• 検索結果がありません。

論文.indd

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "論文.indd"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

岡部 文武1)  高尾 千穂1)  藤田 善也2)  土屋 純2)

ローラースピードスケート競技 300m タイムトライアル種目に

おける世界選手権大会出場選手のレース分析

1) 早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学研究科 〒359-1192  埼玉県所沢市三ヶ島2-579-15 2) 早稲田大学スポーツ科学学術院 〒359-1192  埼玉県所沢市三ヶ島2-579-15 連絡先 岡部文武

1. Graduate school of sport sciences, Waseda University

2-579-15 Mikajima, Tokorozawa, Saitama 359-1192

2. Waseda University

2-579-15 Mikajima, Tokorozawa, Saitama 359-1192 Corresponding author okb_ilicesk8@yahoo.co.jp

Abstract: The purpose of this study was to investigate the racing characteristics of elite roller speed skaters in a 300-m time trial race (300m TT). The subjects were 21 skaters who participated in the World Roller Speed Skating Championships in 2016. These included 9 skaters who qualified for the finals and 12 who ranked between the 25th and 45th places. Roller speed skaters glide while keeping their feet grounded for a short time in a curve: a movement known as “carrying”. Nine finalists who performed carrying in C2 and C3 were classified as the top group (age 24.2 ± 2.4 years; height 1.8 ± 0.1 m; weight 73.2 ± 7.1 kg). Nine of 12 skaters who performed carrying in C2 and C3 were classified as the subgroup (age 24.0 ± 3.4 years; height 1.8 ± 0.1 m; weight 74.6 ± 7.1 kg), and 3 skaters were classified as the non-carrying group (age 25.0 ± 5.1 years; height 1.8 ± 0.0 m; weight 73.7 ± 2.4 kg). In this study, 300mTT was classified as 4 straight sections – Start, S1, S2, and Finish – and 3 curve sections – C1, C2, and C3. The investigated parameters included the 300mTT goal time (T300), the skating speed in each section, and the time during which carrying was performed (Tcar). In the subgroup and non-carrying group, the skating speeds in S1 were similar, but the skating speed of the non-carrying group in C2 was lower than that of the subgroup. The top group glided at a higher skating speed in every section expect C3. There was no significant difference in Tcar, and there was no significant correlation between T300 and Tcar in C2 and C3. There was a significant positive correlation between T300 and Tcar in C2. In the top group, there was a significant negative correlation between T300 and skating speed at C2. These results suggest that carrying in C2 is important for gliding at a higher skating speed in 300mTT, and that Tcar in C2 and C3 for elite roller skaters does not influence T300. Elite roller skaters had superior acceleration capacity in the Start, and obtained a higher skating speed until S1, after which they maintained a higher skating speed in C2. Furthermore, elite roller skaters were able to achieve a higher skating speed in spite of fatigue in their support legs.

Key words : skating time, skating speed, straight section, curve section, carrying キーワード:滑走時間,滑走速度,ストレート区間,カーブ区間,キャリング

Fumitake Okabe1, Chiho Takao1, Zenya Fujita2 and Jun Tsuchiya2: Characteristics of roller speed skaters in a 300-m ti300-me trial race in the world roller speed skating cha300-mpionships. Japan J. Phys. Educ. Hlth. Sport Sci.

Ⅰ 緒 言 ローラースピードスケート競技 300 m タイムト ライアル種目(以下「300 mTT」と略す)は,1 周 200 m のバンクトラックにおいて,300 m 滑走 に要した時間(以下「滑走時間」と略す)を競う 競技である.ローラースピードスケート競技では スピードスケート競技と同様に,低い姿勢を保ち ながら,ブレードと垂直な方向へ支持脚を伸展さ せる(以下「プッシュオフ動作」と略す)ことで 推進力を獲得する(van Ingen Schenau and Bakker, 1980).ローラースピードスケート競技における 滑走動作には,ストレート滑走動作とカーブ滑走 研究資料

(2)

動作がある.ストレート滑走動作は,身体重心を 左右に移動させてプッシュオフ動作を実施する. 一方,カーブ滑走動作には 2 種類あり,身体を内 傾させながらプッシュオフ動作を実施する方法 (動作・技術)と,キャリングと呼ばれる両足が 接地した状態をしばらく維持しながら滑走を行う 方法(動作・技術)がある(Marcelloni, 2005). 後者のキャリングは, ローラースピードスケート 競技特有の滑走動作である.しかし,競技特有の 滑走動作であるものの,これらの滑走動作が実施 される滑走区間の滑走速度と,滑走時間の関係を 明らかにした研究は見当たらない. ローラースピードスケート競技に対してスピー ドスケート競技では,レース分析により滑走時 間の短縮に資する要因が明らかにされてきた. 500m 種目にて優れた競技成績を獲得するために は,200―300 m のストレート区間にて高い滑走 速度を増大させる必要があることが報告されてい る(Fokichev et al., 1990; 湯田ほか,2006).また, 1000 m 種目と 5000 m 種目にて滑走時間の短い選 手は,レース前半において高い滑走速度を獲得 し,レース後半においても高い滑走速度を維持し ていることが報告されている(湯田ほか,2001, 2002;結城ほか,1999).これらの研究結果は, 滑走距離によって,優れた競技成績を獲得するた めに重要となる滑走区間が異なっていることを示 すものである.そのため,300 mTT において優れ た競技成績を獲得するためには,滑走時間の短縮 に資する滑走区間を明確にすることが有効である といえよう. 滑走時間の短縮に資する滑走区間を明らかにす るためには,世界選手権大会において優れた競技 成績を獲得した世界一流選手のレースを分析する 必要があると考えられる.そこで,本研究の目 的は,ローラースピードスケート競技の 300 mTT における世界一流選手のレースの実態を検討する こととした. Ⅱ 方 法 1. 測定区間の定義 Figure.1 に,本研究における測定区間の定義を 示した.本研究では,300 mTT を 4 つのストレー ト区間(Start, S1, S2, Finish)と 3 つのカーブ区間 (C1,C2,C3)に分類した.各測定区間の区間距 離 は,Start が 8.00 m,S 1 お よ び S 2 が 57.84m, Finishが49.84 m,C 1,C 2,C 3が42.16 mであった. 2. 分析対象者 2016 年 9 月 10 日 か ら 18 日 ま で, 中 国 の 南 京 に て 開 催 さ れ た World Roller Speed Skating Championships の競技種目のうち,シニア男子 300 mTT を 分 析 対 象 種 目 と し た. な お,World Roller Speed Skating Championships で使用された トラックは,1 周 200 m のバンクトラックであ った.300 mTT に出場した選手 52 名のうち,21

(3)

名の選手から研究参加の同意を得た.研究参加 同意者は,決勝進出者 12 名中 9 名と予選敗退者 のうち 20―45 位の選手 12 名であった.C 1 にて キャリングを実施した選手はいなかったが,決 勝進出者全員と予選敗退者のうち 9 名は,C 2 と C 3 にてキャリングを実施していた.そこで,決 勝進出者 9 名を Top group(年齢:24.2±2.4 歳, 身長:1.8 ± 0.1 m,体重:73.2 ± 5.1 kg),C 2 と C 3 にてキャリングを実施した予選敗退者 9 名 を Subgroup( 年 齢:24.0 ± 3.4 歳, 身 長:1.8± 0.1 m,体重:74.6 ± 7.1 kg),C2 ではキャリング を実施していないが,C 3 にてキャリングを実施 した選手 3 名を Non-carrying(年齢:25.0±5.1 歳, 身長:1.8 ± 0.0 m,体重:73.7 ± 2.4 kg)と定義し た.なお,本研究では,C 2 におけるキャリング の有無により群を定義した.分析対象者の身体的 特徴は,研究同意を得た際に選手に自己申告させ た.また,300 mTT の公式記録は,決勝進出者は 決勝の記録,予選敗退者は予選の記録が採用さ れる.そのため,本研究では,Top group が決勝, Subgroup および Non-carrying が予選の映像データ を用いた. なお,本研究を実施するにあたり,早稲田大学 学術研究倫理委員会の倫理承認を得た(承認番号, 2014-086). 3. 映像データの収集 本研究では,フィニッシュライン付近のスタン ドに 1 台のビデオカメラ(EX-100Pro, CASIO 社製) を三脚(VCT-870RM, SONY 社製)に取り付けた うえで設置した(Figure.1).ビデオカメラ設置地 点の高度は,トラックの平坦面から約 11.3 m 地 点であった.また,本研究は屋外競技場にて実施 されたことに加え,日照時間の変化しやすい時間 帯に競技が実施されたため,露出時間を適宜変更 する必要があった.本研究では,毎秒 30 フレーム, 露出時間 1/30―1/2000 秒で選手を追従撮影した. 設定した露出時間は,各測定区間を通過するウイ ールが目視にて確認できる露出時間であった. 4. 分析項目および算出方法 本研究では,スタート時に左右いずれかのウイ ール先端(インラインスケートに装着された先頭 のウイール)がスタートラインを通過した時点を 測定開始時点,同様に,ウイール先端がフィニッ シュラインを通過した時点を測定終了時点と定 義した.また,分析項目は,300 mTT の滑走時間 (以下「T300」と略す),各測定区間における滑走 時間と滑走速度,キャリングの所要時間(以下 「Tcar」と略す)とした.本研究における時間換算 は,フレーム数に分解能 0.033 秒を乗じることに よって算出した.T300には測定開始時点から測定 終了時点までに要したフレーム数,Tcarにはキャ リングに要したフレーム数を用いて算出した.各 測定区間における滑走速度は,各測定区間通過に 要したフレーム数を用いて各測定区間の滑走時 間(Table.1)を算出した後,各測定区間において 区間距離を滑走時間で除することによって算出し た. 5. 統計処理 すべてのデータは,平均値と標準偏差(mean ± S.D.)で表した.本研究で得られたデータの統 計処理は,統計解析ソフトウェア(SPSS Statistics

Table 1 T300, time of each sections, and Tcar

T300 Start C1 S1 C2 S2 C3 Finish Tcar in C2 Tcar in C3

Top group 24.20±0.20 *

1.72±0.07 4.21±0.13 4.14±0.10 3.28±0.05 4.21±0.05 3.46±0.13 3.16±0.11 ( 32.6±7.7% )1.07±0.25 ( 39.9±5.7% )1.38±0.19 Subgroup 25.72±0.20 1.84±0.05 4.50±0.81 4.49±0.16 3.48±0.05 4.44±0.04 3.56±0.08 3.39±0.08 ( 25.2±10.9% )0.88±0.38 ( 39.2±6.3% )1.40±0.23 Non-carrying 26.16±0.60 1.80±0.03 4.68±0.32 4.43±0.04 3.56±0.12 4.57±0.09 3.75±0.08 3.31±0.04 ( 25.2±1.9 %)0.94±0.06 † The values in this table show the T300, time of each sections, and Tcar in seconds. The percentage of Tcar in C2 and C3 are shown in parentheses.

(4)

ver.25,IBM 社製,日本)を用いて行った.Top group と Subgroup の T300,および Tcarの比較には, 対応のないスチューデントの t 検定を用いた.各 測定区間における滑走速度の比較には,群と測定 区間を主要因とする二元配置分散分析を用いた. 二元配置分散分析にて交互作用がみられた場合に は,単純主効果の検定を用いた.各群において, T300に影響を及ぼす要因を検討するために,T300 と各測定区間の滑走速度および Tcarの単回帰分析 には,Pearson の積率相関係数を用いた.すべて の統計処理について,危険率 5% 未満(p < 0.05) を有意水準とした . Ⅲ 結 果 1. C 2 における Non-carrying のレース様相に 関する結果 本研究では,Top group は C 2 と C 3 にてキャ リングを実施していたのに対し,C 2 と C 3 に てキャリングを実施した予選敗退者は 9 名であ った.Figure.2 に,すべての群の各測定区間に おける滑走速度を示した.S 1 から C 2 における Subgroup と Non-carrying の 滑 走 速 度 に 関 し て, S 1 では両群の滑走速度は類似したが,C 2 では Non-carrying が Subgroup と比べて低い値を示し た. 2. C 2 と C 3 にてキャリングを実施した選手の レース様相に関する結果

T300は,Top group が Subgroup と比べて有意に 小 さ い 値 を 示 し た(Table.1).Figure.2 に,Top group と Subgroup の各測定区間における滑走速 度を示した.二元配置分散分析の結果,群と測 定区間に交互作用がみられた(p < 0.05).滑走速 度は両群とも,Start から S1 まで直前の測定区間 と比べて高い値を示した後,C 2 および C 3 にて 直前の測定区間と比べて有意に低く,S 2 および Finish にて直前の測定区間と比べて有意に高い値 を示すように変化し(p < 0.05),Finish にて最大 値を示した(Top group, 15.77±0.15 m/s, Subgroup, 14.73 ± 0.15 m/s).また,Start から S 2,および

Finish に お い て,Top group が Subgroup と 比 べ て有意に大きい値を示した(p < 0.05).C 2 およ び C 3 にて,Tcarは Top group と Subgroup の間に 有意な差はみられなかった(Table.1).Figure.3 に,単回帰分析の結果を示した.Top group では T300と C 2 の間に有意な負の相関関係がみられ, Subgroup では T300と Start,C 1,S 2,C 3 の間に 有意な負の相関関係,T300と C 2 の Tcarの間に有 意な正の相関関係がみられた . Ⅳ 考 察 1. C 2 におけるキャリングの有無による滑走速 度への影響 C 2 において,Top group に属する選手はすべて キャリングを実施していたのに対し,予選敗退者 はキャリングを実施する選手と,実施しない選手 が混在していた.このことは,C 2 において必ず キャリングを実施することが,300 mTT における Top group の特徴であることを示唆するものであ る. 予選敗退者である Subgroup と Non-carrying の 滑走速度の様態に着目すると,両群の Start から S 1 までの滑走速度は類似するものの,C 2 にお いて Subgroup が Non-carrying と比べて高い速度 で滑走する傾向がみられた.このことは,S 1 に おける滑走速度が類似する場合,C 2 にてキャリ

Figure 2 Speed in each section

† The significant differences between the top and subgroup in each section are shown by using ** and ***. The significant differences between two sections in top and subgroup are shown by using ###.

(5)

ングを実施することで高い滑走速度を維持できる 可能性があることを示唆するものである.キャリ ング実施中はプッシュオフ動作により推進力が獲 得できないことで遠心力が小さくなり,滑走距離 を短縮できると推察される.また,キャリングを 実施しない場合は,プッシュオフ動作により推進 力を獲得しながら滑走することで遠心力が大きく なり,カーブ外側に移動するような滑走になると 推察される.しかし,カーブ外側を滑走した場合, カーブ内側を滑走した場合と比べて滑走距離は増 大すると考えられる.カーブ区間における滑走距 離の増大は,滑走速度の低下の要因であることが 報告されている(湯田ほか,2006).そのため, カーブ区間では滑走距離を短縮することが,高い 滑走速度を維持するために必要と考えられる.こ れらのことから,キャリングの実施により滑走距 離を短縮できることから,C 2 において Subgroup は高い滑走速度を維持できた可能性があることが 示唆された.しかし,本研究では滑走軌跡や滑走 距離に関する結果を得ることができなかった.今 後は,キャリングの有無による滑走速度の変化様 態を,滑走軌跡や滑走距離を考慮し検討する必要 があろう. 2. 滑走速度 本研究では,滑走速度は両群ともに,Start か ら S 1 まで有意に増大した後,カーブ区間におい て有意に減少,ストレート区間において有意に増 大した.また,滑走速度は両群とも Finish にお いて最大値を示すように変化した(Figure.2).こ のことは,競技成績に関わらず,滑走速度の変 化様態が類似し,C 1 通過後はストレート区間に て滑走速度を増大させていることを示唆するも のである.また,300 mTT は 30 秒未満の運動で あり,このような運動では All-out 型のペース配 分が採用されることが報告されている(Abiss and Laursen, 2008).All-out 型の運動では,レース前 半において最高速度に達した後,速度が漸減す るように変化する傾向にあると報告されている (Abiss and Laursen, 2008).しかし,本研究では,

Finish において最大滑走速度に達するように変化 した(Figure.2).Finish において示された滑走速 度は,選手が獲得できる最大滑走速度と推察され る.バンクトラックにて競技会が実施される競技 に自転車競技トラック種目がある.自転車競技ト ラック種目では,走行速度が 75 km/h でもタイヤ が横滑りしないようにカーブ区間にバンクが設定 されている.これに対し,ローラースピードスケ ート競技では,カーブ区間における横滑りを防止 するための十分な傾斜をもつバンクが設定されて いないため,カーブ区間では多くの選手が,横滑 りが原因で転倒している.また,カーブ区間では, 選手をカーブ外側に押し出すように遠心力が作用 する.カーブ外側に移動することで滑走距離は長 くなるため,滑走速度は低下すると考えられる(湯 田ほか,2006).そのため,カーブ区間を最短距 離で滑走するためには,滑走速度を調整しながら 滑走する必要があると推察される.これらのこと から,Finish において最大滑走速度に達したのは, カーブ区間において遠心力によるカーブ外側への 移動を抑えることに加え,横滑りによる転倒を防 ぐために滑走速度を調整していたためであること が示唆された. 本研究では C 3 を除く測定区間において,Top group が高い速度で滑走していることが示され た.このことは,Top group はスタート直後から 高い滑走速度を獲得していることを示唆するもの である.そのため,Top group は静止状態からの 加速能力に優れていると考えられる.また,C 3 において,Top group と Subgroup の滑走速度に有 意差はみられなかったが,続く Finish において, Top group が Subgroup と比べて高い速度で滑走し ていることが示された.このことは,Top group は Finish におけるストレート滑走動作にて,高い 滑走速度を獲得する能力に優れていることを示唆 するものである .

Top group で は C 2,Subgroup で は Start,C 1, S 2,C 3 にて高い滑走速度を獲得した選手の T300 が短いことが示された(Figure.3).このことは, 競技成績の優劣により 300 mTT の滑走時間の短 縮に資する測定区間が異なることに加え,Top group ではストレート区間における滑走速度は

(6)

300 mTT の滑走時間に影響しないことを示唆する ものである.ここで,300 mTT の滑走速度の変化 に着目すると,滑走速度は S 1 以降,カーブ区間 にて減少,ストレート区間にて増大することが示 された(Figure.2).滑走時間を競う種目では,高 い滑走速度を維持する必要があることを踏まえる と,カーブ区間における滑走速度の低下を最小 限に抑える必要があると推察される.そのため, Top group はストレート区間にて獲得した高い滑 走速度を,カーブ区間にて維持するように滑走し ているため,ストレート区間における滑走速度が 300 mTT の滑走時間に影響しなかったと考えられ る. また,滑走速度は Start から S 1 まで増大した 後,C 2 において減少したことから,C 2 におい て高い速度で滑走するためには,S 1 までに高い 速度を獲得する必要があると考えられる.さら に,S 1 にて高い滑走速度を獲得した Top group は, Start から高い滑走速度を獲得していることが示 された(Figure.2).そのため,S 1 にて高い滑走 速度を獲得するためには,Start にて高い滑走速 度を獲得する必要があると考えられる.このこと から,世界一流選手は Start にて高い滑走速度を 獲得したことで,S 1 までに高い滑走速度を獲得 したことが示唆された .

以上のことから,Top group は Start,S 1,C 2, Finish に お い て 高 い 速 度 で 滑 走 す る こ と で, 300 mTT の滑走時間を短縮していたと考えられ る.

3. 所要時間とキャリングとの関係

本研究では,C 2 および C 3 における Tcarは, Top group と Subgroup の間に有意な群間差はみら れなかった(Table.1).このことは,キャリング が実施される時間が,競技成績に関わらず類似 することを示唆するものである.キャリングで は,両足が接地した状態をしばらく維持して滑走 する.そのため,キャリング中は推進力が獲得さ れないことが推察される.推進力が獲得される までは,空気抵抗や地面摩擦抵抗,ウイールの 転がり抵抗によって,滑走速度は減少すると考 えられ,滑走速度の減少によって T300は増大す ると推察される.本研究において,Top group で は C 2 および C 3 の Tcarが T300に影響しないが,

Figure 3 Results of single regression analysis

(7)

Subgroup では C 2 の Tcarが T300に影響することが 示された(Figure.3).このことは,Top group は C 2 および C 3 において,キャリングによって滑 走時間が増大しないように滑走していることを示 唆するものである.C 2 では Top group が高い速 度で滑走していたことに加え(Figure.2),C 2 の 滑走速度は Top group では T300の短縮に資するが, Sub group では T300に影響しないことが示された (Figure.3).これらのことは,C 2 では Top group が高い滑走速度でもキャリングを実施する能力に 加え,C 2 を通じて高い滑走速度を維持する能力 を有していることを示唆するものである.これに 対して,C 3 では両群の滑走速度および Tcarが類 似するにも関わらず,Top group の Tcarは T300に 影響しないことが示された.本研究では,S 1 以 降の測定区間において,滑走速度はカーブ区間で 減少,ストレート区間で増大を繰り返すように変 化した(Figure.2).脚を止めた状態から滑走速度 を増大させる場合,下肢筋群への負担は大きくな ると推察される.また,Tcarによる滑走速度の減 少の影響を抑えるためには,カーブ区間における キャリング直後からその後のストレート区間通 過までに高い滑走速度を獲得する必要があると 考えられる.C 3 から Finish における滑走速度に 着目すると,C 3 では両群の滑走速度は類似する が,Finish では Top group が高い滑走速度を獲得 していることが示された(Figure.2).このことは, Top group は,ストレート滑走動作により高い滑 走速度を獲得する能力に優れていることを示唆す るものである. 以上のことから,Top group は疲労が蓄積され た状態でも,C 3 におけるキャリング直後のカー ブ滑走動作,Finish におけるストレート滑走動作 において高い滑走速度を獲得する能力に優れてい たため,C 3 の Tcarが競技成績に影響しなかった と考えられる.今後は,各測定区間における滑走 軌跡や滑走速度変化や,競技成績の優れた選手の キャリングのバイオメカニクス的特徴を明らかに する必要があろう. 4. 研究の限界と今後の課題 映像データの収集にあたり,露出時間の平均値 ±標準偏差を提示できなかったことが本研究の 限界である.今後,日照条件によって露出時間を 変更する必要があった場合には,露出時間を記録 し,論文内で露出時間の平均値±標準偏差を示 せるように研究を実施する必要がある. Ⅴ 結 論 本研究の目的は,ローラースピードスケート競 技 300 m タイムトライアル種目における世界一流 選手のレース特徴を明らかにすることであった. 本研究では,世界一流選手のレース特徴として以 下の結果を得た. 1) 滑 走 速 度 は Start か ら S 1 ま で 増 大 し た 後, Finish において最大滑走速度に達するまで減 少,増大を繰り返すように変化した. 2) C 3 を除く測定区間において,Top group は高い 滑走速度で滑走していた.

3) Top group と Subgroup の Tcarは類似していたが, Top group では Tcarは T300に影響しないのに対 し,Subgroup では C2 の Tcarが長い選手の T300 が長かった.

4) Top group と Subgroup では,T300の短縮に資す る測定区間が異なっており,Top group は,C 2 を高い速度で滑走した選手の T300が短かった. 以上の結果から,世界一流選手は静止状態から の加速能力に優れており,スタート直後から高い 滑走速度を獲得していることが示唆された.また, 世界一流選手は Start から S 1 までに高い滑走速 度を獲得することで,C 2 において高い滑走速度 を維持していることが示唆された.Tcarは,競技 成績に関わらず類似するが,世界一流選手は T300 に影響しないようにキャリングを実施しているこ とが示された. 文 献

Abbiss, C. R. and Laursen, P. B. (2008) Describing and understanding pacing strategies during athletic competition. Sports medicine, 38: 239-252.

(8)

Fokichev, S. R., Inkin, V. A., and Plakhtienko, V. A. (1990) A study of speed potentials of speed skaters (sprinter) for the purpose of increasing their competitive reliability. Soviet Sports Review, 25: 176-178.

Marcelloni, P. (2005) La Tecnica Del Pattinagio in Linea. Editrice Stampa Nova, pp. 277-284 (in Italian).

van Ingen Schenau, G. J. and Bakker, K. (1980) A biomechanical model of speed skating. Journal of Human Movement Studies, 6: 1-18. 湯田淳・青柳徹・高松潤二(2006)スピードスケート 女子 500m 競技における世界一流選手のレースパター ン.トレーニング科学,18:387-395. 湯田淳・結城匡啓・藤井範久・阿江通良(2002)スピー ドスケート 5000m 競技における世界一流選手のレー スペース分析.バイオメカニクス研究,6:116-124. 湯田淳・結城匡啓・伊藤静夫・高松薫・阿江通良(2001) スピードスケート競技 1000m 競技における滑走スピ ードおよびサイクル頻度の変化と血中乳酸濃度からみ た合理的ペース.トレーニング科学,13:93-102. 結城匡啓・平野敬靖・森丘保典・阿江通良(1999)ス ピードスケート 1000m 競技における世界一流選手の レースパターンの分析.バイオメカニクス研究,3: 270-276. 2019 年 5 月 7 日受付 2019 年 9 月 6 日受理 Advance Publication by J-STAGE

Published online 2019/10/28

Figure 1  Section definitions
Table 1  T 300 , time of each sections, and T car
Figure 2  Speed in each section
Figure 3  Results of single regression analysis

参照

関連したドキュメント

算処理の効率化のliM点において従来よりも優れたモデリング手法について提案した.lMil9f

特に、耐熱性に優れた二次可塑剤です(DOSより良好)。ゴム軟化剤と

てい おん しょう う こう おん た う たい へい よう がん しき き こう. ほ にゅうるい は ちゅうるい りょうせい るい こんちゅうるい

当初申請時において計画されている(又は基準年度より後の年度において既に実施さ

行ない難いことを当然予想している制度であり︑

3 軸の大型車における解析結果を図 -1 に示す. IRI

糸速度が急激に変化するフィリング巻にお いて,制御張力がどのような影響を受けるかを

わが国において1999年に制定されたいわゆる児童ポルノ法 1) は、対償を供 与する等して行う児童