著作物再販 制度 の見 直 しの評価 ( その 3 )
一一見直 しのスタンス(上)一一 I は じaめに 1 ) 著作物再販制度 の見 直 しに関 しては,す でに,見 直 しのプ ロセス,著 作物再 2 ) 販制度 の趣 旨の理解 に限定 して,そ れ ぞれの問題 点 につ いて検 討 して きた。本 稿 では, 残 され た検 討課題 であ る見 直 しの ス タンス を取 り上 げ,問 題状況 の一 3 ) 端 を解 明す る。 見直 しのスタンスが問題 になる局面は,二 つある。一つは見直 しの枠の有無 に係 る局面であ り, もう一つは,内 容 に係 る局面である。前者に関 しては, と りわけ,公 取委の見直 しが行政改革委員会 (行革委)の 意見に拘束 され,見 直しのスタンスが制約されるか否かが問題になる。他方,後 者に関しては,① 制
度に関わる問題点,② 商品特性に関わる問題点,の 二つがある。
①は,既 存の制度の見直し (廃止等)と 新たな制度の導入とではスタンスに
自ずから違いがあり,新 たな制度の導入を否定することができる論理をもって
しても,そ れだけでは既存の制度の見直しを直ちに正当化することはできず,
1)「著作物再販制度の見直 しの評価 (その 1)一 一見直 しのプ ロセスに限定 して一―」彦 根論叢307号35頁 (1997年)。 2)「著作物再販制度の見直 しの評価 (その 2)一 一著作物再販制度の趣 旨の理解 に限定 し て一一 」彦根論叢308号19頁 (1997年)。 3)な お,外 国の法制度 との比較につ いては,触 れない。 それは,筆 者が外国の諸事情に明 る くないこ とに よる。 ただ し,次 の ことだけは再確認 してお きたい。社会 ・経済的背景 を 異にす る法制度 の表面的 な比較 には問題がある, とい うことである。 このことは,著 作物 再販制度 の場合 には とくに当ては まる。 作 耕 田 内2 彦 根論叢 第 3 1 0 号 見 直 しの正 当化 の た め に は, さ らに制 度 の機 能 を歴 史 的 に評 価 し, 併 せ て 見 直 し後の将来 を予測す るこ とが必要 となる, とい うこ とに関わっている。 他方,② は,商 品にはそれぞれ特性があ り,競 争政策はその商品特性 をも勘 案 して策定 されなければな らない, とい うこ とに基本的に関わっている。 本稿 では, まず,見 直 しの枠の有無について検討す る。その後,内 容 に係 る 局面の問題点の検討 に及ぶ。 もっ とも, 商 品特性 に関わる問題点につ いての検 討 は別稿 に譲 り, 本 稿 では制度 に関わる問題点に限定 して検討す る。 H 見 直 しの枠 の有 無 著 作物再 販制度 の見 直 しは,公 取委 に よって行 われてい るだけ ではない。行 革委 に よって も行 われ て い る。 ここでは,公 取委 の見 直 しが行 革委 の意見 に拘
束され,見 直しのスタンスが制約されるか否かが問題になる。以下,① 行革委
の目的 ・所掌事務等,② 行革委の意見,③ 政府の対応,④ 公取委の見直しに対
する行革委の意見の拘束性,の 順で検討する。
1.行 革委 の 目的 。所 掌事務 等 行 車委 は,1994年 12月19日,「 社会 経済情勢 の変化 に対応 した適正 かつ合理 的 な行 政 を実 現 す るこ との緊急性 にか んがみ,行 政 の各般 にわ た る制 度及 び運 営 につ き必要 な改革 の推 進 に資す るため」, 3年 の時 限 で総理 府 に設 置 され た (行革委 設置法 1条 ,附 則 1項 ・3項 )。 その所掌事務 は,次 の こ とである (2条 )。①許可 ・認可等行政の各般 にわ たる民間活動 に係 る規制の改善 の推進に関す る事項,そ の他行政の制度 ・運営 の改善の推進に関す る事項に関 して講ぜ られ る施策の実施状況 を監視す ること。 ②行政機関の保有す る情報 を公開す るための法律 の制定 その他 の制度の整備 に 関す る事項 を調査審議す るこ と。③監視 ・調査審議 した結果に基づ き,内 閣総 理大 臣に意見 を述べ ること。 内閣総理大 臣は,監 視 ・調査審議 した結果に基づ く意見 を受けた ときは,こ 4 ) 公 取委の見直 しと行革委の見直 しのスタンスの違 いについては, 本 稿 では触れない。後 者のスタンスに関 しては, 三 輪芳朗 『規制緩和 は悪夢 ですか』1 3 1 頁 ( 1 9 9 7 年) 参 照。著作物再販制度の見直 しの評価 (その 3) 3 5 ) れ を尊重 しなけれ ば な らない (3条 )。 また,行 革委 は,必 要 が あ る と認 め る ときは,そ の意見 (許可 ・認可等行 政 の各般 にわた る民間活動 に係 る規制 の改 善 の推進 に関す る事 項 に係 る もの に限定 され る。)を受 けて講ぜ られ る施策 に 関 し,内 閣総理大 臣 または内閣総理大 臣 を通 じて関係行政機 関の長 に勧告す る こ とが で きる (4条 )。 2.行 革委 の意見 行 革委 は,1995年 12月14日に 「規制緩和 の推進 に関す る意見 (第 1次 )一 光 り輝 く国 をめ ざ して一 」 を,1996年 12月16日に 「規制緩和 の推進 に関す る意見 (第 2次 )一靖 J意で造 る新 たな 日本一 」 を取 りま とめ た。 それは,政 府 が 当該 意見 の指摘 内容 の実現 を図 り,規 制緩和 を強力 に推進す るこ とを期待 しての も の であ る。 そ こには,著 作物再販制度の見直 しにつ いての叙述 も,見 受 け られ る。 つ (1)第 一 次 の意見 「 再販 売価格維持行為 は,経 済ルー ルの根幹 である独 禁 法上 原則違法 であ る。 したが って,こ の原則 に対す る例外 を認め るため には, 相 当の特別 な理 由が必要 であ る。 著作物 につ いては, こ の原則 に対す る例外 として現行 法上再販売価格 の維持 が認め られ てい る。 当委員会 としては, この例外措置の妥当性 につ いて,引 き 続 き,検 討課題 として議論 を深め てい くこ ととす る。 なお,公 正 取 引委 員会 にお いて も,本 件 に係 る検 討 をさ らに進め るこ とを求 め る。 この際,広 く国民 の間 で十分 な議論 が な され るこ とを期待す る。」 D 修)第 二次の意見 「 再販売価格維持制度は,流 通段階における価格競争 を制限す るなど競争に与える影響が大 きい として,経 済の基本ルールである独 5)意 見 は 「最大限に」尊重 され る。 「平成 8年 1月 19日閣議におけ る内閣総理大 臣発言要 旨」等参照。 6)な お,行 革委 は,最 終意見 を1997年12月中に取 りまとめ る予定である。 7)引 用 は,総 務庁 (編)『規制緩和推進の現況 (平成 8年 7月 )』資-81頁 (1996年)に よ った。 8)引 用 は,総 務庁 (編)『規制緩和 白書 (97年版)』資-466頁 (1997年)に よった。
4 彦 根論叢 第 310号 禁 法上 原則 として禁 止 され て い る。 したが つて,こ の原則 に対す る例 外 を認 め るため には,相 当の特別 な理 由が必要 であ る とされてお り,現 行 の制度 にお い て は,著 作物 が その例 外 として認め られてい る。 当小 委 員会 では,そ の例 外措 置 の妥 当性 を,そ れ ぞれ論 点 の異 な る 『新 聞』 『書籍 ・雑 誌』 『レ コー ド等』に分 けて議論 して きた。 主 な論 点 として は,『 全 国,だ れ に も同一価格 で販売 しなければな らないの か』,『 戸別 配達 制 度や 委託 販 売制 度 といわれ る制度 が,イ ヽ売価 格 の拘 束 が無 け れ ば維 持 で きな い ものか』,ま た,『 この流通 制 度 が,国 民 に とって不 可 欠 の ものか』,『 他 の著 作物 といわれ る もの例 えば映像 物 と区別 す る必然性 は何 か』 な どに集約 され る。 当委員会 としては,関 係各 方面か らの ヒア リングお よび公 開デ ィスカ ッシ ョ ン等 を含 め,各 方面か ら表 明 され た多様 な意見 につ いて検討 して きたが,新 聞 の戸別 配達 制 度 や 書 籍 ・雑 誌 の い わゆ る委 託 販 売制 度 (返品条件 付 き買取制 度 )が 消 費者 のエー ズに対応す るための制度 としての役割 を果 してい るこ とを 考 慮 して も,そ の流通御1度と再 販制 度 の関係 を含 め,こ れ までの ところ,著 作 物 の再 販制 度 を引 き続 き独 禁 法 の例 外 措 置 として存続 させ るこ との是 非 につ い て十分 な論 拠 を見 い出す こ とはで きなか った。 また,中 小書店や 中小 レコー ド店の維持存続のため という理由づけが直ちに 再販制 を維持す るための根拠 とは必ず しも言 えない と認識 している。 当委員会 としては,そ れぞれの商品特性 (例えば 『文化性』,『 公共性』)に ついて,真 に消費者利益の立場か ら,『 相 当の特別 な理由』に該 当す るか どう か を十分 に吟味 し,そ れぞれの再販制度毎に, さらに広 く国民の議論 を深めつ つ,結 論に向けた検討 を進めてい く。」 3.政 府の対応 政府は,1995年 3月 31日,「 規制緩和推進計画について」 を閣議決定 した。 9 )
それは,著 作物再販制度の見直しについて,次 のように叙述していた。
「
再販
9 ) 引 用 は,総 務 庁 (編)『規 制 緩 和 推 進 の現 況 (平成 7年 7月 )』資- 2 6 頁 ( 1 9 9 5 年) に よ った。著作物再販制度の見直 しの評価 (その 3) 5 1 0 ) 適 用 除外 が認め られてい る著作物 につ いて,同 〔平成 1 0 〕年末 までにその範 囲 の 限定 。明確化 を図 る。」 また,そ れは,計 画の見直 し ・改定について,次 のように叙述 していた。「計 画は,内 外か らの意見 ・要望,行 政改革委員会の監視結果等 を踏 まえ,毎 年末 までに見直 し,毎 年度末 までに改定す る。」 実際に も,そ の後,政 府は,行 革委が総理大臣に提 出 した 「規制緩和の推進 に関す る意見」 を最大限尊重 し,そ の内容 を全面的に取 り入れて計画の改定 ・ 再改定 を行 った。 まず,「 規制緩和推進計画について」は,1996年 3月 29日に閣議決定 された 「規制緩和推進計画の改定について」において,1995年 度か ら97年度 までの 3 か年の 「規制緩和推進計画」 として改定 された。著作物再販制度の見直 しは, 次の ように叙述 されていた。 「再販適用除外が認め られている著作物について, 平成 9年 度末 までにその範囲の限定 。明確化 を図る。」 次に,「 規制緩和推進計画の改定について」は,1997年 3月 28日に閣議決定 された 「規制緩和推進計画の再改定について」において,1995年 度か ら1997年 度 までの 3か 年 の 「規制緩和推進計画」 として改定 された。著作物再販制度の 見直 しは,こ こで も,次 のように叙述 されていた。 「再販適用除外が認め られ ている著作物については,平 成 9年 度 (1997年度)未 までにその範囲の限定 ・ 明確化 を図 る。」 そこで,著 作物再販制度の見直 しについての政府方針は,規 制緩和推進計画 の策定の当初か ら一貫 して,「再販適用除外が認め られている著作物について」, 所定 の期 限 までに 「その範囲の限定 。明確化 を図 る」, とい うことであった と い うことになる。 1 0 ) な お, 1 9 9 5 年 4 月 1 4 日, 規 制緩和推進計画は, 「 緊急円高 ・経済対策」によ り前倒 しさ れ, 1 9 9 7 年度 までの 3 年 計画 として実施す るこ ととされた。総務庁 ( 編) 。前掲 ( 注9 ) 資 -176頁 参照。 11)引 用 は,総 務庁 (編)・前掲 12)引 用 は,総 務庁 (編)・前掲 13)引 用 は,総 務庁 (編)・前掲 (注 9)資 -23頁 に よった。 (注 7)資 -99頁 に よった。 (注 8)資 -7頁 に よった。
6 彦 根論叢 第 310号 4.公 取委 の見直 しに対す る行 革委 の意見 の拘 束性 行 革委 の意見 の取 りま とめ まで と,取 りま とめ後 に分 け て検 討 す る。 (1)行 革委 の意見 の取 りま とめ まで 行 革委 の第一 次 の意見 の取 りま とめ は1995年12月14日で あ るの で,そ の時点 までは,公 取委 の見直 しが行 革委 の意 見 に拘 束 され るこ とは論理 上 あ り得 ない。 この時″点までで公取委 の見直 しを拘 束す るのは,閣 議決 定 (1995年3月 31日, 4月 14日)の み であ る。公取委 は,「 再販適用 除外 が認め られてい る著作物 に つ いて」,1998年 3月 末 までに 「その範 囲 の限定 ・明確 化 を図 る」 よ う,独 自 の ス タンスで鋭 意見直 しを進 めれば よか った。 (2)行 革委 の意見 の取 りま とめ後 行 革委 の意見 の取 りま とめ後 に公 取委 の見 直 しが その意見 に拘 束 され るか否か を検討 してお くこ とには,意 味が あ る。 とい うのは,巷 間,拘 束 され るか の よ うな主張が見受 け られ るか らであ る。 まず問題 とな るのは,公 取委 の見直 しが行 革委 の意見 に直接 的 に拘束 され る か否 か であ る。解 明の ため には,行 革委 と政府 の関係 を検討 しなければ な らな い。 この点,行 革委 は,本 稿 に関 わ りが あ る局面 では,施 策 の実施状況 の監視, 監視 結果 に基づ く意見の 内閣総理大 臣へ の具 申, を任務 としてい る。他 方,内 閣総 理 大 臣は,監 視 した結果 に基づ く意見 を最 大 限に尊重 しなければ な らない とされ るに過 ぎない。 また, この局面 では,行 革委 は勧告 をす るこ とが で きな い。 したが って,公 取委 の見直 しは,行 革委 の意 見に直接 的 に拘 束 され るこ と は な い。最大 限の尊重が要 請 され るに とどまる。 次 に問題 に な るのは,行 革委 の意見が,見 直 しの方 向性 だけ でな く,見 直 し の実質 的 な内容 を拘 束す るほ どに確 定 的 な もの であ るか否か であ る。 この″点, 第一 次 の意 見 は,再 販行為 それ 自体 と著作物再販制度 に対す る基本 的認識 は示 して い るが,究 極 的 には,「 引 き続 き,検 討課題 として議論 を深めてい くこ と とす る」 との取 りま とめ で終 わ って い る。他 方,第 二次 の意見 は,著 作物再販 制 度 に対 す る基本 的認 識 の深化 を示 して い るが,や は り究極 的 には,「 それ ぞ れ の再販制度毎 に, さ らに広 く国民の議論 を深めつつ,結 論 に向け た検討 を進 め て い く」 との取 りま とめ で終 わ って い る。
著作物再販制度 の見直 しの評価 (その 3) 7 以上のこ とか らすれば, 少 な くとも第二次 までの行革委の意見は, 見 直 しの 方向性 につ いては確定的であるが, 見 直 しの実質的な内容については何 ら確定 的でない。 それゆえ, 公 取委の見直 しがた とえ行革委の意見に拘束 されるとし て も, 見 直 しの実質的な内容 は拘束 され ようがなかった。 IH 制 度 に関わ る見直 しのスタンス 検討対象 としては,こ こで も,「 政府規制等 と競争政策に関す る研究会 再 販問題検討小委員会」が1995年7月 に公表 した 「再販適用除外が認め られ る著 作物 の取扱いにつ いて (中間報告)」(以下,「 中間報告」 とい う。)を取 り上 げ る。 まず,「 中間報告」の基本的スタンスを紹介す る。そ して,そ の後,批 判的検討 に及ぶ。 1.「 中間報告」の基本的スタンス 「中間報告」の基本的スタンスとなるのは,① 原理 ・原則の強調 ・貫徹,② 現時″点におけ る評価 の重視,③ 歴史的経緯の軽視,で あるように思われ る。② と③ は相 まって,① を補完す る関係 にある。以下,各 々について紹介す る。 (1)原 理 ・原則の強調 ・貫徹 「 中間報告」は,見 直 しの基本的視点 とし て,次 の ように叙述す る (4(1》。 これは,原 理 ・原則の強調 ・賞徹 の表明 と み ることがで きる。 「再販行為 は,価 格面での競争阻害 を現に もたらすだけでな く,そ の他の面 で も弊害 をもたらすおそれの強い ものであ り,競 争政策の観点か らは,か か る 行為 を正 当化す ることは,通 常は困難である。 したがって,再 販行為 を適用除 外す ることは飽 くまで例外的な措置であって,何 らかの特別 な要 因に よってそ 1 4 ) な お, 第 二次の意見の うち, 「 これ までの ところ, 著 作物の再販制度 を引 き続 き独禁法 の例外措置 として存続 させ るこ との是非について十分 な論拠 を見い出す ことはで きなか っ た」 との箇所 は, 真意が分か りに くい。 「是非」 とい うことばは一般に, 「 是」 と 「非」 の両者 を含む もの として用 い られ る。 当該の箇所 は,「 是」だけではな く 「非」について も,「 十分 な論拠 を見 い出す こ とはで きなか った」 と主張 しているのであろ うか。 15)な お,「 中間報告」 は,再 販制度の基本的問題″点,現 行 の著作物再販制度の下 での具体 的問題 点,に つ いて も叙述 してい る(3た
8 彦 根論叢 第 310号 れ を必要 とす るの であれば, 次 の よ うな観 点か らみて, 国 民各層が納得 し得 る ような明確かつ具体的な理由が必要 と考 えられ る。 ア 再 販制度は価格競争の阻害 とい う面で現に弊害 をもたらす ものであるか ら,同 制度が価格以外の面で何 らかの効果 をもたらす可能性が抽象的に示 され るだけでは,こ れ を正 当化す ることはで きず,そ のような効果が具体的に,か つ,現 実に生 じていることが示 され る必要がある。価格競争の阻害 とい う弊害 が現に生 じる以上,そ の弊害の程度が少 ない とか, 3〔 著作物に係 る再販制度 の問題点〕に挙げたような個々の具体的弊害の発生 ・拡大の防止が担保 され る だけでは,制 度 を維持す る理由 とす ることはで きない と考 えられ る。 イ 仮 に,前 記の ような効果 をもた らす とい う目的 を達成す る必要があると して も,再 販行為 は垂直的取引制限の うち最 も競争阻害効果が高い ものである か ら,よ り競争制限的でない他 の手段 によって 目的 を達成で きるか どうかが検 討 され るべ きである。 ウ 既 に取消 しの方針 が示 されてい る指定再 販商 品 (化粧 品の一部及び一般 用 医薬 品の一部 )を 除 き,再 販行為 が許容 され てい る商 品はほか にない以上, 他 の商 品に は当て は ま らない特別 な要 因が あ るこ とが必要 であ る。 す なわ ち, 仮 に,再 販行為 に よって事 業者が一 定の 目的 を達成す ることがで きるとして も, 同様 の事 情が他 の商 品にお いて も当ては まるのであれば,そ れが直 ちに制度 を 維持 す る理 由 とな る もの では ない。」
(2)現時点における評イ
面の重視 「 中間報告」は,再 販適用除外が認めら
れる著作物の範囲の見直しの背景として,① 経済 ・社会状況の変化,② 政府規
制の緩和 。独禁法適用除外制度全体の見直し,③ 再販制度自体に対する考え方
と著作物再販制度の位置付けの変化, を挙 げる(2たここで関わ りがあるのは, とりわけ① と② である(③は歴史的経緯の軽視 と関わ りがあ り,次 項で触れ る)。 それ らは,現 時点におけ る評価 の重視 の現れ とみ ることがで きる。 (a)経 済 ・社会状況の変化 「 中間報告」は,概 要,次 の ように叙述す る 16)1997年 1月 ,指 定 はすべ て取 り消 された (施行 は同年 4月 )。著作物再販制度の見直 しの評価 (その 3) 9 (2(1))。 再 販 制 度 が 1953年 に 導 入 され て か らす で に40年 以 上 経 って い るが ,こ の 間 に わ が 国 の経 済 ,流 通 構 造 ・取 引慣行 の実 態 は大 き く変 化 し,様 々 な業 態 の小 売 業者が出現 し, これ らが提供す る価格 ・サー ビスの内容 も多様化す るとともに, 消費者の側 で も,所 得水準の上昇,価 値観の多様化 などに伴 い,消 費生活 ・購 買行動が変容 して きている。これによ り,消 費者の多様 なニーズに対応 した財 ・ サー ビスの弾力的提供が一層求め られている。 こ うした経済 。社会状況の変化 を背景 として,近 年においては,流 通市場に おけ る価格競争の促進が,わ が国市場の開放性 を高め,消 費者利益の確保 に も 資す るもの として,極 めて重要 な政策課題の一つ となっている。 この間,小 売価格 を制限す る諸制度は次々に撤廃 ・緩和の措置が講 じられて きてお り,ガ ヽ売4面格 に関す る慣行 も変化 して きた。 (b)政 府規制の緩和 ・独禁法適用除外制度全体 の見直 し 「 中間報告」は, 概要,次 のように叙述す る (2修》。 近年,わ が国市場の開放性 を高め,消 費者利益 を確保す る観点か ら,参 入 , 価格 などに係 る政府規制 の緩和 と併せ て,独 禁法適用除外制度につ いて も見直 しを行 うことが,課 題 となっている。 独禁法適用除外制度は, 自由経済体御1の下ではあ くまで も夕J外的な制度であ り,基 本的には,消 費者利益 を損ない,事 業者 と産業の活力 を阻害す るなどの おそれがある。 そこで,1950年 代の導入以降現在 までの社会 ・経済情勢の変化 を踏 まえ,消 費者利益 を確保す るため,今 日の状況によ り適合す るよう市場 メ カニズムの一層の活用 を図 る観″点か らその見直 しを行 うことが求め られている。 このため,「 政府規制等 と競争政策に関す る研究会」は,1991年 7月 に,再 販制度 を含め,独 禁法適用除外制度全般 にわたる検討結果 を公表 した。 公取委は,そ の検討結果 を踏 まえ,再 販制度の見直 しを行 い,1992年 4月 , 検討結果 を公表 した。指定再販商品につ いては,指 定品 目 (化粧 品の一部 と一 般用医薬品の一部)の 約半数の指定 を原則 として1993年4月 か ら取 り消 し,残 りの品 目について も,1998年 3月 末 までにすべ て取 り消すべ く所要の手続 きを
1 0 彦 根論叢 第 3 1 0 号 1 7 ) 採 るこ ととして い る。 他 方,独 禁法適 用 除外制度 の見直 しは,す でに数 回にわた り閣議決定 されて お り,政 府全体 として も最 重″点課題 の一 つ となってい る。 1995年3月 に閣議決 定 され た規制 緩和推進 計画 にお いて も,再 販制度 を含 め た独禁法適用 除外制度 の 見直 しを決定 してい る。 と くに再 販 榔!度は公取委所管 の法律 に基づ くものであ るか ら,競 争政策 の観 点 か ら公取委 が政府親1制の緩和 ・独 禁法適用 除外制度全体 の見直 しを推進す る 上 で も,そ の 見直 しを積極 的 に行 って い く必要 が あ る。 (3)歴 史的経緯 の軽視 「 中間報告」 は,再 販適用 除外 が認め られ る著作 物 の範囲の兄i立しの背景 の一 つ に,再 販制度 自体 に対す る考 え方 と著作物再販 制度 の 位置付け の変化 を挙 げ る (2は))。それ につ いては前稿 で紹介 した とこ ろ であ るがゃ 前稿 の整理 は不 十分 であ ったの で,本 稿 で必要 とな る限 りでその 肌要 を叙述 し直す こ とにす る。 なお,「 中間報告」が歴 史的経緯 を軽視 してい る とい うのは,「 中間報告 」の精査 か ら浮か び上 が る評価 であ り,「 中間報告」 が歴 史的経緯 の軽視 をその ス タンス とす る旨明示 してい るわけ ではない。 (a)再 販制度 自体 に対す る当初 の考 え方 1953年 の時点 では,独 禁法 の解 釈 ・運用上,再 販行 為一般 が独禁 法 に 「原貝Jと して」違 反す る行為 であ るこ と は必ず しも確 立 していなか った。 このフ点で,再 販行為 が競 争 を阻害す るお それ が あ るこ とにつ いての認識 は,こ の時点 では十分 ではなか った。 17)前 倒 しをして取 り消された。注tO参照。 18)拙 稿 ・前掲 (注2)24-25,28-29,35-36頁 参照。 19)前 稿 では,① 再販制度 自体に対する考え方,② 著作物再販制度の位置付けの変化,に 分 けて紹介 したが,こ こでは,① 再販制度 自体に対する当初の考え方,② 再販制度 自体に対 す る考 え方の変化,③ 著作物再販制度の位置付けの変化,に 分けて紹介する。前稿の② を 本稿では② と③に分け,① を当初の考え方 とした″点が違 っている。なお,「 中間報告」の 理解に対 して加えた批半Jに修正するところはない。 20)な お,長 谷川俊明 『独 占禁止法 と規制緩和』(1995年)は ,次 のように叙述 していた (2 54頁)。 「これまでの制度や取引慣行に とらわれず,い まの再販制度が消費者の利益 とど のようにかかわっているのかを中″いに,著 作物の限定 ・明確化 を行 う検討が行 われてい る。」
著作物再販制度の見直 しの評価 (その 3) 11 ま た, 1 9 5 3 年 改正 当時 の公 取 委 は,再 販行 為 を独 禁 法 の適 用 除外 とい う形 で 政 策 的 に許容 す る こ とにつ い て も,こ れ は小 売 業 者 に最 低 利 潤 を保 証 す る制 度 であって,そ の弊害はそれほ ど大 き くない との認識の下に,比 較的寛容 な立場 を採 っていた。 このため,か な り幅広 い範囲の商品を再販指定の検討対象 とす る方針が示 されていた し,実 際に も,改 正法施行か ら1950年代後半にかけては, 現在 よ りも多 くの商品が再販指定 されていた。 この ように多数の指定再販商品が存在す ることを前提 として再販制度 を考 え ていたこ ととの均衡上,す でに定イ面販売の慣行が成立 していた書籍 などについ て再販行為 を許容す ることは,政 策的に も問題が少ない と考 えられた。 (b)再 販制度 自体 に対す る考 え方の変化 1960年 代 に入って消費者物価の 上昇が顕著にてFりす治め るととともに, 再販待J度は物イ面政策的に厳 し↓地し半Jにさ らされ るようになって きた。 このため,1960年 代後半に入 ると,物 イ面政策面か らも再販制度の問題点 とその弊害の排除が指摘 され るなど,再 販制度に関す る 運用の強化が主張 され るようになった。 これ と同時に,競 争政策の面か らは, 1965年頃か ら,再 販行為が独禁法違反事件 として しば しば取 り上げ られ るよう になるとともに,指 定再販商品の見直 しが行 われ,1966,71,74年 の 3回 にわ たって指定品 目の取消 しが実施 された。 こうした状況の中で,1975年 7月 10日 の最高裁判決 (第一次育児用粉 ミル ク 〔和光堂〕事件,民 集29巻6号 888頁) において,再 販行為 は独禁法に原則 として違反す る行為 であ り,こ れを許容す る再販制度は,競 争政策 とは別の経済政策上の観″点に立つ ものであることが明 示 された。その後,「 流通取引慣行 に関す る独 占禁止法上 の指針」 (1991年7 月,公 取委事務局)に おいて も,再 販行為が原則違法であることが明確化 され ている。 以上の経緯か ら,現 在 では,単 に小売業者に最低利潤 を保証す るとの理由だ けで再販行為 を政策的に許容す ることは困難になっている。再販指定商品につ いて も,す でにすべての指定の取消 しを図ることが閣議決定 されている。 (C)著 作物再販制度の位置付けの変化 1953年 当時のように広 く再販行為 を許容す ることを前提 とした状況の下 と,現 在のように再販行為が原則違法 と
1 2 彦 根論叢 第 3 1 0 号 され, ほ か に許容 され る ものが ほ とん どない状況 の下 とでは, 著 作物 に係 る再 販制 度 の位 置付 け も当然 に異 な って くるこ ととな る。 2 . 「 中間報告 」 の基本的 ス タン スの批判的検討 叙述は,以 下の順序による。 まず,「 中間報告」の基本的スタンスごとに, 批判的検討 を加 える。その後,簡 単なまとめをする。 (1)原 理 ・原則の強調 ・貫徹 こ こでは,次 のことが問題になる。①そも そも原理 ・原則は妥当なものであるか。②原理・原則に訴えるだけで,制 度の 見直 しは正当化 されるか。③原理 ・原則を強調すれば,制 度の維持 を主張する 側に立証責任が転換されるか。以下,各 々について検討する。 (a)原 理 ・原則の妥当性 そ もそも原理・原則が妥当でなければ,議 論は 始 まらない。 「中間報告」が原理 ・原則 とするのは,次 の 3″点である。①再販 行為の正当化は競争政策の観″点か らは通常困難である。②再販行為の適用除外 は例外的な措置である。③適用除外のためには明確かつ具体的な理由が必要で ある。 再販売価格の拘束が独禁法上原則違法 とされることからすれば,① ,② の妥 当性に疑問はない。それに対 し,③ については,一 つにどのような観点から理 由の存否が判断されるか, もう一つに理由はどの程度具体的でなければならな いか,が 問題になる。 このフ点,前 者に関 しては,「 中間報告」は,二 つの観″点を挙げる。④再販制 度が価格以外の面でもたらす効果は,具 体的にかつ現実に生 じていることが示 されなければならない。⑤効果をもたらす という目的は, よ り競争御l限的でな い他の手段によって達成できるかどうかが検討されなければならない。◎再販 21)と dO参照。 22)明 確 な理 由が必要 であ るこ とには異論が ない。 しか し,現 行 の著作物再販制度の立法趣 旨は必ず しも明確 ではない との 「中間報告」の認識 (4(2つ には疑間がある。 また,立 法 趣 旨だけが,理 由が明確 であるか否か を決す る要 因 となるわけではない。運用 を通 じて既 存の制 度の趣 旨が明確化す るこ ともあ るし, また変化す るこ ともある。著作物再販制度の 趣 旨が立法 当初か ら 「中間報告」の認識以上 に明確 であったことについては,拙 稿・前掲 (と2)参 照。
著作物再販制度の見直しの評価 (その3) 13 行為 が許容 され て い る商 品は,取 消 しの方針 が示 され て い る指定 商 品のほか に ない以上,他 の商 品には当ては まらない特別 な要 因が なければ な らない。 他 方,後 者 に関 しては,「 中間報告」 は,現 行 制度 の趣 旨 とされてい る諸″点 (文化 の普 及 な ど)は ,「 原則禁 止 され て い る行為 を例 外 的 に適用 除外 す る理 由 として は,抽 象 的 にす ぎるの では ないか と考 え られ」,「 具体 的意 味 につ い て,改 め て幅広 い角 度 か ら検 討 す るこ とが必要 で あ る」 と叙 述 し (4(2)),相 当の具体 性 を要 求 す る。 そ して,「 文化 の普 及」 とは,「 消 費者 が商 品 を購 入 す る機会 の確保等 とい う点に帰着す るもの と考 えられ」 るとし,「 その ような 効果が現実 に,か つ具体的に生 じてい」 なければ,著 作物再販制度 を維持す る 理 由はない とす る (4修)イltl)。 一般論 としてみる限 り,理 由の存否が判断される観″点は妥当であ り,具 体的 な理 由 を必要 とす るこ とも問題が ないように思われ る。 しか し,著 作物再販制 度に対す る 「中間報告」の原理 ・原則の適用 に まで立 ち入 ってみれば,要 求 さ れ る具体的理由の内容 ・程度に関 しては大いに疑間がある。 この点については, 商品特性 に関わる見直 しのスタンスの問題 として,稿 を改め検討す る。 (b)原 理 ・原則 に訴 えるこ とによる制度の見直 しの正 当化 制 度が問題 と なる局面 としては,① 新 たな制度の導入,② 既存の制度の見直 し,の 二つの局 面がある。 この うち,新 たな制度の導入は,原 理 ・原則に訴えるだけで抑止 さ れ得 る。 しか し,既 存の制度の見直 しについては,そ うはいかない。 制度が存在す る限 り,制 度 とその運用の下 に秩序が形成 され る。秩序の成果 が良 くない として も相応の成果があるとすれば,そ れは制度 とその運用による ものか もしれない。制度が存在 しなか ったな ら,一 層悪 い成果に とどまってい たこ とも考 えられ る。 ここに,制 度の機能 を歴史的に評価す ることが是非 とも 必要になる。 このことは,1953年 の導入以降40年以上にわたって運用 されて き た著作物再販待1度については, と くに当てはまる。 結局,新 たな制度の導入 と既存の制度の見直 しとでは 自ずか らスタンスに違 いがあ り,原 理 ・原則に訴 えるだけでは,著 作物再販制度の見直 しを正 当化す るこ とはで きない。正 当化のためには,加 えて,著 作物再販制度の機能の歴史
14 彦 根論叢 第 310号 的 評 イ面が 不 可 欠 とな る。 このフ点,「 中間報告」は著作物再販制度の機能の歴史的評価には 目を向け よ うとしていない。現時″点におけ る評価の重視,歴 史的経緯の軽視 をも基本的ス タンス としていることか らすれば, この検討 を回避 したい とい うのが,そ の意 図であるように思われ る。厄介であるとして もこの検討がなければ,著 作物再 販制度の見直 しは, もはや十全 とはいえない。 なお,「 中間報告」が 「主 として理論的側面か ら取 りまとめ」 られた とい う こ とは,抗 弁 とはならない。理論的側面か ら機能の歴史的評価のあ り方 を提示 し,最 終報告の取 りまとめ までに活発 な議論 を促す ことができた。 また,「 中 間報告」 と併せ公表 された公取委事務局の流通実態等調査報告書 も,こ の欠落 を埋め るものではなか った。 (C)原 理 ・原則の強調 と立証責任の転換 新 たな制度の導入の場合には, 導入 を唱導す る側が導入に理由があることを立証す る責任 を負い,既 存の制度 の見直 しの場合 には,見 直 しを唱導す る側が制度 を維持す る理由がな くなった こ とを立証す る責任 を負 う。 これが御l度論の大原貝Jである。原理 ・原則 をい く ら強調 して も, この立証責任の転換が許容 され るわけではない。 著作物再販制度の見直 しに即 していえば,制 度の維持 を主張す る側が,制 度 を維持す る理 由があることの立証責任 を負わされ ることはない。立証責任は依 然 として制度の見直 しを唱導す る側 にあ り,制 度 を維持す る理由がな くなった こ とを主張 ・立証 しなければならない。 この点,「 中間報告」には,次 のよう な叙述が見受け られ る (5,結 び)。 「現在再販適用除外が認め られている各著作物の商品特性,市 場構造,取 引 慣行 ・流通実態,消 費者の購買行動や意識は,必 ず しも同 じではない。 したが 23)「一般 日刊新聞紙の流通実態等に関す る調査報告書」,「 書籍 ・雑誌の流通実態等に関す る調査報告書」,「 レコー ド盤,音 楽用 テープ及 び音楽用 CDの 流通実態等に関す る調査 報告書」参照。 24)三 輪芳朗 「なぜ著作物再 販制度 を問題 にす るのか」経済セ ミナー512号54貢 (1997年) は,廃 止 を主張す る側 に立証責任があるとの立論には根拠がない とい う (57頁)。
著作物再販制度の見直しの評価 (その 3) 15 っ て,著 作 物 に係 る再 販 制 度 につ い て,前 記 4〔 見直 しの視 点 〕 の観 ″点か らみ て, これを現時″点において維持する必要性があるかどうかを検討するに当たっ ては,こ うした各品目ごとの特徴にも留意する必要がある。 このため,次 の とお り,再 販制度に関連 してどのような点が論″点となってい るのかを各関連業界の主張に沿って整理 し,こ れについての基本的考え方を検 討することとする。」 「これまでの関係事業者の主張等を前提 とする限り,再 販制度が店頭陳列の 充実,戸 別配達の維持など消費者が商品を購入する機会の確保等を通 じて我が 国の文化の普及等の効果をもたらすかどうかについて,疑 間があると考えられ るものである。」 これらの叙述を外形的にみる限 り,「 中間報告」は,制 度の維持 を主張する 側に立証責任 を転換 しているわけではな く,立 証負担の相当部分 を転嫁 し, 自 らの負担を軽減 しようとしているに過 ぎないように思われる。その限 りで,間 題は少ない。 しか し,検 討 を実際に行 うに当たって立証責任の事実上の転換が 行われておれば,許 容 され得ないことになる。 (2)現 時点における評価の重視 原 理 。原則の強調 ・貫徹 というスタンス は,現 時″点における評価の重視,歴 史的経緯の軽視, という別のスタンスによ り補完されている。本項では前者 を取 り上げ (後者は次項),補 完の具体的様 相 を明らかにするとともに,検 討 を加える。叙述は,① 経済 ・社会状況の変化, ②政府規制の緩和 ・独禁法適用除外制度全体の見直 し,の 順による。 (a)経 済 。社会状況の変化 「 中間報告」が見直 しの背景 として挙げたの 25)こ の″点,伊‐従寛 『独 占禁止政策 と独 占禁止法』 (1997年)は ,次 の ように批判す る (857 頁)。 「出版再販制 に問題があってその廃止 を主張す るのであれば,そ の主張 をす る側 が その具体 的 な実態上 の問題 点 を明確 に示 すべ きであ ろ う。」また,伊 従寛 『出版再 販―― 書籍 ・雑 誌 ・新 聞の将来 は ?』 (1996年)は ,次 の ように批判す る (76頁)。 「まず中間報 告が,そ の 〔著作物 に再販制が必要 な理 由の〕否定の根拠について 『国民各 層が納得 し得 るよ うな明確かつ具体的な理 由』 を明 らかにす る必要があるように思われ ます。著作物に 再販制 が必要 な理 由 を,新 たに関係業界に立証 させ ることは,い わば立証責任の転換であ り,適 切 な方法 とは考 えられ ませ ん。」
1 6 彦 根論叢 第 3 1 0 号 は,次 の 3つ の変化 である。①流通構造 ・取引慣行の実態の大 きな変化,様 々 な業態の小売業者の出現,価 格 ・サー ビス内容 の多様化,消 費生活 ・購買行動 の変容 によ り,消 費者の多様 なニー ズに対応 した財 ・サー ビスの弾力的供給が 一層求め られている。②流通市場における価格競争の促進が,極 めて重要な政 策課題 となっている。③小売価格 を制 限す る制度は撤廃 ・緩和の措置が講 じら れ,小 売価格 に関す る慣行 も変化 して きた。 これ らの社会 ・経済状況の変化 は, 現時点におけ る評イ面の重要性 を示す もの と評価す ることができる。 問題 は,社 会 ・経済状況の変化が どの程度決定的な要因 と判断されているか である。 とい うのは,原 理 ・原員Jが強調 され,経 済 。社会状況の変化により現 時点におけ る評価が重視 されれば,そ れだけで,著 作物再販制度の見直 しは正 当化 され得 るとの立論 も可能 であ り,単 なる補完的要 因に とどまらないか らで ある。 「中間報告」は, この″点,次 の ように叙述す る (2(1))。 「かつては,特 定商品の小売価格 を制限す ることに伴 う弊害が必ず しも表面 化 しない側面 もみ られたのに対 して,流 通構造 ・取引慣行及び消費者意識の変 化 に伴 い,再 販制度について も,そ れが もた らす価格 ・サー ビスの硬直化 ・非 効率性 といった弊害が明 らかになって きている。 こうした中で,独 占禁止法上 原則 として禁止 されている行為 を例外的に許容す る制度である再販制度だけ を 維持す ることは,次 第に困難になってお り,再 販制度に関す る見直 しが重要 な 課題 となっている。」 ここで着 目しなければならないのは,見 直 しが 「重要 な課題 となっている」 と叙述 され るに とどまっていることである。 このことは,「 中間報告」それ 自 体 が,経 済 ・社会状況の変化はそれだけでは,著 作物再販制度の見直 しを直ち に正 当化す る追加的要 因 とはならず,補 完白匂要 因に とどまることを自認 してい るこ とを意味す る。 結局の ところ,「 中間報告」は,原 理 ・原則が強調 され,経 済 ・社会状況の 変化 によ り現時点におけ る評イ面が重視 され るとして も,そ れだけでは著作物再 26)例 えば,三 輪芳朗 「『社会 的規制』の政治経済学」経済学論集63巻 2号 23,24-25頁 (1 997年)参 照。
著作物再販制度の見直しの評価 (その3) 17 販制度 の見直 しは正 当化 され得 ない とみてい る。 その限 りで, 「 中間報告」 の 判 断 は妥 当で あ る。 (b)政 府規制の緩和 ・独禁法適用除外御l度全体 の見直 し 「 中間報告」が 見直 しの背景 として挙 げ るのは,次 の 5″点であ る。①市場の開放性 を高め,消 費者利益 を確保す る観点か らは,政 府規制 の緩和 ・独禁法適用除外制度の見直 しが課題 となる。②独禁法適用除外制度は例外的な制度であ り,社 会 ・経済情 勢の変化 を踏 まえて,今 日の状況 に よ り適合す るよう見直 しを行 う必要がある。 ③指定再販商品につ いては,約 半数 の指定 品 目の指定が取 り消 され,残 りの取 消 しも決定 している。④独禁法適用除外御1度の見直 しは閣議決定 されてお り, 政府全体 として も最重″点課題 とされている。⑤再販制度は公取委所管の法律 に 基づ くものであ り,見 直 しを積極的に行 う必要がある。 問題 は,こ れ らの要因が,再 販適用除外が認め られ る著作物の範囲の見直 し とどの ような関連にあるかであ り, また 「中間報告」がそれ らをどのように関 連づ けて展開 しているかである。 ① に関 しては,そ もそ も関連性が不明である。 この点に関 しては,す でに, 「そもそも政府規制の緩和で問題なのは,エ ネルギー,金 融など事前の許認可 が必要 な参入規制のある分野です。 また,現 在縮小が求め られているのは,市 場統制 と関係す るカルテルの適用除外 です。」との批判が加 えられている。② に関 しては,「 このため,『 政府規制等 と競争政策に関す る研究会』では,平 成 3年 7月 に,再 販制度 を含め,独 占禁止法適用除外制度全般にわたる検討結 果 を公表 した」 と関連性が間接的に示 されているに過 ぎず (2(2)),立 ち入 っ た叙述はない。③ に関 しては,「 これ と併せ て,再 販適用除外が認め られ る著 作物 につ いて も,そ の取扱いを明確化す るためには,法 的安定性の観″点か ら, 立法措置によることが妥当であるとして,こ の立法措置 を図るに当たって,再 販適用除外が認め られ る著作物の範囲について幅広 い観″点か ら総合的な検討 を 27)伊 従 (出版再販), 掲 (と25)844-45頁 , (伊従 寛発 言)参 照。 前掲 (注25)75頁 。 また,伊 従 (独占禁止政策 と独 占禁止法)。 前 座談会 「再販維持 は文化 の問題」世 界640号119,122頁 (1997年)
18 彦 根論叢 第 310号 行 うこととした」, と関連性が示 されているに過 ぎず (2修》,そ れ以上の展開 が なされているわけではない。④ に関 して も,「 著作物の再販制度については, 平成10年末 までにその範囲の限定 。明確化 を図 るこ ととされている」, と関連 性 が示 されてい るに過 ぎず (2修》,そ れ以上の展開はなされていない。⑤に 関 しては,事 実の叙述に とどま り,積 極的な展開はなされていない。 この ように,「 中間報告」の叙述か らは,再 販適用除外が認め られる著作物 の範囲の見直 しに関 して,な ぜ,政 府規制の緩和 ・独禁法適用除外制度全体 の 見直 しとの関わ りで現時点における評イ面が重視 されなければならないのか,そ の特定的な理 由は浮かび上が ってこない。それは,「 中間報告」がこの要因を 補完的な もの と考 えていることの証左 となる。 結局の ところ,「 中間報告」は,原 理 ・原則が強調 され,政 府規制の緩和 。 独禁法適用除外制度全体 の見直 しとの関わ りで現時点における評価が重視 され るとして も,そ れだけでは著作物再販制度の見直 しは正 当化 され得 ない とみて いる。 その限 りで,「 中間報告」のこの判断 も妥当である。 なお,政 府規制の緩和 ・独禁法適用除外制度全体 の見直 しを強調 し過 ぎるこ とは,個 別的な検討 を尽 くす ことな く特定の見直 しが実現可能であるかのよう な 「風潮」 を醸成す るおそれがある。 その限 りで,問 題が残 る。 ●)歴 史的経緯の軽視 現 時点におけ る評価 の重視 は単 なる補完的要因に 過 ぎない として も,そ れに歴史的経緯の非重要性が追加 され ると,制 度の見直 しが原理 ・原則に訴 えるだけで正 当化 され る事態 も考 えられ る。 「中間報告」 が描 いたのは, このシナ リオであったように思われ る。 しか し,「 中間報告」 は,歴 史的経緯の非重要性 を論証 し得 てはいない。 この点については,す でに 28)な お,指 定再販制度 と著作物再販制度 とでは趣 旨 ・目的が異なってお り,そ もそも同一 レベ ル で論 じるこ とはで きない。拙稿 ・前掲 (注2)37頁 参照。 また,伊 従 (出版再販) 。前掲 (注25)77頁 参照。 29)座 談会 ・前掲 (注27)で は,司 会者は次の よ うな発言 をしてい る(119頁)。 「90年代の 半ばか ら,規 制緩和 の考 え方,す べ て を市場の選択 に任せ るべ きだ とい う風潮の高 ま りと ともに,残 った著作物に関 して も独 占禁止法の適用除外 は認め るべ きではない とい う議論 が出て きます。」
著作物再販制度の見直しの評価 (その 3) 19 前 稿 で批 判 的検 討 を加 え た。 本 稿 で は結 論 の み を摘 記 す る。 結 論 をつ な ぎ合 わ せ ると,む しろ歴史的経緯 を意図的に歪曲 ・軽視 しようとす る 「中間報告」の スタンスが浮かび上が る。 (a)再 販制度 自体 に対す る当初 の考 え方 1953年 の時点で,独禁法の解釈 ・ 運用上,再 販行為一般が原則違法であることは確立 していたし,再 販行為が競 争阻害性 を有す るこ とにつ いての認識は十分 あった。 公取委は再販制度の弊害について認識 してお り,再 販制度に対 して寛容 な態 度 をとったわけではなか った。 また,公 取委 は,か な り幅広 い範囲の商品を再 販指定の検討対象 とす る方針 を先見的に決定 した上 で,再 販指定に臨んだわけ ではなか った。 さらには,多 数の指定商品が存在す ることを前提 として再販制 度 を考 えてはお らず,そ れ との均衡上,書 籍等の再販行為 を許容す ることが政 策的に も問題が少 ない と考 えたわけで もなか った。 (b)再 販制度 自体 に対す る考 え方の変化 「 中間報告」は,最 高裁判決が 下 された1975年に至 って,再 販行為が原貝J違法であることが明確化 したかの よ うな印象 を与 える。 しか し,再 販行為 は,1964年 以降,独 禁法違反事件 として しば しば取 り上 げ られ,排 除措置が命 じられ るようになった。当該の最高裁判 決 は,そ の一連の流れの最終到達″くに過 ぎない。再販行為 は,明 らかに,1964 年 の時点 で も,原 則違法 であった。 (C)著 作物再販制度の位置付けの変化 1953年 当時,再 販行為 を広 く許容 す るこ とが前提 とされていたわけではなか った。 また,再 販行為が原則違法 と されているのは,現 在 (1975年以降)に おいてだけではない。1953年当時か ら 現在 まで一貫 して,原 則違法 とされている。著作物再販制度の位置付けは,19 53年当時 と現在 とで当然に異なるわけではない。 “)簡 単 なまとめ 「 中間報告」は,① 原理 ・原則の強調 ・貫徹,② 現時 点におけ る評価の重視,③ 歴史的経緯の軽視, を著作物再販制度に関す る見直 しの基本的スタンス としている。② と③ は表裏 の関係 にあるとともに,相 まっ 30)拙 稿 ・前掲 (注 2)29-35,36-37頁 参照。
20 彦 根論叢 第 310号 て,① を補完す る関係にある。 ①か ら③ を基本的スタンス とす るに当た り,「 中間報告」が描 いたシナ リオ は,現 時点におけ る評価の重要性,歴 史的経緯の非重要性 を主張す ることがで きれば,原 理 ・原則に訴 えるだけで著作物再販制度の見直 しを正 当化す ること がで きるとい うものであった。 その隠された意図は,厄 介 な著作物再販制度の 機能の歴史的評イ面を回避す ることであったように思われ る。 しか し,「 中間報告」は,歴 史的経緯の非重要性 を立証 し得 てはいない。そ れ どころか,歴 史的経緯 を意図的に歪曲 ・軽視 しさえした。 このことは,「 中 間報告」公表後に混乱 を引 き起 こす一 因ともなった。 新 たな制度の導入 と既存の制度の見直 しとではスタンスに 自ずか ら違 いがあ るのであるか ら,著 作物再販制度の見直 しの正 当化のためには,歴 史的機能 を 正面か ら評イ面す ることが不可欠であった。 また,見 直 し後の将来 を予測す るこ とも不可避 である。粘 り強い地道 な尽力が要請 され る。 「か らめ手」は時には 有効 であ るが,著 作物再販制度の見直 しの局面では,か えって問題解決の糸 回 を複雑化 した。 3 1 ) 光澤滋朗 「わが国におけ る再販制度の成立」同志社商学4 7 巻2 号 5 1 , 5 2 - 5 3 頁 ( 1 9 9 5 年) 参照。