸高直径2.4m という大きさである。おそらく日本一の巨木. 定される 10)筆者撮影2012年。福島県耶麻郡猪苗代町達沢にある大 山祇神社の社叢の一部に位置する。この社叢とは、一 般の神社とは異なり、神社の社を囲っているわけでは なく、神社の裏手の広い山林である。. で、ミズナラと比較してみても、大きさでは勝っていると推察される。 コナラの大木は東日本でも認められる。図3[注10]は、福島県苗代町の 神社裏地に見られるもので、コナラとミズナラの大木が20本以上認められ. 95.

(3) 96. 特集:家具のデザインと技術. る。図3のコナラは、胸高直径1.5m、樹齢は300年以上と推定されており、 標高780m にミズナラと混在している。垂直分布としてはミズナラ帯と隣接 しており、クヌギとは一線を画している。このことから、クヌギとコナラ は、里山林を構成する樹種であるが、東日本の寒冷地における垂直分布は少 し異なる。. 図1 コナラ(大分県由布市). 図2 コナラ(広島県庄原市). 図3 コナラ(福島県猪苗代町). ⑵ コナラの資源 福島県の民有林では、コナラが40%近くを占めている[注11]。それでも 木材製品に適する資源があるとは限らない。コナラを植林しても、胸高直径 0.5m に育つには、少なくとも100年以上必要となる[注12]。こうした家具 用材としても使用出来る樹は希であり、多くのコナラは里山で薪炭材やほた 木用材として育てられている。すなわち、萌芽更新によって15∼20年程度 で、伐採を繰り返して使用されてきた。 戦後の高度経済成長期に、薪炭材の需要がなくなり、現在見かける里山の 11)福島県林業開発センターよりご教示をいただく。 12)100年以上と記述したのは、場所によっては150年必要. コナラは、萌芽更新後に放置されたものが多く、胸高直径0.2∼0.3m 前後に育っ. な場合があるからで、樹齢に関しては推定でしか論じ. たものが目に付く。生産者は、需要がないので、製紙用チップとして安い単. られない。例えば、散孔材のブナでは、300年で胸高. 価で売ることが多く、本来の需要とは異なった販売システムになっている。. 0.3mにしか成長しない場合がある。秋田県山本郡藤 里町は白神山地の端に位置し、広域にブナ林が存在す. チップ業は、1990年代になると海外から安価なユーカリ(フトモモ科ユー. る。その中のブナには、第二次大戦中に使用予定を示. カリ属)等のチップが輸入されるようになり、倒産する企業が増加した。海. す番号が彫り込まれた樹が少数ある。戦後70年を経て も、それほど成長しているように思えない。胸高直径. 外からのチップ輸入は、途上国への輸出と輸入のバランスをとるための国策. と樹齢は、一つの目安で論じているだけである。こう. であり、国内のチップ業者には予測出来ない。チップ業は、生産者から1噸. した広葉樹の樹齢については、福島県南会津郡南会津 町田島の室井材木店よりご教示をいただく。. あたりの単価で里山の広葉樹を購入するが、その後コナラも含め、樹種別に.

(4) デザイン学研究特集号  Vol.27-1 No.101. 選別し、直径が0.35m 以上の丸太は、木材業者に販売している[注13] 。こ のことから、コナラの生産者は極めて利益が少ないというのが実態である。 コナラの資源はあっても、具体的な木製品としての利用が見込めないの で、枝打ちをするといった手入れは殆どされていない。こうした状況が、コ ナラの木材としての価値を下げる一因になっていることは否めない。里山 は、荒れ放題というのが日本各地の実態であり、その責任は、日本の林業政 策に関わる大きな問題である。. 2.3. 資源の持続性 コナラの資源を民有林から見た場合、里山の維持が極めて重要になる。 図4、5は、福島県須賀川市の里山で見かけたコナラで[注14]、図4の コナラは胸高直径0.6m である。真っ直ぐで、しっかりと枝打ちされたコナ ラは予想以上に少ない。こうした貴重なコナラを大量に使用することは、資 源の枯渇化に繋がる。図5は奥の真っ直ぐな樹がコナラである。. 図4 コナラ(福島県須賀川市). 図5 コナラ(福島県須賀川市). 図6 コナラ林(福島県天栄村). 図6[注15]は、福島県岩瀬郡天栄村の国有林で見られた道路脇のコナラ である。標高が630m ということから、コナラの垂直分布では、やや高い場 13)筆者の調査では、農機具の柄を製造する業者が購入し ており、家具材としての需要はないように感じた。. 所ということになる。調査した2005年には、胸高直径0.15m∼0.3m という大. 14)筆者撮影2005年。このコナラ林は大径木が多く、所有. きさであった。株立ちもあることから、二次林のようである。一定間隔に間. 者の聞き取りでは、特に使用目的があるというわけで. 引きされ、枝打ち等の手入れもされているように思えるが、実態としては特. はない。資産として育てているといった風潮が過去の 農家にあったのかもしれない。 15)筆者撮影2005年。羽鳥湖の周辺は笹のある地域もある が、ない地域もある。図6の周辺には笹はない。 16)福島県森林管理署白河支所よりご教示をいただく。. 別手入れがされているわけではない[注16]。 図7は図6付近を2019年4月に撮影したものである。定点観測ではないの で、定量的な資料提示はできないが、13年半で太い樹は数 cm 成長している. 97.

(5) 98. 特集:家具のデザインと技術. ようである。国有林は、現在原則広葉樹の伐採をしていないことから、図7 は単に放置されているだけである。 図8、9は図7に隣接した地域で見られたコナラで、図8は胸高直径0.5m、 図9は0.75m というサイズである。図8は理想的な家具材を得る可能性が高 い。逆に図9は、2m 以上の長尺材を得ることは難しく、木材としては価値 が低い。資源の維持は、理想的な樹を育てると共に、欠点のある材の使い方 や枝材の有効利用を検討しながら、中・長期計画にて樹の育成と消費量のバ ランスをとることが課題となる。. 図7 コナラ林(福島県天栄村). 図8 コナラ(福島県天栄村). 図9コナラ(福島県天栄村). 3.コナラの利用実態 3.1 アンケートを通して見た利用実態 17)研究代表者:石村眞一,国産広葉樹の工芸的利用に関 する研究,2003−2006年 18)市町村では広葉樹利用の実態を把握していない。利用 実態がまったくないというわけではなく、利用が少な. 2004年から2007年にかけて、広葉樹の利用に関するアンケート調査を科学 研究費にて実施した[注17]。中国地方から北海道までの市町村林業担当部 署と、民有林を統括する森林組合を対象とし、1980カ所に送付した。回収率. くて経済効果が乏しいため、林業として認知されてい. は約30%であるから、行政においても、また森林組合においても広葉樹の利. ないのである。しかしながら、こうした状況は高度経. 用に関する意識は高くない[注18]。. 済成長後期から見られるもので、例えば広島県ではア ベマキ(ブナ科コナラ属)のコルク層からコルクを製 造していた。自動車メーカーであるマツダは、1920年 に創業した東洋コルク工業株式会社が前身で、1931年. コナラの利用については、ほた木(菌床栽培用の大鋸屑も含む)を除け ば、下記に示した内容である。. にオート三輪を製造して今日に至っている。マツダ株. ①岐阜県高山市−家具(椅子材). 式会社の旧社名は東洋工業株式会社であり、東洋コル. ②宮城県仙台市−木製品. ク工業の社名に由来している。広葉樹のアベマキを資 源にした大手の企業が、100年前には存在したのである。. ③岩手県岩手郡雫石町−家具用材(机、椅子).

(6) デザイン学研究特集号  Vol.27-1 No.101. コナラについては上記3件だけである。ナラという表記については、下記 に示した内容である。 ①広島県佐伯郡大野町−住宅内装材(産地は山口県) ②岡山県真庭郡湯原町−家具(テーブル、椅子) ③岡山県御津郡御津町森林組合−建築用材(産地は岡山県一帯) ④新潟県魚沼市−指物用材 ⑤福島県会津一円−家具用材 ⑥福島県田村市−家具用材(茶箪笥) ⑦秋田県大館市−家具 ⑦北海道虻田郡京極町−家具 ⑧北海道上川郡鷹栖町−家具 ⑨北海道天塩郡遠別町−家具 上記のナラという表記は、ミズナラを指すと考えて間違いない。換言すれ ば、家具・建築業界では、ナラと言えばミズナラだけを示していたことにな る。アンケートを通して見る限り、コナラの家具材としての本格的利用は、 岐阜県高山市と岩手県岩手郡雫石町だけである。. 3.2. 曲木家具業とコナラ フィールド調査により、飛騨産業株式会社と秋田木工株式会社が、コナラ を曲木家具材として使用していることを確認した。曲木家具に最も適した材 はブナであり、19世紀中葉から三次元曲げ加工にも使用されており、日本で は明治末期より民間と農商務省山林局で研究を重ねてきた。ミズナラも曲木 に使用され、北海道の馬橇は60mm の材をトーネット法にて曲げている [注19]。ブナの曲木家具はトーネット社の特許であり1856年にオーストリア 19)石村眞一:橇の曲木加工技術と曲木家具製作技術との. で特許を取得している[注20]。北海道の馬橇は明治初期にロシア極東地域. 関連性,芸術工学研究,Vol. 5,九州大学芸術工学研. から導入された技術であり、曲木の加工技術は、すべて海外からの伝播とい. 究院,1-14,2006 馬橇の曲げ加工は、生活者の創意. うことになる。. 工夫で成立したものではない。1878(明治11)年に開 拓史長官であった黒田清隆が、ロシアのウラジオスト. 1980年代以降、国有林のブナは伐採が自粛されるようになり、曲木家具業. クへ出張して運搬方法を視察した際、ロシア側から橇. では海外から輸入するブナと民有林のブナに依存するようになる。ミズナラ. を贈られた。この橇を国産化するため、黒田はロシア 人技術者を招聘した。黒田は同年12月に樺太のコルサ. も一部使用されたが、次第に資源が渇化し、入手しやすい民有林のコナラが. コフに出張し、3名のロシア人木工職人を雇って帰国. 1990年代あたりからブナの代用品として曲木家具に試されることになる。但. する。黒田は、ただちに3人の日本人職人をロシア人 に付けて修行をさせた。さらに、黒田はロシア人職工. し、コナラはブナに比較して曲げにくいので、二次元の曲げ加工にしか用い. の持つ技術を短期間で日本人職工に習得させるため、. られない。管見の限り、曲木家具業におけるコナラの使用は、ブナの代用品. 札幌の器械場に作業所を新築した。橇製作のロシア人 技術者も、お雇い外国人なのである。黒田の努力も. としての域を超えておらず、コナラ材の製品を前面に押し出しているわけで. あって、馬橇は北海道の全域に普及していく。この馬. はない。. 橇が北海道の開拓に果たした役割は大きい。 20)石村眞一:日本の曲木家具 その誕生から発達の系譜, 鹿島出版界,42,2012 トーネット社の特許は、内圧 縮して木材を曲げるトーネット法にあるのではなく、. 3.3. 既往の利用における課題. 鉄製の治具に沿って3次元形状に曲げる方法で認可さ. コナラは家具材として育てられていないので、資源としてはあっても、家. れている。当時の特許は効力が15年のようで、1870年. 具材として手入れをする必要がある。では、その整備が可能かと言えば、極. 代初頭には、既にヨーロッパで曲木家具業が70社以上 あった。1900年あたりになると、トーネット社は、社. めて難しい。民有林で胸高直径0.5m 程度に育った樹も、所有者にとって家具. 員が4万人に達する大企業に発展する。まさに曲木家. 材として販売出来るという確証がない限り、林業としての生業は成立しない。. 具業は、世界の先端産業に成長したのである。当然日 本の農商務省は、トーネット社の技術を導入するた. 萌芽更新されていた小径木は、長く放置されていたこともあり、胸高直径. め、1906(明治39)年国策として留学生をオーストリ. 0.3m 前後に成長した樹は全国で多々見られる。この資源も家具材になると. アに派遣する。こうして、これまで未利用であったブ ナ、ミズナラの家具への利用が始まった。山林局によ. いう確証がない限り、所有者は手入れをしない。全国の里山は、過去の利用. る取り組みに協力したのは三井物産で、海外でのブナ. 方法が衰退する中で、新たな活路が見出せない状態が続いている。. 利用紹介から、北海道のミズナラを小樽港から輸出、 ブナ曲木椅子の海外輸出まで、積極的に支援した。. 99.

(7) 100. 特集:家具のデザインと技術. 4.乾燥方法 4.1. 一般的な木材の乾燥方法 木材の乾燥は天然乾燥と人工乾燥に大別される。天然乾燥で平衡含水率 15%にすることは、最も理想的な乾燥方法である。ケヤキであるならば、長 さ2100mm 幅900mm 厚さ30mm の家具材を天然乾燥するには、伐採から大割、 小割の製材を通して、最低5年以上は必要となる。建築に使用する大きな材 は10年程度を要する[注21] 。ところが家具材は、屋外での平衡含水率15% といった天然乾燥では、マンション等の湿度が低い住環境に対応できない。 人工乾燥で含水率を一度8%程度に落とさないと、加工して製品を納入した 後に木材が変形しやすい。天然乾燥材は、古いタイプの開放型和風住宅に対 する対応であるといえよう。 人工乾燥は、現在広く用いられており、針葉樹のスギやヒノキは、蒸気式 乾燥であっても、また高周波乾燥であっても、概ね短期高温乾燥を施すこと が多い。この場合の高温とは、少なくとも80℃以上であり、一般には100℃ 以上を指すようである。そして1週間から2週間程度で乾燥を終える。短期 高温乾燥のメリットは、短い時間で乾燥を終える経済性にあり、小型の乾燥 炉でも可能であることから、比較的少額の設備投資で木材を乾燥させること ができる。 広葉樹も人工乾燥を行っている。この場合は60∼80℃という短期中温乾燥 が主流で、ミズナラ等はこうした方法で対応しているようである[注22]。. 4.2. 広葉樹の長期低温乾燥 家具業で使用される広葉樹は、海外からの輸入材が現在広く流通している ため、資源の少ない国産広葉樹の人工乾燥については、樹種別の乾燥方法に ついて殆ど手が付けられていない。とりわけ、コナラのような本来家具等に 適さないとされてきた木材については、管見の限り専用の乾燥方法は見当た 21)ケヤキを専門に取り扱う業者は、一枚板のテーブル天. らない。. 板の天然乾燥は、一般的に10年必要と考えている。福. アメリカにおけるホワイトオークの乾燥は、学校の体育館のような大規模. 島県では、こうしたケヤキ材専門の木材業が数軒過去. な施設で長期低温乾燥にて行われており、40∼50℃で3ヶ月以上費やしてい. には存在したが、2000年以降にはすべて廃業してい る。平地には農家の屋敷林にケヤキが多く見られる。. る。資源があるから大規模な乾燥システムが成立するのだが、そもそも日本. しかしながら、ケヤキ専門の木材業は、元々質の高い. において、短期高温乾燥が木材の乾燥方法で優位性を持つこと自体が不自然. 山地のケヤキを商売の対象としてきた。その資源が枯 渇化したことにより、廃業することになったのである。 22)ミズナラの人工乾燥については、短期中温乾燥の研究 データはあるようだ。換言すれば、洋家具材の中心. である。木材は伐採した後、大割にし、天然乾燥で含水率を落とし、さらに 小割にして含水率を30%に落とした後、長期低温乾燥をすべきである。最終. は、明治後期よりミズナラを基軸に展開していたとい. 的に8%に含水率を落とし、低湿度の状態で保管すれば歪みを最小限で抑え. うことになる。明治後期に農商務省山林局が進めた雑. られる。. 木利用政策も、ブナとミズナラを中心に進められた。 但し、ブナとミズナラは乾燥に関する基本的な概念が 異なる。ブナは平衡含水率まで乾燥させると、曲げ作 業をする際、外側に割れが生じるため、20%以上の含. 4.3. 小径木の乾燥と利用率の向上. 水率に調整する必要がある。曲げ作業を終えた後、治. 大径木の枝や、小径木の利用も、木材資源の有効活用の大きな課題であ. 具に材を固定した状態で60℃前後の乾燥室で平衡含水. る。乾燥で問題となるのは芯持ち材である。仮に小径木の芯持ち材の乾燥が. 率に下げる。 23)前掲:20),日本の曲木家具 その誕生から発達の系譜, 418-419 ここでは、コナラ資源の将来というキャプ ションで、福島県林業研究センターが実施した2006年. 可能になれば、テーブルの脚に利用できる。また椅子等の脚物家具にも広く 使用でき、家具業に貢献できる。. の広葉樹調査資料、コナラの小径木利用の試みを通し. 筆者が実施したコナラ小径木芯持ち材の乾燥について解説する[注23]。. て、コナラの資源を論じた。. 2012年3月に大分県日田市大山町でコナラを伐採し、1ヶ月程度天然乾燥. 24)コナラ小径木の入手、初期の乾燥に際して、大分県日 田市の神川建彦氏にご協力をいただいた。 25)九州大学農学研究院の藤本登留准教授は、木材乾燥の 専門家であり、広葉樹の乾燥にも深い知見を持たれて いる。乾燥に用いられた装置は、電気炉である。. を行った後[注24]、九州大学農学研究院の藤本登留准教授に、直径0.1m 程 度の皮付き丸太の人工乾燥を依頼した[注25]。 コナラの乾燥試験は2012年5月上旬より行われ、初期含水率は50∼60%で.

(8) デザイン学研究特集号  Vol.27-1 No.101. あった。乾燥炉の温度設定と含水率20%までに要した時間は、下記に示した 内容である。 ①45∼70℃程度、600時間以上[注26] ②80℃程度、150時間以上 ③105℃程度、80時間程度 上記②、③では割れが多く生じた。①では、木口面から5cm 程度は割れ が生じたが、全体としては概ね均質な乾燥を得た。但し、この割れは伐採後 の天然乾燥時から生じたものもあり、すべてが人工乾燥によるとは限らな い。換言すれば、天然乾燥でも木口面の割れ防止対応は必要である[注27]。. 4.4. 乾燥後の管理 木材は人工乾燥で8%の含水率にしても、温湿度の管理をしない部屋に移 せば、含水率は15%になる。この状態で一定の期間養生をし、家具製作をす る前に再度人工乾燥を施して8%に戻すか、8%の含水率を保持できる部屋 に移すかの、いずれかを選択しなければならない。含水率15パーセントに天 然乾燥した材も、製作前に12%程度の含水率を保持できる部屋に移す必要が 26)600時間で22日間である。仮に、40℃から始めて45℃ で乾燥を終えるなら、2ヶ月以上の時間を要するであ. ある。. ろう。含水率を10%以内とするなら、3ヶ月以上必要 となる。45℃∼70℃という乾燥温度は、低温乾燥と規 定するには無理があり、低温乾燥であれば上限の温度 を50℃にする必要がある。 27)一般には製材後に酢酸ビニル樹脂エマルジョンの接着 剤を木口面に塗布しているようである。但し、環境面. 5.コナラの家具利用への可能性 5.1. 家具の種類と意匠 筆者等が2008∼2009年に実施したコナラの家具利用に対する研究は、箱物. の配慮をするならば、天然成分の塗料等を塗布すべき. 家具であるテレビ台を対象とした。箪笥類の使用が衰退し、洋室のリビング. である。戦後の家具業では、経済性や効率を重視した. ルームで使用されるテレビ台に的を絞り、九州大学芸術工学部の教員と学生. 考え方が、木材乾燥の根底にある。 28)アイデア段階では、17案×3パターンの51案で、加工 する家具業との話し合いで4タイプに決定した。この 決定のプロセスについては、実現可能なアイデアを重 視した。この視点がデザインの新規性という点では問 題を残したが、試作段階で特注の曲面ガラスで対応す ることは難しい。また実用面を少し軽視したアイデア. とでアイデアを出し、最終的に図10のような4案で試作をすることになった [注28]。図11に試作したコナラ材のテレビ台を示した[注29]。裏板も含め、 すべてコナラ材で対応した。 2009年に九州大学大橋サテライトと広島県の家具業ショールームで、試作. も、家具業からは敬遠された。51案で試作し、その製. 品のアンケート調査をテレビ台の上にテレビを置いた状態で実施した。その. 作結果を通して絞り込みをすることは理想であるが、. 一部を紹介する。回答者は192名で、男性が61%、女性が39%であった。年. 試作経費と材料から無理と判断した。 29)テレビボードの大きさは、4タイプ共に、幅1700mm、 高さ450mm∼550mm、奥行き最大450mm とした。天 板の厚みは23mm∼25mm、72mm 幅の板を6枚で集成 する。千切も補強に使用する。千切の長さは75mm と. 齢は大学生が多かったこともあり、20代が36%を占めた[注30] 。テレビの 設置場所については、洋室のリビングが61%と多かった[注31]。 ①テレビの設置については、家具のテレビ台が37%と多かった[注32]。. する。裏板は9mm とした。 テレビボードの高さは、一種の流行もあり、2000年あ たりから低いタイプが多くなる。収納家具としての容 積を求めるわけではなく、徐々に大型化する液晶テレ ビと椅子坐(特にソファー)に対する対応と筆者は捉 えている。流行としては、ヨーロッパのテレビ台が細 長いタイプに移行しているため、単に追従していると いった風潮が国内にも蔓延している。経済産業省から 売れるような製品を作るという指導もあり、テレビ ボードの外形寸法を当時の主力商品を参考に決定し. A タイプ案. B タイプ案. C タイプ案. D タイプ案. た。図11のタイプについては、ガラスを木枠の中には め込むことにし、一部デザインを変更した。 30)10代(18%) 、20代(36%) 、30代(12%) 、40代(10%) 、 50代(17%)、60代(7%) 31)洋室リビング(61%)、和室リビング(16%)、リビン グダイニング(10%)、寝室(8%)、その他(6%) 32)家具のテレビ台(37%)、メーカーの純正テレビラッ ク(25 %)、 テ ー ブ ル・ 机 の 上(17 %)、 床 置 き (4%)、その他(17%) 33)D タイプ(449ポイント)、B タイプ(242ポイント)、. C タイプ(227ポイント)、A タイプ(166ポイント). 図10 コナラ材によるテレビ台の試作案. 101.

(9) 102. 特集:家具のデザインと技術. A タイプ. B タイプ. C タイプ. D タイプ. 図11 コナラ材によるテレビ台の試作. ②価格の設定(25万円)については、D タイプの評価が高かった[注33]。 ③ 木 製 の 特 徴 を 活 か し て い る に つ い て は、C タ イ プ の 評 価 が 高 か っ た [注34]。 ④ テ レ ビ や イ ン テ リ ア と の 調 和 で は、C、D タ イ プ の 評 価 が 高 か っ た [注35]。 ⑤新規性や革新性では、B、D タイプの評価が高かった[注36]。 ⑥実用性や機能性では、D タイプの評価が高かった[注37]。 ⑦長期にわたり飽きがこないでは、C タイプの評価が高かった[注38]。 アンケートの結果を纏めると、評価としては D、C、A、B の順であった。 この内容から、ガラス等の空間が一部に設定されていることが好まれる。換 言すれば、市販品に近い要素を持つ意匠が好まれたということになる。. テーブル天板. テーブル天板に用いた千切. 千切とフィンガージョイント. 桟に施した蟻接ぎ. 34)C タイプ(335ポイント)、A タイプ(269ポイント) 、. D タイプ(257ポイント)、B タイプ(233ポイント 35)C タイプ(376ポイント)、D タイプ(366ポイント) 、. A タイプ(230ポイント)、B タイプ(109ポイント) 36)B タイプ(354ポイント)、D タイプ(281ポイント)、. C タイプ(245ポイント)、A タイプ(131ポイント) 37)D タイプ(361ポイント)、A タイプ(274ポイント) 、. C タイプ(251ポイント)、B タイプ(171ポイント) 38)C タイプ(371ポイント)、D タイプ(320ポイント) 、. A タイプ(239)、B タイプ(120ポイント). 図12 コナラによるテーブルの天板製作.

(10) デザイン学研究特集号  Vol.27-1 No.101. 5.2. 板材の補強方法 2007年に家具業との共同研究でテーブルの試作を行った。使用した材料は 胸高直径0.5m のコナラで、短期高温乾燥で対応した。図12に天板の補強方 法を示した。長さ1800mm、幅120mm、厚さ24mm の板をフィンガージョイ ントで接ぎ、千切で接合を強化した。さらに単板の裏側には桟を3本蟻接ぎ にて補強した。千切は均等な嵌合いにはせず、NC ルータによって微調整し た[注39]。フィンガージョイント、千切、桟の蟻接ぎいう固定をしてテー ブルを三つ製作した。その一つは、乾燥によって歪みが生じた[注40] 。コ ナラ材による長尺材の接合は予想以上に難しい。天板の構造、千切は意匠権 を申請した[注41]。. 5.3. 小径木の脚材への利用 小径木の利用を考える際、挽き材で使用するか、芯持ち材で使用するかで 使用する対象も異なってくる。一般にはフローリング材に出来ない直径 0.25m 以下の小径木は、家具材にはならないと考えられている。こうしたコ ナラは、全国に多数あり、資源としては広葉樹で最も豊かである。こうした 小径木の利用を検討する前段として、秋田木工株式会社の協力を得て、一般 的な径のコナラ材で2012年に試作した。その完成品を図13に示した[注42]。 商品化はしていないが[注43]、7年経た現在も使用しているので、特段素 39)千切材は、コナラ材とした。千切の圧接力測定は、比 重0.65のイエローバーチ(カバノキ科シラカンバ属) を使用した。歪みゲージを使用して圧力分布を測定. 材や構造に問題はない。芯持ちの小径木を曲木家具材として使用する場合、 乾燥に関しては研究の余地がある[注44]。. し、有効な嵌合いを見つけ出した。千切の厚みはコナ ラ板材の三分の二である16mm とした。 40)2009年に東京ミッドタウンで展示を行った際、一週間 後にテーブルの天板接合面にズレが生じた。おそらく 乾燥が不十分であったのであろう。コナラ材の変形で 生じる力は、千切、フィンガージョイント、蟻接ぎで も簡単に止めることができない。 41)「テーブル用天板」,意匠の創作 石村眞一,意匠権登 録第309855,意匠権者 国立大学法人九州大学,2007 年8月 「木材結合部材」,意匠の創作 石村眞一,意匠権登録 第1291672,意匠権 国立大学法人九州大学,2006年 12月 42)この椅子は、ダイニングチェアとしての使用を主たる 目的としているが、多目的な使用も可能にするため、 座面の奥行を通常の椅子より5cm 長くし、背もたれ の傾斜を5度大きくした。このコンセプトが評価され るかどうかは別としても、一つの試みとして提示し た。左の椅子は福岡産のイグサを座面に使用した。実 際に長く使用すると、たるみが出るため、イグサを少 し太いものにするといった改良が必要になる。右の椅 子は、座面に20mm のソリッド材を使用したため、椅 子の総重量が増し、重く感じる。座面下に桟を設え、. 図13 コナラ材による椅子の試作. 12mm 程度の材で対応する必要がある。 43)左の椅子については、一社に市販していただくよう要 請したが、実現しなかった。その主たる理由は、イグ サのメンテナンスが面倒だという点である。しかしな がら、Y チェアも紙紐を編んでいるのだから、製品化 に対する絶対的な条件ではない。単に製品化に興味を 示されなかっただけのことである。イグサに耐久性を 持たせれば、製品化は可能と考えている。 44)小径木の中でも、芯持ち材に関しては、曲木家具材と してのデータがない。芯持ち材を曲げないで使用する. 6.考察 6.1. 材料としての難点を克服する コナラの難点は、硬さと乾燥時に生じる歪みにある。乾燥については、コ ナラに特化した長期低温乾燥が必要であるが、乾燥炉の大きさやランニング コストに対する研究が不十分であるため、研究が進まない。スギの間伐材で. ことについて特段問題はないが、曲げ加工を施す場合. 炉を製作し、太陽光発電で熱と風を送れば、経済的な効果が見込めるはずで. は含水率を20%以上にする必要がある。曲げ加工をし. ある。. た後の乾燥については、詳細なデータによる研究が不 可欠となる。. 103.

(11) 104. 特集:家具のデザインと技術. 6.2. 材料の特性を活かした意匠 先にも述べた曲木家具は、ブナと同様に、コナラの歪みやすい性質を利用 したものである。このことから、箱物家具より脚物家具の意匠に特化するこ とが望ましい。但し、コナラにも胸高直径0.5m 以上の樹があることから、 ダイニングテーブル製作は可能である。つまり、ダイニングセットが、現状 では最も特性を活かした家具ということになる。. 6.3. コナラの資源維持 明治後期から始まったブナ、ミズナラを軸とした農商務省山林局の未利用 広葉樹利用政策は、資源の枯渇化を招き、大きな問題点を残した[注45]。 コナラは、国産広葉樹における最後の資源である。個別の家具業の問題では なく、国策として、チップ業界も含めた資源維持に努める必要がある。. 7.おわりに 筆者が取り組んだ二つのプロジェクト研究は、高額な研究助成金を得て も、コナラのサスティナブルデザインとしての進展には至らなかった。その 理由は、コナラの良材が外国産材より安くならなかったことにある。木製家 具デザインは、意匠と加工技術を中心とするのではなく、素材の生分解も含 45)農商務省山林局の政策は、ミズナラとブナを軸に展開 していく。ミズナラは、北海道の原木を1900(明治. めたサスティナブルデザインを核として、各分野を統合した研究が必須な時. 33)年前後に、民間から海外に輸出したことに起因す. 代となった[注46]。本論では、コナラの資源と乾燥方法を重視して広義の. る。その後も北海道のミズナラは小樽港から輸出され. デザイン論を述べた。木製家具デザインの可能性と課題が、そこに凝縮され. たが、1965(昭和40)年あたりになると枯渇化し、逆 にホワイトオーク材等を輸入するようになる。ブナは. ているからである。. 原木ではなく、曲木家具生産の振興が目的であること から、ミズナラとブナの利用は目的が異なる。またミ ズナラは植林可能であるが、ブナは陰樹であるため、 植林が困難である。林野庁の植林実験でも、具体的な 成果は報告されていない。ブナ山引苗による植林は、 1869(明治2年)から1870年にかけて、ドイツ人のガ ルトネルが北海道亀田郡七飯町で施行した事例が知ら れている。2011年に筆者が訪れた際測定したところ、 最大の樹で胸高直径0.7m、平均で0.35m前後であっ た。つまり約140年を経ても、ブナの成長にはバラツ キがあり、林業としては成立しないということになる。 46)2005年あたりには安定していたホワイトオーク材の価 格も、2010年以降になると少しずつ価格が上昇し、現 在は洋樽材で約30%程度高騰している。こうした状況 になることは、2005年には予想することができた。 1970年代には胸高直径2mであったホワイトオーク材 が、1990年代になると、樹自体が細くなっていること から、資源の枯渇化が進行したことは間違いない。家 具材としてホワイトオーク材を使用していた業界は、 徐々に値段の安いレッドオーク材の導入にシフトして いる。また、北米のオーク材やウォルナット材を中国 の木材業者が買い集めているため、北米の広葉樹材自 体の価格が高騰している。中国はロシア産広葉樹も買 い占めた結果、ロシア産ミズナラは2014年よりワシン トン条約の規制を受けることになる。もはや、一つの 家具業で輸入家具材の価格に対応することは無理であ る。 2024年には森林環境税が国税となり、2019年より移行 措置が開始されている。当面は民有林のスギ、ヒノキ の利用と資源維持が課題となるが、いずれは広葉樹の 利用と資源維持にも、全国の市町村で取り組みが始ま ると推察する。国産広葉樹の家具への導入は、森林環 境税の国税化によって、中長期計画が策定されると推 察する。但し、コナラの資源と家具への利用について は、研究者が先行研究を行い、その具体的研究成果を 森林環境税に活かすことが求められる。. 【参考文献】 農商務省山林局編纂:木材ノ工藝的利用,大日本山林会,1912.

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参照

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