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アダム・スミスの「天文学史」と「道徳哲学」について(1)

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(1)

アダム・スミスの「天文学史」と「道徳哲学」につ

いて(1)

著者

遠藤 和朗

雑誌名

東北学院大学論集. 経済学

90

ページ

63-82

発行年

1982-12-20

URL

http://id.nii.ac.jp/1204/00024433/

(2)

アダム・スミスの「天文学史」と

「道徳哲学」について(I)

遠藤和朗

目次 はじめに 古代ギリシャ哲学とスミス 「天文学史」 (1) 学問への動機 (2) 学問体系の発展…. 。 ‘以上(1) 「天文学史」と「道徳哲学」 (1) 道徳哲学の課題 (2) 社会的結合原理 旧) 社会秩序の形成 (4) 自然的自由の体系 結びにかえて 1 1 句 ︺ 巾 ﹄ 1 5 1. はじめに 「道徳情操論』 (TheTheoryofMoralSentiments, 1759) と『国富論』 (AnlnquiryintothenatureandcausesoftheWealthofNatiOns, 1776) のみを公刊し, その他の多くの草稿を彼の死ぬ前に焼却したアダム・スミ スには「天文学史!〉」 と 「古代物理学史警>」, 「古代論理学及び形而上学の 歴史3)」, 「模倣芸術においておこなわれる模倣の本質について4)」. 「音楽・ 舞踏および詩の間の類似性について‘)」, 「イギリスおよびイタリアの韻文

l) ThePrincipleswcichLEadandDircct PhilOsophical Enquiries¥ Illust-ratedby theHistoryofAstrcnomy.

2) ThePrincipleswhiChLead andDirect PhilosophiCal EnqUiri"; IIIus l"tedby lheHistDTyDI theAncientphySics,

3) ThePrinciPleSWhicl, LeadandDirect PhilosDphicaI EnquiriEs; ll lus(-rated l)y theHistoryo{ theA[,cientLogicsandMetaphysics.

(1) Of theNatureDf that Imitationwhichtakeplace inWhatarecal led thf

ImitaliveAr齢.

5) Of theAHinity l)etw"nMusic,DancingandPoetry.

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間の類似性について‘〕」, 「外部諸感覚について?>」の7編の諸論文が残さ れた。残されたそれらは周知の通り,彼の友人ブラック (JosephBlack) とハットン(JamesHutton)によって『哲学論文集8)」 (EssaysonPhi-losophicalSubjects, 1795) として公にされた。これらの諸論文は断片的 なものであるが, 「天文学史」は注目に値する。シュンペーターがそれを 「哲学論文集』の中では「珠玉pearl」たる存在であることを指摘,)してい るだけではなく, なによりもまず「天文学史」については『国富論』刊行 前の1773年, スミスが自らの死を意識したとき,遺言執行人に定めたヒュ ーム(DavidHume)宛の番簡の中でその公刊を彼に託した事実の重要性 がある。 「私は,私の学問上の論文のすべてをあなたにおまかせしましたので, つぎのことをお知らせしなければなりません。私がいま持ってゆくもの (『国富論」の原稿一引用者)以外は公刊に値するものはありません。ただ デカルトの時代までひきつづいて流行してきた天文学の諸体系の歴史につ いての大著の断片は別です。 これが青年時代に企てられた著作の断片とし て公刊されるべきかどうかについては, いっさいあなたの判断にお任せ します。…・ ・ ・それ以外の原稿は・ ・ ・ ・ ・ ・なにもあらためないで破棄して下さ い'0)」 このように「天文学史」については, スミス自身が公刊を認めていると ころから,彼の学問体系のなかでかなりの重要な位瞳を持つものと思われ る。 6) Of theAffinitybetweenEnglishand ltalianVEres. 7) OftheExternalSenses.

8) A. Smith, Essays on Philosophical Subjects, ClarendonPrEss, 1980. (以下これからの引用はE.P.Sと略記する。)なおこれらの諸輪文の執筆時期 については,榎本弘・石井僧之「アダム・スミスの思想の方法論的基礎」腎山 経済論集第21巻第2号参照。 9) J.A. Schumpeter,HislorycIEconomiCAnalySiS,NEwYOrk, 1954, p. 182. 10) TheCorrespondenceofAdamSmith, editedbyMcssnerandRoss,Cla-rendCnPreSS, 1977. p. 168 ウ︺ −(j4−

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アダム・スミスの「天文学史」と「遺徳哲学」について それでは「道徳哲学者」スミスが, なぜ「天文学史」を公刊に値するも のと考えたのであろうか。彼がこの論文で意図した目的は何であろうか。 あるいは『道徳情操論』や『国富論』とはどのようなかかわりをもつので あろうか。 本稿の目的は, このような問題意識を持ちながら, まず「天文学史」に ついて検討し,次いでそれと彼本来の主題である「道徳哲学」 との関連を 考察しようとするものである。 2. 古代ギリシャ哲学とスミス 「天文学史」がスミスの学問体系の中でどのような位世づけにあったか を知る手がかりとして,我々はスミスが古代ギリシャ哲学の区分について 称賛している箇所を「国富論』に見いだすこと力xできる。 スミスによると,古代ギリシヤの哲学は(1)自然哲学NaturalPhilosophy (物理学Physics) 12)道徳哲学MoralPhilosophy (倫理学Ethics) (3)論理

学Loglcの三つの部門に区分され, それらは事物の本性と完全に一致す る'1)体系であった。 自然哲学は天体の運動,彗星,雷鳴といった自然の偉大な諸現象や動植 物の生成と成長に対するwonderの念から, それらの諸原因を研究しよう という部門である。 「はじめは,迷信が, これらのすべての驚異的な現象 を神々の直接のはたらきに帰し,そうすることによってこの好奇心を満足 させようと試みた。その後は,哲学が,神々のはたらきというよりももっ とありふれた諸原因,つまり人類がいっそうよく知っているような諸原因 から, それらを説明しようと努力した。そして, こういう偉大な現象は, 人間の好奇心の最初の対象なのであるから, それらを説明すると称する科 学は, 当然,最初に研究された哲学部門であったにちがいない。 したがっ

l1) A,Smith, An lnquiry into theNatureandCausEsof theWealthof Naticns,ClarendcnPress, 1976, vol、2, p.766. (以下, これからの引用はW,

N、と略記する)

大内兵衛・松川七郎訳『諸国民の富」 (岩波文琿版)(41136頁。

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て,歴史のうえになんらかの記録をとどめている最初の哲学者は, 自然哲 学者であったように思われるのである'望)」と。そしてスミスによると自然 哲学は「実験や観察の本来の主題であり,周到な注意をもってすればきわ めて数多くの有用な発見をなしうる'3)」学問であった。 道徳哲学は,今日でいうと社会科学,社会哲学,倫理学をも含む広義の 概念である。スミスは特に, この道徳哲学の成立について次のように述べ ている。 「少数の共通原理によって結合されたさまざまの観察の体系的排 列の美しさば, 自然哲学の体系をたてようとしていた昔の粗雑な諸論文の なかにはじめてあらわれた。 これとほぼ同じ種類のことは, その後道徳においても企てられた。すな わち, 日常生活の格率は,人々がもろもろの自然現象を排列したり結合し たりしようと企てたのと同じしかたで,少数の共通原理にもとづき,ある 方法的な秩序にしたがって排列され,結合された。これらの結合原理を探 究し説明すると称する科学が,道徳哲学とよばれるのにふさわい、もので ある'イ)。」 ここで, スミスは古代ギリシャ人が道徳哲学の研究に対して自然哲学の 方法を適用したことを指摘している。 論理学は,正当な推理と不当な推理についての一般原理の科学である。 以上の古代ギリシャ哲学についてのスミスの説明において注目すべきこ とは,第一に学問の出発は驚嘆(wonder)の念にあること。そして,人間 のwOnderの感情を刺激するのはまず自然の偉大な諸現象であるから自然 哲学が最初に研究された哲学部門であるということ。第二に道徳哲学は自 然哲学の研究方法が適用されて成立したものであるということである。 このような古代ギリシャ哲学の伝統をスミスがいかに踏襲しているか は,彼の遺稿集であるI哲学論文集』に収められている諸論文特に「天文 学史」や「古代物理学史」, 「古代論理学・形而上学史」から推測される。 v01.2, pp、 767∼8.邦訳(4)136∼137頁。 vo1.2, p. 771-邦訳(41140頁。 vol2pp.768∼9邦訳(41138頁。 −55 N N N ■BB www 12) 13) 14) ‘1

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まず「天文学史」においてスミスは,wondersurprise,admirationの諸 感情の性質と原因を考察することがこの論文の目的であるといいwonder を哲学研究の第一の原理としている。また学問の対象には自然現象の中で も最も偉大で美しい部分が我々の関心を呼ぶとして次のように述べている。 「あらゆる自然現象のうちで,天空の現象は,偉大さと美しさのために 人間の最も普遍的な好奇心の対象である'3)。」 「古代物理学史」においても次のようにいう。 「天体の体系を整理し,組 織立ててから哲学は, 自然の下界部分(inferiorpartsofNature),すな わち地球とそれを直接に取り巻いている対象に考察を進めるようにな る'6)」と。 このようにスミスも古代ギリシャ哲学と同様にwonderが哲学を促進 する原理であるといい,天文学や物理学のような「自然哲学」が最初に我 々をして研究に導びく部門であることを明らかにしている。 そして, また,当時論理学の一環として講義されたスミスの『文学・修 辞学講義'ア)」 (1762∼1763)において,彼は何らかの命題を立証するため 15) E.P.S. pp.53∼4 16) E.P.S. p.106 17) 当時大学の論理学の講座の範囲には修辞学と文学力;含まれていた。 ミラー (JohnMillar)は,次のようにいう「スミス氏はこの大学に奉職するように なったときまず論理学の教授に任ぜられたが, まもなく先任者のやっていた講 義から大幅に離れなければならないことに気がついた。そして大学でおこなわ れていた論理学や形而上学よりも一層面白くて有益な学問にたいして学生の注 意をむけなければならないと考えた。そこで彼はまず知力にかんする一般的見 解を示し,ついで古代論理学については,かつて広く学者の注目の的となって いた三段論法的な推論の方法にかんして好奇心を満足させる掴窒に説明した, そして彼は, それ以外の時間をすべて修辞学と文学の体系を述べることに費や した」J.Rae.The lifeofAdamSmith. 1895.ReprintNewYork P- 54大 内兵衛・大内節子訳『アダ'ム・スミス伝』。岩波書店, 1972年, 68頁。なおス ミス「文学・修辞学」についての講義内容はロージアンによって発見された。 Leckures onRhetoricandBeilesLettres, Delivered in theUniversityof GlasgowhyAdamSmith,Reportedbyastudent inl762∼63,Editedwith an lntroductionandNotebyJ M Lothian,Edinburgh, 1963. (L.R B.L.と 略記する)宇山直亮訳Iアダム・スミス修辞学・文学講義」未来社, 1972年。

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の教訓文(didacticdiscourse)の具体例として学問の体系をとりあげ, そ の方法としてニュートン体系がアリストテレス体系よりも優れていること を次のように述べている。 「自然哲学あるいは, その種のいかなる学問においても,われわれは, アリストテレスの方法に従い, さまざまな分野に, それがわれわれの眼前 に生起する順序に従って,眼を通して,一つ一つの現象ごとに一つの原理 一通常,新しい原理一を示すこともできるし, また, アイザック・ニュー トン卿の方法によって,先ず初めに,第一義的な原理, あるいは立証され た原理をいくつか定め,そこからそれぞれの現象を説明して, それらの現 象すべてを同一の鎖で結びつけることもできる。 この後者はニュートン的 方法と呼んで差支えないが, これは疑いもなく,最も哲学的な方法であつ ■ 。 ● ■ 巳 や ① ● 。 け ■ 。 。 ● ● ■ ● ● 。 C C p 。 ○ 母 の C ● や ○ ■ て,道徳あるいは自然哲学等々のあらゆる学問に用いても,前者の方法よ ■ 串 & 口 早 ○ ○ 巳 。 ● ■ 。 。 。 ■ 。 ● C ● 。 。 ● りはるかに,創意に富み, それゆえに, より魅力がある。われわれが,最 も説明不可能と考えてきた諸現象が, ある原理(通常は周知の原理)から すべて演鐸され,すべて1つの鎖でつながれ一貫しているのを見るとき, われわれは, よろこびを感ずる'8)。」 (傍点一引用者) このようにスミス自らニュートン的方法を「創意に富み魅力がある」と 称賛し, この方法が「道徳や自然哲学等のあらゆる学問」において有効で あることを強調している。 した力くってスミスのばあいも古代ギリシャ哲学 と同様に, 「自然哲学」の研究方法はそのまま「道徳哲学」においても適 用されるのであった。それでば,我々にとって「ニュートン的方法」とは いかなるものであろうか。またどのような意味において「自然哲学」のみ ならず「道徳哲学」においても有効だというのであろうか。 この点につい て,天文学の歴史をニュートン体系への漸次的発展過程として把握してい る「天文学史」のなかに考察することにする。 18) L.R.B、L、,pp. 139∼40邦訳286頁。 6 −68−

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3. 「天文学史」 スミスの「天文学史」は四つの章,第一章Unexpectedness(意外性)の 効果, またはSurprise (驚き)について,第二章,WOnder (驚嘆)つい て, またはNovelty (新奇性)の効果について,第三草,哲学の起源につ いて,第四章,天文学の歴史から構成されている。第一章から第三章にお いては,主として学問への動機と認識論が取り上げられる。第四章では, 古代の天文学体系からニュートン体系までの天文学史上における歴史的発 展過程が描かれ, いかにして学問体系が人々によって承認され,受け入れ られていくかという学問体系の正当性の問題が取り扱われている。このよ うに「天文学史」においては単なる天文学の歴史が問題とされているので ばなく, スミスがその歴史を例証しながら考察した彼の学問論が展開され ているのである。以下, 『道徳情操論」や『国富論』をも参照しながら(1) 学問への動機, (2)学問体系の発展の順で考察する。 (1) 学問への動機 スミスの「哲学論文集」の編者であるブラックとハットンは「天文学 史」の末尾で, この論文がニュートン天文学の歴史や説明としてではなく 「主としてスミス氏が哲学的諸研究の普遍的動機であると指摘した人間精 神HumanMindにおける諸原理の付加的例証'9)」とみなすべきであると 述べている。哲学的研究の動機としての人間精神の研究, これが「天文学 史」の課題であるというのである。 スミスは哲学的研究の動機として理性ではなく, surprise,wonder, ad-mirationの諸感情を強調した。そして「天文学史」の目的が, これらの 諸感情の「性質と諸原因」 (natureandcauses)を考察することであると 述べてL、る。 surpriseは予期しない現象によって引き起こされる感情であ り, wonderは新しく不思議なものによって生じる感情である。 admira-tionは偉大で美い、ものを見ることによって引き起こされる感情である。 19) E・P.S-pl05 −69− ワ 』

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このadmirationの感情と哲学研究との関連は, その主題の選定にあるも のと思われる。例えばすでに述べたように,天体や物体の諸現象はきわめ て美しいゆえに我々の哲学研究の関心を誘うのであった。否,天体や物体 の諸現象だけでばない。 スミスにあっては宇宙に存在するすべての現象 (社会現象も含めて)が我々の研究の対象になるぼど美い、ものであった。 「宇宙のあらゆる方面において,われわれは手段が, その手段によって 産み出そうと目論まれている目的にぴったり合致するようにきわめて精巧 に仕組まれていることに気がついている。かくて,植物の機構や動物の身 体の機構において,個体の維持と種の繁殖という自然の二大目的を進捗 させるように万事がいかに巧妙に工夫されているかを見て我々は感嘆す る20)」また「我々が人間社会をある種の抽象的な,哲学的な観点から考察 する場合には, それはあたかも規則正しい,調和のとれた運動が無数の快 的な結果を産み出すところの一種の広大無辺の機械のように見えるもので ある。人間技術の所産である他のすべての美しい高級機械にあっては, そ の運動を一層円滑にし,容易にする傾向をもつものは,すべてこのような 作用をもつために一種の美しさが感ぜられる」曾')と。 これらの引用から明らかなように, スミスによれば,宇宙あるいは人間 社会はある一定の目的をもっており, しかも, そこに存在する一切の事物 がその目的を達成するように巧妙に仕組まれているというのである。ここ に彼ば美の源泉を見たのである。スミスはいう。 「何らかの制度または機 械がある目的をもってつくられた場合Ⅲ それらの制度または機械がそう した目的に適合しているということは,全体にある種の適正と美とを与 える“〕。」 こうしてスミスにあっては, 自然現象も社会現象も美い、と感じられる

20) A.Smith, TheTheory ofMoral Sentiments, Clarendon Press. 1976 (以下T.M.S、と略記する) P.87米林富男訳『道徳情操論」 (上)未来社205 頁。

21) T.M S. p.316邦訳(下) 662頁。 22) T.M.S. p 179邦訳(下) 385頁。

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がゆえに学問の対象となり, 「自然哲学」や「道徳哲学」として把握され るのであった。 さてスミスは,以上のようなsurprise,wonderadmirationの三つの感 情を区別した上で,学問を形成する動機を次のように説明する。 人間ば十分に予期した対象に出合ったときには心は前もって準燗されて いるから平静さを保つ, しかし, ある対象が全く予期されないものであれ ば心は乱れ平静さを失うことになる。 こうして生じた感情がsurpriseであ る。 他方,人間は観察という手段によって対象間に「類似性」 resemblance を発見したときには心は喜びにあふれる。人は, その個々の観念ideasを 配列し,系統立て分類しようとする。そしてそのなかにある1つの単一な 性質を観察し, ある1つの共通な分類に還元できるときそれらを一般的な 名称で呼ぶ。 しかし従来に見られない全く新い、対象に直面したときには, いままでの分類の中に組入れることはできない。浅々の想像力や記憶はこ の新しい対象から何らの共通の観念を引き出しえない。 この時に,我々は この新い、対象を不思謡に思う。すなわちwonderの感情が生じるのであ る。 また, ある対象や事象がいつもと違った順序で生じるときにも我々に Ijgwonderの感情が生じる。 このぱあい我々はその対象や事象を予期し ないことによってまずはじめにsurpriseの感情が刺激され, そして次に 継起の異常さによってwonderと呼ばれる感情が刺激される。 「我々はそ れを見ることによってびつく ()し,かつ驚かされる。それからそれがいか にしてそこに至ったかと不思議罫)がる。」 このようなwonderの感情は心配や不安の源泉であり,我々の心の平穏 さと平静さを乱す。 スミスはwOnderの感情について次のようにいう。 「そり)精神は通」l畠にもwonderと呼ばれる情操を擶成するが, その情操 とは凝視し, 目をくるくるさせ, いきをとy)心の尚まI)を生じさせるCJ)で ある。 ・ ・ ・…それはある新い、対象を不思調に,'2,うときの不確実な思考の自 23) E.P.S、 p.4(1 71 9

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然的徴候(natural symptomsofuncertainandundeterminedthought) である。24)」 このような混乱した精神状態からの解放を求めて,人間は苦悩の原因で ある現象を説明しようとする。すなわち, その事物は一体どんな種類のも のなのか, あるいは何に似ているのかという問に答えようとするのである。 ここに学問研究の動機が生じる。 「wonderは,その発見から何らの利益の期待が得られなくとも,人類 に哲学(philosophy)の研究を促進するところの第一の原理である。かつ, 自然のさまざまの現象を統一するところのかくされた結合を明らかにしよ うとする科学(science)の研究を促進するところの第一の原理である。25)」 かくして,人々は対象に対する何らかの知識を形成しようとするが, ス ミスはこのばあい想像力の作用によって現象の因果関係を説明しようとす る。すなわち, スミスの説明によると,我々の対象に対する想像力の習慣 (habitof imagination)が妨害されたり,想像力が従来慣れている秩序と は全く異なった対象に直面したときには,我々は新しい現象を予期しない ことによって驚き,かつそれがどのようにして生じたかを不思議に思う。 この場合,想像力は対象間に間隙と空白(agapor interval)を感じ両者 を容易に結合することはできない。 そこで,我々はこれらの対象間のギャップをうめ何らかの結合環を発見 しようとする。つまり中間的事物の鎖(achainof intermediateevents) を発見しようとし, それによって説明しようとする。 この努力が成功する なら我均のwonderは消滅し,心は平穏さと平静さを保つようになる。こ のようにスミスにあっては,哲学とは中間的事物の鎖を発見してsurprise を和らげwOnderを取り除くことにあったのである。スミスはいう。 「PhilOSphyは自然の結合原理(theconnectingprinciplesofnature)に ついての科学である。 .…・哲学はすべてのこれらのばらばらの対象を結び 24) 25) 10 E、P.S. p、39 E,P.S. p,51 −72−

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つける見えない連鎖(invisibleChain)を提示することによって, このよう な不調和な外観をおびた無秩序のなかに秩序を導入して,想像力の乱れを 和らげようと努力する。Philosophyが宇宙の大変化をみとおすときには, 想像力は, それ自体きわめて快適であり, その本性にもっともふさわい、 静けさと落ち着きの調子を回復するのである。それ故, Philosophyは想 像力に話しかけるところのartSの1つである。エ6〕」 こうして人間は想像力を駆使して,混沌としてL、る諸現象のなかに結合 原理を発見し, それによって諸現象を統一的に説明しようとするのである。 これが我々の想像力を満足させるなら想像力の「休息と平静さ」が達成さ れる。 「想隙力の休息と平静さ(reposeandtranquilityof imagination) が哲学の究極の目的恩7)」に他ならなかったのである。 以上の論述から明らかなように, スミスにおいてはsurprise,wonder, admirationの諸感情は一体となって我々の学問研究に対する勤因となっ ており, きわめて感性的な人間が前提になっている。このような人間が日 々の生活における観察と経験のなかから諸現象間の結合原理を発見し,想 像力を通じて統一ある理論体系の構築へと向うのであった。 ところでスミスによると,学問研究の第一の原理であるwonderの感情 は,野蛮状態の社会には芽生えず,安全(security) と余暇(leisure)が確 立した文明化された社会において培われるとして次のように説明している。 社会の初期の段階にある人間, すなわち法律も秩序も安全も確立される前 の人間は,ばらばらの自然現象を結合する事物の見えない鎖(hidden chainsofevents)を発見するための好奇心を全く持たない。毎日の生計 が不安定であり,蝿々の危険や恐怖に直面している野蛮人にとっては自分 自身と関連あるもの以外には全く興味を示さないのである。このような時 代には,学問ではなく迷信と多神教が自然のすべての不規則な現象を説明 するために流布した。 「しかし,法律が秩序と安全を確立し,かつ生存が 26) E・P.S・ pp、45∼6 27) E.P・S. p、61 11 73

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アダム・スミスの「天文学史」と「道徳哲学」について 保障されるようになると人類の安全は増大し恐怖は減少した。彼らが楽し む余暇力i彼らを自然の現象に対して注意深くさせ, もっとも小さい不規則 性に対しても観察させそれらを相互に結びつける鎖を知ろうとより欲する ようにさせるのである凶8)。」 このようにスミスは,学問研究のための不可欠な条件として社会の文明 化と経済的繁栄を主張したのである。また彼によると,一層の社会的進歩 は社会的分業を促進し哲学者の存在を生み出すという。 「……またいくつかの改善は, なにごともしないがあらゆる事物を観察 することを職業とし, それゆえにまた, もっとも遠距離にある異質の諸対 象の力をしばしば結合しうるところの,哲学者またば思索家(philosopher ormenof speculation) とよばれる人々によってなされたのである。社 会の進歩につれて哲学や思索は, あらゆる他の仕事と同じように市民の特 定階級の主要または唯一の生業になり, また職業にもなった藍,』。」 こうして社会が文明化されることによってwonderの感情を強く持つ 哲学者特有の役割が強調され, ますます学問研究は栄んになるのであった。 「人生の大部分を自然の結合原理(connectingprinciplesofnature)の 研究に費いやしている哲学者のより熟練した思考は, より不注意な観察者 にとっては非常に厳密に結合されているように思われる二つの対象間にし ばしば空白を感じるであろう30)」 と。 (2) 学問体系の発展 スミスは.我々が哲学することによって形成したある一定の知識を体系 (system) と呼んでいる。体系の形成こそが学問の目標に他ならない。彼 はまず,学問上の諸体系を「想像上の機械」に善えて次のようにいう。 「体系は多くの点で機械に似ている。機械は,技術家(artist)が必要と したさまざまな運動と結果を現実に結合させるばかりでなく,行なわせる E.P.S. p.50 W,N,rol l. p 削l邦訳(1) 111頁。 E.P.S. p.45 −74− 28) 29) 30) 12

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ためにつくられた,l、さな体系である。体系は,現実にすでに行なわれてい るさまざまな運動と結果を空想によって結合させるために発明された想像 上の機械(imaginarymachine)である31)。」 このように学問体系が一つの機械にたとえられる根底には,機械の各部 分が相互に密接に連結された「巨大な連鎖immensechain」として把握 されるニュートンの物理学の体系が存していることは明らかである。 周知の彼の「自然哲学の数学的諸原理』において, ニュートンは「さま ざまな運動の現象から自然界のいろいろな力を研究し」次に, 「それらの 力から他の現象を説明論証3‘〕」 しようとしたのであり, そしてこれらの実 例を「世界体系(宇宙系)の説明で明示」したのであった。すなわち「そ こでは天体現象から,前二編で数学的に説明された諸命題によって,物体 を太陽や各惑星に向かわせる重力が導きだされる。次にそれらの力から, 他の諸命題, それもまた数学的なものですが, によって,惑星や彗星や月 の海の運動が導かれる32)」ものであった。つまり, ニュートンが明らかに しようとした万有引力の理論は,広大な宇宙体系を動かしている根本的な 力を発見して,地球上の物体だけでなく宇宙に存在する一切の物体の運動 を統一的に把握しようとしたものであった。 このようなニュートンの力学 体系をスミス自ら「天文学史」のなかで次のように表現している。 「この体系の諸部分はすべて, ほかのどんな哲学的諸仮説のそれらより も密接に結びついている。彼の万有引力の原理と引力が距離の二乗に反比 例することを認めれば,彼がこの原理によって結合させているすべての現 象が必然的に生じてくる33)。」 かくしてスミスは, このようなニュートンの力学体系を背景に,宇宙の みならず人間社会をも雄密に調整された1つの機械として把握しえたので ある。すなわち宇宙に整然とした秩序が存在するというニュートンの発見 E.P-S.pli6 河辺六男訳「自然哲学の数学的諸原理」中央公證社, 1979. 56∼57頁。 E、P.S. p, 104. −75− 1:I 31) ;鰹) 33)

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が, そのまま人間社会に適用され,私己的な個々人の集合である社会にも それ自身の一定の秩序が存在すると考えたのである。 『道徳情操論」においてスミスは次のようにいう。 「その仁愛と知性とは 未来永劫にわたって,常に出来るだけ多蹴の幸福を生み出すように宇宙と いう巨大なる機械を考案し,運転しているという, このような神聖なる存 在の観念はたしかに人間の瞑想のあらゆる対象のうちでも何にたとえよう もなく賎も崇高な対象である3↓)」と。 そして, すでに引用したところであるが,人間社会は規則正しい調和あ る運動が無数の快適な効果を生みだすところの巨大な機械にたとえられた のであった。 人間にとっては, このような巨大な宇宙あるいは人間社会という機械を 観察と経験によって,かつ想像力を駆使して機械相互を結ぶ結合原理を発 見し, それによって自然現象や社会現象を統一ある学問体系として把握す ることが「自然哲学」や「道徳哲学」の課題に他ならなかったのである。 さて, それでは哲学的研究の成果として確立された体系は, いかにして 人均に受け入れられるであろうか。 また体系はどのように発展するのであ ろうか。 天文学の歴史に示された例によってスミスが明らかにしようとしたこと は,天文学の諸体系の歴史的変遷を「不合理さ(abSurdity)や蓋然性(pro・ bability), あるいは真理と現実に対する諸体系の一致または不一致3"」に 顧恵するのではなく, 「それらの体系がいかに想像力を和らげ, 自然の劇 場(thetheatreof 'nature)をよl)一貫性のあるものに, それ故いっそう 壮大な光景たらしめるのに適するかを研究することで満足しよう“>」とい うものであった。 いわば,想像力の作用によって確立された諸体系が, あらたな現象に直 面して, wOnderの感情が生じる状況をどのようにして解決していくのか, T.M.S. p.236邦訳(下) 5(X)頁。 E.P.S.p411 −76− 34) ;}5) 14

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アダム・スミスの「天文学史」と「道徳哲学」について あるいは我々の想像力が満足する諸条件は何であろうか。 このような観点から, スミスは四つの天文学上の諸体系一①同心球体系 (systemofConcentricSpheres),②離心球と周転円の体系(systemof EccentricSpheresandEpicycle),③コペルニクス体系,④ニュートン 体系を順次考察した上で想像力力満足し,人々が容易に受け入れられる基 準を次のように抽出している。 第1に学問体系は一貫性(coherence)のあるもので単純(simple)でな ければならない。学問はばらばらな自然現象のなかに困果法則を求め,一 つの秩序ある体系として把握するものであるから首尾一貫した理論でなけ ればならない。また,体系そのものが複雑であるならば我々の想繰力はつ いて行くことができない。 したがって科学的進歩によって体系ばより単純 になり,結合原理も少なくなるという。 例えば,晶初の天文学体系である同心球体系(systemofConcentric Spheres)は, 月・太陽・その他の星が地球を中心とした規則正しい円運 動をしていた。 しかも天体はガラスのような透物明質でできている天球に くっついて, その天球とともに回転をしていた。スミスによると初めこの ような同心球の仮説はもっともらしさ(plausibility)によって人々の是認 を得ていたという, しかしながら観察がより正確になり新たな事実の発見 (惑星運動の不規則性)によってこの体系は修正されざるをえなくなった。 その結果,天球の数が27から72までふえ, スミスはいうように「この体系 は,諸現象を一様で首尾一貫(uniformandcoherent) したものにするた めに発明されたのであったが, いまや, その諸現象そのものと同じほど複 "(intricateandcOmplex)なものとなった。 したがって想像力ば,事物 のかくも混乱した説明によっては, それらの現象によってもたらされた当 惑からほとんど解放されないことになった:f6j。」 このようにもはや, この体系では想像力を満足させることはできなくな ったのである。かくして新体系への構想が始まった。 36)E・P.S. p、59 ワワ ーイイー 15

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体系が複雑なものに比べて単純化されるぼど, われわれの想像力にとっ て受け入れやすいものである。スミスはこれを機械にたとえて, 「すべて の機械は一般にその発明せられた当初にあっては, その原理の点において 極度に複雑であり, それらの機械が行なうように考案せられたあらゆる特 定の運動に対して, ある特定の運動原理が存在する場合が多い。それをひ きつぐ改良家達は,一つの原理が数個のそうした運動を生ぜしめるように これを応用しうることに気がつき, このようにして機械は,次第次第に簡 単にな') , またより少い歯車と, より少い運勤原理とをもってその諸効果 を産むようになるものである37)」 と説明している。 ニュートン体系は, 丁度「重力」という概念を天文学的な出来事の研究に適用することによっ て,宇宙に存在する一切の物体の運動が統一的に把握され最も首尾一貫し た理論体系としてスミスによって称賛されたのである。 「重力の理論」と いうのは,物質の「重さ」という 「物質の性質のうち慣性に次いで, われ われに鎧も訓み深いもの38)」に基づいている。 この「重さ」を基本にして 想像力を働かせて組立てられたものが, ニュートンの天文学体系に他なら ないのである。 したがってスミスは次のように表現している。 「彼の(ニュートンー引用者)体系は,いまやすべての反対説に対して 優勢を占め,哲学において確立された鼠も普遍的な帝国を獲得するに至っ た。彼の原理は他のどのような体系において見つけようとしても無駄であ るような堅固さ(firmnessandsolidity)をもっているということを認め るに違いない。 ・…それらの原理は彼以前に観察されてきたすべての天体 現象をもっとも完全に結合するばかりでなく…・ ・ ・その原理の適用によって, 天体現象が容易かつ直接に説明されるようになった3"。」 こうして重力という単一の原理から宇宙の秩序を説明することに魅力を }7) A. Smilh,ConsiderationsConcerninglllEFirstFormationofLanguages in lhewOrksOfAdamSmith,LL-D,'ol 5, (RePrint) p 13 邦訳は米林 富雄訳「道徳情操論jに収録。 (下) 746∼747頁。 {H) E.P.S,p. 104 19) E.P.S. pp. l()4∼5 16 −78−

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感じたスミスは人間社会をも同様に単一の原理から説明できる方法を求め たのであった。すなわち「人間の本性におけるすべての異る機能がこのよ うにして単一の原理から演鐸せられるときは,人間本性の体系は一層簡単 で,一層快いもののように考えられるイ0)」 と。 『道徳哲学』においては, このような単一の原理として「同感」synl-pathy 」)が示されている。 「すなわち自然はこの場合においてもまた他の すべての場合におけると同様の働きをし,最も唯重な節約のもとに唯一に して同一の原因から無数の結果を産み出しているもののようにかれらは想 像する。すなわち常に注意をはらわれる力であり,あきらかに人間の心に 与えられている同感(sympathy) こそば,かような特殊の能力の作用に 帰せられるすべての結果を説明するに充分である“。」 この同感については後の槁であらためて考察することにして, ここでは 「道徳哲学」の結合原理としてスミスが指摘していることだけにとどめた い・ ところで,科学的体系が受け入れられるためには一貫性や単純性の基準 の他に,体系が馴染み深い(familiar)原理で脱明されなければならない ことも必要である。 「いかに他の点で良く支持されていようとも人類にとって親しみのない ような結合原理をもつ世界においては何らの一般的信用を得られる体系は ない"》」として, スミスは化学哲学(chemical philosophy)の例を上げ, なぜ化学が有用であるにもかかわらず人類の大部分から無視されてきたか について「化学哲学の結合原理については大部分の人々がそれを知らない し,見たこともなかった。 したがって人々にとっては一見してばらばらの I10) T.M.S.p.87邦訳(上) 206頁。

41) cf.T D Campbell, 、4ScientificExplanationandEthical Justification intheMorlilSentiments,.、EssaysonAdamSmithed,by,A.S.Skinner andT-Wilson,oxford, 1975.

42) T.M・S、p.321邦訳(下) 672∼673頁。 43) E.P.S、p、46

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アダム・スミスの「天文学史」と「道徳哲学」について 二つの対象間に想像力を容易に通過させることはできなかった“〕」ことか ら馴染み深いという概念が我々の想像力を満足させるには不可欠であるこ とを主張した。 丁度,天文学史において, ニュートン体系が称賛される理由として前述 のような首尾一貫性,単純性という特徴の他に,重力(graVity) という誰 でも知ってるい馴染み深い概念が結合原理に他ならなかったからである。 スミスはいう。 「アイザック・ニュートン卿のすぐれた天分と賢明さ力〈, きわめて馴染 み深い結合原理(重力一引用者)で諸惑星の運動を結合できるということ を発見したとき,哲学においてかつてなされたもっとも巧みな改良が, ま たもっとも偉大でもっとも感嘆すべき改良がなしとげられたのである。そ してそれにより,想像力が諸惑星に注目したときこれまで感じられた困難 はすべて完全にとりのぞかれたのである。“>」実に, ニュートン体系は我 々の想像力を完全に満足させた単純で一貫性のある美い、「想像上の機械」 であった。 同様に, 「道徳哲学」においても, スミスは結合原理が「自然哲学」以 上に我々の身近な日常生活における馴染み深いものに求められねばならな いことを次のように述べている。 「自然哲学を研究して,宇宙における偉大なる現象の諸原因を指摘しよ うと企てる著者,すなわち非常に遠方の国に起こる事件に関して説明を与 えようとする著者は, そのような事件に関してかれらの思うままにわれわ れに告げることができ,かれの叙述が表面上われわれにもっともらしく思 われる範囲内にとどまる間は,かれはわれをれの信用を猶ることに絶望す る必要はない。 しかしながら,かれがわれわれの欲望と性向の起源, ない し是認と否認に関するわれわれの情操の起源について説明しようと考える 場合には,かれはわれわれの住んでいる教区そのものの出来事について説 44) 45) 18 [email protected]∼7 E-P.S. p,98 −8()−

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明するばかりでなく,われわれ自身の家族内の出来事についても説明しよ うと企てるのである4s)。」 そして,我々の欲望や性向の起源, あるいは是認や否認に関する我々の 情操の起源は,我々の誰も力くもっている身近で馴染み深い自然の情操に関 連するものでなければならないという。 「何らかの自然の情操を刺激する原因として, そのような情操に何らの 関連ももたず, あるいはそのような情操にある種の関連を有する何らかの 他の原理に似てもいないある種の原理を想定する著者は,おそらく最も無 分別な最も経験の浅い読者にとっても矛盾しているように思われ,笑うべ きもののように見えるにちがいない‘6)。」 こうしてスミスは,馴染み深い結合原理によって自然現象や社会現象を 説明するということが我々の想像力を満足させるには不可欠であることを 明らかにしたイ了)のである。 以上がスミスの「天文学史」の大要であるが, すでに明らかなように彼 はこの論文のなかで我々の自然の情操であるsurprise,wonderadmira tionの諸感情の性質と諸原因の分析を通じて哲学への動機と学問体系がど のようにして形成されるかを明らかにしたのであった。 人々の観察と経験が重んじられ,想像力の作用によって自然の諸現象間 に結合原理を発見し,諸現象を一貫性のある統一した理論体系として把握 することが学問の任務に他ならなかった。そして, スミスはこのようにし て形成された学問体系が歴史的にいかに発展して我々の想像力を満足させ てきたかという観点から,学問体系の正当性の基準を少数の共通原理で説 明できる単純性,一貫性に求め,かつその結合原理は我,4での日常生活にお いて身近に存在する男││染み深い原理であることが必要であると示唆したの である。 46) T M.S. p.314邦訳(下) 653∼654頁。

47) cf.T.D.Campbell,AbamSmith'sScience ofMorals, Londcn l971, pp. 34∼39

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このような意味において「天文学史」におけるニュートン体系ば,すべ ての諸条件を満たしており, したがって「かつて人類によってなされた最 大の発見,つまり,われわれがその現実性を毎日経験しているひとつの根 本的事実によってすべてが密接に結合されている, もっとも重要で崇高な 真理の巨大な連鎖の発見48)」としてスミスによって称賛されたのである。 彼はこのようなニュートン体系を自己の学問体系のモデルとして採用し, このモデルをもって「道徳哲学」を考察しようとしたのであった。いわば ニュートン天文学体系の論理構造を「道徳哲学」に適用しようとしたので あった。スミス自身がいみじくもいう「アナロジー(analogy)」の論理が 「あらゆる事物の転回のかなめ(hinge)イ9〕」となるのであった。 周知のように医者であるケネー(F.Quesnay)鱗ウィリアム・ハーヴェ -(WilliamHarvey)の発見した血液循環の理説を経済社会に適用して 図式化したのが「経済表」であるといわれている50)。 それではニュートン体系を自己の学問のモデルとするスミスばどのよう にそれを「道徳哲学」に適用したのであろうか。 (未完) 本稿校正中に恩師筒井徹先生が逝去されました。本稿は先生が病気擬餐中に御指 導して下さったものです。 慎んで哀悼の意を表します。 E.P.S. p. 105 E.P.S. p.47 坂田太郎訳(解説) 「ケネー経済表」春秋社1956年45∼46頁参照。 −82− 48) 49) 5()) 20

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