H M D を 用 い た 3 D C G 制 作 意 欲 の 動 機 づ け の 試 み
河 﨑 雷 太
1 は じ め に 3DCG で利 用 するオブジェクトの制 作 は、高 度 な技 術 と空 間 認 識 を必 要 とし初 心 者 が習 得 す るのに大 きな困 難 がある。その理 由 の一 つとして、PC モニタが 2 次 元 であるのに対 して制 作 する オブジェクトが 3 次 元 であるため、形 状 を前 面 、上 面 、側 面 の 3 方 向 から描 いた、いわゆる 3 面 図 によって形 状 を理 解 する必 要 があげられる。つまり、3DCG の習 得 の困 難 さは、3 面 図 から形 状 を想 像 するのにある程 度 の熟 練 を要 するところにある。 そ の よ う な 現 状 に 、 PC の 出 力 と し て 3D 空 間 を 両 眼 立 体 視 で き る HMD(Head Mounted Display)が比 較 的 安 価 で一 般 消 費 者 に提 供 されるようになってきた。3D オブジェクトを HMD で 確 認 する際 のリアリティは、PC モニタの三 面 図 で確 認 するのとは大 きく異 なる感 動 がある。例 え ば、自 身 では HMD による擬 似 世 界 であると意 識 しているにもかかわらず、新 しい空 間 に没 入 し ている感 覚 が芽 生 える不 思 議 さがある。 3D オブジェクト制 作 の困 難 さに対 して、例 えば HMD を用 いて空 間 に没 入 しバーチャルなヘラ やカンナを用 いて現 実 空 間 の造 形 物 の制 作 となんら変 わらない手 法 で 3D オブジェクトを制 作 することが理 想 として考 えられる。しかし、現 状 の HMD は装 着 時 の HMD 自 体 の重 さによる違 和 感 や独 特 のバーチャル酔 いによる疲 労 が見 受 けられ、長 時 間 の利 用 はまだまだ現 実 的 ではな い。そこで、短 時 間 の HMD 利 用 でも体 験 できる没 入 感 覚 の感 動 が HMD に慣 れていない者 にと っては制 作 意 欲 の動 機 づけになり得 るのではないかと考 えた。学 生 が授 業 の演 習 で制 作 してい る 3DCG の制 作 途 中 で、自 身 が作 成 したオブジェクトによる空 間 に HMD によって自 分 が没 入 す ることができたならば、三 面 図 では理 解 しづらい空 間 認 識 がより直 感 的 に理 解 でき、自 身 のバー チャル空 間 をさらに作 り込 みたくなるモチベーションが芽 生 えることを想 定 した。 本 試 みでは、文 系 女 子 学 生 に対 して、3 次 元 オブジェクトを HMD によって立 体 視 させることに よる 3DCG への関 心 度 に関 して調 査 を行 うことを目 標 にするとともに、それらを実 現 するためのシ ステムに関 しての解 説 を行 う。2 背 景 お よ び 関 連 研 究 近 年 、映 画 や CM などで 3DCG を目 にする機 会 が多 くなってきた。幼 児 教 育 や初 等 教 育 という 観 点 からも紙 に描 く絵 とまた違 った手 法 として 3DCG やコンピュータを利 用 していくことが考 えら れる。 南 澤 によると、現 在 の幼 児 はデジタル・ネイティブという言 葉 がもはや古 臭 く感 じるほど情 報 機 器 と現 実 との境 がないことを指 摘 している 1。1 歳 になる頃 には、一 人 で iPad を起 動 しロックを解 除 してお気 に入 りのアプリで遊 び始 める。3 歳 にもなると YouTube でお気 に入 りの電 車 動 画 の検 索 を要 求 するなど知 識 を蓄 える。このような話 に対 して「デジタルに浸 かり過 ぎて現 実 の世 界 に 適 応 できなくなるのでは」との声 がありそうだが、南 澤 はそれを否 定 しており、そのような子 どもは 現 実 の世 界 の LEGO やプラレールなど旧 世 代 と変 わらない玩 具 や絵 本 も楽 しむという。つまり、 リアルもバーチャルも、区 分 けする必 要 すらなく自 分 の身 の回 りの「世 界 」として捉 え、そこで新 た な体 験 を行 い、自 分 の経 験 値 としていると述 べている。このような観 点 からも今 後 はコンピュータ が 人 間 に 密 着 し た ツ ー ル で あ る 意 識 を 親 世 代 が 理 解 す べ き で あ り 、 そ の 一 つ の 方 向 性 と し て 3DCG 制 作 を知 ることが考 えられる。 3D オブジェクトの制 作 を専 門 的 な知 識 を有 した者 の特 別 な技 術 ではなく初 心 者 でも簡 単 に行 える方 法 として、五 十 嵐 らはペイントツールで手 書 きした 2D の絵 を適 当 な厚 みで 3D モデル化 す る方 法 を提 案 した2。この手 法 では、誰 もが子 どもの頃 から慣 れている手 書 きの絵 を 3D オブジェ クトとして生 成 できる。しかし、制 作 できる形 状 は、子 どもの描 くクマやキリンなどのマスコット的 な ものであり、精 巧 なモデルは作 成 が難 しい。 実 在 する形 状 をスキャニングし 3D オブジェクトを生 成 する方 法 に関 する研 究 も盛 んである。し かし、3D スキャニングは一 般 向 けではなく写 真 を撮 るように簡 単 なものではない。一 般 のユーザ ーでも簡 易 にスキャニング可 能 な研 究 3, 4もあるが、生 成 されるオブジェクトの精 度 は粗 く、また、 スキャニングという性 質 上 、現 実 に物 体 がないとオブジェクト化 できないので、CG 特 有 の仮 想 的 な創 造 物 を制 作 することは難 しい。 初 心 者 による3DCG の利 用 方 法 を根 底 から見 直 す研 究 もある。制 作 にスキルを必 要 とする3D オブジェクトに関 しては初 心 者 が制 作 するのではなく、熟 練 者 などが制 作 したオブジェクトモデ ルをあらかじめデータベースとして用 意 しておき、利 用 者 は検 索 してオブジェクトモデルを使 うと いう考 え方 である。この場 合 、3D オブジェクトの検 索 が困 難 である。例 えば、図 書 館 での書 籍 検 索 や、WWW から情 報 を検 索 する際 には文 字 情 報 による単 語 などのキーワード検 索 が行 われる が、3D オブジェクトでは文 字 情 報 によるキーワード検 索 は目 的 の形 状 が探 し難 い。市 田 らは、そ のようなオブジェクトの検 索 手 法 として、積 み木 のようなブロックを組 み合 わせ大 まかな形 状 作 成 し、それをクエリとする手 法 を提 案 した 5。また、伊 藤 らはそれを発 展 させ、例 えばイルカの動 きや、 鳥 の動 き、車 の動 きなどそれぞれのモデルの特 徴 を形 状 のみならずモーションをキーとして検 索
精 度 を上 げる手 法 を提 案 した 6。これらの提 案 は、初 心 者 が 3D オブジェクトを扱 う場 合 に適 して いると言 えるが、初 心 者 でも形 状 を作 成 できるようにするという本 試 みの目 的 には合 わない。この ように、3D オブジェクトの準 備 ・作 成 において様 々な手 法 が提 案 されているが、制 作 モチベーシ ョンをあげるまでには至 っていないことがわかる。 一 方 、HMD に関 しても様 々な研 究 がなされている。HMD は発 展 途 上 の技 術 であり、その装 着 時 の違 和 感 の一 つとしてバーチャル酔 いがあげられる。その HMD によるバーチャル酔 いの原 因 として、システムの計 算 速 度 による映 像 提 示 の遅 延 を理 由 とする場 合 があり、その遅 延 を緩 和 さ せるシステムの提 案 がある。早 川 らは、あらかじめ用 意 されたレンダリング結 果 によって便 宜 上 の モデルを提 示 することによって時 差 を少 なく見 せかけ、なおかつリアルタイムに時 間 遅 れを計 測 し最 適 な事 後 補 償 を行 うシステムを提 案 した7。 その他 の HMD に関 する研 究 として、HMD が人 間 に不 思 議 なリアルさを提 供 する事 実 を研 究 対 象 としているものも見 受 けられる。盛 川 らは、AR 技 術 として利 用 されることの多 いシースルー 型 HMD において、現 実 の手 のひらの上 に CG で描 いたバーチャルな球 体 を見 ることによって感 じるわずかな触 覚 の錯 覚 に関 して研 究 している 8。この研 究 からも視 覚 情 報 から人 間 は触 覚 に 対 して錯 覚 を覚 えることがあり、視 覚 情 報 の重 要 性 が確 認 できる。 この様 に、人 間 の視 覚 重 視 な特 性 を利 用 しつつ、ソフトウェア的 な技 術 進 化 によりバーチャル 酔 いなどの違 和 感 を取 り除 き、ハードウェア的 な進 化 として HMD 自 体 の軽 量 化 がなされれば HMD はより身 近 な機 器 になりうると考 える。以 上 の様 々な研 究 事 例 を鑑 み、本 試 みでは、近 い 将 来 では一 般 的 な提 示 装 置 となりうる HMD を用 いて、学 生 に不 思 議 でリアルな空 間 を提 示 す ることで、そのバーチャル空 間 の制 作 に感 心 を持 たせることを目 標 とする。 3 H M D と 描 画 ソ フ ト ウ ェ ア ( ゲ ー ム エ ン ジ ン ) の 解 説 本 試 みでは、学 生 にバーチャル空 間 を提 示 するシステムとして、HMD とそれへの提 示 用 のソ フトウェアを主 に利 用 する。HMD には「Oculus Rift Developer Kit 2(以 下 DK2)」を利 用 する。 本 来 は DK2に用 意 されている SDK ライブラリを利 用 して C 言 語 等 でバーチャル空 間 を構 築 し 描 画 するがプログラミング技 術 力 と労 力 を必 要 とするため、本 試 みでは既 存 の描 画 ソフトウェア を用 いて提 示 を行 うこととする。描 画 ソフトウェアには、GUI 形 式 でゲームを作 成 できるソフトウェ アであるゲームエンジンを利 用 する。2015 年 3 月 よりリリースされている「Unity5」は Oculus Rift に標 準 対 応 されており、比 較 的 安 易 にバーチャル空 間 を用 意 することができるゲームエンジンで ある。本 試 みでは、この Unity5 を利 用 する。これらのシステムを理 解 するためには、独 特 な専 門 知 識 を必 要 とするため本 章 では、この Oculus Rift と Unity に関 して詳 細 に解 説 する。
3 . 1 O c u l u s R i f t の 概 要 と 特 徴
「Oculus Rift」は、アメリカの Oculus VR 社 によって開 発 されたバーチャルリ アリティに特 化 した HMD である。これ を 両 目 に 当 て が い 頭 か ら 被 る こ と で 、 視 界 のほとんどが 3DCG で作 成 された 世 界 に 覆 わ れ 、 そ の 世 界 に 没 入 し た 感 覚 が得 られる。図 1 に Oculus Rift 本 体 と 接 眼 部 分 を 示 す 。Oculus Rift は頭 の動 きをセンシングするので、見 ている風 景 は右 を見 れば CG 世 界 の右 を、左 を見 れば CG 世 界 の左 といったように連 動 した映 像 を表 示 できる。また、右 目 と左 目 にはそれぞれ視 差 に合 わ せた映 像 が表 示 されるため、奥 行 きを感 じられ 立 体 的 な視 界 を得 ることができる。この Oculus Rift が他 の HMD と異 なる点 としては、視 野 角 が比 較 的 広 いこと、頭 の動 きのセンシングが比 較 的 早 いこと、安 価 であることがあげられる。現 在 の最 新 版 である Oculus Rift DK2 には、本 体 内 に位 置 や方 向 を測 定 する各 種 センサーが実 装 され、映 像 表 示 の反 応 速 度 が液 晶 に比 べ早 い 有 機 EL パネル(画 素 数 1920×1080)が利 用 されることで従 来 品 より頭 の動 きのセンシングに関 してのレイテンシ低 減 を実 現 している。 これまでの HMD は視 野 角 が狭 いものが多 く、例 えるならば、暗 転 した映 画 館 のスクリーンを最 後 方 席 から眺 めるような表 示 であった。そのため、バーチャル世 界 に没 入 するというよりは、その 世 界 を小 窓 から覗 きみているような感 覚 であった。その原 因 は HMD の構 造 上 、目 から 2〜3cm の距 離 にディスプレイパネルを用 意 するため、その距 離 に焦 点 を合 わせるためには複 数 枚 の歪 み 補 正 レ ン ズ を 重 ね る 必 要 が あ り 、 そ の 結 果 、 像 が 小 さ く な る と こ ろ に あ っ た 。 こ れ に 対 し て Oculus Rift では、表 示 する映 像 を画 像 処 理 し意 図 的 に歪 ませる手 法 を用 いている。これにより 補 正 レンズは 1 枚 で対 応 でき、尚 且 つ大 きな像 を提 示 することに成 功 している。さらにレンズ構 造 の単 純 化 は結 果 として、製 造 コストの削 減 となっている。その仕 組 みを格 子 状 の図 で説 明 す ると図 2のようになる。図 2 左 のように、画 像 の中 心 から離 れるほど膨 張 させ歪 ませた画 像 を作 り、 それを図 2 中 央 のいわゆる魚 眼 レンズ(凸 レンズ)で見 ることによって、歪 みが伸 展 され図 2 右 の ような正 しい格 子 像 として表 示 する。 頭 の動 きのセンシングに関 しては、HMD 本 体 に加 速 度 計 、ジャイロスコープ、地 磁 気 計 が実 装 されており、図 3 に示 すような X 軸 、Y 軸 、Z 軸 に対 するピッチ、ヨー、ロールを計 測 できる。ま た、DK2 ではこれらのセンサーに加 えて赤 外 線 LED が実 装 されており、それを追 跡 する外 部 の 赤 外 線 カメラによって、頭 の向 きだけでなく位 置 の検 出 に対 応 している。これらのセンサーで得 ら れた頭 の向 きや位 置 に対 応 した映 像 を素 早 く表 示 することで、バーチャル空 間 への没 入 感 を作 図 1 : Oculus Rift( 左 ) と 接 眼 部 ( 右 )
り出 す。 価 格 に関 して、従 来 品 と比 較 する。従 来 品 の HMD は、右 目 と左 目 それぞれに映 像 を提 示 す るディスプレイパネルを用 意 し、映 像 の歪 み補 正 のためのレンズ構 造 に複 雑 さが必 要 であったた め、簡 易 的 に作 られた一 般 普 及 版 の HMD で 10 万 円 程 度 、高 視 野 角 で研 究 に利 用 する業 務 用 であると数 百 万 〜1千 万 円 程 度 と高 額 であった。それに対 して Oculus Rift は仕 組 みを工 夫 し 必 要 な部 品 を簡 素 化 することでコストダウンを実 現 した。その仕 組 みの概 要 を示 したものが図 4 である。図 4 左 上 は、システム全 体 である。この画 面 に表 示 されているウインドウには Oculus Rift に表 示 させる映 像 が表 示 されている。この表 示 映 像 のみの図 が図 4 右 上 である。表 示 している CG は Oculus Rift のテスト用 デモ映 像 であり、デスクの上 に電 気 スタンドや観 葉 植 物 や書 類 など が CG で表 現 されているのが確 認 できる。左 右 の画 像 は、両 眼 で立 体 視 できるようにそれぞれ視 差 を施 し表 示 される。また、どちらの画 像 も魚 眼 レンズで正 しく見 えるようにあらかじめ樽 状 に歪 ませて描 画 されている。両 目 用 の映 像 がそれぞれ独 立 して描 画 されるのではなく1枚 の描 画 領 域 に 描 か れ て い る の が 特 徴 で あ る 。 こ の 表 示 映 像 を HDMI 出 力 で 拡 張 デ ス ク トッ プ 化 さ れ た Oculus Rift の有 機 EL パネル1枚 にそのまま描 画 する。その表 示 が図 4中 央 下 である。この図 4 中 央 下 は 、 魚 眼 レ ン ズ を 外 し て 撮 影 し た も の で あ るが、ディスプレイパネルが 1 枚 であっても左 右 そ れぞれの視 野 穴 から視 差 を考 慮 した画 像 が上 手 く表 示 されているのが確 認 できる。従 来 の HMD で あれば、左 右 それぞれにディスプレイパネルが計 2 枚 も用 意 され、左 右 それぞれ用 に視 差 を考 慮 した 映 像 が 2 枚 描 画 され計 算 コストも高 かった。さらに そ の 確 認 用 の レ ン ズ は 大 掛 か り な も の で あ っ た 。 図 からもわかるように 1 枚 の描 画 であってもレンズ を工 夫 し提 示 することが Oculus Rift の特 徴 であり、 ことにより広 い視 野 角 を実 現 しながら 350 米 ドルと 安 価 に提 供 できている。 ヨ ー ピ ッ チ ロ ー ル 上 下 前 後 左 右 図 3 : 頭 部 の ト ラ ッ キ ン グ の 自 由 度 正 し く 表 示 図 2 : 魚 眼 レ ン ズ に よ る 像 の 伸 展 イ メ ー ジ レ ン ズ 用 に 意 図 的 に 歪 ま せ た 画 像
3 . 2 U n i t y 5 の 概 要 と 特 徴
「Unity」は、アメリカの Unity Technologies 社 が開 発 したゲームエンジンである。統 合 開 発 環 境 を有 し、制 作 したソフトウェアは複 数 のプラットホームに対 応 させることができる。Unity のみで 簡 単 な 3D 空 間 を作 成 することもでき、ゲーム条 件 を簡 単 なプログラミングで書 くことによって初 心 者 で もゲ ー ム を 作 成 で きるように 作 られ て い る。対 応 して い るプ ラットホ ー ム は 、現 在 の ところ iOS, Android, Windows, OS X, Linux, ウェブブラウザ, Flash, PlayStation3, Xbox360, Wii U であり、書 き出 し時 に選 択 することで対 応 させることができる。Unity のライセンスは、大 別 すると 無 料 版 の Personal Edition と有 償 版 の Pro Edition があり、機 能 的 には違 いはないが無 料 版 は、 個 人 か年 商 が 10 万 米 ドル以 下 の組 織 での利 用 が条 件 となっている。 この Unity が現 在 多 くのバーチャルリアリティプログラマに支 持 されている理 由 としては、次 の事 柄 をあげることができる。まず、ゲームやバーチャル空 間 の制 作 には非 常 に高 度 なプログラミング 知 識 をはじめ、数 学 や物 理 学 などさまざまな分 野 の専 門 知 識 が必 要 であるが、Unity では GUI による条 件 選 択 で必 要 な物 理 法 則 を定 義 することができる。つまりマウス操 作 のみで本 来 複 雑 なプログラミングを要 する物 理 法 則 を適 応 できるなど利 便 的 である。例 えば、図 5 は Unity の初 心 者 用 チュートリアルの一 つである 3D ブロック崩 しゲーム 9を作 成 している画 面 であるが、ラケッ トや壁 が剛 体 でありボールが反 発 する設 定 などはファイルメニューから 「Rigidbody」を選 択 する のみで許 可 される。場 合 よっては重 力 加 速 度 による自 由 落 下 のシミュレートや、クルマの挙 動 な ど複 雑 な物 理 法 則 を必 要 とするシミュレートも同 じような手 順 で設 定 でき極 力 プログラムコードを 書 く手 間 が省 かれている。プログラムの記 述 を必 要 とするのは例 えばラケットの移 動 のコントロー 図 4 : シ ス テ ム の 全 体 ( 左 上 ) :表 示 画 像 ( 右 上 ) :実 際 の HMD 表 示 ( 中 央 下 ) 一 枚 の 画 像 HDMI 出 力
ルやブロックが消 える条 件 などであるが、こ れらも数 行 の簡 単 な記 述 で指 示 することが できる。言 語 としては C#や JavaScript など が用 意 されており、多 少 なりともプログラミン グ を 学 ん だ 者 で あ れ ば 無 理 な くコ ー デ ィ ン グすることができる。また、「アセット」と呼 ば れるそれぞれの部 品 のような素 材 もフリーも し く は 有 償 で ネ ッ ト か ら ダ ウ ン ト ー ド し て 活 用 することができ拡 張 性 が高 い。表 現 面 で もシェーダやパーティクルシステムなどが充 実 し て お り 写 実 的 な 3D 空 間 を 構 築 す る こ と が で き る 。 汎 用 性 も 大 き く 、 一 般 に 普 及 し て い る 3DCG ツールである Maya や Blender のファイルをインポートできることや、Oculus Rift への表 示 ができることも利 点 である。 また、Unity4 から実 装 されたキャラクタアニメーションの制 作 を支 援 する「Mecanim」も強 力 なツ ールの一 つである。従 来 、キャラクタアニメーションは役 者 による演 技 をモーションキャプチャで 取 り込 むか、キャラクタモデルの姿 勢 をいくつかをキーとして準 備 し、そのキーとキーの間 の姿 勢 を補 間 するような手 法 で作 成 されてきた。Mecanim もモーションの作 成 自 体 は従 来 と同 様 に作 成 されるが、それらモーションはアセットとして部 品 のように提 供 されるところに利 便 性 がある。ま た Mecanim ではキャラクタモデルが提 供 されたアセットに必 要 とされる骨 格 構 造 と同 じボーンを 持 っていれば、それらモーションアセットを再 利 用 できる。例 えば、あるロボットキャラクター用 に 用 意 された動 きを同 じ骨 格 構 造 であれば全 く異 なる兵 士 キャラクタに再 利 用 できる。また、モー ションは状 態 (例 えば「歩 く」「走 る」「待 つ」など)ごとに用 意 されていることが多 く、それら状 態 を あるパラメータ(例 えば移 動 スピードなど)を条 件 としてスムーズに切 り替 える状 態 遷 移 モデルが 用 意 されている。これらの機 能 によりコントローラなどからキャラクタを操 作 した際 の動 作 が簡 単 に制 作 できるようになっている。 4 実 験 環 境 と 実 験 準 備 本 試 みでは、著 者 が担 当 する大 阪 キリスト教 短 期 大 学 国 際 教 養 学 科 の選 択 科 目 である「3D コンピュータグラフィックス」において 3DCG の制 作 を学 ぶ学 生 と、著 者 のゼミナールに所 属 する 学 生 の一 部 を対 象 とした 18 歳 から 19 歳 の女 子 学 生 12 名 に HMD によるオブジェクト提 示 を行 った後 にアンケート調 査 を行 った。図 6 に示 すように、それぞれの学 生 がオブジェクトの隅 々を確 認 できるように十 分 な広 さの環 境 で実 験 を行 った。
HMD には Oculus Rift DK2 を用 い、HMD にオブジェクトを表 示 するために Unity5(Personal 図 5: GUI 主 体 の Unity 画 面 構 成
Edition)を 利 用 し た 。 Oculus Rift DK2 と Unity5 を実 装 す る PC には、マウスコンピュー タ G-TUNE(Windows7-64bit SP1, Core-i7 2.50GHz, メ モ リ 8GB, GeForceGTX 860M)を利 用 した。 被 験 者 に 提 示 す る オ ブ ジ ェクトは 3DCG 制 作 を授 業 で 学 ぶ 学 生 に は 各 自 が 作 成 し た オ ブ ジ ェ ク トを 基 本 的 には提 示 した。その他 、Oculus Rift のデモや被 験 者 からのリクエストでアニメやゲームの登 場 人 物 などのオブジェクトを提 示 した。3DCG 制 作 の授 業 を履 修 していない学 生 、もしくはこれから履 修 する学 生 には後 者 のオブジェクトのみを提 示 した。 4 . 1 オ ブ ジ ェ ク ト の 準 備 と H M D へ の 提 示 手 法 授 業 (3D コンピュータグラフィックス)での 3D オブジェクト制 作 には、フリーソフトの「Metasequoia LE R3.0 」 を 利 用 し て い る 。 学 生 に よ っ て 制 作 さ れ た オ ブ ジ ェ ク ト 作 品 を 図 7 左 に 示 す 。 こ の Metasequoia で作 成 したオブジェクトのファイルフォーマットは、Unity に対 応 していないため対 応 したファイルフォーマットに変 換 する必 要 がある。その変 換 にフリーソフトの「Blender 2.75」を 利 用 した。具 体 的 な手 順 としては、Blender にあらかじめ Metasequoia 形 式 である mqo ファイル をインポートするためのプラグインを導 入 し、Metasequoia を用 いて制 作 した 3D オブジェクトを読 み込 んだ。読 み込 まれたオブジェクトを Unity に対 応 する Autodesk 社 の形 式 である FBX フォー マットで保 存 し利 用 した。 また、被 験 者 からのリクエストであるゲームキャラクタのキャラクタオブジェクトは、ネットに公 開 さ れている個 人 的 利 用 が認 められたモデルデータをダウンロードし活 用 した。キャラクタオブジェク トのほとんどは、MMD(MikuMikuDance)形 式 の PMD もしくは PMX フォーマットであり、これも Unity に対 応 させる必 要 がある。その変 換 には、フリーソフトで提 供 されている Unity アセットであ る「MMD4Mecanim」を利 用 した。 このように変 換 したオブジェクトは、Metasequoia モデルの場 合 は、FBX フォーマットのファイル を Unity5 でインポートし表 示 し、MMD モデルの場 合 は、MMD4Mecanim を通 してキャラクタオブ ジェクトを直 接 コンテナに変 換 し人 体 モデルを特 定 の座 標 に配 置 することで表 示 した。その後 、 図 6:HMD を 装 着 し た 被 験 者 に よ る オ ブ ジ ェ ク ト 確 認 模 様
Unity5 では HMD での表 示 に合 うように照 明 やカメラ位 置 のセッティングを施 した。なお、キャラク タオブジェクトに関 しては、Mecanim によるモーション付 けや MMD からのモーションデータは移 行 しておらず、基 本 的 には T ポーズで制 止 したキャラクタオブジェクトを観 察 することにした。 HMD へ の 提 示 方 法 で あ る が 、 Unity5 オ ブ ジ ェ ク ト の Rendering パ ラ メ ー タ の 一 つ で あ る 「Virtual Reality Supported」を許 可 することで、Oculus Rift に適 した視 差 と魚 眼 レンズ用 の歪 み で描 画 され、Oculus Rift からはユーザーの頭 部 姿 勢 情 報 が Unity に与 えられ、それに応 じたカ メラアングルで表 示 が更 新 される。このように Unity5 は Oculus Rift に標 準 で対 応 するため、とり わけ特 殊 な準 備 は必 要 ではなく、Oculus Rift の標 準 ドライバを実 装 することで準 備 を行 った。 以 上 の手 順 で学 生 の作 品 を HMD に表 示 したものが図 7右 である。なお、この撮 影 においては HMD のレンズを外 して、表 示 されている映 像 を確 認 できるようにしている。 5 実 験 の 実 施 と 結 果 の 考 察 前 章 で示 す流 れで環 境 の準 備 を整 えた後 、それぞれの被 験 者 にバーチャル空 間 を体 験 させ、 制 作 意 欲 に繋 がるかどうかのモチベーションをアンケートにより調 査 した。被 験 者 の構 成 は 18 歳 の女 子 学 生 8 名 、19 歳 の女 子 学 生 4 名 の計 12 名 である。アンケート結 果 を纏 めたものを表 1 に示 す。 アンケートの設 問 項 目 の一 つである「HMD でオブジェクトモデルを見 て、3DCG を制 作 したこと がないが、制 作 し HMD で表 示 させてみたくなった。(もしくは、Metasequoia で制 作 したことがあ るが、もっと作 り込 みたくなった)」という問 いに対 して、「はい」と答 えた人 数 が 8 名 (66.7%)、「い いえ」と答 えた人 数 が 3 名 (25.0%)、無 回 答 1名 であった。この結 果 より HMD の提 示 によってある 程 度 の制 作 意 欲 が芽 生 えることがわかった。予 備 資 料 として「はい」と答 えた被 験 者 にインタビュ ーを行 ったところ、「バーチャル空 間 のリアルさに驚 き、自 身 でイメージした世 界 に没 入 してみた い」という願 望 や、「自 身 の憧 れるキャラクタもしくは自 身 が創 作 したキャラクタを目 前 にしてみた 図 7: Metasequoia に よ る 学 生 作 品 ( 左 ) 学 生 作 品 の HMD 表 示 ( 右 )
い」という願 望 があることが伺 えた。この HMD のリ アルさに関 しては、その他 の設 問 項 目 の一 つであ る「リアル(本 物 っぽく)見 えるのは どちらで す か? (解 答 欄 : HMD or PC モニタ)」という設 問 で、 「HMD」と返 答 した人 数 が 11 名 (91.7%)であること か ら も 理 解 で き る 。図 6左 の よ うに 手 を 伸 ば し て オ ブ ジ ェ ク ト に 触 れ よ う と す る 学 生 が 多 数 い た こ と も 特 徴 的 であった。ただし、今 回 の調 査 は情 報 ビジ ネスコースとメディア表 現 コースの学 生 が対 象 であ り、ある程 度 、PC モニタに抵 抗 のない学 生 である こ と に 結 果 の 偏 り が あ る こ と は 否 め な い 。 ま た 、 3DCG 制 作 へのモチベーションに「いいえ」と答 え た 3 名 (25.0%)の被 験 者 にインタビューを行 ったと ころ 、あ ま りの リアル さに 驚 き、技 術 的 な 不 安 が 生 まれたと述 べた学 生 がいた。つまり、HMD やそれ らの大 掛 かりな機 材 がまず目 に飛 び込 み、「これら を扱 うには、相 当 な知 識 量 の学 習 が必 要 だろう」と いう想 像 から拒 否 していると考 えられる。 アンケートでは補 足 データとして、「形 状 」や「色 」 に関 しての確 認 し安 さも調 査 した。 その結 果 、まず「形 状 」に関 して PC モニタよりも HMD の方 が詳 細 を確 認 できると回 答 した人 数 は 6 名 (50.0%)であった。この結 果 からは、マウスでの操 作 と 3 面 図 表 示 に慣 れている被 験 者 と そうでない被 験 者 とでの差 であるように考 えられる。HMD の形 状 確 認 は図 6右 のように、オブジェ クトに近 づき下 から覗 き込 むなど自 分 自 身 が動 いて形 を確 認 する。これは直 感 的 であるが、現 状 の HMD のセンシングは完 璧 ではなく、机 等 の障 害 物 に遮 蔽 されると急 に視 点 が変 わるなど 現 実 とのギャップがあり、その特 性 を理 解 できない被 験 者 はマウス操 作 の方 が分 かりやすいと思 うことが要 因 であるように考 えられる。 次 に、「色 」に関 して PC モニタよりも HMD の方 が詳 細 を確 認 できると回 答 した人 数 は 2 名 (16.7%)であり極 端 に少 数 な結 果 であった。この結 果 からは、魚 眼 レンズによる色 収 差 の発 生 が 要 因 であるように考 えられる。実 際 に HMD での表 示 は、視 界 の端 の方 つまりレンズでの屈 折 率 が大 きい箇 所 ほど色 収 差 による色 のにじみが発 生 しており、全 体 的 にボケて曇 った感 じの印 象 を受 ける。PC モニタの色 の鮮 明 さに比 較 するとその違 いは大 きく HMD(Oculus Rift)の現 状 の 問 題 として考 えることができる。 表 1:ア ン ケ ー ト 結 果 (被 験 者 12 名 ) 3DCG を 作 り た く な っ た 回 答 項 目 人 数 割 合 はい 8 66.7% いいえ 3 25.0% 無 回 答 1 8.3% HMD は リ ア ル に 見 え る 回 答 項 目 人 数 割 合 はい 11 91.7% HMD は 形 の 詳 細 を 確 認 で き る 回 答 項 目 人 数 割 合 はい 6 50.0% HMD は 色 の 詳 細 を 確 認 で き る 回 答 項 目 人 数 割 合 はい 2 16.7%
6 お わ り に 本 試 みでは、HMD の技 術 解 説 とその提 示 手 法 の解 説 を行 い、HMD によりオブジェクトを提 示 することによって 3DCG 制 作 へのモチベーションの変 化 や HMD に対 する印 象 を調 査 した。 結 果 、半 数 以 上 の学 生 は 3DCG 制 作 の意 欲 が増 すことが確 認 できた。また、HMD の位 置 や 姿 勢 計 測 の不 安 定 さによる不 満 や、色 の確 認 しづらさに関 しても確 認 できた。 この後 の課 題 としては、HMD の技 術 的 な向 上 はキャッチアップを期 待 するとして、本 試 みの主 題 をより公 平 に調 査 することが考 えられる。とりわけ PC をあまり得 意 としない被 験 者 に対 しての 同 等 な調 査 を行 うことが考 えられる。また、3DCG 制 作 の動 機 が授 業 の単 位 や課 題 という即 物 的 な思 考 ではなく、3DCG の独 特 な美 しさや世 界 観 に対 して憧 れや夢 を持 ち、制 作 してみたい と思 えるような環 境 提 示 は何 かを新 ためて考 えていきたい。 引 用 ・ 参 考 文 献
1. 南 澤 考 太 :“子 供 と創 る触 感 おもちゃ”, JVRSJ, Vol.19, No.1, March, 2014, pp.17-19. 2. Takeo Igarashi, Satoshi Matsuoka, Hidehiko Tanaka, "Teddy: A Sketching Interface for
3D Freeform Design" ACM SIGGRAPH'99, Los Angels, 1999, pp.409-416.
3. 上 羽 優 希 , 酒 田 信 親 , 西 田 正 吾 :“効 率 のよい計 測 のためのナビゲーションを実 現 する タイトなボクセル領 域 設 定 に基 づく 3D インタラクティブスキャニング”,日 本 バーチャルリアリテ ィ学 会 論 文 誌 ,Vol.19, No.3, 2014,pp.339-347.
4. 不 殿 健 治 ,佐 藤 智 和 ,横 矢 直 和 : “ハンドヘルドビデオカメラを用 いた撮 影 位 置 指 示 機 能 を有 するインタラクティブ 3 次 元 モデリングシステム”,MIRU2005 ,0S7A−30.
5. H. Ichida, Y. Itoh, Y. Kitamura and F. Kishino : “Interactive retrieval of 3D shape models using physical objects”, Proc. of the 12th ACM International Conference on Multimedia 2004, pp.692-699.
6. 伊 藤 雄 一 ,高 嶋 和 毅 ,小 川 兼 人 ,安 倊 登 樹 ,岸 野 文 郎 : “実 物 体 のモーションをクエ リとして用 いた 3 次 元 形 状 モデル検 索 ”,日 本 バーチャルリアリティ学 会 論 文 誌 , Vol. 17, No. 4, 2012, pp.369-379.
7. 早 川 雄 一 郎 , 木 島 竜 吾 :“Head Mounted Display 向 けリアルタイム時 間 遅 れ計 測 に基 づく 事 後 補 償 ”, 日 本 バーチャルリアリティ学 会 論 文 誌 , Vol. 19, No. 1, 2014, pp.47-54. 8. 盛 川 浩 志 , 飯 野 瞳 , 金 相 賢 , 河 合 隆 史 :“シースルー型 HMD を用 いた微 触 覚 錯 覚 の呈 示
と評 価 ”, 日 本 バーチャルリアリティ学 会 論 文 誌 , Vol. 18, No. 2, 2013, pp.151-159. 9. Unity Technologies Japan:“はじめての Unity”,